【文献】
Takayuki Honjo,Miniature Fuel Cell with Monolithically Fabricated Si Electrodes -Reduction of Pt Usage by Pd-Pt Catalyst-,10th intl. workshop on PowerMEMS 2010,2010年,pp. 231-234
【文献】
Daiki Ogura,Miniature fuel cell with monolithically fabricated Si electrodes - Alloy catalyst formation -,Journal of Physics: Conference Series,2013年,vol. 476,doi:10.1088/1742-6596/476/1/012066
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アノードにおける前記触媒層が設けられていない面の少なくとも一部及び前記カソードにおける前記触媒層が設けられていない面の少なくとも一部に凹部がそれぞれ設けられており、前記アノードにおける前記凹部は燃料を流通する流路であり、前記カソードにおける前記凹部は酸化剤を流通する流路である請求項6に記載の燃料電池。
多孔質領域と、前記多孔質領域の周囲にシリコン領域と、を有し、かつ、前記多孔質領域に、第1の触媒層と、電解質層と、第2の触媒層と、をこの順で備えたシリコン基体を備え、
前記第1の触媒層は、金を含有する金層を備え、前記金層上にパラジウムを含有するパラジウム層を備え、パラジウム層上に白金を備え、
前記第2の触媒層は、触媒金属を含有し、
前記第1の触媒層において、白金の含有量は0.5μg/cm2〜10μg/cm2である燃料電池。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
【0014】
[触媒層付きシリコン基体]
以下、
図1を用いて本発明の一実施形態の触媒層付きシリコン基体について説明する。本実施形態の触媒層付きシリコン基体10は、シリコン基体1と、シリコン基体1上の少なくとも一部に設けられた触媒層2と、を備え、触媒層2は、金を含有する金層を備え、パラジウム及び白金が金層に担持されている。触媒層付きシリコン基体10は、例えば、燃料電池の電極層(電極板)として利用することができる。
【0015】
触媒層付きシリコン基体10では、金層がパラジウム及び白金の基材としての役割を有しているため、パラジウムを基材とした場合よりもパラジウム及び白金の使用量を削減することができる。なお、本実施形態にて用いる金は、比較的豊富にあり、耐食性に高く、かつ工業的にも利用されている金属である。
【0016】
さらに、触媒層付きシリコン基体では、触媒層における金層にパラジウムが担持されているため、触媒層は一酸化炭素による被毒耐性を有している。そのため、触媒層付きシリコン基体を燃料電池の電極層、特にアノードとして用いた場合、水素を含む燃料ガスに含まれる一酸化炭素に対して高い耐性を持たせることができ、一酸化炭素含有量が比較的高い燃料ガス、例えば、バイオマス由来の燃料ガスを用いるときに有用である。
【0017】
また、触媒層付きシリコン基体では、触媒層における金層に白金が担持されているため、触媒性能が維持されている。
【0018】
なお、触媒層付きシリコン基体の触媒層では、パラジウム及び白金が金層に直接担持されていなくてもよく、例えば、金層に直接担持されたパラジウムに白金が直接担持されていてもよい。また、金層に担持されているパラジウム及び白金はそれぞれ、層構造であってもよく、非連続的に(あるいは分散して)金層に担持されていてもよい。
【0019】
(シリコン基体)
本実施形態の触媒層付きシリコン基体は、シリコン基体を備える。触媒層付きシリコン基体の製造に用いるシリコン基体としては、触媒層を容易に形成する観点から、少なくとも一部に多孔質領域を備えるものが好ましい。シリコン基体としては、n型及びp型に関わらず市販のシリコンウエハを特に制限なく用いることができ、例えば、エッチング速度が比較的速いという観点から、n型シリコンを好適に用いることが好ましい。また、多孔質領域の孔径制御の観点から、抵抗率が低いハイドープn型シリコンを用いることが好ましい。前記抵抗率としては、0.1Ω・cm以下が好ましく、0.02Ω・cm以下がより好ましい。多孔質領域としては、非多孔質であるシリコン基体の少なくとも一部の領域をエッチングにより多孔質化して形成することが好ましい。
【0020】
シリコン基体の厚みは特に制限がないが、小型化の観点から、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。一方、シリコン基体の強度を確保する、良好な触媒性能を有する触媒層を形成する等の観点から、シリコン基体の厚みは、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。
【0021】
シリコン基体が多孔質領域を備える場合、多孔質領域の細孔の形状については特に制限はない。例えば、後述するようにシリコン基体に陽極酸化処理を施して多孔質領域を形成した場合、シリコン基体の一方の面に、シリコン基体の厚み方向に略平行な複数の凹部を形成することができ、複数の凹部が形成された領域が多孔質領域となる。
【0022】
(触媒層)
本実施形態の触媒層付きシリコン基体は、シリコン基体上の少なくとも一部に設けられた触媒層と、を備え、触媒層は、金を含有する金層を備え、パラジウム及び白金が金層に担持されている。なお、触媒層とは、触媒金属である金、パラジウム及び白金が存在している領域及び各金属(金、パラジウム及び白金)により形成される間隙の両方を指す。また、金層とは、金粒子によって構成される領域を指しており、
図2の(a)に示すように金層は非連続的に存在していてもよい。
【0023】
触媒層は、シリコン基体における多孔質領域の少なくとも一部に設けられていてもよい。このとき、例えば、触媒層における金層が、シリコンで構成される多孔質領域における細孔表面に金が担持されることによって形成されていてもよく、金自体が多孔質構造となることで形成されていてもよい。
【0024】
金の担持方法は、特に限定されないが、金がめっきにより細孔表面に担持されている構成が好ましい。例えば、後述するように、多孔質領域が形成されたシリコン基体を、金を含む水溶性塩を水に溶解しためっき液に浸漬することにより、細孔表面に金が担持されてなる金層を形成することができる。
【0025】
触媒層における金層は、触媒層の機械的強度を向上させる観点から、熱処理が行われた層であってもよい。熱処理としては、例えば、パラジウム及び白金を担持させる前の金層に、100℃〜300℃で、真空又は不活性ガスもしくは水素雰囲気中で行うことが好ましい。なお、触媒層における金層について、熱処理が行われているか否かについては、例えば、金層について熱処理を行っていない触媒層と、金層について熱処理を行った触媒層との結晶構造をX線回折により分析することで確認し得る。
【0026】
触媒層において、金の含有量は、パラジウム及び白金の担体としての機能を好適に発揮させる観点から、0.1mg/cm
2〜10mg/cm
2であることが好ましく、0.5mg/cm
2〜5mg/cm
2であることがより好ましく、2mg/cm
2〜4mg/cm
2であることがさらに好ましい。
【0027】
触媒層において、パラジウムの含有量は、パラジウムの使用量を減らしつつ、十分な一酸化炭素耐性を触媒層にもたせる観点から、0.5μg/cm
2〜200μg/cm
2であることが好ましく、1μg/cm
2〜50μg/cm
2であることがより好ましく、10μg/cm
2〜20μg/cm
2であることがさらに好ましい。
【0028】
触媒層において、白金の含有量は、白金の使用量を減らしつつ、十分な触媒性能を得る観点から、0.5μg/cm
2〜200μg/cm
2であることが好ましく、1μg/cm
2〜50μg/cm
2であることがより好ましく、5μg/cm
2〜10μg/cm
2であることがさらに好ましい。
【0029】
以下、
図2を用いて触媒層の一例について説明する。
図2において、(a)は一実施形態の燃料電池の触媒層の一部を示す概略図であり、(b)は(a)の拡大図である。
【0030】
図2の(a)に示すように、シリコン基体(Si)上に金を含有する金層31が形成されており、金層31上にパラジウムを含有するパラジウム層32が形成されている。例えば、金層31は、シリコン基体の多孔質領域の細孔表面に金が担持されることにより形成され、パラジウム層32は、金層31上にパラジウムを担持させることにより形成される。さらに、
図2の(b)に示すように、パラジウム層32の表面に白金33が担持されている。
図2に示すように、金層31の表面の少なくとも一部にパラジウム層32(好ましくは単原子層〜5原子層)を形成し、パラジウム層の表面に、白金33を担持させる、あるいは白金層(好ましくは、単原子層未満のサブ単原子層)を形成することにより、良好な触媒性能と良好な一酸化炭素耐性による触媒寿命の延長との両立を図ることができる。
【0031】
本実施形態では、金層上にパラジウム粒子が非連続的に担持されていてもよく、金層上の少なくとも一部に単原子層未満のサブ単原子層のパラジウム層が形成されていてもよく、単原子層以上のパラジウム層が形成されていてもよい。また、単原子層以上のパラジウム層を金層上の少なくとも一部に形成する場合、パラジウム層の厚さは、パラジウムの使用量を減らしつつ、十分な一酸化炭素耐性を触媒層にもたせる観点から、単原子層以上20原子層以下であることが好ましい。
【0032】
本実施形態では、金層上に白金粒子が非連続的に担持されていてもよく、金層上の少なくとも一部に単原子層未満のサブ単原子層の白金層が形成されていてもよく、単原子層以上の白金層が形成されていてもよい。また、単原子層以上の白金層を金層上の少なくとも一部に形成する場合、白金層の厚さは、白金の使用量を減らしつつ、十分な触媒性能を得る観点から、金層上に白金原子が分散して堆積したサブ単原子層が好ましい。ただし、耐久寿命を延ばすために、単原子層以上10原子層以下でもよく、また、パラジウム層内に白金を分散させてもよい。
【0033】
図3に示すように、触媒層付きシリコン基体20について、触媒層2は、シリコン基体1の一方の面の少なくとも一部に設けられており、シリコン基体1における触媒層2が設けられていない面(触媒層2が設けられている面の反対側の面)の少なくとも一部に凹部11が設けられており、凹部11の底面に触媒層2が位置する構成であってもよい。これにより、触媒層付きシリコン基体20を燃料電池における電極層として利用する場合、シリコン基体1に設けられた凹部11が酸素、空気等の酸化剤、又は水素を含有する燃料ガス、メタノール等の液体燃料などの燃料の流路となり、酸化剤又は燃料の流路の役割を果たす。そのため、触媒層付きシリコン基体20を用いて燃料電池を製造した際に、酸化剤流路又は燃料流路を別途設ける必要がなく、燃料電池の小型化が可能である。
【0034】
なお、触媒層は、凹部の側面及び底面の少なくとも一部に位置していればよいが、触媒性能を高める観点及びエッチングによる凹部の形成が容易である観点から、凹部の底面の少なくとも一部に位置することがより好ましく、凹部の底面に位置することがさらに好ましい。例えば、
図3に示す触媒層付きシリコン基体20については、シリコン基体1の触媒層2が形成された面とは反対側の表面にエッチングマスクとして銅膜6を成膜し、エッチング(例えば、プラズマエッチング)により凹部11をパターニングすることにより、形成することができる。
【0035】
[燃料電池]
次に、
図4を用いて本発明の一実施形態の燃料電池について説明する。本実施形態の燃料電池100は、本実施形態の触媒層付きシリコン基体20であるアノードと、シリコン基体3と、シリコン基体3上の少なくとも一部に設けられ、触媒金属を含有する触媒層4と、を備えるカソードと、アノードとカソードとの間に配置され、一方の面がアノードにおける触媒層2と対面し、かつ他方の面がカソードにおける触媒層4と対面する電解質層5と、を備える。燃料電池100では、アノードとして触媒層付きシリコン基体20を用いているため、触媒性能を維持しつつ、パラジウムの使用量を削減することができる。
【0036】
燃料電池100では、アノード側に水素等の燃料ガス、メタノール等の液体燃料などの燃料が供給され、カソード側に酸素、空気等の酸化剤が供給される。
【0037】
また、燃料電池100では、アノードにおける触媒層2が設けられていない面(触媒層2が設けられている面の反対側の面)の少なくとも一部及びカソードにおける触媒層4が設けられていない面(好ましくは、触媒層4が設けられている面の反対側の面)の少なくとも一部に凹部11、12がそれぞれ設けられており、アノードにおける凹部11は燃料を流通する流路であり、カソードにおける凹部12は酸化剤を流通する流路であることが好ましい。これにより、凹部11が燃料を流通する流路となり、かつ、凹部12が酸化剤を流通する流路となるため、燃料電池100にて燃料流路及び酸化剤流路を別途設ける必要がなく、燃料電池の小型化が可能である。
【0038】
以下、燃料電池100の発電機構について説明する。まず、凹部11に水素を含有する燃料が供給されると、触媒層2における白金等の触媒の作用により、水素(H
2)は、電子(e
−)と水素イオン(H
+)とに分解される。この電子は、触媒層2と少なくとも一部が接合した集電層として機能するコンタクト層8に接合された導線を介して、外部の回路を駆動し、触媒層4と少なくとも一部が接合した集電層として機能するコンタクト層9に移動する、あるいは、コンタクト層8から低抵抗のシリコン基体1を経由し、銅膜6に接合された導線を介して、外部の回路を駆動し、銅膜7に移動し、低抵抗のシリコン基体3を経由し、コンタクト層9に移動する。一方、触媒層2にて生成した水素イオンは、電解質層5を介して触媒層4に移動する。次いで、触媒層4に移動した水素イオンは、凹部12を介して供給された酸化剤に含有される酸素(O
2)及び導電を介して移動してきた電子と反応することで水(H
2O)が生成される。
なお、銅膜6、7はエッチングを行うことで劣化するため、エッチングにより凹部11、12を形成した後に劣化した銅膜6、7を除去し、再度成膜した銅膜6、7を導線と接合させてもよい。
【0039】
燃料電池100におけるアノードの各構成については、前述の触媒層付きシリコン基体10、20における各構成と同様であるため、その説明を省略する。
【0040】
燃料電池100におけるカソードの各構成について、シリコン基体3、銅膜7、凹部12は、前述の触媒層付きシリコン基体10、20におけるシリコン基体1、銅膜6、凹部11とそれぞれ同様の構成であるため、それらの説明を省略する。
【0041】
カソードは、シリコン基体3上の少なくとも一部に設けられ、触媒金属を含有する触媒層4を備える。触媒金属としては、例えば、白金、白金−ルテニウム合金、パラジウム、白金−パラジウム合金、白金−コバルト合金、白金−鉄合金等の貴金属、貴金属合金などを挙げることができる。触媒金属は、1種又は2種以上用いられてもよい。また、カソードにおける触媒層4は、アノードにおける触媒層2と同様の構成であってもよく、すなわち、金を含有する金層を備え、パラジウム及び白金を金層に担持させた構成であってもよい。
【0042】
燃料電池100は、アノードとカソードとの間に配置され、一方の面がアノードにおける触媒層2と対面し、かつ他方の面がカソードにおける触媒層4と対面する電解質層5を備える。電解質層5としては、燃料電池に通常用いられる電解質で構成されていればよく、燃料電池100が固体高分子形燃料電池である場合、プロトン導電性を有する電解質ポリマーが挙げられる。
【0043】
電解質ポリマーとしては、具体的には、例えば、主鎖及び側鎖の少なくとも一方に1種又は2種以上の電解質基を有するポリマー、酸、常温溶融塩等の電解質を含ませたポリマーなどが挙げられる。また、これらのポリマーは、1種又は2種以上含まれていてもよい。更に、これらのポリマーは必要に応じ架橋体であってもよい。
【0044】
電解質ポリマーに含まれる電解質基としては、例えば、スルホン酸基、スルホンイミド基、ホスホン酸基、亜ホスホン酸基、カルボン酸基などの酸性基が挙げられ、高プロトン伝導性が得られやすい等の観点からは、スルホン酸基が好ましい。また、これら電解質基は1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0045】
電解質ポリマーとしては、例えば、ナフィオン(登録商標)等のパーフルオロカーボンスルホン酸系ポリマー、パーフルオロカーボンホスホン酸系ポリマー、トリフルオロスチレンスルホン酸系ポリマーなど、ポリマー骨格の全部又は一部がフッ素化されたフッ素系ポリマーであって電解質基を有するポリマー;ポリスルホンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールアルキルホスホン酸など、ポリマー骨格にフッ素を含まない炭化水素系ポリマーであって電解質基を有するポリマー;電解質基を有するモノマー、電解質基に変換し得る官能基を有するモノマー、及び、重合前後に電解質基を導入可能な部位を有するモノマー、これらの組み合わせなどからなる電解質モノマーを単量体単位として有するポリマーなどを挙げることができる。また、これら電解質ポリマーは、1種又は2種以上含まれていてもよい。
【0046】
また、燃料電池100は、触媒層2と少なくとも一部が接合し、集電層として機能するコンタクト層8及び触媒層4と少なくとも一部が接合し、集電層として機能するコンタクト層9をそれぞれ、シリコン基体1、3と電解質層5との間に備えていてもよい。コンタクト層8、9は、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、これらの合金、あるいはポリシリコン等の導体から構成され、耐食性の観点から、金から構成されることが好ましい。
【0047】
[触媒層付きシリコン基体の製造方法]
次に、本発明の一実施形態の触媒層付きシリコン基体の製造方法について簡略化して説明する。詳細な説明については、後述する本発明の一実施形態の燃料電池の製造方法にて行う。本実施形態の触媒層付きシリコン基体10の製造方法は、少なくとも一部に多孔質領域を有するシリコン基体1を準備する工程(多孔質シリコン準備工程)と、多孔質領域の少なくとも一部に、金を含有する金層を形成する工程(金層形成工程)と、金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させて触媒層2を形成する工程(触媒層形成工程)と、を含む。これにより、シリコン基体1にパラジウム及び白金を担持させた金層を備える触媒層2が設けられた触媒層付きシリコン基体10が形成される。なお、少なくとも一部に多孔質領域を有するシリコン基体1を準備する工程では、予め多孔質領域が形成されたシリコン基体1を調達してもよく、シリコン基体1の少なくとも一部に多孔質領域を形成してもよい。
【0048】
また、本実施形態の触媒層付きシリコン基体20の製造方法は、金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させた後に、シリコン基体1における触媒層2が設けられていない面(触媒層2が設けられている面の反対側の面)の少なくとも一部に、凹部11を形成する工程(凹部形成工程)をさらに含む。形成される凹部11は、凹部の底面及び側面の少なくとも一部(好ましくは凹部の底面の少なくとも一部、より好ましくは凹部の底面)に触媒層2が位置している。
【0049】
例えば、
図3に示す触媒層付きシリコン基体20については、触媒層2が形成されたシリコン基体1の触媒層2が設けられている面とは反対側に銅膜6を成膜し、エッチング(例えば、プラズマエッチング)により凹部11をパターニングすることにより、形成することができる。このとき、成膜される銅膜6の配置・形状により、所定の凹部11を形成することができ、シリコン基体1について凹部11を形成する面の反対側に触媒層2が設けられているため、凹部11の底面として触媒層2が露出するまでエッチングを好適に行うことができ、また、触媒層2はエッチングストップ層として機能する。なお、エッチングマスクとなる銅膜6の成膜については、触媒層付きシリコン基体20の製造方法における任意の工程にて行ってもよく、例えば、シリコン基体1の少なくとも一部に多孔質領域を形成する前に行ってもよく、金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させる工程の後に行ってもよい。
【0050】
[燃料電池の変形例]
本実施形態の燃料電池の変形例として、
図7に示すように、触媒層と電解質層とが一体的に形成されたシリコン基体を用いて形成されたものが挙げられる。変形例の燃料電池200としては、多孔質領域21と、多孔質領域21の周囲に非多孔質領域であるシリコン領域26と、を有し、かつ、多孔質領域21に、第1の触媒層8Aと、電解質層5と、第2の触媒層8Bと、をこの順で備えたシリコン基体1を備え、第1の触媒層8Aは、金を含有する金層を備え、かつパラジウム及び白金が金層に担持されており、第2の触媒層8Bは、触媒金属を含有する。
【0051】
多孔質領域21は、
図7におけるシリコン基体1の厚み方向(
図7における矢印A)と略平行に多孔質構造として貫通孔が設けられており、多孔質領域21の一部には、第1の触媒層8Aと、電解質層5と、第2の触媒層8Bとが形成されている。このように、本変形例では、シリコン基体1には、電解質層5とこれに隣接する第1の触媒層8A及び第2の触媒層8Bとが一体的に形成されている。このため、燃料電池200の製造においては、位置精度等が重要となる電解質層の貼り付け等を行う必要がなく、信頼度の高い薄型の燃料電池を簡易な工程で製造することができる。
【0052】
本変形例では、多孔質領域21の細孔内に電解質体を充填させることにより、電解質層5を形成することができる。また、第1の触媒層8Aは、前述の触媒層2と対応し、第2の触媒層8Bは、前述の触媒層4と対応するため、その説明を省略する。
【0053】
変形例の燃料電池は、第1の触媒層8A側に凹部11を有する。凹部11は、前述のように、燃料供給路の役割を果たす。
【0054】
また、変形例の燃料電池200は、集電層23、24及び絶縁層25を備えている。絶縁層25は、第1の触媒層8A及び第2の触媒層8B、並びに集電層23、24がシリコン領域26を介して電気的に接合されることを抑制する役割を果たす。絶縁層25の材料は薄膜化が可能な公知の有機又は無機の絶縁材料を適宜用いることができる。また、集電層23、24は、第1の触媒層8A又は第2の触媒層8Bで生成された電子を他方の触媒層に移動させる役割を有する。集電層23、24を形成する材料としては、具体的には、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、これらの合金、あるいはポリシリコン等の導体等が挙げられる。
【0055】
変形例の燃料電池の詳細な構成については、例えば、特許第5713343号を適宜参照すればよい。
【0056】
[燃料電池の製造方法]
次に、
図5、6を用いて本発明の一実施形態の燃料電池の製造方法について説明する。
図5は、一実施形態の燃料電池の製造方法を示す図であり、
図6は、Au板上にPd層を堆積させる方法を示す図である。
【0057】
まず、
図5の(a)に示すように、シリコン基体1を準備する。次に、
図5の(b)に示すように、銅膜6をシリコン基体1に成膜する。後の凹部形成工程にて、シリコン基体1における銅膜6が成膜されていない箇所に凹部11を形成する。
【0058】
図5の(c)に示すように、シリコン基体1における銅膜6が成膜された面の反対側の面の少なくとも一部に多孔質領域21を形成する。具体的には、シリコン基体1の厚み方向に向かって、所定の厚みに至るまでの間を多孔化して多孔質領域21を形成する。シリコン基体1の一部を多孔化する方法は特に限定されず、例えば、エッチングによってシリコン基体1に多孔質領域を形成する方法が挙げられる。エッチングは、湿式又は乾式エッチングのいずれでも制限はなく、例えば、陽極酸化液を用いた陽極酸化処理等が挙げられる。多孔質領域21の孔径、形状、層厚等は、使用するシリコン基体1の抵抗率、陽極酸化時の電流密度、陽極酸化時間、陽極酸化液の液組成、濃度、液温等のパラメータを調整することで制御することが可能である。
【0059】
陽極酸化時の電流密度としては、電解研磨を生じ難くし、多孔化を促進させやすい等の観点から、10000A/m
2以下であることが好ましく、5000A/m
2以下であることがより好ましく、2000A/m
2以下であることがさらに好ましい。また、陽極酸化時の電流密度としては、空孔率が小さくなりすぎないようにする等の観点から、1A/m
2以上であることが好ましく、100A/m
2以上であることがより好ましく、500A/m
2以上であることがさらに好ましい。
【0060】
陽極酸化液としては、例えば、フッ酸、フッ化ナトリウム、フッ化アンモニウム等の化合物を1種又は2種以上、水、アルコール等の適当な溶媒に溶解した液が挙げられる。なお、陽極酸化液におけるフッ素イオンの濃度は、通常、0.5mol/dm
3〜25mol/dm
3程度であることが好ましい。
【0061】
また、陽極酸化液の液温は、特に限定されないが、反応の均一性等の観点から、25℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。一方、陽極酸化液の液温は、反応速度の観点から、0℃以上であることが好ましく、10℃以上であることがより好ましい。
【0062】
次に、
図5の(d)に示すように、形成された多孔質領域21に、金を含むめっき液を用いてめっき処理を行うことで金を含有する多孔質層22(金層)を形成する。例えば、多孔質領域21が形成されたシリコン基体1を、金を含む水溶性塩を水に溶解しためっき液に浸漬することにより、イオン化傾向の違いによって、多孔質領域21中のシリコンと金とが置換し、細孔内に金を析出させることができ、金を含有する多孔質層22が形成される。
【0063】
めっき法に用いるめっき液は、例えば、担持させる金を構成元素として含む水溶性塩を1種又は2種以上、水等の適当な溶媒に溶解させるなどして調製することができる。無電解めっきを行う場合、めっき液中にフッ酸等を用いてフッ素イオンを含有させることが好ましい。通常、シリコンよりもイオン化傾向が小さい金は、シリコンから出た電子を受け取り還元されて自然析出してめっきが進行する。しかし、めっきの進行に伴い、細孔表面にめっきの進行の障壁となる絶縁膜(酸化シリコン膜)が形成されることがある。この場合、上述のようにフッ酸等を用いてフッ素イオンをめっき液中に含有させておくことにより、フッ素イオンの存在によって絶縁膜の形成が抑制され、めっきを進行させやすくなる傾向がある。
【0064】
めっき液の液温としては、核成長などの観点から、25℃以下であることが好ましく、20℃以下であることがより好ましい。一方、めっき液の液温は、反応速度の観点から、0℃以上であることが好ましく、5℃以上であることがより好ましい。
【0065】
次に、
図5の(e)に示すように、多孔質層22を構成する金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させ、触媒層2を形成させる。これにより、シリコン基体1にパラジウム及び白金が担持された金層を備える触媒層2が設けられた触媒層付きシリコン基体が形成される。
【0066】
多孔質層22を構成する金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させる際、パラジウム及び白金を担持させる順番は特に限定されず、例えば、金層の表面の少なくとも一部にパラジウムを担持させた後、パラジウムが担持した金層の少なくとも一部に白金を担持させてもよい。
【0067】
多孔質層22を構成する金層の表面の少なくとも一部にパラジウム及び白金を担持させる方法としては、原子層堆積法(ALD)、化学気相成長法(CVD)、物理気相成長法(PVD)等が挙げられ、中でも、金層に担持させるパラジウム及び白金の量を好適に制御する観点から、電気化学的原子層堆積法であるUPD−SLRR(Under potential Deposition-Surface Limited Redox Replacement)法が好ましい。以下、UPD−SLRR法の一種であるH(Hydrogen)−UPD−SLRR法を用いたパラジウム及び白金の堆積方法(担持方法)について説明する。
【0068】
まず、
図6の(a)に示すように、金(Au)板を酸性溶液に浸漬し、酸性溶液中で水素のアンダーポテンシャル領域に電位を維持することで水素を金板の表面に1原子層未満析出させる(H−UPDプロセス)。このとき、作用電極となる金板、MSE(Hg/HgSO
4)等の参照電極及び白金等の対極を備える三電極式電解セルを用いればよい。なお、
図6では、簡略化のため、金板を用いたときのパラジウムの堆積方法について図示している。
【0069】
次に、三電極式電解セルの電気回路を開放することで、
図6の(b)に示すように、金板の表面に析出した水素が水素よりもイオン化傾向の低いパラジウムイオン(Pd
2+)と置換反応し、
図6の(c)に示すように、最終的には金板の表面に析出していた水素が全てパラジウムに置換され、金板の表面にパラジウムが堆積する(SLRRプロセス)。
【0070】
前述のH−UPDプロセス及びSLRRプロセスを一回行うことにより、例えば、金板の表面に1原子層未満のパラジウム層を堆積することができ、H−UPDプロセス及びSLRRプロセスをこの順で繰り返すことにより、金板の表面に堆積されるパラジウム層の厚さを原子層レベルで好適に制御することができる。
【0071】
H−UPDプロセス及びSLRRプロセスをこの順で繰り返すことで金板の表面に所望の厚さのパラジウム層を堆積させた後、パラジウムイオンを含有する溶液の代わりに白金イオンを含有する溶液を用いて同様のH−UPDプロセス及びSLRRプロセスを行うことにより、パラジウム層が形成された金板に白金を堆積させることができる。
【0072】
H−UPDプロセスを行う際に用いる酸性溶液としては、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、シュウ酸等が挙げられる。また、酸性溶液の濃度としては、特に制限されず、例えば、10mM〜1000mMであることが好ましい。
【0073】
SLRRプロセスを行う際に用いるパラジウムイオンを含有する溶液及び白金イオンを含有する溶液の濃度としては、特に制限されず、例えば、1μM〜100μMであることが好ましい。
【0074】
また、金層にパラジウムを堆積させるためにH−UPD−SLRR法を行う場合、及び、パラジウム層が堆積された金層に白金を堆積させるためにH−UPD−SLRR法を行う場合、それぞれにおいて、H−UPDプロセス及びSLRRプロセスを別々の溶液にて行ってもよく、同一溶液にて行ってもよい。
【0075】
H−UPDプロセス及びSLRRプロセスを同一の溶液にて行う場合、例えば、酸性溶液中にパラジウムイオン又は白金イオンが存在すればよい。この場合、H−UPDプロセスにて金層への水素の析出とともに貴金属めっき(パラジウムめっき又は白金めっき)も同時に進行するおそれがある。そのため、貴金属めっきを抑制する観点から、一回のH−UPDプロセスにて水素のアンダーポテンシャル領域に電位を維持する時間を短くすることが好ましく、例えば、0.5秒〜2秒とすることが好ましい。
【0076】
なお、UPD−SLRR法におけるUPDプロセスとしては、H−UPDプロセスに限定されず、例えば、パラジウム及び白金よりもイオン化傾向の高い元素、例えば、銅(Cu)を用いたCu−UPDプロセスであってもよい。Cu−UPDプロセスでは、銅イオン(Cu
2+)を含有する溶液を用いればよく、銅イオンを含有する溶液の濃度としては、特に制限されず、例えば、10mM〜1000mMであることが好ましい。
【0077】
次に、
図5の(f)に示すように、シリコン基体1における触媒層2が設けられている面の反対側の銅膜6が成膜されている面側に、凹部11を形成する。成膜された銅膜6の形状に応じて所望の凹部を形成することができ、さらにシリコン基体1について凹部11を形成する面の反対側に触媒層2が設けられているため、凹部11の底面として触媒層2が露出するまでエッチングを好適に行うことができる。このとき、触媒層2はエッチングストップ層として機能する。
【0078】
また、
図5の(g)に示すように、シリコン基体1における触媒層2が設けられている側の面に金等から構成されるコンタクト層8をスパッタリング等により形成する。コンタクト層8については、シリコン基体1における触媒層2が設けられている側の面の端部に設けることが好ましい。
【0079】
図5の(g)に示す触媒層付きシリコン基体は、燃料電池100とした際にアノードとなる。また、
図5の(g)に示す触媒層付きシリコン基体と同様の構成を有する触媒層付きシリコン基体をカソードとし、アノードとカソードとの間に電解質層5を設け、銅膜6、7に導線(図示せず)をつなげる。これにより、
図5の(h)に示すように、燃料電池100を製造することができる。なお、燃料電池100におけるカソードの触媒層4は、前述のように、触媒金属を含んでいればよく、アノードにおける触媒層と異なる金属で構成されていてもよい。
【0080】
<実験例>
以下に実験例を具体的に説明するが、本発明はこれら実験例によって制限されるものではない。
【0081】
本実験例では、H−UPD−SLRR法を用い、直径0.5mmの金線にパラジウム及び白金を堆積させたときの結果について検討した。
【0082】
(金線上への水素のアンダーポテンシャル析出)
H−UPDプロセスでは、30分以上窒素バブリングを行って溶存活性ガスを除去した0.1M HClO
4を酸性溶液として用い、作用電極を金線、参照電極をMSE(Hg/Hg
2SO
4)及び対極を白金線とした三電極式電解セルを用いた。また、活性ガスの影響を極力排除するため、実験中も溶液上面は窒素で満たすよう、常に窒素を供給した。H−UPDプロセスを行う電極電位は、サイクリックボルタンメトリにより水素発生電位を確認した後に決定した。具体的には、走査範囲を−700mV〜+200mV(vs.MSE)及び走査速度10mV/sで掃引した結果、H−UPD電位は−600mV(vs.MSE)とした。
【0083】
−600mV(vs.MSE)を金線に印加した際の電流密度の時間変化を
図8に示す。ここで、電荷がすべて水素イオンの還元に使用されたと仮定すると、1原子層に達するまでには、かなりの時間を要することが分かっている(M.Palomar-Pardave, E.Garfias-Garcia, M.Romero-Romo, M.T.Ramirez-Silva, N.Batina, Electrochimica Acta, 56, 10083-10092(2011).)。
本実験では、H−UPDプロセス及びSLRRプロセスを同一溶液で行うため、酸性溶液中に貴金属イオン(パラジウムイオン濃度は10μM)が混在しており、H−UPDプロセスの際に貴金属のめっきが進行する。そこで、パラジウム析出を抑えるため、UPD時間を1秒とした。これにより、1秒間のH−UPDプロセスにて水素は1/10原子層程度析出することが見込まれる一方、1秒間のH−UPDプロセスにてパラジウム堆積は単原子層の1%以下に抑えられると見込まれる。
【0084】
(金線上へのPd堆積)
30分以上窒素バブリングした溶液(0.1M HClO
4+10μM PdCl
2)を用いてH−UPD−SLRR法(H−UPD−SLRRプロセス)を実施した。前述のように、電極電位を−600mV(vs.MSE)で1秒間維持し、その後回路を解放しSLRRプロセスを促した。このとき、解放電位は−600mVから徐々に上昇した。電位が0mVになった時点でH−UPDプロセス及びSLRRプロセスを1回行ったこととし、再度−600mVを金線に印加し、H−UPDを1秒間行った。この工程を繰り返し、パラジウムを金線上に堆積させパラジウム層を形成させた。
【0085】
(実験結果)
H−UPD−SLRR法による原子層堆積の効果を確認するため、0.1M HClO
4液中でのサイクリックボルタンメトリを行った結果を
図9に示す。
図9は、H−UPD−SLRRプロセスを施していない金線、及びPdについてH−UPD−SLRRプロセスを1回、10回、50回行った金線のサイクリックボルタンメトリの結果を示すグラフである。
図9では、水素吸着・吸蔵と考えられる電流がプロセス回数の増加に伴い増大している。
図9のサイクリックボルタンメトリの結果からH−UPDプロセス及びSLRRプロセスの回数によりパラジウムの堆積量が制御可能であることが推測される。
【0086】
(パラジウム層上へのPt堆積)
パラジウムについてH−UPD−SLRRプロセスを50回行った金線及び30分以上窒素バブリングした溶液(0.1M HClO
4+10μM PtCl
2)を用い、上述の金線上へのPd堆積と同様にしてH−UPD−SLRR法を実施した。これにより、白金をパラジウム層上に堆積させた。
図10は、H−UPD−SLRRプロセスを施していない金線、パラジウムについてH−UPD−SLRRプロセスを50回行った金線、パラジウムについてH−UPD−SLRRプロセスを50回行った金線に白金のH−UPD−SLRRプロセスを1回、10回、50回行った金線のサイクリックボルタンメトリの結果を示すグラフである。白金のH−UPD−SLRRプロセスを1回行ったとき、−500mVから−700mVの水素の吸脱着によるヒステリシスが大幅に増大しており、白金堆積による触媒活性の増大が見られる。50回行った場合には、バルクの白金に見られる水素吸着ピークが−650mV付近に見られた。ヒステリシスの大きさ自体は10回、50回と繰り返し行っても、大幅な変化はなく、金線上のパラジウム層に単原子層以下の白金を堆積させることで高い触媒活性が得られることが分かる。