(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0020】
[1.概要]
従来から、サファイア原料融液からチョクラルスキー法によりサファイア単結晶を製造するには、
図1に示すようなサファイア単結晶育成装置100が用いられる。
【0021】
この単結晶育成装置100は、チャンバー110内に設置される断熱材120及びヒーター130で囲まれる空間にサファイア原料を充填する坩堝140が設置される。原料融液の表面が一定の位置を維持するために、坩堝140は、坩堝台150および坩堝軸160により支持され、チャンバー110上部から断熱材120の上面部の開口を通じて、融液141の上表面に結晶軸170を介して種結晶171を接触させ、結晶軸170及び種結晶171を引上げることによりサファイア単結晶を育成する。
【0022】
この単結晶の育成において、まず種結晶171を融液面の中心位置につけ、種結晶171の先端に結晶を析出させた後、種結晶171を回転させながら引上げて結晶を成長させていく。
【0023】
融液の流れが不安定であると、融液面の最低温度の位置が中心からずれ、種付けがうまくいかず、単結晶の収率が悪くなる。融液面の最低温度の位置が中心からずれた場合、種結晶の中心からずれたところに結晶が成長するため、ねじれた結晶ができ結晶の歩留まりが悪くなる。また、中心軸からずれた結晶が成長していくと、回転している結晶軸のブレが大きくなり結晶軸が損傷を受ける。
【0024】
このように、サファイア単結晶である場合には、融点が2040℃と非常に高温であることから、炉内環境を常に監視しながら、融液面の最低温度位置に種結晶を接触させることが重要である。しかしながら、このようなきわめて高温の環境での種結晶の接触位置の制御は極めて困難な作業であった。
【0025】
この問題を解決するために、発明者らが鋭意検討した結果、坩堝内の融液面の最低温度位置を坩堝の中心の位置となるように、坩堝内融液の対流をコントロールすることが、肝要であると考え、これを達成するためには、坩堝の中心方向に向いた複数の整流板を備える整流部材を融液面に浸漬し、坩堝内融液面付近の融液を、坩堝の中心位置方向に対流を強制的に誘導することにより、可能となることを見出した。
【0026】
上記の方法により、酸化アルミニウム原料融液の坩堝表面の対流を起こさせ、坩堝中央で融液が下方に対流し、この下方に対流する中央部が融液面の最低温度位置となるので、この位置に種結晶を接触することにより容易に種付けができるようになり、また坩堝の中心位置で単結晶を均一に引上げることで温度勾配も適正な勾配とすることが可能となるため、結晶欠陥(ボイド、多結晶化)のない単結晶を高収率で得ることができる。以下、本実施の形態に係る単結晶育成装置および単結晶の製造方法についてそれぞれ説明する。
【0027】
[2−1.単結晶育成装置]
まず、本実施の形態に係る単結晶育成装置について説明する。本実施形態に係る単結晶育成装置は、CZ法により、坩堝内で原料を加熱溶融して得られた融液からサファイア単結晶等の酸化物単結晶を引上げて製造する装置である。
【0028】
図2(A)は本発明の一実施形態に係る単結晶育成装置を示す概略断面図であり、
図2(B)は本発明の一実施形態に係る単結晶育成装置に備わる坩堝を示す概略断面図である。本実施形態に係る単結晶育成装置1は、
図2(A)に示すように、チャンバー10と、坩堝20と、ヒーター30と、断熱材40と、引上げ軸50と、支持軸60とを備えたものである。
【0029】
チャンバー10は、略円筒形状である。このチャンバー10は、ガス導入管(不図示)とガス排出管(不図示)を有し、例えば、単結晶成長時等の通常時はチャンバー10の上部に取り付けられるプルチャンバー(不図示)の上方から不活性ガス等を炉内にガス導入管を介して導入し、この導入したガスを、チャンバーの底部のガス排出管から真空ポンプ(不図示)等により炉外へ排出することができる。一方、原料チャージ等の際には、ゲートバルブ(不図示)を閉めてプルチャンバー内で原料チャージ等の作業を行い、その後、プルチャンバー内をプルチャンバー用のガス排出管とガス導入管を用いてガス置換を実施できる。なお、チャンバー10には、断熱材40を貫通する形で覗き窓(不図示)が設けられてもよく、酸化物単結晶の引上げの状態を確認することができる。さらに、チャンバー10には、各種温度測定手段も設けられる。
【0030】
坩堝20は、チャンバーの内部10に配置される。坩堝20は、酸化物単結晶の原料を融解させた融液21を貯留する。この坩堝20の形状は、略円筒形状である。また、坩堝20のサイズは、特に限定されないが、例えば坩堝20の直径が350mm以上450mm以下である場合には、該坩堝20の高さが400mm以上800mm以下であることが好ましい。このようなサイズは、坩堝20内にて融液21を融液面の中心に対流させるのに、構造上適している。
【0031】
サファイア単結晶をCZ法により育成する場合、サファイア単結晶の融点が2040℃であることから、単結晶の育成環境は2000℃以上の高温となる。このような高温環境化では、坩堝20に使用できる材質は、タングステン(W)、イリジウム(Ir)、モリブテン(Mo)、タンタル(Ta)、カーボン、およびこれらの合金などのサファイア単結晶用原料の融点以上の耐熱性を有する高融点材料に限られ、中でもサファイアの熱膨張係数よりも小さい、タングステンやモリブテンが好ましい。
【0032】
図2(B)に示すように、坩堝10内において、坩堝10の軸心に沿って融液面に整流部材22が配置されている。この整流部材22は、円形リング22aの外周から放射状に延在した複数枚の整流板22bが設けられる。本実施形態では、整流部材22を融液面に配置することで、整流部材22に設けた複数枚の整流板22bにより、融液の対流が安定して融液面の中心に向かうようになる。そして、整流部材22には、単結晶の育成が終了した後にこの整流部材22を引上げるため、整流部材用引上げ軸23が円形リング22aから鉛直上方に延在している。
【0033】
この整流板22bの一部が融液21に浸漬して、整流板22bの浸漬率が、0.4以上0.8以下であることが好ましい。浸漬していない整流板22bが融液外に露出することで、融液の対流がより安定して融液面の中心に向かうようになる。なお、浸漬率とは、整流板の高さに対する、融液に浸漬している整流板の高さの割合を示す指標である。また、整流板の先端縁とこの先端縁に対向する坩堝の内周面との間には、整流部材の取り外しを行い易いよう、0.1mm〜1.0mm程度のクリアランスが設けられている。
【0034】
この円形リング22aの内径は、種結晶51の径よりも大きいことが好ましく、種結晶51の径より2倍以上であることがより好ましい。上限値は、円形リング22aと坩堝20の内径から、適宜選択することができ、円形リング22aの内径は、種結晶の径より4倍以下であればよい。整流部材22に設けられる円形リング22aが種結晶51を浸漬するための領域を広めに確保することでき、この領域が融液内の最低温度となる領域が広がるので、より確実に同じ状態で種付けができる。
【0035】
図3(A)は本発明の一実施形態に係る単結晶育成装置の整流部材を示す斜視図であり、
図3(B)は発明の一実施形態に係る単結晶育成装置の整流部材を示す斜視図である。
図3(A)に示す整流部材22は、円形リング22aの外周から放射状に延在し、等間隔に6枚の整流板22bが設けられる。この円形リング22aの断面は、円状、楕円状、角状が挙げられる。また、
図3(B)に示す整流部材22は、円形リング22aおよび保持部材22cの外周から放射状に延在し、等間隔に6枚の整流板22bが設けられ、この保持部材22cは、円形リング22aが鉛直下方に筒状に延在し、整流板22bが設けられていない領域には略U字型に切り欠いている。
【0036】
すなわち、整流部材22の整流板22bは、複数枚取り付けられていれば限定されないが、等間隔に6枚(
図3(A),(B)参照)または8枚取り付けられることが好ましい。これにより、融液面から深さ50mm程度において、等間隔に画分された融液面付近の流れを制御することができるので、融液21の流れがさらに安定して中心に向かうようになり、より確実に同じ状態で種付けができ、形状の良好な結晶が安定して育成できる。
【0037】
次に、
図4は本発明の一実施形態に係る単結晶育成装置に備わる坩堝に貯留される融液の速度分布を示す図であり、融液の流れと整流板の位置関係を示すものである。
図4によれば、融液21の流れは、坩堝20内の側面から融液面の両端を介して矢印方向に融液面の中心まで一定のスピードである。この融液の流れは、整流板22bにより融液面の中心に向うよう制御されている。次いで、融液21の流れは、融液面の中心近辺から非常に速くなり、他の領域よりも速いものとなる。坩堝20内の底部まで融液21の流れが速く、この融液21の流れが坩堝内の底部にぶつかることで区分されるので、坩堝20内の底部の両端へと融液21の流れが徐々に遅くなる。このように、融液21は、速度分布にしたがって、坩堝20内を内回りに対流する。なお、融液21が内回りで対流するため、この内回りの内部には、融液の流れが存在しないものとなる。
【0038】
融液内の流れは上記のように、融液面の流れは中心方向になっており、融液面付近の中心に向かう流れの深さは50mm程度であるため、この流れを制御するには整流板22bが10mm以上は必要である。ただ50mmより深い整流板22bを挿入しても効果は変わらない。したがって、整流板22bの幅は10mm以上50mm以下とすることが好ましい。また、整流板22bの厚さは、特に限定されないが、1mm以上5mm以下とすることが好ましい。融液21の流れを阻害しないようにするためには5mm以下とする。厚すぎると整流板22bの端面で中心に向かう流れが変わってしまう。また、強度的に安定した整流を行うために1mm以上とする。
【0039】
整流部材22の材質は、特に限定されないが、サファイア単結晶をCZ法により育成する場合には、タングステン、イリジウム、モリブテン、タンタル、およびこれらの合金などのサファイア単結晶用原料の融点以上の耐熱性を有するものに限られ、中でもサファイアの熱膨張係数よりも小さい、タングステンやモリブテンが好ましい。
【0040】
ヒーター30は、坩堝20内に充填した単結晶用原料を融解するため、坩堝20の周囲に設けられる。ヒーター30として、特に限定されないが、抵抗加熱ヒーターが好ましい。また、ヒーター30の代替として、加熱コイルを坩堝内に設置して、高周波誘導加熱してもよい。
【0041】
断熱材40は、ヒーター30の外側であり、チャンバー10の内面に沿って設けられる。サファイア単結晶の融点は非常に高いが、断熱材40がヒーター30の側方のみならず上方や下方にも設けられているので、十分な保温性を確保することができ、坩堝20内のサファイア原料を効率よく加熱することができる。
【0042】
引上げ軸50は、坩堝20の軸心の上方に配置される。引上げ軸50は、酸化物単結晶の種結晶51が取り付けられている。また、引上げ軸50には、育成した単結晶の結晶重量を計測するために重量測定部(不図示)を設けてもよい。
【0043】
支持軸60は、支持台61を介して載置できよう坩堝20を支持するために、チャンバー10の軸心に沿って配置される。支持軸60は、上下動が可能である。なお、支持台61は、円板状である。この支持台61は、耐熱性がある金属や黒鉛等が使用される。
【0044】
整流部材用引上げ軸23、引上げ軸50、および支持軸60を上下動させるために、それぞれに駆動用モーター(不図示)を配置できる。また、駆動用モーター及び重量測定部は制御部(不図示)に接続しておくこともできる。
【0045】
[2−2.単結晶の製造方法]
次に、単結晶の製造方法について説明する。
図5は、本発明の一実施形態に係る単結晶の製造方法の概略を示すフロー図である。本実施形態に係る単結晶の製造方法は、
図5に示すように、酸化物単結晶の原料を、融液21の状態で保持する加熱工程(以下、「加熱工程S1」ともいう。)と、整流部材22を配置する設置工程(以下、「設置工程S2」ともいう。)と、酸化物単結晶を育成する育成工程(以下、「育成工程S3」ともいう。)と、整流部材22を取り外す除去工程(以下、「除去工程S5」ともいう。)と、引上げ軸50を上昇させる引上げ工程(以下、「引上げ工程S6」ともいう。)とを有する。また、本実施形態では、育成工程S3後に検査工程S4をさらに設けてもよい。以下、各工程S1〜S6についてそれぞれ説明する。
【0046】
加熱工程S1は、酸化物単結晶の原料を、この原料の融点を超える温度で、坩堝20内で溶融した融液21の状態で保持する工程である。
【0047】
また、本実施形態の酸化物単結晶の製造方法においては、酸化物の単結晶の中でも特にサファイア単結晶をより好適に製造できる。このため、単結晶用原料として酸化アルミニウム粉末をより好適に用いることができる。
【0048】
酸化アルミニウム粉末は、実質的にAlとOの2元素からなる酸化アルミニウムである。材料純度99.95〜99.998%程度のα−アルミナ(Al
2O
3)が好ましい。また、目的とするサファイア単結晶の種類に合わせて、AlとOのほかに、Ti、Cr、Si、Ca、Mgなどを含んでいてもよい。このうちSi、Ca、Mgなどは、焼結助剤の成分として不可避的に含まれうるが、その含有量は極力少ないことが望ましい。また、酸化アルミニウム粉末を用いる場合、その粒径や密度は特に制限されないが、取り扱い上、例えば粒径は10mm以下であることが好ましく、5mm以下であることがより好ましい。酸化アルミニウム粉末の密度は、α−アルミナの理論密度4g/cm
3に近いものが原料充填時に有利である。そのため、使用する酸化アルミニウム粉末の密度は2g/cm
3以上であることが好ましく、3g/cm
3以上であることがより好ましい。なお、本実施形態において、平均粒径とは、積算値50%の粒度を意味し、たとえば、SALD−7000(株式会社島津製作所)などの粒度分布測定装置により測定することができる。
【0049】
坩堝20内に酸化物単結晶の原料を入れた後に、真空ポンプで減圧しながら、空気を除去した後、不活性ガス(N
2ガスやArガス)を流しながら坩堝20内でこの原料を溶かす。
【0050】
加熱工程S1では、坩堝20に単結晶用原料を入れて、ヒーター30により坩堝20を加熱して単結晶用原料を溶融させることができる。単結晶用原料が融点に達するまでの加熱速度は、特に制限されるわけではないが、原料が不均一に融解する事で発生する突沸現象の発生を抑制するため、急速に加熱せずに長時間かけて徐々に加熱するほうがよい。そのため、例えば10時間以上、特に12時間以上かけて徐々に加熱することが望ましい。
【0051】
そして、単結晶用原料が融解した後も、炉内温度を単結晶用原料の融点よりも10℃〜20℃高い温度で加熱を継続することが好ましい。係る温度域で加熱を継続する時間は特に限定されるものではないが、例えば3時間以上継続することが好ましく、5時間以上継続することがより好ましい。このときの温度測定は、例えばヒーター30の外周にある断熱材40に差し込まれた熱電対(不図示)を用いて行うことができる。
【0052】
設置工程S2は、円形リング22aの外周から放射状に延在した複数枚の整流板22bが設けられる整流部材22を配置する工程である。そして、坩堝20の融液面に整流部材22を配置することにより、融液面の中心に向って融液21が対流されるように制御する。その結果、融液21の対流が安定して融液面の中心に向かい、融液面の中心が最低温度位置となる。
【0053】
育成工程S3は、坩堝20の軸心の上方に、酸化物単結晶の種結晶51が取り付けられた引上げ軸50を配置し、引上げ軸50に取り付けられた種結晶51を融液面の中心に接触することにより、酸化物単結晶を育成する工程である。具体的には、引上げ軸50に取り付けられた種結晶51を融液面に回転させながら下ろし、上述した融液面の中心が最低温度位置にこの種結晶51を浸漬させる。
【0054】
検査工程S4は、酸化物単結晶が成長したことを検査する工程である。チャンバー10に設けられた覗き窓(不図示)から、酸化物単結晶が成長したことを確認する。もし、酸化物単結晶が成長していない状態で次工程である除去工程S5において整流部材22を取り外すと、対流が不均一となり融液面の中心がずれてしまう。そのため、後工程である引上げ工程S6において、酸化物単結晶を引上げても、引上げ軸50からずれて結晶が成長していき軸対称からずれた形状の結晶ができ、この結晶を再溶解させる必要が生じる。
【0055】
除去工程S5は、整流部材22を取り外す工程である。具体的には、整流部材22を支持する整流部材用引上げ軸23を鉛直方向に上昇させることで、整流部材22を取り外す。これにより、次工程である引上げ工程S6において、育成した酸化物単結晶を作製するのに、整流部材22が障害とならない。なお、整流部材用引上げ軸23の引上げ速度は、適宜調整される。
【0056】
引上げ工程S6は、育成した酸化物単結晶を支持する引上げ軸50を上昇させる工程である。具体的には、酸化物単結晶を支持する引上げ軸50を、坩堝20を回転させるとともに、酸化物単結晶を反対方向に回転させて上昇させる。これにより、坩堝20内に内回りの融液21の流れを維持しつつ、育成した酸化物単結晶を作製することができる。
【0057】
育成する結晶の結晶形状の調節は、育成中の結晶重量を測定し、直径や育成速度などを計算によって導き出し、引上げ軸50の回転速度や引上げ速度を調整して行うことができる。種結晶51は例えば、0.2rpm〜20rpmで回転させるとよい。また、結晶重量を適当な時間間隔で測定し、その変化をフィードバックして原料の融液21の融液温度をコントロールできる。なお、育成工程S3により充分に単結晶が育成した後、除去工程S5を介して、坩堝11を支持軸により下降させて、育成した単結晶を支持する引上げ軸50を上昇させてもよい。
【0058】
このように、育成した単結晶を支持する引上げ軸50を上昇させることにより、育成した単結晶と融液21とを切り離すことで、酸化物単結晶を作製することができる。
【0059】
[2−3.まとめ]
以上より、本実施形態に係る単結晶育成装置1は、チョクラルスキー法により、酸化物単結晶を製造する単結晶育成装置1であって、酸化物単結晶の原料を融解させた融液21を貯留する坩堝20と、坩堝20の周囲に配置され、酸化物単結晶の原料を加熱するヒーター30と、坩堝20の軸心の上方に、酸化物単結晶の種結晶51が取り付けられた引上げ軸50とを備える。そして、坩堝20の融液面には、円形リング22aの外周から放射状に延在した複数枚の整流板22bが設けられる整流部材22を配置する。
【0060】
また、本実施形態に係る単結晶の製造方法は、チョクラルスキー法により、酸化物単結晶を製造する酸化物単結晶の製造方法であって、酸化物単結晶の原料を、原料の融点を超える温度により、坩堝20内にて溶融した融液21の状態で保持する加熱工程S1と、円形リングの外周から放射状に延在した複数枚の整流板22bが設けられる整流部材22を配置する設置工程S2と、坩堝20の軸心の上方に、酸化物単結晶の種結晶51が取り付けられた引上げ軸50を配置し、種結晶51を融液面の中心に接触させることにより、酸化物単結晶を育成する育成工程S3と、整流部材22を取り外す除去工程S5と、酸化物単結晶を支持する引上げ軸50を、上昇させる引上げ工程S6とを有する。そして、設置工程S2では、坩堝20の融液面に整流部材22を配置することにより、融液面の中心に向って融液21が対流されるように制御する。
【0061】
本実施形態では、整流部材22を融液面に配置することで、整流部材22に設けた複数枚の整流板22bにより、融液21の流れが安定して融液面の中心に向かうようになる。そして、整流部材22に備わる円形リング22aが種結晶51を浸漬するための領域を確保することで、この領域が融液内の最低温度となるので、確実に同じ状態で種付けができる。その結果、本実施形態では、形状の良好な結晶が安定して育成できる。
【実施例】
【0062】
以下に、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、これらに制限されるものではない。
【0063】
(実施例1)
まず、実施例1では、
図2(A)に示した単結晶育成装置1を用いて、
図2(B)に示した坩堝20と強制対流を起こさせる8枚の整流板22bを備える整流部材22とを配置して、以下の形状の構成からなる単結晶育成装置1でシーディング時の温度分布を求めた。
・タングステン製坩堝:直径400mm×高さ540mm×厚さ2mm
・融液(酸化アルミニウム):坩堝内の融液面の高さ480mm
・種結晶:□20mm×長さ140mm
・円形リング:直径100mm×高さ5mm
・整流板(8枚):長さ130mm×深さ33mm×厚さ2mm
【0064】
酸化アルミニウムの融液面から整流板22bを液面から30mmの深さまで浸漬した状態で、種結晶51を種付けした。
【0065】
図6(A)は実施例1における融液面上の温度分布を示す図であり、
図6(B)は実施例1における融液面上の中央部における温度分布を示す拡大図である。
図6(A)によれば、融液面上の温度分布が8つに画分され、どの画分も略同等のものであった。また、温度分布が融液面の外周部より中央部が低いので、融液21の対流が融液面の中心に向っていることも確認した。さらに、
図6(B)によれば、黒い四角が、温度の最も低い部分と重なることを確認した。なお、
図6(A)および
図6(B)に表される黒い四角は、種結晶51を浸漬させている部分を示す。
【0066】
すなわち、種結晶51の端面のほぼ中央部に最低温度部となり、良好な結晶育成が可能であることが確認できた。
【0067】
(比較例1)
次に、比較例1では、
図1に示した単結晶育成装置1を用いて、整流部材22を挿入しないこと以外、実施例1と同様の構成とした。
図7(A)は比較例1における融液面上の温度分布を示す図であり、
図7(B)は比較例1における融液面上の中央部における温度分布を示す拡大図である。
図7(A)によれば、融液面上の温度分布が6つに画分されているが、これらの画分が同等のものではなかった。また、
図7(B)によれば、黒い四角が、温度の最も低い部分からずれていることを確認した。なお、
図6(A)および
図6(B)に表される黒い四角は、種結晶51を浸漬させている部分を示す。
【0068】
したがって、整流部材22を挿入しない場合、融液面の温度分布は
図7(A)および
図7(B)に示すようになり、温度中心が種結晶51の端面からずれており、結晶軸からずれた所から結晶が成長してしまうことを確認した。このまま継続すると回転軸からずれて結晶が成長していき軸対称からずれた形状の結晶ができた。このため、作成した結晶を再溶解させる必要があった。
【0069】
(実施例に基づく考察)
実施例1および比較例1の結果より、坩堝20の融液面に整流部材22を配置することにより、融液面の中心に融液21の対流を向わせることができ、融液面の中心が最低温度位置となることを確認した。その結果、単結晶の収率悪化や歩留まりの低下を解消することができ、安定した種付けを行うことが可能であるといえる。