(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の透明層の前記凹凸表面は、算術平均粗さRaが0.01μm以上20μm以下であり、最大高さと最小高さの差(最大PV値)は、0.1μm以上50μm以下である、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の映像投影用構造体。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
(従来の透明スクリーン)
本発明の特徴をより良く理解するため、まず、
図1を参照して、従来の透明スクリーンの構成例について簡単に説明する。
図1には、従来のフロント投射タイプの透明スクリーン(以下、単に「従来の透明スクリーン」と称する)の断面を概略的に示す。
【0018】
図1に示すように、従来の透明スクリーン1は、第1のガラス基板10と第2のガラス基板20の間に、映像投影用構造体40を配置することにより構成される。より具体的には、従来の透明スクリーン1は、第1の接着層30を介して、第1のガラス基板10と映像投影用構造体40とを接合するとともに、第2の接着層32を介して、第2のガラス基板20と映像投影用構造体40とを接合することにより構成される。
【0019】
映像投影用構造体40は、第1の透明樹脂層43と、反射層45と、第2の透明樹脂層47とをこの順に有する。
【0020】
より具体的には、第1の透明樹脂層43は、凹凸表面51を有し、反射層45は、この凹凸表面51上に設置される。通常、反射層45は比較的薄いため、反射層45の最表面53は、第1の透明樹脂層43の凹凸表面51と実質的に同等の凹凸形状を有する。第2の透明樹脂層47は、反射層45の凹凸状の最表面53上に設置される。
【0021】
第1の透明樹脂層43の凹凸表面51と反射層45の間の界面を界面P
1と称する。また、第2の透明樹脂層47と反射層45の間の界面を界面P
2と称する。
【0022】
なお、
図1に示した例では、映像投影用構造体40は、さらに、第1の支持部材41および第2の支持部材49を有する。第1の支持部材41は、第1の透明樹脂層43の凹凸表面51とは反対の表面の側に配置される。また、第2の支持部材49は、第2の透明樹脂層47の反射層45が設置された表面とは反対の表面の側に配置される。
【0023】
このような構成を有する従来の透明スクリーン1では、映像投影用構造体40に含まれる凹凸状の反射層45が、いわゆるハーフミラーとして機能する。すなわち、反射層45は、入射光の一部を反射、散乱させ、他の一部を透過させることができる。
【0024】
このため、従来の透明スクリーン1に、前方(例えば第1のガラス基板10の側)から映像を投射した際に、従来の透明スクリーン1の後方(例えば第2のガラス基板20の側)にある背景が視認できる状態で、前方に映像を表示することが可能となる。
【0025】
ここで、本願発明者らは、このような従来の透明スクリーン1において、しばしば、映像投影用構造体40の反射層45と第2の透明樹脂層47との間の密着力が不足し、両者の界面P
2に剥離が生じる場合があることを見出した。剥離は、通常の場合、目視で確認され意匠性を損なうおそれがある。また、目視では分からないミクロレベルの微細なものもある。しかしながら、そのようなミクロレベルの剥離が生じた場合でも、従来の透明スクリーン1の映像表示特性を低下させるおそれがある。
【0026】
なお、界面P
2において剥離が生じる詳しい原因は、今のところ不明であるが、以下のことが考えられる。
【0027】
通常、従来の透明スクリーン1において、映像投影用構造体40は、以下の工程を経て製造される:
まず、第1の支持部材41の上に、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂のような第1の樹脂を設置する。次に、この硬化前の第1の樹脂の上に、表面に凹凸を有する成形型を接触させる。次に、第1の樹脂の上に成形型を押し付けた状態で、紫外線または熱等の印加により、第1の樹脂を硬化させる。その後、成形型を取り外すことにより、第1の支持部材41の上に凹凸表面51を有する第1の透明樹脂層43が形成される。
【0028】
次に、第1の透明樹脂層43の凹凸表面51上に、反射層45を成膜する。
【0029】
さらに、反射層45の上に、光硬化性樹脂または熱硬化性樹脂のような第2の樹脂を設置する。その後、紫外線または熱等の印加により、第2の樹脂を硬化させることにより、第2の樹脂から第2の透明樹脂層47が形成される。
【0030】
ここで、第2の樹脂は、モノマーの状態で提供され、架橋反応によって第2の透明樹脂層47に変化する。一般に、架橋反応は、大きな体積減少を伴い、反応の前後で体積が収縮する。このため、第2の樹脂が第2の透明樹脂層47に変化する際に、面方向(第1の支持部材41の平面方向)において、大きな体積収縮が生じることが予想される。
【0031】
特に、第2の樹脂は、平坦な表面ではなく、反射層45の凹凸表面上に設置される。従って、第2の樹脂が架橋反応により収縮すると、第2の透明樹脂層47は、下側の凹凸形状に追随することができず、界面P
2の一部において剥離が生じるものと考えられる。界面P
2における密着性は、P
2の凹凸表面における第2の透明樹脂の収縮応力の応力集中と、界面P
2の密着力のバランスや、凹凸表面によるアンカー効果など、複数の要因が含まれると考えられる。
【0032】
(本発明の一実施形態による映像投影用構造体)
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態による映像投影用構造体の一構成例について説明する。
図2には、本発明の一実施形態による映像投影用構造体(以下、「第1の映像投影用構造体」と称する)の断面の一例を概略的に示す。
【0033】
図2に示すように、第1の映像投影用構造体140は、第1の透明層143と、反射層145と、上部層160とを有する。
【0034】
第1の透明層143は、凹凸表面151を有し、反射層145は、この凹凸表面151上に設置される。前述のように、反射層145は比較的薄いため、反射層145の最表面153は、第1の透明層143の凹凸表面151と実質的に同等の凹凸形状を有する。
【0035】
上部層160は、反射層145の最表面153に、反射層145の凹部を実質的に充填するように配置される。従って、上部層160の最表面は、反射層145の側に比べて平滑である。
【0036】
図2に示した例では、第1の映像投影用構造体140は、さらに、第1の支持部材141を有する。第1の支持部材141は、第1の透明層143の凹凸表面151とは反対の表面の側に配置される。
【0037】
第1の支持部材141は、第1の映像投影用構造体140を支持し、第1の映像投影用構造体140のハンドリングを容易にする役割を有する。例えば、第1の支持部材141を含まない場合、第1の映像投影用構造体140の厚さは、通常、50μm〜300μm程度であり、あまり剛性が得られない。しかしながら、第1の支持部材141を提供することにより、第1の映像投影用構造体140に剛性が得られ、ハンドリングが容易になる。
【0038】
ただし、第1の映像投影用構造体140に剛性があまり必要とされない場合など、特定の場合には、第1の支持部材141は、省略されても良い。
【0039】
ここで、第1の映像投影用構造体140は、従来の透明スクリーン1における映像投影用構造体40とは異なり、第2の透明樹脂層47および第2の支持部材49の代わりに、上部層160を有するという特徴を有する。
【0040】
また、この上部層160は、成形収縮率が3%未満である重合体で構成され、吸水率が1%未満であるという特徴を有する。
【0041】
従来の第2の透明樹脂層47および第2の支持部材49の代わりに、そのような成形収縮率の低い上部層160を反射層145の上に適用した場合、上部層160が硬化する際の体積収縮を有意に抑制することができる。従って、反射層145と上部層160との間の密着性を有意に向上させることができる。
【0042】
ただし、従来の第2の透明樹脂層47は、反射層45を外部環境、特に外界の水分等から保護する役割を兼ねている。従って、第2の透明樹脂層47を排除した場合、反射層145の耐環境性が低下することが懸念される。
【0043】
しかしながら、第1の映像投影用構造体140において、上部層160は、吸水率が1%未満であるという特徴を有する。このような吸水率が低い上部層160は、反射層145を外部環境から保護する保護層として、機能することができる。その結果、第1の映像投影用構造体140では、第2の透明樹脂層47が存在しなくても、従来と同等以上の耐環境性を維持することができる。
【0044】
以上の効果により、第1の映像投影用構造体140では、耐環境性を維持したまま、反射層145と上部層160との間での剥離を、有意に抑制することができる。
【0045】
なお、
図2に示した構成例では、第1の映像投影用構造体140の最上部は、上部層160となっている。しかしながら、これは単なる一例であって、第1の映像投影用構造体140は、上部層160の上に、さらに別の層を有しても良い。そのような別の層は、例えば、
図1における第2の透明樹脂層47などであっても良い。
【0046】
(各構成部材の詳細)
次に、本発明の一実施形態による映像投影用構造体を構成する各部材について、より詳しく説明する。
【0047】
なお、ここでは、
図2に示した第1の映像投影用構造体140を例に、各構成部材について説明する。従って、各部材を表す際には、
図2に示した参照符号を使用する。
【0048】
(第1の透明層143)
第1の透明層143は、表面に凹凸を形成することが可能な透明材料である限り、その材質は、特に限られない。例えば、第1の透明層143は、透明な樹脂で構成されても良い。そのような樹脂用原料としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等の光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0049】
第1の透明層143の凹凸表面151は、算術平均粗さRaが0.01μm〜20μmの範囲であっても良い。算術平均粗さRaは、0.1μm〜20μmの範囲であることが好ましい。
【0050】
また、第1の透明層143の凹凸表面151は、最大高さと最小高さの差(「最大PV値」と称する)が0.1μm〜50μmの範囲であっても良い。最大PV値は、0.05μm〜50μmの範囲であることが好ましい。
【0051】
第1の透明層143の透過率は、50%以上であることが好ましく、75%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0052】
第1の透明層143の厚さ(最大厚さ)は、例えば、0.5μm〜50μmの範囲である。
【0053】
(反射層145)
反射層145は、入射光の一部を反射し、他の一部を透過する機能を有するように構成構成される。なお、反射層145は、必ずしも単層膜である必要はなく、多層構造を有しても良い。
【0054】
例えば、反射層145は、金属(合金を含む)、金属酸化物、金属窒化物、およびそれらの組み合わせにより構成されても良い。金属としては、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、またはこれらの合金(例えば、金と銀の合金など)が挙げられる。また、金属酸化物としては、周期表の第3族元素〜第16族元素の金属酸化物および金属窒化物が好ましい。また、上記金属酸化物のうち、Zr,Ni,Cr,Ti,Zn,Nb,Zn,Pd,In,W,およびMoから選ばれる1種以上の酸化物および窒化物がより好ましい。
【0055】
あるいは、反射層145は、金属膜と酸化物膜の繰り返し構造を有しても良い。この場合、金属膜および酸化物膜の厚さは、例えば、1nm〜100nmの範囲であり、例えば、4nm〜25nmの範囲であることが好ましい。
【0056】
反射層145の厚さ(多層膜の場合、総厚)は、例えば、2nm〜150nmの範囲であり、5nm〜80nmの範囲であることが好ましい。
【0057】
(上部層160)
上部層160は、反射層145の上に配置される透明な層である。上部層160は、前述のように、成形収縮率が3%未満である重合体で構成される。また、上部層160は、吸水率が1%未満である。
【0058】
上部層の成形収縮率は、上部層160が反射層145の表面で重合によって形成された重合体である場合、(重合後の比重−重合前の比重)×100/(重合後の比重)として求めることができる。
【0059】
また、上部層が重合体を溶媒中に溶解または懸濁して得られる塗布液の場合、成形収縮率は以下の方法で求めることができる:
平滑なPETフィルム上に、前記塗布液を長さが20〜100mm、乾燥後の厚さが20〜100μmとなるように塗布し、塗布直後に塗布した長さを測定する。塗布した液を乾燥した後、乾燥後の長さを測定する。得られた結果から、(塗布直後の長さ−乾燥後の長さ)×100/(塗布直後の長さ)により、成形収縮率が求められる。
【0060】
なお、重合体は、該重合体の主鎖が直鎖状であることが好ましいが、側鎖があっても良い。また上部層160を構成する重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で架橋構造を含んでも良い。
【0061】
成形収縮率は、1%未満であることが好ましい。
【0062】
また、吸水率は、0.3%未満であることが好ましく、0.1%未満であることがより好ましい。
【0063】
上部層160は、例えば、シクロオレフィン構造を有する樹脂、ポリエステル樹脂およびポリスチレン樹脂等から選定されてよく、特に、シクロオレフィン構造を有する樹脂が好ましい。シクロオレフィン構造を有する樹脂は、例えば、式(1)または式(2)に示すようなシクロオレフィン樹脂などから選定されても良い:
【0065】
【化2】
このうち、(1)式のタイプとしては、ZEONEX(登録商標)(日本ゼオン社製)、ZEONOR(登録商標)(日本ゼオン社製)、およびARTON(登録商標)(JSR社製)等が挙げられる。また、(2)式のタイプとしては、APEL(登録商標)(三井化学社製)およびTOPAS(登録商標)(ポリプラスチックス社製)等が挙げられる。
【0066】
本発明では、R
1またはR
2の少なくとも一方、または添加物中に、例えばアルコキシル基、イソシアネート基、エポキシ基、シラノール基、カルボニル基、アミノ基、および水酸基のような、金属および金属酸化物と反応する官能基を有することが好ましい。このような構造とすることで、シクロオレフィン主骨格により疎水性を担保しつつ、反射膜との密着性を実現できる。
【0067】
上部層160は、反射層145の凹部を十分に充填することができる限り、その厚さは、特に限られない。上部層160の厚さは、例えば、1μm〜10μmの範囲の範囲である。
【0068】
なお、反射層145が銀(Ag)を含む場合、上部層160は、できるだけ塩化物イオンを含まないことが好ましい。上部層160が塩化物イオンを含む場合、反射層145中のAgが塩化物イオンと反応して、反射層145が劣化する可能性がある。上部層160に含まれる塩化物イオン濃度は、例えば10μg/g未満であり、実質的に0(ゼロ)であることが好ましい。
【0069】
(第1の支持部材141)
第1の支持部材141は、透明な材料である限り、いかなる材料で構成されても良い。第1の支持部材141は、例えば、ガラスまたは樹脂であっても良い。
【0070】
第1の支持部材141を構成するガラスとしては、例えば、ソーダライムガラスおよび無アルカリガラス等が挙げられる。ガラスは、耐久性を向上させるため、化学強化処理またはハードコート処理されたものであっても良い。
【0071】
第1の支持部材141を構成する樹脂としては、ポリカーボネート、PET、PEN、シクロオレフィンポリマー、およびポリエステル等が好ましい。これらは、フイルム状で提供されても良い。
【0072】
第1の支持部材141は、複屈折がないことが好ましい。
【0073】
第1の支持部材141の厚さは、例えば、0.01mm〜10mmの範囲であり、0.05mm〜5mmの範囲であることが好ましく、0.1mm〜0.5mmの範囲であることがより好ましく、0.1mm〜0.3mmの範囲であることがさらに好ましい。
【0074】
なお、前述のように、第1の支持部材141は、省略されても良い。
【0075】
(第1の映像投影用構造体140)
第1の映像投影用構造体140は、第1の支持部材141を備えた状態で、透過率が30%〜85%の範囲であり、ヘイズが1%〜15%の範囲であっても良い。
【0076】
あるいは、第1の支持部材141を備える第1の映像投影用構造体140は、0.1%〜10%の範囲の透過率を有し、ヘイズが30%以上であっても良い。そのような第1の映像投影用構造体140を透明スクリーンに適用した場合、透明スクリーンは、実質的に不透明となり得るが、より鮮明な映像を表示することが可能となる。
【0077】
(本発明の一実施形態による透明スクリーン)
次に、
図3を参照して、本発明の一実施形態による透明スクリーンの一構成例について説明する。なお、以下に示す透明スクリーンは、フロント投射タイプの透明スクリーンである。
【0078】
図3には、本発明の一実施形態による透明スクリーン(以下、「第1の透明スクリーン」と称する)の断面の一例を概略的に示す。
【0079】
図3に示すように、第1の透明スクリーン400は、第1の透明基板410と、第2の透明基板420と、両者の間に配置された映像投影用構造体440とを有する。
【0080】
第1の透明基板410は、例えば、ガラス、樹脂、プラスチックなどで構成されても良い。第2の透明基板420についても、第1の透明基板410と同様のことが言える。
【0081】
第1の透明基板410と映像投影用構造体440との間には、第1の接着層430が設置されており、これにより、第1の透明基板410と映像投影用構造体440を接合することができる。また、第2の透明基板420と映像投影用構造体440との間には、第2の接着層432が設置されており、これにより、第2の透明基板420と映像投影用構造体440を接合することができる。
【0082】
第1の接着層430は、透明な材料、例えば透明樹脂等で構成される。そのような透明樹脂としては、例えば、PVB(ポリビニルブチラール)、EVA(エチレン・酢酸ビニルコポリマー)、アクリル系粘着剤、およびその他粘着剤などが挙げられる。
【0083】
第2の接着層432においても同様のことが言える。
【0084】
映像投影用構造体440は、本発明の一実施形態による映像投影用積層体で構成される。例えば、映像投影用構造体440は、前述の
図2に示したような、第1の映像投影用構造体140であっても良い。
【0085】
例えば、
図3に示した例では、映像投影用構造体440は、第1の映像投影用構造体140と同様の構成を有し、第1の支持部材141、第1の透明層143、反射層145、および上部層160をこの順に備える。
【0086】
ただし、前述のように、第1の支持部材141は、省略しても良い。また、上部層160の上には、さらに別の層が配置されても良い。
【0087】
なお、映像投影用構造体440を構成する各部材の仕様については、前述の通りであり、ここでは、詳細な記載は省略する。
【0088】
このような構成の第1の透明スクリーン400では、上部層160の前述のような特徴により、反射層145と上部層160の間の剥離を有意に抑制することができる。また、反射層145を外界の水分から保護することができ、良好な耐環境性を有する第1の透明スクリーン400を得ることができる。
【0089】
第1の透明スクリーン400は、28%〜82%の範囲の透過率を有し、ヘイズが1%〜15%の範囲であっても良い。
【0090】
あるいは、第1の透明スクリーン400は、0.1%%〜8%の範囲の透過率を有し、ヘイズが30%以上であっても良い。この場合、第1の透明スクリーン400は、実質的に不透明となり得るが、より鮮明な映像を表示することが可能となる。
【0091】
以上、第1の透明スクリーン400を例に、本発明の一実施形態による透明スクリーンの構成例について説明した。
【0092】
ただし、上記第1の透明スクリーン400は、単なる一例であって、本発明による透明スクリーンは、その他の構成を有しても良い。
【0093】
例えば、第1の透明スクリーン400において、第1の透明基板410および/または第2の透明基板420の少なくとも一つは、省略されても良い。
【0094】
また、これに加えてまたはこれとは別に、第1の接着層430および第2の接着層432のうちの少なくとも一つは、省略されても良い。
【0095】
例えば、第1の支持部材141が省略された構成において、映像投影用構造体440の第1の透明層143が接着層としての役割を兼ねる場合、第1の接着層430を省略することができる。同様に、映像投影用構造体440の上部層160が接着層としての役割を兼ねる場合、第2の接着層432を省略することができる。
【0096】
なお、第1の透明スクリーン400において、第1の透明基板410、第2の透明基板420、第1の接着層430、および第2の接着層432の全てが省略された場合、そのような部材は、結局、第1の支持部材141を有する映像投影用構造体に帰結する。
【0097】
あるいは、映像投影用構造体440をフィルム状に調製し、別の透明体に貼付することにより、透明スクリーンが構成されても良い。
【0098】
(本発明の一実施形態による映像投影用構造体の製造方法)
次に、
図4〜
図8を参照して、本発明の一実施形態による映像投影用構造体の製造方法の一例について説明する。
【0099】
図4には、本発明の一実施形態による映像投影用構造体の製造方法のフローを概略的に示す。また、
図5〜
図8には、
図4に示した製造方法における一工程を概略的に示す。
【0100】
図4に示すように、本発明の一実施形態による映像投影用構造体の製造方法(以下、「第1の製造方法」という)は、
(1)凹凸表面を有する第1の透明層を準備する工程(工程S110)と、
(2)前記第1の透明層の前記凹凸表面に、反射層を設置する工程(工程S120)と、
(3)前記反射層の上に、上部層を設置する工程(工程S130)と、
を有する。
【0101】
以下、
図5〜
図8を参照して、各工程について説明する。
【0102】
なお、ここでは、映像投影用構造体の一例として、
図2に示したような構成を有する第1の映像投影用構造体140を例に、その製造方法について説明する。また、以降の説明では、各部材を表す際に、
図2に示した参照符号を使用する。
【0103】
(工程S110)
まず、凹凸表面151を有する第1の透明層143が準備される。第1の透明層143は、例えば、
図2に示すように、第1の支持部材141の上に形成されても良い。
【0104】
この場合、まず、第1の支持部材141上に、第1の樹脂が設置される。第1の樹脂は、光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、および熱可塑性樹脂など、外部からの刺激(エネルギー印加)によって、硬化する樹脂が好ましい。
【0105】
第1の樹脂の設置方法は、特に限られない。第1の樹脂は、例えば、ダイコート、スピンコート、インクジェット塗布、スプレーコート等により、第1の支持部材141上に設置されても良い。
【0106】
次に、第1の樹脂の上に、成形型が設置される。
図5には、第1の支持部材141上で、第1の樹脂の上に成形型が設置された状態を模式的に示す。
【0107】
図5に示すように、成形型170は、凹凸表面172を有する。成形型170は、凹凸表面172が第1の樹脂175と接触するようにして、第1の樹脂175上に設置される。成形型170は、例えば、金型であっても良く、あるいはフィルム状部材であっても良い。
【0108】
次に、成形型170を第1の樹脂175に押し付けた状態で、第1の樹脂175に、例えば、紫外線または熱のような外部刺激を与える。これにより、第1の樹脂175が硬化され、表面に成形型170の凹凸表面172が転写された第1の透明層143が形成される。
【0109】
その後、成形型170を取り除くことにより、第1の支持部材141上に、
図6に示すような、凹凸表面151を有する第1の透明層143が形成される。
【0110】
凹凸表面151の算術平均粗さRaは、例えば、0.01μm〜20μmの範囲である。また、凹凸表面151の最大PV値は、0.05μm〜50μmの範囲である。
【0111】
(工程S120)
次に、
図7に示すように、第1の透明層143の凹凸表面151に、反射層145が設置される。
【0112】
反射層145の設置方法は特に限られない。反射層145は、例えば、蒸着法、物理気相成膜(PVD)法、およびスパッタリング法等の成膜技術により、第1の透明層143上に設置されても良い。
【0113】
反射層145の材料は、前述のように、金属(合金を含む)、金属酸化物、金属窒化物、およびそれらの組み合わせにより構成されても良い。また、反射層145は、多層膜で構成されても良い。
【0114】
反射層145の厚さは、例えば、1nm〜20nmの範囲である。反射層145は、比較的薄いため、反射層145の最表面153は、下側の第1の透明層143の凹凸表面151の形状が反映された凹凸表面となる。
【0115】
(工程S130)
次に、
図8に示すように、反射層145の上に、上部層160が設置される。
【0116】
前述のように、上部層160は、成形収縮率が3%未満である重合体で構成される。また、上部層160は、吸水率が1%未満となる材料から選定される。
【0117】
上部層160は、例えば、シクロオレフィン構造を有する樹脂、ポリエステルおよびポリスチレンなどから選定されても良い。シクロオレフィン構造を有する樹脂としては、前述した式(1)または式(2)に示すようなシクロオレフィン樹脂などから選定されてもよい。
【0118】
上部層160の分子量は、例えば、Mn(数平均分子量)=1,000〜1,000,000の範囲であっても良い。上部層160のTgは、例えば40℃〜150℃が好ましい。Tgが40℃より低いと、第1の支持部材および第2の支持部材と接着させる際の高温・高圧プロセスに上部層が耐えられず、剥離が起こってしまう。一方、Tgが150℃よりも高い場合は、反射層との密着性が低く好ましくない。
【0119】
上部層160の形成方法は、特に限られない。
【0120】
例えば、上部層160は、前述の材料を、適当な溶媒中に溶解または懸濁させて調製した塗布液を、反射層145上に塗布してコーティング層を形成した後、このコーティング層から溶媒を揮発させることにより、形成しても良い。この方法では、上部層160の成形収縮率を、極めて小さくすることができる。
【0121】
溶媒は、上部層となる材料を溶解し乾燥が容易であれば特に限定されないが、例えば、アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチルおよびトルエンなどであっても良い。また、溶媒の揮発は、コーティング層を加熱することにより、実施しても良い。この場合、熱処理温度は、例えば、50℃〜150℃の範囲であっても良い。
【0122】
あるいは、上部層160は、反応前のモノマーを反射層145上に設置し、これを重合化させることにより形成しても良い。
【0123】
上部層160の厚さは、0.01μm〜20μmの範囲である。この場合、上部層160により、反射層145の最表面153における凹部は、完全に充填される。その結果、上部層160の上部は、比較的平滑な表面となる。
【0124】
前述のように、上部層160は、比較的小さな成形収縮率を有する。このため、上部層160と反射層145との間で剥離が生じる可能性は、有意に抑制される。
【0125】
以上の工程により、
図2に示した第1の映像投影用構造体140のような映像投影用構造体を製造することができる。
【実施例】
【0126】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の記載において、例1は実施例であり、例2は比較例である。
【0127】
(例1)
以下の方法により、映像投影用構造体、さらには透明スクリーンを製造した。
【0128】
(映像投影用構造体の製造)
まず、第1の支持部材として、厚さ0.075mmのPETフィルムを準備した。また、成形型として、表面にランダムな凹凸が形成されたサンドブラストフィルムを準備した。サンドブラストフィルムの凹凸の算術平均粗さRaは約0.2μmであり、PV値は1.8μmであった。
【0129】
次に、PETフィルムの上に、ダイコート法により第1の樹脂を塗布した。第1の樹脂は、2官能を有するUV硬化性樹脂であり、アクリル系の樹脂とした。
【0130】
次に、第1の樹脂の上に、前述の成形型を設置した。成形型は、凹凸の形成されている側が第1の樹脂と接するように配置した。この状態で、成形型の反対側から1000mJのUV光を照射して、第1の樹脂を硬化させ、第1の透明層を形成した。
【0131】
その後、成形型を除去することにより、PETフィルム上に、凹凸表面を有する第1の透明層が得られた。第1の透明層の厚さは、約5μmであった。
【0132】
次に、第1の透明層の凹凸表面に、スパッタリング法により反射層を設置した。反射層は、Tiドープ酸化亜鉛/AgBiNd/Tiドープ酸化亜鉛膜の3層構造を有する多層膜を使用した。反射層の総厚さは、約65nmとした。
【0133】
次に、反射層の上に、ダイコート法により、上部層用樹脂を設置した。上部層用樹脂は、シクロオレフィン樹脂(COP)を主成分とする、Tg=123℃の重合体である。
【0134】
その後、110℃で5分間加熱を行い、希釈溶媒を乾燥させ、上部層を形成した。上部層の厚さは、2μmであった。また、上部層の収縮率は、3%未満であった。
【0135】
以上の方法により、例1に係る映像投影用構造体(以下、「例1に係る映像投影用構造体」と称する)が製造された。
【0136】
(上部層の吸水率の測定)
以下の方法により、例1に係る映像投影用構造体に含まれる上部層の吸水率を測定した。
【0137】
例1に係る映像投影用構造体を、希釈溶剤中に浸漬し、上部層を選択溶解させた。次に、キャスティング法により、この溶解液をアルミ箔製カップ内に充填した。次に、カップを110℃で5分間加熱し、希釈溶媒を気化させた。その後、固化した残留物をカップから剥がし、評価用試料を調製した。
【0138】
この評価用試料を1g秤量し、カールフィッシャー装置(CA−200 Moisturemeter:エーピーアイコーポレーション製)を用いて、試料中の水分量を測定した。得られた結果から、(水分量×100)/試料の質量(%)を、上部層の吸水率とした。
【0139】
測定の結果、上部層の吸水率は、0.005%であった。
【0140】
(透明スクリーンの製造)
次に、以下の方法により、実施例1に係る映像投影用構造体を用いて透明スクリーンを製造した。
【0141】
まず、第1および第2の透明基板として、厚さ2mmのソーダライムガラスを準備した。また、第1および第2の接着層として、厚さ0.38mmのPVBフィルムを準備した。
【0142】
次に、第1の透明基板、第1の接着層、例1に係る映像投影用構造体、第2の接着層、第2の透明基板をこの順に積層して、積層体を構成した。
次に、この積層体を真空パックした状態で、120℃で1時間加熱した。これにより、透明スクリーン(以下「例1に係る透明スクリーン」と称する)が製造された。
【0143】
(例2)
例1と同様の方法により、映像投影用構造体および透明スクリーンを製造した(それぞれ「例2に係る映像投影用構造体」および「例2に係る透明スクリーン」と称する)。
【0144】
ただし、この例2では、反射膜は、AgBiNd/Tiドープ酸化亜鉛膜の2層構造とした。また、上部層として、PVBを使用した。
【0145】
上部層の厚さは、1.5μmであり、収縮率は、3%以下であった。また、吸水率は1.0%であった。
【0146】
以下の表1には、例1および例2に係る映像投影用構造体の構成の一部をまとめて示した。
【0147】
【表1】
(評価)
例1および例2に係る透明スクリーンを用いて、以下に示す各種評価を実施した。
【0148】
(全光線透過率および拡散反射率の測定)
分光光度計により、例1および例2に係る透明スクリーンの全光線反射率および拡散反射率の測定を行った。これらの測定は、いずれも、JIS Z8720:2012に準拠し、D65光源を用いて実施した。
【0149】
(ヘイズの測定)
例1および例2に係る透明スクリーンのヘイズの測定を行った。測定は、JIS K713に準拠したヘイズメーターを用い、JIS Z8720:2012に記載のD65光源を用いて実施した。
【0150】
(密着力測定)
例1および例2に係る透明スクリーンを用いて、密着力の評価を行った。密着力の評価は、JIS K6854に準拠した、T型剥離試験により実施した。
【0151】
ただし、本試験では、JIS K6854に記載の方法とは異なり、測定サンプルの幅を25mmとし、長さを100mmとした。また、本試験では、サンプル数を5とし、これらの結果を平均して得た値を、密着力とした。
【0152】
(剥離試験)
例1および例2に係る透明スクリーンを用いて、剥離試験を実施した。剥離試験は、各透明スクリーンのサンプルを、80℃、95%相対湿度に保持した高温高湿環境下で1000時間保持することにより実施した。その後サンプルを取り出し、光学顕微鏡を用いて剥離状況を観察した。
【0153】
観察の結果、いずれの界面にも剥離が認められなかったサンプルを○とし、いずれかの界面に剥離が生じたサンプルを×とした。
【0154】
(外観観察)
前述の剥離試験において剥離が生じなかったサンプルにおいて、部材の劣化の有無を把握するため、各層の状態を観察した。
【0155】
観察の結果、異常が認められなかったサンプルを○とし、反射層の変色などの劣化が生じた場合を×とした。
【0156】
以下の表2には、例1および例2に係る透明スクリーンの評価結果をまとめて示す。
【0157】
【表2】
この表2から、例1に係る透明スクリーンでは、例2に係る透明スクリーンに比べて、密着力が有意に向上していることがわかる。また、例1に係る透明スクリーンでは、1000時間の剥離試験後にも、剥離が生じていないことがわかる。さらに、例1に係る透明スクリーンでは、1000時間の剥離試験後にも、変色など、部材の劣化は生じていないことがわかる。
【0158】
このように、反射層の上に上部層を設置することにより、反射層と上部層との間の剥離が有意に抑制されることが確認された。また、従来の第2の透明層の代わりに上部層を設置しても、耐環境性に悪影響を及ぼす可能性は少ないことが確認された。