(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照してこの発明に係わる実施形態を説明する。
[一実施形態]
(構成)
図1は、この発明の一実施形態に係る移動通信システムMCSの構成を示すブロック図である。
一実施形態に係る移動通信システムは、Bluetoothにおけるマスタとして動作する複数の基地局(以後マスタデバイスと称する)2,3と、スレーブとして動作するユーザ機器(以後スレーブデバイスと称する)4と、上記マスタデバイス2,3が接続されるハンドオーバ制御装置1とを備えている。なお、
図1では、図示の簡単のため、実際には3以上存在するマスタデバイスのうち、スレーブデバイス4に対しハンドオーバ元となるマスタデバイス2と、ハンドオーバ先となるマスタデバイス3のみを図示している。
【0015】
(1)カメラ
移動通信システムのサービスエリアには、撮像部としてカメラ5が設置されている。カメラ5は、例えばウェブカメラ等のライブカメラからなる。カメラ5は、ハンドオーバ先となるマスタデバイス3の通信エリアを撮像対象領域とするように設置位置および撮像範囲が設定される。
【0016】
例えば、美術館や博物館を例にとると、隣接する2つの展示室にはそれぞれマスタデバイス2,3が配置され、これらのマスタデバイス2,3によりそれぞれ展示室内の主要な範囲をカバーするように通信エリアが形成される。カメラ5は、上記2つの展示室のうち閲覧順路が後側になる展示室に形成された上記通信エリアを撮像対象領域とするように、設置位置および撮像範囲が設定される。カメラ5は、上記撮像対象領域を所定の周期で撮像し、その撮像画像情報VSを信号ケーブルまたはLAN(Local Area Network)を介してハンドオーバ制御装置1に送信する。
【0017】
なお、カメラ5が撮像する画像情報VSは、静止画像であっても動画像であってもよい。また、カメラ5は、展示室などに防犯用として設置されている既存のカメラを使用することが可能である。
【0018】
(2)スレーブデバイス
スレーブデバイス4は、Bluetooth通信機能を有するモバイル端末であり、このモバイル端末としては、例えばユーザが所持するスマートフォンや、美術館等の施設が提供する専用端末などが用いられる。
【0019】
(3)マスタデバイス
図2は、マスタデバイス2の機能構成の一例を示すブロック図である。なお、マスタデバイス3はマスタデバイス2と同一構成であるため、図示は省略する。
【0020】
マスタデバイス2は、例えば、アンテナ21と、通信インタフェース22と、処理ユニット23とを備える。
【0021】
通信インタフェース22は、Bluetooth用の通信インタフェース機能と、例えばLAN用の通信インタフェース機能とを備えている。Bluetooth用の通信インタフェース機能は、アンテナ21を通じてスレーブデバイス4との間で種々の制御信号および情報データを送受信する。LAN用の通信機能は、ハンドオーバ制御装置1との間でハンドオーバのための各種制御信号を送受信する。
【0022】
ハンドオーバのための制御信号としては、例えば、マスタデバイス2とスレーブデバイス4との通信リンクが切断された旨を、マスタデバイス2がハンドオーバ制御装置1へ通知するための切断通知信号DSと、マスタデバイス2に接続要求動作を実行させるためにハンドオーバ制御装置1がマスタデバイス3に送信する接続制御信号CSがある。
【0023】
処理ユニット23は、CPU(Central Processing Unit)とメモリを有し、その制御機能として、接続状態測定部231と、通信制御部232とを備える。これらの制御機能は、いずれもメモリに格納されたプログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0024】
接続状態測定部231は、所定の周期でスレーブデバイス4との間の接続状態を監視する。そして、スレーブデバイス4との間の通信リンクの切断が検知されると、通信制御部232に切断の検知を示す信号を出力する。通信制御部232は、上記接続状態測定部231から出力された切断通知信号DSを通信インタフェース22からハンドオーバ制御装置1へ送信させる。
【0025】
(4)ハンドオーバ制御装置
図3は、ハンドオーバ制御装置1の機能構成を示すブロック図である。
ハンドオーバ制御装置1は、例えば、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、あるいはルータ等の通信ネットワーク機器により構成され、入出力インタフェースユニット11と、処理ユニット12と、記憶ユニット13とを備えている。
【0026】
入出力インタフェースユニット11は、例えばLANなどの有線または無線インタフェースを有し、マスタデバイス2,3との間で切断通知信号DSおよび接続制御信号CSの送受信を行う。
【0027】
記憶ユニット13は、記憶媒体として例えばHDD(Hard Disk Drive)またはSSD(Solid State Drive)等の随時書込および読み出しが可能な不揮発性メモリを用いたものであり、一実施形態を実現するために必要な記憶領域として、プログラム記憶部の他に、移動履歴記憶部131と、基地局情報データベース(DB)132とを備えている。
【0028】
基地局情報DB132は、事前に登録されたマスタデバイス2,3の位置情報をマスタデバイスの識別情報と関連付けて記憶する。移動履歴記憶部131は、ユーザが所持するスレーブデバイス4の移動履歴を表す情報を、ユーザまたはスレーブデバイス4の識別情報と関連付け、ログファイルとして記憶する。ログファイルには、スレーブデバイス4の移動位置とその時刻を表す情報が含まれる。移動位置は、マスタデバイス2,3の設置位置に対応付けられる。
【0029】
処理ユニット12は、CPU(Central Processing Unit)を有し、一実施形態を実施する上で必要な処理機能として、画像取得部121と、移動履歴生成部122と、通知信号取得部123と、推定部124と、接続切替制御部125と、出力処理部126とを備えている。これらの処理機能は、いずれも、図示しないプログラム記憶部に格納されたアプリケーションプログラムを上記CPUに実行させることにより実現される。
【0030】
画像取得部121は、カメラ5により撮像された、マスタデバイス3の通信エリアに関わる画像情報VSを所定の周期で取得する。画像取得部121は、取得した画像情報VSを移動履歴生成部122へ出力する。
【0031】
移動履歴生成部122は、画像取得部121から受け取った画像情報VSから、例えばパターン認識技術を用いてユーザを検出する。そして、時系列順に取得される複数の画像情報VSをもとに、上記検出されたユーザの位置の変化とその時刻を含むログファイルを移動履歴情報として生成し、この移動履歴情報をスレーブデバイス4の識別情報と関連付けて移動履歴記憶部131に記憶させる。
【0032】
通知信号取得部123は、ハンドオーバ元のマスタデバイス2から送信される通知信号の受信を監視する。そして、ハンドオーバ元のマスタデバイス2からスレーブデバイス4との通信リンクの切断を通知する切断通知信号DSを受け取ると、推定部124にその旨を通知するトリガ信号を出力する。
【0033】
推定部124は、通知信号取得部123からトリガ信号を受け取ると、移動履歴記憶部131からスレーブデバイス4の移動履歴情報を読み出すと共に、基地局情報DB132からマスタデバイス群の位置情報を読み出す。そして推定部124は、上記移動履歴情報と位置情報とに基づいて、スレーブデバイス4の次の移動先を推定し、その推定結果をもとに接続先候補として最適なマスタデバイスを、ハンドオーバ先のマスタデバイスとして選択する。例えば
図6の例ではマスタデバイス3をハンドオーバ先のマスタデバイスとして選択する。推定部124は、上記選択されたハンドオーバ先のマスタデバイス3を表す情報を接続切替制御部125に送る。
【0034】
接続切替制御部125は、ハンドオーバ先のマスタデバイス3を表す情報を受け取ると、移動履歴記憶部131に記憶された移動履歴情報を参照し、スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリア内に存在するか否かを判定する。スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリア内に存在すると判定された場合、接続切替制御部125は、出力処理部126にその旨を通知する。
【0035】
出力処理部126は、スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリア内に存在するとの通知を受け取ると、マスタデバイス3に対して切替制御信号CSを送信する。切替制御信号CSには、スレーブデバイス4に対する接続を要求する接続命令が含まれる。
【0036】
(動作)
次に、以上のように構成されたハンドオーバ制御装置1を備える移動通信システムMCSの処理動作を説明する。
図4はその処理手順と処理内容を示すフローチャートである。なお、以下の実施形態では、1つの展示室にユーザが1人ずつ順に順路に従って入るものとして説明する。
【0037】
(1)初期接続
ユーザが、Bluetooth通信機能を有するユーザ機器としてのスレーブデバイス4を所持して最初の展示室に入室し、マスタデバイス2が形成する通信エリア内に入ると、当該マスタデバイス2と上記スレーブデバイス4との間で初期接続処理が実行される。この初期接続処理では、マスタデバイス2によるスレーブデバイス4のスキャンとペアリングが行われる。そして、マスタデバイス2とスレーブデバイス4とが通信リンクを介して接続されると、以後スレーブデバイス4は、例えばマスタデバイス2から放送される展示物に関するガイダンス情報を受信することが可能となる。なお、Bluetoothの諸元の一例を
図7に示す。マスタデバイス2は、スレーブデバイス4との接続状態を一定時間ごとに確認する。
【0038】
(2)切断通知信号の取得
さて、ユーザが展示室を移動するのに伴い、
図6に示されるように、マスタデバイス2の通信エリアCA2内にいたスレーブデバイス4が、該通信エリアCA2から出て位置L1へと移動したとする。そうすると、マスタデバイス2とスレーブデバイス4との間の通信リンクの接続が断たれる。このとき、マスタデバイス2は、ステップS10において、接続状態にあったスレーブデバイス4との通信リンクが切断されたことを検知し、ステップS11においてハンドオーバ制御装置1に切断通知信号DSを送信する。
【0039】
(3)画像情報VSの取得
一方、上記スレーブデバイス4の移動中に、カメラ5は、上記マスタデバイス3が形成する通信エリアCA3に関わる領域を所定の周期で撮像し、その撮像画像情報VSをハンドオーバ制御装置1へ送信している。
【0040】
ハンドオーバ制御装置1は、画像取得部121の制御の下、ステップS12において、上記カメラ5から送信される撮像画像情報VSを入出力インタフェースユニット11を介して取得する。取得された画像情報VSは、例えば記憶ユニット13内の画像記憶部(図示せず)に一時記憶される。
【0041】
(4)移動履歴の生成
次にハンドオーバ制御装置1は、移動履歴生成部122の制御の下、ステップS13において、記憶ユニット13の画像記憶部から上記画像情報VSを順次読み込み、この読み込んだ各画像情報VSから例えばパターン認識技術を用いてスレーブデバイス4を所持するユーザを認識する。そして、当該ユーザの位置と時刻の変化を表すログファイルを生成し、当該ログファイルを上記スレーブデバイス4の移動履歴情報として記憶ユニット13の移動履歴記憶部131に記憶させる。
【0042】
(5)接続切替先候補の推定
ハンドオーバ制御装置1は、通知信号取得部123により切断通知信号DSを受信すると(ステップS14)、ステップS15において、推定部124の制御の下、移動履歴記憶部131からスレーブデバイス4の移動履歴情報を読み出すと共に、基地局情報DB132からマスタデバイス群の位置情報を読み出し、これらの情報に基づいて、スレーブデバイス4の次のハンドオーバ先の候補となるべきマスタデバイスを推定する。例えば、ハンドオーバ制御装置1は、スレーブデバイス4を所持するユーザの最新の位置情報に基づいて、ユーザから最も近いと推定されるマスタデバイス3をハンドオーバ先の候補として選択する。
【0043】
(6)切替制御信号の送信
ハンドオーバ制御装置1は、ステップS16において、接続切替制御部125の制御の下、上記移動履歴記憶部131から最新の移動履歴情報を読み出し、スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリアCA3内に存在するか否かを判定する。この判定の結果、スレーブデバイス4がマスタデバイス3の通信エリアCA3内に存在しない場合には、移動履歴情報が一定周期で更新されるごとに上記ステップS16においてスレーブデバイス4の有無の判定を継続する。
【0044】
この状態で、例えば、
図6に示すようにユーザが位置L1から位置L2に移動し、しかる後カメラ5の撮像対象領域FOV内に入ったとする。そうすると、カメラ5により撮像された画像情報VSからユーザが検出され、当該ユーザの位置と時刻の変化を表す移動履歴情報が更新される。ハンドオーバ制御装置1は、上記移動履歴情報をもとに、スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3が形成する通信エリアCA3内に入ったことを検出する。
【0045】
なお、
図6の位置L1にユーザがとどまる場合など、ユーザがカメラ5の撮像対象領域FOV内におらずカメラ5の画像情報VSからユーザが検出できない場合、ハンドオーバ制御装置1は、ユーザが検出されるまで、またはシステムで設定したタイムアウト時間が経過するまで、カメラ画像の取得を続ける。タイムアウトした場合、ハンドオーバは失敗となる。
【0046】
スレーブデバイス4がマスタデバイス3の通信エリアCA3内に入ったことが検出されると、ハンドオーバ制御装置1は、出力処理部126の制御の下、ステップS17において、マスタデバイス3に対してスレーブデバイス4との接続を命令する切替制御信号CSを送信する。すなわち、スレーブデバイス4がマスタデバイス3の通信エリアCA3に入ったと判定された直後に、ハンドオーバ制御装置1からハンドオーバ先のマスタデバイス3に対し切替制御信号CSが送信される。この結果、ハンドオーバ対象のスレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリアCA3内に入るまでの期間、マスタデバイス3はスレーブデバイス4に対し接続命令を送信しない。従って、上記期間に他のスレーブデバイスがマスタデバイス3との間でデータ伝送を行っていた場合に、データ伝送の中断は発生せず、これによりスループットの低下は抑制される。
【0047】
上記切替制御信号CSを受信すると、マスタデバイス3は、ステップS18においてスレーブデバイス4へと接続要求を送信する。接続に失敗した場合、通信リンクが確立するまで接続要求の送信が繰り返される。接続要求およびそれに対する応答に成功した場合、マスタデバイス3はステップS19においてスレーブデバイス4との通信リンクを確立し、ハンドオーバは終了する。
【0048】
図5は、
図4および
図6を参照して説明した動作に係る信号の流れの一例を示すシーケンス図を示す。マスタデバイス2は、ステップS21においてスレーブデバイス4との接続状態を確認している。この状態で、スレーブデバイス4において通信リンクの切断が発生し(ステップS20)、この通信リンクの切断がステップS22において検知されると、ステップS23においてマスタデバイス2からハンドオーバ制御装置1に切断通知信号DSが送信される。切断通知信号DSを受信したハンドオーバ制御装置1は、ステップS24においてハンドオーバの実施を検討し、ハンドオーバを実施すると決定された場合、ステップS25においてスレーブデバイス4の移動先を推定し、その推定結果をもとにハンドオーバ先のマスタデバイスを選択する。
【0049】
次いで、ハンドオーバ制御装置1は、ステップS26においてハンドオーバタイミングの制御を行う。すなわち、ハンドオーバ制御装置1は、ユーザが所持するスレーブデバイス4の移動履歴情報を参照し、スレーブデバイス4の現在位置の推定結果をもとに、ハンドオーバを行うべきタイミングを制御する。この状態で、スレーブデバイス4がハンドオーバ先のマスタデバイス3の通信エリアCA3内に入ったことが検出されると、ハンドオーバ制御装置1は、ステップS27においてハンドオーバ先のマスタデバイス3に対してスレーブデバイス4への接続要求の送信命令を送信する。ステップS28において、ハンドオーバ先のマスタデバイス3は、スレーブデバイス4に接続要求を送信し、スレーブデバイス4との間に通信リンクを確立する。
【0050】
(システムの検証)
図8は、一実施形態による効果の検証を行うための実験モデルの一例を示す。
図8では、ハンドオーバを行うスレーブデバイスSD1を所持するユーザが、はじめにマスタデバイスMD1の通信エリアCA10内の位置L3におり、約50秒後に位置L4に移動し、位置L4に約1分とどまった後、マスタデバイスMD2の通信エリアCA20内の位置L5へと移動する場合を考える。評価対象として、ハンドオーバ先であるマスタデバイスMD2に接続し常時データ通信を行っているスレーブデバイスSD2のスループットに着目する。
【0051】
より詳細には、
図8の位置L3において、スレーブデバイスSD1は、マスタデバイスMD1の通信エリアCA10内におり、マスタデバイスMD1と接続状態にある。約50秒後、ユーザが位置L3を離れてマスタデバイスMD1の通信エリアCA10から出ると、スレーブデバイスSD1とマスタデバイスMD1との間の通信リンクが切断される。次いで、ユーザは、いずれのマスタの通信エリアでもない通路部分内の位置L4に約1分とどまる。この間、ユーザはマスタデバイスMD2の通信エリアCA20に関連づけられたエリアを撮影するカメラ5の撮像対象領域FOVにいないので、カメラ画像中にユーザは検出されない。ユーザは、次いで、位置L4を離れて、マスタデバイスMD2の通信エリア内の位置L5へと移動する。位置L5はカメラ5の撮像対象領域FOV内である。位置L5において、スレーブデバイスSD1は、ハンドオーバ先のマスタデバイスMD2との通信リンクを確立する。
【0052】
図9は、
図8に示す実験モデルを用いて検証された、従来方式を用いた場合と、一実施形態による移動通信システムを用いた場合に期待される、マスタデバイスMD2とスレーブデバイスSD2との間の下りスループットの変化を示す。特に、スレーブデバイスSD1が通信エリア外(
図8の位置L4)に存在する間に無駄な接続要求を繰り返す従来方式(
図9(a))と、接続要求のタイミング制御によりスループットの低下が抑えられる一実施形態による方式(
図9(b))との相違に着目した。グラフの縦軸はマスタデバイスMD2からデータ通信を受信するスレーブデバイスSD2のスループット(kbit/s)を表し、横軸は時間経過(秒)を表す。なお、実験は、マスタおよびスレーブとして市販の通信端末を用い、カメラとしてMicrosoft社から市販されているKinect(登録商標)を用いて、マスタ2台とスレーブ2台の環境で実証した。
【0053】
図8に示したように、実験開始(0秒)から約50秒経過時にスレーブデバイスSD1は位置L3を離れ、50秒から約110秒までの約1分間通路内の位置L4にとどまり、その後、位置L5に移動する。一実施形態によるシステムを用いた
図9(b)のグラフでは、実験開始から約120秒経過時に一時的なスループットの低下が観測されたが、すぐに回復した。この一時的なスループットの低下は、マスタデバイスMD2がスレーブデバイスSD1に接続要求を送る間、マスタデバイスMD2からスレーブデバイスSD2へのデータ通信が中断されたことに起因する。一時的なスループットの低下から回復した後、それ以前よりもスループットが若干低下しているのは、マスタデバイスMD2とスレーブデバイスSD1との通信リンクが確立され、マスタデバイスMD2の接続先がスレーブデバイスSD1とスレーブデバイスSD2との2台になったことによるものである。
【0054】
一方、既存の方式を用いた
図9(a)のグラフでは、実験開始から約50秒経過した時点から約1分間にわたってスレーブデバイスSD2のスループットの著しい低下が観測された。この間、スループットはほぼゼロになり、マスタデバイスMD2からスレーブデバイスSD2へのデータ伝送が中断されていることがわかる。これは、ユーザが位置L3を離れてスレーブデバイスSD1とマスタデバイスMD1との間の通信リンクが切断された後、即座にハンドオーバ先マスタデバイスMD2からスレーブデバイスSD1へと接続要求が送信されたことによる。すなわち、ユーザが通信エリア外の位置L4にいるにもかかわらず、マスタデバイスMD2は、スレーブデバイスSD1に対して接続要求の送信を繰り返したため、その間マスタデバイスMD2からスレーブデバイスSD2へのデータ通信が中断されたと推測される。なお、
図9(a)のグラフにおいて、スループット回復後に、それ以前よりもスループットが若干低下しているのは、
図9(b)のグラフの場合と同様、マスタデバイスMD2の接続先がスレーブデバイスSD1とスレーブデバイスSD2との2台になったことによるものである。
【0055】
図9の比較から明らかなように、一実施形態による方式を用いた場合、スレーブデバイスSD1がハンドオーバ先のマスタデバイスMD2の通信エリアに入ったことを検知してから接続命令を出すため、接続失敗回数を減少させることができ、またこれにより、ハンドオーバ先のマスタデバイスMD2と他のスレーブデバイスSD2との間のデータ伝送のスループットが低下する時間を大幅に短縮することができる。
【0056】
(効果)
以上詳述したように、この発明の一実施形態では、マスタデバイス3の通信エリアに関わる領域を撮像した画像情報VSをもとにスレーブデバイス4の移動履歴を表す情報が生成され、該移動履歴に基づいてスレーブデバイス4の接続切替先の候補となるマスタデバイスが推定される。そして、当該候補のマスタデバイス3に対し、スレーブデバイス4との接続を指示する切替制御信号CSを送信するようにしている。特に、スレーブデバイス4の移動履歴を表す情報に基づいてスレーブデバイス4が接続切替先の候補であるマスタデバイス3の通信エリア内に移動したタイミングが検出され、当該タイミング検出後にハンドオーバ制御装置1からマスタデバイス3に切替制御信号CSを送信するようにしている。
【0057】
したがって、一実施形態によれば、スレーブデバイス4の移動先になると推定される候補のマスタデバイスにおいてのみ接続要求が送信され、候補にならなかったマスタデバイスでは接続要求が送信されない。このため、候補外のマスタデバイスにおけるデータ伝送のスループットの低下を抑制することができる。また、一実施形態によれば、スレーブデバイス4がマスタデバイス3の通信エリア内に入った後で接続要求を送るようにすることができるので、マスタデバイス3から通信エリア外のスレーブデバイス4に対して無駄な接続要求を送信する時間帯を削減することができる。また、それに伴い、マスタデバイス3におけるデータ伝送のスループット低下を低減することができる。さらに、一実施形態によれば、スレーブデバイス4の移動履歴を表す情報を参照して、スレーブデバイス4がマスタデバイス3の通信エリア内に進入したタイミングを検知し、その検知されたタイミングでマスタデバイス3からスレーブデバイス4に接続要求を送信するように制御することにより、無駄な接続要求の時間帯をいっそう削減することができる。
【0058】
また、例えば、マスタデバイスとスレーブデバイス4との間の定期的な通信や、屋内の展示物の閲覧情報とスレーブデバイス4の現在位置との関連性から推定される移動予測に基づいて、スレーブデバイス4の最近傍のマスタデバイス、またはより長い時間の接続を維持すると期待されるマスタデバイスをハンドオーバ先の候補として選択することも考えられる。このような方式を採用する場合にも、スレーブデバイス4のトラッキング技術を必要とすることなく、マスタデバイスの通信エリアに関連づけられた領域を撮影したカメラ画像を利用することにより、よりシンプルな構成で、かつ簡易な処理により、適切なハンドオーバタイミングの制御を行うことができる。
【0059】
さらに、一実施形態によれば、ハンドオーバ制御装置を用いたBluetoothハンドオーバシステムにおいて、データ通信不能時間の少ない、より高いユーザ品質でのコンテンツ提供が可能となる。これは、美術館の屋内環境など、通信エリア外の領域が点在しうる場所において、特に有用である。
【0060】
[他の実施形態]
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、一実施形態では、ハンドオーバ元のマスタデバイスから切断通知信号を受け取った後、該マスタデバイスから鑑賞順路に沿って最近傍にあるマスタデバイスをハンドオーバ先の候補として推定する手法を示したが、それだけに限定されるものではなく、閲覧順路の指定のない美術館やマスタデバイスの通信エリアよりも大きな規模の展示室等においても、多様なアルゴリズムを用いてハンドオーバ先の候補を推定することができる。例えば、ユーザまたはユーザが所持する端末の移動履歴に基づいて予測される移動方向および移動速度、複数のマスタデバイスの各々が形成する通信エリア間の位置関係など、多様な因子を考慮して最適なマスタデバイスを候補として推定することができる。
【0061】
また、一実施形態では、ハンドオーバ元のマスタデバイスとスレーブデバイスとの間の通信リンクが切断されたことを検知した後でハンドオーバ先の候補を推定するようにしたが、それだけに限定されるものではなく、マスタデバイスとスレーブデバイスとの間の通信リンクが維持された状態で、その後の接続切替先候補を推定するようにしてもよい。例えば、ハンドオーバ元のマスタデバイスとスレーブデバイスとの間の接続状態が悪化したことを検知したときに、次の接続切替先候補を推定することも考えられる。
【0062】
また、スレーブデバイスがどのマスタデバイスとも接続されていない初期状態で、あるマスタデバイスの通信エリアに入った場合に、この状態をカメラ画像から推定し、その推定結果に基づいて当該マスタデバイスに対し、接続処理を開始させるようにしてもよい。
【0063】
また、ハンドオーバ元のマスタデバイスおよびハンドオーバ先のマスタデバイスが各々1つであり、単一のカメラを用いる実施形態を示したが、多数のマスタデバイスおよび多数のカメラを用いる実施形態も考えられる。さらに、多数のスレーブデバイスが存在する実施形態も考えられる。
【0064】
その他、カメラによる撮影方法についても、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。例えば、カメラの撮像対象領域を美術館等の屋内の空間として説明したが、ハンドオーバ制御を行う必要のある多様な屋外領域も考えられる。
【0065】
要するにこの発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しないエリアで構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。