特許第6784557号(P6784557)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784557ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲル
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784557
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲル
(51)【国際特許分類】
   A23L 29/269 20160101AFI20201102BHJP
   A23L 33/17 20160101ALI20201102BHJP
【FI】
   A23L29/269
   A23L33/17
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-191936(P2016-191936)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-50558(P2018-50558A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006116
【氏名又は名称】森永製菓株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】窪 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】木下 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕介
(72)【発明者】
【氏名】岩朝 義弘
(72)【発明者】
【氏名】片桐 春奈
(72)【発明者】
【氏名】柴田 克亮
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−298047(JP,A)
【文献】 特開昭62−143653(JP,A)
【文献】 特開2014−212735(JP,A)
【文献】 特開2000−333620(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A23J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱アシル型ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲルであって、
前記ゲル中のタンパク質の濃度は、8.3質量%以上40質量%以下であって、
前記ゲルのpHは、3.0〜4.6であって、
ネットワークを形成した外径1nm〜300nmの繊維状のジェランガムに、外径1nm〜300nmを有する微粒子状の前記タンパク質が結合した構造を有する、ゲル。
【請求項2】
前記タンパク質が球状タンパク質である、請求項1のゲル。
【請求項3】
前記タンパク質がホエイタンパク質である、請求項1または2のゲル。
【請求項4】
前記タンパク質がホエイタンパク質の加水分解物である、請求項1のゲル。
【請求項5】
前記タンパク質の濃度10質量%以上40質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項6】
前記タンパク質の濃度が15質量%以上30質量%以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項7】
外径500nm以上の前記タンパク質の凝集物を含むゲルの体積の割合が、全体のゲルの体積の50%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項8】
ゲル強度が、0.1〜1.8Nである請求項1〜7のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項9】
pHが3.0〜4.0である、請求項1〜8のいずれか1項に記載のゲル。
【請求項10】
常温保管および常温流通可能である、請求項1〜9のいずれか1項に記載のゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲルに関する。
【背景技術】
【0002】
ジェランガムは微生物(Sphingomonas elodea; 以前はPseudomonas elodeaと呼ばれた)が菌体外に産出する高分子多糖類であり,少ない添加量でゲルを形成するため、増粘安定剤として広く利用されている。ジェランガムには脱アシル型ジェランガムとネイティブジェランガムの2つのタイプがあるが、脱アシル型ジェランガムのゲルは、耐酸性があり、食感としては適度なかたさと崩壊性を有し、風味に関してフレーバーリリースが良好で、外観上も透明性が高いので、特にゼリーに関する食品分野で広く使用されている。
【0003】
ジェランガムゲルにタンパク質を含有させるためには、一般に、カルシウムイオンを含有しない水性溶媒に脱アシル型ジェランガムを分散させ、90℃以上に加熱溶解した後、別途調整したカルシウムイオンを含むタンパク質溶液と混合し、90℃程度に再加熱し、30〜40℃に冷却しゲル化させるという方法が用いられている(特許文献1参照)。このとき、タンパク質の最終濃度は、多くても4〜7%であって、また、その場合でも大豆多糖類などの安定剤を添加して、ジェランガムとタンパク質との反応を抑制する必要がある。また、タンパク質とジェランガムを別々に加熱するのではなく、あらかじめ混合してから加熱し、冷却した場合も、タンパク質とジェランガムが反応し、ゲル化が阻害される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−035517
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従来、酸性下では、ジェランガムとタンパク質とが反応し、ジェランガムのゲル化を阻害するため、大豆多糖類などの酸乳安定剤を添加することにより、ジェランガムとタンパク質との反応を抑制し、ジェランガムのゲル化を実現していた。しかしながら、本発明者らは、鋭意検討した結果、意外にも、ジェランガムとタンパク質との反応を完全に抑制するのではなく、ジェランガムとタンパク質とが特定の構造を有するように制御することが、ジェランガムのゲル化に対して有効であり、さらに、好ましい食感の付与や、ゲル構造の維持・安定を付与できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0007】
本発明の一実施態様は、ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲルであって、ネットワークを形成した外径1nm〜300nmの繊維状のジェランガムに、外径1nm〜300nmを有する微粒子状の前記タンパク質が結合した構造を有する、ゲルである。前記タンパク質が球状タンパク質であってもよい。前記タンパク質がホエイタンパク質またはホエイタンパク質の加水分解物であってもよい。前記タンパク質が8質量%以上含有されていてもよい。外径500nm以上の前記タンパク質の凝集物を含むゲルの体積の割合が、全体のゲルの体積の50%以下であってもよい。pHが3.0〜4.6であってもよい。常温保管および常温流通可能であってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によって、ジェランガムとタンパク質を構成成分とするゲルを提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1A】本発明にかかる実施例26において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1B】本発明にかかる実施例27において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1C】本発明にかかる実施例28において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1D】本発明にかかる実施例29において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1E】本発明にかかる実施例30において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1F】本発明にかかる実施例31において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1G】本発明にかかる実施例32において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1H】本発明にかかる実施例33において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1I】本発明にかかる実施例34において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1J】本発明にかかる実施例35において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1K】本発明にかかる実施例36において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1L】本発明にかかる実施例37において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1M】本発明にかかる実施例38において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1N】本発明にかかる実施例39において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1O】本発明にかかる比較例3において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1P】本発明にかかる比較例4において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1Q】本発明にかかる比較例5において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図1R】本発明にかかる比較例6において、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲル、または当該タンパク質含有ジェランガムゲルに、タンパク質分解酵素処理を行ったゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
図2】本発明にかかる実施例40において、ジェランガムの処理にスターバーストを用いないで、ジェランガムとホエイタンパク質から作製したタンパク質含有ジェランガムゲルの表面構造を走査電子顕微鏡で調べた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施例を挙げながら、本発明の実施形態を詳細に述べる。
【0011】
本発明の目的、特徴、利点、及びそのアイデアは、本明細書の記載により、当業者には明らかであり、本明細書の記載から、当業者であれば、容易に本発明を再現できる。以下に記載された発明の実施の形態及び具体的に実施例などは、本発明の好ましい実施態様を示すものであり、例示又は説明のために示されているのであって、本発明をそれらに限定するものではない。本明細書で開示されている本発明の意図並びに範囲内で、本明細書の記載に基づき、様々な改変並びに修飾ができることは、当業者にとって明らかである。
【0012】
==ジェランガム==
ジェランガムは直鎖状のヘテロ多糖類で、二つのD-グルコース残基とそれぞれ一つずつのL-ラムノース残基とD-グルクロン酸残基から構成される四糖の繰返し単位から構成されている。以下にその構造式を示す。
【0013】
[D-Glc(β1→4)D-GlcA(β1→4)D-Glc(β1→4)L-Rha(α1→3)]n
ジェランガムには、ネイティブ型ジェランガムと脱アシル型ジェランガムの2種類が知られている。ネイティブ型ジェランガムでは、1−3結合したグルコースに由来するアシル基(アセチル基とグリセリル基)が存在するが、脱アシル型ジェランガムでは、これらアシル基が除去されている。本発明に用いるジェランガムは、脱アシル型ジェランガムが好ましい。
【0014】
==ジェランガムとタンパク質を構成成分とするジェランガムゲル==
本発明にかかるジェランガムゲルは、ジェランガムとタンパク質を含有する。
【0015】
ジェランガムの下限濃度は特に限定されず、0.001質量%以上であってもよいが、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.03質量%以上がさらに好ましく、0.05質量%以上がさらに好ましく、0.07質量%以上がさらに好ましく、0.10質量%以上がさらに好ましく、0.15質量%以上がさらに好ましく、0.40質量%以上がさらに好ましい。また、上限濃度も特に限定されないが、4.00質量%以下が好ましく、2.00質量%以下がより好ましく、1.00質量%以下がさらに好ましく、0.40質量%以下がさらに好ましい。
【0016】
ここで用いるタンパク質の配列は特に限定されず、天然のタンパク質のアミノ酸配列全長または一部であってもよく、人工配列であってもよい。糖鎖修飾などの修飾によって限定されることはない。長さは特に限定されず、アミノ酸の個数が、2個〜1,0000個であってもよく、2個〜1,000個であってもよく、2個〜500個であってもよく、2個〜100個であってもよく、2個〜50個であってもよく、2個〜10個であってもよく、2個〜5個であってもよい。
【0017】
用いるタンパク質は、天然由来のタンパク質を精製して作製してもよく、組み換え生物などを用いて遺伝子工学的に作製してもよく、化学合成によって作製してもよい。
【0018】
タンパク質の種類は特に限定されないが、WPI(分離ホエイタンパク質),WPC(濃縮ホエイタンパク質)などのホエイタンパク質、カゼインなどを含む乳タンパク質、卵白アルブミンなど含む卵タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質、コラーゲン、ゼラチンなどが例示できる。ホエイタンパク質、乳タンパク質、卵タンパク質、大豆タンパク質、小麦タンパク質は、それぞれホエイ、乳、卵、大豆、小麦から抽出したたんぱく質のことで、様々なたんぱく質を含むものを意味するが、カゼイン、卵白アルブミン、α−ラクトアルブミン、β−ラクトグロブリンなどの単一タンパク質を完全精製または部分精製して利用してもよい。また、ホエイタンパク質、大豆タンパク質、卵タンパク質など球状タンパク質が好ましく、ホエイタンパク質がさらに好ましく、耐熱性があるもの(例えば80℃以上好ましくは85℃以上、の熱処理や加圧処理でゲル化しないもの)がより好ましい。WPIであれば、WPI8899(フォンテラ社)、プロボン190(Glanbia社)、ラクトクリスタルプラス(日本新薬社)、ラクプロダンDI−9213(Arla社)などが例示でき、WPCであれば、WPC515、WPC550、WPC80、WPC472(いずれもフォンテラ社)、CALPRO8002(CALPRO社)などが例示できる。
【0019】
用いるタンパク質は、これらのタンパク質の全長を有してもよく、部分配列を有してもよい。平均アミノ酸数が2〜10個あるいは2〜5個であるような平均アミノ酸数の少ないタンパク質(本明細書では、ペプチドとも称する)を用いることによって、例えば、90℃以上または95℃以上で、5分以上または10分以上の熱処理に対する耐性を付与することができる。その場合、ホエイタンパク質の加水分解物(WPH)であることがより好ましく、平均アミノ酸数は特に限定されないが、2〜100個であることが好ましく、2〜50個であることがより好ましく、2〜10個であることがさらに好ましく、2〜5個であることがさらに好ましい。平均分子量も特に限定されないが、200〜15000であることが好ましく、200〜7500であることがより好ましく、200〜1500であることがさらに好ましく、200〜500であることがさらに好ましい。WPHとしては、W800(森永乳業社)、WPH817(フォンテラ社)、ラクプロダンハイドロクリア、ラクプロダンハイドロ365(いずれもArla社)などが例示できる。
【0020】
また、単一種類のタンパク質を用いてもよく、複数種類のタンパク質を混合して用いてもよい。
【0021】
ジェランガムゲル中のタンパク質濃度の上限は特に限定されないが、タンパク質濃度は40質量%以下でもよく、30質量%以下でもよいが、20質量%以下であることが好ましい。また、タンパク質濃度の下限も特に限定されないが、タンパク質濃度は1質量%以上でもよく、5質量%以上でもよく、8質量%以上でもよく、8.3質量%以上でもよく、9質量%以上でもよく、10質量%以上でもよいが、15質量%以上であることが好ましい。
【0022】
また、ジェランガムゲルのpHは特に限定されないが、pH1.0以上7.0以下が好ましく、pH1.0以上4.0以下あるいはpH3.0以上7.0以下がより好ましく、pH3.0以上4.6以下がさらに好ましく、pH3.0以上4.0以下がさらに好ましい。常温流通のためには、pH4.6以下が好ましく、pH4.0以下がさらに好ましい。pH調整剤としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、コハク酸、酒石酸、アスコルビン酸、グルコン酸、リン酸、アジピン酸、フィチン酸、酢酸及びそれらの塩などが使用可能である。
【0023】
なお、大豆多糖類やペクチンなどの安定剤が含まれていないことが好ましい。
【0024】
==ジェランガムとタンパク質を含有するジェランガムゲルの構造==
本発明にかかるジェランガムゲルは、ネットワークを形成した繊維状のジェランガムに、微粒子状のタンパク質が結合した構造を含む。繊維状のジェランガムの外径は特に限定されないが、約1nm〜約300nmであることが好ましく、約5nm〜約250nmであることがより好ましく、約10nm〜約200nmであることがさらに好ましい。
【0025】
微粒子状のタンパク質の外径は特に限定されないが、約1nm〜約300nmであることが好ましく、約5nm〜約200nmであることがより好ましく、約10nm〜約150nmであることがさらに好ましい。このように、ゲル化したタンパク質を含まないことによって、水分がジェランガムゲルに保持され、ジェランガムゲルの瑞々しい食感を得ることができ、かつ加熱しても(例えば、80℃〜100℃、好ましくは、90℃〜100℃)構造を維持することができる
ここで、繊維状のジェランガムゲルの外径は、ゲル中のタンパク質をタンパク質分解酵素で処理した後に残存するジェランガムゲルのネットワークを構成する繊維の外径をいうものとする。タンパク質分解酵素は特に限定されないが、非特異的にタンパク質を分解するものが好ましく、コクラーゼ・P(三菱化学フーズ社)や精製パパイン(三菱化学フーズ社)が例示できる。タンパク質分解酵素による反応条件は、用いる酵素に適した条件を用いればよいが、70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上のタンパク質を分解する条件とする。
【0026】
上記タンパク質は、ジェランガムのネットワークを形成する繊維に、略連続的に結合していることが好ましい。これにより、ジェランガムのネットワークをより強固にさせることが可能となる。
【0027】
ジェランガムゲルの構造は、好ましくは外径約300nm以上、より好ましくは約400nm以上、さらに好ましくは約500nm以上のタンパク質の凝集物を含んでもよいが、タンパク質の凝集物を含むゲルの体積の割合が、全体のゲルの体積の約50%以下であることが好ましく、約30%以下であることがより好ましく、約10%以下であることがさらに好ましい。こうしたタンパク質の凝集物は、食感を悪化させ、ざらつきのあるものにするため、タンパク質の凝集物を含まないことにより、なめらかな食感になる。従って、タンパク質の凝集物を含むゲルの体積の割合が大きくなるほど、例えば、約10%以上、約30%以上、あるいは約50%以上になると、ジェランガムゲルの良好な食感が得られなくなる。このような凝集物は、さらに互いに凝集して、球状の原形をとどめず、孔の空いた平面上になることもあるが、このような構造も、ここでいうタンパク質の凝集物に含めることとする。
【0028】
このような構造を有するジェランガムゲルに対し、レオメーター(サン科学社CR−500DX)を用いて圧縮試験(直径10mmの円柱型プランジャー、進入速度60mm/分)を行い、ゲルが破断したときの最大応力(N)をゲル強度とした。
【0029】
ゲル強度によってゼリー食感が影響を受ける。好ましいゼリー食感を与えるゲル強度としては、0.01N以上であることが好ましく、0.1N以上であることがより好ましく、0.3N以上であることがさらに好ましいまた、2.2N未満であることが好ましく、1.8N以下であることがより好ましく、0.9N以下であることがさらに好ましい。
【0030】
==タンパク質を含んだジェランガムゲルの作製方法==
本発明にかかるタンパク質を含んだジェランガムゲルは、例えば、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液を加圧処理することによって作製することができる。これによって、ゲル化前に加熱する必要がなくなるが、上述のような構造を有するため、加熱によってゲル化したタンパク含有ジェランガムゼリーよりゼリーの食感が強くなり、より良好な食感が得られるようになる。また、ジェランガムゲルに、より高濃度のタンパク質を含有させることができる。以下、タンパク質を含んだジェランガムゲルの作製方法の一例を、詳細に述べる。
【0031】
まず、ジェランガムを水性溶媒に分散させることにより、ジェランガムの分散液を作製する。水性溶媒は特に限定されないが、水または塩を溶解した水溶液が好ましい。塩は特に限定されない。
【0032】
ジェランガムの分散液にタンパク質を溶解させる。なお、ジェランガムとタンパク質の添加順序を逆にして、水性溶媒にタンパク質を溶解させた後、ジェランガムを分散させてもよい。
【0033】
ジェランガムゲルの作製過程で、カチオンは必須ではないが、カチオン存在下でゲル化することにより、より硬いゲルができ、食感が良好になる。カチオンは、加圧工程の前に添加し、溶液に含有させてもよく、加圧工程の後、冷却工程の前に溶液に添加してもよい。加圧工程の前に添加する場合、上記水性溶媒にジェランガムやタンパク質を添加する前にカチオンを加えても、同時に加えても、添加した後に加えてもよい。
【0034】
添加するカチオンは1価であっても2価であってもよく、カリウムイオン、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオンが例示できるが、カチオンの種類によって、得られるゲルの物性が異なる。特に、カルシウムイオンの存在はゲル強度に影響を与え、少量の添加によって、ゲル強度や耐熱性が上昇するため、本方法においても、カルシウムイオンを添加することが好ましい。
【0035】
カチオンは、塩として添加されるのが好ましい。添加される塩は特に限定されず、乳酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、塩化塩、炭酸塩、グルコン酸塩、リンゴ酸塩、酢酸塩等が例示できる。具体的には、例えば、カルシウムイオンとしては乳酸カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム等を使用することができるが、乳酸カルシウムを使用することが好ましい。なお、添加する2価のカチオンの濃度は、0.005〜1.0%が好ましく、0.01〜0.5%がより好ましい。カリウムイオンとしては塩化カリウムや炭酸カリウム等を使用することができるが、塩化カリウムを使用することが好ましい。なお、添加する1価のカチオンの濃度は、0.005〜0.5%が好ましく、0.01〜0.3%がより好ましい。
【0036】
このようにして作製した、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液を加圧してもよい。タンパク質としてペプチドを用いるときには、加圧処理は必ずしも必要ではないが、加圧処理をすることにより、ゼリー食感はさらに改善される。溶液を加圧前または加圧時に加熱する場合、90℃未満、好ましくは70℃未満、さらに好ましくは50℃未満であればよい(すなわち、90℃以上、好ましくは70℃以上、さらに好ましくは50℃以上に加熱しない)が、加圧前に加熱しないことが一層好ましい。また、加圧自体で温度が上昇する場合でも、100℃以上にならないことが好ましく、95℃以上にならないことがより好ましく、90℃以上にならないことがさらに好ましい。
【0037】
加圧処理方法は特に限定されないが、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液においてキャビテーションまたは摩擦力が発生するように加圧してもよく、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液に衝突を起こすように、またジェランガム及びタンパク質に剪断力を加えるように、または、ジェランガム及びタンパク質が微細化されるように、加圧してもよい。ここで、衝突を起こす場合、衝突する対象物は特に限定されず、例えば、装置内に配置したセラミックボールであってもよい。また、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液を対象物として、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液同士を衝突させてもよいが、衝突させる溶液の組成は、互いに同じであっても異なっていてもよい。加圧に用いる装置も特に限定されないが、高圧ホモジナイザー(例えば、三和エンジニアリング(株)社製、(株)イズミフードマシナリ社製)、高圧噴射装置、湿式微粒化装置(例えば、装置名:スターバースト (株)スギノマシン社製、装置名:システマイザー (株)システムサポート社製、装置名:ナノメーカー アドバンスト・ナノ・テクノロジィ株式会社製)等が例示できる。加圧の際の圧力は特に限定されないが、50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であることがさらに好ましい。また、1000MPa以下であることが好ましく、400MPa以下であることがより好ましく、350MPa以下であることがさらに好ましく、300MPa以下であることが一層好ましい。所定の圧力で加圧する時間は特に限定されないが、総処理時間は、30分以下であることが好ましく、10分以下であることがより好ましく、1分以下であることがさらに好ましく、30秒以下であることが一層好ましく、10秒以下であることがなお一層好ましい。加圧処理後の温度は、特に限定されないが、50℃以上であってもよく、70℃以上であってもよく、80℃以上であってもよく、また100℃以下であってもよく、90℃以下であってもよい。
【0038】
このようにして溶液を加圧処理した後、冷却する。上限温度は50℃以下、または40℃以下、または30℃以下、そして下限温度は15℃以上、または10℃以上、または5℃以上となるように冷却すると、ジェランガムがゲル化する。冷却方法は特に限定されず、自然冷却でもよい。加圧処理後冷却前に、例えば殺菌などの理由により、溶液を加熱しても良い。加熱温度は特に限定されないが、65℃以上100℃以下であってもよく、好ましくは80℃以上100℃以下であってもよく、より好ましくは90℃以上100℃以下であってもよい。この加熱処理によって、例えばゲルの保存性が向上する。
【0039】
なお、この溶液に、糖原料等の副原料を添加してもよい。添加段階は、ゲル化に影響がない限り特に限定されず、加圧前で、脱アシル型ジェランガムの添加前であっても後であってもよく、カルシウムイオンの添加前であっても後であってもよい。また加圧後で、冷却前であっても後であってもよい。また、溶液は、ジェランガム以外のゲル化剤を含んでいてもよい。
【0040】
本発明の方法で作製されたゲルの用途は限定されないが、例えば、ゼリーなどの飲食品、内服液、医薬部外品、医薬品、化粧品などに使用可能であり、飲食品が好ましい。
【0041】
また、このようにして作製したゲルは、常温保管及び常温流通可能である。ここで、常温保管及び常温流通とは、具体的には、20℃以上、好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上で、90日間以上、好ましくは180日間以上、より好ましくは360日間以上、保管または流通できることをいう。
【実施例】
【0042】
[試験例1]
本試験例では、試験例2で用いるスターバースト処理によって、タンパク質含有ジェランガムを有効にゲル化できることを示す。
【0043】
(1)タンパク質およびジェランガムの濃度依存性(実施例1〜7)
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
本実施例1〜7で用いるジェランガム及びタンパク質を含有する溶液の成分を表1に、その処理条件を、表2に示す。脱アシル型ジェランガムはケルコ社から入手したものを用い、タンパク質はWPI8899(ホエイタンパク含有量:85%)(フォンテラ社製)を用いた。溶媒にはカルシウムを含まない水を用い、溶液中では、脱アシル型ジェランガムは分散状態としたが、他の成分は完全に溶解させた。最終的なpHは、3.6であった。なお、加圧処理は、ジェランガムとタンパク質の両者が共存する状態で行った。
【0046】
これらの溶液を、加熱せずに(いずれも30℃未満)表2に記載の装置で加圧した。その後、20℃の水で15分間冷却したところ、ゼリー食感を有するゲルが生成した。ここで、「ゼリー食感」とは、ゲルが適度な弾力感を有し、ざらざらしないことを意味する。
【0047】
なお、ゲル強度は、レオメーター(サン科学社CR−500DX)を用いて各ゲルに対して圧縮試験(直径10mmの円柱型プランジャー、進入速度60mm/分)を行い、ゲルが破断したときの最大応力(N)とした。
【0048】
(2)カルシウムの影響(実施例8〜14)
【0049】
【表3】
本実施例8〜14では、実施例1〜3、5、7の溶液および条件を基準としてさらにカルシウムイオンを添加し(水および乳酸カルシウム以外の初期条件はそれぞれ実施例1〜3、5、7と同じである)、その影響を調べた。
【0050】
具体的には、実施例8〜14のカルシウムイオンとして、乳酸カルシウムを最終濃度0.2%、0.5%または1.0%になるようにジェランガム及びタンパク質を含有する溶液に加え、溶解させた後に加圧した。これらの条件及び結果を、比較対照となる実施例とともに表3にまとめた。
【0051】
カルシウムイオンを添加した実施例8〜14では、得られたゲルの強度が概して大きくなり、ゲルが硬くなった。
【0052】
(3)圧力の影響(実施例15〜18)
【0053】
【表4】
本実施例15〜18では、実施例12の溶液および条件を基準として圧力を減少させ(圧力及び処理前の温度以外の初期条件は実施例12と同じである)、その影響を調べた。
【0054】
具体的には、実施例12の圧力を低下させた上で、処理後の温度が70℃台になるように、処理前の温度を設定した(いずれも50℃未満)。これらの条件及び結果を表3にまとめた。
【0055】
実施例15〜18では、圧力が低下するほど、得られたゲルの強度が小さくなり、ゲルが柔らかくなった。
【0056】
(4)処理装置の違いによる影響(実施例19、20)
【0057】
【表5】
本実施例19、20では、実施例3の条件を基準とし、処理装置を変えて(処理装置、圧力、温度以外の初期条件は実施例3と同じである)、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液のゲル化を行った。処理装置として、実施例3ではスターバースト((株)スギノマシン社製)、実施例19ではシステマイザー((株)システムサポート社製)、実施例20ではナノメーカー(アドバンスト・ナノ・テクノロジィ株式会社製)を用いた。これらの条件及び結果を表5にまとめた。
【0058】
使用装置によって、圧力および処理後の温度が実施例3とは若干異なるが、いずれの場合も、得られたゲルは、ゼリー食感を有していた。
【0059】
(5)pHの影響(実施例21)
【0060】
【表6】
本実施例21では、実施例3の条件を基準とし、pHを6.2に変えて(pH以外の初期条件は実施例3と同じである)、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液のゲル化を行った。なお、pHは、クエン酸の代わりにクエン酸ナトリウムを添加することによって、6.2に調整した。これらの条件及び結果を表6にまとめた。
【0061】
実施例21に示すように、酸性条件のみならず、中性条件でもゼリー食感を有するゲルが得られた。
【0062】
(6)タンパク質の種類による影響(実施例22)
【0063】
【表7】
本実施例22では、実施例10の条件を基準とし、用いるタンパク質をホエイタンパク質WPI8899から大豆タンパク質に変えて(タンパク質以外の初期条件は実施例3と同じである)、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液のゲル化を行った。なお、大豆タンパク質は、プロリーナ900(タンパク含有量:85%)(不二製油社)を用いた。これらの条件及び結果を表7にまとめた。
【0064】
実施例21に示すように、ホエイタンパク質のみならず、大豆タンパク質でもゼリー食感を有するゲルが得られた。
【0065】
(7)異なる条件による影響(実施例23〜25)
【0066】
【表8】
本実施例23〜25では、表8に示したようにゲル化条件を変えて、ジェランガム及びタンパク質を含有する溶液のゲル化を行った。結果も表8に記載した。
【0067】
実施例23〜25に示すように、ホエイタンパク質及び条件を変えた場合でもゼリー食感を有するゲルが得られた。
【0068】
(8)圧力をかけない対照実験(比較例1〜2)
【0069】
【表9】
実施例3の条件を基準とし、比較例1および2では圧力をかけない対照実験を行った。対照実験は、スターバースト処理のかわりにIHヒーターを用いて行なった。
【0070】
具体的には、ジェランガムおよびタンパク質を含む溶液を、ステンレス缶に入れて、IHヒーター(National社製 KZ−PH3)を用いて90℃まで加熱した。他の工程は、実施例3と同様である。これらの条件及び結果を表9にまとめた。
【0071】
カルシウムの有無にかかわらず、いずれの場合もゲル化は起こらなかった。
【0072】
[試験例2]
本実施例では、タンパク質を含有するジェランガムゲルの構造解析を行い、特定のの構造と官能評価に相関があることを示す。
【0073】
(1)スターバーストを用いたジェランガムのゲル化(実施例26〜32、比較例3〜4)
【0074】
【表10】
本実施例26〜32及び比較例3〜4で用いるジェランガム及びホエイタンパク質を含有する溶液の成分及び処理条件を、表10に示す。脱アシル型ジェランガムはケルコ社から入手したものを用い、ホエイタンパク質はWPI8899(ホエイタンパク含有量:85%)(フォンテラ社製)を用いた。溶媒にはカルシウムを含まない水を用い、溶液中では、脱アシル型ジェランガムは分散状態としたが、他の成分は完全に溶解させた。
【0075】
これらの溶液を、いずれも40℃未満でスターバーストで245Mpaで加圧した(処理後は90℃)。加圧処理直後に20℃の水で15分間冷却、または加圧処理後10分放置して20℃の水で15分間冷却し、ゲル化させ、ゲルの食感を評価した。(なお、以下の構造解析および官能評価では、加圧処理直後に冷却することにより作製したゲルを用いた。)
ここで、「良好なゼリー食感(◎)」とは、ジェランガムゲルのもろいゼリー感があり、適度な弾力感を有し、均一でざらざらしない食感を意味し、「やわらかいゼリー食感(○)」とは、ジェランガムゲルのもろいゼリー感は少ないが、やわらかく、なめらかな食感を意味し、「かたいゼリー食感(△)」とは、ジェランガムゲルのもろいゼリー感がほとんどなく、ボソボソした食感を意味し、「かたすぎるゼリー食感(×)」とは、ジェランガムゲルのもろいゼリー感が全くなく、パサパサした食感を意味する。なお、食感として「良好なゼリー食感」であることが好ましいが、「やわらかいゼリー食感(○)」であっても「かたい(ポソポソした)ゼリー食感(△)」であっても良く、「かたすぎるゼリー食感(×)」は好ましくない。
【0076】
(2)ジェランガムゲルのタンパク質分解処理(実施例33〜39)
実施例33〜39及び比較例5〜6においては、それぞれ実施例26〜32及び比較例3〜4の条件でジェランガムゲルを作成した後、タンパク質分解酵素処理を行った。立方体(4×4×4mm)にカットしたゲルを、0.5%精製パパイン(三菱化学フーズ)水溶液に浸漬し、45℃湯浴に10時間以上浸漬した後、パパイン水溶液を排液し、水で2回すすいでサンプルとした。
【0077】
なお、ゲル強度は、レオメーター(サン科学社CR−500DX)を用いて各ゲルに対して圧縮試験(直径10mmの円柱型プランジャー、進入速度60mm/分)を行い、ゲルが破断したときの最大応力(N)とした。
【0078】
(3)ジェランガムゲルの構造解析(実施例26〜39、比較例3〜6)
実施例26〜39、比較例3〜6で作製したジェランガムゲルについて、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーSU8230)を用いて、以下のようにして構造解析を行った。
【0079】
ゲルを立方体(4×4×4mm)にカットし、50%エタノールに8時間以上浸漬した。サンプルをアルミニウム台の上に置き、液体窒素の減圧によりシャーベット状にしたスラッシュ窒素中で冷凍した。アルミニウム台を装置に挿入し、液体窒素で冷やしたナイフを用いてゲルの表面を切削し露出させた。−95℃まで温度を上げることで表面の氷晶を昇華させた。金蒸着後、加速電圧1.5kVで電子線を照射し観察を行った。図1に、その結果を示し、表10に結果をまとめた。ここで、「繊維構造」とは、ネットワークを形成した繊維状のジェランガムに、外径約1nm〜300nmを有する微粒子状の前記タンパク質が結合した構造を含有するゲルを意味し、「凝集構造」とは、タンパク質の凝集物を有する繊維状の構造からなるゲルを意味する。「繊維構造」のゲルは、部分的にタンパク質の凝集物を含む場合もある。
【0080】
(4)官能評価と構造解析の結果
実施例26〜32において、ジェランガムゲルは、問題のない範囲の食感を有し(△〜◎)、そして、繊維構造(○)を有していた。一方、比較例3〜4のジェランガムゲルでは、固すぎる食感(×)を有し、凝集構造(×)を有していた。このように、ジェランガムゲルの構造と食感には、相関関係がある。
【0081】
そして、実施例33〜39に示すように、ジェランガムゲルにタンパク質分解酵素処理を行った場合、粒子状のホエイタンパク質が分解され、骨格としてネットワークを形成した繊維状のジェランガムが残存する。ここで、繊維状のジェランガムの外径は、約1nm〜300nmである。
【0082】
(5)加熱処理によるジェランガムのゲル化(実施例40)
【0083】
【表11】
本実施例では、ホエイタンパク質8899(8.3質量%溶液)だけをスターバースト処理(245Mpa)する一方、ジェランガムは通常のIHヒーターで90℃まで加熱し、両者を混合することによって、タンパク質含有ジェランガムゲルを作製した。上述したように、官能評価と構造評価を行った(表11)。走査型電子顕微鏡観察による結果を図2に示す。尚、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーS−4100)を用いた以外は実施例26〜32、比較例3〜4と同様の方法で観察した。
【0084】
このように、ジェランガムのゲル化を従来の方法で行った場合でも、本発明の構造を有するジェランガムゲルは、良好な食感を有する。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図1M
図1N
図1O
図1P
図1Q
図1R
図2