特許第6784976号(P6784976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6784976
(24)【登録日】2020年10月28日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】脳機能計測装置と脳機能計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
   A61B10/00 E
   A61B10/00ZDM
【請求項の数】12
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-512420(P2019-512420)
(86)(22)【出願日】2018年3月28日
(86)【国際出願番号】JP2018012853
(87)【国際公開番号】WO2018190130
(87)【国際公開日】20181018
【審査請求日】2019年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-80533(P2017-80533)
(32)【優先日】2017年4月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 亨
【審査官】 湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/132989(WO,A1)
【文献】 特開2009−268707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体の脳に光を照射する第一の照射手段と、
前記第一の照射手段に隣接して配設され、前記第一の照射手段から照射された光のうち前記脳で反射された光を検出する第一の検出手段と、
前記第一の検出手段に隣接して配設され、前記被検体の脳に光を照射する第二の照射手段と、
前記第二の照射手段に隣接して配設され、前記第二の照射手段から照射された光のうち前記脳で反射された光を検出する第二の検出手段と、
前記第一の検出手段と前記第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、前記第一の照射手段と前記第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、前記第二の照射手段により照射される光量につき第一の調節を行うと共に、前記第二の照射手段と前記第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が前記観測値になるよう、前記第二の検出手段により検出される光量につき第二の調節を行う制御手段とを備えた脳機能計測装置。
【請求項2】
前記脳機能計測装置は、複数の前記照射手段及び前記検出手段を備え、
前記制御手段は、複数の前記照射手段の中から最大の実効入射光量を持つ前記照射手段を選択すると共に、複数の前記検出手段の中から最大の実効検出効率を持つ前記検出手段を選択し、選択された前記照射手段と前記検出手段を結ぶ最短経路に位置する各々の前記計測点について、前記選択された前記照射手段から前記選択された前記検出手段に向かう順序で前記第一及び第二の調節を実行した後、前記最短経路に位置する各々の前記計測点について、前記選択された前記検出手段から前記選択された前記照射手段に向かう順序で前記第二及び第一の調節を実行する、請求項1に記載の脳機能計測装置。
【請求項3】
前記制御手段は、全ての使用波長毎に前記調節を行う、請求項2に記載の脳機能計測装置。
【請求項4】
前記最大の実効入射光量を持つ照射手段が照射する前記計測点、若しくは前記最大の実効検出効率を持つ検出手段が検出する前記計測点の少なくとも一方は、前記被検体の無毛部に配設された、請求項2に記載の脳機能計測装置。
【請求項5】
記憶手段をさらに備え、
前記制御手段は、さらに、
前記第一の検出手段と前記第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、前記第一の照射手段と前記第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、前記第二の照射手段により照射される光量を調節すると共に、前記第二の照射手段と前記第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が前記観測値になるよう、前記第二の検出手段により検出される光量を調節した後、前記観測値を基準値として前記記憶手段に保存し、かつ、少なくとも一つの前記検出手段へ入射する光の透過率を百パーセントとしたときに、前記少なくとも一つの前記検出手段が計測する前記計測点につき観測された最大光量値を前記記憶手段に保存した上で、
平準化対象とする前記計測点につき計測するための少なくとも一つの前記検出手段へ入射する光の透過率を百パーセントとし、前記平準化対象とする前記計測点につき観測される光量が前記最大光量値となるように、前記平準化対象とする前記計測点につき計測するための前記照射手段から照射される光量を調節した後に、前記平準化対象とする前記計測点につき観測される光量の値が前記基準値となるように、前記平準化対象とする前記計測点につき計測するための前記検出手段で検出される光量を調節し、前記平準化対象とする前記計測点を、前記第一の検出手段と第一の照射手段との間の計測点とみなして前記照射手段の調節を行う、請求項4に記載の脳機能計測装置。
【請求項6】
記憶手段をさらに備え、
前記制御部は、さらに、
前記第一の検出手段と前記第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、前記第一の照射手段と前記第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、前記第二の照射手段により照射される光量を調節すると共に、前記第二の照射手段と前記第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が前記観測値になるよう、前記第二の検出手段により検出される光量を調節した時点における前記第一の検出手段の実効検出効率の値と前記第一の照射手段の実効入射光量の値とを前記記憶手段に保存した上で、
前記第一の検出手段における検出効率を保存された前記実効検出効率とし、前記第一の照射手段における照射光量を保存された前記実効入射光量とし、再度前記照射手段に対する前記調節を行う、請求項2に記載の脳機能計測装置。
【請求項7】
被検体の脳に光を照射し、前記脳において反射された光を検出することにより前記脳の機能を計測する脳機能計測方法であって、
隣接する第一の検出手段と第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、前記第一の検出手段に隣接する第一の照射手段と前記第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、前記第二の照射手段により照射される光量を調節する第一のステップと、
前記第二の照射手段と前記第二の照射手段に隣接する第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が、前記観測値になるよう、前記第二の検出手段により検出される光量を調節する第二のステップとを有する脳機能計測方法。
【請求項8】
前記脳機能計測方法は、複数の前記計測点において前記脳の機能を計測する方法であって、
複数の前記照射手段の中から最大の実効入射光量を持つ照射手段を選択すると共に、複数の前記検出手段の中から最大の実効検出効率を持つ検出手段を選択する第三のステップと、
前記第三のステップで選択された前記照射手段と前記検出手段を結ぶ最短経路に位置する各々の前記計測点について、前記選択された前記照射手段から前記選択された前記検出手段に向かう順序で前記第一及び第二のステップを実行した後、前記最短経路に位置する各々の前記計測点について、前記選択された前記検出手段から前記選択された前記照射手段に向かう順序で前記第二及び第一のステップを実行する第四のステップと、
前記最短経路に位置する各々の前記計測点と、前記各々の前記計測点に隣接する前記計測点との間において、前記第一のステップ及び前記第二のステップを実行する第五のステップとをさらに有する、請求項7に記載の脳機能計測方法。
【請求項9】
前記第三から第五のステップを、全ての使用波長毎に実行する、請求項8に記載の脳機能計測方法。
【請求項10】
前記最大の実効入射光量を持つ照射手段が照射する前記計測点、若しくは前記最大の実効検出効率を持つ検出手段が検出する前記計測点の少なくとも一方は、前記被検体の無毛部に配設される、請求項8に記載の脳機能計測方法。
【請求項11】
前記第二のステップを実行した後に前記観測値を基準値として保存する第六のステップと、
少なくとも一つの前記検出手段へ入射する光の透過率を百パーセントとしたときに、前記少なくとも一つの前記検出手段が計測する前記計測点につき観測された最大光量値を保存する第七のステップと、
平準化対象とする前記計測点につき計測するための少なくとも一つの前記検出手段へ入射する光の透過率を百パーセントとし、前記平準化対象とする前記計測点につき観測される光量が前記最大光量値となるように、前記平準化対象とする前記計測点につき計測するための前記照射手段から照射される光量を調節する第八のステップと、
前記第八のステップを実行した後に、前記平準化対象とする前記計測点につき観測される光量の値が前記基準値となるように、前記平準化対象とする前記計測点につき計測するための前記検出手段で検出される光量を調節する第九のステップと、
前記平準化対象とする前記計測点を、前記第一の検出手段と第一の照射手段との間の計測点として前記第一のステップから前記第五のステップを実行する第十のステップとをさらに有する、請求項10に記載の脳機能計測方法。
【請求項12】
前記第五のステップを終えた時点における前記実効検出効率の値と前記実効入射光量の値とを保存する第六のステップと、
基準となる隣接した二つの前記計測点を計測するための前記検出手段における検出効率を前記第六のステップで保存された前記実効検出効率とし、前記二つの前記計測点を計測するための前記照射手段における照射光量を前記第六のステップで保存された前記実効入射光量とする第七のステップと、
前記第七のステップの後に、前記基準とした前記計測点を基点として再度前記第一から第五のステップを実行する、請求項8に記載の脳機能計測方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳の機能を計測するための装置と方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、簡便な脳機能計測手法として機能的近赤外分光法(functional near infrared spectroscopy: fNIRS)が知られている。このfNIRSを用いた計測は、プローブを頭皮に当てて行われるが、プローブ直下の毛髪の多寡や、プローブと頭皮の密着度によって、頭皮とプローブの間で生じる光減衰の大きさが異なることになる。従って、計測点(チャンネル)毎に信号対雑音比も著しく異なるため、計測された信号に厳格な統計解析を適用することはできない。
【0003】
このような背景から、特許文献1に示されるように、各チャンネルで計測された全ての信号の雑音分散を等しくする技術が考案されている。すなわち、本技術は、各光源や各検出器と生体との間に光減衰器を導入し、これらの光透過率を制御することで全チャンネルにおける観測光量を平準化し、雑音分散の平準化を図るものである。なお、各光減衰器の光透過率は、計測値に基づいて設定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2016132989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された技術においては、全ての光減衰器について、できる限り正確な較正を行う必要があるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、較正作業を不要にし、若しくは最小限に留めることのできる脳機能計測装置と脳機能計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、被検体の脳に光を照射する第一の照射手段と、第一の照射手段に隣接して配設され、第一の照射手段から第一の方向へ照射された光のうち脳で反射された光を検出する第一の検出手段と、第一の検出手段に隣接して配設され、被検体の脳に光を照射する第二の照射手段と、第二の照射手段に隣接して配設され、第二の照射手段から照射された光のうち脳で反射された光を検出する第二の検出手段と、第一の検出手段と第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、第一の照射手段と第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、第二の照射手段により照射される光量を調節すると共に、第二の照射手段と第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が上記観測値になるよう、第二の検出手段により検出される光量を調節する制御手段を備えた脳機能計測装置を提供する。
【0008】
また、上記課題を解決するため、本発明は、被検体の脳に光を照射し、脳において反射された光を検出することにより脳の機能を計測する脳機能計測方法であって、隣接する第一の検出手段と第二の照射手段との間の計測点につき計測される光量が、第一の検出手段に隣接する第一の照射手段と第一の検出手段との間の計測点につき観測された観測値になるよう、第二の照射手段により照射される光量を調節する第一のステップと、第二の照射手段と第二の照射手段に隣接する第二の検出手段との間の計測点につき計測される光量が上記観測値になるよう、第二の検出手段により検出される光量を調節する第二のステップを有する脳機能計測方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、較正作業を不要にし、若しくは最小限に留めることのできる脳機能計測装置と脳機能計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施の形態に係る脳機能計測システムの構成を示す図である。
図2図1に示されたホルダ20上における光照射プローブS1,S2及び光検出プローブD1,D2の第一の配置例を示す図である。
図3図2に示された光照射プローブS及び光検出プローブDの配置を二次元平面に記した模式図である。
図4】本発明の実施の形態に係る第一の脳機能計測方法を図1に示された制御部3による制御により実現する方法を示すフローチャートである。
図5図1に示されたホルダ20上における光照射プローブS1,S2及び光検出プローブD1,D2の第二の配置例を示す図である。
図6】本発明の実施の形態に係る第二の脳機能計測方法を図1に示された制御部3による制御により実現する方法を示すフローチャートである。
図7】本発明の実施の形態に係る第三の脳機能計測方法を図1に示された制御部3による制御により実現する方法を示すフローチャートである。
図8図1に示されたホルダ20上における光照射プローブS1,S2及び光検出プローブD1,D2の第三の配置例を示す図である。S1
図9図8に示された光照射プローブ及び光検出プローブの配置を二次元平面に記した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下において、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0012】
図1は、本発明の実施の形態に係る脳機能計測システムの構成を示す図である。図1に示されるように、脳機能計測システムは、制御部3と光源部5、データ計測部7、及び記憶部9を含む脳機能計測装置1と、光減衰器11〜14と、被検体に装着され光照射プローブS1,S2及び光検出プローブD1,D2を含むホルダ20とを備える。
【0013】
ここで、制御部3は光源部5、データ計測部7、記憶部9、及び光減衰器11〜14に接続され、光照射プローブS1,S2はそれぞれ光減衰器11,12を介して光源部5に接続される。また、光検出プローブD1,D2はそれぞれ光減衰器13,14を介してデータ計測部7に接続される。また、データ計測部7は記憶部9にも接続される。
【0014】
一方で、例えば、図1に示されたホルダ20上における光照射プローブS1,S2は、図2の白丸で示された光照射プローブSの位置に配置され、図1に示されたホルダ20上における光検出プローブD1,D2は、図2の黒丸で示された光検出プローブDの位置に配置される。なお、図2においてグレーの部分は毛髪を示し、図5及び図8でも同様である。
【0015】
ここで、図2に示された光照射プローブS及び光検出プローブDは、例えば図3に示された模式図で示されるように交互に配置される。
【0016】
[連結チャンネル群内の雑音平準化]
図4は、本発明の実施の形態に係る第一の脳機能計測方法を図1に示された制御部3による制御により実現する方法を示すフローチャートである。以下において、図3を参照しつつ、図4に示された第一の脳機能計測方法を詳しく説明する。なお、図4に示された第一の脳機能計測方法は、図1に示された制御部3による制御により実現する場合に限られないことは言うまでもない。
【0017】
ステップS1において、制御部3は、隣接する第一の光検出プローブD1と第二の光照射プローブS2との間のチャンネルCH2につき第一の光検出プローブD1で計測される光量が、第一の光検出プローブD1に隣接する第一の光照射プローブS1と第一の光検出プローブD1との間のチャンネルCH1につき第一の光検出プローブD1で観測された光量の値(観測値)になるよう、第二の光照射プローブS2に接続された光減衰器12を制御することにより、第二の光検出プローブD2で検出される光量を調節する。
【0018】
次に、ステップS2において、制御部3は、第二の光照射プローブS2と第二の光照射プローブS2に隣接する第二の光検出プローブD2との間のチャンネルCH3につき第二の光検出プローブD2で計測される光量が上記観測値になるよう、光減衰器14を制御することにより、第二の光検出プローブD2で検出される光量を調節する。
【0019】
次に、ステップS3において、制御部3は、複数の光照射プローブの中から最大の実効入射光量を持つ光照射プローブを選択すると共に、複数の光検出プローブの中から最大の実効検出効率を持つ光検出プローブを選択する。
【0020】
次に、ステップS4において、制御部3は、ステップS3で選択された光照射プローブと光検出プローブを結ぶ最短経路に位置する各々のチャンネルについて、上記選択された光照射プローブから上記選択された光検出プローブにむかう順序でステップS1及びステップS2を実行したのち、前記最短経路の各々のチャンネルについて、上記選択された光検出プローブから上記選択された光照射プローブにむかう順序でステップS2及びステップS1を実行する。
【0021】
次に、ステップS5において、制御部3は、上記最短経路に位置する各々のチャンネルと、当該チャンネルに隣接するチャンネルとの間において、ステップS1及びステップS2を実行する。以下において、図4に示された第一の脳機能計測方法の具体例を詳しく説明する。
【0022】
チャンネルkに関し各波長λにおける観測光量Jは、以下の式(1)で示される。
【0023】
【数1】
【0024】
ここで、ri,0,λは光照射プローブと頭皮の間における光透過率の時間平均値、rj,0,λは光検出プローブと頭皮の間における光透過率の時間平均値、Rは組織透過率の時間平均値を意味する。
【0025】
また、多チャンネルを構成するn本の光照射プローブとm本の光検出器プローブには、それぞれ、いずれか一つの図1に示された光減衰器11〜14が接続されているところ、ai(但し、iは1以上n以下で、aiは0以上1以下)は光照射プローブに接続された光減衰器の透過率、aj(jは(n+1)以上(n+m)以下で、ajは0以上1以下)は光検出プローブに接続された光減衰器の透過率を示す。このとき、チャンネルkでのfNIRS信号に含まれた雑音の大きさhは、以下の式(2)で表される。
【0026】
【数2】
【0027】
ここで、nj,λ(t)は光検出器プローブjの計測で生じる検出器雑音を表すが、同じ規格の検出器を用いる場合にはプローブ間での較差はほぼ無視できる。このため、式(2)を参照すると、チャンネル間でfNIRS信号に含まれた雑音の大きさhを平準化することは、各チャンネルにおける観測光量Jk,λを平準化することを意味することが分かる。
【0028】
ところで、式(1)の両辺の対数をとると、次式(3)となる。
【0029】
【数3】
【0030】
ただし、式(3)の係数C1と係数C2は次式(4)の関係を満たす。
【0031】
【数4】
【0032】
なお、以下においては、式(3)の第一項におけるIi,λlairi,0,λlを実効入射光量、第二項におけるrj,0,λlajを実効検出効率と呼ぶ。
【0033】
ここで、N個の計測チャンネルとこれを構成するプローブの関係をプローブ配置行列と呼ぶ行列Gで表現する。行列GはN×(n+m)の行列であり、その要素gは光照射プローブiと光検出器プローブjがチャンネルkを構成するとき、次式(5)で定義される。
【0034】
【数5】
【0035】
どのような規模やパターンのチャンネル若しくはプローブの配置であっても、これに対応して行列Gは必ず一つだけ定まり、また行列Gの擬似逆行列G+もこれに対応して必ず一つ定まる。このようなプローブ配置行列を用いると、任意のチャンネルに関する式(3)の関係は次式(6)のような行列演算にまとめることができる。
【0036】
【数6】
【0037】
ここで、sλは観測光量の対数logJk,λ(但し、kは1以上N以下)を要素とする列ベクトルであり、実測によって決められる。一方、ρλは推定したい実効入射光量に関する項log(Ii,λairi,0,λC1)(但し、iは1以上n以下)及び、実効検出効率に関する項log(rj,0,λlajC2)(但し、jは(n+1)以上(n+m)以下)を要素とする以下の式(7)で示される列ベクトルである。
【0038】
【数7】
【0039】
ここで、式(7)の左から擬似逆行列G+を掛けることによって、ρλの特殊解が以下の式(8)のように求まる。
【0040】
【数8】
【0041】
ここで、式(7)と式(8)を比較すると、以下の式(9)及び式(10)の関係が得られる。
【0042】
【数9】
【0043】
【数10】
【0044】
このようにして各チャンネルの観測光量Jk,λが得られ、チャンネルの配置を指定する行列Gが分かっているときには、各光照射プローブの実効入射光量と各光検出プローブの実効検出効率は、それぞれebi,λ/C1、ebj,λ/C2と求めることができる。
【0045】
ところで、観測光量を平準化する上で、観測光量のみならず実効入射光量と実効検出効率を知る必要があるが、その理由は以下の通りである。観測光量は実効入射光量と実効検出効率の積である。ここで、実効入射光量が著しく異なるチャンネルがあったとしても、それに応じた実効検出効率を持てば、見かけ上等しい観測光量を示すことが起こり得る。一方、このときの実効入射光量が一つでも安全な基準光量を超えてしまっていれば、この多チャンネル計測は安全に行われているとは言えなくなる。従って、安全な基準光量以下の光量しか生体組織に照射されていないことを確認するために実効入射光量をモニタリングすることが必要である。
【0046】
いま、図3のような多チャンネルプローブ配置において、式(8)に基づいて最大の実効入射光量を持つ光照射プローブimaxと最大の実効検出効率を持つ光検出プローブjmaxを選び出すことができる。ここでは、光照射プローブimaxと光検出プローブjmaxを結ぶ最短の経路がν個の光照射プローブとν個の光検出プローブによって構成されているものとして、その経路上にある(2ν−1)個のチャンネルにおける観測光量の平準化について説明する。
【0047】
なお、本経路内の光照射プローブを示す符号としてS1,S2,…,Sνを、光検出プローブを表す符号としてD1,D2,…,Dνを、各チャンネルを表す符号としてCH1,CH2,…,CHκ(但し、κ=2ν−1)を用いる。従って、図3においては、S1が上記の光照射プローブimaxを表し、Dνが上記の光検出プローブjmaxを表している。
【0048】
以下では、説明を平易にするため、チャンネルCH1〜CH3のみを考える。このとき、式(6)の内容を次式(11)のように書き下すことができる。
【0049】
【数11】
【0050】
なお、式(11)におけるSCH1からSCH3は逐次、計測値を算出することができる。ここで、SCH2とSCH3をSCH1の観測値/SCH1に揃えることを考える。まず、チャンネルCH1とチャンネルCH2の観測光量をモニタしながら、SCH2が上記観測値/SCH1となるように光照射プローブS2に接続された光減衰器12を制御する。これにより、次式(12)で示される状態を実現することができる。
【0051】
【数12】
【0052】
次に、チャンネルCH2とチャンネルCH3における観測光量をモニタしながら、SCH3が上記観測値/SCH1となるように光検出プローブD2に接続された光減衰器14を制御する。このような制御により、次式(13)で示される状態を実現することができる。
【0053】
【数13】
【0054】
ここで、式(13)が成り立つための必要十分条件は、次式(14)で示される。
【0055】
【数14】
【0056】
従って、上記一連の操作によってチャンネルCH1〜CH3で観測光量がe(ρS1+ρD1)に平準化されると同時に、全ての光照射プローブの実効入射光量と全ての検出プローブの実効検出効率がそれぞれeρS1、eρD1に平準化されていることが分かる。本操作は、透過率ai,ajを指定した値に制御することなく雑音平準化を達成するための中核的な手段であり、以下ではこれを隣接チャンネル平準化操作と呼ぶ。図3においては、この隣接チャンネル平準化操作をチャンネルCH4(図示していない)からチャンネルCHνに敷衍することにより、全てのチャンネルCH1〜CHνで平準化することができる。
【0057】
このように、隣接チャンネル間における平準化の操作では、基点となるチャンネルの観測光量、またそのチャンネルを構成する光照射プローブ若しくは光検出プローブでの実効入射光量若しくは実効検出効率に合わせて隣接したチャンネルやプローブの平準化が行える。また、隣接チャンネル平準化操作は、光照射プローブ又は光検出プローブを介して連結されるチャンネルに対して敷衍してゆくことが可能である。このように連結されて構成される多チャンネルを、以下では連結チャンネル群と呼ぶ。
【0058】
ところで、上記の操作では、一連の光検出プローブの実効検出効率はeρD1に平準化される。しかし、チャンネルCHνを構成する光検出プローブDνの実効検出効率は全ての光検出プローブ中で最大であるため、eρDνがeρD1より大きいことは自明である。そこで、観測光量を最大化し、実現しうる最大のS/N比に雑音を平準化するためには、各光検出プローブの実効検出効率をeρDνに平準化する必要がある。以下、この操作について説明する。
【0059】
本目的を達成するためには、上記隣接チャンネル平準化操作をチャンネルCH(κ-1)まで行った時点で一旦終わらせる。この時点での状態について、煩雑を避けるためにチャンネルCH(κ-2)からチャンネルCHκ間についてのみ記述すると次式(15)となる。
【0060】
【数15】
【0061】
ここで、チャンネルCH(κ-1)とチャンネルCHκの観測光量をモニタしながら、SCH(κ-1)が観測値/SCHκとなるように光検出プローブD(ν-1)に接続された光減衰器を制御する。これにより、次式(16)で示される状態が実現される。
【0062】
【数16】
【0063】
式(16)からは、このとき次式(17)も成立していることがわかる。
【0064】
【数17】
【0065】
従って、チャンネルCH(κ-2)からチャンネルCHκで観測光量がe(ρS1+ρDν)に平準化されると同時に、全ての光照射プローブの実効入射光量と全ての光検出プローブの実効検出効率がそれぞれeρS1、eρDνに平準化されていることが分かる。本操作をチャンネルCH(ν-3)からチャンネルCH1に遡行してゆけば、チャンネルCHκからチャンネルCH1までの全チャンネルを観測光量e(ρS1+ρDν)に平準化できる。
【0066】
以上のような手順により、任意の連結チャンネル群内の最大の実効入射光量を持つ光照射プローブimaxと最大の実効検出効率を持つ光検出プローブjmax間の観測光量を平準化することができ、さらに群内の全チャンネルについて隣接チャンネル平準化操作によって、観測光量の平準化を図ることができる。以上を踏まえて連結チャンネル群内を平準化する手順を整理すると、以下のようになる。
【0067】
第一に、プローブを被検体の頭部に装着した後に、照射側と検出側の全ての光減衰器の透過率を例えば約50%に設定し、全ての光源出力を生体(被検体)に対して安全な光照射の最大光量Isafeになるように設定する。
【0068】
第二に、波長λを選び、式(9)及び式(10)により各プローブのebi,λとebj,λを推定し、ebi,λが最大値となる光照射プローブimaxとebj,λが最大値となる光検出プローブjmaxを選び出す。
【0069】
第三に、光照射プローブimaxと光検出プローブjmaxを結ぶ最短の経路上にあるチャンネルで隣接チャンネル平準化操作を行い、観測光量をe(bimax,λ+bjmax,λ)に揃える。
【0070】
第四に、第三の手順で平準化されたチャンネルに隣接するチャンネルとの間でも同様に隣接チャンネル平準化操作を行う。
【0071】
第五に、第二から第四の手順を全ての使用波長について行う。そして、第六に、第五までの手順により決められた設定を保持した状態でfNIRS計測を行う。さらに、第七として、本計測終了と同時に第一の手順に戻るか、若しくは全ての光源出力を遮断する。
【0072】
[雑音分散の最小化]
雑音分散をなるべく低い水準に合わせて平準化するためには、計測される連結群の少なくとも一つのチャンネルを、図5に示されるように、前額部などの無毛頭部に配置するための光照射プローブSa及び光検出プローブDaと、光照射プローブS及び光検出プローブDを配設することが望ましい。その理由は以下の通りである。
【0073】
無毛部のチャンネルにおける実効入射光量と実効検出効率は有毛部と比べて著しく大きく時間的にも恒常的であるため、当該チャンネルの雑音分散は著しく小さい。従って、無毛部を含んでプローブ装着を行った上でそのチャンネルを基点として上記平準化を行えば、安全な光照射強度の範囲内で最も良好な水準の信号対雑音比に全チャンネルを平準化することができる。
【0074】
次に、異なる日時にfNIRS計測を行って得られたデータや異なる対象者について得られたデータを統計的に比較したい場合に有用な雑音分散標準化手法について説明する。
【0075】
本手法は、独立した二つの連結チャンネル群(非連結二群)の雑音分散を平準化することに帰結するが、上記の連結チャンネル群内の平準化手順では実現することはできない。そこで以下では、時間的にのみ非連結な二群間の雑音平準化と、時間的かつ空間的に非連結な二群間の雑音平準化の方法について説明する。
【0076】
[時間的にのみ非連結なチャンネル群間の雑音平準化]
時間的にのみ非連結な二群とは、例えば同一の対象者や、同一の部位に対して異なる日時にfNIRS計測を行う場合をいう。以下においては、このときの二群の雑音平準化の方法を、図1に示された制御部3による制御により実現する場合を例として、図6を参照しつつ詳しく説明する。なお、図6に示された脳機能計測方法は、図1に示された制御部3による制御により実現する場合に限られないことは言うまでもない。
【0077】
図6に示された脳機能計測方法では、前提として、図5に示されるように、被検体の頭部へホルダ20を装着することにより、前額部などの無毛頭部の形態上位置を同定しやすい部位にチャンネルを配置するための光照射プローブSa及び光検出プローブDaと、光照射プローブS及び光検出プローブDを配設する。
【0078】
そして、最初にステップS6では、制御部3は、図4に示されたステップS1及びステップS2を実行した後に、ステップS1で得られた観測値を基準値(基準観測光量)として記憶部9に保存する。
【0079】
次に、ステップS7では、制御部3は、前額部などの無毛頭部における基準となる計測において、少なくとも一つの光検出プローブに接続された光減衰器の機能をオフすることにより、当該光検出プローブへ入射する光の透過率を百パーセントとし、少なくとも一つの光検出プローブが計測するチャンネルにつき観測された最大光量値(最大観測光量)を記憶部9に保存する。
【0080】
次に、ステップS8では、制御部3は、平準化を行いたい独立したチャンネル群のうち前額部などの無毛頭部における少なくとも一つの光検出プローブに接続された光減衰器の機能をオフにした状態で、当該光検出プローブへ入射する光の透過率を百パーセントとした上で、平準化対象とする当該チャンネルにつき観測される光量が上記最大光量値に一致するように、本チャンネルにつき計測するための光照射プローブに接続された光減衰器を調整することにより、本光照射プローブから照射される光量を調節する。
【0081】
次に、ステップS9では、制御部3は、ステップS8を実行した後に、平準化対象とするチャンネルにつき観測される光量の値が上記基準値に一致するように、本チャンネルにつき計測するための光検出プローブに接続された光減衰器を調整することにより、本光検出プローブで検出される光量を調節する。なお、この段階で、本チャンネルの実効入射光量と実効検出効率はそれぞれ、平準化基準となるチャンネル群における実効入射光量及び実効検出効率の値と一致することになる。
【0082】
次に、ステップS10では、制御部3は、平準化対象とした上記チャンネルを、図4に示された第一の光検出プローブと第一の光照射プローブとの間のチャンネルに相当するものとして、図4に示されたステップS1からステップS5を実行する。なお、本ステップにより、当該チャンネル群の雑音分散は平準化基準をなすチャンネル群の雑音分散と一致することになる。
【0083】
以下においては、図6に示された脳機能計測方法が、非連結二群の平準化を実現することを説明する。いま、図6に示されたステップS6及びステップS7で得られる基準観測光量と最大観測光量をそれぞれJ(1)、J(2)とし、log J(1)をS(1)、log J(2)をS(2)とする。このとき、次の式(18)及び式(19)が成立する。
【0084】
【数18】
【0085】
【数19】
【0086】
ここで、式(19)のρj0は光検出プローブに接続された光減衰器の機能をオフにして光透過率を百パーセントとしたときの、最大観測光量の計測時における実効検出効率の対数である。いま、基準となる連結群とは独立した別の連結群の無毛部に装着されたチャンネルをCHとし、これを構成する光照射プローブをs、光検出プローブをdとすると、次式(20)が成立する。
【0087】
【数20】
【0088】
ここで、ステップS7に従って、チャンネルCHを計測するための光検出プローブdに接続された光減衰器の機能をオフにすると、段落[0073]で説明した無毛頭部での観測の恒常性から式(20)のρdはρj0に一致するため、次式(21)が成立する。
【0089】
【数21】
【0090】
さらに、ステップS8で説明したように、SCHがS(2)となるように光照射プローブに接続された光減衰器を調整することにより、式(19)と式(21)の比較からρsをρimaxとすることができることが分かる。このとき、次式(22)が成立する。
【0091】
【数22】
【0092】
さらに、ステップS9で説明したように、SCHがS(1)となるように光検出プローブに接続された光減衰器を調整することにより、式(18)と式(22)との比較からρj0をρjmaxとすることができることが分かる。このとき、次式(23)が成立する。
【0093】
【数23】
【0094】
そして、本チャンネルを基点として図4に示された方法により平準化を行うことにより、一つの連結群内のチャンネルを、基準となる連結群の雑音分散に平準化することができる。
【0095】
[時間的かつ空間的に非連結なチャンネル群間の雑音平準化]
運動関連領野などが位置する頭頂部の計測を行う場合には、上記のように前額部等に基点となるチャンネルを配置すると、計測したい位置から離れているため、しばしば非効率となる。一方、空間的に共通基点を持たない場合には、時間的のみならず空間的にも当該二群は非連結になる。
【0096】
このようなことから、以下では、時間的かつ空間的に非連結の二群の雑音平準化を行う方法を、図1に示された制御部3による制御により実現する場合を例として、図7を参照しつつ詳しく説明する。
【0097】
なお、図7に示された脳機能計測方法は、図1に示された制御部3による制御により実現する場合に限られないことは言うまでもない。
【0098】
図7に示された脳機能計測方法は、前提として、図8に示されるように、連結群内の特定の隣接した二つの基準チャンネルを構成する3つのプローブ、すなわち基準照射プローブSS1,SS2及び基準検出プローブSDに対してのみ指定値制御可能な光減衰器を接続し、
これらの光減衰器の透過率が指定値になるよう、制御部3が各々の光減衰器を調整する。
【0099】
なお、図9は、図8に示された光照射プローブ及び光検出プローブの配置を二次元平面に記した模式図であるが、それぞれ図9に示された光照射プローブS1が基準照射プローブSS1に対応し、光照射プローブS2が基準照射プローブSS2に対応する。また、図9に示された光検出プローブD1が基準検出プローブSDに対応する。また、図9に示されたチャンネルCH1,CH2が、上記二つの基準チャンネルに対応する。
【0100】
最初に、ステップS16において、制御部3は、基準チャンネルSCH1,SCH2を含む連結多チャンネル計測につき、図4に示された方法を適用して雑音平準化を実行し、これにより得られた実効検出効率と実効入射光量の値を記憶部9に保存する。
【0101】
次に、別の日時や別の位置で連結多チャンネル計測を行った際、ステップS17において、制御部3は、基準検出プローブSDに接続された光減衰器を制御することにより、基準検出プローブSDにおける検出効率をステップS16で保存された実効検出効率とし、基準照射プローブSS1,SS2に接続された光減衰器を制御することにより、基準照射プローブSS1,SS2における照射光量をステップS16で保存された実効入射光量とする。
【0102】
次に、ステップS18において、制御部3は、ステップS17の後に、基準チャンネルSCH1,SCH2を基点として再度図4に示されたステップS1からステップS5、すなわち隣接チャンネル平準化操作を実行し、連結チャンネル群内の全てのチャンネルについて雑音平準化を行う。
【0103】
以下において、図9を参照しつつ、上記ステップS17における制御方法を具体的に説明する。図9に示されたチャンネルCH1,CH2、すなわち光照射プローブS1,S2及び光検出プローブD1に関して次式(24)が成立する。
【0104】
【数24】
【0105】
ここで、式(24)にプローブ配置行列の一般化逆行列を演算することにより、次式(25)が得られる。
【0106】
【数25】
【0107】
ところで、平準化を終えている基準となる連結群の各チャンネルでは、式(23)が成立している。また、上記のような指定値制御が可能な素子を用いている場合には、ρxを実現している当該プローブxに接続された光減衰器の透過率axを具体的に式(7)により得ることができる。これらのことから、ρS1をρimaxとし、かつρD1をρjmaxとするためには、透過率aS1をe(ρimax-ρS1)倍にし、透過率aD1をe(ρjmax-ρD1)倍に変更すればよいことが分かる。
【0108】
また、式(24)及び図9では、上記の基準検出プローブ及び基準照射プローブとして、一つの光検出プローブD1とこれを挟む二つの光照射プローブS1,S2が用いられているが、これらの替わりに、一つの光照射プローブとこれを挟む二つの光検出プローブを用いた場合にも、同じ方法により当該連結群の平準化が可能である。
【0109】
以上のような本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置及び本装置を含む脳機能計測システムや脳機能計測方法によれば、当該装置の較正作業を不要にし、若しくは最小限に留めることができる。すなわち、光減衰器の透過率を指定値に調整せずに、連結チャンネル群内の全てのチャンネルの雑音を平準化することができる。
【0110】
より具体的には、図4及び図6に示された方法によれば、当該光減衰器の較正は全く不要となる。一方、図7に示された方法においては、3つのプローブで指定値制御が可能な光減衰器を用いる必要があるが、この場合にもいかにチャンネル数が大規模化しても、指定値制御が可能な光減衰器は上記3つのプローブに接続される3個だけで足りることになる。従って、脳機能計測装置や本装置を含むシステムの調整メンテナンスを大幅に簡略化することができ、小型化も可能になる。
【0111】
また、他面においては、本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置及び本装置を含む脳機能計測システムや脳機能計測方法によれば、複数の独立した連結群の間の雑音分散を平準化することができる。その方法には、図6に示されたように、時間的に雑音分散が不変と想定できる基点を群間で共通に設定する方法と、図7に示されたように、一つの群内の隣接した二つのチャンネルを構成するプローブにのみ指定値制御が可能な光減衰器を用いる方法がある。
【0112】
これら双方の方法は、一人の被験者におけるデータの経時的変化の統計的比較を可能にするものである。加えて、後者の方法は、複数の被験者や複数の頭部部位での計測に対しての統計的比較も可能にするものである。
【0113】
さらに、他面においては、本発明の実施の形態に係る脳機能計測装置及び本装置を含む脳機能計測システムや脳機能計測方法によれば、無毛部に置かれたチャンネルを平準化の基点とすることにより、連結化が可能なあらゆる部位や日時の計測における雑音分散を無毛部の水準に合わせて平準化することができる。これにより、安全な光照射強度の範囲を遵守した上で達成しうる最大限の信号対雑音比を定常的に実現することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 脳機能計測装置、3 制御部、5 光源部、7 データ計測部、9 記憶部、11〜14 光減衰器、S,S1,S2 光照射プローブ、D,D1〜D3 光検出プローブ、SS1,SS2 基準照射プローブ、SD 基準検出プローブ。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9