(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784510
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】ポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 3/12 20060101AFI20201102BHJP
C22B 34/36 20060101ALI20201102BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20201102BHJP
C25B 15/02 20060101ALI20201102BHJP
C22B 7/00 20060101ALN20201102BHJP
【FI】
C25B3/12
C22B34/36
C22B3/04
C25B15/02 302
!C22B7/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-98946(P2016-98946)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-206733(P2017-206733A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 寿文
(72)【発明者】
【氏名】蝦名 毅
【審査官】
▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5329615(JP,B2)
【文献】
特表2009−537696(JP,A)
【文献】
特表2007−533846(JP,A)
【文献】
特表2009−537695(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2009/0171107(US,A1)
【文献】
特開2016−194152(JP,A)
【文献】
特開2016−194151(JP,A)
【文献】
特開2016−191113(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
C22B 3/04
C22B 34/36
C22B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステンを含む有価物を含有する原料混合物に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて、電解液の一部を除去しながら、除去した量と同量のアルコールアミン溶液を前記電解液中に足していくことで、前記電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行うことでポリタングステン酸アルコールアミンを得ることを特徴とするポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項2】
前記電解液のpHを6〜8に制御しながら電気分解を行うことを特徴とする請求項1に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項3】
前記電解液のpHを6〜7に制御しながら電気分解を行うことを特徴とする請求項1に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項4】
前記電解液に炭酸塩を溶解させることで電解液の電気伝導度を上昇させて前記電気分解を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項5】
前記アルコールアミンが、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項6】
前記アルコールアミンが、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【請求項7】
前記アルコールアミンが、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉱石またはスクラップ等のタングステンを含む有価物を含有する原料混合物からタングステンを回収する場合、アルカリで当該原料混合物からタングステン酸を抽出してタングステン酸のアルカリ塩とし、続いて酸でタングステン酸とした後にアンモニウム塩を得る方法が知られている。しかしながら、このような方法では不純物の除去が困難となることが多く、採用例は少なくなっている。
【0003】
特許文献1には、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物からタングステンを回収する方法として、アルカリ溶融塩を用いて当該原料混合物を処理し、タングステン酸ナトリウムを得る方法が開示されている。さらに特許文献2には、当該タングステン酸ナトリウムを処理してタングステン酸アンモニウムを製造する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2では、高温のアルカリ溶融塩でタングステンを含む鉱物やスクラップ(超硬材)を処理するため、エネルギー効率が悪い。また、アルカリ溶融塩では、コバルト、鉄など、通常では金属イオンとして存在する金属も、高原子価の酸素酸イオンとなり、添加する硝酸ナトリウムを余計に消費する。このため、あらかじめコバルトなどを、亜鉛を用いて抽出する処理が必要となることがある。
【0005】
このような問題に対し、本発明者は、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて電気分解を行うことで、タングステンを効率良くタングステン酸アルコールアミン溶液として回収できることを見出している(特許文献3)。
【0006】
ここで従来、タングステン酸イオンは溶液のpHの変化により存在形態が変化することが知られている。pH8以上ではWO
42-等のモノタングステン酸イオンが優勢であり、pH6〜8ではHW
6O
215-、pH4〜6ではW
12O
4620-等が優勢であるとの報告がある(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5782532号公報
【特許文献2】特許第5368834号公報
【特許文献3】特許第5329615号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】山崎秀夫、辻本憲一、合田四郎、平木敬三、西川泰治;分析化学28,424−428(1979)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
タングステン酸アルコールアミン溶液は、後の工程でイオン交換処理を効率的に行うために、ポリタングステン酸とすることが好ましい。ポリタングステン酸を製造するためには、電解液に添加するアルコールアミンの量を減らすことが有効である。ここで、アルコールアミンの添加量を減らすと、電解液中でタングステン酸などが沈殿してしまう問題が生じる。このため、特許文献3では、電解液をpH9以上に制御して電気分解を実施している。しかしながら、電解液がpH9以上であると、電解液へのアルコールアミンの添加量を多くする必要があるという問題が生じる。
【0010】
そこで、本発明は、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物から効率良くポリタングステン酸アルコールアミンを製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて、電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行うことで、電解液へのアルコールアミンの添加量を多くする必要がなく、電解液中でタングステン酸が沈殿することを抑制することでき、その結果効率良くポリタングステン酸アルコールアミンを製造することができることを見出した。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて、
電解液の一部を除去しながら、除去した量と同量のアルコールアミン溶液を前記電解液中に足していくことで、前記電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行うことでポリタングステン酸アルコールアミンを得ることを特徴とするポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法である。
【0013】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は一実施形態において、前記電解液のpHを6〜8に制御しながら電気分解を行う。
【0014】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は別の一実施形態において、前記電解液のpHを6〜7に制御しながら電気分解を行う。
【0017】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は更に別の一実施形態において、前記電解液に炭酸塩を溶解させることで電解液の電気伝導度を上昇させて前記電気分解を行う。
【0018】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【0019】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【0020】
本発明のポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は更に別の一実施形態において、前記アルコールアミンが、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物から効率良くポリタングステン酸アルコールアミンを製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態で示す電解槽の一例の模式図である。
【
図2】電気分解における定電圧と電流効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係るポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法は、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物に対して、アルコールアミンを含有する電解液を用いて、電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行うことでポリタングステン酸アルコールアミンを得る。当該工程以外の本発明に係るポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法にとって好ましい工程も含めて、以下に本発明に係るポリタングステン酸アルコールアミンの製造方法の実施形態を詳細に説明する。
【0024】
まず、処理対象となるタングステンを含む有価物を含有する原料混合物を準備する。タングステンを含む有価物を含有する原料混合物としては、タングステンを含む鉱物やスクラップ(超硬材)等が挙げられる。また、より具体的には、タングステンスクラップを粉砕した、いわゆるタングステンリサイクル材等が挙げられる。本発明の処理対象となるタングステンを含む有価物を含有する原料混合物は、例えば、Coを0〜15mass%、Niを0〜5mass%、Feを0〜5mass%、Tiを0〜5mass%、Taを0〜15mass%含有し、タングステンの純度は3〜95mass%である。また、本発明の処理対象となるタングステンを含む有価物を含有する原料混合物は、タングステン以外の有価物を1〜30mass%含有してもよく、タングステン以外の有価物を1〜10mass%含有してもよく、タングステン以外の有価物を3〜10mass%含有してもよい。
【0025】
次に、アノード及びカソード、アルコールアミンを含有する電解液を備えた電解槽を準備し、これを用いてタングステンを含む有価物を含有する原料混合物の電気分解を行い、タングステン酸アルコールアミン溶液、または、タングステン酸アルコールアミン及びポリタングステン酸アルコールアミン溶液を得る。
電解槽は、特に限定されないが、例えば、
図1に示す構成であってもよい。
図1は、アノードとしてチタンバスケットを用いており、このチタンバスケットの中にタングステンを含む有価物を含有する原料混合物が設けられている。チタンバスケットは、高電圧、高電流及び高温の電解処理条件で安定である点で好ましい。
【0026】
当該タングステン酸アルコールアミン溶液、または、タングステン酸アルコールアミン及びポリタングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度は特に限定されないが、10〜140g/Lであるのが好ましい。タングステン酸アルコールアミン溶液、または、タングステン酸アルコールアミン及びポリタングステン酸アルコールアミン溶液中のタングステン濃度が10g/L未満である場合、水等の溶媒の量が多過ぎるという問題が生じることがあり、また、140g/Lを超える場合は結晶が析出してしまうという問題が生じるおそれがある。
【0027】
アルコールアミンは、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ペンタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、トリメタノールアミン、メチルメタノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルプロパノールアミン、メチルブタノールアミン、エチルメタノールアミン、エチルエタノールアミン、エチルプロパノールアミン、ジメチルメタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジメチルプロパノールアミン、メチルジメタノールアミン、メチルジエタノールアミン及びジエチルメタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0028】
また、アルコールアミンは、トリエタノールアミン、ジブタノールアミン、ジペンタノールアミン、ジヘキサノールアミン、トリプロパノールアミン、トリブタノールアミン、メチルジプロパノールアミン、メチルジブタノールアミン、メチルジヘキサノールアミン、エチルジプロパノールアミン、エチルジブタノールアミン及びブチルジエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0029】
さらに、アルコールアミンは、ヘプタノールアミン、デカノールアミン、ノナノールアミン、デカノールアミン、メチルヘキサノールアミン、メチルオクタノールアミン、エチルペンタノールアミン、ヘキシルジエタノールアミン、ジメチルヘキサノールアミン、ラウリルジエタノールアミン、ベンジルエタノールアミン及びフェニルエタノールアミンからなる群から選択される1種以上であってもよい。
【0030】
電解液中のアルコールアミンの濃度は、1〜80mass%であるのが好ましい。電解液中のアルコールアミンの濃度が1mass%未満であると、導電性が低くなり過ぎて電気分解が不安定になり、錯体形成が困難となるおそれがある。電解液中のアルコールアミンの濃度が80mass%超であると、電解液の種類によっては水への溶解度を超えてしまうし、必要以上に濃度が高くなり、コストの面で不利となる。電解液中のアルコールアミンの濃度は、より好ましくは2〜50mass%、更により好ましくは5〜40mass%、更により好ましくは5〜20mass%である。
【0031】
電気分解の際の電解液の温度は20〜80℃に調整して電気分解を行うのが好ましい。電解液の温度が20〜80℃であれば、アルコールアミンが安定化し、アルコールアミンの揮発が良好に抑制される。このため、電解反応において、電解液が揮発せず、安定であり、且つ、不純物が少ないという利点がある。また、電解液の温度は、電解速度の観点から60℃以上の高温に設定することがより好ましい。例えば、アンモニアでは50℃以上は揮発が激しく補給量が大量だが、アルコールアミン系は沸点が高く揮発しづらいため、60℃以上でも問題無く使用可能である。
【0032】
電解液に用いるアルコールアミンは、耐電圧性・耐電流密度性が高く、生産性のためには電気分解における設定電圧及び設定電流密度はそれぞれ高い方が好ましいが、設備の制約やカソード側へのダメージを考えると、設定電圧は20V以下とし、設定電流密度は500A/dm
2以下とするのが実用的であるため好ましい。参考に、
図2に電気分解における定電圧と電流効率との関係を示す。
【0033】
本発明では、当該電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行う。電解液のpHが6未満であると、電解液にタングステン酸が沈殿してしまうおそれがある。また、電解液のpHが9を超えるような場合はアルコールアミンを必要以上に添加しなければならなくなり、コストの面で問題が生じる。従って、電解液のpHを6〜9に制御しながら電気分解を行うことで、ポリタングステン酸アルコールアミンを効率良く製造することができる。また、ポリタングステン酸の収率を上げる意味で、当該電解液のpHを6〜8に制御しながら電気分解を行うのが好ましく、6〜7に制御しながら電気分解を行うのがより好ましい。
【0034】
本発明において特に断りのない場合、タングステン酸イオンは、WO
42-等のモノタングステン酸イオン、または、HW
6O
215-、H
2W
12O
406-、W
12O
4620-及びW
12O
4110-等のポリタングステン酸イオンを示す。アルコールアミン溶液中で電解してタングステン酸のアルコールアミンを生成させるとき、電解液のpHを6〜9に制御することで、アルコールアミンの濃度がモノタングステン酸の当量よりも少ない場合であっても、安定的に溶液として存在することができる。このため、大部分がポリタングステン酸アルコールアミンとして生成していることがわかる。
【0035】
電解液にはタングステン酸イオン、ポリタングステン酸イオン濃度の上昇や、空気中の二酸化炭素が溶け込むこと等により、pHが低下していく傾向にある。そのため、電解液のpHは、電気分解の間、電解液のpHをモニタリングすること等により、常に6〜9の範囲となるように制御する必要がある。当該電解液のpHの制御は、電解液の一部を除去しながら、除去した量と同量のアルコールアミン溶液を電解液中に足していくことで行ってもよい。このように電解液の一部を除去しつつ、減少した量だけアルコールアミン溶液を足していくことで、pHの低下分を補い、常に電解液のpHを6〜9に維持することができる。また、このとき除去した電解液からポリタングステン酸アルコールアミンを回収してもよい。電解液の一部を除去するタイミングは、特に限定されないが、例えばpHを6以上に維持するためには、電解液のpHが低下していき6.5に近づく手前に実施してもよく、例えばpHを7以上に維持するためには、電解液のpHが低下していき7.5に近づく手前に実施してもよい。
【0036】
また、電気分解を開始する際、電解液に炭酸塩を溶解させることで電解液の電気伝導度を上昇させておくことが好ましい。このように電解液の電気伝導度を上昇させておくことで、タングステンを含む有価物を含有する原料混合物を当初から電気分解しやすくすることができ、製造効率がより良好となる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例を説明するが、実施例は例示目的であって発明が限定されることを意図しない。
【0038】
(実施例1)
電解槽のアノードとして、表1に示す品位の超硬材スクラップ10kgをチタンバスケットに入れたものを用いた。
電解槽のカソードとして、チタン板を用いた。
電解液に200gのモノエタノールアミンを用いて純水で10Lとした。次に、整流器を接続し、電流密度を5A/dm
2として、100Aの定電流で、温度を70℃にて電解溶解を10時間行った。タングステンの溶解量は600gであり、電解液は常にpHが7.1以上であったが、10時間後の電解液のpHは7.1となった。
【0039】
【表1】
【0040】
次に、上記電解槽内の電解液を1L取り出すと共に、電解槽へ20g/Lのモノエタノールアミン水溶液1Lと蒸発した液量を補う量の純水を添加した。これにより電解液のpHは7.5に上昇した。次に、整流器を接続して100Aの定電流で、温度を70℃として電気分解を行った。電解液のpHが7.1〜7.2になったときに、電解液を1L取り出すと共に、電解槽へ20g/Lのモノエタノールアミン水溶液1Lと蒸発した液量を補う量の純水を添加した。この操作を繰り返し、電気分解を合計で10時間継続した。
取り出した電解液中のタングステンのモル濃度(原子換算)と、モノエタノールアミンのモル濃度との比は、約1.0であり、ポリタングステン酸がアルコールアミン溶液中に生成していることが示唆された。