(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
チョクラルスキー(CZ)法又は磁場印加CZ(MCZ)法で育成されたVoid欠陥のある結晶から切り出された試料に、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度以上の温度で熱処理を、温度及び時間の少なくともどちらか一方の熱処理条件を変化させて行い、該熱処理条件の変化に伴って観察される、Void欠陥のサイズ、密度、無欠陥層深さのそれぞれの変化のうちいずれか一つ以上から点欠陥の挙動に関する物性値として、前記点欠陥であるInterstitial−Si及びVacancyの少なくともどちらか一方の拡散及び形成の少なくともどちらか一方に関連するアレニウスの式における活性化エネルギー及び頻度因子のうち少なくともどちらか一方を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法。
チョクラルスキー(CZ)法又は磁場印加CZ(MCZ)法で育成された微小酸素析出物のある結晶から切り出された試料に、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度で熱処理を、温度及び時間の少なくともどちらか一方の熱処理条件を変化させて行い、該熱処理条件の変化に伴って観察される、微小酸素析出物のサイズ、密度、無欠陥層深さのそれぞれの変化のうちいずれか一つ以上から点欠陥の挙動に関する物性値として、前記点欠陥であるInterstitial−Si及びVacancyの少なくともどちらか一方の拡散及び形成の少なくともどちらか一方に関連するアレニウスの式における活性化エネルギー及び頻度因子のうち少なくともどちらか一方を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法。
前記熱処理の熱処理雰囲気を酸化性にすることで前記点欠陥がInterstitial−Siの場合の該点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の点欠陥の評価方法。
前記熱処理の熱処理雰囲気を窒化性にすることで前記点欠陥がVacancyの場合の該点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の点欠陥の評価方法。
前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度、又は前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度とは、下記の式
[Oi]=4.0×1021×exp(−1.0/kT) 、
ここで[Oi]:結晶中の格子間酸素濃度(atoms/cm3 ASTM’79)、k:ボルツマン定数=8.62×10−5(eV/K)、T:温度(K)
を満たす温度以上の温度であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の点欠陥の評価方法。
【背景技術】
【0002】
近年、デバイスに用いられるウェーハは無欠陥結晶をはじめとするGrown−in欠陥が制御された高品質結晶から切り出されたり、また切り出された後に熱処理等の処理を施しGrown−in欠陥を消滅させたり、といった高品位ウェーハが主流である。結晶育成時に形成されるGrown−in欠陥を理解する上でも、また熱処理等で結晶欠陥を制御する上でも、これらの形成・消滅に大きく関与している点欠陥(Interstitial−Si及びVacancy)の挙動を知ることは重要である。
【0003】
ここで先ずGrown−in欠陥及びそれを消滅させるアニール技術に関して簡単に説明をしておく。
Grown−in欠陥には格子点のSi原子が欠落したVacancy(空孔)タイプのVoid欠陥と、格子間にSi原子が入り込んだInterstitial−Si(格子間Si、以下I−Siと表記することがある)タイプの転位クラスタ欠陥の2種類存在することが知られている。このGrown−in欠陥の形成状態は、単結晶の成長速度やシリコン融液から引上げられた単結晶の冷却条件により違いが生じる。例えば成長速度を比較的大きく設定して単結晶を育成した場合には、Vacancyが優勢になることが知られている。このVacancyが凝集して集まった空洞状の欠陥はVoid欠陥と呼ばれ、検出のされ方によって呼称は異なるが、FPD(Flow Pattern Defect)、COP(Crystal Originated Particle)あるいはLSTD(Laser Scattering Tomography Defects)などとして検出される。これらの欠陥が例えばシリコン基板上に形成される酸化膜に取り込まれると、酸化膜の耐圧不良の原因となるなど、電気的な特性を劣化させると考えられている。
【0004】
このようなVoid欠陥はVacancyが凝集して形成された空洞であるが、この空洞の内壁には酸化膜が形成されていることが知られている。CZ法又はMCZ法では用いている石英ルツボから酸素原子が溶解し、結晶成長界面から結晶中へ取り込まれる。(酸素原子は結晶格子間に取り込まれるので、正確には格子間酸素又は格子間酸素濃度という表現が正しいが、以下酸素又は酸素濃度と省略することがある。)結晶の温度は結晶成長に伴い低下するので、結晶中の酸素の平衡濃度は低下する。取り込まれた酸素の濃度がその温度での平衡濃度より高くなると、過飽和状態が発生する。この過飽和となった酸素が、Vacancyが凝集して形成された空洞の内壁に析出して内壁酸化膜を形成すると考えられる。
【0005】
アニール技術などを用いて表層のVoid欠陥を消滅させる際には、先ず内壁酸化膜を溶解させる必要がある。例えば特許文献1,2では非酸化性熱処理+酸化処理でVoid欠陥が消滅することが開示されている。この技術では先ず非酸化性熱処理を施すことにより、ウェーハ表層近傍の酸素を外方拡散させ、空洞状のVoid欠陥の内壁に存在している内壁酸化膜を溶解させる。その後酸化処理を行い、表面に形成された酸化膜からI−Siをウェーハ内部に注入してVoid欠陥を埋めるという方法が開示されている。
【0006】
一方で成長速度を比較的低速に設定して単結晶を育成した場合には、I−Siが優勢になることが知られている。このI−Siが凝集して集まると、転位ループなどがクラスタリングしたと考えられるLEP(Large Etch Pit=転位クラスタ欠陥)が検出される。この転位クラスタ欠陥が生じる領域にデバイスを形成すると、電流リークなど重大な不良を起こすと言われている。
【0007】
そこでVacancyが優勢となる条件とI−Siが優勢となる条件との中間的な条件で結晶を育成すると、VacancyやI−Siが無い、もしくはVoid欠陥や転位クラスタ欠陥を形成しない程度の少量しか存在しない、無欠陥領域が得られる。このような無欠陥結晶は例えば特許文献3に示されるような方法で、炉内温度や成長速度の制御によって得ることができる。具体的には結晶成長界面での温度勾配Gと結晶成長速度Vとの比(V/G)を制御することで無欠陥結晶が得られる。V/Gが大きければVacancy濃度が優勢となり、V/Gが小さいとI−Siが優勢になるので、Vacancy過剰量とI−Si過剰量が拮抗するV/Gに制御することで、点欠陥の過剰量を低減でき、Grown−in欠陥を成長させないようにしている。
【0008】
この制御法では、Vacancy過剰量とI−Si過剰量とが完全に拮抗すれば、優勢な点欠陥がないので当然Grown−in欠陥は形成されない。しかしわずかにVacancyが優勢であってもそれがGrown−in欠陥を形成するのに十分な量でなければ、Grown−in欠陥は形成されない。このような領域をNv領域と呼んでいる。Nv領域ではGrown−in欠陥は形成されないが、Vacancyが残存している。この残存しているVacancyがGrown−in欠陥を形成する温度より低温の温度帯で、酸素析出核を形成する。酸素析出反応は2Si+2O→SiO
2+I−Siである。この反応ではI−Siが生成されるので、反応が無制限に進むことはない。しかしながら、Vacancy(=V)があると2Si+2O+V→SiO
2と析出反応で生成するI−SiをVacancyが吸収するので反応が進みやすくなる。このためNv領域では酸素析出核が多く、デバイス等の熱処理が加えられた場合に酸素析出が起こりやすい。このためNv領域内又は Nv領域近傍の領域では、Grown−in欠陥は形成されないものの、微小酸素析出が形成されている場合がある。
【0009】
一方でわずかにI−Siが優勢であってもそれがGrown−in欠陥を形成するのに十分な量でなければ、やはりGrown−in欠陥は形成されない。このような領域をNi領域と呼んでいる。Ni領域はNv領域とは異なりI−Siが残存しているので、上述のような酸素析出反応は起こりにくく、デバイス等の熱処理をした際にも、酸素析出が起こりにくい領域である。
【0010】
以上がGrown−in欠陥や及びそれを消滅させるアニール技術に関する説明であるが、一般的にこれらの点欠陥の挙動をVacancyとI−Siとに区別して評価することは容易ではない。なぜならシリコンにおいてはVacancyとI−Siのどちらかが圧倒的に優勢ということはなく、上述したように条件次第でどちらかが優勢であったり、共存したりするので、検出されている現象が空孔に起因しているのか、格子間Siに起因して起こっているのかが分類できないためである。更に点欠陥を介して起こる現象は、その点欠陥の濃度とその点欠陥の拡散係数の積として影響を及ぼすので、その点欠陥の形成に関わる頻度因子と活性化エネルギー、その点欠陥の拡散に関わる頻度因子と活性化エネルギー、という4つの因子が関わっており、それらを分離して求めることは難しい。ここで頻度因子と活性化エネルギーとはA × exp(−E/kT)で書き表されるアレニウス型の反応における、A:頻度因子、とE:活性化エネルギーのことである(k:ボルツマン定数、T:温度)。
【0011】
例えば特許文献4など結晶欠陥領域を判別する手法は数多く開示されているが、これは点欠陥の活動により形成されてしまった欠陥領域の評価であり、点欠陥の挙動を直接検出する技術ではない。特許文献5ではRTAで導入したVacancyを白金拡散してDLTSで評価したり、特許文献6、7などでは極低温における超音波の吸収からVacancy濃度を求める技術が開示されている。しかしこれらの手法はDLTSや超音波、更には極低温という簡便とはいえない方法であり、またVacancyの挙動しか捉えることが出来ないというものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、Si結晶を取り扱うところであれば比較的一般的な手法のみを組み合わせることで、点欠陥の挙動を捉えることができ、更にVacancy(空孔)とI−Siそれぞれの挙動を分けて捉えることもできる点欠陥の挙動に関する物性値を評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、
チョクラルスキー(CZ)法又は磁場印加CZ(MCZ)法で育成されたVoid欠陥のある結晶から切り出された試料に、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度以上の温度で熱処理を、温度及び時間の少なくともどちらか一方を変化させて行い、該熱処理条件の変化に伴って観察される、Void欠陥のサイズ、密度、無欠陥層深さのそれぞれの変化のうちいずれか一つ以上から点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、チョクラルスキー(CZ)法又は磁場印加CZ(MCZ)法で育成された微小酸素析出物のある結晶から切り出された試料に、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度で熱処理を、温度及び時間の少なくともどちらか一方を変化させて行い、該熱処理条件の変化に伴って観察される、微小酸素析出物のサイズ、密度、無欠陥層深さのそれぞれの変化のうちいずれか一つ以上から点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法を提供する。
【0016】
このように、本発明では、熱処理条件の変更に伴う、Void欠陥や微小酸素析出物のサイズ、密度、無欠陥層深さといった、一般的な処理及び測定だけで点欠陥の挙動を評価することができる。
【0017】
このとき、前記熱処理の熱処理雰囲気を酸化性にすることで前記点欠陥がInterstitial−Siの場合の該点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法であることが好ましい。
【0018】
このとき、前記熱処理の熱処理雰囲気を窒化性にすることで前記点欠陥がVacancyの場合の該点欠陥の挙動に関する物性値を評価することを特徴とする点欠陥の評価方法であることが好ましい。
【0019】
このように、本発明では熱処理の雰囲気をそれぞれ酸化性にするか、あるいは窒化性にするかによって、I−SiとVacancyをそれぞれ分けて評価することができる。
【0020】
前記点欠陥の挙動に関する物性値とは、前記点欠陥であるInterstitial−Si及びVacancyの少なくともどちらか一方の拡散及び形成の少なくともどちらか一方に関連するアレニウスの式における活性化エネルギー及び頻度因子のうち少なくともどちらか一方であることが好ましい。
【0021】
本発明で評価する物性値としては、上記のようなものが挙げられる。
【0022】
前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度、又は前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度とは、下記の式
[Oi]=4.0×10
21×exp(−1.0/kT) 、
ここで[Oi]:結晶中の格子間酸素濃度(atoms/cm
3 ASTM’79)、k:ボルツマン定数=8.62×10
−5(eV/K)、T:温度(K)
を満たす温度以上の温度であることが好ましい。
【0023】
このように、本発明における前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度、又は前記結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度は、上記式によって、格子間酸素濃度から簡単に求めることができる。
【0024】
前記熱処理温度が900℃以上であることが好ましい。
【0025】
前記格子間酸素濃度が8×10
17(atoms/cm
3 ASTM’79)以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の点欠陥の評価方法であれば、比較的一般的な手法のみを組み合わせることで、簡便に点欠陥の挙動を評価することができ、特にVacancy(空孔)とI−Siのそれぞれの挙動に関する物性値を区別して評価することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
上記のように、結晶育成時に形成されるGrown−in欠陥を理解する上でも、また熱処理等で結晶欠陥を制御する上でも、これらの形成・消滅に大きく関与している点欠陥(Interstitial−Si及びVacancy)の挙動に関する物性値を知ることは重要であるが、これらの点欠陥の挙動に関する物性値をVacancyとI−Siとに区別して直接検出して評価することは困難であるという問題があった。
【0030】
そこで、本発明者はこのような問題を解決すべく鋭意検討を重ねた。その結果、チョクラルスキー(CZ)法又は磁場印加CZ(MCZ)法で育成されたVoid欠陥または微小酸素析出物のある結晶から切り出された試料に、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜または微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度で熱処理を、温度及び時間の少なくともどちらか一方を変化させて行い、該熱処理条件の変化に伴って観察される、Void欠陥または微小酸素析出物のサイズ、密度、無欠陥層深さのそれぞれの変化のうちいずれか一つ以上から点欠陥の挙動に関する物性値を評価することに想到し、本発明を完成させた。
【0031】
上述したように、Void欠陥の内壁には酸化膜が形成されている。そのため何らかの処理を行なったとしても、内壁酸化膜が溶解するまでは、Void欠陥に変化は現れない。
しかしVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度以上の熱処理を行なえば、内壁酸化膜が溶解して点欠陥との反応が容易に起こり、点欠陥の挙動を観察しやすくなる。ただ一般的には上述したアニール技術のように酸素の外方拡散をさせるような特殊な熱処理でなければ、内壁酸化膜は溶解しない。
【0032】
しかし例えば低酸素濃度結晶を用いれば、その結晶中に含まれている格子間酸素濃度が平衡濃度となる温度に近い温度(すなわち、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解する温度)以上の熱処理を行うと、内壁酸化膜外側の結晶中の酸素平衡濃度が高くなり、酸素濃度の過飽和が解消される、または過飽和度が低くなるので、内壁酸化膜を容易に溶解させることが可能である。
【0033】
ここで、格子間酸素濃度が平衡濃度となる温度に近い温度、としたのは、内壁酸化膜外側の結晶中の酸素濃度が平衡濃度になれば過飽和が解消され内壁酸化膜が溶解するのはもちろんであるが、内壁酸化膜中の酸素濃度は相対的に高いので、内壁酸化膜外側の結晶中の酸素濃度が平衡濃度に近づき過飽和濃度が低下すれば濃度勾配が生じ内壁酸化膜が溶解すると考えられるからである。
【0034】
このように内壁酸化膜が溶解したVoid欠陥は、ただの空洞になっており、点欠陥の影響を直接受ける状態になっているので、そのサイズの変化や密度の変化、更には消滅しないで残っているVoid欠陥の表面からの距離などを観察することにより、点欠陥の挙動を直接見ることが可能である。
【0035】
さらにここで、Void欠陥の観察は、同一のサンプルを用いて熱処理の前後に測定してもよいし、複数のサンプルを用意してそれぞれに熱処理を行なって測定してもよい。また熱処理に用いるサンプルは結晶ブロックでもよいが、内部まで温度が伝わるのに時間がかかるので、一般的にはウェーハ状のものを用いるのが好ましい。
【0036】
上述ではVoid欠陥に関して説明したが、微小酸素析出物も、Voidの内壁酸化膜と同じSiO
2であるので、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まる微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度で結晶中の酸素の過飽和度の低下に伴い溶解すると考えられる。酸素析出の溶解した後の微小酸素析出物は、内壁酸化膜が溶解したVoidと同じようにただの空洞になると考えられ、点欠陥の影響を直接受けることになり、点欠陥の挙動を観察する指標として用いることが可能である。
特にNv領域又はNv領域近傍に形成される微小酸素析出物は、内壁酸化膜で空洞が埋められたVoid欠陥と区別が付かない。従ってVoid欠陥同様に本手法の点欠陥評価に用いることが可能である。
【0037】
上述したように、結晶中に含まれている格子間酸素濃度が平衡濃度となる温度(結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜又は微小酸素析出物が溶解する温度)に近い温度以上の熱処理を行なった時点で、Void欠陥又は微小酸素析出物は、ただの空洞となっており点欠陥の影響を直接受ける状態になっている。このとき熱処理雰囲気を酸化雰囲気にすると、サンプルの表面に酸化膜が形成され、ここからI−Siがサンプル内部に注入される。このように注入されたI−Siが、ただの空洞となったVoid欠陥又は微小酸素析出物に到達すると空洞を埋め、欠陥を消滅させることとなる。
【0038】
この欠陥の消滅現象に起因する、サイズの変化や密度の変化、更には消滅しないで残っている欠陥の表面からの距離(すなわち、無欠陥層深さ)などを観察することにより、I−Siの挙動を直接見ることが可能である。この現象においては、酸化膜の形成により強制的にI−Siを発生させることができるので、I−Siの濃度[Ci = Cio × exp(−Eif/kT)、ここでCio:I−Si形成に関わる頻度因子、Eif:I−Si形成に関わる活性化エネルギー]は考慮する必要が無く、I−Siの拡散係数[Di = Dio × exp(−Eim/kT)、ここでDio:I−Si拡散に関わる頻度因子、Eim:I−Si拡散に関わる活性化エネルギー]の影響のみを評価することが可能である。
【0039】
この方法によりI−Siの拡散に関する情報を得ることができるので、一般的なI−Siの濃度と拡散との積によって起こる現象で求められる頻度因子や活性化エネルギーと合わせることで、I−Siの形成に関わる頻度因子Cioや活性化エネルギーEifまでも求めることが可能である。
【0040】
熱処理雰囲気を酸化雰囲気ではなく窒化雰囲気にすると、サンプルの表面に窒化膜が形成され、ここからVacancyがサンプル内部に注入される。このように注入されたVacancyが、ただの空洞となったVoid欠陥又は微小酸素析出物に到達すると空洞を広げ、欠陥を拡大させることとなる。この欠陥の拡大現象に起因する、サイズの変化や密度の変化、更には欠陥の表面からの距離などを観察することにより、Vacancyの挙動を直接見ることが可能である。ここでサイズの変化だけでなく、密度や表面からの距離も記載してあるのは、検出下限以下で見えていなかった欠陥がサイズ拡大により検出されるようになることがあるからである。
【0041】
この現象においては、窒化膜の形成により強制的にVacancyを発生させることができるので、Vacancyの濃度[Cv = Cvo × exp(−Evf/kT)、ここでCvo:Vacancy形成に関わる頻度因子、Evf:Vacancy形成に関わる活性化エネルギー]は考慮する必要が無く、Vacancyの拡散[Dv = Dvo × exp(−Evm/kT)、ここでDvo:Vacancy拡散に関わる頻度因子、Evm :Vacancy拡散に関わる活性化エネルギー]の影響のみを評価することが可能である。
【0042】
この方法によりVacancyの拡散に関する情報を得ることができるので、一般的なVacancyの濃度と拡散との積によって起こる現象で求められる頻度因子や活性化エネルギーと合わせることで、Vacancyの形成に関わる頻度因子Cvoや活性化エネルギーEvfまでも求めることが可能である。
【0043】
上述のように、熱処理雰囲気を酸化性にすればI−Siの拡散[拡散係数:Di = Dio × exp(−Eim/kT)]に関する現象を、窒化性にすればVacancyの拡散[拡散係数:Dv = Dvo × exp(−Evm/kT)]に関する現象を評価することが可能である。欠陥のサイズ、密度、無欠陥深さなど拡散と関わる現象を、複数の熱処理温度で観察し、その熱処理温度依存性を温度の逆数に対してプロットすれば、活性化エネルギーを求めることが可能である。活性化エネルギーを求めることができれば、その頻度因子も求めることが可能である。
【0044】
そのようにして求めた拡散係数と一般的な点欠陥の濃度と拡散との積によって起こる現象で求められる頻度因子や活性化エネルギーと合わせることで、形成に関わる頻度因子や活性化エネルギーまでも求めることが可能である。
【0045】
上述してきたように、結晶中の格子間酸素濃度に依存して決まるVoid欠陥の内壁酸化膜又は微小酸素析出物が溶解する温度以上の温度は、結晶中に含まれている格子間酸素濃度が平衡濃度となる温度に近い温度以上の熱処理温度が好ましい。しかし酸素の平衡濃度に関しては、いくつか報告がある。例えば非特許文献:「Semiconductor Silicon Crystal Technology」, Fumio Shimura 著,ISBN 0−12−640045−8 のP165には[Oi]=9×10
22 × exp(−1.52/kT) と記載されている。また非特許文献:「シリコンの科学」,大見忠弘 他 著,ISDN4:947655−88−7のP1018 の図からはおおよそ[Oi]=1.9×10
21 × exp(−1.0/kT) と読み取れる。このように報告値には幅がある。
【0046】
しかも本手法では内壁酸化膜が溶解する程度に過飽和度が下がればよいので上記の温度より低めの温度でも観察できる可能性がある。後述するように実験的には酸素濃度4.4×10
17(atoms/cm
3)のサンプルを用いて1000℃でも若干無欠陥層が広がったように見えることから、[Oi]=4.0×10
21 × exp(−1.0/kT)を満たす温度以上であれば、内壁酸化膜が消滅している可能性が示唆された。従ってサンプルの酸素濃度を[Oi]として、この式を満たす温度以上の温度で熱処理を行うことが好ましい。
【0047】
熱処理は温度が低いほど容易であるが、温度が低いと拡散などの点欠陥に起因する現象の速度が低下する。また本手法では熱処理温度が低い場合は、サンプルとして用いる結晶の酸素濃度を下げる必要があるが、CZ法で育成できる酸素濃度下限も1×10
17(atoms/cm
3 ASTM’79)程度までであり、温度依存性を調査するために温度を変化させることも考慮すると、最低熱処理温度は900℃程度が妥当である。
【0048】
一方で熱処理温度を高温にできればサンプルの酸素濃度を高くすることができるので、シリコンの融点以下であれば高温ほど好ましい。ただし高温での熱処理は装置的な限度があるのと、あまりに高温の場合点欠陥に起因する拡散などの現象が速く進んでしまうので、過渡現象を見誤る可能性がある。更には汚染やサンプル割れなどの問題も生ずる可能性がある。従って一般的な炉で実施可能な1200−1300℃程度が上限と思われるが、観察する現象の速度などに依存するものであり、これに限定されるものではない。
【0049】
酸素濃度は低いほど、熱処理温度を下げることができるので、低ければ低いほど好ましい。一方で酸素濃度が高ければ、熱処理温度を高くすれば本手法を実施することができる。
しかし、本手法では点欠陥に起因する現象の温度依存性を観察することでより正確な解析ができる。従って、一般的な炉で温度依存性が観察できる程度の酸素濃度として、8×10
17(atoms/cm
3 ASTM’79)以下であれば、現象を観察するための熱処理温度の自由度が確保できる。
【実施例】
【0050】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実験)
概略
図1の装置1(磁石は省略してある)を用い、ルツボ2中の原料3に中心磁場強度4000Gを印加して、直径が200mm強で酸素濃度が(1)2.8×10
17と(2)3.5×10
17(atoms/cm
3−ASTM’79)の2水準の結晶4を育成した。これらの結晶から厚さ約1mmのウェーハ状サンプルを用意した。これを劈開して半月状に半分に割り、一方は熱処理をせずそのまま、他方は1100℃30分の酸化熱処理を行なった後に半月状の直線部側から短冊状に劈開して、赤外散乱トモグラフにて90度散乱で観察した。ここで[Oi]=4.0×10
21 × exp(−1.0/kT)をみたす温度は(1)が940℃、(2)が969℃であり1100℃は内壁酸化膜が溶解する温度以上を十分に満たしている。
その結果、熱処理をしなかったサンプルでは(1)(2)の結晶ともにGrown−in欠陥のVoid欠陥が観察された。一方で1100℃30分の酸化熱処理を行なったサンプルでは、(1)ではVoid欠陥が観察されず、(2)では熱処理無しのサンプルよりも散乱強度の弱いVoid欠陥が観察された。
【0052】
以上の結果から上述してきたような、酸素濃度に依存して決まる熱処理温度で比較的短時間の処理をすることでVoid欠陥の内壁酸化膜が溶解し、酸化雰囲気で熱処理を行なうことで、表面に形成された酸化膜からI−Siがサンプル内部に注入されVoid欠陥が縮小、消滅する現象が確認された。
【0053】
(実施例)
次に上記の実験でVoid欠陥の消滅現象が確認できたので、この消滅していく現象の過程を、温度を変化させて見ることでI−Siの拡散に関わる活性化エネルギーの導出を行った。
消滅過程を見るためには、実験で用いたサンプルでは欠陥の縮小消滅が速かったので、Void欠陥サイズの大きい結晶が好ましい。
そこで実験で用いた装置と比較して育成中の結晶の温度が低下しにくいように、結晶周辺の断熱を強化した炉内部品を投入して結晶を育成した。
得られた結晶の酸素濃度は4.4×10
17(atoms/cm
3−ASTM’79)であった。
ここで[Oi]=4.0×10
21 × exp(−1.0/kT)をみたす温度は1000℃であった。
【0054】
この結晶から隣り合う厚さ約1mmの2枚のウェーハ状サンプルを用意した。
このうちの1枚のウェーハを劈開し、赤外散乱トモグラフにて90度散乱で観察したところ、Grown−in欠陥のVoid欠陥が観察された。
この時の散乱強度は実験で用いた結晶の散乱強度よりも強く、Void欠陥が大きいことが確認できた。
次に残りのウェーハを劈開し、1/4形状のサンプルとした。
これらに、1000℃30分、1050℃30分、1100℃30分及び60分、1150℃60分の酸化熱処理を行った。
その後に1/4形状サンプルを劈開し、短冊状サンプルを作製し、再度赤外散乱トモグラフにて90度散乱で観察した。
その結果1150℃60分のサンプルではGrown−in欠陥が消滅して検出されなかったが、それ以外のサンプルで消えていないGrown−inが観察された。
縦横500μmの視野において観察された欠陥の表面に最も近い欠陥の表面からの距離と2番目の欠陥の表面からの距離の平均をDZ幅(Denuded Zone幅:無欠陥層幅)として測定した。
ここで仮定としてDZ幅WがI−Siの拡散係数Di=Dio × exp(−Eim/kT)を用いてW = α × √(Di × t)(ここでαは定数、tは熱処理時間(sec))と表されるとすると、W
2 = α
2 × Dio × exp(−Eim/kT) × tとなり、ln(W
2/t)の1/kTに対する傾きから活性化エネルギーEimを求めることが可能である。
【0055】
そこで
図2に示すようにW
2/t を拡散能として1/Tに対し対数プロットしたところ、温度依存性が見られた。この傾きからI−Siの移動に関する活性化エネルギーは1.7eVと求めることができた。
【0056】
このテストは活性化エネルギーを求めるためのやり方を示すため、簡易的な方法で行なった。また熱処理温度も[Oi]=4.0×10
21 × exp(−1.0/kT)をみたす温度以上といっても、ギリギリの温度であった。より正確な活性化エネルギーを求めるためには、より低い酸素濃度、又はより高い熱処理温度で行なうことが好ましい。またここではDZ幅の変化を評価したが、欠陥サイズの変化や欠陥密度の変化を評価することでも類似の評価が可能である。以上のように、このような非常に簡単なテストで点欠陥の挙動に関する物性値の情報を得ることができた。
【0057】
(比較例)
用意した結晶の酸素濃度が9.8×10
17(atoms/cm
3 ASTM’79)であること以外、実施例で行った内容と同じ条件でI−Siの拡散に関わる活性化エネルギーの導出を行なった。その結果、1000℃、1050℃、1100℃熱処理後のサンプルにおいて、DZ層の広がりは見られなかった。このため、活性化エネルギーを求めることはできなかった。
【0058】
酸素濃度が9.8×10
17 のとき[Oi]=4.0×10
21 × exp(−1.0/kT)をみたす温度は1123℃である。
このように内壁酸化膜や酸素析出物が消滅するほど十分低い酸素濃度のサンプルではない、つまり内壁酸化膜や酸素析出物が消滅する温度より低い温度で熱処理した場合には、点欠陥の挙動を検出できないことが確認された。
【0059】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。