特許第6786146号(P6786146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6786146リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、およびそれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786146
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、およびそれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20201109BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20201109BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G53/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-529180(P2019-529180)
(86)(22)【出願日】2018年2月28日
(65)【公表番号】特表2020-501310(P2020-501310A)
(43)【公表日】2020年1月16日
(86)【国際出願番号】KR2018002505
(87)【国際公開番号】WO2018160023
(87)【国際公開日】20180907
【審査請求日】2019年5月30日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0026823
(32)【優先日】2017年2月28日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0023733
(32)【優先日】2018年2月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヘ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ピョン・チョン・パク
(72)【発明者】
【氏名】ソ・ラ・ペク
(72)【発明者】
【氏名】テ・グ・ユ
(72)【発明者】
【氏名】ワン・モ・チョン
【審査官】 福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/162178(WO,A1)
【文献】 特開2015−164119(JP,A)
【文献】 特開2012−252844(JP,A)
【文献】 特開2017−084674(JP,A)
【文献】 特開2013−051172(JP,A)
【文献】 特開2013−110037(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
H01M 10/05−10/0587
H01G 11/00−11/86
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)を含むリチウム複合遷移金属酸化物を含み、
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されており、
前記リチウム複合遷移金属酸化物の粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppm以下であり、
前記リチウム複合遷移金属酸化物の粒子の平均粒径(D50)をd、前記リチウム複合遷移金属酸化物の結晶サイズをcとしたときに、d/1000cが0.05以上であり、
前記リチウム複合遷移金属酸化物の結晶サイズが100〜200nmであり、
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表され、
[化学式1]
LiNi1−x1−y1−z1z1Cox1y1q1
前記化学式1中、1.0≦a≦1.5、0<x1≦0.2、0<y1≦0.2、0<z1≦0.2、0≦q1≦0.1、0<x1+y1+z1≦0.2であり、Mは、Mnであるか、または、MnおよびAlであり、Mは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、およびMoからなる群から選択される少なくとも1種である、リチウム二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、結晶構造中にタングステン(W)を10〜5000ppmで含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項3】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、結晶構造中にタングステン(W)を2000〜3000ppmで含有する、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、およびアルミニウム(Al)を含む4成分系リチウム複合遷移金属酸化物である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項5】
平均粒径(D50)が3〜6μmであり、{(D90−D10)/D50}が0.6以下である、請求項1に記載のリチウム二次電池用正極活物質。
【請求項6】
ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質を含む金属溶液を準備するステップと、
前記金属溶液を共沈反応させて正極活物質前駆体を製造するステップと、
前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合して700〜900℃の温度で焼成することで、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されたリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、
前記焼成されたリチウム複合遷移金属酸化物を水洗することで、リチウム遷移金属酸化物の表面に残留するリチウムタングステン酸化物を除去するステップと、を含み、
前記正極活物質前駆体は、下記化学式2で表され、
[化学式2]
Ni1−x2−y2−z2z2Cox2y2(OH)
前記化学式2中、0<x2≦0.2、0<y2≦0.2、0<z2≦0.2、0<x2+y2+z2≦0.2であり、Mは、Mnであるか、または、MnおよびAlである、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記タングステン(W)含有原料物質は、タングステン酸ナトリウム(NaWO)、タングステンオキシド(WO)、およびタングステン酸(HWO)からなる群から選択される何れか1つ以上である、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記金属溶液は、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質の全体に対して、タングステン(W)含有原料物質を0.05〜0.5モル%で含む、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項9】
前記水洗は、−10〜30℃の温度で行う、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項10】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、結晶構造中にタングステン(W)を10〜5000ppmで含有する、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項11】
前記水洗の後に、リチウム複合遷移金属酸化物の粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppm以下である、請求項に記載のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項12】
請求項1からの何れか一項に記載のリチウム二次電池用正極活物質を含むリチウム二次電池用正極。
【請求項13】
請求項12に記載のリチウム二次電池用正極を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2017年2月28日付けの韓国特許出願第10−2017−0026823号および2018年2月27日付けの韓国特許出願第10−2018−0023733号に基づく優先権の利益を主張し、該当韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は、本明細書の一部として組み込まれる。
【0002】
本発明は、二次電池用正極活物質、その製造方法、およびそれを含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0003】
モバイル機器に関する技術開発と需要の増加に伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池の中でも、高いエネルギー密度と電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウム二次電池が商用化されて広く用いられている。
【0004】
リチウム二次電池の正極活物質としては、リチウム遷移金属複合酸化物が用いられており、中でも、作用電圧が高く、容量特性に優れたLiCoOのリチウムコバルト複合金属酸化物が主に用いられている。しかしながら、LiCoOは、脱リチウムによる結晶構造の不安定化によって熱的特性が非常に悪く、また高価であるため、電気自動車などのような分野の動力源として大量で使用するには限界がある。
【0005】
LiCoOに代替可能な材料として、リチウムマンガン複合金属酸化物(LiMnOまたはLiMnなど)、リチウムリン酸鉄化合物(LiFePOなど)、またはリチウムニッケル複合金属酸化物(LiNiOなど)などが開発されている。中でも、約200mAh/gの高い可逆容量を有し、大容量の電池を実現しやすいリチウムニッケル複合金属酸化物に関する研究および開発がさらに活発に行われている。しかし、LiNiOは、LiCoOに比べて熱安定性が悪く、充電状態で外部からの圧力などによって内部短絡が発生すると、正極活物質自体が分解されて電池の破裂および発火をもたらすという問題がある。
【0006】
そのため、LiNiOの優れた可逆容量は維持しながらも、低い熱安定性を改善するための方法として、Niの一部を、MnとCoで置換したニッケルコバルトマンガン系リチウム複合金属酸化物(以下、単に「NCM系リチウム酸化物」という)が開発された。しかし、現在まで開発されている従来のNCM系リチウム酸化物は、容量特性が十分でないため、適用には限界があった。
【0007】
かかる問題を改善するために、近年、NCM系リチウム酸化物におけるNiの含量を増加させようとする研究が行われている。しかし、Niの含量が増加するほど、焼成時に結晶が急激に大きく成長して結晶サイズを制御しにくく、結晶サイズが急激に大きくなると、電池容量および寿命特性が急激に低下するという問題があった。また、正極活物質中のNiの含量が高くなるにつれて、正極活物質の表面におけるリチウム副産物の残留量が多くなるが、かかるリチウム副産物によって電池の容量が低下するなどの問題も発生する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決するためのものであって、高い焼成温度でも結晶サイズの急激な増大を抑制し、結晶性を向上させるとともに、リチウム副産物の残留量を減少させることで、優れた容量特性、寿命特性、抵抗特性、および高温安全性を実現することができるリチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、およびそれを含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)を含むリチウム複合遷移金属酸化物を含み、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されており、前記リチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppm以下である、リチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【0010】
また、本発明は、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質を含む金属溶液を準備するステップと、前記金属溶液を共沈反応させて正極活物質前駆体を製造するステップと、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合して焼成することで、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されたリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、前記焼成されたリチウム複合遷移金属酸化物を水洗することで、リチウム遷移金属酸化物の表面に残留するリチウムタングステン酸化物を除去するステップと、を含む、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、前記正極活物質を含む正極およびリチウム二次電池を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によるリチウム二次電池用正極活物質は、リチウム複合遷移金属酸化物のニッケル(Ni)サイトの一部にタングステン(W)が置換されており、リチウム副産物、特に、リチウムタングステン酸化物の含量が減少されることにより、正極活物質の粒径を増加させながらも結晶サイズは減少させることができるため、高容量を実現し、抵抗を改善するとともに、寿命特性および高温安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例2および比較例1の正極活物質を用いて製造された二次電池の2Cプロファイルを示したグラフである。
図2】実施例2および比較例1の正極活物質を用いて製造された二次電池の充放電サイクルによる抵抗増加率を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明が容易に理解されるように、本発明をより詳細に説明する。この際、本明細書および請求の範囲で用いられている用語や単語は、通常的もしくは辞書的な意味に限定して解釈してはならず、発明者らは、自分の発明を最善の方法で説明するために、用語の概念を適切に定義することができるという原則に則って、本発明の技術的思想に合致する意味と概念で解釈すべきである。
【0015】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、およびマンガン(Mn)を含むリチウム複合遷移金属酸化物を含み、前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されており、前記リチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppm以下である。
【0016】
高エネルギー密度化のために、NCM系リチウム複合遷移金属酸化物におけるニッケル(Ni)の含量を増加させる場合、ニッケル(Ni)の含量が増加するほど、特に焼成時に結晶が急激に成長し、容量および寿命特性が急激に低下するという問題があった。また、エネルギー密度を高めて高容量を実現するために、正極活物質の粒子サイズを増加させているが、大粒子の正極活物質を製造する際に正常容量を実現するために焼成温度が高くなっており、焼成温度が高くなるにつれて結晶性が低下し、大きい粒径の正極活物質の正常容量を実現することが困難であるという問題があった。
【0017】
また、正極活物質中のニッケル(Ni)の含量が高くなるにつれて、正極活物質の表面におけるリチウム副産物の残留量が多くなるが、このようなリチウム副産物によって電池の容量が低下するなどの問題も発生する。
【0018】
このような問題を解決するために、本発明は、タングステン(W)を共沈反応によりドープさせることで、リチウム複合遷移金属酸化物のニッケル(Ni)サイトの一部にタングステン(W)が置換されるようにするとともに、焼成後の水洗過程により、リチウム複合遷移金属酸化物粒子の表面に残存するリチウム副産物、特に、リチウムタングステン酸化物の含量を減少させた。これにより、高容量を実現することができ、抵抗を改善し、寿命特性および高温安全性を確保することができる。
【0019】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、タングステン(W)がリチウム複合遷移金属酸化物のニッケル(Ni)サイトの一部に置換されていることを主な特徴とする。結晶構造外の表面側にタングステン(W)がドープされる場合に比べて、リチウム複合遷移金属酸化物の結晶構造内のニッケルサイト(Ni)の一部にタングステン(W)が置換される本発明によると、大きい粒径の正極活物質を製造するために焼成温度を高める際にも、結晶サイズが急激に大きくなることをより効果的に抑制し、結晶性が低下することを防止することができるとともに、高容量の実現および抵抗改善の効果を向上させることができる。
【0020】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、下記化学式1で表される。
【0021】
[化学式1]
LiNi1−x1−y1−z1z1Cox1y1q1
【0022】
前記化学式1中、1.0≦a≦1.5、0<x1≦0.2、0<y1≦0.2、0<z1≦0.2、0≦q1≦0.1であり、Mは、MnおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種以上であり、Mは、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、およびMoからなる群から選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0023】
本発明で用いられる前記リチウム複合遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)と、アルミニウム(Al)の4成分を必須に含んでもよく、このうち前記ニッケル(Ni)サイトの一部にタングステン(W)が置換されているリチウム複合遷移金属酸化物であってもよい。または、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)と、このうち前記ニッケル(Ni)サイトの一部にタングステン(W)が置換されており、結晶構造外にBa、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、およびMoからなる群から選択される1種以上をさらに含むリチウム複合遷移金属酸化物であってもよい。
【0024】
また、本発明で用いられるリチウム複合遷移金属酸化物は、前記化学式1中、0<x1+y1+z1≦0.2を満たすリチウム複合遷移金属酸化物であってもよい。すなわち、前記リチウム複合遷移金属酸化物において、遷移金属の全モル比に対するニッケル(Ni)のモル比が0.8以上である、高濃度ニッケル(high‐nickel)系リチウム複合遷移金属酸化物であってもよい。
【0025】
具体的に、前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Liは、aに該当する含量、すなわち、1.0≦a≦1.5で含まれてもよい。aが1.0未満である場合には、容量が低下する恐れがあり、1.5を超える場合には、焼成工程で粒子が焼結されてしまい、正極活物質の製造が困難となり得る。Liの含量を制御することによる正極活物質の容量特性の改善効果の顕著性および活物質の製造時における焼結性のバランスを考慮すると、前記Liは、1.0≦a≦1.15の含量で含まれることがより好ましい。
【0026】
また、前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Niは、1−x1−y1−z1に該当する含量、すなわち、0.8≦1−x1−y1−z1<1で含まれてもよい。より好ましくは、Niは0.8≦1−x1−y1−z1<0.9で含まれてもよい。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物中のNiの含量が0.8以上の組成となると、充放電に寄与するに十分なNi量が確保され、高容量化を図ることができる。Niの含量が0.8未満である場合には、高容量の実現において限界があり得て、0.9を超える組成では、Liサイトの一部がNiにより置換され、充放電に寄与するに十分なLi量を確保できず、充放電容量が低下する恐れがある。
【0027】
また、前記化学式1のリチウム遷移金属酸化物において、Coは、x1に該当する含量、すなわち、0<x1≦0.2で含まれてもよい。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物中のCoの含量が0.2を超える場合には、コストの増加に比べて容量特性改善の効率が低い。Coを含むことによる容量特性の改善効果の顕著性を考慮すると、前記Coは、より具体的に0.05≦x1≦0.2の含量で含まれてもよい。
【0028】
また、化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物におけるNiおよびCoの元素は、正極活物質の構造安定性を向上させるために、金属元素Mによって一部置換またはドープされてもよい。前記Mは、MnおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種以上であってもよい。Mnおよび/またはAlを含むことによる構造安定性の向上、その結果としての電池の安定性および寿命特性の改善効果を考慮すると、前記金属元素Mは、y1に該当する含量、すなわち、0<y1≦0.2の含量で含まれてもよい。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物中のy1が0.2を超える場合には、電池の出力特性および容量特性が却って低下してしまう恐れがある。
【0029】
また、化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、Wは、z1に該当する含量、すなわち、0<z1≦0.2で含まれてもよい。前記化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物中にWが含まれない場合には、結晶サイズが大きくなり、結晶性が低下し、抵抗が高くなる恐れがあり、0.2を超える場合には、Wの溶出を引き起こし、高温貯蔵時における容量減少および抵抗増加、ガス発生などの問題があり得る。Wを含むことによる容量特性および抵抗特性の改善効果の顕著性を考慮すると、前記Wは、より具体的に、0.0005≦z1≦0.1の含量で含まれてもよい。この際、前記Wは、結晶構造中のNiサイトに上記の含量で置換されているものを意味する。
【0030】
また、化学式1のリチウム複合遷移金属酸化物において、正極活物質中の遷移金属元素の分布を調節することで電池特性を改善するために、Ni、Co、W、およびMの元素以外に、他の元素、すなわち、Mがドープされてもよい。前記Mは、具体的に、Ba、Ca、Zr、Ti、Mg、Ta、Nb、およびMoからなる群から選択される何れか1つ以上の元素であってもよい。前記Mの元素は、正極活物質の特性を低下させない範囲内で、q1に該当する量、すなわち、0≦q1≦0.1の含量で含まれてもよい。
【0031】
前記リチウム複合遷移金属酸化物は、結晶構造中にタングステン(W)を10〜5000ppmで含有し、より好ましくは、結晶構造中にタングステン(W)を1000〜3500ppmで含有し、最も好ましくは、結晶構造中にタングステン(W)を2000〜3000ppmで含有していてもよい。前記リチウム複合遷移金属酸化物において、結晶構造中のタングステン(W)の含量が10ppm未満である場合には、結晶サイズを制御しにくく、特に、高含量ニッケル(Ni)を含む大粒径の活物質は、結晶サイズが急激に増加して抵抗が大きくなり、容量が低下する恐れがある。また、結晶構造中のタングステン(W)の含量が5000ppmを超える場合には、Wの溶出によって容量低下および抵抗増加、ガス発生の問題があり得る。一方、リチウム複合遷移金属酸化物の容量特性、抵抗特性、および高温安全性などの特性向上の効果を考慮すると、結晶構造中のタングステン(W)の含量が2000〜3000ppmであることが最も好ましい。
【0032】
前記リチウム複合遷移金属酸化物粒子の平均粒径(D50)をd、前記リチウム複合遷移金属酸化物の結晶サイズ(Crystallite Size)をcとしたときに、d/1000cが0.05以上、より好ましくは0.06〜0.10、最も好ましくは0.06〜0.095であってもよい。本発明の一実施形態に係るリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質は、エネルギー密度(density)を高めるために粒子サイズを大きくしても、結晶サイズが急激に大きくなることを抑え、高容量を実現することができる。正極活物質の粒子サイズを増加させて高容量を実現するために焼成温度を高める場合、結晶性が低下し、結晶サイズが急激に大きくなる恐れがあり、前記d/1000cが0.05未満に形成され得る。前記d/1000cが0.05未満である場合には、正常容量を実現することが困難であり、初期抵抗値および抵抗増加が大きくなる恐れがある。
【0033】
本発明において、平均粒径(D50)は、粒径分布曲線において体積累積量の50%に該当する粒径と定義し得る。前記平均粒径(D50)は、例えば、粒度分布(Particle Size Distribution)を用いて測定することができる。例えば、前記正極活物質の平均粒径(D50)の測定方法として、正極活物質の粒子を分散媒中に分散させた後、市販のレーザー回折粒度測定装置(例えば、Microtrac MT 3000)に導入して約28kHzの超音波を出力60Wで照射した後、測定装置における体積累積量の50%に該当する平均粒径(D50)を算出することができる。
【0034】
本発明において、結晶サイズ(Crystalite size)は、一次粒子のうち方向性を有している1つのドメイン(domain)と定義し得る。前記結晶サイズ(Crystalite size)は、XRD測定値から導出されることができる。
【0035】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の結晶サイズ(Crystalite size)は、100〜200nm、より好ましくは130〜180nm、最も好ましくは140〜160nmであってもよい。
【0036】
本発明の一実施形態によると、結晶構造中のニッケル(Ni)サイトの一部にタングステン(W)を置換することで、高温で焼成時に、特に高含量ニッケル(Ni)を含んでも、結晶サイズが急激に大きくなることを防止することができ、結晶サイズを制御しやすくなる。
【0037】
前記リチウム複合遷移金属酸化物の結晶サイズが100nm未満である場合には、結晶性が低いため、高温での貯蔵性が急激に悪くなるか、高い比表面積により、電解液との副反応によるガスの発生が増加する恐れがあり、または、正極活物質の構造的な不安全性により、正極活物質の安全性が悪くなり得る。また、200nmを超える場合には、容量および寿命特性が著しく低下し得る。
【0038】
一方、本発明の一実施形態による前記正極活物質粒子の平均粒径(D50)は、3〜50μm、より好ましくは7〜20μm、最も好ましくは14〜18μmであってもよい。
【0039】
一方、本発明の他の実施形態に係る前記正極活物質は、平均粒径(D50)が3〜6μmであり、{(D90−D10)/D50}が0.6以下であってもよい。
【0040】
一方、本発明のリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質は、粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppm以下、より好ましくは100〜700ppm、最も好ましくは500ppm以下であってもよい。
【0041】
高濃度のニッケル(Ni)を含有するリチウム複合遷移金属酸化物の場合、正極活物質の表面におけるリチウム副産物の残留量が多くなるが、本発明による正極活物質は、水洗を行うことで、リチウム複合遷移金属酸化物の表面にリチウムタングステン酸化物として存在する水溶性タングステン(W)を除去することにより、残存するリチウムタングステン酸化物の含量を1000ppm以下とすることができる。前記残存するリチウムタングステン酸化物の含量が1000ppmを超える場合には、容量低下やガス発生、および膨潤現象が発生する恐れがあり、高温安全性が低下し得る。
【0042】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質を含む金属溶液を準備するステップと、前記金属溶液を共沈反応させて正極活物質前駆体を製造するステップと、前記正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合して焼成することで、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されたリチウム複合遷移金属酸化物を製造するステップと、前記焼成されたリチウム複合遷移金属酸化物を水洗することで、リチウム遷移金属酸化物の表面に残留するリチウムタングステン酸化物を除去するステップと、を含む。
【0043】
本発明のリチウム二次電池用正極活物質は、結晶構造中のニッケル(Ni)サイトにタングステン(W)を置換するために、タングステン(W)含有原料物質を金属溶液に溶解させ、共沈反応により正極活物質前駆体を製造する。
【0044】
前記ニッケル(Ni)含有原料物質は、例えば、ニッケル含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、またはオキシ水酸化物などであってもよく、具体的には、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO・2Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル塩、ニッケルハロゲン化物、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0045】
前記コバルト(Co)含有原料物質は、コバルト含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、またはオキシ水酸化物などであってもよく、具体的には、Co(OH)、CoOOH、Co(OCOCH・4HO、Co(NO・6HO、Co(SO・7HO、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0046】
前記マンガン(Mn)含有原料物質は、例えば、マンガン含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物、またはこれらの組み合わせであってもよく、具体的には、Mn、MnO、Mnなどのようなマンガン酸化物;MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン塩、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン塩などのようなマンガン塩;オキシ水酸化マンガン、塩化マンガン、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0047】
前記タングステン(W)含有原料物質は、例えば、タングステン含有酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物、またはこれらの組み合わせであってもよく、具体的には、タングステン酸ナトリウム(NaWO)、タングステンオキシド(WO)、タングステン酸(HWO)、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。
【0048】
一方、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質以外に、アルミニウム(Al)含有原料物質をさらに含んでもよく、例えば、アルミニウムを含有する酢酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ハライド、硫化物、水酸化物、酸化物、オキシ水酸化物、またはこれらの組み合わせであってもよく、具体的に、AlSO、AlCl、Al‐イソプロポキシド(Al‐isopropoxide)、AlNO、またはこれらの組み合わせが挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0049】
前記金属溶液は、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質を、溶媒、具体的には、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(例えば、アルコールなど)の混合溶媒に添加して製造されてもよく、または、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質の水溶液を混合して製造されてもよい。
【0050】
前記金属溶液は、ニッケル(Ni)含有原料物質、コバルト(Co)含有原料物質、マンガン(Mn)含有原料物質、およびタングステン(W)含有原料物質の全体に対して、タングステン(W)含有原料物質を0.01〜1.0モル%、より好ましくは0.01〜0.8モル%、最も好ましくは0.05〜0.5モル%で含んでもよい。
【0051】
前記正極活物質前駆体は、前記金属溶液にアンモニウムカチオン含有錯体形成剤と塩基性化合物を添加し、共沈反応させることで製造されてもよい。
【0052】
前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、例えば、NHOH、(NHSO、NHNO、NHCl、CHCOONH、NHCO、またはこれらの組み合わせであってもよいが、これに限定されるものではない。一方、前記アンモニウムカチオン含有錯体形成剤は、水溶液の形態で用いられてもよく、この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物が使用できる。
【0053】
前記塩基性化合物は、NaOH、KOH、またはCa(OH)などのようなアルカリ金属またはアルカリ土金属の水酸化物、これらの水和物、またはこれらの組み合わせであってもよい。前記塩基性化合物も水溶液の形態で用いられてもよく、この際、溶媒としては、水、または水と均一に混合可能な有機溶媒(具体的に、アルコールなど)と水の混合物が使用できる。前記塩基性化合物は、反応溶液のpHを調節するために添加されるものであって、金属溶液のpHが11〜13となる量で添加されてもよい。
【0054】
一方、前記共沈反応は、窒素またはアルゴンなどの不活性雰囲気下で、40〜70℃の温度で行われてもよい。
【0055】
このように製造された前記正極活物質前駆体は、下記化学式2で表される。
【0056】
[化学式2]
Ni1‐x2‐y2‐z2z2Cox2y2(OH)
【0057】
前記化学式2中、0<x2≦0.2、0<y2≦0.2、0<z2≦0.2であり、Mは、MnおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種以上であってもよい。
【0058】
また、本発明で製造される正極活物質前駆体は、前記化学式2中、0<x2+y2+z2≦0.2を満たす、すなわち、前記遷移金属の全モル比に対するニッケル(Ni)のモル比が0.8以上である、高濃度ニッケル(high‐nickel)系正極活物質前駆体であってもよい。
【0059】
前記化学式2の正極活物質前駆体において、Ni、Co、Mn、およびWの含量は、上述のリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質と同様に適用可能である。
【0060】
次に、前記正極活物質前駆体とリチウム含有原料物質を混合して焼成することで、ニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されたリチウム複合遷移金属酸化物を製造する。
【0061】
前記リチウム含有原料物質としては、リチウム含有炭酸塩(例えば、炭酸リチウムなど)、水和物(例えば、水酸化リチウムI水和物(LiOH・HO)など)、水酸化物(例えば、水酸化リチウムなど)、硝酸塩(例えば、硝酸リチウム(LiNO)など)、塩化物(例えば、塩化リチウム(LiCl)など)などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてもよい。
【0062】
前記焼成温度は、700〜900℃、より好ましくは750〜850℃、最も好ましくは780〜820℃であってもよい。焼成温度が700℃未満である場合には、不十分な反応によって粒子中に原料物質が残留することとなり、電池の高温安定性が低下する恐れがあり、体積密度および結晶性が低下して構造的安定性が劣化し得て、900℃を超える場合には、粒子の不均一な成長が発生し得る。
【0063】
このように製造されたリチウム複合遷移金属酸化物は、結晶構造中のニッケル(Ni)サイトの一部がタングステン(W)で置換されることにより、高温で焼成時に、特に高含量ニッケル(Ni)を含んでも、結晶サイズが急激に大きくなることを防止することができる。
【0064】
次に、上記のようにリチウム複合遷移金属酸化物が準備されると、それを水洗することで、リチウム遷移金属酸化物の表面に残留するリチウム副産物、特に、リチウムタングステン酸化物を除去する。
【0065】
前記水洗ステップは、例えば、純水にリチウム複合遷移金属酸化物を投入し、撹拌させる方法により行ってもよい。
【0066】
この際、前記水洗は、リチウム複合遷移金属酸化物100重量部に対して、純水50〜100重量部を用いて行ってもよい。
【0067】
前記水洗を行う際に、純水の含量がリチウム複合遷移金属酸化物100重量部に対して50重量部未満である場合には、洗浄が不十分であるためリチウム副産物の除去が十分ではない。また、純水の含量が100重量部を超える場合には、結晶構造中のリチウムが水洗水に溶解される量が増加し得て、特に、ニッケルの含量が80mol%以上である高濃度ニッケルのリチウム複合遷移金属酸化物の場合、純水の含量が多すぎると、結晶構造中のリチウムが水洗水に溶解される量が著しく増加し、電池の容量および寿命の急激な低下が発生し得る。
【0068】
また、前記水洗温度は、30℃以下、好ましくは−10℃〜30℃であってもよく、水洗時間は10分〜1時間程度であってもよい。水洗温度および水洗時間が上記の範囲を満たす場合、リチウム副産物が効果的に除去されることができる。
【0069】
このように製造された本発明の一実施形態に係るリチウム複合遷移金属酸化物の正極活物質は、結晶構造中にタングステン(W)を10〜5,000ppmで含有してもよく、粒子の表面に残存するリチウムタングステン酸化物の含量を1,000ppm以下にすることで、高容量を実現し、抵抗を改善するとともに、寿命特性および高温安全性を確保することができる。
【0070】
本発明のさらに他の実施形態によると、上記の正極活物質を含む正極を提供する。
【0071】
具体的に、前記正極は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一面に位置し、上記の正極活物質を含む正極活物質層と、を含む。
【0072】
前記正極集電体としては、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、またはアルミニウムやステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したものなどが用いられてもよい。また、前記正極集電体は、通常、3〜500μmの厚さを有し、前記集電体の表面上に微細な凹凸を形成することで正極活物質の接着力を高めてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態が可能である。
【0073】
前記正極活物質層は、上述の正極活物質とともに、導電材およびバインダーを含んでもよい。
【0074】
この際、前記正極活物質は、正極活物質層の総重量に対して80〜99重量%、より具体的には85〜98重量%で含まれてもよい。上記の含量範囲で含まれる場合、優れた容量特性を示すことができる。
【0075】
この際、前記導電材は、電極に導電性を付与するために用いられるものであって、構成される電池において、化学変化を引き起こすことなく、且つ電子伝導性を有するものであれば特に制限されずに使用可能である。具体的な例としては、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛;カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、炭素繊維などの炭素系物質;銅、ニッケル、アルミニウム、銀などの金属粉末または金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;またはポリフェニレン誘導体などの伝導性高分子などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記導電材は、正極活物質層の総重量に対して1〜30重量%で含まれてもよい。
【0076】
前記バインダーは、正極活物質粒子同士の付着、および正極活物質と集電体との接着力を向上させる役割を果たす。具体的な例としては、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ビニリデンフルオライド‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF‐co‐HFP)、ポリビニルアルコール、ポリアクリロニトリル(polyacrylonitrile)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン‐プロピレン‐ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化‐EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム、またはこれらの種々の共重合体などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記バインダーは、正極活物質層の総重量に対して1〜30重量%で含まれてもよい。
【0077】
前記正極は、上記の正極活物質を使用することを除き、通常の正極の製造方法により製造されることができる。具体的に、上記の正極活物質、および選択的に、バインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した正極活物質層形成用組成物を正極集電体上に塗布した後、乾燥および圧延することで製造されることができる。この際、前記正極活物質、バインダー、導電材の種類および含量は、上述のとおりである。
【0078】
前記溶媒としては、当該技術分野において一般に用いられる溶媒であればよく、ジメチルスルホキシド(dimethyl sulfoxide、DMSO)、イソプロピルアルコール(isopropyl alcohol)、N‐メチルピロリドン(NMP)、アセトン(acetone)、または水などが挙げられ、これらのうち1種が単独で、または2種以上の混合物が用いられてもよい。前記溶媒の使容量は、スラリーの塗布厚さ、製造収率を考慮して、前記正極活物質、導電材、およびバインダーを溶解または分散させ、後続の正極製造のための塗布時に優れた厚さ均一性を示すことができる粘度を有するようにする程度であれば十分である。
【0079】
また、他の方法として、前記正極は、前記正極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを正極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0080】
本発明のさらに他の一例によると、前記正極を含む電気化学素子が提供される。前記電気化学素子は、具体的に、電池、キャパシタなどであってもよく、より具体的にはリチウム二次電池であってもよい。
【0081】
前記リチウム二次電池は、具体的に、正極と、前記正極と対向して位置する負極と、前記正極と負極との間に介在されるセパレータと、電解質と、を含み、前記正極は上述のとおりである。また、前記リチウム二次電池は、前記正極、負極、セパレータの電極組立体を収納する電池容器と、前記電池容器を密封する密封部材と、を選択的にさらに含んでもよい。
【0082】
前記リチウム二次電池において、前記負極は、負極集電体と、前記負極集電体上に位置する負極活物質層と、を含む。
【0083】
前記負極集電体としては、電池に化学的変化を誘発することなく、且つ高い導電性を有するものであれば特に制限されるものではなく、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、チタン、焼成炭素、銅やステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理を施したもの、アルミニウム‐カドミウム合金などが用いられてもよい。また、前記負極集電体は、通常、3μm〜500μmの厚さを有し、正極集電体と同様に、前記集電体の表面に微細な凹凸を形成することで、負極活物質の結合力を強化させてもよい。例えば、フィルム、シート、箔、網、多孔質体、発泡体、不織布体などの様々な形態が可能である。
【0084】
前記負極活物質層は、負極活物質とともに、選択的に、バインダーおよび導電材を含む。
【0085】
前記負極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入および脱離が可能な化合物が使用可能である。具体的な例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素などの炭素質材料;Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi、In、Mg、Ga、Cd、Si合金、Sn合金、またはAl合金など、リチウムと合金化が可能な金属質化合物;SiOβ(0<β<2)、SnO、バナジウム酸化物、リチウムバナジウム酸化物のように、リチウムをドープおよび脱ドープできる金属酸化物;またはSi‐C複合体またはSn‐C複合体のように、前記金属質化合物と炭素質材料を含む複合物などが挙げられ、これらのうち何れか1つまたは2つ以上の混合物が使用可能である。また、前記負極活物質として、金属リチウム薄膜が用いられてもよい。また、炭素材料としては、低結晶性炭素および高結晶性炭素などの何れが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン(soft carbon)およびハードカーボン(hard carbon)が代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状、または繊維状の天然黒鉛または人造黒鉛、キッシュ黒鉛(Kish graphite)、熱分解炭素(pyrolytic carbon)、メソフェーズピッチ系炭素繊維(mesophase pitch based carbon fiber)、メソカーボンマイクロビーズ(meso‐carbon microbeads)、メソフェーズピッチ(Mesophase pitches)、および石油と石炭系コークス(petroleum or coal tar pitch derived cokes)などの高温焼成炭素が代表的である。
【0086】
また、前記バインダーおよび導電材は、上述の正極についての説明と同様である。
【0087】
前記負極活物質層は、一例として、負極集電体上に、負極活物質、および選択的にバインダーおよび導電材を溶媒中に溶解または分散させて製造した負極活物質層形成用組成物を塗布して乾燥するか、または前記負極活物質層形成用組成物を別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで製造されてもよい。
【0088】
一方、前記リチウム二次電池において、セパレータは、負極と正極を分離し、且つリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、リチウム二次電池でセパレータとして通常用いられるものであれば特に制限されずに使用可能であり、特に、電解質のイオン移動に対する抵抗が低く、且つ電解液含浸能に優れたものが好適である。具体的には、多孔性高分子フィルム、例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、およびエチレン/メタクリレート共重合体などのようなポリオレフィン系高分子で製造した多孔性高分子フィルム、またはこれらの2層以上の積層構造体が使用可能である。また、通常の多孔性不織布、例えば、高融点のガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維などからなる不織布が用いられてもよい。また、耐熱性または機械的強度を確保するために、セラミック成分または高分子物質がコーティングされたセパレータが用いられてもよく、選択的に、単層または多層構造として用いられてもよい。
【0089】
また、本発明で用いられる電解質としては、リチウム二次電池の製造時に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質、固体高分子電解質、ゲル型高分子電解質、固体無機電解質、溶融型無機電解質などが挙げられ、これらに限定されるものではない。
【0090】
具体的に、前記電解質は、有機溶媒およびリチウム塩を含んでもよい。
【0091】
前記有機溶媒としては、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たすことができるものであれば特に制限されずに用いられてもよい。具体的に、前記有機溶媒としては、メチルアセテート(methyl acetate)、エチルアセテート(ethyl acetate)、γ‐ブチロラクトン(γ‐butyrolactone)、ε‐カプロラクトン(ε‐caprolactone)などのエステル系溶媒;ジブチルエーテル(dibutyl ether)またはテトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)などのエーテル系溶媒;シクロヘキサノン(cyclohexanone)などのケトン系溶媒;ベンゼン(benzene)、フルオロベンゼン(fluorobenzene)などの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(dimethylcarbonate、DMC)、ジエチルカーボネート(diethylcarbonate、DEC)、メチルエチルカーボネート(methylethylcarbonate、MEC)、エチルメチルカーボネート(ethylmethylcarbonate、EMC)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate、EC)、プロピレンカーボネート(propylene carbonate、PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R‐CN(Rは、炭素数2〜20の直鎖状、分岐状、または環構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環またはエーテル結合を含んでもよい)などのニトリル類;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;1,3‐ジオキソランなどのジオキソラン類;またはスルホラン(sulfolane)類などが用いられてもよい。中でも、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充放電性能を高めることができる高いイオン伝導度および高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートまたはプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなど)との混合物がより好ましい。この際、環状カーボネートと直鎖状カーボネートは、約1:1〜約1:9の体積比で混合して用いることが、電解液の性能に優れてよい。
【0092】
前記リチウム塩としては、リチウム二次電池で用いられるリチウムイオンを提供できる化合物であれば特に制限されずに使用可能である。具体的に、前記リチウム塩としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAl0、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiI、またはLiB(Cなどが用いられてもよい。前記リチウム塩の濃度は、0.1〜2.0Mの範囲内で用いることが好ましい。リチウム塩の濃度が前記範囲内である場合、電解質が適切な伝導度および粘度を有するため、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動することができる。
【0093】
前記電解質には、上記の電解質の構成成分の他にも、電池の寿命特性の向上、電池容量減少の抑制、電池の放電容量の向上などを目的として、例えば、ジフルオロエチレンカーボネートなどのようなハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n‐グライム(glyme)、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N‐置換オキサゾリジノン、N,N‐置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2‐メトキシエタノール、または三塩化アルミニウムなどの添加剤が1種以上さらに含まれてもよい。この際、前記添加剤は、電解質の総重量に対して0.1〜5重量%で含まれてもよい。
【0094】
上記のように、本発明による正極活物質を含むリチウム二次電池は、優れた放電容量、出力特性、および容量維持率を安定して示すため、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラなどの携帯用機器、およびハイブリッド電気自動車(hybrid electric vehicle,HEV)などの電気自動車分野などに有用である。
【0095】
これにより、本発明の他の態様によると、前記リチウム二次電池を単位セルとして含む電池モジュール、およびそれを含む電池パックが提供される。
【0096】
前記電池モジュールまたは電池パックは、パワーツール(Power Tool);電気自動車(Electric Vehicle、EV)、ハイブリッド電気自動車、およびプラグインハイブリッド電気自動車(Plug‐in Hybrid Electric Vehicle、PHEV)を含む電気車;または電力貯蔵用システムの何れか1つ以上の中大型デバイスの電源として利用されることができる。
【0097】
本発明のリチウム二次電池の外形は特に制限されないが、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形、またはコイン(coin)形などが可能である。
【0098】
本発明によるリチウム二次電池は、小型デバイスの電源として用いられる電池セルに使用可能であるだけでなく、多数の電池セルを含む中大型電池モジュールにおける単位電池としても好適に使用可能である。
【0099】
以下、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が容易に実施できるように、本発明の実施例について詳細に説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
【0100】
[実施例1]
60℃と設定された5Lのバッチ(batch)式反応器にて、NiSO、CoSO、MnSO、AlSO、およびNaWOを、ニッケル:コバルト:マンガン:アルミニウム:タングステンのモル比が85.857:9.995:1.999:1.999:0.15のモル比となるようにする量で水中で混合し、濃度2Mの金属溶液を準備した。
【0101】
共沈反応器(容量5L)に脱イオン水1リットルを入れた後、窒素ガスを反応器に2リットル/分の速度でパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気とした。その後、濃度25重量%のNaOH水溶液10mlを投入した後、60℃の温度で1200rpmの撹拌速度で撹拌しながら、pH12.0が維持されるようにした。
【0102】
次に、前記金属溶液を300ml/min、NaOH水溶液を300ml/min、NHOH水溶液を60ml/minの速度でそれぞれ投入しながら共沈反応を12時間行うことで、正極活物質前駆体Ni0.85857Co0.09995Mn0.019990.0015Al0.01999(OH)を製造した。
【0103】
前記正極活物質前駆体に水酸化リチウム(LiOH)を1:1.02のモル比で混合した後、800℃で10時間程度焼成することで、リチウム複合遷移金属酸化物Li(Ni0.85857Co0.09995Mn0.019990.0015Al0.01999)Oを製造した。
【0104】
前記リチウム複合遷移金属酸化物300gを純水300mLに入れ、30分間撹拌してから水洗し、20分間フィルタリングを行った。フィルタリングされたリチウム複合遷移金属酸化物を真空オーブンにて130℃で乾燥させることで、正極活物質を製造した。
【0105】
[実施例2]
850℃で焼成を行ったことを除き、実施例1と同様に行って正極活物質を製造した。
【0106】
[比較例1]
60℃と設定された5Lのバッチ(batch)式反応器にて、NiSO、CoSO、MnSO、およびAlSOをニッケル:コバルト:マンガン:アルミニウムのモル比が86:10:2:2のモル比となるようにする量で水中で混合し、濃度2Mの金属溶液を準備した。
【0107】
共沈反応器(容量5L)に脱イオン水1リットルを入れた後、窒素ガスを反応器に2リットル/分の速度でパージして水中の溶存酸素を除去し、反応器内を非酸化雰囲気とした。その後、濃度25重量%のNaOH水溶液10mlを投入した後、60℃の温度で1200rpmの撹拌速度で撹拌しながら、pH12.0が維持されるようにした。
【0108】
次に、前記金属溶液を300ml/min、NaOH水溶液を300ml/min、NHOH水溶液を60ml/minの速度でそれぞれ投入しながら共沈反応を12時間行うことで、正極活物質前駆体Ni0.86Co0.1Mn0.02Al0.02(OH)を製造した。
【0109】
前記正極活物質前駆体に水酸化リチウム(LiOH)を1:1.02のモル比で混合した後、800℃で10時間程度焼成することで、リチウム複合遷移金属酸化物Li(Ni0.86Co0.1Mn0.02Al0.02)Oを製造した。
【0110】
前記リチウム複合遷移金属酸化物300gを純水300mLに入れ、30分間撹拌してから水洗し、20分間フィルタリングを行った。フィルタリングされたリチウム複合遷移金属酸化物を真空オーブンにて130℃で乾燥させることで、正極活物質を製造した。
【0111】
[比較例2]
リチウム複合遷移金属酸化物Li(Ni0.85857Co0.09995Mn0.019990.0015l0.01999)Oを製造し、水洗を行わなかったことを除き、実施例1と同様に行って正極活物質を製造した。
【0112】
[比較例3]
正極活物質前駆体Ni0.86Co0.1Mn0.02Al0.02(OH)と水酸化リチウム(LiOH)を1:1.02のモル比で混合し、NaWOをW含量基準で0.05モル比で混合した後、890℃で15時間程度焼成することで、正極活物質を製造した。
【0113】
[実験例1:タングステンのドープ、リチウムタングステン酸化物の残留量、結晶サイズおよび粒径の測定]
実施例1、2および比較例1〜3で製造された正極活物質のタングステンドープ有無を確認するために、ICP分析実験を行った。正極活物質中にドープされたWは、ICP分析によりその濃度を測定することができる。
【0114】
実施例1、2および比較例1〜3で製造された正極活物質試料をバイアルに約0.05gとなるように分取し、その重量を正確に測定した後、塩酸2mL、過酸化水素0.5mLを加え、130℃で4時間加熱して試料を完全に溶解させた。試料が十分に溶解されると、Internal STD(Sc)0.1mLを添加し、超純水で10mLとなるように希釈した。次に、ICP‐OES(Perkin Elmer、OPTIMA 7300DV)を用いてICP分析により測定された値を下記表1に示した。
【0115】
また、実施例1、2および比較例1〜3で製造された正極活物質のリチウムタングステン酸化物(LiWO)残留量を測定して下記表1に示した。
【0116】
また、実施例1、2および比較例1〜3で製造された正極活物質の結晶サイズおよび粒径を測定するために、XRDおよびレーザー回折粒度測定装置(Malvern社、Mastersizer 3000)を用いて結晶サイズ(c)および粒径(d)をそれぞれ測定し、その結果を表1に示した。
【0117】
【表1】
【0118】
前記表1から分かるように、実施例1および2は、結晶構造中のニッケル(Ni)サイトに2,000ppm以上のタングステン(W)が置換されていることを確認することができ、正極活物質前駆体とリチウム原料物質を混合してから焼成する時に、ドープ物質としてタングステン(W)原料物質を追加した比較例3は、タングステン(W)が結晶構造中のニッケル(Ni)サイトに置換されたのではなく、結晶構造外の表面側にドープされていることが分かる。
【0119】
また、水洗を行った実施例1および2の正極活物質は、水溶性Wであるリチウムタングステン酸化物(LiWO)が殆ど除去され、残留量が著しく減少していたが、焼成後に水洗を行わなかった比較例2および3は、残留リチウムタングステン酸化物(LiWO)の含量が非常に多かった。
【0120】
また、実施例1および2の正極活物質は、結晶サイズが200nm以下であるのに対し、比較例1および3は、結晶サイズが200nmを超えて著しく増加し、d/1,000cが0.05未満であった。
【0121】
[実験例2:電池性能の評価]
実施例1、2および比較例1〜3で製造されたそれぞれの正極活物質、カーボンブラック導電材、およびPVdFバインダーをN‐メチルピロリドン溶媒中で95:2.5:2.5の割合(重量比)で混合して正極合剤(粘度:5000mPa・s)を製造し、それをアルミニウム集電体の一面に塗布した後、130℃で乾燥後、圧延して正極を製造した。
【0122】
また、負極活物質として天然黒鉛、カーボンブラック導電材、およびPVdFバインダーをN‐メチルピロリドン溶媒中で85:10:5の割合(重量比)で混合して負極活物質層形成用組成物を製造し、それを銅集電体の一面に塗布して負極を製造した。
【0123】
上記のように製造された正極と負極との間に多孔性ポリエチレンのセパレータを介在させて電極組立体を製造し、前記電極組立体をケースの内部に位置させた後、ケースの内部に電解液を注入することで、リチウム二次電池を製造した。この際、電解液は、エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチルメチルカーボネート(EC/DMC/EMCの混合体積比=3/4/3)からなる有機溶媒に、濃度1.0Mのリチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF)を溶解させて製造した。
【0124】
上記のように製造されたリチウム二次電池の放電容量を下記表2に示した。
【0125】
【表2】
【0126】
前記表2から分かるように、実施例1および2で製造された正極活物質が、比較例1〜3に比べて優れた容量特性を示した。
【0127】
また、実施例2および比較例1の正極活物質で製造されたリチウム二次電池に対して、25℃で、充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.5V、0.2C/0.2Cの条件で、2Cプロファイルを測定し、測定結果を図1に示した。
【0128】
図1を参照すると、実施例2の正極活物質で製造されたリチウム二次電池は、タングステン(W)がドープされていない比較例1の正極活物質で製造されたリチウム二次電池に比べて、2C放電末端プロファイル抵抗が改善されていることを確認することができる。
【0129】
また、実施例2および比較例1の正極活物質で製造されたリチウム二次電池に対して、45℃で、充電終止電圧4.25V、放電終止電圧2.5V、0.3Cの条件で、充放電を30サイクル行いながら抵抗増加率(DCIR[%])を測定し、測定結果を図2に示した。
【0130】
図2を参照すると、実施例2の正極活物質で製造されたリチウム二次電池は、タングステン(W)がドープされていない比較例1の正極活物質で製造されたリチウム二次電池に比べて、30サイクル充放電時の抵抗増加率が著しく低いことを確認することができる。
図1
図2