(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
〔実施の形態1〕
図1は本発明の実施の形態1に係る体動計測装置100の要部を示す図である。
図1において、1はセンサ端末、2はセンサ端末1からのセンサデータを受け取る子端末である。センサ端末1は
図2に示すように弓21に設置されている。
【0015】
この体動計測装置100は、例えば3軸の加速度センサや3軸のジャイロセンサを備えたセンサ端末1と、センサ端末1と無線通信を行う子端末2とから構成されている。本実施の形態において、センサ端末1は、センサとして3軸の加速度センサ1−1を備えているものとする。子端末2には、スマートフォンやタブレット、ノートパソコンなどが用いられる。加速度センサ1−1の3軸は例えば
図2のXYZに示す軸にそれぞれ配置される。
【0016】
センサ端末1において、加速度センサ1−1は、試技中の加速度を25Hzのサンプリングレートで計測する。この計測された加速度は、センサデータ(3軸加速度データ)としてHDDやメモリ等の記憶部1−2へ格納された後、「BlueTooth(登録商標)」や「WiFi(登録商標)」、「LTE(登録商標)」などの無線通信機能により、送信部1−3を介して子端末2へ送信される。
【0017】
子端末2は、受信部2−1と記憶部2−2と振動算出部2−3と表示部2−4とを備えており、受信部2−1で受信したセンサ端末1からのセンサデータを記憶部2−2に格納する。子端末2において、振動算出部2−3は、記憶部2−2に格納されたセンサデータから競技者M(
図4参照)が持つ弓21の振動を算出する。表示部2−4は振動算出部2−3で算出された弓21の振動をディスプレイ上に表示する。
【0018】
振動算出部2−3は、加速度センサ1−1によって計測された加速度から競技者Mが持つ弓21の振動を算出する。この場合、弓21の振動は、下記の(1)式により求める。
【0020】
上記の(1)式において、A
x,out、A
y,out、A
z,outは加速度センサ1−1の出力値であり、単位は重力加速度G(1.0G≒9.8m/s
2)である。|A|は、A
x,out、A
y,out、A
z,outの合成和として得られる振動である。
【0021】
この(1)式から求められる振動|A|は、振動が発生しない際には重力加速度と値が等しく1[G]を示し、振動が生じた場合は1[G]と異なった値にも変化する。このことから、振動|A|を用いて、振動の有無や、振動の大きさを定量的に把握できる。
【0022】
なお、上記(1)式の右辺の中にXYZ軸の加速度を含ませることが加速度センサ1−1の性能等の制約により実装における負担である場合は、いずれか2軸の合成和でもよい。この場合、上下振れや左右振れを計測するために、A
y,outとA
z,outを選ぶことが望ましい。また、A
x,out、A
y,out、A
z,outのどれか1つをそのまま振動として扱ってもよい。この場合、A
y,outかA
z,outが望ましい。
【0023】
図3に振動算出部2−3で算出された弓21の振動|A|を例示する。
図3において、S1はアーチェリー競技を行う際のドローイング動作(
図4(a)参照)の期間を示し、S2はエイミング動作(
図4(b)参照)の期間を示し、S3はリリース動作(
図4(c)参照)の期間を示し、S4はフォロースルー動作(
図4(d)参照)の期間を示している。
【0024】
エイミング動作中は、ドローイング動作中と比べて、緩やかな動作で滑らかに弓を移動させていくので振動は小さい。また、リリース動作時は弦の鋭敏な反動のために、フォロースルー動作時は弓の旋回運動のために、振動が発生している。
【0025】
このように、弓の振動を定量化してディスプレイ上に表示することにより、自己の体動として競技者に把握させることができ、ひいては競技者の試技中の体動を抑える技能を向上させることが可能となる。
【0026】
〔実施の形態2〕
図5に本発明の実施の形態2に係る体動計測装置200の要部を示す。同図において、
図1と同一符号は
図1を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0027】
この実施の形態2の体動計測装置200は、実施の形態1の体動計測装置100の変形例であり、競技者が矢を射る際の特定の動作を検出する動作検出部2−5を子端末2が備えていることを特徴とする。
【0028】
本実施の形態において、競技者が矢を射る際の特定の動作は、ドローイング動作、エイミング動作、リリース動作、フォロースルー動作とする。また、動作検出部2−5は、傾き算出部2−51と動作期間推定部2−52とを備えている。
【0029】
動作検出部2−5において、傾き算出部2−51は、加速度センサ1−1によって計測された加速度から競技者Mが持つ弓21の傾きを算出する。この場合、弓21の傾きは、非特許文献2の記載を参考にこれを改変し、下記の(2)式および(3−1)式または(3−2)式により求める。
【0032】
上記の(2)式および(3−1)式,(3−2)式において、θは鉛直方向に対する加速度センサ1−1のY軸の傾き、φは鉛直方向に対する加速度センサ1−1のX軸の傾きであり、単位は度[degree]である。また、B
1とB
2は弓21が正立している際にθ、φが0となるように補正する定数であり、例えば弓21が正立している状態で、加速度センサ1−1のZ軸が鉛直方向に取り付けられていれば、θ、φはそれぞれ−90である。アーチェリー競技中のY軸の傾きθの変化を
図6(a)に、X軸の傾きφの変化を
図6(b)に示す。
【0033】
動作検出部2−5において、動作期間推定部2−52は、傾き算出部2−51によって算出された傾きθ、φと振動算出部2−3によって算出された振動|A|とに基づいて、ドローイング動作、エイミング動作、リリース動作、フォロースルー動作の発生期間を推定する。この動作期間推定部2−52での特定の動作の発生期間の推定は次のようにして行われる。
【0034】
動作期間推定部2−52は、傾き算出部2−51によって算出された傾きθ、φと振動算出部2−3によって算出された振動|A|とを用いて、まずリリース動作の検出を行う。リリース動作は、エイミング動作中に一定期間弓21が正立した後に生じ、鋭敏な弦の反動が特徴的である。リリース時には弦の激しい反動動作により、鋭いアーチファクトが計測される。このアーチファクトに着目してリリースの発生を次の条件(1)、(2)を持って検出する。
【0035】
〔条件(1)〕
傾きθならびにφが、弓21の正立に相当する一定の範囲内の値をとり、その範囲内の値のまま一定期間経過する。
【0036】
〔条件(2)〕
条件(1)が満たされていた直後に、振動|A|の時間差分(n番目の|A|から(n−1)番目の|A|を引いたもの)が一定の値を超える。
【0037】
弓21の正立時には傾きθ、φは0とみなせるため、条件(1)の範囲として、例えば、θは−10から+10の範囲内、φは−30から+30の範囲内とし、この範囲内の値のまま1秒間経過することを持って条件(1)を満たすものとする。条件(2)は、安静時は0であるため、例えば、低サンプリングレートのセンサでも十分に検出できるように、0.4以上とする。
【0038】
動作期間推定部2−52は、条件(1)および条件(2)がともに満たされたとき、条件(2)を満たした時の時刻をリリースの発生時刻とする。そして、このリリースの発生時刻を含む近傍0.5秒程度をリリース動作の発生期間(リリース動作の期間)として推定する。
【0039】
ドローイングとエイミングは、リリースの直前に実施されるので、動作期間推定部2−52は、リリース動作の発生期間の直前の数秒間をドローイング動作とエイミング動作の発生期間とし、例えば、リリース発生時刻の2.2秒前から0.2秒前までをエイミング動作の発生期間(エイミング動作の期間)として推定し、残りの期間をドローイング動作の発生期間(ドローイング動作の期間)として推定する。
【0040】
フォロースルーは、リリースの直後に実施されるので、動作期間推定部2−52は、リリース動作の発生期間の直後の数秒間、例えば2秒間をフォロースルーの発生期間(フォロースルーの期間)として推定する。
【0041】
動作期間推定部2−52で推定されたドローイング動作、エイミング動作、リリース動作、フォロースルー動作の期間は表示部2−4へ送られる。表示部2−4は、動作期間推定部2−52で推定されたドローイング動作、エイミング動作、リリース動作、フォロースルー動作の期間と合わせて、その期間中の振動算出部2−3からの振動|A|を時系列で表示する。
【0042】
図7(a)および(b)に熟練者および訓練者のエイミング動作の期間における時系列の振動|A|を例示する。この例では、エイミング動作の期間をリリース発生時刻の2.2秒前から0.2秒前までとみなした。安静時の1[G]に近いほど色が薄く、1[G]から正負に離れるほど色が濃い。
【0043】
訓練者の時系列の振動|A|は濃い色の発生頻度が高く、振動が激しいことがわかる。すなわち、訓練者は熟練者に比較して体動を抑制する能力に欠けていることが定量的に把握できる。ひいては、訓練者と熟練者との技量の差を定量化でき、それぞれに適した目標や練習メニューの作成、振り返りの実施に貢献できる。
【0044】
〔実施の形態3〕
図8に本発明の実施の形態3に係る体動計測装置300の要部を示す。同図において、
図5と同一符号は
図5を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0045】
この実施の形態3の体動計測装置300は、実施の形態2の体動計測装置200の変形例であり、競技者の体動を抑える技能(後述する体動σ)を定量的に算出する技能算出部2−6と、競技者の成績を推定する競技成績推定部2−7とを子端末2が備えていることを特徴とする。
【0046】
競技者の体動は振動|A|を用いて表すことができる。これを抑える必要性がある状況は、エイミング動作の期間である。そして、体動を抑える技能とは、その分布の広がりがどの程度小さいかという尺度で示すことができる。そこで、本実施の形態では、エイミング動作の期間中の振動|A|の標準偏差を競技者の体動σとして用いるものとする。体動σが小さければ、選手の体動を抑える技能が優れていることが読み取れるため、体動σと体動を抑える技能は表裏一体の関係にあり、体動σをもって体動を抑える技能が把握できる。
【0047】
図9に、競技者の体動σと競技成績Pとの関係を例示する。
図9は、アーチェリー競技リカーブ部門の50m種目36射における競技者の体動σ〔(エイミング動作の期間中(この例では、リリースの発生の1.2秒前から0.2秒前)の振動|A|の標準偏差〕の平均値と、競技成績Pとの関係を示す図である。これらには強い相関があり、相関係数(R)は-0.892である。
【0048】
図9から得られる回帰線は下記の(4)式で表される。
σ(体動)=-0.0002×P(競技成績)+0.0765 ・・・・(4)
【0049】
この(4)式を使えば、競技者のエイミング動作の期間中の体動(振動|A|)から、おおよそ期待される競技成績Pが推測でき、提示できる。すなわち、競技者は、目指す競技成績(点数)に合わせて、エイミング動作の期間中の体動を小さくする訓練を定量的に実施可能となる。
【0050】
実施の形態3の体動計測装置300において、競技者のエイミング動作の期間は、動作検出部2−5内の動作期間推定部2−52において推定される。技能算出部2−6は、動作期間推定部2−52において推定されたエイミング動作の期間と振動算出部2−3において算出された競技者の振動|A|とから、競技者の体動σを算出する。競技成績推定部2−7は、技能算出部2−6において算出された競技者の体動σから、上記の(4)式を用いて、競技者の競技成績Pを推定する。
【0051】
この競技成績推定部2−7で推定された競技成績Pは、表示部2−4へ送られ、ディスプレイ上に表示(提示)される。この競技者の体動σの算出から競技成績Pの推定まで、一連の過程は試技中に自動で実施される。なお、提示される競技成績Pは、(4)式から得られる値をそのまま用いてもよいが、複数回の行射を行うのであれば、その平均値や信頼区間、予測区間を算出し、提示するようにしてもよい。
【0052】
図10に信頼区間、予測区間を用いる例を示す。
図10は
図9の縦軸と横軸を入れ替えたものであり、回帰直線は次の式で表せる。
P(競技成績)=-3432×σ(体動)+348.41・・・・(5)
信頼区間は、非特許文献3を参考に次の式(6)で求める。
【0054】
予測区間も信頼区間と同様、非特許文献3を参考に、次の式(7)で求める。
【0056】
信頼区間を求めることにより、ある選手の体動が与えられた際に,その体動からもたらされるスコアの選手間平均の推定値が存在する範囲を示すことができ、極めて一般化された高い信頼性に基づいて推定値を提示することができる。
予想区間を求めることにより、ある選手の体動が与えられた際に,その人の能力だとスコアはこの程度変動しうる、という予測を提示することができる。
【0057】
〔実施の形態4〕
図11に本発明の実施の形態4に係る体動計測装置400の要部を示す。同図において、
図5と同一符号は
図5を参照して説明した構成要素と同一或いは同等構成要素を示し、その説明は省略する。
【0058】
この実施の形態4の体動計測装置400は、実施の形態2の体動計測装置200の変形例であり、体動判別部2−8と発呼部2−9と閾値記憶部2−10とを子端末2が備えていることを特徴とする。
【0059】
この体動計測装置400において、閾値記憶部2−10には、エイミング動作の期間中の振動|A|の望ましい範囲を定める閾値として、例えば0.9[G]が下限側の閾値として、1.1[G]が上限側の閾値として記憶されている。
【0060】
体動判別部2−8は、振動算出部2−3によって算出される振動|A|を閾値記憶部2−10に記憶されている閾値と比較することにより、競技者の体動が望ましいか否かをリアルタイムで判定する。この例では、振動算出部2−3によって算出される振動|A|が0.9[G]以上、1.1[G]以下の範囲から外れると、競技者の体動が望ましくないと判定する。
【0061】
発呼部2−9は、体動判別部2−8において競技者の体動が望ましくないと判定された場合、競技者に対して音声で矯正を促す。例えば、音声出力装置(ブザー、スピーカ、楽器等)を用い、警報音等で範囲内に抑えるよう発呼する。これにより、体動が大きい場合にそれを競技者に通知し、矯正させる訓練を実施することが可能となり、競技者の試技中の体動を抑える技能の向上に貢献できる。
【0062】
なお、この実施の形態では、振動算出部2−3によって算出される振動|A|が0.9[G]以上、1.1[G]以下の範囲から外れると、エイミング動作の期間だけではなく、ドローイングやリリース、フォロースルー動作の期間でも発呼がなされる。ここで、重要な期間はエイミング動作の期間であり、競技者はエイミング動作の期間中に発呼がなされないように練習を行うようにする。なお、一度矢を射った後は、次のエイミング動作の期間を予想することができるので、次回からは、その予想されるエイミング動作の期間中のみを対象として発呼を行うようにすると、エイミング以外の動作期間での発呼がなくなる。
【0063】
また、この実施の形態では、競技者に対して音声で矯正を促すようにしたが、音声以外の手法(光、熱、振動…)により矯正を促すようにしもよい。例えば、映像出力装置(モニタ等)、光源(LED:Light Emitting Diodeや電球)、アクチュエーター(振動子やロボットアーム、電気治療器)、温熱機器(ヒータやペルチェ素子)などを用いて競技者に対して矯正を促すようにする。
【0064】
また、
図11には実施の形態4の体動計測装置400として、実施の形態2の体動計測装置200(
図5)の変形例を示したが、実施の形態3の体動計測装置300(
図8)においても、実施の形態4の体動計測装置400と同様、体動判別部2−8や発呼部2−9,閾値記憶部2−10を設けるようにしてもよい。また、実施の形態1〜4において、加速度センサ1−1に代えてジャイロセンサを設けるようにしてもよい。
【0065】
〔実施の形態の拡張〕
以上、実施の形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明の技術思想の範囲内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。