【実施例1】
【0010】
図1に本発明のレーダアンテナを含んだレーダ装置の構成図を示す。
図2は本発明のレーダアンテナの構成例を示す図であり、
図3はアンテナ素子の1つの例を示す図である。以下では、N,Mは2以上の整数、nは1以上N以下の整数、mは1以上M以下の整数とする。レーダ装置10はレーダアンテナ100と駆動手段210を備える。レーダアンテナ100は、アレイアンテナ部110、2枚の導波板141,142、導波器150
1,…,150
Nを備え、自由空間での波長がλ
0の電波を受信または送信の対象とする。
図1の調整部140は、2枚の導波板141,142を有している。なお、導波板141,142は実際には不透明な金属板であるが、
図2では、レーダアンテナ100の構造を示すために内部を見えるようにし、点線で示している。
図4,10,12も同じである。
【0011】
アレイアンテナ部110は、直線状に配列された複数のアンテナ素子120
1,…,120
Nと入出力部130を有する。入出力部130は、例えば導波管132とインターフェース部131で構成すればよい。この場合は、アンテナ素子120
nは、導波管132に設けられたスリットとすればよい。また、電波は、インターフェース部131を介して外部に出力または外部から入力される。また、自由空間では波長λ
0の電波の導波管内での波長をλ
gとすると、波長λ
g(または波長λ
gの整数倍)が、スリット(アンテナ素子120
n)の間隔dに一致するように導波管132を設計すれば、同位相の電波を受信または送信するレーダアンテナにできる。また、後述するが、導波板に挟まれた空間では自由空間より波長が長くなる。間隔がh
r1の平行な導波板に挟まれた空間での電波の波長をλ
rとすると、アンテナ素子同士の間隔dを、0.8λ
0<d<0.8λ
rとすればよい。従来であれば、グレーティングローブを抑圧するためにd<0.8λ
0にしなければならなかったが、0.8λ
0<d<0.8λ
rであれば、従来のアレイアンテナよりもアンテナ素子同士の間隔を広げながら、グレーティングローブを抑圧できる。
【0012】
船舶レーダの場合、アンテナ素子120
1,…,120
Nの配列を水平方向とし、導波管132に設けられたスリット(アンテナ素子120
n)は垂直方向に長い形状とすることで、水平偏波の電波を受信または送信できる。そして、駆動手段210が、垂直方向の軸を中心としてレーダアンテナ100を回転させる(水平方向に回転させる)。なお、アンテナ素子120
nは1つのスリットで形成してもよいし、
図3に示すように2つのスリット121
n,122
nで構成してもよい。2つのスリット121
n,122
nを用いれば、導波管132内での電波の反射を抑制するように設計しやすい。
【0013】
2枚の導波板141,142は、アンテナ素子120
1,…,120
Nの配列を挟み、電波を導波する。導波板141,142のアンテナ素子120
1,…,120
Nの配列部分での間隔h
r1は、λ
0/2<h
r1<λ
0である。この範囲であれば、導波板に挟まれた空間での波長λ
rを自由空間での波長λ
0よりも長くできる。特に、h
r1≦0.7λ
0とすれば波長λ
rを波長λ
0よりも十分に長くできる。導波板141,142同士は平行にしてもよいし、導波板141,142のアンテナ素子120
1,…,120
Nの配列から遠い部分での間隔h
r2を間隔h
r1よりも広くしてもよい。間隔h
r2を間隔h
r1よりも広くした方が、導波板141,142で挟まれた空間と自由空間との境界での変化を小さくできる。特に、導波板141,142のアンテナ素子120
1,…,120
Nの配列から遠い部分での間隔h
r2を波長がλ
0(自由空間での波長)とすれば、変化を滑らかにできる。また、導波板141,142の電波の進行方向の長さL
rは、0.75λ
rより長くすればよい。さらに、導波板141,142の角度の調整によって垂直面のパターンのコントロールも可能になる。
【0014】
導波器150
nは、アンテナ素子120
nごとに電波の進行方向に配列されたM個の無給電アンテナ151
n−1,…,151
n−Mで構成されている。そして、導波器150
nの配列の長さは、導波板141,142の電波の進行方向の長さL
rよりも長い。
【0015】
本発明のアレーアンテナによれば、自由空間での波長よりも狭い2枚の導波板に挟まれた空間では自由空間よりも波長が長くなるので、アンテナ素子同士の間隔を広くしてもグレーティングローブを抑圧できる。導波器の配列の長さが導波板よりも長いので、自由空間とアンテナ素子との間で電波を導くことができるので、開口面積に比べ利得を高くできる。また、アンテナ素子同士の間隔が広いので導波器同士を離すことができ、設計時に導波器同士の干渉を考慮する必要性が低い。したがって、高さが低く、設計が容易なレーダアンテナを提供できる。
【0016】
<シミュレーションによる検証>
図4に、1つのアンテナ素子と2枚の導波板を有するアンテナの構成を示す。
図4のアンテナは、1つのアンテナ素子120
1と、アンテナ素子120
1を挟む平行な2枚の導波板141,142がある。
図5に平行な導波板に挟まれたときの導波板の間隔と波長との関係を示す。横軸は、導波板141,142を平行にしたときの間隔h
rと自由空間での波長λ
0との比である。縦軸は、導波板141,142に挟まれた空間での波長λ
rと自由空間での波長λ
0との比である。間隔h
rが狭くなるにしたがって波長λ
rは長くなり、間隔h
r=λ
0/2のときにカットオフ(λ
rが無限大)となる。間隔がλ
0よりも狭くなると波長λ
rが顕著に長くなることが分かる。したがって、導波板141,142のアンテナ素子120
1,…,120
Nの配列部分での間隔h
r1をλ
0/2<h
r1<λ
0にすれば、導波板に挟まれた空間での波長λ
rを自由空間での波長λ
0よりも長くできる。また、h
r1=0.7λ
0のときに、λ
r≒1.5λ
0である。したがって、特にh
r1≦0.7λ
0とすれば、波長λ
rを波長λ
0よりも十分に長くできるので、アンテナ素子同士の間隔dを十分に離すことができる。
【0017】
図6は自由空間(
図4の導波板が無い状態)の電界をシミュレーションした結果、
図7〜9は平行な導波板に挟まれた空間(
図4の状態)の電界をシミュレーションした結果を示す図である。
図7は間隔h
rが自由空間の波長λ
0の場合、
図8は間隔h
rが0.9λ
0の場合、
図9は間隔h
rが0.6λ
0の場合である。x、y、zの方向は、
図4と同じである。つまり、
図6〜9の(A)は
図4のアンテナの下から上を見た図、(B)は右側の側面から見た図である。これらのシミュレーションでは、導波板141,142の電波の進行方向の長さは、
図7〜9の(A)でL
rが示された長さである。
図6の波長λ
0と比較すると、
図7の波長λ
rは1.155λ
0、
図8の波長λ
rは1.2λ
0、
図9の波長λ
rは1.81λ
0となっている。
【0018】
図10は、導波管132に16個のアンテナ素子120
1,…,120
16が間隔dで形成された様子を示す図であり、(A)は導波板が無い場合、(B)は導波板がある場合を示している。なお、導波板は平行であって、間隔h
rは0.65λ
0、導波板の電波の進行方向の長さL
rは1.5λ
0、間隔dは1.2λ
0である。
図11は、
図10のアンテナ素子120
1,…,120
16が同位相の場合の電界の分布を示しており、(A)は導波板が無い場合、(B)は導波板がある場合を示している。
図11(A)では電界がアンテナ素子の配列に平行な分布にはなっていないこと、
図11(B)では電界がアンテナ素子の配列に平行な分布になっていることが分かる。
【0019】
図12は、間隔dで配列されたアンテナ素子の1つを切り出した様子を示す図である。(A)はアンテナ素子のみの場合、(B)はアンテナ素子と2枚の導波板を有する場合、(C)はアンテナ素子と導波器を有する場合、(D)はアンテナ素子と2枚の導波板と導波器を有する場合である。導波板141,142のアンテナ素子120
nの部分での間隔h
r1は0.7λ
0、導波板141,142のアンテナ素子120
nから遠い部分での間隔h
r2はλ
0である。導波板141,142の電波の進行方向の長さL
rは1.5λ
0、間隔dは1.2λ
0である。導波器150
nは、電波の進行方向に間隔d
sが0.35λ
0となるように配列された無給電アンテナ151
n−1,…,151
n−Mで構成されている。ただし、アンテナ素子120
nと無給電アンテナ151
n−1との間隔は0.25λ
0である。
【0020】
図13〜16は、
図12(A)〜(D)に示したアンテナ素子の電界をシミュレーションした結果を示す図である。
図13が
図12(A)、
図14が
図12(B)、
図15が
図12(C)、
図16が
図12(D)の結果をそれぞれ示している。
図12(C),(D)のシミュレーションでは、無給電アンテナ151
n−mは、電波の進行方向に垂直な面に間隔w
sが0.26λ
0となるように配置された2つのアンテナで構成されている。無給電アンテナ151
n−mの長さL
sは0.39λ
0〜0.26λ
0であり、アンテナ素子120
nに近いほど長くなるように配置している。また、シミュレーションではM=21である。x、y、zの方向は、
図12と同じである。つまり、
図13〜16の(A)は
図12のアンテナの下から上を見た図、(B)は右側の側面から見た図である。
図13,15と
図14,16の違いから、導波板141,142を備えることでアンテナ素子120
nの配列に平行な分布の電界を作りやすいこととが分かる。また、
図16より、導波器150
nによってアンテナ素子120
nの配列に平行な分布の電界を、よりアンテナ素子120
nから離れた自由空間の位置まで形成できることが分かる。つまり、電波を導くことができているので、利得を高くできる。
【0021】
図17,18は、
図12(A)〜(D)に示したアンテナ素子を10個並べたレーダアンテナのシミュレーション結果を示す図である。
図17はxy平面の電界(主偏波)を示す図、
図18はxz平面の磁界を示す図である。
図19は、
図12(D)に示したアンテナ素子を10個並べたレーダアンテナの交差偏波をシミュレーションした結果を示す図である。
図17,18では
図12(A)の結果は一点鎖線、(B)の結果は間隔の長い点線、(C)の結果は間隔の狭い点線、(D)の結果は実線で示している。(B),(D)の結果では、角度(Angle)が60〜90度の部分に生じるグレーティングローブが抑圧されていることが分かる。また、(D)の結果では、他の結果に比べてサイドローブが低くなっていることも分かる。
図19では、磁界を点線、電界を実線で示している。
図19の結果から、交差偏波の電波はほとんど生じていないことが分かる。つまり、船舶レーダとして利用するためにアンテナ素子120
1,…,120
Nの配列を水平方向にし、導波管132に設けられたスリット(アンテナ素子120
n)を垂直方向に長い形状とすることで、水平偏波の電波を受信または送信できる状態にしたときに、不要な垂直偏波が生じにくいことが分かる。
【0022】
これらのシミュレーション結果より、上述のとおり、「本発明のアレーアンテナによれば、自由空間での波長よりも狭い2枚の導波板に挟まれた空間では自由空間よりも波長が長くなるので、アンテナ素子同士の間隔を広くしてもグレーティングローブを抑圧できる。導波器の配列の長さが導波板よりも長いので、自由空間とアンテナ素子との間で電波を導くことができるので、開口面積に比べ利得を高くできる。また、アンテナ素子同士の間隔が広いので導波器同士を離すことができ、設計時に導波器同士の干渉を考慮する必要性が低い。」ことが分かる。