(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、世界中で稼働している銅鉱山において、採取される銅鉱石は、初生硫化鉱主体となってきており、鉄・硫黄、その他の不純物が増加し、銅品位は低下傾向にある。これは、乾式銅製錬向けの銅精鉱生産コストの増加を招く。
【0003】
銅鉱石中の不純物の中で、最も問題視されているのは砒素である。砒素は、その存在形態にもよるが、極めて有害であり、産業分野での用途も僅少であるため、大部分は、安定的な形態で廃棄または貯蔵する必要がある。
【0004】
そのため、買鉱乾式製錬所では、購入する銅精鉱中の砒素に対して、ある一定の制限(通常<0.3mass%程度)を付与している。鉱山側は、制限を超過した場合には、超過量に応じペナルティを製錬所側へ支払うことが一般的である。
【0005】
従って、鉱山にとってみれば、コスト低減、鉱山寿命延長のため、砒素を多く含む硫化鉱の効率的な処理方法は、重要な関心事である。一方、買鉱乾式製錬所側にとってみても、良質な鉱石の枯渇、銅精鉱需給の逼迫により、将来的に砒素を多く含む銅精鉱への対応が必要となる可能性が高い。
【0006】
特開2009−39666号公報(特許文献1)では、砒素含有化合物を水分が少なくコンパクトな結晶化合物粒子形態とした後、得られた結晶化合物を樹脂でコートする砒素の処理方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、樹脂でコートする砒素含有化合物を所定の形態に調整するための予備調整が複雑で、処理コストが高くなるという問題がある。砒素含有化合物の数年、数十年に渡る長期保存を考えた場合に、コートする樹脂自体も劣化して徐々に溶出が起こる可能性も考えられる。
【0009】
上記課題を鑑み、本発明は、砒素を含む銅鉱石に含まれる砒素をより安易な方法で長期的な貯蔵及び保存に適した安定的な形態に処理可能な砒素の処理方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者が鋭意検討したところ、砒素を含む銅鉱石を焙焼して銅鉱石から砒素を含む揮発物を抽出し、この揮発物に所定の処理を施した上で、更に処理後の揮発物の密度を上げるための所定の処理を行ってより安定的な形態に処理することで、従来に比べて砒素の溶出をより長期的に抑制可能であることを見出した。
【0011】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、砒素を含む銅鉱石を非酸化性雰囲気下において焙焼し、黄銅鉱と、砒素硫化物を含む揮発物とに分離させる焙焼工程と、焙焼工程で得られた揮発物を非酸化性雰囲気下において熱処理し、揮発物中の砒素硫化物を溶融させる熱処理工程と、熱処理工程後の揮発物を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程後の揮発物を非酸化性雰囲気下で加熱して再溶融させる再溶融工程とを含む砒素の処理方法である。
【0012】
本発明に係る砒素の処理方法は一実施形態において、再溶融工程は、揮発物を200〜250℃で加熱することを含む。
【0013】
本発明に係る砒素の処理方法は別の一実施形態において、再溶融工程は、再溶融後の揮発物の密度が1.5〜3.0g/cm
3となるように揮発物を加熱することを含む。
【0014】
本発明に係る砒素の処理方法は更に別の一実施形態において、熱処理工程において、硫黄を添加することを更に含む。
【0015】
本発明に係る砒素の処理方法は更に別の一実施形態において、熱処理工程において、揮発物中に含まれる硫黄の砒素に対する質量比(S/As質量比)が1.2以上となるように硫黄の含有量を調整することを含む。
【0016】
本発明に係る砒素の処理方法は更に別の一実施形態において、熱処理工程において、老化防止剤を更に添加することを含む。
【0017】
本発明は別の一側面において、砒素と硫黄からなる固体状の砒素含有化合物であって、砒素濃度が、1〜40質量%、密度が1.5〜3.0g/cm
3である砒素含有化合物である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、砒素を含む銅鉱石に含まれる砒素をより安易な方法で長期的な貯蔵及び保存に適した安定的な形態に処理可能な砒素の処理方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態に係る砒素の処理方法は、
図1に示すように、砒素を含む銅鉱石を非酸化性雰囲気下において焙焼し、黄銅鉱と、砒素硫化物を含む揮発物とに分離させる焙焼工程S1と、焙焼工程S1で得られた揮発物を、非酸化性雰囲気下において熱処理し、揮発物中の砒素硫化物を溶融させる熱処理工程S2と、熱処理工程S2後の揮発物を粉砕する粉砕工程S3と、粉砕工程S3後の揮発物を加熱して再溶融させる再溶融工程S4とを含む。
【0021】
本実施形態の処理対象物は、砒素を含む銅鉱石である。具体的には、例えば、硫砒銅鉱(Cu
3AsS
4)、四面砒銅鉱(Cu
12As
4S
13)、または、これら砒素を含む銅鉱が混在する銅精鉱等が利用可能である。なお、これら銅鉱石の他にも、砒素を含む鉱石であって以下に示す二段階処理により処理可能な鉱石であれば、上記銅鉱石には限定されないことは勿論である。
【0022】
例えば、本発明に利用可能な硫砒銅鉱を主体とする銅精鉱の品位は、共存する黄鉄鉱(FeS
2)や脈石成分の品位によって異なるが、典型的には、銅を15〜35質量%、砒素を3〜15質量%含む。
【0023】
本実施形態では、銅精鉱を、鉱物種及び品位が変化しない温度で、予備乾燥することが好ましい。通常、高温空気で銅精鉱を乾燥させる際には、乾燥機出口における銅精鉱の温度をおよそ90℃とし、銅精鉱の水分率を0.5質量%以下とする。
【0024】
−焙焼工程S1−
乾燥した銅精鉱は、非酸化性雰囲気下で、550℃〜700℃において、10〜60分間焙焼する。装置内を非酸化性雰囲気にするために供給されるガスとしては、例えば窒素ガスが用いられる。なお、焙焼工程S1における処理温度、および雰囲気の制御は、硫砒銅鉱主体の銅精鉱を硫化砒素と黄銅鉱等に変換するのに必要な条件であり、反応時間は未反応硫砒銅鉱を残さないために必要な時間である。
【0025】
焙焼工程S1において、銅精鉱中の砒素硫化物の生成反応は、下記(1)式または(2) 式に従う。元の精鉱中に黄鉄鉱等が多く含まれていれば、(1)式中で添加するSは、(3)式の通り、処理温度帯における黄鉄鉱の分解によって、生成するSにより補填されるため不要となる。
4Cu
3AsS
4+12FeS+2S →12CuFeS
2+As
4S
6 (1)
4Cu
3AsS
4+12FeS → 12CuFeS
2+As
4S
4 (2)
FeS
2 → FeS + S (3)
【0026】
焙焼工程S1は、例えばロータリキルンなどを用いて行われる。上記(1)〜(3)式に示すように、焙焼によって、砒素を含む硫化化合物が生成され、生成した砒素化合物は、温度に応じた蒸気圧で揮発し、原料銅精鉱中から除去される。
【0027】
この焙焼処理の結果、原料銅精鉱から、黄銅鉱とキューバ鉱を主体とする焼鉱と、揮発して回収される砒素化合物(硫化砒素)と単体硫黄を含む揮発物とが得られる。焼鉱の黄銅鉱とキューバ鉱の比率は、550℃〜700℃の温度範囲では、反応前に含まれる黄銅鉱、輝銅鉱などの硫化銅鉱量と、反応前に含まれる黄鉄鉱量、及び添加される黄鉄鉱量により変化する。
【0028】
焙焼工程S1において揮発したAs硫化物および単体硫黄はガス形態であるため、非酸化性雰囲気下のまま冷却し、固化させて回収する。
図2は、回収した揮発物の顕微鏡写真の例を示している。回収した揮発物は、直径約10〜15μm程度の粒状粒子を含み、As品位の異なる内層1と外層2の二層構造を備える。
【0029】
揮発物粒子の内層1は砒素を約30mol%、硫黄を約70mol%含む層で構成されている。揮発物粒子の外層2は砒素を約5mol%、硫黄を約95mol%含む層で構成されている。即ち、焙焼工程S1で得られる粒状粒子からなる揮発物は、砒素を粒子内部に多く含む内層1の外側を硫黄を多く含む外層2で覆った二層構造を有している。
【0030】
−熱処理工程S2−
熱処理工程S2では、
図2に示す揮発物粒子に対して更に非酸化性雰囲気中で熱処理を行い、揮発物中の砒素硫化物(硫化砒素)を溶融させることで、揮発物の砒素溶出性をより低減させる。
【0031】
熱処理系内を非酸化性雰囲気とするガスとしては例えば窒素ガスが用いられる。熱処理工程S2の処理温度は、200〜600℃とすることが好ましく、より好ましくは250〜400℃である。処理温度が200℃よりも低い場合には、揮発物中の砒素硫化物が十分に溶融せず、砒素溶出量の低減効果が十分に得られない場合がある。処理温度が600℃よりも高い場合には、揮発物中の砒素硫化物として含まれる硫化水素がガス化して揮発するため、熱処理物が回収できない場合がある。
【0032】
熱処理工程S2の処理時間は、処理温度によっても異なるが、完全に反応を進めるために、少なくとも30分以上、より好ましくは50分以上行うことが、熱処理物のAs溶出量低減の効果の面からは好ましい。
【0033】
熱処理工程S2に際し、揮発物に対して硫黄を添加することが好ましい。熱処理工程S2の処理温度が高くなるにつれて、硫黄の揮発量が増加して揮発物中の砒素濃度が高くなることで、硫黄が砒素と反応することによる砒素の溶出抑制効果が小さくなるからである。例えば、S/As質量比3.0の揮発物を400℃で処理した場合には、揮発物中のS分が揮発してS/As質量比が2.4程度に低下し、500℃で処理した場合にはS分が揮発してS/As質量比が1.2程度にまで低下する場合がある。添加する硫黄源としては単体硫黄が取り扱いの面からみて好ましい。硫黄の添加は、熱処理工程前に行ってもよいし、熱処理工程中に添加してもよい。
【0034】
熱処理工程S2においては、揮発物中に含まれる硫黄の砒素に対する質量比(S/As質量比)が1.2以上、より好ましくは2.3以上、更に好ましくは3以上となるように、必要に応じて硫黄を添加することにより揮発物中の硫黄と砒素の濃度を調整することが好ましい。S/As質量比が1.2よりも小さくなると、熱処理の処理時間を長くしても、砒素の溶出低減効果が十分に得られない場合がある。
【0035】
なお、S/As質量比の上限に特に制限はないが、S/As質量比が高ければ高いほど、短時間の熱処理でAs溶出抑制効果が得られる。一方で、S/As質量比を高くするために硫黄の添加量を増加させすぎても、As溶出抑制効果は大きく変わらず、むしろ硫黄が砒素に対して過剰となるために過剰な硫黄分の後処理が必要となりコスト上昇を招く場合がある。よって、S/As質量比の上限は6程度とすることができる。
【0036】
熱処理工程S2においては、単体硫黄の他に、ゴムの老化防止剤を添加してもよい。これにより、より長期間に渡って砒素を含む揮発物から砒素が溶出することを抑制できる。ゴムの老化防止剤としては、例えば、モノフェノール系、ビスフェノール系、ポリフェノール系から選択されるいずれか1種類以上の老化防止剤が利用可能である。老化防止剤の添加量は0.2mol/m
3以上、より好ましくは0.4mol/m
3以上供給することが好ましく、より具体的には0.2〜2.0mol/m
3である。
【0037】
図3(a)は、熱処理工程S2で処理された揮発物(熱処理物)の外観を示す写真である。熱処理物は、外観上は嵩張った柱状物質として採取される。この熱処理物の砒素品位は12〜15mol%で、その密度は、約0.6〜1.5g/cm
3程度である。熱処理工程S2によって試料が膨張するため、この熱処理物は、純物質の硫化砒素の密度と比べると半分程度となる。この熱処理物をそのまま保存することも可能であるが、密度が低いと比表面積が大きくなるため、熱処理物の外部の雰囲気(例えば空気や液体)との接触面積が大きくなり、溶出が起こりやすくなる場合がある。
【0038】
−粉砕工程S3、再溶融工程S4−
そこで本実施形態では、熱処理工程S2で処理された熱処理物を粉砕して、粉砕された熱処理物を再び加熱して再溶融させることで、熱処理物の密度を上げる。再溶融物の一例を
図3(b)に示す。粉砕工程S3における粉砕方法は特定の方法に限定されるものではなく、従来から知られる公知の方法で実施可能である。例えば、所定の用具を用いて操作者が粉砕しても良いし、粉砕機を用いてもよい。
【0039】
再溶融工程S4において、粉砕後の熱処理物(揮発物)は、窒素などを用いた非酸化性雰囲気下で加熱し、熱処理物中の砒素硫化物を溶融させる。熱処理物は、再溶融後の熱処理物の密度が1.5〜3.0g/cm
3となるように加熱することが好ましい。再溶融工程S4における熱処理物の処理温度は200〜250℃とするのが好ましく、より好ましくは220〜250℃程度である。処理温度が200℃よりも低いと熱処理物が十分に溶融しない場合がある。処理温度が250℃よりも高いと、原料に含まれる硫黄の一部が揮発して試料を膨張させるため、密度が上がらない場合がある。
【0040】
再溶融工程S4により得られた再溶融物(硫黄含有化合物)は、砒素と硫黄からなる固体状の砒素含有化合物であって、砒素濃度が、1〜40質量%、密度が1.5〜3.0g/cm
3である。この再溶融物を、好ましくは水中で保存することにより、砒素を含む銅鉱石に含まれる砒素を安定的な形態で、長期的に貯蔵及び保存できる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
(実施例1)
原料銅精鉱として、Cu品位21mass%、Fe品位23mass%、S品位38mass%、As品位6.8mass%の高As品位銅精鉱を使用した。この高As品位銅精鉱に対してX線回折(XRD)及び電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いて特性された主な鉱物組成は、黄銅鉱(CuFeS
2)11mass%、黄鉄鉱(FeS
2)42mass%、硫砒銅鉱(Cu
3AsS
4)36mass%、脈石成分(SiO
2等)11mass%であった。
【0043】
この砒素を含む銅精鉱100gを予備乾燥した後、窒素ガス雰囲気中において650℃の処理温度で焙焼したところ、表1に示すように、砒素をほとんど含まない黄銅鉱を含む精鉱(焙焼精鉱)と、砒素を33質量%、硫黄を64質量%含む揮発物とに分離できた。
【0044】
【表1】
【0045】
焙焼工程で得られた揮発物を冷却、固化して回収したところ、揮発物のS/As質量比は2.3であった。この揮発物を、非酸化性雰囲気下で熱処理温度280℃、熱処理時間30分で熱処理して、熱処理物を得た。得られた熱処理物を粉砕し、粉砕物を非酸化性雰囲気下で240℃で10分間加熱して再溶融物を得た。
【0046】
(実施例2)
実施例1の焙焼工程で得られた揮発物(S/As質量比2.3)に揮発物中のS/As質量比が4.1となるように単体硫黄を加え、更にモノフェノール系老化防止剤(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール)を0.5mol/m
3を添加し、窒素ガス雰囲気下で処理温度280℃、熱処理時間30分で熱処理した。得られた熱処理物を粉砕し、粉砕物を240℃で10分間加熱して再溶融物を得た。
【0047】
(溶出結果)
実施例1及び実施例2の各工程で得られた揮発物、熱処理物及び再溶融物に対し、米国環境保護庁(EPA)における土壌汚染物質の溶出分析(TCLP)によりAs溶出量を評価した。この溶出分析では、揮発物、溶出物及び再溶融物をそれぞれ破砕して、粒径9.5mm未満(0.5〜5mm)とした試料に対し、溶出溶媒として脱イオン水、酢酸または酢酸緩衝液を使用し、pHを2.88とし、液固比20、温度22.3℃、振とう方法は回転振とうで30rpm、振とう時間を18時間で、固液分離を加圧ろ過(0.6〜0.8μmGFFフィルタ使用)として溶出分析を行った。結果を
図4に示す。
【0048】
図4に示すように、焙焼、熱処理工程、再溶融工程を行うほどAsの溶出量は減少した。また、実施例1及び2のいずれにおいても、最終的に得られる再溶融物では、Asの溶出量を1mg/L以下に低減できた。
【0049】
(密度)
実施例1の熱処理物と再溶融物についてそれぞれ密度を測定したところ、熱処理物の密度は1.0g/cm
3であったのに対し、再溶融物の密度は2.5g/cm
3であった。添加剤を加えた実施例2の熱処理物と再溶融物の密度についても測定した結果、熱処理物の密度は1.0g/cm
3であったのに対し、再溶融物の密度は2.4g/cm
3であった。即ち、再溶融により密度を上げて塊状(ブロック状)とすることで、As溶出性の低いより安定的な形態にすることができた。