【実施例1】
【0027】
はじめに、
図1乃至
図4を参照しながら本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造について説明する。
図1(a)は本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造およびそれを用いてなる電子部品収納用パッケージの平面図であり、(b)は
図1(a)中のA−A線矢視断面図であり、(c)は
図1(a)中のB−B線矢視断面図である。また、
図2は
図1(a)中のB−B線部分断面図である。
実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1は、
図1に示すように、例えばセラミック単層基板又は多層基板からなる配線基板7と、この配線基板7に接合材22を介して接続されているフレキシブル基板8とにより構成されている。
また、この配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における配線基板7は、
図1,2に示すように、セラミック製の絶縁部材4と、この絶縁部材4の少なくとも主面Pに設けられている導体層5と、絶縁部材4の裏面Qに設けられている第1のグランド領域6aと、を備えている。さらに、通常、導体層5にはシグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)の2種類がある。
図1(a)では一対のシグナル線用導体層5(S)の両側がグランド線用導体層5(G)で挟まれたいわゆるGSSG構造を例示している。加えて、シグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)は、配線基板7の主面Pに、それぞれシグナル線用ワイヤボンディングパッド17(S)とグランド線用ワイヤボンディングパッド17(G)を備えている。なお、後段において説明するが、シグナル線用ワイヤボンディングパッド17(S)とグランド線用ワイヤボンディングパッド17(G)と電子部品18が、ボンディングワイヤ19により電気的に接続されることで実施例2に係る電子装置が構成される。
また、
図1では導体層5が、絶縁部材4の主面Pに形成されている場合を例に挙げて説明しているが、導体層5の形成位置は絶縁部材4の主面Pのみに限定される必要はなく、その一部が絶縁部材4の内部や裏面Qに設けられてもよい。この場合は、異なる層間に形成される導体層5同士を導電ビアによって電気的に接続すればよい。
なお、
図1では、配線基板7がセラミック単層基板からなり、第1のグランド領域6aが絶縁部材4の裏面Pに形成されている場合を例に挙げて説明しているが、配線基板7がセラミック多層基板からなる場合は、第1のグランド領域6aと同等の作用効果を有する導電層[後段における
図9(a)の内層グランド領域6bを参照]を絶縁部材4の内部断面に層状に備えていてもよい。
また、実施例1に係るフレキシブル基板8は、
図1,2に示すように、樹脂製(例えば、ポリイミド等の材質からなる)の絶縁シート9と、この絶縁シート9の少なくとも主面P´[
図1(b)を参照]に設けられている金属膜10とからなる。さらに、この金属膜10は、フレキシブル基板8の主面P´側に設けられ、かつ接合材22を介して配線基板7のシグナル線用導体層5(S)に接合されるシグナル線パッド10aを備えている。そして、このシグナル線パッド10aは、配線基板7のシグナル線用導体層5(S)に接合材22を介して接合されている。
加えて、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、フレキシブル基板8の裏面Q´側から配線基板とフレキシブル基板の接続構造1を透視した際に、フレキシブル基板8のシグナル線パッド10aと配線基板7のシグナル線用導体層5(S)とが重畳している重畳領域28[
図1(a)中においてハッチングが交差している部分を参照]を備えている。
そして、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1は、この重畳領域28を、シグナル線用導体層5(S)における高周波信号の伝送方向、つまり、
図1(a)におけるシグナル線用導体層5(S)の長手方向、に対して垂直な方向で切断した際に、この重畳領域28に属しているシグナル線パッド10aの幅をW(
図2を参照)とし、同方向で切断した際の重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)の幅をW
0(
図2を参照)とする場合に、W
0<Wを満たすシグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aからなる平面的な領域である有用接続部分を備えている。
すなわち、上述の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における有用接続部分は、「重畳領域28を含むシグナル線パッド10aの幅をW(
図2を参照)とし、同方向で切断した際の重畳領域28を含むシグナル線用導体層5(S)の幅をW
0(
図2を参照)とする場合に、W
0<Wを満たすシグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aからなる平面的な領域である」、と表現することもできる。
なお、この有用接続部分は、例えば、後段に示す
図4(a)、
図5及び
図6において、符号Gで示す範囲に存在するシグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aの両方からなるものである。
【0028】
ここで実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1におけるフレキシブル基板8について
図3を参照しながら詳細に説明する。
図3(a)は本発明に係るフレキシブル基板の主面側から見た平面図であり、(b)は同フレキシブル基板の裏面側から見た平面図であり、(c)は
図3(b)中のC−C線断面図である。なお、
図1又は
図2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図3(a)に示すように、実施例1に係るフレキシブル基板8は、絶縁シート9主面P´側に金属膜10からなるグランド線パッド10bと、それに接続される第2のグランド領域10dと、絶縁シート9の端縁9a近傍においてグランド線パッド10bの一部を切り欠いてなる切欠き11と、この切欠き11に島状の金属膜10が密着されてなるシグナル線パッド10aとを備えている。
なお、フレキシブル基板8においても上述の配線基板7の導体層5の場合と同様に、一対のシグナル線パッド10a(金属膜10)の両側がグランド線パッド10b(金属膜10)で挟まれたいわゆるGSSG構造をなしている。
また、このフレキシブル基板8の裏面Q´側は、
図3(b)に示すように、細長いバンド状の金属膜10が絶縁シート9に密着されてなる伝送帯10cを備えている。そして、実施例1に係るフレキシブル基板8では、絶縁シート9の主面P´側に設けられているシグナル線パッド10a又はグランド線パッド10bと、絶縁シート9の裏面Q´側に設けられている伝送帯10cとが対向している部分に貫通導体12を備えており、この貫通導体12によりシグナル線パッド10a又はグランド線パッド10bと伝送帯10cとが電気的に接続されている。また、これと同様に貫通導体12により、第2のグランド領域10dと、これに対向して配される伝送帯10cとが電気的に接続されている。
なお、上述の導体層5と同様に、金属膜10もシグナル線用金属膜と、グランド線用金属膜の2種類がある。そして、図中には特に明示していないが、シグナル線用導体層5(S)に接続されている金属膜10がシグナル線用金属膜(S)であり、グランド線用導体層5(G)に接続されている金属膜10がグランド線用金属膜(G)である。さらに、本実施の形態において金属膜10は、その用途や機能に応じて互いに区別できるよう、シグナル線パッド10a,グランド線パッド10b及び伝送帯10cのように異なる名称を付している。
【0029】
さらに、配線基板7とフレキシブル基板8とを接続する場合は、配線基板7のシグナル線用導体層5(S)の真上に、フレキシブル基板8のシグナル線パッド10aを配置し、また、これと同様にグランド線用導体層5(G)の真上にグランド線パッド10bを配置して、これらをそれぞれ接合材22で接合することで配線基板とフレキシブル基板の接続構造1が形成されている。これによりGSSG構造をなす配線基板7の導体層5と、同じくGSSG構造をなすフレキシブル基板8の金属膜10とが電気的に接続される。なお、グランド線用導体5(G)やグランド線パッド10bは、配線基板7の第1のグランド領域6aと電気的に接続されている。
この場合、例えば
図2に示す配線基板7におけるシグナル線用導体層5(S)の中心線Iと、フレキシブル基板におけるシグナル線パッド10aの中心線Jとが一致している状態で、この部位における特性インピーダンスが設計値通りになるように設計がなされる。しかしながら、実際にはシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jを完全に一致させることは極めて困難であり、製造時には中心線Iと中心線Jの間に不可避な幅方向のズレが生じてしまう。
また、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、シグナル線パッド10a及びシグナル線用導体層5(S)は、配線基板7における第1のグランド領域6aとの間に容量結合が生じている(
図2を参照)。そして、特にシグナル線パッド10aについては、重畳領域28を除いた部分、すなわちシグナル線用導体層5(S)の幅方向にはみ出している部分が容量結合に特に影響を及ぼす。なお、ここではシグナル線用導体層5(S)と、このシグナル線用導体層5(S)の幅方向にはみ出しているシグナル線パッド10aのはみ出し領域と、を合算した平面領域を、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」と定義して容量結合に及ぼす影響について説明する。
そして、上記「対向面積」が形成されることにより生じる容量結合に応じて、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分を通過する高周波信号の特性インピーダンスが変動する。
【0030】
より具体的には、例えば
図2に示す配線基板とフレキシブル基板の接続構造1において、第1のグランド領域6aに対する、シグナル線パッド10a及びシグナル線用導体層5(S)からなる接続部分の対向面積が増大すると、それに伴いこれらの間の電界の容量結合が増大して、この接続部分における特性インピーダンスに変動が生じて設計値(設定値)通りにならなくなってしまう。
そして、配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における接続部分の特性インピーダンスの設計値(設定値)に対する変動量が大きいほど、この接続部分における高周波信号の伝送損失が大きくなる。
この点をより詳しく説明すると、例えばシグナル線用導体層5(S)の幅とシグナル線パッド10aの幅がともにW
Xで等しく、かつこれらの中心線I,Jが完全に一致している場合、シグナル線用導体層5(S)の幅方向へのシグナル線パッド10aのはみ出し量はゼロであるので、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」をシグナル線用導体層5(S)の幅W
Xとして容量結合を考えればよい。
その一方で、例えばシグナル線用導体層5(S)の幅とシグナル線パッド10aの幅がともにW
Xで等しく、かつ配線基板7にフレキシブル基板8を接続する際に中心線I,Jがαだけその幅方向に位置ズレを生じた状態で接続された場合は、シグナル線用導体層5(S)の幅方向へのシグナル線パッド10aのはみ出し量はαとなる。この場合は、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」をシグナル線用導体層5(S)の幅W
Xにシグナル線パッド10aのはみ出し量αを加えた(W
X+α)として容量結合を考える必要がある。この場合、シグナル線パッド10aのはみ出し量がゼロである場合と比較して、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」がはみ出し量α分だけ増大してしまう。
つまり、シグナル線用導体層5(S)の幅とシグナル線パッド10aの幅とが等しい場合は、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にズレが生じた際に、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」がはみ出し量(中心線Iと中心線Jのズレ量に同じ)に相当する量だけ増大してしまい、これに伴ってその部分に容量結合の好ましくない増加が生じてしまうため、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における高周波信号の伝送損失の発生は不可避であった。
【0031】
このような事情に鑑み、特許文献1に開示される発明では、フレキシブル基板の配線導体(本発明におけるシグナル線パッド10aに相当)の幅を、誘電体(本発明における絶縁部材4に相当)上に形成されている線路導体[本発明におけるシグナル線用導体層5(S)に相当]の幅の0.6乃至1倍に設定することで、線路導体に対して配線導体がずれた状態で接合されても線路導体が配線導体からはみ出しにくくして、これらの接続部分における高周波信号の伝送損失を低減することに成功した。
しかしながら、特許文献1に開示される発明の場合は、上記効果を発揮させるためにフレキシブル基板の配線導体(本発明におけるシグナル線パッド10aに相当)の幅を、誘電体上に形成されている線路導体[本発明におけるシグナル線用導体層5(S)に相当]の幅よりも相対的に狭めておく必要があり、フレキシブル基板における配線導体の密着強度の低下が不可避であった。
【0032】
これに対して本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1は、
図2に示すように、シグナル線パッド10aの幅Wと、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0の大小関係を、特許文献1に開示される場合の逆に設定されてなる有用接続部分を備えていることで、特許文献1に開示される発明と同等以上の効果を発揮させつつ、フレキシブル基板8におけるシグナル線パッド10aの密着強度の低下を確実に防止することができる。
ここで、
図2、4、5を参照しながら本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1の作用効果が発揮される仕組みについて詳細に説明する。
図4(a)は本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造の部分平面図であり、(b)は
図4(a)中のD−D線断面図である。また、
図5は本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造における重畳領域及びその周辺の平面形状を示す部分平面図である。
なお、
図1乃至
図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図4(a)に示すように、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、重畳領域28に属しているシグナル線パッド10aの幅Wと、同じく重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)の幅W
0が、W>W
0を満たしている有用接続部分を備えている。より具体的には、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1は、重畳領域28を含むシグナル線パッド10aの幅Wと、同じく重畳領域28を含むシグナル線用導体層5(S)の幅W
0が、W>W
0を満たしている有用接続部分を備えている。
そして、
図4(a)に示すように、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iと、シグナル線パッド10aの中心線Jとが完全に一致している場合は、重畳領域28[
図4(a)中において直線からなるハッチングと破線からなるハッチングが網目状に交差している領域]に属しているシグナル線用導体層5(S)は、重畳領域28に属しているシグナル線パッド10aの下に幅方向において完全に収まっている。すなわち、
図4(a)に示すように、シグナル線用導体層5(S)とシグナル線パッド10aの両者の幅方向において、幅がW
0であるシグナル線用導体層5(S)は、幅がWであるシグナル線パッド10aの下に完全に収容されている。
この場合、シグナル線用導体層5(S)の幅方向におけるシグナル線パッド10aのはみ出し量は(W−W
0)である。
【0033】
他方、配線基板7にフレキシブル基板8を接合する際に、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとがシグナル線用導体層5(S)の幅方向(
図5中の紙面左右方向)にズレた場合でも、重畳領域28に属しているシグナル線パッド10aの幅Wと、同じく重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)の幅W
0がW>W
0の関係を満たしている場合は、
図5に示すように、重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)が、シグナル線パッド10aの幅方向からはみ出し難くすることができる。すなわち、配線基板7にフレキシブル基板8を接合する際に、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に、シグナル線用導体層5(S)の幅方向(
図5中の紙面左右方向)へのズレが生じた場合でも、重畳領域28を含むシグナル線パッド10aの幅Wと、同じく重畳領域28を含むシグナル線用導体層5(S)の幅W
0が、W>W
0の関係を満たしている場合は、
図5に示すように、シグナル線用導体層5(S)を、シグナル線パッド10aの幅方向にはみ出し難くすることができる。
つまり、本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に幅方向のズレが生じた際に、シグナル線用導体層5(S)がシグナル線パッド10aからはみ出さない場合は、シグナル線用導体層5(S)の幅方向に対するシグナル線パッド10aのはみ出し量は(W−W
0)のままで変動しない。この場合は、重畳領域28の幅が変動しないので、第1のグランド領域6aに対する「対向面積」の変動も生じない。
その一方で、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にシグナル線用導体層5(S)の幅方向のズレが生じた際に、シグナル線用導体層5(S)がシグナル線パッド10aからはみ出す場合は、シグナル線用導体層5(S)の幅方向に対するシグナル線パッド10aのはみ出し量が(W−W
0)よりも大きくなる。このとき、シグナル線用導体層5(S)の幅方向に対するシグナル線パッド10aのはみ出し量の増大量は、重畳領域28の幅の減少量と一致する。
このように、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、配線基板7とフレキシブル基板8とを接続する際に、
図5に示すようにシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にズレが生じた場合でも、配線基板7の第1のグランド領域6aに対向して配される接続部分の対向面積の増大量をゼロか、ゼロでない場合でもシグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wが等しい場合に比べて確実に少なくすることができる。
この結果、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における接続部分と第1のグランド領域6aの間に生じる容量結合の、シグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aの接合位置ズレに伴う増大を、本発明に係る有用接続部分を備えない場合に比べて少なくすることができる。これにより実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、シグナル線用導体層5(S)とシグナル線パッド10aとの接続部分における特性インピーダンスの変動量を小さくすることができ、最終的にシグナル線用導体層5(S)とシグナル線パッド10aとの接続部分における高周波信号の伝送損失を小さくすることができる。
【0034】
加えて、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、上記効果が発揮されているときに、シグナル線パッド10aの幅Wは常に、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0よりも大きいので、絶縁シート9に対するシグナル線パッド10aの密着強度の低下は起こらない。
よって、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1によれば、高周波信号の伝送特性を良好にしつつ、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における機械的強度の低下を確実に防止することができる。
【0035】
なお、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、有用接続部分におけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0が、同じく有用接続部分におけるシグナル線パッド10aの幅Wよりも相対的に狭くなっている。しかしながら、冒頭の「発明が解決しようとする課題」において述べた通り、絶縁シート9に対する金属膜10(シグナル線パッド10a)の密着強度よりも、絶縁部材4に対するシグナル線用導体層5(S)の接合強度の方がはるかに大きいため、幅W
0が幅Wよりも相対的に狭くても実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1の機械的強度の低下は問題にならない。
【0036】
ここで、本発明の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1の変形例について
図1,2,4を参照しながら説明する。
図1(a)及び
図4(a)に示すように、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1は、配線基板7を平面視した際に対をなす重畳領域28同士の間に、
図1(a)及び
図2に示すように、その断面形状が凹状をなす座刳り20を選択的構成要素として備えていてもよい。
さらに、この座刳り20は、
図1(a)及び
図4(a)に示すように、配線基板7をその側面4c側から透視した際に、重畳領域28の始端位置と終端位置の間に少なくとも備えていることが望ましい。この場合、重畳領域28の始端位置から終端位置までの間における特性インピーダンスをほぼ一定にできる。なお、配線基板7の側面4c側から透視した際に、対をなす重畳領域28の始端位置と終端位置は互いに一致している。
また、この座刳り20の形成領域は、重畳領域28の始端位置又は終端位置と完全に一致している必要はなく、重畳領域28の始端位置又は終端位置を超えて形成されていても、目的とする効果を発揮させることができる。
【0037】
通常、配線基板とフレキシブル基板の接続構造において絶縁部材4と絶縁シート9とが重なっている部分では特性インピーダンスが、絶縁部材4と絶縁シート9とが重なっていない部分に比べて小さくなる。
特性インピーダンスは、おおむね信号線(ここでは導体層5等)の周囲の比誘電率(ε
S)の平方根に反比例する。さらに、樹脂製の絶縁シート9の比誘電率(ε
S)は、空気の比誘電率よりも大きいため、高周波信号の伝送路において絶縁部材4と絶縁シート9とが近接している部分では、絶縁シート9が近接して配されない部分と比較して特性インピーダンスが小さくなる。
このため、実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、絶縁部材4が重畳領域28と平行に、かつこの重畳領域28と少なくとも同じ長さを有する座刳り20を備えていることで、絶縁部材4の一部を空気に置換することができる。
これにより、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分の周囲において空気の容積を相対的に増加させることができ、これにより接続部分における特性インピーダンスを増大させることができる。
この結果、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスを設計値(設定値)に近付けることができる。そしてこれにより、実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1に高周波信号が伝送される際に生じる伝送損失を、座刳り20を備えない場合に比べて小さくすることができる。
なお、絶縁部材4に形成される座刳り20の幅、及び深さについては自由に設定されてよいが、座刳り20の幅及び深さはともに一様(略一様の概念を含む)であることが望ましい。
また、配線基板7の絶縁部材4に特性インピーダンスの調整に必要な寸法の座刳り20をレーザー加工により形成するためには、対を成し、かつ重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)同士の間隔、つまり絶縁距離、が少なくとも100μm以上である必要がある。すなわち、配線基板7の絶縁部材4に特性インピーダンスの調整に必要な寸法の座刳り20を、レーザー加工により形成するためには、対を成すシグナル線用導体層5(S)同士の間隔、つまり絶縁距離、が少なくとも100μm以上である必要がある。
なお、重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)同士の間隔が100μmよりも小さい場合は、レーザー加工により座刳り20を形成する際に、レーザーでシグナル線用導体層5(S)が損傷するおそれがある。すなわち、対を成すシグナル線用導体層5(S)同士の間隔が100μmよりも小さい場合は、レーザー加工により座刳り20を形成する際に、レーザーでシグナル線用導体層5(S)が損傷するおそれがある。
【0038】
さらに、上述の実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1では、有用接続部分におけるシグナル線パッド10aの幅Wの上限値を、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iに対するシグナル線パッド10aの中心線Jのズレ公差がδである場合に(W
0+3δ)とすることで、上記座刳り20を備えることによる効果と相俟って、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスの設計値(設定値を)を、この技術分野における一般的な特性インピーダンス設計値(例えば、100Ω)にすることが可能になる。
つまり、絶縁部材4が座刳り20を備えない場合は、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスを、この技術分野における一般的な設定値に設計(設定)することができない場合があり、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における高周波信号の伝送損失を低減できない場合があった。
これに対して実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1によれば、絶縁部材4が座刳り20を備えない場合に比べて、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における高周波信号の伝送損失が小さい製品の設計及び生産を容易にできるという効果を有する。
また、シグナル線パッド10aの幅Wがシグナル線用導体層5(S)の幅W
0よりも大きいと、重畳領域28において特性インピーダンスの低下が起こり、前述した絶縁シート9と絶縁部材4とが近接することによる特性インピーダンスの低下と相俟って、その部位における特性インピーダンスを設計値に近づけることが困難になる場合がある。この状態は、シグナル線パッド10aの幅Wがシグナル線用導体層5(S)の幅W
0よりも必要以上に大きい状態、すなわちシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jが一致しているときに対向面積が大きすぎる状態である。さらに、シグナル線パッド10aの幅Wが(W
0+3δ)を越えると、対をなす重畳領域28の間に座刳り20を設けてもその部位における特性インピーダンスを設計値に近づけることが困難になる場合がある。
【0039】
また、特に上述の実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1において、上述の有用接続部分におけるシグナル線パッド10aの幅Wの下限値を(W
0+2δ)に特定する場合は、実製品の製造時に、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jがこれらの幅方向にズレ公差δいっぱいにずれている場合でも、実製品における配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスの変動量を、シグナル線パッド10aの幅WがW<(W
0+2δ)である場合よりも小さくでき、この技術分野における望ましい設計値に近似させることができる。これはシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間のズレ量が、ズレ公差δの範囲内であれば、シグナル線用導体層5(S)がシグナル線パッド10aの幅方向にはみ出すことがなく、対向面積が変動しないためである。
よって、上述の実施例1の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1において、上述の有用接続部分におけるシグナル線パッド10aの幅Wが特に(W
0+2δ)≦W≦(W
0+3δ)に特定される場合は、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が極めて少ない高性能な製品を提供することができるという効果を有する。
【0040】
なお、本実施の形態に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1においてシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとのズレ公差δは、60μm以下であるのがよい。シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとのズレ公差δが60μmを上回る場合は、(W
0+2δ)≦W≦(W
0+3δ)を満たすシグナル線パッド10aの幅Wが、配線基板7を構成する各構成要素の寸法に対して相対的に大きくなりすぎてしまい、特性インピーダンスをこの技術分野において望まれる設計値に近づけつつ、シグナル線用導体層5(S)やシグナル線パッド10aを狭い間隔で設けることが困難になる。また、ズレ公差δを60μm以下にするには、製造装置や製造工程に対する工夫、例えばシグナル線パッド10aとシグナル線用導体層5(S)の間に接合材22として半田箔を挟み、フレキシブル基板をヒーター部材で押圧しながら熱圧着する装置を使用することなどにより実現することができる。
【0041】
さらに、実施例1の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造について
図6を参照しながら説明する。
図6は本発明の実施例1の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造における重畳領域及びその周辺の平面形状を示す部分平面図である。なお、
図1乃至
図5に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
先の
図1,2及び
図4,5では、シグナル線用導体層5(S)の信号伝送方向[
図4(a)および
図5中の符号Fを参照]における幅が一様(略一様の概念も含む)である場合を例に挙げて説明してきたが、
図6に示すように、重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)の幅は必ずしも一様でなくともよい。すなわち、重畳領域28を形成するシグナル線用導体層5(S)の幅は、必ずしも一様でなくともよい。
【0042】
より詳細に説明すると、
図6に示す実施例1の他の変形例に係るシグナル線用導体層5(S)は、その幅がW
0Aである部分と、幅がW
0Cである部分と、これらの連結部分からなっている。さらに、
図6に示すように、シグナル線パッド10aは、シグナル線用導体層5(S)の幅がW
0Cである部分の全域と、幅がW
0Aである部分と幅がW
0Cである部分の連結部分の一部を被覆するように配されている。
そして、
図6においてシグナル線用導体層5(S)の幅がW
0Cであり、かつより緻密な格子状のハッチングが付されている重畳領域28aを包含する有用接続部分26は、重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)における信号の伝送方向Fと平行な方向における重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)の長さGの50%以上を占有している。
他方、
図6において、有用接続部分26に包含されている重畳領域28aよりも粗いハッチングが付されている重畳領域28bを包含し、かつシグナル線用導体層5(S)の幅がW
0BからW
0Cに変化している接続部分27も、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0C及び幅W
0Bがともにシグナル線パッド10aの幅Wよりも小さいので、本発明の有用接続部分に相当する。
ところで、接続部分27は、重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)の信号の伝送方向Fと平行な方向における重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)の長さGの50%以上を占有していないので、仮に有用接続部分26が有用接続部分に該当しない場合、すなわち接続部分26におけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0Cがシグナル線パッド10aの幅W以上である場合は、本発明の有利な効果である高周波信号の伝送損失の低減効果が発揮され難い。
他方、
図6において仮に有用接続部分26が上述したように有用接続部分に該当しない場合でも、接続部分27が、重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)の信号の伝送方向Fと平行な方向における重畳領域28(重畳領域28a及び重畳領域28b)の長さGの50%以上を、より好ましくは80%以上を占有していれば(図示せず)、本発明による有利な効果である高周波信号の伝送損失の低減効果を発揮させることができる。この場合、接続部分27は、本発明に係る有用接続部分であるといえる。
【0043】
従って、
図6に示すような実施例1の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1´は以下に示すような理由で高周波信号の伝送特性が特に優れている。
シグナル線用導体層5(S)のうち、重畳領域28に属している領域では、シグナル線用導体層5(S)上にフレキシブル基板8が設置されているが、シグナル線パッド10aの縁から絶縁シート9の端縁9aまでの距離が短いため[
図3(a)−(c)参照]、重畳領域28に属していない領域のシグナル線用導体層5(S)の大部分では、シグナル線用導体層5(S)上にはフレキシブル基板8が存在しておらず、単に空気が存在しているだけである。この場合、重畳領域28に属していない領域のシグナル線用導体層5(S)では特性インピーダンスが相対的に高くなる。このため、幅がW
OCであり有用接続部分26をなすシグナル線用導体層5(S)の特性インピーダンスと、幅がW
OAであり重畳領域28に属していない領域のシグナル線用導体層5(S)の特性インピーダンスとを近似させるには、幅W
OAを幅W
OCより大きく設定して特性インピーダンスを下げることが有効である。
【0044】
すなわち、シグナル線用導体層5(S)のうち、重畳領域28を形成する領域では、シグナル線用導体層5(S)上にフレキシブル基板8が配置されているが、シグナル線パッド10aの縁から絶縁シート9の端縁9aまでの距離が短い[
図3(a)−(c)参照]。このため、重畳領域28を形成しない大部分のシグナル線用導体層5(S)では、シグナル線用導体層5(S)上にはフレキシブル基板8が存在しておらず、単に空気が存在しているだけである。この場合、重畳領域28を形成しない領域のシグナル線用導体層5(S)では、特性インピーダンスが相対的に高くなる。このため、幅がW
OCであり有用接続部分26を形成するシグナル線用導体層5(S)の特性インピーダンスと、幅がW
OAであり重畳領域28を形成しない領域のシグナル線用導体層5(S)の特性インピーダンスとを近似させるには、幅W
OAを幅W
OCより大きく設定して特性インピーダンスを下げることが有効である。
【0045】
さらに、シグナル線用導体層5(S)においてその幅がW
OAからW
OCに急激に変化すると、先に述べた「対向面積」の変動が生じて、特性インピーダンスの好ましくない変動が生じる。このため、
図6に示す実施例1の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1´では、シグナル線用導体層5(S)においてその幅をW
OAからW
OCに連続的に変化させ、かつシグナル線用導体層5(S)の幅の変移領域に重畳領域28が形成されるように配線基板7とフレキシブル基板8を配置してこれらを接続している。
この結果、
図6に示す実施例1の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1´では、シグナル線用導体層5(S)において幅がW
OAからW
OCに変化する領域における特性インピーダンスの急激な変化が抑制されて、この部分における高周波信号の伝送特性の劣化を好適に防止することができる。
【0046】
ここで、
図7を参照しながらシグナル線パッド10aの平面形状の変形例について説明する。
図7は本発明の実施例1に係るフレキシブル基板のシグナル線パッドの変形例を示す平面図である。なお、
図1乃至
図6に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例1及びその変形例に係るフレキシブル基板8のシグナル線パッド10aの平面形状は、
図1,3,4乃至6に示されるような単純な矩形状である必要はなく、
図7に示すような矩形状と他の形状を組み合わせてなる平面形状を有していてもよい。
より具体的には、変形例に係るシグナル線パッド10a´は、
図7に示すように信号の伝送方向Fに対して垂直な方向における幅がW
Sであり、かつその平面形状が略矩形状をなし、かつこのシグナル線パッド10a´の全域における占有率が80%よりも大きく、かつ幅W
Sの値がWである主領域Xと、この主領域Xと一体につながっており、かつこの主領域Xの外に位置している副領域Yと、を備えてなるものでもよい。
【0047】
そして、フレキシブル基板8が
図7に示すような変形例に係るシグナル線パッド10a´を備えている場合は、フレキシブル基板8の製造時に、絶縁シート9に貫通導体12(ビア導体)を形成してから金属膜10からなるシグナル線パッド10a´を形成する際に、貫通導体12の形成位置に不可避なズレが生じている場合でも、貫通導体12の周縁がシグナル線パッド10a´からはみ出すのを好適に防止することができる。
なお、貫通導体12は、絶縁シート9に設けられた貫通孔の内側面にめっき皮膜を被着させて形成されるため、貫通孔がシグナル線パッド10a´によって確実に覆われる(塞がれる)ことで貫通導体12の中央部に形成される貫通孔に不純物が混入するなどの不具合を防止することができる。
また、フレキシブル基板8が
図7に示すような変形例に係るシグナル線パッド10a´を備える場合は、副領域Yを備えている部分は局所的にシグナル線用導体層5(S)の幅W
0との差がより大きくなるため、配線基板7にフレキシブル基板8を接続する際に、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iと、略矩形状をなす主領域Xの中心線J´(
図7を参照)の間にズレが生じた場合でも、副領域Yを備えないシグナル線パッド10aを備える場合に比べて、第1のグランド領域6aに対する有用接続部分の対向面積の増大量を小さくすることができる。
この結果、変形例に係るシグナル線パッド10a´によれば、副領域Yを備えていないシグナル線パッド10aを備える場合に比べて、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分に生じる高周波信号の伝送損失を小さくすることができる。
【0048】
続いて、
図1及び
図8を参照しながら配線基板7における選択的構成要素について詳細に説明する。
図8は先の
図1(a)に示す配線基板とフレキシブル基板の接続構造1を拡大して示したものである。なお、
図1乃至
図7に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例1又はその変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1,1´は、
図1,8に示すように、配線基板7の絶縁部材4は、その主面P側に導体層5を備えておらず、かつ略平坦面状をなし、かつ帯状で、かつ絶縁部材4の端面4aに沿って形成されている非形成領域4bを選択的構成要素として備えていてもよい。
このように配線基板7が非形成領域4bを備えていることで、配線基板7の製造時に非形成領域4bに各導体層5の表面にめっき層を形成させるためのめっき用配線23を一時的に形成しておくことができる。なお、
図8に示すめっき用配線23は、導体層5の表面にめっき被膜を形成した後で機械研磨やレーザー照射等により除去されるため最終製品には存在していない。
【0049】
また、導体層5の表面にめっき被膜を形成する方法としては、主に、電解めっき法と、無電解めっき法があり、前者の場合は、配線基板7がめっき用配線23を備えていることでメッキ皮膜の形成を後者の場合に比べて効率的に行うことができる。
つまり、非形成領域4b及びめっき用配線23を備えていない配線基板7に電解めっき処理を行う場合、複数の導体層5(S)、5(G)を互いに導通させておくことができないので、個々の導体層5(S)、5(G)にめっき用電極を接続する必要がある。この場合、めっき用電極の接続作業が極めて煩雑な上、めっき用電極の接続ミス等があった場合は、めっき被膜を備えていない導体層5が生じることもあり、効率良く製品を生産することができない。
また、電解めっき法によりめっき層を形成する場合は、短時間でめっき被膜を形成することができ、しかも、導体層5に対するめっき被膜の密着強度を高くすることができる。他方、後者の無電解めっき法は、焼成済の配線基板7がめっき用配線23を備えていなくともめっき被膜を形成できる反面、導体層5上に形成されるめっき被膜の密着強度が電解めっき法によるそれよりも低く、しかもめっき被膜の形成に時間を要するというデメリットを有している。
従って、実施例1の変形例に係る配線基板7によれば、絶縁部材4が非形成領域4bを備えていることで、電解めっき処理により導体層5の表面にめっき被膜を形成することができる。この場合、無電界めっき処理を行う場合に比べて密着強度が優れためっき被膜を迅速に形成することができる。
【0050】
そして、配線基板7がその主面側に非形成領域4bを備えているということは、絶縁部材4における非形成領域4bが座刳り20を有さず、平坦面状(略平坦面状の概念を含む)をなしていることを意味している。また、上記非形成領域4bが「平坦面状をなしている」とは、絶縁部材4の製造時に生じる不可避な凹凸を除いて、絶縁部材4の非形成領域4bに積極的に凹凸を形成しないことで実現される平坦な状態の意味である。
また、配線基板7が上述のような非形成領域4bを備えていることで、絶縁部材4が座刳り20を備えている場合に、座刳り20の端部が絶縁部材4の端面4aに到達しない状態にすることができる。このため、配線基板7の製造時に、座刳り20の端部を起点にして絶縁部材4にクラックや割れ等が生じて製品が不良品化するのを好適に防止することができる。
したがって、配線基板7が非形成領域4bを備えている場合は、良品で破損し難い配線基板7を効率良く生産することができる。
【0051】
図14は実施例1の別の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造の平面図である。なお、
図1乃至
図8に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
図14に示すように、実施例1の別の変形例に係る配線基板7は、シグナル線用導体層5(S)同士の間に設けられる座刳り20に加えて、シグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)の間に別の座刳り29を備えていてもよい(選択的構成要素)。
また、実施例1の別の変形例に係る配線基板7に形成される座刳り29は、座刳り20と同様に、配線基板とフレキシブル基板の接続構造1(先の
図1,2を参照)の特性インピーダンスを増大させるという効果を有する。
上述のような実施例1及びその変形例に係る配線基板7では、形成可能な最大の寸法(長さ、幅、深さ)の座刳り20を備えていても、配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における特性インピーダンスがその技術分野において望まれる設計値に満たない場合がある。このような場合、配線基板7に座刳り20に加えて座刳り29を備えることで、配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における特性インピーダンスを増大させて、その技術分野において望まれる設計値と同じ値にする又は近づけるという効果を発揮させることができる。
なお、実施例1の別の変形例に係る配線基板7に形成される座刳り29の寸法は、座刳り20の寸法(長さ、幅、深さ)と同じである必要はなく、配線基板とフレキシブル基板の接続構造1における特性インピーダンスを設計値と同じ又は設計値に限りなく近くなるような任意の寸法に設定すればよい。
【0052】
また、GSSG構造では、このGSSG構造に関わる全ての構成を、一対のシグナル線用導体層5(S)の中間に存在する中心線(図示せず)に対して線対称をなすように配置する必要がある。したがって、実施例1の別の変形例に係る配線基板7が座刳り20に加えて座刳り29を備える場合は、1組のGSSG構造におけるシグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)の間のそれぞれに、上記中心線に対して線対称をなすように、同じ寸法(長さ、幅、深さ)を有する座刳り29を一対形成する必要がある。
なお、実施例1の別の変形例に係る配線基板7において、座刳り29の長さ、幅及び深さが、上記中心線に対して線対称をなさない場合は、対を成すシグナル線用導体層5(S)のそれぞれに逆位相の信号を伝送してこれらを差動線路として使用する際に、差動線路に伝送される信号が逆位相にならないという不具合が生じる。
【実施例2】
【0053】
先の
図1及び
図9を参照しながら実施例2に係る電子部品収納用パッケージ及びそれを用いてなる電子装置について詳細に説明する。
また、実施例2に係る電子部品収納用パッケージは、上述の実施例1(複数種類の変形例を含む)に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造を備えてなる電子部品収納用パッケージである。ここでは、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1を備える場合を例に挙げて説明している。
実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aは、
図1(a)−
図1(c)に示すように、上述の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1と、配線基板7の主面Pに設けられている電子部品搭載部14と、この電子部品搭載部14を囲むように設けられている枠部13とを備えてなるものである。
さらに、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aでは、シグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)は、配線基板7の主面Pに、それぞれシグナル線用ワイヤボンディングパッド17(S)とグランド線用ワイヤボンディングパッド17(G)を備えている。
さらに、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aは、配線基板7の主面Pにはシグナル線用ワイヤボンディングパッド17(S)とグランド線用ワイヤボンディングパッド17(G)を備えており、それぞれはシグナル線用導体層5(S)とグランド線用導体層5(G)に電気的に接続されている。
また、
図1に示す電子部品収納用パッケージ2Aは、配線基板7が枠部13の一部をなしている。すなわち、
図1に示すように枠部13がすべて絶縁部材4からなっていて配線基板7と一体のものであってもよいし、あるいは、枠部13の一部のみが絶縁部材4からなっていて配線基板7と一体のものであり、枠部13の残部が金属材質であってもよい。さらに、
図1に示す電子部品収納用パッケージ2Aは、実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1が、枠部13の外側に配されてなるものである。
さらに、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aは、
図1(b)に示すように枠部13の上端に金属製の金属リング16を選択的構成要素として備えていてもよい。この場合、枠部13の開口に金属製の蓋体21をシーム溶接により容易に接合することができるという効果を有する。
加えて、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aは、
図1(b),(c)に示すように、配線基板7の裏面Q側に設けられる第1のグランド領域6a上に選択的構成要素である放熱板15を備えていてもよい。この場合、第1のグランド領域6aは、放熱板15の接合用ベースとしても利用することができる。また、電子部品収納用パッケージ2Aが選択的構成要素である放熱板15を備えていることで、電子部品搭載部14に電子部品18が搭載された際の放熱性を高めることができる。この場合、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aの放熱性を向上させて、電子部品18の誤動作や破損等の不具合の発生を好適に防止することができる。
上述のような実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aによれば、上述の実施例1又はその変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造を備えていることで、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難い電子部品収納用パッケージを提供することができる。
【0054】
また、
図1(b)に示すように上述の実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aの電子部品搭載部14に電子部品18を搭載し、この電子部品18と、導体層5に延設されているワイヤボンディングパッド17とをボンディングワイヤ19により電気的に接続し、さらに、枠部13内の空間を気密状態を維持しながら金属製の蓋体21により封止したものが実施例2に係る電子装置3Aである。
このような実施例2に係る電子装置3Aでは、枠部13に直接蓋体21を接合してもよいし、
図1(b)に示すように金属リング16を介して蓋体21を接合してもよい。
さらに、実施例2に係る電子装置3Aでは、枠部13に選択的構成要素である貫通孔13aを備える場合は、この貫通孔13aに例えば同軸ケーブル等を挿設して電子部品18とこの同軸ケーブルとを接続して用いることができる。
このような実施例2に係る電子装置3Aによれば、実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2Aを備えていることで、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難く、かつこの接続部分が十分な機械的強度を有する電子装置を提供することができる。
【0055】
次に
図9を参照しながら実施例2の変形例及び他の変形例に係る電子部品収納用パッケージおよびそれを用いてなる電子装置について説明する。
図9(a)は本発明の実施例2の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造およびそれを用いてなる電子部品収納用パッケージおよびそれを用いてなる電子装置の断面図であり、(b)は本発明の実施例2の他の変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造およびそれを用いてなる電子部品収納用パッケージおよびそれを用いてなる電子装置の断面図である。なお、
図1乃至
図8に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。また、ここでは
図1に示す実施例2に係る電子部品収納用パッケージ2A及び電子装置3Aとの相違点について説明する。
実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bは、配線基板7とは別体からなる枠部24に配線基板7が挿設されてなるものである。
また、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bにおける配線基板7は、セラミック多層基板であり、絶縁部材4の厚み方向断面に内層グランド領域6bを備えている。さらに、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bでは配線基板7の主面Pが電子部品収納用パッケージ2Bの裏面側に配されるとともに、配線基板7の主面P側に放熱板15及びフレキシブル基板8が接合されている。
【0056】
加えて、
図9(a)に示す配線基板7では、
図1に示す場合と比較して上下逆転した状態で配線基板7が枠部24に設けられている。このため、配線基板7は絶縁部材4を貫通するビア5aを備えており、このビア5aに充填されるビア導体を介して、フレキシブル基板8から配線基板7の主面P側に伝送される高周波信号が配線基板7の裏面Q側に伝送されている。なお、
図9(a)に示す配線基板7では、電子部品搭載部14は配線基板7の裏面Q側に設けられている。
また、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bにおいて、枠部24の材質が金属である場合は、枠部24の開口部に、例えば金属製の蓋体21を直接シーム溶接することができる。
このような実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bによれば、上述の実施例1又はその変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造を備えていることで、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難い電子部品収納用パッケージを提供することができる。
【0057】
さらに、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Bの電子部品搭載部14に電子部品18を搭載し、この電子部品18と配線基板7におけるワイヤボンディングパッド17とをボンディングワイヤ19により接続し、さらに、枠部24の上部開口を蓋体21により封止してなるものが実施例2の変形例に係る電子装置3Bである。
このような実施例2の変形例に係る電子装置3Bによれば、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難く、かつこの接続部分が十分な機械的強度を有する電子装置を提供することができる。
【0058】
さらに、実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ及びそれを備えてなる電子装置について
図9(b)を参照しながら説明する。
実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージは、
図9(b)に示すように、平板状をなしている放熱板15と、この放熱板15の表面に設けられている電子部品搭載部14と、この電子部品搭載部を囲むように設けられている枠部13と、この枠部の外側に配置されている先の実施例1に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造(この変形例も含む)とを備え、配線基板7は枠部13に挿設されてなるものである。
先の実施例2やその変形例に係る電子部品収納用パッケージ2A,2Bでは、配線基板7に電子部品18が搭載されるとともに、この配線基板7に放熱板15が接合されている。これに対して実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cでは、配線基板7と別体に放熱板15を備え、この放熱板15に電子部品搭載部14を備えている。このため実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cは、先の実施例2やその変形例に係る電子部品収納用パッケージ2A,2Bよりも電子部品18から発せられる熱を放散する性能が高い。
なお、実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cは、配線基板7が枠部13の一部をなしていてもよい。すなわち、枠部13の一部のみが絶縁部材4からなっていて配線基板7と一体のものであり、枠部13の残部が金属材質であってもよいし、あるいは、材質を全て絶縁部材4にするとともに、枠部13を配線基板7と一体化してもよい。この場合、枠部13に配線基板7を固設する作業を省略できるので、実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cの生産効率を向上させることができる。
【0059】
さらに、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cでは、枠部13に選択的構成要素である貫通孔13aを備え、この貫通孔13aに必要に応じて光ファイバ取付け部材25を固設しておいてもよい。この場合、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cに必要に応じて光ファイバを接続させることができる。
加えて、実施例2の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cは、枠部13の上部開口に金属リング16を選択的構成要素として備えていてもよい。この場合、金属リング16にシーム溶接により金属製の蓋体21を接合して電子部品18を気密封止することができるという効果を有する。
このような実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cによれば、上述の実施例1又はその変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造を備えていることで、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難い電子部品収納用パッケージを提供することができる。
【0060】
また、実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cにおける電子部品搭載部14に電子部品18を搭載し、この電子部品18と配線基板7のワイヤボンディングパッド17とをボンディングワイヤ19により接続し、さらに、枠部13の上部開口を蓋体21で気密封止してなるものが実施例2の他の変形例に係る電子装置3Cである。
このような実施例2の他の変形例に係る電子装置3Cによれば、実施例2の他の変形例に係る電子部品収納用パッケージ2Cを備えていることで、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において高周波信号の伝送損失が生じ難く、かつこの接続部分が十分な機械的強度を有する電子装置を提供することができる。
【0061】
ここで本発明の効果を確認するために行ったシミュレーション結果について説明する。まず、この度のシミュレーションの条件について
図10乃至
図12を参照しながら説明する。
図10(a)はシミュレーション対象である仮想の配線基板とフレキシブル基板の接続構造の断面図であり、(b)は
図10(a)の部分拡大図である。なお、
図1乃至
図9に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
また、
図10(a),(b)に示す仮想の配線基板とフレキシブル基板の接続構造を構成する各構成要素の材質、厚み、誘電率等を表にまとめたものが
図11である。なお、金属材料の電気抵抗は材質に依らず全てゼロ(完全導体)とみなしてシミュレーションを行った。
【0062】
この度のシミュレーションでは、シミュレーションソフト(Ansys社製、製品名:Q3D Extractor ver12.0)を用い、上
図11に示す条件下において、先の
図10に示すような配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分の、信号の伝送方向に対する垂直断面における二次元シミュレーションを行った。
この度のシミュレーションは、先の実施例1及びその変形例に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1,1´における接続部分に関わるシグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aの幅を様々に変えた際に、接続部分の信号の伝送方向に対する垂直断面において特性インピーダンスがどのように変化するかを二次元シミューションにより検証したものである。
そして、この度のシミュレーションにおける各実施例、及び、各比較例の重畳領域を含むシグナル線用導体層の幅W
0、並びに、同じく重畳領域を含むシグナル線パッドの幅Wをそれぞれ表にまとめて示したものが
図12である。
この度のシミュレーションでは、シグナル線用導体層5(S)及びシグナル線パッド10aが重畳している重畳領域28に属しているシグナル線用導体層5(S)の幅W
0、及び、同じく重畳領域28に属しているシグナル線パッド10aの幅Wを
図12に示すように設定し、かつシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にズレが生じていない状態の接続部分の特性インピーダンスを座刳り20の寸法を最適化することにより100Ωになるように設計(設定)した。
すなわち、この度のシミュレーションでは、各実施例、及び、各比較例の重畳領域28を含むシグナル線用導体層5(S)の幅W
0、及び、同じく重畳領域28を含むシグナル線パッド10aの幅Wを、それぞれ
図12に示すように設定するととともに、座刳り20の寸法を最適化した。つまり、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iと、シグナル線パッド10aの中心線Jとの間に、ズレが生じていない状態の接続部分の特性インピーダンスが100Ωになるように座刳り20の寸法を設計(設定)した(
図12を参照)。
さらに、この状態から中心線Iと中心線Jとの間にシグナル線用導体層5(S)の幅方向へのズレが、ズレ公差δと同量生じた際の特性インピーダンスの設計値(100Ω)に対する変動量も調べた。なお、この度のシミュレーションでは、ズレ公差δを50μmに設定した。また、この度のシミュレーション結果については
図13に示した。
【0063】
図13に示すように、比較例1ではシグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wが等しく、いずれも100μmである。先の
図12に示すようにシグナル線用導体層5(S)の中心線I同士間の距離は500μmであるため、座刳り20を形成可能な幅は400μmである(
図12を参照)。なお、
図12に示すように、いずれの比較例、実施例においても座刳り20を形成可能な深さは絶縁部材4の厚みと同じ440μmとした。
また、上
図13に示すように比較例2A−2Dは、比較例1を基準にしてシグナル線用導体層5(S)の幅W
0を50μm単位で増加させた設計になっている。このため、比較例2A−2Dにおいて座刳り20を形成可能な幅は、比較例1よりもシグナル線用導体層5(S)の幅W
0が増加するにつれて小さくなっている。
なお、比較例2A−2Dにおいてシグナル線パッド10aの幅Wは、比較例1と同じでありかつ一定であるので、特許文献1に開示されている発明の場合とは異なり、フレキシブル基板8におけるシグナル線パッド10a(金属膜10)の密着強度の低下は生じない。なお、仮に比較例1に特許文献1に開示されている技術内容を適用すると、シグナル線パッド10aの幅Wは60−100μmの範囲内に設定されることになる。
【0064】
その一方で、実施例A−Cおよび比較例3は、比較例1を基準にしてシグナル線パッド10aの幅Wを50μm単位で増加させた設計になっている。このため座刳り20を形成可能な幅は比較例1と同一である。
【0065】
図13は先の
図10に示す各構成要素について
図11,12に示す条件下において中心線Iと中心線Jの間にズレが生じた場合の特性インピーダンスの設計値に対する変動量のシミュレーション結果を示す表である。
図13に示すように、比較例1では、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分においてシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にズレがない状態の特性インピーダンスは、座刳り20を設けなくとも設計値と同じ100Ωであった。またシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に50μmのズレが生じた場合の特性インピーダンスの設計値(100Ω)に対する変動量は2.8Ωであり、今回のシミュレーション結果において最大であった。
これに対して、比較例2A,2Bでは、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0をそれぞれ150μm、200μmに設定した際に、特性インピーダンスを設計値の100Ωにするには、座刳り寸法をそれぞれ155μm×200μm、265μm×400μmにする必要があった。また、比較例2A,2Bでは、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に50μmのズレが生じた場合の特性インピーダンスの設計値に対する変動量は、比較例2Aでは2.3Ω、比較例2Bでは2.0Ωであり、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0が広いほど特性インピーダンスの設計値からの変動量が小さくなる傾向が認められた。また、比較例2A,2Bでは、特性インピーダンスの設計値(100Ω)に対する変動量が上記比較例1よりも小さかった。
さらに、比較例2C,2Dでは、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0がそれぞれ250μm、300μmに設定されており、そのいずれにおいても座刳り20を形成可能な範囲内において、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスを100Ωにできる座刳り寸法は存在しなかった。
【0066】
また、本発明に係る実施例Aは、比較例2Aにおけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0の値とシグナル線パッド10aの幅Wの値を入れ替えたものである。この場合、座刳り寸法を100μm×75μmにすることで特性インピーダンスを設計値と同じ100Ωにすることができた。また、本発明に係る実施例Aの座刳り寸法は、比較例2Aの座刳り寸法よりも小さい。このため、本発明に係る実施例Aの座刳りをレーザーなどで加工する際の生産効率が比較例2Aよりも高い。また、本発明に係る実施例Aでは、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に50μmのズレが生じた場合の特性インピーダンスの設計値(100Ω)に対する変動量は2.6Ωであり、比較例2Aの場合よりも大きかった。
【0067】
他方、本発明に係る実施例Bは、比較例2Bにおけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0の値とシグナル線パッド10aの幅Wの値を入れ替えたものであり、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wは、(W=W
0+2δ)の関係式を満たしている。この場合、本発明に係る実施例Bの座刳り寸法を205μm×130μmに設定することで特性インピーダンスを設計値の100Ωにすることができた。そして、実施例Bにおける座刳り寸法は、比較例2Bの座刳り寸法よりも小さい。
また、本発明に係る実施例Bでは、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に50μmのズレが生じた場合の、設計値に対する特性インピーダンスの変動量は1.1Ωであり、比較例2Bの場合よりも小さかった。つまり、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において中心線Iと中心線Jの間にズレが生じた際の特性インピーダンスの変動抑制効果は、比較例2Bよりも実施例Bの方が高かった。
【0068】
他方、本発明に係る実施例Cは、比較例2Cにおけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0の値とシグナル線パッド10aの幅Wの値を入れ替えたものであり、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wは、(W=W
0+3δ)の関係式を満たしている。この場合、本発明に係る実施例Cの座刳り寸法を285μm×250μmにすることで特性インピーダンスを設計値の100Ωにすることができた。なお、
図13に示すように、比較例2Cでは特性インピーダンスを設計値の100Ωにするような座刳り寸法を設定することができなかった。
また、本発明に係る実施例Cでは、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間に50μmのズレが生じた場合の、設計値に対する特性インピーダンスの変動量は0.5Ωであり、上
図12に示す全条件中で最も小さかった。
つまり、本発明に係る実施例Cは、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分においてシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jの間にズレが、ズレ公差δと同量である場合の特性インピーダンスの変動抑制効果が最も大きかった。
【0069】
図13中に示す本発明の実施例A−Cを比較すると、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0に対するシグナル線パッド10aの幅Wの値が大きくなるにつれて、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において中心線Iと中心線Jの間にズレが生じた場合の特性インピーダンスの変動量が小さくなる傾向が認められた。
特に、シグナル線パッド10aの幅Wの値が(W
0+2δ)≦Wを満たす場合は、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において、シグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jの間にズレが、ズレ交差δと同量生じても、シグナル線用導体層5(S)がシグナル線パッド10aの幅方向にはみ出さないので、対向面積が変動しない。このため、設計値に対する特性インピーダンスの変動量を小さくするという効果をより確実に発揮させることができる。
さらに、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wが等しい場合を基準にして考えると、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0をシグナル線パッド10aの幅Wよりも大きく設定する場合(比較例2A、2B)に比べて、シグナル線用導体層5(S)の幅W
0よりもシグナル線パッド10aの幅Wを大きく設定する場合(実施例A−C)の方が、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスが設計値と同じ100Ωになるシグナル線パッド10aの幅Wの範囲を広くすることができる。
このため、本発明の実施例Cでは、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分において、中心線Iと中心線Jの間にズレが生じた場合の特性インピーダンスの設計値に対する変動量を上
図12の全条件中で最も小さくすることができた。これにより実施例Cでは、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分の特性インピーダンスを設計値の100Ωに近似させることができた。
つまり、シグナル線パッド10aの幅Wの値が(W
0+2δ)≦W≦(W
0+3δ)を満たしている実施例Cは、実製品(配線基板とフレキシブル基板の接続構造1において中心線I,Jの間に不可避なズレが生じている場合)の接続部分の特性インピーダンスを、設計値に近似させる効果が極めて優れていることを意味している。
【0070】
図13に示すように、比較例3は、比較例2Dにおけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0の値とシグナル線パッド10aの幅Wの値を入れ替えたものである。また、比較例3におけるシグナル線用導体層5(S)の幅W
0とシグナル線パッド10aの幅Wは、(W=W
0+4δ)の関係式を満たしている。この場合、上
図12に示されている座刳り20を形成可能な幅の範囲内で、配線基板7とフレキシブル基板8の接続部分における特性インピーダンスを設計値の100Ωにする座刳り寸法は存在しなかった。また、実施例A−Cでは、シグナル線パッド10aの幅Wがこの順で増大している。この場合、シグナル線パッド10aの幅Wの増大に伴って、シグナル線用導体層5(S)とシグナル線パッド10aの接続部分における特性インピーダンスを設計値の100Ωにする座刳り寸法が大きくなる傾向が認められた。さらに、シグナル線パッド10aの幅Wが(W
0+3δ)を超える場合(比較例3)は、本発明による有利な効果を発揮させることができないことが確認された。
【0071】
よって、この度のシミュレーションにより、本発明に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1によれば、配線基板7とフレキシブル基板8とを接続する際に、これらの接続部分においてシグナル線用導体層5(S)の中心線Iとシグナル線パッド10aの中心線Jとの間にズレが生じた場合に、特性インピーダンスの値が設計値(中心線Iと中心線Jとの間にズレが生じていない場合の特性インピーダンスの値)から大幅に変動するのを抑制できることが確認できた。
また、
図11,12及び
図13に示すように、上述のような効果が発揮される場合に、本発明に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1(実施例A−C)では、重畳領域28を含むシグナル線パッド10aの幅Wは、同じく重畳領域28を含むシグナル線用導体層5(S)の幅W
0に対して相対的に広くなる。このため、特許文献1に開示される発明の場合のように、フレキシブル基板8におけるシグナル線パッド10a(金属膜10)の密着強度の低下は起こらない。このため、シグナル線パッド10aとシグナル線用導体層5(S)とを接合材22を介して接合してなる接続構造(本発明)における接合強度の低下も起こらない。
このように、本発明に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1によれば、配線基板7フレキシブル基板8の接続部分における機械的強度の低下を抑制するという効果も同時に発揮させることができる。
【0072】
なお、本発明に係る配線基板7の絶縁部材4に使用可能なセラミックスとその比誘電率は、以下に示す通りである。
・アルミナ基板の比誘電率:7.5−10(アルミナ含有率と添加物の種類によって比誘電率が異なる)
・窒化アルミニウム基板の比誘電率:8.8
・各種ガラスセラミックス基板の比誘電率:4−10(ガラスセラミックスは種類が多く、成分によって比誘電率が異なる)
・窒化ケイ素基板の比誘電率:8.1
また、本発明に係る配線基板7の導体層5、ビア5a、第1のグランド領域6a及び内層のグランド領域6bは、タングステン、モリブデン、マンガン、銅、銀等の金属粉末を単独で又は複数種類を焼成温度に応じて適宜選んで適当なバインダ、溶剤等を混合して導体ペーストを作製し、この導体ペーストを焼成前のセラミックスグリーンシート等に印刷塗布するなどしてから焼成(900−1600℃)してなるものを使用できる。また、この導体層5、ビア5a、第1のグランド領域6aの厚みは、上
図11に記載されるものに特定される必要はなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更してよい。
【0073】
さらに、本発明に係る絶縁シート9に使用可能な材質は、上
図11に記載されているポリイミド以外にも、液晶ポリマーやテフロン(登録商標)を使用することができる。この絶縁シート9の材質としては、可撓性を有する絶縁材からなり、かつ半田や導電性接着剤を接合可能な程度の耐熱性を有し、かつ比誘電率が2−5であるものであれば支障なく使用することができる。
また、本発明に係るフレキシブル基板8の金属膜10として使用可能な材質は、上
図11に記載されている銅以外に、アルミニウムを使用することができる。この金属膜10としては、薄膜状に加工することができ、かつ半田や導電性接着剤を接合可能な程度の耐熱性を有するものであれば支障なく使用することができる。
なお、接合材22は上述のように半田以外にも導電性接着材を使用することができる。
そして、本発明に係る配線基板とフレキシブル基板の接続構造1を備えることで、10−70GHzの高周波信号を好適に伝送することができる。
なお、実施例1及びその変形例に係る発明(配線基板とフレキシブル基板の接続構造1)において定義される変数(パラメータ)は、
図10に示す仮想の配線基板とフレキシブル基板の接続構造における各構成要素の材質を、上述されるものに適宜置き換えた場合でもそのまま適用することができる。