【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター「知」の集積と活用の場による革新的技術創造促進事業(うち「知」の集積と活用の場による研究開発モデル事業)、産業技術力強化法第19条の適用を受けるもの
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって表面の少なくとも一部が直接的に被覆された強化繊維である表面被覆強化繊維と、母材としての樹脂であるマトリックス樹脂と、を含む、中間基材の製造方法であって、
前記ナノセルロース(NCe)のみが分散媒中に分散されている分散液であるナノセルロース分散液を調製する第1工程と、
前記強化繊維の表面の少なくとも一部に前記ナノセルロース分散液が塗布された中間素材繊維を調製する第2工程と、
前記中間素材繊維を乾燥させて前記強化繊維の表面の少なくとも一部に塗布された前記ナノセルロース分散液から前記分散媒を除去することにより前記強化繊維の表面の少なくとも一部に前記ナノセルロース層を形成させて前記表面被覆強化繊維を調製する第3工程と、
前記表面被覆強化繊維と前記マトリックス樹脂とを組み合わせて前記中間基材を調製する第4工程と、
を含み、
前記ナノセルロース(NCe)は官能基によって変性されたセルロースナノファイバ(CeNF)であり、
前記強化繊維は炭素繊維(CF)であり、
前記マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂である、
中間基材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《第1実施形態》
以下、本発明の第1実施形態に係る表面被覆強化繊維(以降、「第1強化繊維」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0018】
〈構成〉
第1強化繊維は、ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって表面の少なくとも一部が直接的に被覆された強化繊維である表面被覆強化繊維である。
【0019】
ナノセルロース(NCe)としては、例えば、α−セルロース等の市販のセルロースを採用することができる。或いは、例えばTEMPO酸化等の手法により再生セルロースをナノファイバ化することによって得られるミクロフィブリル等をNCeとして採用してもよい。好ましくは、ナノセルロース(NCe)はセルロースナノファイバ(CeNF:Cellulose NanoFiber)である。
【0020】
NCeの直径は1nm乃至1000nm程度、平均長さは100nm乃至1000μm程度であることが望ましい。入手したセルロースの直径及び/又は長さが過大である場合は、例えばミル及びアトライタ等の微細化処理装置(粉砕機)を用いて微細化することができる。ミルの具体例としては、例えば、ボールミル、ビーズミル、サンドミル、及びブレードミル等を挙げることができる。
【0021】
ナノセルロース層は、ナノセルロース(NCe)からなる層である限り特に限定されない。ナノセルロース層の構造もまた特に限定されないが、具体例としては、例えば、NCeの繊維によって構成されるネットワーク構造等を挙げることができる。この場合、当該ネットワーク構造は、例えばNCeの繊維同士の物理的な絡み合い及び/又は(例えば、水素結合等を介する)化学的な結合等を含む様々な結合様式の何れによって形成されていてもよい。
【0022】
上記のように、第1強化繊維においては、ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって強化繊維の表面の少なくとも一部が直接的に被覆されている。換言すれば、強化繊維の表面の少なくとも一部において、他の物質が介在すること無く、ナノセルロース層を構成するNCeが強化繊維に直接的に結合している。この結合は、例えば、酸又はアルカリ等の薬剤による処理、ブラスト加工、及び/又は電子線照射処理等によって強化繊維の表面に形成された凹凸にNCeの繊維が絡み付いたり係合したりすることによる物理的な結合であってもよい。或いは、例えば、酸又はアルカリ等の薬剤による処理、酸性電解液又はアルカリ性電解液を用いる液相電解酸化等の酸化処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、及び/又は紫外線照射処理等によって強化繊維の表面に生成される官能基とNCeが有する官能基との間における化学的な結合であってもよい。即ち、第1強化繊維を構成する強化繊維は、何等かの表面改質が施された強化繊維であってもよい。
【0023】
尚、ナノセルロース層を強化繊維の表面に形成させる具体的な方法は特に限定されないが、強化繊維の表面のより多くの領域に、好ましくは全ての領域に、ナノセルロース(NCe)を均一に分布させることが可能な方法が望ましい。具体的には、例えば、NCeが水又は有機溶媒等の分散媒中に分散されている分散液を強化繊維の表面に塗布した後に蒸発等によって分散媒を除去することにより、ナノセルロース層を強化繊維の表面に形成させることができる(詳しくは後述する)。
【0024】
強化繊維は、第1強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料から製造される成形体の用途及び製造条件等に応じて、例えば、当該技術分野において種々の繊維強化樹脂複合材料における強化繊維として使用される多種多様な強化繊維から適宜選択することができる。このような強化繊維の具体例としては、例えば、炭素繊維(CF)、ガラス繊維(GF)、セラミック繊維(CeF)、金属繊維(MF)及び樹脂繊維(RF)等を挙げることができる。
【0025】
セラミック繊維(CeF)の具体例としては、例えば、シリカ繊維、アルミナ繊維、ムライト繊維、ジルコニア繊維及び炭化ケイ素繊維等を挙げることができる。金属繊維(MF)の具体例としては、例えば、鉄繊維、ステンレス鋼繊維、銅繊維、黄銅繊維、アルミニウム(Al)繊維及びチタン(Ti)繊維等を挙げることができる。樹脂繊維(RF)の具体例としては、例えば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリイミド繊維、及びポリアミドイミド繊維等を挙げることができる。第1強化繊維を構成する強化繊維は、上記のような種々の強化繊維からなる群より選ばれる少なくとも1種の繊維である。即ち、強化繊維は、上記のような種々の強化繊維のうちの何れか1種であってもよく、或いは上記のような種々の強化繊維のうちの何れか2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
〈効果〉
前述した従来技術のようにナノセルロース(NCe)を含むサイジング剤を強化繊維に予め塗布する場合、サイジング剤を強化繊維の表面全体に均一に塗布することは困難である。重ね塗り等によりサイジング剤を強化繊維の表面全体に行き渡らせたとしても、NCeの凝集性が非常に高いことから、サイジング剤中に分散可能なNCeの量には限界がある。従って、例えば
図1に示すように、NCe21を含むサイジング剤50によって表面が被覆された従来技術に係る表面被覆強化繊維30及びマトリックス樹脂40を含む繊維強化樹脂複合材料100においては、サイジング剤50中に分散されているNCe21の一部のみが強化繊維10に結合しているに過ぎない。即ち、強化繊維10の表面に結合しているNCe21の密度(単位面積当たりの数)を効果的に高めることは困難である。その結果、繊維強化樹脂複合材料100において、強化繊維10とマトリックス樹脂40との界面における密着性を向上させることは困難である。
【0027】
上記に対し、第1強化繊維においては、上記のように、ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって強化繊維の表面の少なくとも一部が直接的に被覆されている。具体的には、例えば
図2に示すように、ナノセルロース層20を構成するNCe21が強化繊維10の表面に直接的に結合している。従って、上述した従来技術のようにNCe21を含むサイジング剤50を強化繊維10に予め塗布する場合と比べて、強化繊維10に直接的に結合しているNCe21の密度がより高い。その結果、第1強化繊維31及びマトリックス樹脂40を含む繊維強化樹脂複合材料101において、強化繊維10とマトリックス樹脂40との界面における密着性を向上させることができる。
【0028】
また、ナノセルロース層の表面にはNCeの繊維によって凹凸が形成されているので、所謂「アンカー効果」によっても、強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性が高まる。このように、第1強化繊維によれば、強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性を向上させることができるので、第1強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料の機械的強度を高めることができる。
【0029】
更に、第1強化繊維のナノセルロース層はサイジング剤を含まないので、前述したようなサイジング剤によって形成される層の脆化及び後工程におけるマトリックス樹脂による含浸不良等の問題が生ずる可能性が無い。
【0030】
加えて、一般的にナノセルロース(NCe)は柔軟であるためナノセルロース層は緩衝材(クッション)としても機能することができるので、強化繊維とマトリックス樹脂との間における層間剥離を抑制して、繊維強化樹脂複合材料としての曲げ強度及び衝撃強度等の機械的強度を向上させることができる。
【0031】
しかも、ナノセルロース(NCe)はマトリックス樹脂の全体に添加されるのではなく、強化繊維とマトリックス樹脂との界面にナノセルロース層として配置される。従って、第1強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料の総量に対するNCeの添加量を低減することができるので、母材全体としての組成が変化して所期の特性を達成することが困難となる虞を低減することができる。
【0032】
更に、ナノセルロース(NCe)同士の強固な水素結合により高いガスバリア性(気密性)が達成されるので、例えば炭素繊維及び金属繊維等、酸素及び/又は水等との接触に起因する劣化が懸念される強化繊維の劣化防止に寄与し、結果として得られる繊維強化樹脂複合材料において高い機械的強度を達成することができる。具体的には、例えば、所定の直径及び長さ(例えば、3nm乃至4nmの直径及び100nm乃至数μmの直径)を有するセルロースナノファイバ(CeNF)をNCeとして採用する場合、高いガスバリア性が達成される。また、CeNFが有する電荷量が高いほど、或いは、CeNFのアスペクト比が小さいほど、より高いガスバリア性が達成される。
【0033】
以上のように、第1強化繊維によれば、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性を高めて、強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料からなる成形体の機械的強度を効果的に高めることができる。
【0034】
《第2実施形態》
以下、本発明の第2実施形態に係る表面被覆強化繊維(以降、「第2強化繊維」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0035】
当業者に周知であるように、セルロースは分子式(C
6H
10O
5)
nによって表される炭水化物(多糖類)であり、その表面に存在する多数の水酸基が水分子と水素結合を形成することができるので親水性が高い。従って、ナノセルロース(NCe)を分散媒としての水に分散させることは容易であるが、水以外の分散媒中においてはナノセルロース(NCe)同士が水素結合によって凝集し、均一に分散させることは困難である。従って、上述したようにNCeが水以外の分散媒中に分散されている分散液を用いて本発明強化繊維を製造する場合は、NCe同士の水素結合を弱めたり、NCeと分散媒との親和性を高めたりする必要がある。
【0036】
また、本発明強化繊維においては強化繊維の表面の少なくとも一部がナノセルロース層によって被覆されているので、マトリックス樹脂と本発明強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合材料においてはマトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部にはナノセルロース(NCe)が介在する。従って、当該複合材料の機械的強度を高めるためにはNCeと強化繊維との親和性及びNCeとマトリックス樹脂との親和性を高める必要がある。
【0037】
〈構成〉
そこで、第2強化繊維は、上述した第1強化繊維であって、ナノセルロース(NCe)が官能基によって変性されている、表面被覆強化繊維である。
【0038】
ナノセルロース(NCe)を変性させるためにNCeに導入される官能基としては、上述した分散媒、強化繊維及びマトリックス樹脂に対する高い親和性を有する官能基が好ましい。具体的には、高い親水性を有する分散媒、強化繊維及びマトリックス樹脂が採用される場合は、上記官能基としては、例えば、ヒドロキシル基、アルコール基、(第1級、第2級、第3級、及び第4級のアミノ基を含む)アミノ基、カルボキシル基、及びカルボニル基等の親水性基を挙げることができる。逆に、高い疎水性を有する分散媒、強化繊維及びマトリックス樹脂が採用される場合は、上記官能基としては、例えば、アルキル基(特に、長鎖アルキル基)及びアリール基等の疎水性基を挙げることができる。
【0039】
更に、上記官能基は、第1強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料の特性に何らかの悪影響を及ぼさない限り、強化繊維及び/又はマトリックス樹脂を構成する分子との化学反応により共有結合を生成することができる官能基であってもよい。このような官能基の具体例としては、例えば、シリコーン樹脂との間にシロキサン結合を生成することができるアルコキシシリル基等を挙げることができる。また、例えば分散媒、強化繊維及びマトリックス樹脂の親水性(疎水性)及び/又は化学的性状に差がある場合等においては、上記のような官能基のうち異なる2種以上の官能基によってナノセルロース(NCe)が変性されていてもよい。
【0040】
異なる2種以上の官能基によってナノセルロース(NCe)が変性される場合、これらの異なる2種以上の官能基によって変性された1種類のNCeを使用してもよく、或いは、これらの異なる2種以上の官能基の一部(例えば、何れか1種類の官能基)によって変性された2種以上のNCeを使用してもよい。
【0041】
或いは、強化繊維及びマトリックス樹脂に対する高い親和性を有する官能基によってナノセルロース(NCe)を変性し、当該官能基によって変性されたNCeを均一に分散させることができる溶媒を分散媒として選択してもよい。
【0042】
〈効果〉
第2強化繊維においては、上記のように、ナノセルロース(NCe)が官能基によって変性されている。従って、第2強化繊維の製造工程において使用される分散媒、強化繊維及びマトリックス樹脂に対する高い親和性を有する官能基を選択することにより、均一なナノセルロース層を強化繊維の表面に形成させることができ、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性を高めて、強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料からなる成形体の機械的強度をより効果的に高めることができる。
【0043】
《第3実施形態》
以下、本発明の第3実施形態に係る表面被覆強化繊維の製造方法(以降、「第3製造方法」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0044】
上述したように、ナノセルロース層を強化繊維の表面に形成させる具体的な方法は特に限定されないが、例えば、ナノセルロース(NCe)が水又は有機溶媒等の分散媒中に分散されている分散液を強化繊維の表面に塗布した後に分散媒を蒸発等によって除去することにより、ナノセルロース層を強化繊維の表面に形成させることができる。
【0045】
〈構成〉
そこで、第3製造方法は、上述した第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維の製造方法であって、以下に列挙する第1工程乃至第3工程を含む、表面被覆強化繊維の製造方法である。
【0046】
第1工程:ナノセルロース(NCe)が分散媒中に分散されている分散液であるナノセルロース分散液を調製する。
第2工程:強化繊維の表面の少なくとも一部にナノセルロース分散液が塗布された中間素材繊維を調製する。
第3工程:中間素材繊維を乾燥させて強化繊維の表面の少なくとも一部に塗布されたナノセルロース分散液から分散媒を除去することにより強化繊維の表面の少なくとも一部にナノセルロース層を形成させる。
【0047】
分散媒は、NCeを均一に分散させることができる溶媒が選択される。具体的には、例えば、上述したように、強化繊維及びマトリックス樹脂に対する高い親和性を有する官能基によってナノセルロース(NCe)を変性し、当該官能基によって変性されたNCeを均一に分散させることができる溶媒を分散媒として選択してもよい。一方、後述する第3工程において分散媒は除去されなければならないので、例えば蒸発等により容易に除去することができる溶媒を分散媒として選択してもよい。
【0048】
このような分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール及び2−プロパノール等のアルコール、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン、ジメチルホルムアミド及びジメチルアセトアミド等のアミド等を挙げることができる。これらの中で、取り扱いの容易さ及び安全性の高さという観点からは水が好ましい。一方、第3工程における除去の容易さという観点からは低い沸点を有するアルコール及びケトンが好ましい。
【0049】
第2工程におけるナノセルロース分散液の塗布方法は、ナノセルロース分散液を強化繊維の表面に均一に塗布することが可能である限り特に限定されず、例えば、強化繊維の性状(例えば、機械的強度、柔軟性及び脆性等)及び形態(例えば、繊維、不織布及び織物等)並びに分散媒の性状(例えば、沸点及び粘度等)等に応じて適宜選択することができる。このような塗布方法の具体例としては、例えば、ディップコーティング、スプレーコーティング及び刷毛塗り等を挙げることができる。尚、上述したように、強化繊維の表面のより多くの領域に、好ましくは全ての領域に、ナノセルロース(NCe)を均一に分布させることが可能な塗布方法が望ましい。
【0050】
第3工程における中間素材繊維の乾燥方法は、強化繊維の表面に塗布されたナノセルロース分散液から分散媒を除去することが可能である限り特に限定されず、例えば、強化繊維の性状(例えば、機械的強度、柔軟性及び脆性等)及び形態(例えば、繊維、不織布及び織物等)並びに分散媒の性状(例えば、沸点及び粘度等)等に応じて適宜選択することができる。このような乾燥方法の具体例としては、例えば、ブロワーによって温風又は熱風を中間素材繊維に吹き付ける方法、中間素材繊維の加熱炉内への静置又は搬送、真空又は減圧オーブン内への中間素材繊維の静置等を挙げることができる。尚、第3工程における温度及び圧力等の乾燥条件は、例えば、強化繊維の性状(例えば、耐熱性等)及び分散媒の性状(例えば、沸点等)に応じて適宜設定することができる。また、周囲雰囲気への蒸散により環境への影響が懸念される溶媒を分散媒として使用する場合は、当該溶媒の蒸気を回収する手段を設けることが望ましいのは言うまでも無い。
【0051】
尚、第2工程及び第3工程を1回だけ実行したのでは十分な量のNCeを強化繊維の表面に配置することが困難な場合は、第2工程及び第3工程を複数回に亘って繰り返し実行してもよい。
【0052】
〈効果〉
以上のように、第3製造方法においては、ナノセルロース(NCe)が分散媒中に分散されている分散液であるナノセルロース分散液を強化繊維の表面の少なくとも一部に塗布して中間素材繊維を調製し、中間素材繊維を乾燥させて強化繊維の表面の少なくとも一部に塗布されたナノセルロース分散液から分散媒を除去することにより強化繊維の表面の少なくとも一部にナノセルロース層を形成させる。このように、より低い粘度を有する分散媒中にNCeが分散されているので、前述した従来技術のようにNCeを含むサイジング剤を強化繊維に予め塗布する場合に比べて、強化繊維の表面にNCeをより均一に配置することができる。
【0053】
また、強化繊維の表面に塗布されたナノセルロース分散液から分散媒が除去されるので、NCeからなる層であるナノセルロース層のみが強化繊維の表面に残る。従って、上述したように第2工程及び第3工程を複数回に亘って繰り返し実行しても、NCeを含むサイジング剤を強化繊維に予め塗布する場合のようにサイジング剤によって形成される層の脆化及び後工程におけるマトリックス樹脂による含浸不良等の問題に繋がる虞が無い。即ち、本発明強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料から製造される成形体の機械的強度を容易且つ効果的に高めることができる。
【0054】
〈第3製造方法の変形例1〉
前述したように、上述した第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維を構成する強化繊維は、何等かの表面改質が施された強化繊維であってもよい。即ち、上述した第2工程においてナノセルロース分散液が塗布される前に、前述したような表面改質を強化繊維に施してもよい。これにより、ナノセルロース層を構成するNCeと強化繊維との間の物理的な結合及び/又は化学的な結合がより強固となり、本発明強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料から製造される成形体の機械的強度を更に高めることができる。
【0055】
〈第3製造方法の変形例2〉
また、サイジング剤によって形成される層とナノセルロース層とを併用してもよい。例えば、上述した第1工程乃至第3工程を実行した後の本発明強化繊維にサイジング剤を更に塗布する処理(サイジング処理)を施してもよい。この場合、サイジング剤の塗布量を少なめに設定して強化繊維の表面に部分的にサイジング剤を塗布することにより、前述したような集束性を強化繊維に付与したり強化繊維を破損から保護したりする効果を追加することができる。また、結果的にサイジング剤に比べて高価なナノセルロース(NCe)の使用量を低減することができるので、本発明強化繊維の製造コストを削減することもできる。
【0056】
ここで、上述した第3製造方法の変形例1及び変形例2の両方の要件を満たす変形例(即ち、表面改質が施された強化繊維を使用し且つ第3工程の後にサイジング処理を行う第3製造方法の変形例)における各工程の流れについて、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0057】
図3は、第3製造方法の1つの変形例における各工程の流れを示すフローチャートである。
図3に例示する変形例に係る表面被覆強化繊維の製造方法は、上述した第3製造方法と同様に、ナノセルロース(NCe)が分散媒中に分散されている分散液であるナノセルロース分散液を調製する第1工程(ステップS01)、例えば炭素繊維(CF)等の強化繊維の表面の少なくとも一部にナノセルロース分散液が塗布された中間素材繊維を調製する第2工程(ステップS02)、及び中間素材繊維を乾燥させて強化繊維の表面の少なくとも一部に塗布されたナノセルロース分散液から分散媒を除去することにより強化繊維の表面の少なくとも一部にナノセルロース層を形成させる第3工程(ステップS03)を含む。
【0058】
上記に加えて、
図3に例示する製造方法は、第2工程においてナノセルロース分散液を強化繊維の表面に塗布する前に例えばアルカリ性電解液を用いる液相電解酸化等の表面改質を強化繊維に施す表面改質処理(ステップS00)と、第3工程を実行した後の本発明強化繊維にサイジング剤を更に塗布するサイジング処理(ステップS04)と、を更に含む。
【0059】
次に、
図4は、上述したステップS02乃至S04において実行される処理及びこれらの処理に伴う強化繊維の変化を示す模式図である。F01は、上述したステップS00において表面改質処理が施された強化繊維10mを示す模式的な斜視図である。次のステップS02において、強化繊維10mはナノセルロース分散液20dが収容された浴の中に通され、その表面にナノセルロース分散液20dが塗布される。即ち、
図4に例示する製造方法に含まれるステップS02においては、ディップコーティングによって、ナノセルロース分散液20dが強化繊維10mの表面に塗布される。尚、ナノセルロース分散液20dは、上述したステップS01においてナノセルロース(NCe)を分散媒中に分散さることによって調製された分散液であり、
図5に示すように、NCe21が分散媒22中に均一に分散されている。
【0060】
上記のようにして調製された中間素材繊維は、次のステップS03において加熱炉内に通されることによって乾燥され、強化繊維10mの表面に塗布されたナノセルロース分散液20dから分散媒が除去される。F02は、このようにしてナノセルロース層20が表面に形成された強化繊維10mを示す模式的な斜視図である。更に、次のステップS04において、ナノセルロース層20が表面に形成された強化繊維10mはサイジング剤50が収容された浴の中に通され、その表面の一部にサイジング剤50が塗布される。即ち、
図4に例示する製造方法に含まれるステップS04においては、ディップコーティングによってサイジング剤50が塗布される。F03は、このようにして強化繊維10mの表面に形成されたナノセルロース層20の表面の一部にサイジング剤50が塗布された強化繊維10mを示す模式的な斜視図である。
【0061】
また、
図6は、上記のようにして強化繊維10mの表面に形成されたナノセルロース層20の表面の一部にサイジング剤50が塗布された強化繊維10m(本発明に係る表面被覆強化繊維32)及びマトリックス樹脂40を含む繊維強化樹脂複合材料102の構成を示す模式的な断面図である。
図6に示す例においては、強化繊維10mの表面全体にナノセルロース層20が形成されており、ナノセルロース層20の表面の一部にサイジング剤の層が形成されている。
【0062】
上記のようにして調製された本発明に係る表面被覆強化繊維(本発明強化繊維)32は、強化繊維10mの表面改質により、ナノセルロース層20を構成するナノセルロース(NCe)21と強化繊維10mとの間の物理的な結合及び/又は化学的な結合がより強固となる。その結果、本発明強化繊維32及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料から製造される成形体の機械的強度を更に高めることができる。
【0063】
また、強化繊維10mの表面に形成されたナノセルロース層20の表面の一部にサイジング剤50が塗布されているので、前述したような集束性を強化繊維10mに付与したり強化繊維10mを破損から保護したりする効果をも達成することができる。更に、表面被覆の一部をナノセルロース(NCe)21に比べて安価なサイジング剤50によって構成することができるので、サイジング剤50に比べて高価なNCe21の使用量を低減して本発明強化繊維32の製造コストを削減することもできる。
【0064】
加えて、前述したように、サイジング剤を強化繊維の表面全体に均一に塗布することは困難であり、一般的なサイジング剤が塗布された市販の強化繊維においては、その表面の一部にしかサイジング剤が塗布されていないものが見受けられる。しかしながら、
図6に示したように、上記のようにして調製された本発明強化繊維32においては、その表面の一部のみにサイジング剤50が塗布されている場合であっても、サイジング剤50が塗布されていない領域においてはナノセルロース層20が露出している。従って、サイジング剤の層のみを備える従来技術に係る強化繊維に比べて、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性をより高めて、強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料からなる成形体の機械的強度をより高めることができる。
【0065】
〈第3製造方法の変形例3〉
ところで、上述した第3製造方法の変形例2においては、強化繊維の表面にナノセルロース層が形成された後にサイジング剤を塗布したが、サイジング剤が既に表面に塗布されている強化繊維の表面にナノセルロース層を形成してもよい。換言すれば、上述したステップS04を、ステップS03の後ではなく、ステップS02の前に実行してもよい。或いは、サイジング剤が塗布された市販の強化繊維に対して第3製造方法を適用してもよい。
【0066】
図7は、サイジング剤が塗布された市販の強化繊維の構成の一例を示す模式的な断面図である。
図7に示した例においては、前述したように、強化繊維10(表面改質処理が施された強化繊維10mであってもよい)の表面の一部にしかサイジング剤50が塗布されていない。このような強化繊維に対しても第3製造方法を適用することができる。
図8は、
図7に示した市販の強化繊維に第3製造方法を適用して得られた本発明強化繊維の構成の一例を示す模式的な断面図である。
図8に示した本発明に係る表面被覆強化繊維33においては、サイジング剤50が表面の一部に塗布されている強化繊維10(又は表面改質処理が施された強化繊維10m)の表面全体にナノセルロース層20が形成されている。
【0067】
本発明強化繊維33において、強化繊維として表面改質処理が施された強化繊維10mを使用する場合は、サイジング剤50と強化繊維10mとの間及びナノセルロース層20を構成するナノセルロース(NCe)21と強化繊維10mとの間の物理的な結合及び/又は化学的な結合がより強固となる。その結果、本発明強化繊維33及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料から製造される成形体の機械的強度を更に高めることができる。
【0068】
また、サイジング剤50が塗布されているので、前述したように強化繊維10又は強化繊維10mを破損から保護する効果をも達成することができる。更に、表面被覆の一部をナノセルロース(NCe)21に比べて安価なサイジング剤50によって構成することができるので、上述した本発明強化繊維32と同様に、サイジング剤50に比べて高価なNCe21の使用量を低減して本発明強化繊維33の製造コストを削減することもできる。
【0069】
加えて、本発明強化繊維33の表面被覆の最外面にはナノセルロース層20が露出しているので、サイジング剤の層のみを備える従来技術に係る強化繊維に比べて、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性を高めて、強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料からなる成形体の機械的強度を十分に高めることができる。
【0070】
尚、上述した第3製造方法の変形例2及び変形例3において使用されるサイジング剤はナノセルロース(NCe)を含んでいてもよい。この場合、サイジング剤がNCeを含んでいない場合に比べて、NCeと強化繊維との間及びNCeとマトリックス樹脂との間における密着性を更に高めて、これらの本発明強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料からなる成形体の機械的強度を更に高めることができる。
【0071】
《第4実施形態》
以上、本発明に係る表面被覆強化繊維(本発明強化繊維)及び本発明強化繊維の製造方法(本発明製造方法)について詳細に説明してきたが、本明細書の冒頭において述べたように、本発明は本発明強化繊維と樹脂とを含む中間基材(本発明中間基材)にも関する。
【0072】
以下、本発明の第4実施形態に係る中間基材(以降、「第4中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0073】
〈構成〉
第4中間基材は、上述した第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維と、母材としての樹脂であるマトリックス樹脂と、を含む、中間基材である。
【0074】
マトリックス樹脂は、例えば、第4中間基材の構造及び製造方法、第4中間基材から製造される成形体の用途において求められる機械的強度及び耐熱性等の種々の特性、並びに第4中間基材から製造される成形体の製造方法等に応じて、例えば、当該技術分野において種々の繊維強化樹脂複合材料におけるマトリックス樹脂として使用される多種多様な樹脂から適宜選択することができる。マトリックス樹脂は、熱硬化性樹脂であってもよく、或いは熱可塑性樹脂であってもよい。
【0075】
熱硬化性樹脂の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ポリイミド樹脂、及びシリコーン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂若しくはプレポリマーを挙げることができる。熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレン(PE)樹脂及びポリプロピレン(PP)樹脂を含むポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(AS)及びアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂を含むスチレン系樹脂からなる汎用プラスチック、ポリアミド(PA)樹脂、ポリアセタール(POM)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂及びポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂を含むポリエステル系樹脂、及びポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂からなる汎用エンジニアリングプラスチック、並びにポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、熱可塑性ポリイミド(TPI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリスルホン(PSF)樹脂及びポリエーテルスルホン(PES)樹脂からなるスーパーエンジニアリングプラスチック、からなる群より選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0076】
本明細書において、中間基材は最終的な成形体を得るための中間的な素材を意味する。第4中間基材は、比較的短い強化繊維がマトリックス樹脂中に分散されている短繊維強化樹脂複合材料からなる中間基材であってもよい。このような中間基材は、例えば、強化繊維(本発明強化繊維)のチョップドファイバとマトリックス樹脂との混合物を一軸押出機又は二軸押出機によって加熱及び混練して熔融物として押し出したものを所定の形状に成形することによって得ることができる。
【0077】
或いは、第4中間基材は、比較的長い強化繊維がマトリックス樹脂中に分散されている長繊維強化樹脂複合材料からなる中間基材であってもよい。このような中間基材は、例えば、所謂「LFT−D工法」によって得ることができる。当業者に周知であるように、LFT−D工法は、熔融押し出しされた熱可塑性樹脂と強化繊維(本発明強化繊維)の長繊維とを混練押出機に連続的に供給して両者を混練して押し出したものを所定の形状に成形することによって得ることができる。
【0078】
但し、第4中間基材の構成及び製造方法は上記に限定されず、また、詳しくは後述するように、例えば、ペレット状、繊維状及びシート状等、多種多様な形態を取り得る。また、第4中間基材は、予め調製された本発明強化繊維とマトリックス樹脂とを含む原材料から製造することができる。或いは、第4中間基材は、強化繊維とナノセルロース(NCe)とマトリックス樹脂とを含む原材料から製造することもできる。この場合、第4中間基材の製造に伴って本発明強化繊維が調製され易くすることを目的として、例えば強化繊維とNCeとを予め混合した後に当該混合物をマトリックス樹脂と混合してもよい。
【0079】
〈効果〉
上述したように、第4中間基材は本発明強化繊維とマトリックス樹脂とを含む中間基材である。また、本発明強化繊維は、前述したように、ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって表面の少なくとも一部が直接的に被覆された強化繊維である。従って、第4中間基材においては、強化繊維とマトリックス樹脂との界面の少なくとも一部にナノセルロース(NCe)が直接的に介在している。その結果、第4中間基材から製造される成形体においては強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性が向上され、当該成形体の機械的強度が効果的に高められる。
【0080】
《第5実施形態》
以下、本発明の第5実施形態に係る中間基材(以降、「第5中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0081】
上述したように、中間基材は、最終的な成形体を得るための中間的な素材を意味し、例えば、ペレット状、繊維状及びシート状等、多種多様な形態を取り得る。従って、本発明に係る中間基材もまた、例えば、ペレット状、繊維状及びシート状等、多種多様な形態を取り得る。
【0082】
〈構成〉
そこで、第5中間基材は、上述した第4中間基材であって、マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、マトリックス樹脂中に本発明強化繊維が練り込まれたペレットである、ペレット状中間基材である。
【0083】
〈効果〉
上記のように、第5中間基材は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂中に本発明強化繊維が練り込まれたペレットである。従って、例えば、一軸押出機又は二軸押出機及び成形用金型等の設備を用いる射出成形により、所望の形状を有する成形体を第5中間基材から容易に製造することができる。
【0084】
《第6実施形態》
以下、本発明の第6実施形態に係る中間基材(以降、「第6中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0085】
〈構成〉
第6中間基材は、上述した第4中間基材であって、マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、マトリックス樹脂からなる繊維である母材繊維と本発明強化繊維とが混繊されたコミングルヤーンである、繊維状中間基材である。
【0086】
図9は第6中間基材の構成の一例を示す模式的な断面図であり、
図10は第6中間基材の構成の一例を示す模式的な斜視図である。第6中間基材201は、熱可塑性樹脂であるマトリックス樹脂からなる繊維(母材繊維41)と本発明強化繊維31とが混繊されたコミングルヤーンである。尚、
図9及び
図10においては全ての繊維が同じ方向を向いているかのように描かれているが、必ずしも全ての繊維が同じ方向を向いている必要は無い。尚、母材繊維と本発明強化繊維とをコミングルヤーンとして混繊するための具体的な手法については当業者に周知であるので、ここでの説明は割愛する。
【0087】
〈効果〉
上記のように、第6中間基材は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂からなる繊維である母材繊維と本発明強化繊維とが混繊されたコミングルヤーンである。従って、第6中間基材においても、強化繊維とマトリックス樹脂との界面の少なくとも一部にナノセルロース(NCe)が直接的に介在している。その結果、第6中間基材から製造される成形体においては強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性が向上され、当該成形体の機械的強度が効果的に高められる。
【0088】
また、第6中間基材は、上記コミングルヤーンからなる繊維状中間基材である。従って、例えば、所望の構造(例えば、単一方向に並んでいる構造、織物状の構造及び編物状の構造等)を第6中間基材によって構成し、熱及び/又は圧力を当該構造に与えることにより、強化繊維が所望の構造及び配向を有する成形体を容易に製造することができる。
【0089】
尚、第6中間基材の具体的な構成は上記に限定されない。例えば、モノフィラメントとしての母材繊維41の外周が、
図11に示すように複数の本発明強化繊維31によって覆われていてもよく、或いは、
図12に示すように母材繊維41の外周を覆う個々の本発明強化繊維が複数本の繊維束によって構成されていてもよい。
【0090】
図11及び
図12に示した例においては、太い1本のモノフィラメントである母材繊維41が中心に配置されているため、用途によっては柔軟性が不十分となる場合がある。このような場合は、例えば
図13及び
図14に示すように、中心に配置される母材繊維41を細くして複数本を束ねることにより柔軟性を高め、成形性を向上させることができる。
図13は、
図11におけるモノフィラメントとしての母材繊維41がより細い複数本の母材繊維41の束に置き換えられ且つこれら複数本の母材繊維41の束が本発明強化繊維31によって覆われている例を示す。
図14は、
図12におけるモノフィラメントとしての母材繊維41がより細い複数本の母材繊維41の束に置き換えられ且つこれら複数本の母材繊維41の束が複数本の本発明強化繊維31の束によって覆われている例を示す。
【0091】
尚、第6中間基材においては、母材繊維と本発明強化繊維とが互いに熔着していない状態にあってもよく、或いは、母材繊維と本発明強化繊維とが少なくとも部分的に互いに熔着している状態(所謂「半含浸状態」)にあってもよい。
【0092】
《第7実施形態》
以下、本発明の第7実施形態に係る中間基材(以降、「第7中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0093】
〈構成〉
第7中間基材は、上述した第4中間基材であって、マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、マトリックス樹脂からなる粉末である母材粉末が本発明強化繊維の表面に付着している、繊維状中間基材である。
【0094】
〈効果〉
上記のように、第7中間基材においては、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂からなる粉末である母材粉末が本発明強化繊維の表面に付着している。従って、第7中間基材においても、強化繊維とマトリックス樹脂との界面の少なくとも一部にナノセルロース(NCe)が直接的に介在している。その結果、第7中間基材から製造される成形体においては強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性が向上され、当該成形体の機械的強度が効果的に高められる。具体的には、所定の形状及び構造となるように構成された第7中間基材を加熱及び/又は加圧することによって製造される成形体の機械的強度が効果的に高められる。
【0095】
また、第7中間基材もまた繊維状中間基材であるので、例えば、所望の構造(例えば、単一方向に並んでいる構造、織物状の構造及び編物状の構造等)を第7中間基材によって構成し、熱及び/又は圧力を当該構造に与えることにより、強化繊維が所望の構造及び配向を有する成形体を容易に製造することができる。
【0096】
尚、第7中間基材においては、母材粉末と本発明強化繊維とが互いに熔着していない状態にあってもよく、或いは、母材粉末と本発明強化繊維とが少なくとも部分的に互いに熔着している状態(所謂「半含浸状態」)にあってもよい。
【0097】
《第8実施形態》
以下、本発明の第8実施形態に係る中間基材(以降、「第8中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0098】
上述した第6中間基材及び第7中間基材は何れも第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維と母材としての樹脂であるマトリックス樹脂とを含む繊維状中間基材である。しかしながら、本発明中間基材は、前述したように、例えば、ペレット状、繊維状及びシート状等、多種多様な形態を取り得る。
【0099】
〈構成〉
そこで、第8中間基材は、上述した第4中間基材であって、シート状の形状を有する、シート状中間基材である。第8中間基材の他の構成(例えば、強化繊維及びマトリックス樹脂の材料並びに第8中間基材の構造等)は、例えば、当該中間基材から製造される成形体の用途における要求特性等に応じて適宜選択される。
【0100】
尚、第8中間基材の構成及び製造方法は特に限定されず、例えば、関連する他の実施形態に関する説明において詳しく後述するように、予め調製された本発明強化繊維とマトリックス樹脂とを含む原材料から製造することができる。或いは、第8中間基材は、強化繊維とナノセルロース(NCe)とマトリックス樹脂とを含む原材料から製造することもできる。この場合、第8中間基材の製造に伴って本発明強化繊維が調製され易くすることを目的として、例えば強化繊維とNCeとを予め混合した後に当該混合物をマトリックス樹脂と混合してもよい。具体的には、例えば、マトリックス樹脂と強化繊維との間にNCeが介在するように第8中間基材の各原材料が配置された状態において第8中間基材を製造してもよい。より具体的には、例えば、強化繊維からなる層とマトリックス樹脂からなる層との間にNCe又はNCeからなる層が挟まれている状態において、これらの原材料を加熱及び/又は加圧することにより、第8中間基材を製造してもよい。
【0101】
〈効果〉
上記のように、第8中間基材はシート状の形状を有する本発明中間基材である。従って、例えば所謂「ホットスタンプ」(熱間プレス)等の手法により第8中間基材から成形体を製造することができる。但し、第8中間基材から成形体を製造するための具体的な手法は上記に限定されず、例えば強化繊維及びマトリックス樹脂の性状並びに第8中間基材から製造される成形体の用途における要求特性等に応じて、当該技術分野において広く採用されている種々の手法から適宜選択することができる。即ち、例えば、所謂「プリプレグ」、「プリフォーム」、及び「スタンパブルシート」等として第8中間基材を使用して、様々な成形体を容易に製造することができる。
【0102】
《第9実施形態》
以下、本発明の第9実施形態に係る中間基材(以降、「第9中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0103】
上述した第8中間基材は、第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維と母材としての樹脂であるマトリックス樹脂とを含むシート状中間基材である。このようなシート状中間基材の構造(及び製造方法)は、例えば当該中間基材を構成する本発明強化繊維及びマトリックス樹脂の性状等に応じて適宜選択される。
【0104】
〈構成〉
そこで、第9中間基材は、上述した第8中間基材であって、マトリックス樹脂は熱可塑性樹脂であり、マトリックス樹脂からなる層と本発明強化繊維からなる層とが積層された層状構造を有する、シート状中間基材である。マトリックス樹脂からなる層及び本発明強化繊維からなる層の各々の数及び厚み等は、例えば強化繊維及びマトリックス樹脂の性状並びに第9中間基材から製造される成形体の用途における要求特性等に応じて適宜選択することができる。
【0105】
図15は、第9中間基材の構成の1つの例を示す模式図である。
図15に示す第9中間基材301においては、本発明強化繊維31からなる層と母材となる熱可塑性樹脂42からなる層(例えば、フィルム及びシート等)とが(交互に)積層されて層状構造が形成されている。
【0106】
〈効果〉
上記のように、第9中間基材は、マトリックス樹脂からなる層と本発明強化繊維からなる層とを含む積層構造を有するシート状の中間基材である。従って、例えば、所謂「プリプレグ」、「プリフォーム」、及び「スタンパブルシート」等として第9中間基材を使用して、様々な成形体等を容易に製造することができる。
【0107】
尚、第9中間基材においては、マトリックス樹脂からなる層と本発明強化繊維からなる層とが互いに熔着していない状態にあってもよく、或いは、マトリックス樹脂からなる層と本発明強化繊維からなる層とが少なくとも部分的に互いに熔着している状態(所謂「半含浸状態」)にあってもよい。本発明強化繊維からなる層がマトリックス樹脂によって含浸されている本発明中間基材については次の実施形態において説明する。
【0108】
《第10実施形態》
以下、本発明の第10実施形態に係る中間基材(以降、「第10中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0109】
上述したように、第8中間基材は、第1強化繊維及び第2強化繊維を始めとする本発明強化繊維と母材としての樹脂であるマトリックス樹脂とを含むシート状中間基材であり、このようなシート状中間基材の構造(及び製造方法)は、例えば当該中間基材を構成する本発明強化繊維及びマトリックス樹脂の性状等に応じて適宜選択される。
【0110】
〈構成〉
そこで、第10中間基材は、上述した第8中間基材であって、マトリックス樹脂は熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂であり、本発明強化繊維からなる層がマトリックス樹脂によって含浸されている、シート状中間基材である。マトリックス樹脂及び強化繊維を構成する材料等、第10中間基材の具体的な構成は、例えば第10中間基材から製造される成形体の用途における要求特性等に応じて適宜選択することができる。
【0111】
図16は、第10中間基材の構成の1つの例を示す模式図である。
図16に示す第10中間基材302においては、マトリックス樹脂43によって本発明強化繊維31からなる層が含浸されている。
【0112】
上記のような層状構造を有する第10中間基材は、当該技術分野において周知の種々の方法によって製造することができる。具体的には、熱硬化性樹脂がマトリックス樹脂として使用される場合は、例えば、本発明強化繊維からなる層を熱硬化性樹脂のプレポリマーによって含浸することにより、第10中間基材を製造することができる。或いは、熱硬化性樹脂のモノマーを本発明強化繊維からなる層に含浸させた後に所定の程度にまで重合反応を進行させてプレポリマーとすることにより、第10中間基材を製造してもよい。
【0113】
一方、熱可塑性樹脂がマトリックス樹脂として使用される場合は、例えば、
図17の(a)に示すような本発明強化繊維31からなる層と母材となる熱可塑性樹脂42からなる層(例えば、フィルム及びシート等)とが(交互に)積層された積層体(例えば、上述した第9中間基材301)を加熱及び/又は加圧することにより、
図17の(b)に示すような第10中間基材303を製造することができる。
【0114】
〈効果〉
上記のように、第10中間基材は、母材としての熱可塑性樹脂と本発明強化繊維とを含むシート状の中間基材である。従って、例えば、所謂「プリプレグ」、「プリフォーム」、及び「スタンパブルシート」等として第10中間基材を使用して、様々な成形体を容易に製造することができる。
【0115】
《第11実施形態》
以下、本発明の第11実施形態に係る中間基材(以降、「第11中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0116】
上述したように、第6中間基材は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂からなる繊維である母材繊維と本発明強化繊維とが混繊されたコミングルヤーンである。また、第7中間基材は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂からなる粉末である母材粉末が本発明強化繊維の表面に付着している繊維状中間基材である。従って、例えば、第6中間基材又は第7中間基材によって所望の構造及び形状を有する物体を構成し、熱及び/又は圧力を当該物体に与えることにより、所望の形状を有する中間基材及び/又は成形体を容易に製造することができる。
【0117】
〈構成〉
そこで、第11中間基材は、上述した第8中間基材であって、上述した繊維状の第6中間基材又は第7中間基材によって構成されている、シート状中間基材である。
【0118】
〈効果〉
上述したように、第6中間基材及び第7中間基材は、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂と本発明強化繊維とを含む繊維状中間基材である。従って、これらの繊維状中間基材をシート状に成形し、例えば加熱及び/又は加圧によって処理することにより、マトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂と本発明強化繊維とを含むシート状中間基材として第11中間基材を容易に製造することができる。
【0119】
また、第6中間基材及び第7中間基材においては、ナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層によって表面の少なくとも一部が直接的に被覆された強化繊維である表面被覆強化繊維(本発明強化繊維)の表面又は表面の近傍にマトリックス樹脂としての熱可塑性樹脂が予め配置されている。従って、第6中間基材及び第7中間基材から製造される第11中間基材においては、強化繊維とマトリックス樹脂との間にNCeが確実に介在することができる。その結果、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性を向上させて、第11中間基材及び第11中間基材から製造される成形体の機械的強度を効果的に高めることができる。
【0120】
《第12実施形態》
以下、本発明の第12実施形態に係る中間基材(以降、「第12中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0121】
上述した第8中間基材乃至第11中間基材は、マトリックス樹脂と本発明強化繊維とを含むシート状中間基材である。当業者に周知であるように、このような繊維強化樹脂複合材料は強化繊維の配向方向に応じて様々な機械的特性を呈し、当該複合材料によって形成される成形体の用途における要求特性に応じて使い分けられている。
【0122】
〈構成〉
そこで、第12中間基材は、上述した第6中間基材乃至第11中間基材の何れかのシート状中間基材であって、強化繊維が単一の方向に配向している、シート状中間基材である。第12中間基材の製造方法は特に限定されず、当該技術分野において採用されている種々の製造方法から適宜選択することができる。例えば、第12中間基材は、単一の方向に強化繊維が配向するように上述した繊維状中間基材が並べられている状態において当該中間基材を加熱及び/又は加圧することによって製造することができる。
【0123】
〈効果〉
上記のように、第12中間基材においては強化繊維が単一の方向に配向している。従って、第12中間基材は、強化繊維の配向方向においては高い機械的強度を呈する一方、その他の方向においては比較的低い機械的強度を呈する。即ち、第12中間基材は、例えば機械的強度等の特性において異方性を有する。従って、第12中間基材は、例えば、所謂「UD材」として使用することができる。
【0124】
《第13実施形態》
以下、本発明の第13実施形態に係る中間基材(以降、「第13中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0125】
上述したように第12中間基材においては強化繊維が単一の方向に配向しているため、第12中間基材は例えば機械的強度等の特性において異方性を有する。しかしながら、本発明に係る中間基材(本発明中間基材)から製造される成形体の用途によっては、機械的強度等の特性において異方性を有することが望ましくない場合がある。
【0126】
〈構成〉
そこで、第12中間基材は、上述した第6中間基材乃至第11中間基材の何れかのシート状中間基材であって、強化繊維が単一の方向に配向していない、シート状中間基材である。第13中間基材の製造方法は特に限定されず、当該技術分野において採用されている種々の製造方法から適宜選択することができる。例えば、第13中間基材は、強化繊維がランダムな方向又は所定の複数の方向に配向するように上述した繊維状中間基材が並べられている状態において当該中間基材を加熱及び/又は加圧することによって製造することができる。或いは、上述したように強化繊維が単一の方向に配向している第12中間基材を複数用意し、これらを強化繊維の配向方向が一致しないように積層することによって第13中間基材を製造してもよい。
【0127】
〈効果〉
上記のように、第13中間基材においては強化繊維が単一の方向に配向していない。従って、第13中間基材は、例えば機械的強度等の特性において異方性を有することが望ましくない用途又は複数の方向における異方性を有することが望ましい用途等において使用することができる。
【0128】
《第14実施形態》
以下、本発明の第14実施形態に係る中間基材(以降、「第14中間基材」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0129】
上述したように第13中間基材においては強化繊維が単一の方向に配向していないため、例えば機械的強度等の特性において異方性を有することが望ましくない用途又は複数の方向における異方性を有することが望ましい用途等において第13中間基材を使用することができる。このような中間基材を構成する強化繊維を織物又は編物とすることにより、当該中間基材から製造される成形体の機械的強度及び耐久性等を更に向上させることができる。
【0130】
〈構成〉
そこで、第14中間基材は、上述した第13中間基材であって、強化繊維が織物又は編物を構成している、シート状中間基材である。第14中間基材の製造方法は特に限定されず、当該技術分野において採用されている種々の製造方法から適宜選択することができる。例えば、第14中間基材は、上述した繊維状中間基材が織物又は編物を構成している状態において当該中間基材を加熱及び/又は加圧することによって製造することができる。或いは、強化繊維によって構成された織物又は編物とマトリックス樹脂からなる層との間にNCe又はNCeからなる層が挟まれている状態において、これらの原材料を加熱及び/又は加圧することにより、第14中間基材を製造してもよい。
【0131】
〈効果〉
上記のように、第14中間基材においては強化繊維が織物又は編物を構成している。従って、第14中間基材から製造される成形体の機械的強度及び耐久性等を更に向上させることができる。
【0132】
《第15実施形態》
以下、本発明の第15実施形態に係る複合材料(以降、「第15複合材料」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0133】
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、表面被覆強化繊維及びその製造方法、並びに当該表面被覆強化繊維と樹脂とを含む中間基材のみならず、当該表面被覆強化繊維と樹脂とを含む複合材料及び当該複合材料を含む成形体にも関する。
【0134】
〈構成〉
そこで、第15複合材料は、母材としての樹脂であるマトリックス樹脂及び強化繊維を含む複合材料であって、マトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部においてナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層がマトリックス樹脂と強化繊維との間に直接的に介在している、複合材料である。
【0135】
マトリックス樹脂、強化繊維、ナノセルロース(NCe)及びナノセルロース層の詳細については、本発明に係る強化繊維(本発明強化繊維)に関する説明において既に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0136】
上記のように、第15複合材料においては、マトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部においてナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層がマトリックス樹脂と強化繊維との間に直接的に介在している。換言すれば、マトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部において、他の物質が介在すること無く、ナノセルロース層を構成するNCeがマトリックス樹脂及び強化繊維のそれぞれと直接的に結合している。
【0137】
ナノセルロース層と強化繊維との間の結合については、本発明強化繊維に関する説明において既に詳細に述べたので、ここでの説明は省略する。一方、ナノセルロース層とマトリックス樹脂との間の結合は、例えば、ナノセルロース層の表面に形成された凹凸に入り込んだマトリックス樹脂が硬化して係合することによる物理的な結合(所謂「アンカー効果」)であってもよい。或いは、マトリックス樹脂の表面に存在する官能基とナノセルロース層を構成するナノセルロース(NCe)が有する官能基との間における化学的な結合であってもよい。
【0138】
尚、ナノセルロース層とマトリックス樹脂との間にナノセルロース層を介在させる具体的な方法については、本発明に係る中間基材(本発明中間基材)に関する説明において既に詳細に述べたので、ここでの説明は省略する。
【0139】
〈効果〉
第15複合材料においては、上記のように、マトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部においてナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層がマトリックス樹脂と強化繊維との間に直接的に介在している。具体的には、例えば、第1強化繊維に関する説明において参照した
図2に示すように、ナノセルロース層20を構成するNCe21がマトリックス樹脂と40と強化繊維10との界面に直接的に介在している。従って、
図1を参照しながら説明した従来技術のようにNCe21を含むサイジング剤50を強化繊維10に予め塗布する場合と比べてマトリックス樹脂と40と強化繊維10との界面に直接的に介在しているNCe21の密度がより高い。その結果、第15複合材料においては、強化繊維10とマトリックス樹脂40との界面における密着性を向上させることができる。
【0140】
また、上述したように、ナノセルロース層の表面にはNCeの繊維によって凹凸が形成されているので、所謂「アンカー効果」によっても、強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性が高まる。このように、第15複合材料によれば、強化繊維とマトリックス樹脂との界面における密着性を向上させることができるので、第15複合材料を含む成形体の機械的強度を高めることができる。
【0141】
更に、第15複合材料のナノセルロース層はサイジング剤を含まないので、前述したようなサイジング剤によって形成される層の脆化及び後工程におけるマトリックス樹脂による含浸不良等の問題が生ずる可能性が無い。
【0142】
加えて、一般的にナノセルロース(NCe)は柔軟であるためナノセルロース層は緩衝材(クッション)としても機能することができるので、強化繊維とマトリックス樹脂との間における層間剥離を抑制して、繊維強化樹脂複合材料としての曲げ強度及び衝撃強度等の機械的強度を向上させることができる。
【0143】
しかも、ナノセルロース(NCe)はマトリックス樹脂の全体に添加されるのではなく、強化繊維とマトリックス樹脂との界面にナノセルロース層として配置される。従って、第1強化繊維及びマトリックス樹脂を含む繊維強化樹脂複合材料の総量に対するNCeの添加量を低減することができるので、母材全体としての組成が変化して所期の特性を達成することが困難となる虞を低減することができる。
【0144】
更に、ナノセルロース(NCe)同士の強固な水素結合により高いガスバリア性(気密性)が達成されるので、例えば炭素繊維及び金属繊維等、酸素及び/又は水等との接触に起因する劣化が懸念される強化繊維の劣化防止に寄与し、結果として第15複合材料を含む成形体において高い機械的強度を達成することができる。
【0145】
以上のように、第15複合材料によれば、強化繊維とマトリックス樹脂との密着性を高めて、当該複合材料を含む成形体の機械的強度を効果的に高めることができる。
【0146】
《第16実施形態》
以下、本発明の第16実施形態に係る成形体(以降、「第16成形体」と称呼される場合がある。)について説明する。
【0147】
本明細書の冒頭において述べたように、本発明は、表面被覆強化繊維及びその製造方法、並びに当該表面被覆強化繊維と樹脂とを含む中間基材のみならず、当該表面被覆強化繊維と樹脂とを含む複合材料及び当該複合材料を含む成形体にも関する。
【0148】
〈構成〉
そこで、第16成形体は、上述した第15複合材料を含む成形体である。
【0149】
〈効果〉
上述したように、第15複合材料においては、マトリックス樹脂と強化繊維との界面の少なくとも一部においてナノセルロース(NCe)からなる層であるナノセルロース層がマトリックス樹脂と強化繊維との間に直接的に介在している。その結果、第15複合材料を含む成形体である第16成形体によれば、第15複合材料について述べたような種々の顕著な効果が達成される。
【0150】
以上、本発明を説明することを目的として、特定の構成を有する幾つかの実施形態につき、時に添付図面を参照しながら説明してきたが、本発明の範囲は、これらの例示的な実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、特許請求の範囲及び明細書に記載された事項の範囲内で、適宜修正を加えることが可能であることは言うまでも無い。