(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784733
(24)【登録日】2020年10月27日
(45)【発行日】2020年11月11日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体の軟磁性層用Co系合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20201102BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20201102BHJP
G11B 5/667 20060101ALI20201102BHJP
G11B 5/738 20060101ALI20201102BHJP
G11B 5/851 20060101ALI20201102BHJP
G11B 5/84 20060101ALI20201102BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20201102BHJP
H01F 41/18 20060101ALI20201102BHJP
【FI】
C22C19/07 C
C22C38/00 303S
G11B5/667
G11B5/738
G11B5/851
G11B5/84 Z
H01F10/16
H01F41/18
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-154016(P2018-154016)
(22)【出願日】2018年8月20日
(65)【公開番号】特開2020-29576(P2020-29576A)
(43)【公開日】2020年2月27日
【審査請求日】2019年12月27日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 優衣
(72)【発明者】
【氏名】新村 夢樹
【審査官】
川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−222609(JP,A)
【文献】
特開2018−085156(JP,A)
【文献】
特開2018−070994(JP,A)
【文献】
特開2016−149170(JP,A)
【文献】
特開平08−249643(JP,A)
【文献】
特開2012−216273(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/07
C22C 38/00−38/60
H01F 10/16
H01F 41/18
G11B 5/667
G11B 5/738
G11B 5/851
G11B 5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質がCo系合金であり、
上記Co系合金の組成が、
Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XA:15at%以上25at%以下
並びに
V、Cr、Mn、Ni及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XB:1at%以上10at%以下
を含有し、かつ残部がCo、Fe及び不可避的不純物であり、
このCo系合金における、上記元素XAと上記元素XBとの合計含有率が30at%未満であり、
縦が20mmであり、横が1.8mmであり、高さが1.8mmである試験片が用いられた3点曲げ試験で測定される抗折力が、450MPa以上である、磁気記録媒体の軟磁性層用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
軟磁性層を有する磁気記録媒体であって、
上記軟磁性層の材質がCo系合金であり、
上記Co系合金の組成が、
Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XA:15at%以上25at%以下
並びに
V、Cr、Mn、Ni及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XB:1at%以上10at%以下
を含有し、かつ残部がCo、Fe及び不可避的不純物であり、
このCo系合金における、上記元素XAと上記元素XBとの合計含有率が30at%未満であり、
上記軟磁性層の、印加磁場が1200kA/mであり試験片の質量が15mgである条件で、振動試料型磁力計にて測定された飽和磁束密度が、0.3T以上1.3T以下である磁気記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体の軟磁性層に関する。詳細には、本発明は、この軟磁性層に適したCo系合金に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体にとって、大容量は重要である。大容量の達成には、高記録密度化が必要である。
【0003】
面内磁気記録方式が採用された媒体が、普及している。近年は、この媒体に代えて、垂直磁気記録方式が採用された媒体(垂直磁気記録媒体)が普及しつつある。垂直磁気記録媒体では、磁化容易軸は、磁性膜中の媒体面に対して垂直方向に配向する。この垂直磁気記録媒体は、高記録密度に適している。
【0004】
垂直磁気記録媒体は、磁気記録層と軟磁性層とを有している。垂直磁気記録媒体はさらに、磁気記録層と軟磁性層との間に、シード層、下地膜層等を有している。
【0005】
軟磁性層は、記録時にヘッドから発生する磁束の広がりを防止して、垂直方向の磁界を確保する。特開2006−294090公報には、その材質がFe−Co系合金である軟磁性層が開示されている。
【0006】
特開2008−299905公報には、その材質がZr、Hf、Nb、Ta等の非晶質化促進元素を含有するCo系合金である軟磁性層が、開示されている。このCo系合金の飽和磁束密度は、大きい。大きな飽和磁束密度は、高記録密度に寄与しうる。
【0007】
特開2011−68985公報には、その材質が、Yを含有しかつTa又はNbを含有するCo系合金である、軟磁性層が開示されている。このCo系合金の飽和磁束密度は、大きい。大きな飽和磁束密度は、高記録密度に寄与しうる。
【0008】
特開2011−99166公報には、その材質がZr、Hf、Y、Ta、Nb等を含有するCo系合金である、軟磁性層が開示されている。このCo系合金の飽和磁束密度は、大きい。大きな飽和磁束密度は、高記録密度に寄与しうる。
【0009】
大きな飽和磁束密度は、「書き滲み」の原因である。この「書き滲み」は、書き込み用ヘッドにより合金が着磁された状態において、必要以上に周囲の広範囲に磁気的な影響が及ぶ現象である。「書き滲み」が生じる磁気記録媒体では、単位記録情報あたりの書き込みに必要なスペースは、大きい。「書き滲み」は、磁気記録媒体の高記録密度を阻害する。
【0010】
「書き滲み」の抑制の観点から、飽和磁束密度が調整された軟磁性層が、提案されている。特開2015−144032公報には、飽和磁束密度が0.5T−1.1Tである軟磁性層が開示されている。特開2016−84538公報には、飽和磁束密度が0.34T−1.18Tである軟磁性層が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−294090公報
【特許文献2】特開2008−299905公報
【特許文献3】特開2011−68985公報
【特許文献4】特開2011−99166公報
【特許文献5】特開2015−144032公報
【特許文献6】特開2016−84538公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述の通り、「書き滲み」の抑制の観点から、近年、飽和磁束密度が小さな軟磁性層が指向されている。飽和磁束密度の抑制には、合金への元素の添加が有効である。しかし、この元素は、Fe及びCoと共に、金属間化合物を形成しうる。この金属間化合物を含むターゲットは、脆い。このターゲットは、スパッタリング中に割れやすい。
【0013】
本発明の目的は、強靱性に優れたターゲットが得られ、かつ飽和磁束密度が小さな軟磁性層が得られうる、Co系合金の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る磁気記録媒体の軟磁性層用Co系合金は、
Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XA:11at%以上25at%以下
並びに
V、Cr、Mn、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XB:0.4at%以上10at%以下
を含有する。この合金の残部は、Co、Fe及び不可避的不純物である。元素XAと元素XBとの合計含有率は、30at%未満である。
【0015】
他の観点によれば、本発明に係る磁気記録媒体の軟磁性層用スパッタリングターゲットの材質は、Co系合金である。このCo系合金の組成は、
Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XA:11at%以上25at%以下
並びに
V、Cr、Mn、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XB:0.4at%以上10at%以下
を含有する。この合金の残部は、Co、Fe及び不可避的不純物である。このCo系合金における、元素XAと元素XBとの合計含有率は、30at%未満である。
【0016】
さらに他の観点によれば、本発明に係る磁気記録媒体は、軟磁性層を有する。この軟磁性層は、その材質がCo系合金であるターゲットが用いられたスパッタリングで得られる。このCo系合金の組成は、
Nb、Mo、Ta及びWからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XA:11at%以上25at%以下
並びに
V、Cr、Mn、Ni、Cu及びZnからなる群から選択される1種又は2種以上の元素XB:0.4at%以上10at%以下
を含有する。この合金の残部は、Co、Fe及び不可避的不純物である。このCo系合金における、元素XAと元素XBとの合計含有率は、30at%未満である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るCo系合金から、耐割れ性に優れたターゲットが得られうる。このCo系合金から、「書き滲み」が生じにくい磁気記録媒体が得られうる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、好ましい実施形態に基づいて、本発明が詳細に説明される。
【0019】
[合金]
本発明に係る磁気記録媒体の軟磁性層用Co系合金は、スパッタリングターゲットに適している。このCo系合金の組成は、
元素XA:11at%以上25at%以下
元素XB:0.4at%以上10at%以下
及び
残部:Co、Fe及び不可避的不純物
である。
【0020】
[基材]
Co系合金の基材は、Fe及びCoである。Fe及びCoを含有する軟磁性層では、十分な磁性が発揮される。この軟磁性層により、磁気記録層の磁化が安定する。Feの含有率(at%)とCoの含有率(at%)との比は、10:90以上90:10以下が好ましい。この比が10:90以上である合金からなる軟磁性層では、飽和磁束密度が抑制されうる。この観点から、この比は20:80以上が特に好ましい。この比が90:10以下である合金からなる軟磁性層は、磁気記録媒体の高記録密度に寄与しうる。この観点から、この比は80:20以下が特に好ましい。
【0021】
[元素XA]
元素XAは、Nb、Mo、Ta及びWからなる群Aから選択される。元素XAとして、群Aから、1種の元素が選択されてもよく、2種以上の元素が選択されてもよい。元素XAは、軟磁性層のアモルファス性に寄与しうる。元素XAはさらに、飽和磁束密度の抑制に寄与しうる。これらの観点から、Co系合金における元素XAの含有率は11at%以上が好ましく、13at%以上がより好ましく、15at%以上が特に好ましい。元素XAは、Fe又はCoと共に、金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、脆い。この金属間化合物を含有する合金から得られたターゲットは、スパッタリング時に割れやすい。ターゲットの耐割れ性の観点から、元素XAの含有率は25at%以下が好ましく、23at%以下がより好ましく、21at%以下が特に好ましい。
【0022】
[元素XB]
元素XBは、V、Cr、Mn、Ni、Cu及びZnからなる群Bから選択される。元素XBとして、群Bから、1種の元素が選択されてもよく、2種以上の元素が選択されてもよい。元素XBは、飽和磁束密度を抑制しうる。元素XBは、第4周期元素である。一方、ベースであるFe及びCoも、第4周期元素である。従って、元素XBが添加されても、Feと元素XBとの金属間化合物はほとんど生成せず、Coと元素XBとの金属間化合物もほとんど生成しない。元素XBは、ターゲットを脆化させにくい。元素XBの添加により、低い飽和磁束密度と高強度なターゲットとが、両立されうる。
【0023】
飽和磁束密度が抑制されうるとの観点から、Co系合金における元素XBの含有率は0.4%以上が好ましく、1at%以上がより好ましく、3at%以上が特に好ましい。飽和磁束密度が過小ではないとの観点から、元素XBの含有率は10at%以下が好ましい。
【0024】
[元素XAと元素XBとの合計含有率]
飽和磁束密度が過小ではないとの観点から、元素XAの含有率と元素XBの含有率との合計は、30at%未満が好ましく、28at%以下がより好ましく、26at%以下が特に好ましい。
【0025】
[磁気記録媒体の製造]
本発明に係る合金からなる粉末は、アトマイズによって得られうる。好ましいアトマイズは、ガスアトマイズである。この粉末に、必要に応じ、分級(例えば粒子径が500μm以下の粒子を抽出)がなされる。分級後の粉末が、炭素鋼製の缶に充填される。この缶が真空脱気され、封止されてビレットが得られる。このビレットに、HIP成形(熱間等方圧プレス)が施される。HIP成形の、好ましい圧力は50MPa以上300MPa以下であり、好ましい焼結温度は800℃以上1350℃以下である。HIP成形により、成形体が得られる。この成形体に加工が施され、ターゲットが得られる。このターゲットにスパッタリングが施されることで、このターゲットの成分と同じ成分を有する軟磁性層が得られる。磁気記録媒体には、この軟磁性層が組み込まれる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0027】
前述の通り軟磁性層は、その成分と同じ成分を有するターゲットにスパッタリングが施されることで、成膜される。この軟磁性層は、急冷・凝固により得られる。軟磁性層の形成には多大の労力を要するので、以下の評価では、単ロール法により得られた試験片を用いる。単ロール法は、スパッタリングと同様、急冷・凝固の工程を有する。単ロール法を採用することで、スパッタリングで得られるであろう軟磁性層の評価が、簡易的に行われうる。
【0028】
[アモルファス性]
下記の表1及び2に示された組成となるように秤量した30gの原料を、直径が10mmであり長さが40mmである水冷銅鋳型に投入した。この鋳型を減圧し、アルゴンガス雰囲気中でアーク溶解し、溶解母材を得た。この母材を直径が15mmである石英缶中に投入し、ノズルから出湯させ、単ロール法に供して試験片を得た。この単ロール法の条件は、以下の通りである。
出湯ノズルの直径:1mm
雰囲気の気圧:61kPa
噴霧差圧:69kPa
ロールの材質:銅
ロールの直径:300mm
ロールの回転速度:3000rpm
ロールと出湯ノズルとのギャップ:0.3mm
なお、各表に記載された合金の残部は、不可避的不純物である。
【0029】
測定面が銅ロールとの接触面となるように、ガラス板に試験片を両面テープで貼り付けた。X線回折装置にて、この試験片の回折パターンを得た。回折の条件は、下記の通りである。
X線源:Cu−Kα線
スキャンスピード:4°/min
アモルファス材料のX線回折パターンでは、回折ピークが見られず、特有のハローパターンが得られる。不完全なアモルファス材料のX線回折パターンでは、回折ピークは見られるが、結晶材料のピークと比較するとピークの高さが低く、かつハローパターンも見られる。そこで、下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下記の表1及び2に示されている。
A:ハローパターンが見られる
C:ハローパターンが見られない
【0030】
[飽和磁束密度]
前述のアモルファス性の評価で述べた方法と同様の方法により、試験片を得た。この試験片の飽和磁束密度を、振動試料型磁力計(VSM)にて測定した。測定条件は、以下の通りである。
印加磁場:1200kA/m
試験片の質量:約15mg
下記の基準に基づき、格付けを行った。この結果が、下記の表1及び2に示されている。
A:0.3T以上1.0T未満
B:1.0T以上1.3T以下
C:0.3T未満又は1.3T超
【0031】
[耐割れ性]
下記の表1及び2に示された組成となるように秤量した30gの原料を、直径が40mmであり長さが50mmである水冷銅鋳型に投入した。この鋳型を減圧し、アルゴンガス雰囲気中でアーク溶解し、溶解母材を得た。この溶解母材を直径が8mmであるノズルから出湯し、直後にこの溶解母材に高圧のArガスを噴霧し、粉末を得た。この粉末を、500μm以下に分級した。分級後の粉末を、炭素鋼製の缶に充填した。この缶を真空脱気し、封止して、ビレットを得た。このビレットに、HIP成形(熱間等方圧プレス)を施した。HIP成形の条件は、以下の通りである。
温度:1000℃
圧力:120MPa
保持時間:2時間
得られた成形体から、縦が20mmであり、横が1.8mmであり、高さが1.8mmである試験片を採取した。この試験片を、3点曲げ試験に供した。試験片が破断したとき又は曲がったときの荷重から、抗折力を算出した。この抗折力に基づき、下記の基準に従って、格付けを行った。この結果が、下記の表1及び2に示されている。
A:抗折力が600MPa以上
B:抗折力が450MPa以上600MPa未満
C:抗折力が450MPa未満
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
表1及び2に示されるように、本発明に係るCo系合金から、諸性能に優れた軟磁性層が得られうる。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0035】
以上説明されたCo系合金は、種々の磁気記録媒体の軟磁性層に適している。