特許第6784954号(P6784954)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6784954熱間鍛造用金型及びそれを用いた鍛造製品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784954
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】熱間鍛造用金型及びそれを用いた鍛造製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21J 13/02 20060101AFI20201109BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20201109BHJP
   C23C 28/04 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   B21J13/02 L
   B21J13/02 A
   C22C19/03 J
   C23C28/04
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-189485(P2016-189485)
(22)【出願日】2016年9月28日
(65)【公開番号】特開2018-51583(P2018-51583A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2019年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】上野 友典
【審査官】 豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−069703(JP,A)
【文献】 特開平06−254648(JP,A)
【文献】 特開昭62−050429(JP,A)
【文献】 特開昭54−065145(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 13/02
B21J 3/00
C22C 19/03
C23C 28/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、W:10.3〜11.0%、Mo:9.0〜11.0%、Al:5.8〜6.8%であり、且つ、残部がNi及び不可避的不純物であるNi基超耐熱合金からなる組成を有する基材を備える熱間鍛造用金型であって、
前記熱間鍛造用金型の成形面、側面の少なくとも一方に、ガラス潤滑剤とは別の、Siを主成分とする酸化物被覆層を有し、
前記基材と前記酸化物被覆層の間に、厚さ1.0〜5.0μmのアルミ酸化物層を有することを特徴とする熱間鍛造用金型。
【請求項2】
加熱された鍛造素材を上型および下型によって熱間鍛造する鍛造製品の製造方法であって、前記上型及び下型として、請求項1に記載の熱間鍛造用金型を用いる鍛造製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた耐酸化性を有する熱間鍛造用金型及びそれを用いた鍛造製品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
耐熱合金からなる製品の鍛造において、鍛造素材は変形抵抗を低くするため加熱される。しかしながら、耐熱合金は高温でも高い強度を有するため、その鍛造に用いる熱間鍛造用金型には高温での高い機械的強度が必要である。
また、熱間鍛造において熱間鍛造用金型の温度が鍛造素材に比べて低い場合、抜熱により鍛造素材の加工性が低下するため、例えばAlloy718やTi合金等の難加工性材からなる製品は、素材とともに熱間鍛造用金型(以下、単に金型と言うことがある)を加熱して鍛造することにより行われる。従って、熱間鍛造用金型は、鍛造素材と同じかもしくはそれに近い高温で、高い機械的強度を有したものでなければならない。この要求を満たす熱間鍛造用金型として、大気中での金型温度1000℃以上の熱間鍛造に使用できるNi基超耐熱合金が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
なお、本発明で言う熱間鍛造とは、熱間鍛造用金型の温度を鍛造素材の温度まで近づけるホットダイ鍛造と、鍛造素材と同じ温度にする恒温鍛造を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62−50429号公報
【特許文献2】特公昭63−21737号公報
【特許文献3】米国特許第4740354号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したNi基超耐熱合金は、高温圧縮強度が高いという点では有利である。ところで、前記の難加工性材を熱間鍛造する場合、難加工性材の表面をガラス潤滑剤で被覆して鍛造荷重を低減したり、鍛造素材の温度低下を防止することが行われることがある。ところが、このガラス潤滑剤で上述のNi基超耐熱合金製の熱間鍛造用金型が腐食を起こすと言う問題が判明した。ガラス潤滑によって、熱間鍛造用金型が腐食してしまうと、熱間鍛造用金型の作業面に形成された型彫形状が変化するおそれがあり、このガラス潤滑による腐食を防止することが望まれた。
本発明の目的は、上述したNi基超耐熱合金製の熱間鍛造用金型において、ガラス潤滑剤による腐食を防止した熱間鍛造用金型及びそれを用いた鍛造製品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、質量%で、W:10.3〜11.0%、Mo:9.0〜11.0%、Al:5.8〜6.8%であり、且つ、残部がNi及び不可避的不純物であるNi基超耐熱合金からなる組成を有する基材を備える熱間鍛造用金型であって、
前記熱間鍛造用金型の成形面、側面の少なくとも一方にSiを主成分とする酸化物被覆層を有し、
前記基材と前記酸化物被覆層の間に、厚さ1.0〜5.0μmのアルミ酸化物層を有する熱間鍛造用金型である。
また本発明は、加熱された鍛造素材を上型および下型によって熱間鍛造する鍛造製品の製造方法であって、前記上型及び下型として、前記の熱間鍛造用金型を用いる鍛造製品の製造方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の熱間鍛造用金型は、ガラス潤滑剤による腐食を防止することができ、より確実に大気中で難加工性材の熱間鍛造を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】酸化とそれに伴うスケール飛散を防止する効果を示した外観写真である。
図2】加熱と冷却の繰り返しに対する耐酸化性の低下の抑制を示した外観写真である。
図3】本発明の自己酸化被膜によるアルミ酸化物層を示す電子顕微鏡の反射電子像とAlの元素マップとO(酸素)の元素マップを示す断面写真である。
図4】ガラス潤滑剤による母材の腐食現象を示した外観写真である。
図5】被覆層による腐食の抑制を示した外観写真である
図6】比較例の反射電子像とAlの元素マップとO(酸素)の元素マップを示す断面写真である。
図7】本発明例の電子顕微鏡の反射電子像とAlの元素マップとO(酸素)の元素マップを示す断面写真である。
図8】成形面を被覆層で被覆した熱間鍛造用金型の恒温鍛造前後の外観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
先ず、本発明の熱間鍛造用金型の化学組成について説明する。本発明で規定する下記の合金組成を有するNi基超耐熱合金は、高温圧縮強度が、他の熱間鍛造用金型材料に比べて優れており、大気中で恒温鍛造やホットダイ鍛造等の熱間鍛造が行える。単位は質量%である。
<W:10.3〜11.0%>
Wは、オーステナイトマトリックスに固溶するとともに、析出強化相であるNiAlを基本型とするガンマプライム相にも固溶して合金の高温強度を高める。また、Wは、粒界にWとMoの固溶体からなる体心立方晶のα−(Mo、W)相を晶出し、合金の粒界強度を高めると同時に、合金の被削性を高める作用がある。一方、Wは、耐酸化性を低下させる作用も有し、且つ、11.0%を超えて添加すると割れが発生し易くなる。高温強度を高め、耐酸化性の低下を抑制し、且つ、割れの発生をより抑制する観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のWの含有量は10.3〜11.0%とする。Wの効果をより確実に得るための好ましい下限は10.4%であり、好ましいWの上限は10.7%である。
【0009】
<Mo:9.0〜11.0%>
Moは、オーステナイトマトリックスに固溶するとともに、析出強化相であるNiAlを基本型とするガンマプライム相にも固溶して合金の高温強度を高める。一方、Moは、耐酸化性を低下させる作用を有する。高温強度を高め、且つ、耐酸化性の低下をより抑制する観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のMoの含有量は9.0〜11.0%とする。Moの効果をより確実に得るための好ましい下限は9.5%であり、更に好ましくは9.8%である。また、好ましいMoの上限は10.5%であり、更に好ましくは、10.2%である。
【0010】
<Al:5.8〜6.8%>
Alは、Niと結合してNiAlからなるガンマプライム相を析出し、合金の高温強度を高め、合金の表面にアルミナの被覆を生成し、合金に耐酸化性を付与する作用がある。一方、Alの含有量が多過ぎると、共晶ガンマプライム相を過度に生成し、合金の高温強度を低める作用もある。耐酸化性及び高温強度を高める観点から、本発明におけるNi基超耐熱合金中のAlの含有量は5.8〜6.8質量%とする。Alの効果をより確実に得るための好ましい下限は6.0%であり、更に好ましくは6.1%である。また、好ましいAlの上限は6.6%であり、更に好ましくは6.4%である。
【0011】
合金は、基本的に、必須成分であるAl、W、Moと、さらに不可避的不純物を除く残部がNiで構成される。本発明におけるNi基超耐熱合金においてNiはガンマ相を構成する主要元素であるとともに、Al、Mo、Wとともにガンマプライム相を構成する。
本発明におけるNi基超耐熱合金は、不可避的不純物として、Ni、Mo、W、Al以外の成分を含むことができる。
【0012】
<酸化物被覆層>
本発明では、上記の合金組成を有する熱間鍛造用金型の基材にSiを主成分とする酸化物被覆層を形成する。
上記の合金組成を有する熱間鍛造用金型にSiを主成分とする酸化物被覆層を形成する目的は、スケールの剥離を防止するものである。上述したNi基超耐熱合金は、高温圧縮強度が高いという点では有利であるものの、耐酸化性の点では大気中で加熱した後の冷却時に金型表面から酸化ニッケルの細かなスケールが飛散するため作業環境の劣化及び形状劣化の恐れがあるという問題があった。金型表面の酸化とそれに伴うスケールの飛散の問題は、大気中で使用できるという効果を最大限に生かす上で大きな問題となる。
そこで、熱間鍛造用金型の表面を緻密な保護被膜(被覆層)で覆うことで高温での大気中の酸素と金型母材との直接的な接触を遮断させ、金型表面の酸化を防止するものである。そのため、本発明では、Siを主成分とする酸化物を層状に被覆して酸化物被覆層とし、熱間鍛造用金型の酸化を防止する。
【0013】
本発明においては、前記酸化物被覆層がSiを主成分とする。この理由は、特に金型表面の酸化を防止する効果が優れているからである。なお、本発明で言うSiを主成分とする酸化物被覆層とは、自己酸化被膜のように、熱間鍛造前の加熱や熱間鍛造中に熱間鍛造用金型の最表面に自然に形成される酸化被膜ではなく、塗布、噴霧、蒸着等により形成されるものを言う。前記の「Si酸化物を主成分とする酸化物被覆層」とは、熱間鍛造工程中に自然に形成される自己酸化被膜以外のものである。なお、前記酸化物被覆層には、所謂ガラス潤滑は含まない。ガラス潤滑剤のような、1回の熱間鍛造でその効果がほぼ損なわれるものは本発明の「酸化物被覆層」には含まない。
また、「主成分」とは、酸化物被覆層を、例えば、エネルギー分散型エックス線分析装置(以下、EDXと記す)にて面分析による定量分析を行ったとき、検出される元素のうち、酸素や窒素などのガス成分を除いた成分の中でSiの割合が最も多いことを言う。ガス成分を除いた定量分析の結果では、おおよそ30質量%以上である。好ましくは50質量%以上である。
なお、Siを主成分とする酸化物被覆層の被覆方法として、例えば蒸着、噴霧、塗布等の方法がある。このうち、塗布や噴霧は、コストの面で有利であり、広範囲にわたってSiを主成分とする酸化物被覆層の形成が可能であることから、好ましい被覆方法である。
【0014】
本発明で成形面または側面の何れかまたは両方の表面に無機材料の被覆層を形成するのは、通常、この2つの面が高温の大気雰囲気に曝されるからである。本発明では、成形面と側面の何れかまたは両方に無機材料の被覆層を形成するが、スケール剥離の効果をより確実にするには、成形面と側面の両方に無機材料の被覆層を形成することが良い。なお、本発明で言う「成形面」とは、被鍛造材を熱間鍛造するために被鍛造材を押圧する面を言い、例えば、所謂金敷のようにその表面形状が平坦であっても良いし、型彫り面が形成されていても良い。
本発明において、スケール剥離の効果を更に確実なものとするには、熱間鍛造用金型の全ての面(成形面、側面、底面)に無機材料の被覆層を形成することが好ましい。これにより、高温での大気中の酸素と金型の母材の接触による金型表面の酸化とそれに伴うスケール飛散をより確実に防止し、作業環境の劣化及び形状劣化を防止できる。
【0015】
<アルミ酸化物層>
本発明では、基材と前記酸化物被覆層の間に、厚さ0.5〜5.0μmのアルミ酸化物層を形成する。前述の酸化物被覆層は、例えば塗布や噴霧によって形成するものであるが、アルミ酸化物層は前記組成を有する金型基材(母材)が含有するAlの自己酸化被膜である。この自己酸化被膜によるアルミ酸化物層を生成させることで、ガラス潤滑剤による金型の腐食を防止する。なお、このアルミ酸化物層は、アルミ酸化物層の欠落部が部分的に存在するような不連続な状態は好ましくなく、連続的に形成されていることが好ましい。
つまり、例えば、鍛造素材にガラス潤滑剤を被覆したときに、前記ガラス潤滑剤によって前記の酸化物被覆層または酸化物被覆層と母材が腐食される現象を生じる場合があるが、その時にAlの自己酸化被膜が母材との界面に存在するとガラス潤滑剤の腐食の進行を妨げるバリア層として機能する。なお、自己酸化被膜の形成には、金型表面に酸化物被覆層を形成した後に予備酸化処理を行うことで形成させることができる。
なお、前記のAlの自己酸化被膜は、例えば、900〜1100℃で3〜5時間の予備酸化を行うことで形成することができる。この予備酸化の条件が熱間鍛造前に行う熱間鍛造用金型の予備加熱の条件と異なる場合は、自己酸化被膜を形成するために特別に予備酸化を行う必要がある。
【0016】
また、前記のアルミ酸化物層の厚さは、1.0〜5.0μmとする。これは、アルミ酸化物層の厚さが1.0μm未満であるとガラス潤滑剤による腐食の進行を妨げるバリア層として十分な効果が得られない。また、部分的にバリア層としての効果のあるアルミ酸化物層が形成されていない不連続な状態となりやすくなる。不連続なアルミ酸化物層では、ガラス潤滑剤による腐食の進行を妨げるバリア層として十分な効果が得られない。一方、アルミ酸化物層の厚さが5.0μmを超える厚さとしても、バリア層としての効果が飽和し、自己酸化被膜形成に時間がかかるだけである。そのため、アルミ酸化物層の厚さは、1.0〜5.0μmとする。
以上、説明する本発明の熱間鍛造用金型を上型および下型に用いて熱間鍛造すると、例えば、大気中の恒温鍛造であっても、金型表面の酸化とそれに伴うスケールの飛散の問題とガラス潤滑剤による腐食の進行を抑制することが可能である。
【実施例】
【0017】
(実施例1)
以下の実施例で本発明をさらに詳しく説明する。真空溶解にて表1に示すNi基超耐熱合金のインゴットを製造した。なお、作製したインゴットの組成を有する合金は表2に示すような優れた高温圧縮強度の特性を有するものであり、熱間鍛造用金型として十分な特性を有するものである。なお、高温圧縮強度(圧縮耐力)は1100℃で行ったものである。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
上記のインゴットから直径50mm、高さ10mmの円盤状の試験片を切出し、その試験片の円状の表面の片方を500番相当に研磨した後、研磨面に表3に示すSiを主成分とする酸化物被覆層(以下、酸化物被覆層という)を塗布によって100〜150μm程度形成して試験片を作製した。この試験片を用いて、被覆層の形成による金型の表面の酸化及びスケール飛散の防止効果の評価を行った。今回作製した試験片は、熱間鍛造用金型の応力の加わらない表面を模擬したものである。また、被覆層は円状の表面の片面のみに形成した。なお、エネルギー分散型エックス線分析装置(EDX)にて、酸化物層表面を定量分析した結果、ガス成分を除いた成分の中でSiが50質量%を超えるSiを主成分とする酸化物層であることを確認した。
【0021】
【表3】
【0022】
上記の酸化物被覆層を形成した試験片及び酸化物被覆層を形成しない比較材を用いて、1100℃に加熱された炉に投入し、1100℃にて3時間保持した後炉から取り出して空冷させる加熱試験を行った。加熱試験は、繰り返しの使用による耐酸化性の低下を評価するため、冷却した後再投入することで繰り返し行った。被覆層が完全に剥離した時点でその試験片については試験を中止することとし、最大10回まで繰り返した。なお、用いた比較材は、上記酸化物被覆層を形成した試験片と同形状で、同じ研磨を施したものである。
図1に1回加熱後の試験結果の外観写真を示す。酸化物被覆層を形成しない試験片の表面に黒く写っているのは剥離した細かなスケールである。このことから、酸化物被覆層を形成しない試験片では表面の酸化とそれに伴うスケールの飛散が生じていることがわかる。一方、酸化物被覆層を形成した試験片では、被覆層により表面の酸化が抑制され、評価面における金型の母材の酸化とそれに伴うスケールの飛散が防止されていることがわかる。
図2に加熱試験10回目後の外観写真を示す。酸化物被覆層を形成した試験片では、加熱−冷却を10回繰り返してもスケールの剥離は確認されなかった。一方、酸化物被覆層を形成しない試験片では、1乃至10回目まで、表面の酸化とそれに伴うスケールの飛散が同様に見られた。
図3(a)に酸化物被覆層を形成した試験片の加熱試験10回目後の断面方向から観察したFE−EPMA反射電子像、(b)にAlの元素マップ、(c)にOの元素マップを示す。元素マップ画像における濃淡は測定対象元素の濃度に対応しており、白い程濃度が高い。図3から、母材の被覆層側表面にAlとOが濃化しており、ここにアルミ酸化物層が形成されていることが分かる。このアルミ酸化物層は表3に示す組成の塗料を塗布後1100℃にて3時間の保持中に形成された厚さが1.0〜2.5μmのAlの自己酸化被膜の層である。本発明で規定する層構造となった試験片は優れた耐酸化性を有することが確認された。
【0023】
(実施例2)
次にガラス潤滑剤による母材の腐食を確認実験した。
酸化物被覆層を形成させた熱間鍛造金型を用いてガラス潤滑剤を被覆した被鍛造材を鍛造するとき、前記ガラス潤滑剤によって酸化物被覆層または酸化物被覆層と母材が腐食される現象を生じる場合がある。
まず、ガラス潤滑剤により母材が腐食される現象を評価するため、前記比較材と同様に加工した試料上の中心付近に400〜500mgのガラス潤滑剤を塗布した試験片を3個作製した。作製した試験片を加熱された炉に投入し、3時間保持した後炉から取り出して空冷させる加熱試験を、実機において想定される温度である900、1000、1100℃に対して各1回行った。なお、加熱試験における雰囲気は大気とし、本試験以降の試験の雰囲気も全て大気である。表4に使用したガラス潤滑剤の組成を示す。
図4(a)に900℃加熱試験前、(d)に900℃加熱試験後の試料の写真を示す。また、図4(b)に1000℃加熱試験前、(e)に1000℃加熱試験後、(c)に1100℃加熱試験前、(f)に1100℃加熱試験後の試料の写真を示す。900、1000、1100℃全てにおいて前記ガラス潤滑剤による母材の腐食が起こっており、温度の上昇に伴い反応が激しくなっていることが分かる。
【0024】
【表4】
【0025】
次に、本発明で規定する層構造を有する熱間鍛造金型における前記腐食現象を評価するために、前記実施例1の試験片と同様に準備した試験片に予備酸化処理を施した後、被覆層上の試験片の中心付近に表4に示す組成を有するガラス潤滑剤を400〜500mg塗布した試験片を作製した。この試験片は、本発明で規定する層構造を有する熱間鍛造金型を用いて熱間鍛造する場合に、ガラス潤滑剤が金型の作業面(型彫り面)に残存した状態を模擬したものである。この試験片を用いて、最もガラス潤滑による腐食が激しかった1100℃に加熱された炉に投入し、1100℃にて3時間保持した後炉から取り出して空冷させる加熱試験を1回行った。表5に前記試験片の予備酸化処理の熱処理条件と酸化物被覆層の膜厚を示す。
【0026】
【表5】
【0027】
図5(a)にNo.Aの加熱試験前、(c)に加熱試験後の写真を示す。また、図5(b)にNo.Bの加熱試験前、図5(d)に加熱試験後の写真を示す。No.Aでは前記ガラス潤滑剤による被覆層と母材の腐食が生じている一方、No.Bの試験片では腐食が完全に抑制されていることが分かる。
図6(a)にNo.Aの予備酸化後の被覆層と母材を樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、断面方向から観察したFE−EPMA反射電子像、(b)にAlの元素マップ、(c)にOの元素マップを示す。また、図7(a)〜(c)に、同様に観察したNo.Bの観察結果を示す。
No.Aではアルミ酸化物層の厚さが0.5μm程度と薄く、ガラス潤滑剤の腐食バリア層としては不十分であった。一方、No.Bでは厚さが1.0〜2.5μmのAlの自己酸化被膜によるアルミ酸化物層が形成されて本発明で規定する層構造となっていることが分かる。No.Bの試験片はガラス潤滑剤による腐食を防止可能なことが確認された。
【0028】
(実施例3)
基材として、表6に示す組成を有し、表3に示す酸化物被覆層を、成形面(作業面)に形成し直径300mm、高さ100mmの金型を用いて、酸化物被覆層の酸化及びスケール飛散の防止効果と前記ガラス潤滑剤による腐食抑制効果の評価を行った。
【0029】
【表6】
【0030】
評価は、金型と鍛造素材を共に980℃に加熱した恒温鍛造とした。鍛造素材にはNi基合金を、潤滑剤には表4に示すガラス潤滑剤を用い、金型の成形面に最大約150MPaの応力が加わる恒温鍛造を2回行った。鍛造前の予備酸化は、900℃1時間保持後、更に980℃1時間保持である。
図8(a)に酸化物被覆層となるSiを主成分とする酸化物の塗料を塗布後の金型の成形面の写真を、図8(b)に前記恒温鍛造後の金型の成形面の写真を示す。金型の成形面に形成した酸化物被覆層は、前記恒温鍛造により型彫り面内にわずかな剥離部分が確認されたものの、十分に被覆層が維持されていることがわかる。また、成形面のほぼ全てにおいて金型母材の酸化とそれに伴うスケールの飛散が防止されるとともに、前記ガラス潤滑剤による腐食が抑制されていることがわかる。
【0031】
以上の結果から、本発明の層構造を有する熱間鍛造用金型は、加熱と冷却とを繰返しても耐酸化性が高く金型表面の酸化とそれに伴うスケールの飛散を防止でき、更に、ガラス潤滑剤による金型の腐食を防止可能なことが確認された。
このことから、ガラス潤滑を必要とする難加工性材の熱間(恒温)鍛造において、より確実に大気中での熱間鍛造を可能とすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8