(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784973
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】単層カーボンナノチューブ
(51)【国際特許分類】
A61K 47/02 20060101AFI20201109BHJP
C01B 32/159 20170101ALI20201109BHJP
C01B 32/168 20170101ALI20201109BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20201109BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20201109BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
A61K47/02
C01B32/159
C01B32/168
A61K47/42
A61K47/30
A61K47/24
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-68481(P2017-68481)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-168040(P2018-168040A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年8月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 掲載年月日 平成29年3月17日 掲載アドレス http://www.t.u−tokyo.ac.jp/shared/press/data/setnws_20170321135053593666130066_255589.pdf 〔刊行物等〕 掲載年月日 平成29年3月20日 掲載アドレス https://www.nature.com/articles/srep44760
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】湯田坂 雅子
(72)【発明者】
【氏名】張 民芳
(72)【発明者】
【氏名】田中 丈士
(72)【発明者】
【氏名】片浦 弘道
(72)【発明者】
【氏名】蓬田 陽平
【審査官】
廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2017−535581(JP,A)
【文献】
特開2008−255081(JP,A)
【文献】
特表2014−504629(JP,A)
【文献】
特開2008−092953(JP,A)
【文献】
特開平08−253430(JP,A)
【文献】
特表2007−509157(JP,A)
【文献】
特表2017−506254(JP,A)
【文献】
WELSHER Kevin ET al.,Nature Nanotechnology,2009年,p.773-780,DOI:10.1038/NNANO.2009.294
【文献】
WELSHER Kevin ET Al.,APPLIED PHYSICAL SCIENCES,2011年,Vol.108、No.22,p.8943-8948
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
C07K 14/705
インターネット
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アポリポプロテインの存在下、前記アポリポプロテインとの結合を介して、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に結合する単層カーボンナノチューブであって、生体親和性の側鎖を有するポリマーにより被覆された単層カーボンナノチューブ。
【請求項2】
請求項1に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記生体親和性の側鎖を有するポリマーが、リン酸エステル、コリン基、ホスホリルコリン基、若しくは、ホスホリルコリン類似基、又は、これらの組み合わせを側鎖に有するポリマーであることを特徴とする、単層カーボンナノチューブ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記生体親和性の側鎖を有するポリマーが、ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)-co-n-ブチルメタクリレート)、リン脂質ポリエチレングリコール、又は、それらの組み合わせであることを特徴とする、単層カーボンナノチューブ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記アポリポプロテインが、アポリポプロテインB(ApoB)、アポリポプロテインC(ApoC)、または、アポリポプロテインE(ApoE)である、単層カーボンナノチューブ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記細胞または組織が、脂肪組織における毛細血管内皮細胞、または、肝臓における星状細胞である、単層カーボンナノチューブ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の単層カーボンナノチューブを含む、アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対する標的化剤。
【請求項7】
アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対するイメージング剤である、請求項6に記載の標的化剤。
【請求項8】
アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対するドラッグデリバリー剤である、請求項6に記載の標的化剤。
【請求項9】
アポリポプロテインの存在下、前記アポリポプロテインとの結合を介して、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に結合する単層カーボンナノチューブを製造する方法であって、
孤立分散している単層カーボンナノチューブと、生体親和性の側鎖を有するポリマーとを溶液中で反応させる工程を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層カーボンナノチューブおよびその使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、生体物質透過性がよい近赤外光を吸収・発光し、毒性が低い稀有な物質である。SWCNTを使うとマウスの血管造影ができる。すなわち、マウスにSWCNTを静脈投与し、マウス体外からSWCNT用励起光を照射すると、マウス血管内にあるSWCNTからの発光を見ることができ、血管のイメージングができる(非特許文献1、2)。時間経過とともに、血管内のSWCNTは肝臓や脾臓に集積するため、肝臓や脾臓の造影も可能である(非特許文献2)。最近では、生体内造影に適した吸収・発光波長をもつSWCNTの分取技術が進歩し(非特許文献1、3)、SWCNTを用いた生体内造影のさらなる発展が期待できる。
【0003】
SWCNTは、リン脂質ポリエチレングリコール(PLPEG)により表面を被覆して用いると血中滞留時間がながくなり、血管造影用途に適している(非特許文献1)。また、SWCNTの腫瘍へのドラッグデリバリー研究では、SWCNTの表面に葉酸や抗体などを付加する(能動的ターゲッティング)ことで、腫瘍に選択的にSWCNTに蓄積させ、SWCNTの近赤外発光により腫瘍造影が可能になると期待されている。さらに、長さが100nm以下のSWCNTでは、血管新生が盛んに行われている腫瘍組織において、未成熟血管壁から組織へSWCNTが拡散し、腫瘍組織へのSWCNTの集積度を上げる(受動的ターゲッティング)ことが可能であり、腫瘍の治療や造影が可能であることが動物実験により確認されている(非特許文献1)。しかし、SWCNTを例えば、熱産生脂肪組織に優先的に蓄積させ、それらの造影剤として使えるという報告はない。SWCNTの表面被覆が適切でなく、SWCNTの孤立分散が生体内で維持されなくなり、マクロファージにとらわれやすくなることが原因と推察される。
このように、単層カーボンナノチューブを利用して、細胞や組織特異的に集積させる技術のさらなる開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Welsher K, Liu Z, Sherlock S P, Robinson J T, Chen Z, Daranciang D, Dai H, A route to brightly fluorescent carbon nanotubes for near-infrared imaging in mice. Nat. Nanotechnol. 4 773-780 (2009)
【非特許文献2】Welsher K, Sherlock S P, Dai H, Deep-tissue anatomical imaging of mice using carbon nanotube fluorophores in the second near-infrared window. Proc. Natl. Acad. Sci. 108 8943−8948 (2011)
【非特許文献3】Liu H, Nishide D, Tanaka T, Kataura H, Large-scale single-chirality separation of single-wall carbon nanotubes by simple gel chromatography. Nature Commun. 309, 8 pages (2011)
【非特許文献4】K. Ishihara, T. Ueda, and N. Nakabayashi, Polym. J., 23, 355-360 (1990)
【非特許文献5】K. Ishihara, R. Aragaki, T. Ueda, A. Watanabe, and N. Nakabayashi, J. Biomed. Mater. Res., 24, 1069-1077 (1990)
【非特許文献6】K. Ishihara, H. Oshida, Y. Endo, T. Ueda, A. Watanabe, and N. Nakabayashi, J. Biomed. Mater. Res.,26, 1543-1542 (1992)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、単層カーボンナノチューブを修飾することで、新たな性質、とりわけ生体に投与した際に、特定の細胞や組織に集積可能な単層カーボンナノチューブ提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、単層カーボンナノチューブに生体内で孤立分散を維持できる性質を付与することに着目した。そこで、単層カーボンナノチューブの表面を生体親和性の高い構造を有するポリマーで修飾することを着想し、鋭意検討する中で、PMBのような生体親和性の性質を備えた側鎖を有するポリマーで表面被覆したSWCNTは、生体内においても従来の表面修飾単層カーボンナノチューブと比較して、より孤立分散が維持されやすい性質を有することを見出した。
【0007】
ここで、PMBとは、2-Methacryloyloxyethyl phosphorylcholine(MPC)とn-butyl methacrylate(BMA)との共重合体である。また、PMBは、ガラス、金属、プラスチック表面にタンパクや細胞が付着することを防ぐ効果が高く、かつ、生体親和性が高いポリマーとして知られている(非特許文献4−6)。そして、PMBによるSWCNTの表面被覆に関してはこれまで研究されていなかった。本発明者らにより新規に開発されたPMBで修飾されたSWCNTをマウスに投与したところ、さらに驚くべきことに、特定の細胞または組織特異的にSWCNTが集積することを見出した。また、組織に集積したSWCNTは、体外からの近赤外線の照射により発光し、造影することが可能であるという知見を得た。本発明者らは、この現象についてさらに追及したところ、このような特定の細胞や組織への集積は、血中のアポリポプロテインとSWCNTとが結合することにより、当該アポリポプロテインと結合能を有する、すなわちアポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織特異的にSWCNTが集積することを見出した。これまでに、SWCNTが、アポリポプロテインとの結合を介して、特定の細胞や組織に優先的に蓄積すること、また、それらの細胞や組織のイメージング剤として使えるという報告はない。一つの原因として、SWCNTの表面被覆が適切でなく、SWCNTの孤立分散が生体内で維持されなくなり、マクロファージにとらわれやすくなることが原因と推察される。
【0008】
すなわち、本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される:
本発明は、一態様において、
〔1〕アポリポプロテインの存在下、前記アポリポプロテインとの結合を介して、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に結合する単層カーボンナノチューブであって、生体親和性の側鎖を有するポリマーにより被覆された単層カーボンナノチューブに関する。
また、本発明の単層カーボンナノチューブは、一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記生体親和性の側鎖を有するポリマーが、リン酸エステル、コリン基、ホスホリルコリン基、若しくは、ホスホリルコリン類似基、又は、これらの組み合わせを側鎖に有するポリマーであることを特徴とする。
また、本発明の単層カーボンナノチューブは、一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記生体親和性の側鎖を有するポリマーが、PMB、PLPEG、又は、それらの組み合わせであることを特徴とする。
また、本発明の単層カーボンナノチューブは、一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記アポリポプロテインが、アポリポプロテインB(ApoB)、アポリポプロテインC(ApoC)またはアポリポプロテインE(ApoE)であることを特徴とする。
また、本発明の単層カーボンナノチューブは、一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の単層カーボンナノチューブであって、
前記細胞または組織が、脂肪組織における毛細血管内皮細胞、または、肝臓における星状細胞であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、別の態様において、
〔6〕上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の単層カーボンナノチューブを含む、アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対する標的化剤に関する。
また、本発明の標的化剤は、
〔7〕アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対するイメージング剤であることを特徴とする。
また、本発明の標的化剤は、
〔8〕アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対するドラッグデリバリー剤であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、別の態様において、
〔9〕アポリポプロテインの存在下、前記アポリポプロテインとの結合を介して、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に結合する単層カーボンナノチューブを製造する方法であって、
単層カーボンナノチューブを、生体親和性の側鎖を有するポリマーを含む溶液中に溶解させる工程を含む、製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の単層カーボンナノチューブによれば、アポリポプロテインの存在下、アポリポプロテインとの結合を介して、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に結合させることができる。これにより、本発明の単層カーボンナノチューブを、特定の細胞や組織特異的な造影剤やドラッグデリバリーシステムとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】アルブミン(a)、アポリポプロテインB(ApoB)(b)およびアポリポプロテインE(ApoE)(c)を検出するための血清/PMB-CNTsの反応溶液(レーン1)および等容量の血清(レーン2)を用いたウェスタンブロット法の結果を示す画像である。なお、アルブミンWBは1/10希釈サンプルを用いて実施した。
【
図2】抗IgG抗体(a、c:ウサギ、ヤギ)、抗ApoB抗体(b)、抗ApoE抗体(d)、および抗ApoC抗体(f)を用いて、PMB-CNT /血清混合物を塗抹したスライドガラスの免疫染色後の蛍光画像を示す。
【
図3】PMB-CNT投与マウスの肝臓のTEM画像を示す。a、b、cは、投与から3.5時間後のサンプルの画像を示し(b、cは、aの一部を拡大した画像を示す)、d、e、fは投与から14日後のサンプルの画像を示す(e、fは、dの一部を拡大した画像を示す)。 LDは脂肪液滴を示し、赤色破線はHSC(肝星状細胞)を示し、青色破線はCNTが存在する領域を示す。
【
図4】脂肪組織毛細血管内皮細胞上のその受容体と結合するCNT-PMB-アポリポタンパク質複合体のモデルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、アポリポプロテインとの結合を介することで、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞や組織特異的に集積可能な単層カーボンナノチューブであって、生体親和性の側鎖を有するポリマーにより被覆された単層カーボンナノチューブを提供する。
ここで、「生体親和性の側鎖を有するポリマー」とは、単層カーボンナノチューブの表面に被覆されるポリマーであって、単層カーボンナノチューブに生体親和性を付与するポリマーをいう。このようなポリマーとしては、リン酸エステル、コリン基、ホスホリルコリン基、若しくは、ホスホリルコリン類似基、又は、これらの組み合わせを側鎖に有するポリマーを挙げることができる。より好ましくは、リン脂質極性基であるホスホリルコリン基又はホスホリルコリン類似基を側鎖に有するポリマーである。このようなポリマーは公知であり、特開2004−189652号公報、特開2004−275862号公報、特開2008−297488号公報、国際公開公報2009/044816号パンフレットなどに開示されている。なお、ホスホリルコリン類似基とは、ホスホリルコリン構造の側鎖がさらに他の官能基により置換されたものをいい、例としては、ホスホリルコリン基の窒素に結合するメチル基が、水酸基や他の官能基(例えば、アルキル基、カルボキシ基、メトキシ基、メトキシカルボニル基、カルボニル−メトキシポリエチレングリコール(−CO(OCH2H2)nOCH3)、−CH2CH2NHCO(OCH2CH2)nO(CH2)3NH2など)に置換されているものを挙げることができる。このようなホスホリルコリン類似基を有するポリマーとしては、例えば、市販のPMB、PLPEG(SUNBRIGHT(登録商標)、DSPE-050CNやDSPE-020PA)などを挙げることができる。
【0014】
なお、ホスホリルコリン基を側鎖に有するポリマーとしては、以下に限定されないが、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC:2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine)、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシエチレンホスホリルコリン、若しくは、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリン、又は、それらの組み合わせを含有する重合体又は共重合体を挙げることができる。
【0015】
「生体親和性の側鎖を有するポリマー」としては、PMB(
ポリ(2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)-co-n-ブチルメタクリレート
))、PLPEG、又は、それらの組み合わせの使用を好ましい実施の形態として挙げることができ、PMBの使用がより好ましい。
なお、PLPEGは、リン脂質とポリエチレングリコールの化合物で、脂質部分SWCNTの表面に吸着することで、PEG基によりSWCNTに親水性が付与される。PLPEGはSWCNT分散剤として既知であり、動物体内でマクロファージによる補足を遅らせることで血中滞留時間が長くなることが知られている。なお、本発明に使用されるPLPEGは、好ましくは、N-(aminopropyl polyethyleneglycol)carbamyl-distearoylphosphatidyl-ethanolamine, sodium salt、N-(Carbonyl-methoxypolyethyleneglycol)-1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, sodium salt、1,2-distearoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine-N-[amino(polyethylene glycol)], ammonium saltなどである。
このように、本発明に使用される「生体親和性の側鎖を有するポリマー」は、好ましい形態において、生体親和性とともに親水性を単層カーボンナノチューブに付与し、生体内における単層カーボンナノチューブの孤立分散性を向上させる効果を付与する。このような孤立分散性の効果は、タンパクの吸着やマクロファージによる貪食を防ぐことができると考えられる。
また、SWCNTの表面被覆にPMBを用いた場合は、PLPEGを用いた場合に比べて、生体内でのSWCNT孤立分散が維持されやすいと推察され、PMBで被覆したSWCNTはアポリポプロテイン受容体を発現する細胞や組織により優先的に蓄積される可能性がある。
【0016】
本発明に使用される単層カーボンナノチューブ(SWCNT)は、生体親和性の側鎖を有するポリマーにより被覆されることにより、アポリポプロテインと結合することができ、これによりアポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織へ集積する性質を有することができるものであれば特に限定されず、公知の単層カーボンナノチューブを用いることができる。単層カーボンナノチューブの直径や長さ等も、特定の細胞への集積が制限されない限り限定されないが、例えば、直径0.6〜1.5nm、長さは20〜200nmの範囲とすることができる。具体的には、以下に限定されないが、例えば、市販のHiPco、CoMoCATを用いることができる。また、本発明に使用される単層カーボンナノチューブは、CVD法、レーザーアブレーション法、アーク放電法など、公知の方法で作製したものを用いることもできる。
【0017】
単層カーボンナノチューブの表面の被覆方法は、既知の手法によりコール酸ナトリウムなどの界面活性剤等を用いて水溶液中にSWCNTを孤立分散させ(非特許文献3)、次に、生体親和性の側鎖を有するポリマーと反応させてSWCNTの表面をSWCNTの生体親和性が高まるポリマーで置換することにより得ることができる。なお、「生体親和性の側鎖を有するポリマー」は、2つ以上のポリマーを組み合わせて単層カーボンナノチューブに修飾させてもよい。
このとき、「生体親和性の側鎖を有するポリマー」の重合度は、単層カーボンナノチューブ表面に結合した当該ポリマーにおいて、アポリポプロテインとの結合が阻害されない限り制限されず、例えば、分子量が30000〜100000の範囲のものを用いるとすることができる。
単層カーボンナノチューブと生体親和性の側鎖を有するポリマーとの反応は、例えば、15〜30℃の温度条件下、5分〜1時間行うことができる。
単層カーボンナノチューブは、アポリポプロテインとの結合が可能な範囲で、生体親和性の側鎖を有するポリマーに表面を覆われていればよく、全体が当該ポリマーに覆われている状態がより好ましい。単層カーボンナノチューブと生体親和性の側鎖を有するポリマーとを反応させる際、以下に限定されないが、例えば、1:0.5〜1:2の重量比で反応させることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、単層カーボンナノチューブは、その内部空間に、金属や酸化物の原子又は分子、あるいは機能性分子などを内包させたものを用いることができ、例えば、抗がん剤シスプラチン(CDDP)を内包した単層カーボンナノチューブ、MRI診断用の造影剤であるGd(OAc)3クラスターを内包した単層カーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0019】
本発明の親和性の側鎖を有するポリマーで被覆された単層カーボンナノチューブは、例えば、血中等のアポプロテインの存在下においては、アポプロテインと当該ポリマーとの間の相互作用により単層カーボンナノチューブの表面上に(より詳細には、当該ポリマーと)アポリポプロテインが結合する。また、アポリポプロテインの結合により当該単層カーボンナノチューブは、アポリポプロテイン受容体を発現する細胞または組織に特異的に集積することができる。
このように、本発明に親和性の側鎖を有するポリマーで被覆された単層カーボンナノチューブは、アポリポプロテインを吸着する性質を有する。よって、本発明の単層カーボンナノチューブは、一態様において、アポリポプロテイン吸着剤としても使用することが可能である。
ここで、アポリポプロテインとは、コレステロールや中性脂肪を中心にしてリン脂質が殻を形成しているリポタンパクでアポタンパクを有するものをいう。本発明の単層カーボンナノチューブが結合するアポリポプロテインとしては、例えば、ApoE、ApoB(ApoB48、ApoB100)、ApoC(ApoC-I、ApoC-II、ApoC-III)を挙げることができる。
また、アポリポプロテイン受容体とは、アポ蛋白が特異的に結合する受容体である。アポリポプロテイン受容体を発現する細胞や組織としては、脂肪組織の毛細血管内皮細胞、肝星細胞を挙げることができる。より具体的には、肝臓の星状細胞はアポリポプロテインE(ApoE)受容体を発現しており、また、脂肪組織における毛細血管内皮細胞はアポリポプロテインC(ApoC)受容体を発現している。
【0020】
本発明は、一態様として、上記の生体親和性の側鎖を有するポリマーで表面が被覆された単層カーボンナノチューブを含む、アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対する標的化剤を提供する。また、本発明の標的化剤は、さらに標識プローブまたは薬剤を含有することができる。以下に限定されないが、標識プローブは、蛍光色素、放射性同位体、PET用核種、SPECT用核種、MRI造影剤、CT造影剤、又は磁性体とすることができる。
本発明のアポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織に対する標的化剤は、例えば、アポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織を標的としたイメージング剤(造影剤などを含む)として使用することができ、またアポリポプロテイン受容体を有する細胞または組織を標的としたドラッグデリバリー剤として使用することができる。
本発明のイメージング剤又はドラッグデリバリーシステム剤は、医療製剤の形態に製剤されて体内へ投与することができる。剤形は限定されず、例えば、注射剤(液剤、乳剤、懸濁剤)として製剤することができる。製剤化にあたっては、本発明のイメージング剤又はドラッグデリバリーシステム剤を溶解した溶液は、殺菌され、かつ、血液と等張であることが好ましい。これらの液剤、乳剤及び懸濁剤の形態に成形する際に用いられる希釈剤としては、公知のものを広く用いられているものを使用することができる。希釈剤としては、例えば、水、エタノール、プロピレングリコール、エトキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシ化イソステアリルアルコール、ポリオキシエチレンソルベタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。この場合、等張性の溶液を調製するのに十分な量の食塩、ブドウ糖あるいはグリセリンを製剤中に含有させてもよく、また、本発明のイメージング剤又はドラッグデリバリーシステム剤に含まれる生体親和性の側鎖を有するポリマーにより被覆された単層カーボンナノチューブの構造を変化させない範囲において、公知の溶解補助剤、緩衝剤、無痛化剤等を、更に必要に応じて着色剤、保存剤、香料、風味剤、甘味剤等、及び/又は他の医薬品を含有させることができる。
また、本発明のイメージング剤又はドラッグデリバリーシステム剤の投与量は、当業者であれば、適宜設定して使用することが可能である。
【0021】
また、本発明のイメージング剤又はドラッグデリバリーシステム剤は、医療製剤の形態に製剤されて体内へ投与することができる。投与経路は、静脈投与が好ましいが、経口投与による腸管壁からの吸収により血流にのり、目的組織や臓器に到達させることが可能である。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0023】
(1.親和性側鎖を有するポリマーで被覆したSWCNTの作製)
SWCNT(HiPco Raw (NanoIntegirs))100mgをコール酸ナトリウム(SC)(500mg)と超純水(100mL)中で混合させ、超音波破砕器処理にてSWCNTバンドルを個々のSWCNTへ分離させた後、遠心分離を行い、単一分散SWCNTが含まれている上澄みを回収した。この上澄み液をゲルカラムにかけて、半導体型SWCNT、単一構造(9,4)SWCNTを分取した。半導体型SWCNTにおいては、PMB30(MPC unit 30%とBMA units 70%からなるコポリマー(分子量 6.0 x 105)。MPC:2-methacryloyloxyethyl phosphorylcholine。BMA polymers:poly(n-butyl methacrylate)、またはPLPEG(SUNBRIGHT、 DSPE-050PA: N-(aminopropyl polyethyleneglycol)carbamyl-distearoylphosphatidyl-ethanolamine)水溶液に入れ(超純水を使用)、バスタイプの超音波洗浄機を用いて10分攪拌した。その後、限外ろ過(Amicon Ultra 3k(Millipore))によりコール酸ナトリウムを除去すると同時にSWCNTを濃縮し、0.5mg/mL(SWCNT/水)のPMB-SWCNTあるいはPLPEG-SWCNT水分散液を1.5-2mL得た。(9,4)SWCNTは、PLPEG水溶液に入れ、攪拌したのちに、ろ過し、0.17mg/mLのPLPEG-(9,4)SWCNT水分散液を1.5-2mL得た。
【0024】
(2.PMB-CNTとアポリポタンパク質との相互作用)
本発明者らは、これまでに、PMB-SWCNTやPLPEG-SWCNTなどの特定のポリマーで被覆した単層カーボンナノチューブをマウスの体内へ投与すると、当該単層カーボンナノチューブが熱産生脂肪組織特異的に集積することを見出していた。そこで、本発明者らは、当該単層カーボンナノチューブが脂肪組織の毛細血管内皮細胞に対して特異的親和性を有すると仮定した。脂肪組織毛細血管内皮細胞は、脂肪細胞自体を生成する独特の性質を有することが報告されており、脂肪細胞および脂肪組織毛細血管内皮細胞は共通の特徴を有することが示唆されている。脂肪細胞は、脂質化合物の取り込みおよび回復に特化した細胞である。一方、本発明に使用されるポリマーの一つである両親媒性PMBは、極性ホスホリルコリン基と疎水性ブチル基の両方を側鎖に有しているため、タンパク質吸着や細胞接着を減少させる重要な特性に基づいて高い生体適合性を有する様々な合成材料を付与する。したがって、PMB-CNTのような本発明に係る単層カーボンナノチューブは、血清脂質などの生物起源の脂質化合物のように挙動する脂肪組織毛細血管内皮細胞に蓄積する可能性がある。血清脂質の中でも、CNT(直径=約1nm;長さ= 100〜1000nm)は、カイロミクロンレムナント(chylomicron remnant:CR)(直径= 80nm)および超低密度リポタンパク質(VLDL)(直径= 60nm)に相当する大きさである。そこで、PMB-CNTがアポリポタンパク質B48(ApoB48)、アポリポタンパク質E(ApoE)、およびアポリポタンパク質C-II(ApoC-II)と相互作用できるかどうかを決定するために吸収アッセイを行った。なお、ApoB48はカイロミクロン形成に必要であり、ApoEはCRおよびVLDLとそれらの受容体との相互作用を媒介し、ApoC-IIはリポタンパク質リパーゼ(LPL)の活性化因子である。
【0025】
PMB-CNT添加(CNT:0.5mg/mL, 125mL)、または添加していないマウス血清(125mL)をインキュベートし、反応上清をウエスタンブロッティングに供した。反応上清中のApoB48およびApoEの量は、それぞれPMB-CNTによる吸収を介して76%および90%減少した(
図1)。これは、カイロミクロンレムナント上のApoB48分子およびApoE分子の大部分がPMB-CNTに吸着したことを示す。一方で、ApoC-IIに関しては、このアッセイの比較的低い感度のために、吸着した結果は観察されなかった。次に、より高感度でPMB-CNTとアポリポプロテインとの間の相互作用を評価するために、血清/PMB-CNTs反応混合物をガラススライド上に塗り、抗アポリポタンパク質抗体で染色した。個々のCNTは見えなかったが、PMB-CNT分子の凝集に起因して、抗ApoB抗体および抗ApoE抗体で染色されたスライドガラス上に多数の微細なドットが検出された(
図2)。一方、コントロールであるIgG染色スライドグラスまたは血清のみのスライドグラスではこのようなドットは検出されず、この結果は、PMB-CNTとApoB48およびApoEとの特異的相互作用を確認するものである。興味深いことに、抗ApoC-II抗体で染色されたスライドグラス上には、多数の微細なドットが検出され、PMB-CNTsもApoC-IIと相互作用することが示された。ApoC-IIは、トリグリセリド代謝において活性な組織の毛細血管内皮細胞において発現されるリポタンパクリパーゼ(LPL)のアクチベーターであるため、脂肪組織毛細血管内皮細胞におけるPMB-CNTの優先的な蓄積は、少なくとも部分的にApoC / PMB-CNT相互作用に寄与している。
【0026】
一方、ApoE / PMB-CNT相互作用性は、PMB-CNTを用いた肝臓を標的とする輸送の可能性を提供し得る。この可能性を評価するために、PMB-CNT投与マウスの肝臓のTEM画像を詳細に調べた。注射後3.5時間で、PMB-CNT構造が毛細血管の空間および肝星状細胞(HSC)の脂質液滴で検出された(
図3)。14日目にHSCの脂質液滴中にPMB-CNTがより頻繁に観察された(
図3)。これは、ビタミンAを含む脂質および親油性化合物を取り込み、かつ、保持する能力を有することを示す。対照的に、CNT構造は、両方の時点で毛細血管内皮細胞またはクッパー細胞(Kupffer cell)で検出されなかった。同時に、肝臓切片のNIR-PL顕微鏡写真は、毛細血管内皮細胞の網目構造またはマクロファージの散在した分布に似ていない壊れた網状構造を示した。したがって、インビボで投与されたPMB-CNTは、血流中でアポリポタンパク質と相互作用し、生体内のリポタンパク質と同様に、各アポリポタンパク質の特性に依存して特定の身体部位に蓄積したことを示す。