【文献】
Local Optical Activity in Achiral Two-Dimensional Gold Nanostructures,Journal Physical Chemistry C,米国,American Chemical Society,2014年 8月26日,Vol. 118,pp. 22229-22233, S1-S5,doi: 10.1021/jp507168a
【文献】
Local optical responses of plasmon resonances visualised by near-field optical imaging,Physical Chemistry Chemical Physics,英国,Royal Society of Chemistry,2015年 1月30日,Vol. 17,pp. 6192-6206,doi: 10.1039/c4cp05951d
【文献】
2次元金属ナノ構造体が示す強い局所光学活性:近接場円二色性イメージング ,表面科学,2014年 6月,Vol. 35, No. 6,pp. 312-318
【文献】
近接場光照射による新たな光学活性ナノイメージング手法の開発,第9回分子化学討論会,2015年 9月16日,1P068
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記偏光分離部は、入射時の光軸に対して、前記直線偏光のx軸方向成分及びy軸方向成分のいずれか一方若しくは両方の光軸を変位又は角度変化させる光学素子を備える請求項1〜3のいずれか1項に記載の円偏光照射器。
前記光検出器で透過光を検出し、前記円二色性検出部において、前記透過光の電気信号を、前記円偏光における左右円偏光変調の位相でロックイン検出を行い、前記透過光における左円偏光と右円偏光の相対的な強度差を求め、円二色性信号を得る請求項9に記載の分析装置。
前記円二色性検出部は、前記電気信号を、前記円偏光における左右円偏光変調の位相でロックイン検出を行い、前記透過光における左円偏光と右円偏光の相対的な強度差を求め、円二色性信号を得る請求項12に記載の顕微鏡。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前述したアーティファクト除去技術には、以下に示す問題点がある。例えば、特許文献5に記載の測定方法は、回転や反転させることが困難な試料や装置には適用できない。また、特許文献6に記載の円偏光光源システムは、位相差変調が行われた光に含まれる水平偏光成分の光の出力がゼロとなるタイミングでゲートを開き、光を通過させているが、ゲート幅を最短にしても数%程度水平偏光成分が残っており、完全に純粋な円偏光照射は実現できていない。
【0010】
そこで、本発明は、直線偏光成分の混入のない円偏光を生成し出射することができる円偏光照射器、並びにこれを用いた分析装置及び顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る円偏光照射器は、光源と、前記光源から出射された直線偏光又は前記光源から出射された光から取り出された直線偏光を、x軸方向成分とy軸方向成分とに分ける偏光分離部と、前記偏光分離部で分離された直線偏光のx軸方向成分とy軸方向成分とを交互に遮断する光遮断部と、前記光遮断部を通過した直線偏光のx軸方向成分とy軸方向成分とを同軸に合成する偏光合成部と、前記偏光合成部から出射された直線偏光を円偏光に変換
して直線偏光成分を含まない円偏光を生成する偏光変換部を有する。
この円偏光照射器は、
前記偏光合成部からx軸方向成分とy軸方向成分が離散的に繰り返す直線偏光を出射し、前記偏光変換部から右円偏光と左円偏光を交互にかつ連続的に出射することができる。
本発明の円偏光照射器は、前記光源と前記偏光分離部との間に、前記光源から出射された光から直線偏光を取り出す偏光子部が設けられていてもよい。
前記偏光分離部は、入射時の光軸に対して、前記直線偏光のx軸方向成分及びy軸方向成分のいずれか一方若しくは両方の光軸を変位又は角度変化させる光学素子を備えていてもよい。
前記光遮断部は、光チョッパを備えていてもよい。
前記光源としては、例えば平行光を出射するものを使用することができる。
【0012】
本発明に係る分析装置は、前述した円偏光照射器を備えるものであり、前記円偏光照射器から出射された円偏光を試料に照射し、前記試料の光学特性を測定する。
本発明の分析装置は、前記試料からの透過光、反射光、散乱光又は発光を電気信号として検出する1又は2以上の光検出器を備えていてもよい。
更に、前記光検出器で検出された電気信号から円二色性信号を得る円二色性検出部を設けることもできる。
その場合、前記光検出器で透過光を検出し、前記円二色性検出部において、前記透過光の電気信号を、前記円偏光における左右円偏光変調の位相でロックイン検出を行い、前記透過光における左円偏光と右円偏光の相対的な強度差を求め、円二色性信号を得てもよい。
【0013】
本発明に係る顕微鏡は、前述した円偏光照射器を備えるものであり、観察対象の試料に、前記円偏光照射器から出射された円偏光を照射する。
この顕微鏡は、前記試料からの透過光を捕集する対物レンズと、前記対物レンズから出射した透過光を結像させる結像レンズと、前記透過光を電気信号として検出する光検出器と、前記光検出器で検出された電気信号から円二色性信号を得る円二色性検出部を備えていてもよい。
その場合、前記円二色性検出部は、例えば前記電気信号を、前記円偏光における左右円偏光変調の位相でロックイン検出を行い、前記透過光における左円偏光と右円偏光の相対的な強度差を求め、円二色性信号を得ることもできる。
本発明の顕微鏡は、前記透過光の結像位置にピンホールを設け、前記ピンホールを通過した光を前記光検出器で検出してもよい。
本発明の顕微鏡は、前記試料に対して前記円偏光を相対的に走査しながら照射することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、試料に対して直線偏光成分の混入のない円偏光を照射することができるため、巨視的な異方性を有するものについてもアーティファクトの影響を抑えた円二色性の測定が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態について、添付の図面を参照して、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係る円偏光照射器について説明する。
図1は本実施形態の円偏光照射器の構成を示す概念図であり、
図2はその変形例に係る円偏光照射器の構成を示す概念図である。また、
図3は
図2に示す円偏光照射器の具体的構成例を模式的に示す図である。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の円偏光照射器1は、円偏光を照射するものであり、少なくとも、光源10、偏光分離部12、光遮断部13、偏光合成部14及び偏光変換部15を備えている。また、本実施形態の円偏光照射器には、
図2に示すように、光源10と偏光分離部12との間に、偏光子部11やその他の光学素子が設けられていてもよい。
【0019】
[光源10]
光源10は、試料の種類や検出光の波長などに応じて適宜選択することができ、例えば固体レーザや半導体レーザ(LD:laser diode)などの各種レーザ、発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)などの発光素子、各種放電管、白熱灯光源を適切に処理したもの、放射光(特に短波長)を使用することができる。光の利用効率、輝度、集光性などの観点から、光源10はレーザなどのコリメートされた光(平行光)を出射するものであることが好ましい。
【0020】
[偏光子部11]
偏光子部11は、光源10から出射された光L1から直線偏光L2を取り出すものであり、必要に応じて光源10と偏光分離部12との間の光L1の光軸上に配置される。ここで、光源10から出射された光L1が直線偏光以外の成分を含む場合だけでなく、光源10から出射された光L1が直線偏光のみである場合にも、偏光成分の調整などのために、光源10と偏光分離部12との間に偏光子部11を配置することもできる。
【0021】
偏光子部11を構成する光学素子には、各種直線偏光子を用いることができる。直線偏光子の具体例としては、複屈折結晶を用いたグラントムソン、グランテーラー、グランレーザーなどの各種プリズム、プラスチックフィルムなどを用いた吸収型偏光フィルター、薄膜偏光素子、ワイヤグリッド型偏光子などが挙げられる。
【0022】
なお、円偏光照射器1から出射される円偏光L4の左円偏光と右円偏光のバランスがずれていると、円二色性計測などに用いた場合に、得られる円二色性信号にオフセットが生じることがある。そこで、左円偏光と右円偏光の強度が一致した円偏光L4を出射するため、偏光子部11を構成する光学素子には、回転などによって直線偏光L2における縦と横の偏光成分の比率を調整できるものを用いることが好ましい。
【0023】
[偏光分離部12]
偏光分離部12は、光源10から出射された直線偏光L2又は偏光子部11で取り出された直線偏光L2を、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとに分離するものであり、直線偏光L2の光軸上に配置されている。この偏光分離部12では、例えば直線偏光L2の入射時の光軸に対して、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yのいずれか一方若しくは両方の光軸を変位させるか又は光軸の角度(進行方向)を変化させる。
【0024】
偏光分離部12を構成する光学素子としては、例えば方解石を用いた偏波ビームディスプレーサ(PBD:Polarizing beam displacer)、ウォラストンプリズム、グランテーラープリズム、グランレーザプリズム、ローションプリズム、サヴァール板、偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarizing Beam Splitter)などが挙げられる。これらの光学素子のうち、偏波ビームディスプレーサ及びサヴァール板は光軸変位素子22であり、その他の素子は光軸角度変更素子である。
【0025】
偏光分離部12を構成する光学素子は、直線偏光L2をx軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとに分離可能なものであればよく、その種類や数は特に限定されるものではない。例えば、直線偏光L2を分離する光学素子の偏光消光比が低い場合は、分離されたx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの各光軸上に高い消光比をもつ直線偏光子を配置することで、偏光消光比が高い分離素子を用いた場合と同等の効果を得ることができる。ただし、部品数低減などの観点から、偏光分離部12を構成する光学素子には、高い偏光消光比で直線偏光中の成分を分離するものを用いることが好ましい。
【0026】
[光遮断部13]
光遮断部13は、偏光分離部12で分離された直線偏光のx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの光軸上に配置され、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yを交互に遮断するものである。この光遮断部13を構成する光学素子としては、光チョッパ23や光シャッターなどのように光を物理的に遮断するものが好ましいが、これらに限定されるものではなく、電気光学素子や音響光学素子、液晶偏光素子などを使用してもよい。
【0027】
また、光遮断部13に光チョッパ23を用いる場合は、動作時の振動が他の光学素子に影響しないように、光遮断部13は他の光学素子とは分離し、独立配置することが好ましい。更に、光チョッパ23には、デューティ比が1〜49%程度のものを使用することが好ましい。これにより、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとが同時に光チョッパ23を通過することを防止し、光チョッパ23からこれらの成分を離散的に出射することが可能となる。
【0028】
なお、光遮断部13は、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの光軸上にそれぞれ1つずつ設けられていてもよく、また、1つの光遮断部13でx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの両方を遮断してもよい。
【0029】
[偏光合成部14]
偏光合成部14は、光遮断部13を通過したx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yを同軸に合成して同一光軸の直線偏光に戻すものであり、光遮断部13を通過したx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの光軸上に配置されている。この偏光合成部14では、例えば、光遮断部13を通過したx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yのいずれか一方若しくは両方の光軸を変位させるか、又は光軸の角度(進行方向)を変化させる。これにより、x軸方向の直線偏光とy軸方向の直線偏光が離散的に繰り返す変調を有する直線偏光L3が得られる。
【0030】
偏光合成部14を構成する光学素子としては、前述した偏光分離部12と同様に、例えば方解石を用いた偏波ビームディスプレーサ(PBD)、ウォラストンプリズム、グランテーラープリズム、グランレーザプリズム、ローションプリズム、サヴァール板、偏光ビームスプリッタ(PBS)などが挙げられる。なお、偏光合成部14に用いる光学素子と偏光分離部12に用いる光学素子は、同種の対をなすものであることが好ましいが、種類の異なる光学素子を組み合わせ使用することもできる。偏光合成部14に、偏光分離部12で用いた光学素子と光学特性が同じものを使用することにより、2つに分離させた直線偏光成分を容易に1本のビームに戻すことが可能となる。
【0031】
[偏光変換部15]
偏光変換部15は、偏光合成部14から出射された直線偏光L3を円偏光に変換するものであり、直線偏光L3の光軸上に配置されている。この偏光変換部15を構成する光学素子としては、例えば1/4波長板25、バビネ−ソレイユの補償板、液晶可変リターダなどの液晶偏光素子を用いることができる。x軸方向の直線偏光とy軸方向の直線偏光が離散的に繰り返す変調を有する直線偏光L3を、偏光変換部15で円偏光に変換することで、直線偏光成分を含まず、左円偏光と右円偏光が離散的に繰り返す変調を有する円偏光L4が得られる。
【0032】
[その他の光学素子]
光源10から直線偏光が出射される場合は、偏光子部11に代えて、光源10と偏光分離部12との間に半波長板(図示せず)を配置してもよい。半波長板は、直線偏光の偏光方向を変えるものであり、光源10から出射された直線偏光を、半波長板により適切な偏光方向に回転させてから偏光分離部12に入射させることで、左円偏光と右円偏光の強度が一致した円偏光L4を出射することができる。
【0033】
[動作]
次に、本実施形態の円偏光照射器の動作について、
図3に示す円偏光照射器2を例に説明する。
図3に示す円偏光照射器2は、レーザ光源20、直線偏光子21、光軸変位素子22、光チョッパ23、光軸変位素子24、1/4波長板25がこの順に配置されている。この円偏光照射器2では、先ず、レーザ光源20から出射された平行光L1は、偏光を揃えるため、直線偏光子21に入射される。
【0034】
そして、直線偏光子21において、x軸又はy軸から45°方向の直線偏光L2が生成する。この直線偏光L2は、x軸方向とy軸方向に同じ強度をもつ2つの直線偏光状態を合成したものと考えられる。次に、光軸変位素子22により、直線偏光L2をx軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとに分離し、得られた2本の平行ビーム(x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2y)を、光チョッパ23などで交互に遮断する。
【0035】
図4Aは
図3に示す円偏光照射器2の光路例を示す上面図であり、
図4Bは光チョッパ23への入射位置を示す模式図である。例えば、光軸変位素子22として偏波ビームディスプレーサを用いた場合、
図4Aに示すように、直線偏光L2を光軸変位素子22に入射させると、x軸方向の直線偏光成分(x軸方向成分L2x)のみが入射時の光軸に対して光軸を平行に保ったまま変位し、出射される。一方、y軸方向の直線偏光成分(y軸方向成分L2y)は、光軸変位せず、入射時の光軸のまま出射される。
【0036】
光軸変位素子22から出射されたx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yは、光チョッパ23により交互に遮断され、光チョッパ23からはこれらの成分が離散的に出射される。その際、
図4Bに示すように、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yは相互に近接した位置に入射するが、デューティ比が1〜49%程度の光チョッパ23を用いることで、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとが同時に光チョッパ23を通過することを防止できる。
【0037】
次に、光チョッパ23を通過したx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yの両方を光軸変位素子24に入射させ、これら2つの平行ビームを再度同軸に戻す。例えば光軸変位素子24に偏波ビームディスプレーサを用いた場合、
図4Aに示すように、x軸方向成分L2xは入射時の光軸に対して平行方向に変位し、光軸変位せずに入射時の光軸のまま進行するy軸方向成分L2yに合流する。これにより、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとが離散的に繰り返す直線偏光L3が得られる。
【0038】
ここで、光軸変位素子22,24に偏波ビームディスプレーサを用いると、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとで素子を通過する時間が異なる場合も考えられるが、その差は、光遮断部13における遮断時間に比べて極わずかであるため、これらの成分を合成する際は問題にならない。このように、本実施形態の円偏光照射器2では、各成分の光路長を厳密に同一にしなくても、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとが離散的に繰り返す直線偏光L3を生成することが可能である。
【0039】
本実施形態の円偏光照射器2では、前述した光軸変換素子22,24に代えて光軸角度変更素子を用いることもできる。
図5Aは光軸角度変更素子を用いた場合の光路例を示す上面図であり、
図5Bは光チョッパ23への入射位置を示す模式図である。例えば光軸角度変更素子32としてウォラストンプリズムを用いた場合、
図5Aに示すように、直線偏光L2を光軸角度変更素子32に入射させると、x軸方向の直線偏光成分(x軸方向成分L2x)及びy軸方向の直線偏光成分(y軸方向成分L2y)の両方の光軸が、入射時の光軸に対して角度変化し、即ち進行方向が変更されて、出射される。
【0040】
光軸角度変更素子32から出射されたx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yは、例えばミラー26などにより光軸が相互に平行になるように進行方向が変更された後、光チョッパ23により交互に遮断される。その際、
図5Bに示すように、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yは、例えば一方の成分が光チョッパ23の右側、他方の成分が光チョッパ23の左側のように、比較的離れた位置にそれぞれ入射する。この場合も、光チョッパ23からはx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yが離散的に出射される。
【0041】
次に、ミラー26などにより進行方向を変更し、光チョッパ23を通過したx軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yを、光軸角度変更素子34に入射させる。そして、光軸角度変更素子34において、x軸方向成分L2x及びy軸方向成分L2yを再度同軸に戻す。これにより、x軸方向成分L2xとy軸方向成分L2yとが離散的に繰り返す直線偏光L3が得られる。
【0042】
前述した方法で生成した直線偏光L3は、1/4波長板25によって円偏光L4に変換される。その結果、
図4A及び
図5Aに示すように、1/4波長板25からは、右円偏光RCPと左円偏光LCPとが交互にかつ連続的に出射することとなる。
【0043】
本実施形態の円偏光照射器は、x軸方向の直線偏光成分とy軸方向の直線偏光成分が離散的に繰り返す直線偏光を生成し、これを円偏光に変換しているため、直線偏光成分の混入を排除し、試料に対して右円偏光と左円偏光を交互にかつ連続的に照射することができる。また、本実施形態の円偏光照射器は、電気的変調を用いていないため、得られる円偏光に非線形性や位相歪みは生じない。
【0044】
前述した特許文献6に記載の技術は、短い時間ゲートをかけることによってなるべく純粋な円偏光を得ようとするものであるため、時間的な光の利用効率が低く、円偏光の純度にも限界がある。これに対して、本実施形態の円偏光照射器は、特許文献6に記載の方法に比べて光の利用効率が高く、また、円偏光の純度も、偏光変換部の特性のみで決まるため、十分に高くすることが可能である。
【0045】
以上から、本実施形態の円偏光照射器を用いることにより、従来の方法では実現することができなかった直線偏光成分の混入のない純粋な円偏光を、試料に照射することが可能となる。その結果、異方性を有する試料についてもアーティファクトの影響を抑えた円二色性の測定が可能となる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態に係る分析装置について説明する。本実施形態の分析装置は、前述した第1の実施形態の円偏光照射器1を備え、この円偏光照射器1から出射された円偏光L4を試料に照射し、試料の光学特性を測定するものである。
【0047】
本実施形態の分析装置は、透過光、反射光、散乱光又は蛍光などの発光を電気信号として検出する1又は複数の検出器を備えていてもよい。その場合、各検出器は、検出する光に応じて適宜配置することができる。また、検出器の種類も特に限定されるものではないが、例えばPMT(Photo-Multiplier Tube;光電子増倍管)、CCD(Charge Coupled Device;電荷結合素子)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)などの固体撮像素子を用いた光検出器を使用することができる。
【0048】
図6は本実施形態の分析装置の構成例を示す模式図である。例えば本実施形態の分析装置により円二色性を測定する場合は、
図6に示すように、試料3を挟んで、円偏光照射器1と、透過光T1を検出するための光検出器4とを配置する。また、本実施形態の分析装置には、検出器4で検出された光信号S1と、円偏光照射器1の光遮断部13からの参照信号S2に基づき、円二色性信号を生成する円二色性検出部5を設けることもできる。
【0049】
図7Aは円偏光に変換する前の直線偏光L3の光強度を示し、
図7Bは円偏光照射器1から出射された円偏光L4の光強度を示し、
図7Cは試料3が円二色性を有しない場合の検出信号を示し、
図7Dは試料3が円二色性を有する場合の検出信号を示す図である。円偏光照射器1では、光源から出射された直線偏光又は光源から出射された光から取り出された直線偏光を、直線偏光のx軸方向成分とy軸方向成分に分離した後、これらの成分を交互に遮断して、離散的に2つの直線偏光の間で変調された光ビームを生成する。
図7Aに示すように、この光ビーム(直線偏光)では、x軸方向成分の光強度I
XLPと、y軸方向成分の光強度I
YLPは、同じになっている。
【0050】
この直線偏光は、x軸方向成分及びy軸方向成分がそれぞれ左円偏光と右円偏光に変換されて、左円偏光と右円偏光が離散的に繰り返す円偏光L4が生成し、この円偏光L4が試料3に照射される。このとき、光学素子としてバビネ−ソレイユの補償板を用いると、高精度に左円偏光又は右円偏光に変換することが可能となる。また、
図7Bに示すように、円偏光L4では、左円偏光成分の光強度I
LCPと、右円偏光成分の光強度I
RCPは、同じである。
【0051】
試料3を透過した光T1は、検出器4で検出される。このとき、試料3が円二色性を有しない場合は、
図7Cに示すように、左円偏光の検出信号強度I
LCPと、右円偏光の検出信号強度I
RCPは同じになる。一方、入射光の波長において、左円偏光と右円偏光とで吸光度に差(円二色性)がある場合は、
図7Dに示すように、左円偏光の検出信号強度I
LCPと、右円偏光の検出信号強度I
RCPに差が生じる。
【0052】
そこで、変調光の位相を予め片方のビームを遮断して決定し、その変調光の位相(参照信号S2)で光信号S1をロックイン検出することにより、左円偏光と右円偏光の強度の相対的な光強度差(I
LCP−I
RCP)を得ることができる。そして、この相対的な光強度差から円二色性信号を見積もることにより、確度の高い円二色性信号を高感度に検出することが可能となる。
【0053】
以上のように、本実施形態の分析装置は、試料に対して直線偏光成分の混入のない円偏光を照射することができるため、異方性を有する試料についてもアーティファクトの影響を抑えた円二色性測定が可能となる。更に、本実施形態の分析装置は、透過光に基づく円二色性測定だけでなく、反射光、散乱光又は発光の測定についても、従来の装置に比べて高精度の検出が可能であり、その結果、特に、固体試料などについては、周期構造の配列に関する情報などのように試料特有の性質を抽出することもできる。
【0054】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態に係る顕微鏡について説明する。本実施形態の顕微鏡は、前述した第1の実施形態の円偏光照射器を備え、観察対象の試料に円偏光照射器1から出射された円偏光を照射するものである。
図8は本実施形態の顕微鏡の構成例を示す模式図である。
【0055】
例えば、本実施形態の顕微鏡が円二色性顕微鏡である場合は、
図8に示すように、円偏光照射器1、対物レンズ6、結像レンズ7、光検出器4、円二色性検出部5などを備える。
図8に示す顕微鏡により試料3の円二色性像を観察する場合は、円偏光照射器1から出射された円偏光を試料3に照射し、試料3からの透過光を対物レンズ6で捕集した後、結像レンズ7で結像させ、光検出器4で電気信号として検出する。
【0056】
光検出器4で検出された電気信号は円二色性検出部5に送られ、円二色性検出部5において円二色性信号が算出される。具体的には、円二色性検出部5では、ロックインアンプなどを用いて、光検出器4で検出された電気信号を、円偏光における左右円偏光変調の位相でロックイン検出を行い、透過光における左円偏と右円偏光の相対的な強度差(I
LCP−I
RCP)を求め、円二色性信号を得る。これにより、確度の高い円二色性信号を高感度に検出することが可能となる。
【0057】
本実施形態の顕微鏡は、透過光の結像位置にピンホール8が設けられていてもよい。その場合、ピンホール8を通過した光が光検出器4で検出される。このように、対物レンズ6と結像レンズ7で結像させた光学イメージの一部を、ピンホール8で抽出することにより、試料3からの局所的な応答を検出することができる。
【0058】
ただし、この場合、光検出器4で得られる信号は、試料の特定の領域からのものに限定される。そこで、より広範囲な領域を観察する場合は、例えばX−Yステージ9で試料3を移動させるか、又は、円偏光照射器1からの照射位置を移動させるなどの方法により、試料3に対して円偏光を相対的に走査しながら照射する。これにより、局所的な光学応答の二次元マッピングを行うことができるため、円二色性を表す走査顕微鏡像を得ることができる。
【0059】
更に、本実施形態の顕微鏡は、光検出器4に高速イメージセンサを用い、それぞれの素子において前述したロックイン検出を行えば、試料3に対して円偏光を相対的に走査しながら照射しなくても、円二色性を表す顕微鏡像を得ることができる。
【0060】
本実施形態の顕微鏡は、基本的には、円偏光は集光せず、平行ビームの状態で試料に照射するが、例えば試料3に照射する光の偏光特性に擾乱を生じない場合には、円偏光照射器1と試料3との間に集光レンズ(図示せず)などを配置し、円偏光照射器1から出射された円偏光を集光して試料3に照射してもよい。
【0061】
以上のように、本実施形態の顕微鏡は、円偏光照射器により発生した左右円偏光が離散的に繰り返す円偏光変調ビームを、円偏光の特性に擾乱を生じない場合を除き、集光せずに平行ビームの状態で用いるため、光学系による不要な擾乱を受けることなく、高い円偏光純度を保ったまま試料に照射することができる。その結果、従来は観察が難しいとされてきた固体試料の円二色性も、アーティファクトの影響を抑え、高い感度と分解能で観察することが可能となる。
【0062】
また、本実施形態の顕微鏡では、左円偏光と右円偏光を単一のビームとして試料に照射し、試料からの局所的な円二色性信号を検出することにより、不均一な試料についても、円二色性の局所分布を高空間分解能で分析することができる。更に、本実施形態の顕微鏡は、試料の円二色性強度の空間分布を得ることが可能であるため、例えば分子単体の光学活性の評価・追跡のみならず、凝集体・集合体生成による光学活性の変化の過程などをライブ観察することも可能である。即ち、本実施形態の顕微鏡は、医療・バイオなど幅広い分野において新しい観察・定量評価手法を提供するものである。
【0063】
更にまた、本実施形態の顕微鏡は、生体細胞内における不斉分子の掌性の変換や輸送過程の観察にも有用である。そして、今後、円二色性をプローブ信号にしたイメージ技術が確立されれば、本実施形態の顕微鏡を適用することで、基質染色やラマン散乱による分子イメージ法に続く新しいバイオライブイメージング技術を実現可能となる。
【0064】
なお、本実施形態の顕微鏡における上記以外の構成及び効果は、前述した第2の実施形態と同様である。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例及び比較例を示し、本発明の効果について具体的に説明する。
【0066】
<実施例1>
先ず、本発明の円偏光照射器を用いて顕微鏡観察を行い、固体試料の円二色性像を得た。試料には、光学不活性である透明ガラス基板上に、厚さ1nmの金属クロム膜を形成したものを用いた。また、測定には直径0.1mmのピンホールを用い、観察波長は700nmとした。
【0067】
図9Aは試料の透過光像であり、
図9Bは円二色性像であり、
図9Cは試料中心付近の円二色性信号のラインプロファイルである。
図9Aに示す透過光像では、破線の右側にクロム薄膜が観察された。これに対して、
図9Bに示すロックインの時定数300m秒で取得した円二色性像でも、クロム薄膜と基板との境界付近を除き、ほぼ0の円二色性信号が得られた。
【0068】
図9Cに示すその中央付近のラインプロファイルから、0.00061O.D.という標準偏差の値(楕円率に換算して20.1mdegに相当)が得られた。この値がこの測定のノイズレベルとなり、0.14%の光吸収信号の大きさに相当する。以上から、例えば円二色性の値として楕円率約20mdeg以上の変化がある試料では、本発明の顕微鏡を用いることで、円二色性の分布を画像として得ることができる。なお、本測定では、直径0.1mmのピンホールを用いているが、ピンホールの径を大きくすれば、空間分解能は低下するが、感度限界を大きくすることが可能である。
【0069】
<実施例2>
次に、本発明の顕微鏡の空間分解能を評価した。
図10Aは二次元金属ナノ構造体の電子顕微鏡写真であり、
図10Bは透過光像であり、
図10Cは本発明の顕微鏡を用いて撮影した円二色性像である。本実施例では、円二色性信号を、光学顕微鏡として十分な空間分解能を確保しつつ、可視化できるか確認するため、試料には、円二色性の掌性が選択でき、任意の面積領域に試料作成が可能なキラルな形状の二次元金属ナノ構造体を用いた。具体的には、
図10Aに示すように、ガラス基板上に、風車型の金ナノ構造体を1μm間隔で形成したものを試料とした。
【0070】
図10Bに示す透過光像では、ナノ構造体の配列状態に対応した格子状のパターンが観察された。この透過光像と走査型電子顕微鏡(SEM)像を比較したところ、
図10Bにおいて強い消光が起きている部位に、ナノ構造体の中心が位置していた。これに対して、
図10Cに示す円二色性像では、強い消光が起きていた位置よりも、ナノ構造体の上下左右の4箇所の局所部位において、円二色性の極大値がみられた。この円二色性の極大値を示したスポットの大きさ(ピークの半値幅)は300〜400nmであった。
【0071】
また、この試料の隣り合うスポットの間隔は707nmと見積もられる。2点間を識別できる光学顕微鏡の分解能はレーリーの基準によると、この測定波長700nm及び用いた対物レンズから算出すると570nmであるが、この円二色性像では約700nm離れたスポットは明瞭に分離しており、空間分解能は300〜400nm程度まで高くなっていると考えられる。
図10Cにおけるロックインの時定数は100ミリ秒であり、縦100×横100ピクセルの本観察にはおおよそ20分程度の時間が必要であった。
【0072】
また、
図10Cの円二色性像では、ΔAの値の範囲は約0.06〜0.07であり、イメージのコントラストが光学密度で0.01程度に留まるが、明瞭に構造が組織され、空間的に分離できていた。
【0073】
<実施例3>
次に、本発明の顕微鏡を用いて、有機物結晶の円二色性像観察を行った。試料には、1,8−Dihydroxyanthraquinone(DHA)の結晶を用い、観察波長は600nmとした。DHAは、結晶化していない状態ではアキラル分子であり円二色性を示さないが、結晶化するとキラルな結晶構造をとるため、円二色性を発現する。
図11Aは有機物結晶(1,8−Dihydroxyanthraquinone)の透過像であり、
図11Bはその円二色性像である。
【0074】
図11A及び
図11Bに示すように、本発明の顕微鏡を用いると、有機物結晶についても、明瞭な円二色性像を得ることができた。
図11Bは、キラルな構造をとった領域が示す円二色性信号の空間分布を示している。同じ結晶の内部でも正と負の円二色性信号を示す領域がみられるが、これは場所により異なる掌性をもつキラルな結晶構造が現れていることを意味する。
【0075】
以上の結果から、光学特性の計測や顕微鏡観察を行う際に、本発明の円偏光照明器を用い、ロックイン検出を行うことにより、高分解能と高感度を両立できることが確認された。