特許第6786582号(P6786582)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人佐賀大学の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786582
(24)【登録日】2020年10月30日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】化合物及び発光材料
(51)【国際特許分類】
   C07C 211/04 20060101AFI20201109BHJP
   C09K 11/66 20060101ALI20201109BHJP
   C07C 211/63 20060101ALN20201109BHJP
   C07F 7/24 20060101ALN20201109BHJP
   C07F 3/00 20060101ALN20201109BHJP
   C07F 19/00 20060101ALN20201109BHJP
【FI】
   C07C211/04CSP
   C09K11/66
   !C07C211/63
   !C07F7/24
   !C07F3/00 B
   !C07F19/00
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-500238(P2018-500238)
(86)(22)【出願日】2017年2月17日
(86)【国際出願番号】JP2017006002
(87)【国際公開番号】WO2017142089
(87)【国際公開日】20170824
【審査請求日】2019年11月22日
(31)【優先権主張番号】特願2016-30201(P2016-30201)
(32)【優先日】2016年2月19日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-126043(P2016-126043)
(32)【優先日】2016年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(72)【発明者】
【氏名】内藤 翔太
(72)【発明者】
【氏名】江良 正直
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−078392(JP,A)
【文献】 Journal of Physical Chemistry Letters,2014年,5,1421-1426
【文献】 Journal of Physical Chemistry Letters,2014年,5,2501-2505
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C,C09K
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A、B、X、及びMを成分とし、Mの量をM及びBの合計量で除したモル比[M/(M+B)]の値が0より大きく0.7以下であり、前記Aが有機アンモニウムイオンである、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物。
(Aは、前記ペロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする6面体の各頂点に位置する1価の陽イオンである。
Bは、Pbイオンである。
Mは、2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンであり、Mの少なくとも一部は、前記ペロブスカイト型結晶構造においてBの一部を置換する。
Xは、前記ペロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする8面体の各頂点に位置する成分を表し、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンであり、前記Xとして少なくとも塩化物イオン又は臭化物イオンを含む。)
【請求項2】
下記一般式(1)で表される、請求項1に記載の化合物。
AB(1−a)(3+δ) (0<a≦0.7,0≦δ≦0.7) …(1)
(A、B、M、及びXは、前述と同じ意味を表す。)
【請求項3】
前記Mがアルカリ土類金属のイオンである請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
前記Mがカルシウムイオンである請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載の化合物を含む発光材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物及び発光材料に関する。
本願は、2016年2月19日に日本に出願された特願2016−30201号及び2016年6月24日に日本に出願された特願2016−126043号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来から有機物の陽イオン(A)、ハロゲン化物イオン(X)、及び2価の金属イオン(M)からなる有機−無機ペロブスカイトAMX3化合物が知られている。近年、金属イオンの位置(M)にIV族元素(Ge、Sn、及びPb)のイオンを有するペロブスカイト構造を有する化合物の導電性及び発光特性に対する関心が高まっている。
【0003】
特に前記2価の金属イオンがPb(II)の場合、紫外域から赤色のスペクトル領域の範囲で、室温での強い発光現象が観察されている(非特許文献1)。またハロゲン化物イオン(X)の種類により、発光波長を調整することも可能になっている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M.Era, A.Shimizu and M.Nagano, Rep.Prog.Polym.Phys.Jpn., 42,473-474(1999)
【非特許文献2】L. Protesescu, S. Yakunin, M.I.Bodnarchuk, F. Krieg, R. Caputo,C. H. Hendon, R. X. Yang, A. Walsh, and M. V. Kovalenko, Nano Letter. 15, 3692-3696 (2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記非特許文献1又は2に記載のようなペロブスカイト構造を有する化合物を発光材料として産業応用するにあたり、前記化合物のさらなる発光強度の向上が求められている。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、発光材料として用いた場合に高い発光強度を持つペロブスカイト構造を有する化合物及び前記化合物を含む発光材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下の本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の実施態様は、下記[1]〜[6]の発明を包含する。
[1]A、B、X、及びMを成分とし、Mの量をM及びBの合計量で除したモル比[M/(M+B)]の値が0.7以下である、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物。
(Aは、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする6面体の各頂点に位置する1価の陽イオンである。
Bは、鉛イオンである。
Mは、2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンであり、Mの少なくとも一部は、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBの一部を置換する。
Xは、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする8面体の各頂点に位置する成分を表し、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンであり、前記Xとして少なくとも塩化物イオン又は臭化物イオンを含む。)
[2]下記一般式(1)で表される、[1]に記載の化合物。
AB(1−a)(3+δ) (0<a≦0.7,0≦δ≦0.7) …(1)
(A、B、M、及びXは、前述と同じ意味を表す。)
[3]前記Mがアルカリ土類金属のイオンである[1]又は[2]に記載の化合物。
[4]前記Mがカルシウムイオンである[3]に記載の化合物。
[5]前記Aが有機アンモニウムイオンである[1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物。
[6][1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物を含む発光材料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、発光強度が高いペロブスカイト構造を有する化合物及び前記化合物を含む発光材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を示して本発明を詳細に説明する。
<化合物>
≪第1実施形態≫
本実施形態の化合物の第1実施形態は、A、B、X、及びMを成分とし、Mの量をM及びBの合計量で除したモル比[M/(M+B)]の値が0.7以下である、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物である。
本実施形態において、Aは、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする6面体の各頂点に位置する1価の陽イオンである。
Bは、Pbイオンである。
Mは、2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンであり、Mの少なくとも一部は、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBの一部を置換する。
Xは、前記ぺロブスカイト型結晶構造においてBを中心とする8面体の各頂点に位置する成分を表し、塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンである。但し、Xとして、少なくとも塩化物イオン又は臭化物イオンを含む。なお、ここで1Å=0.1nm(以下同じ)とした場合、Mの6配位でのイオン半径は0.09nm以上0.15以下である。
【0010】
通常、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物の基本構造は、3次元構造又は2次元構造である。
前記基本構造が3次元構造の場合は、A’B’X’で表される。ここで、A’は有機カチオン又は無機カチオンを表し、B’は金属カチオンを表し、X’はハロゲン化物イオン又はチオシアン酸イオンを表す。
前記基本構造が2次元構造の場合は、A’B’X’で表される。ここで、A’、B’及びX’は、前述と同じ意味を表す。
前記基本構造が上記3次元構造又は2次元構造の場合、B’を中心とし、頂点をX’とする、B’X’で表される頂点共有八面体の三次元ネットワークを有する。
B’は、X’の八面体配位をとることができる金属カチオンである。
A’は、B’を中心とする六面体の各頂点に位置する。
【0011】
本実施形態において、A、B、X、及びMを成分とするペロブスカイト型結晶構造を有する化合物としては、特に限定されず、前記基本構造が3次元構造、2次元構造、疑似2次元構造のいずれの構造を有する化合物であってもよい。
前記基本構造が3次元構造の場合には、ペロブスカイト型結晶構造は、AB(1−a)(3+δ)で表される。
前記基本構造が2次元構造の場合には、ペロブスカイト型結晶構造は、A(1−a)(4+δ)で表される。
ここで、前記aは、前述のモル比[M/(M+B)]を表す。
前記δは、B及びMの電荷バランスに応じて適宜変更が可能な数であるが、好ましくは0以上0.7以下である。例えば、Aが1価の陽イオン、Bが2価の陰イオン(Pbイオン)、Mが2価又は3価の陰イオン(金属イオン)、及びXが1価の陰イオン(塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオン)である場合、前記化合物が中性(電荷が0)となるようにδを選択することができる。
【0012】
本実施形態では、ぺロブスカイト型結晶構造を有する化合物において、B’成分の金属カチオンをPbイオン(B成分)とし、複数あるPbイオン(B成分)の一部をM成分として、2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンで置換することにより、前記化合物の発光強度を向上させることができることを見出した。
本実施形態に係るペロブスカイト型結晶構造を有する化合物におけるMの少なくとも一部は、Bで表される鉛イオンの一部を置換する成分を意味する。
本実施形態の化合物は、Mは、前述の基本構造において、B成分(鉛イオン)が存在する位置に存在していてもよいし、A成分が存在する位置に存在してもよいし、基本構造を構成する骨格の格子間隙に存在していてもよい。
本実施形態における、A、B、X、及びMを成分とするペロブスカイト型の結晶構造を有する化合物については後述する。
【0013】
本実施形態では、ペロブスカイト型結晶構造とは、例えば、化合物をX線回折(XRD、Cu Kα線、X’pert PRO MPD, スペクトリス社製)の手段で計測したとき、
3次元構造のペロブスカイト化合物:AB(1−a)(3+δ)の場合、通常、2θ=12〜18°の位置に、(hkl)=(001)のピークが、または、2θ=18〜25°の位置に、(hkl)=(100)由来のピークが存在する化合物であり、好ましくは、2θ=13〜16°の位置に、(hkl)=(001)のピークが、または、2θ=20〜23°の位置に、(hkl)=(100)由来のピークが存在する化合物であり、
2次元構造のペロブスカイト化合物:A(1−a)(4+δ)の場合、通常、2θ=1〜10°の位置に、(hkl)=(002)由来のピークが存在する化合物であり、好ましくは、2θ=2〜8°の位置に、(hkl)=(002)由来のピークが存在する化合物である。
【0014】
≪第2実施形態≫
本実施形態の化合物は、Aは1価の陽イオンであり、Mは2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンであり、Xは塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンである(但し、Xは、少なくとも塩化物イオン又は臭化物イオンを含む。)、下記一般式(1)で表されるペロブスカイト構造を有する。
APb(1−a)(3+δ) (0<a≦0.7,0≦δ≦0.7) …(1)
例えば、Aが1価の陽イオン、Bが2価の陰イオン(Pbイオン)、Mが2価又は3価の陰イオン(金属イオン)、及びXが1価の陰イオン(塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオン)である場合、前記化合物が中性(電荷が0)となるようにδを選択することができる。
【0015】
一般的にペロブスカイト構造の基本的構造形態はA’B’X’構造である。
ここで、本実施形態では、ペロブスカイトの基本的構造形態は、A’B’X’構造であり、頂点共有B’X’八面体の3次元ネットワークを有する。A’B’X’構造のB’成分は、X’アニオンの八面体配位をとることができる金属カチオンである。A’カチオンは、B’原子を中心とする六面体の各頂点に位置し、本実施形態では有機カチオン又は無機カチオンである。A’B’X’構造のX’成分は、本実施形態では通常、ハロゲン化物イオンである。
【0016】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記ペロブスカイト構造を有する化合物の基本構造において、B成分の金属カチオンを鉛とし、複数ある鉛イオンの一部を他の原子で置換することにより、前記化合物の発光強度を向上させることができることを見出した。
本実施形態において、一般式(1)で表されるペロブスカイト構造を有する化合物(以下、「化合物(1)」と記載することがある。)は、A、Pb(鉛)、M及びXを主成分とする。
ここで、Mは金属カチオンであるPbイオンの一部を置換する原子を意味する。尚、Mは前記基本構造でB成分(鉛イオン)が存在する位置を置換してもよいし、A成分が存在する位置を置換してもよいし、前記基本構造を構成する骨格の格子間隙に存在してもよい。
以下、本実施形態における、A、B、X、及びMを成分とするペロブスカイト型の結晶構造を有する化合物について説明する。
【0017】
〔A〕
前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物中、Aは1価の陽イオンである。化合物中、Aはセシウムイオン又は有機アンモニウムイオンが好ましい。
【0018】
Aの有機アンモニウムイオンとして具体的には、下記一般式(A1)で表される陽イオンが挙げられる。
【0019】
【化1】
【0020】
一般式(A1)中、R〜Rは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基であって、各アルキル基を構成する水素原子の1つはアミノ基で置換されていてもよい。
〜Rのアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基がさらに好ましい。アルキル基の数及びアルキル基の炭素数を小さくすることにより、発光特性を有する3次元ペロブスカイト構造を得ることができる。また、R〜Rのアルキル基の炭素数の合計数は1〜4であることが好ましく、R〜Rのうち、Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、R〜Rが水素原子であることが特に好ましい。
【0021】
さらに具体的には、Aは、CHNH、CNH又はCNHであることが好ましく、CHNH又はCNHであることがより好ましく、CHNH(メチルアンモニウムイオン)であることが最も好ましい。
【0022】
〔B〕
本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物においては、B成分は結晶構造の中心となる金属カチオンである。本実施形態においては、B成分はPb(鉛)とする。本実施形態におけるPbイオンは、2価のPbイオンである。
本実施形態では、化合物を構成する複数の結晶構造に含まれるB成分(Pbイオン)の一部を他の原子で置換することにより、本実施形態の化合物の発光強度を向上させることができる。
【0023】
〔M〕
前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物中、Mの少なくとも一部は、金属カチオンであるPbイオンの一部を置換する。
より詳細には、Mは2価又は3価の金属イオンであって、且つ6配位でのイオン半径が0.9Å以上1.5Å以下の金属イオンから選択される陽イオンである。
Mで表される金属イオンのイオン半径は、0.95Å以上1.4Å以下が好ましく、0.95Å以上1.3Å以下がより好ましい。
【0024】
前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物のペロブスカイト結晶構造を維持させ、十分な発光強度を得る観点から、Mとしては、例えば、バリウムイオン(6配位でのイオン半径;1.35Å)、カルシウムイオン(6配位でのイオン半径;1.00Å)、セリウムイオン(6配位でのイオン半径;1.01Å)、ジスプロシウムイオン(6配位でのイオン半径;1.07Å)、ランタンイオン(6配位でのイオン半径;1.03Å)、サマリウムイオン(6配位でのイオン半径;1.19Å)、ストロンチウムイオン(6配位でのイオン半径;1.18Å)、又はイッテルビウムイオン(6配位でのイオン半径;1.02Å)等の元素の陽イオンが挙げられる。なかでも、Mはアルカリ土類金属のイオンであることが好ましく、カルシウムイオンであることがより好ましい。
【0025】
〔a〕
ペロブスカイト化合物の結晶構造を維持させ、十分な発光強度を得る観点から、前記MのPbに対する置換量は、a、M及びPbのモル比をa=M/(Pb+M)で表したときに、aは0より大きく0.7以下である。aは、0.01以上0.7以下であることが好ましく、0.02以上0.6以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態において、aの値は、下記{aの算出方法}に記載の、合成後の化合物をICP−MSを用いて測定した値から算出した値である。
【0027】
{aの測定方法}
本実施形態に係る化合物中において、前記a、即ち前記モル比[M/(M+B)]の値は、ICP−MS(ELAN DRCII、パーキンエルマー製)を用いて測定することができる。前記モル比の測定は、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を硝酸等を用いて溶解した後に測定を行う。
具体的には、モル比[M/(M+B)]の値は、下記式(T)に従って算出した値とする。下記式(T)中、Mmolは、ICP−MSで測定したMのモル数であり、Pbmolは、ICP−MSで測定したPbのモル数を示す。
[M/(M+B)]=(Mmol)/(Mmol+Pbmol) …(T)
【0028】
本実施形態においては、合成後の化合物中のMのPbに対する置換量をより正確に算出できる観点から、前記{aの算出方法}により算出した値を「a」とすることが好ましい。
なお、簡易的には、aの値は、本実施形態の化合物を合成する際に前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物におけるaが所望の値になるように調整した仕込み比の値から算出することもできる。
【0029】
〔X〕
Xは塩化物イオン、臭化物イオン、フッ化物イオン、ヨウ化物イオン及びチオシアン酸イオンからなる群より選ばれる1種以上のイオンである。但し、Xは、少なくとも塩化物イオン又は臭化物イオンを含む。
Xのうち、塩化物イオン又は臭化物イオンの量は、X中のモル%で表した場合、10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。上限の値は特に限定されないが、100%以下であれば任意に選択することができる。
なかでも、Xは臭化物イオンを含むことが好ましい。Xが2種以上の陰イオンである場合、陰イオンの含有比率は、発光波長により適宜選ぶことができる。
【0030】
Xとして2種以上のイオンを選択する場合には、臭化物イオンと塩化物イオンとの組み合わせ、又は、臭化物イオンとヨウ化物イオンとの組み合わせが好ましい。
【0031】
前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物の具体例としては、CHNHPb(1−a)CaBr(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、CHNHPb(1−a)SrBr(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、CHNHPb(1−a)LaBr(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、CHNHPb(1−a)BaBr(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、CHNHPb(1−a)DyBr(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、CHNHPb(1−a)Ca (BrCl)(3+δ)(0<a≦0.7,0≦δ≦0.7)、又はCHNHPb(1−a)Ca (BrI)(3+δ)(0<a≦0.7,0
≦δ≦0.7)、等が好ましいものとして挙げられる。
【0032】
本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物は、溶液を用いた自己組織化反応によって合成することができる。
たとえば、Pb及び上述のXを含む化合物と、上述のM及び上述のXを含む化合物と、上述のA及び上述のXを含む化合物とを溶媒に溶解させた溶液を塗布し、溶媒を除去することにより、本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物を合成することができる。
その他の方法としては、Pb及び上述のXを含む化合物と、上述のM及び上述のXを含む化合物とを溶媒に溶解させた溶液を塗布し、溶媒を除去することで塗布膜を形成する。ついで、上述のA及び上述のXを含む化合物を溶媒に溶解させた溶液を上記塗布膜上に塗布し、溶媒を除去することにより、本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物を合成することができる。
合成する際、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物におけるaとδが所望の値になるように、上記配合する化合物の種類とその量を調整すればよい。
【0033】
≪発光スペクトル≫
本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物は、可視光波長領域に蛍光を発する発光体であり、Xが臭化物イオンの場合は、通常480nm以上、好ましくは500nm以上、より好ましくは520nm以上の波長範囲の蛍光を発するものである。また、通常700nm以下、好ましくは600nm以下、より好ましくは580nm以下の波長範囲の蛍光を発するものである。
上記の上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
【0034】
本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物の最大発光強度は、蛍光光度計を用いて測定した可視光波長領域の最大強度と、紫外可視吸光光度計を用いて測定した励起光の透過率から求めることができる。
蛍光光度計としては、例えば、日本分光製の蛍光光度計(FT−6500)を用いることができる。紫外可視吸光光度計としては、例えば、日本分光製の紫外可視吸光光度計(商品名:V−670)を用いることができる。
本実施形態において前記化合物の最大発光強度は、下記式(S)に従って補正した値とする。下記式(S)中、Pmaxは、可視光波長領域の最大強度であり、Epは、励起光の透過率(%)を示す。
Pmax/(100−Ep) ×100 …(S)
【0035】
<発光材料>
本実施形態は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物を含む発光材料を提供する。
前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物を用いた発光材料は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物以外の成分を有していてもよい。例えば、若干の不純物や、ペロブスカイト構造を有さない化合物であって、上述した前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物と同様又は類似した組成を有する化合物をさらに含んでいてもよい。
ペロブスカイト構造を有する化合物を含む発光材料の形態は特に限定されるものではなく、用途に応じて適宜決定することができる。前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物を膜状にした被膜でもよく、粉末状にし、基材に吸着させた吸着体でもよい。
【0036】
本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物の被膜あるいは吸着体は、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物を有機溶媒に溶解した後、グラビア塗布法、バー塗布法、印刷法、スプレー法、スピンコーティング法、ディップ法、又はダイコート法等の塗布方法によって形成できる。
【0037】
有機溶媒は、上述のA、Pb、M、X、及びその他の溶解前の成分を溶解してイオンとし得るものであれば特に限定されるものではない。有機溶媒は、各種有機化合物及び分岐構造若しくは環状構造を有していてもよく、−O−、−CO−、−COO−、又は、−OH等の官能基を複数有していてもよく、水素原子がフッ素等のハロゲン原子で置換されていてもよい。有機溶媒としては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、若しくはペンチルアセテート等のエステル類;γ−ブチロラクトン、N‐メチル−2−ピロリドン、アセトン、ジメチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、若しくはメチルシクロヘキサノン等のケトン類;ジエチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、若しくはフェネトール等のエーテル類;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、メトキシプロパノール、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、若しくは2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、若しくはトリエチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、若しくはN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系有機溶媒;アセトニトリル、イソブチロニトリル、プロピオニトリル、若しくはメトキシアセトニトリル等のニトリル系有機溶媒;エチレンカーボネート、若しくはプロピレンカーボネート等のカーボート系有機溶媒;塩化メチレン、ジクロロメタン、若しくはクロロホルム等のハロゲン化炭化水素系有機溶媒;n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、若しくはキシレン等の炭化水素系有機溶媒;又は、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0038】
また、前記第1実施形態及び前記第2実施形態の化合物を上記有機溶媒に溶解した溶液を塗布した後、必要に応じて減圧、乾燥及び送風のいずれか1以上を行い、有機溶媒を揮発させることが好ましい。乾燥は常温下で行ってもよく、加熱して行ってもよい。加熱する場合の温度は、乾燥にかかる時間と基板の耐熱性とを考慮して適宜決定することができるが、50〜200℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0039】
なお、本実施形態の技術範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、本実施形態の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施態様をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0041】
(ペロブスカイト構造を有する化合物の合成)
[実施例1]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化カルシウム(CaBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化カルシウム溶液を作製した。次いで、70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化カルシウム溶液をモル比でCa/(Ca+Pb)が0.03となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(Ca+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
前記塗布膜の化合物を、X線回折(XRD、Cu Kα線、X’pert PRO MPD, スペクトリス社製)の手段で測定することにより、2θ=14°の位置に(hkl)=(001)由来のピークを有しており、3次元のペロブスカイト構造であることを確認した。
【0042】
[実施例2]
Ca/(Ca+Pb)を0.05とする以外は上記実施例1と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0043】
[実施例3]
Ca/(Ca+Pb)を0.1とする以外は上記実施例1と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0044】
[実施例4]
Ca/(Ca+Pb)を0.2とする以外は上記実施例1と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0045】
[比較例1]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。次いで、モル比で臭化メチルアンモニウム/Pb=1となるように溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0046】
[比較例2]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃でヨウ化鉛(PbI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化鉛溶液を作製した。70℃でヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化メチルアンモニウム溶液を作製した。次いで、モル比でヨウ化メチルアンモニウム/Pb=1となるように溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0047】
[比較例3]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃でヨウ化鉛(PbI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化鉛溶液を作製した。同様に、70℃でヨウ化カルシウム(CaI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化カルシウム溶液を作製した。
上記のヨウ化鉛溶液とヨウ化カルシウム溶液をモル比でCa/(Ca+Pb)が0.05となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、[実施例1]に記載の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(Ca+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0048】
(発光スペクトル測定)
実施例1〜4及び比較例1で得られたペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜の発光スペクトルを、蛍光光度計(日本分光製、商品名FT−6500、430nm以下波長カットフィルター、励起光430nm、感度high)を用いて測定した。また、前記塗布膜の紫外可視吸光光度計を用いて透過率(%)を測定した。紫外可視吸光光度計としては、日本分光製、商品名V−670を用いた(以下も同機器を用いた)。
尚、前記塗布膜間の発光強度の比較は、波長530nm付近の最大発光強度を、以下の式(S)−1で補正して行った。
[波長530nm付近の最大発光強度/(100−波長430nmの透過率)]×100 … (S)−1
【0049】
(発光スペクトル測定)
比較例2、及び3で得られたペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜の発光スペクトルを、蛍光光度計(日本分光製、商品名FT−6500、600nm以下波長カットフィルター、励起光550nm、感度high)を用いて測定した。また、前記塗布膜の紫外可視吸光光度計を用いて透過率を測定した。
尚、前記塗布膜間の発光強度の比較は、波長750nm付近の最大発光強度を、以下の式(S)−2で補正して行った。
[波長750nm付近の最大発光強度/(100−波長550nmの透過率)]×100 … (S)−2
【0050】
以下の表1に、実施例1〜4、比較例1〜3のペロブスカイト構造を有する化合物の溶液作成における構成と、最大発光強度を記載する。表1中、「M/(M+Pb)」は上記一般式(1)中の「a」の仕込み比における値である。
【0051】
【表1】
【0052】
上記の結果から、本実施形態に係るペロブスカイト構造を有する化合物を含む実施例1〜4の発光材料は、比較例1〜3のペロブスカイト構造を有する化合物と比して、優れた発光強度を有していることが確認できた。
【0053】
(ペロブスカイト構造を有する化合物の合成)
[実施例5]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化ストロンチウム(SrBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化ストロンチウム溶液を作製した。次いで、70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化ストロンチウム溶液をモル比でSr/(Sr+Pb)が0.1となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(Sr+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0054】
[実施例6]
Sr/(Sr+Pb)を0.2とした以外は上記実施例5と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0055】
[実施例7]
Sr/(Sr+Pb)を0.3とした以外は上記実施例5と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0056】
[実施例8]
Sr/(Sr+Pb)を0.5とした以外は上記実施例5と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0057】
[実施例9]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化ランタン(LaBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化ランタン溶液を作製した。次いで、70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化ストロンチウム溶液をモル比でLa/(La+Pb)が0.05となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(La+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0058】
[実施例10]
La/(La+Pb)を0.1とした以外は実施例9と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0059】
(発光スペクトル測定)
発光強度の比較方法は上記実施例1〜4及び比較例1と同様の方法で行なった。
【0060】
以下の表2に、実施例5〜10及び比較例1のペロブスカイト構造を有する化合物の溶液作成における構成と、最大発光強度を記載する。表2中、「M/(M+Pb)」は上記一般式(1)中の「a」の仕込み比における値である。
【0061】
【表2】
【0062】
上記の結果から、本実施形態に係るペロブスカイト構造を有する化合物を含む実施例5~10の発光材料は、比較例1のペロブスカイト構造を有する化合物と比して、優れた発光強度を有していることが確認できた。
【0063】
≪ICP−MSによる測定≫
実施例5〜8で得られたガラス基板上のペロブスカイト型結晶構造を有する化合物に対して硝酸1mL添加し、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物を溶解させた。溶解後の溶液をイオン交換水で合計10mlとし、ICP−MS(ELAN DRCII、パーキンエルマー製)によってPb、及びMの量を測定し、ペロブスカイト型結晶構造を有する化合物に含まれるMの量を(M)/(M+Pb)の式に当てはめて評価した。
ICP−MSによる測定の結果、実施例5の[M/(M+Pb)]の値が0.10であった。
ICP−MSによる測定の結果、実施例6の[M/(M+Pb)]の値が0.20であった。
ICP−MSによる測定の結果、実施例7の[M/(M+Pb)]の値が0.29であった。
ICP−MSによる測定の結果、実施例8の[M/(M+Pb)]の値が0.51であった。
【0064】
[実施例11]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化バリウム(BaBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化バリウム溶液を作製した。次いで、70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化バリウム溶液をモル比でBa/(Ba+Pb)が0.03となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(Ba+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0065】
[実施例12]
Ba/(Ba+Pb)を0.05とする以外は上記実施例11と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0066】
[実施例13]
Ba/(Ba+Pb)を0.1とする以外は上記実施例11と同様の方法でペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0067】
[実施例14]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化ジスプロシウム(DyBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化ジスプロシウム溶液を作製した。次いで、70℃で臭化メチルアンモニウム(CHNHBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化ジスプロシウム溶液をモル比でDy/(Dy+Pb)が0.1となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の臭化メチルアンモニウム溶液を、モル比で臭化メチルアンモニウム/(Dy+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0068】
[実施例15]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化カルシウム(CaBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化カルシウム溶液を作製した。次いで、70℃で塩化メチルアンモニウム(CHNHCl)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の塩化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化カルシウム溶液をモル比でCa/(Ca+Pb)が0.1となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記の塩化メチルアンモニウム溶液を、モル比で塩化メチルアンモニウム/(Ca+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0069】
[実施例16]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。同様に、70℃で臭化カルシウム(CaBr)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化カルシウム溶液を作製した。次いで、70℃でヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化メチルアンモニウム溶液を作製した。
上記の臭化鉛溶液と臭化カルシウム溶液をモル比でCa/(Ca+Pb)が0.1となるように混合し溶液を作製した。得られた混合溶液と、上記のヨウ化メチルアンモニウム溶液を、モル比でヨウ化メチルアンモニウム/(Ca+Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0070】
[比較例4]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。次いで、70℃で塩化メチルアンモニウム(CHNHCl)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度の塩化メチルアンモニウム溶液を作製した。次いで、モル比で塩化メチルアンモニウム/(Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0071】
[比較例5]
2.5cm×2.5cmサイズのガラス基板を用意した。このガラス基板をオゾンUV処理した。
70℃で臭化鉛(PbBr)をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と記載する)の溶媒に溶解して0.1Mの濃度の臭化鉛溶液を作製した。次いで、70℃でヨウ化メチルアンモニウム(CHNHI)をDMFの溶媒に溶解して0.1Mの濃度のヨウ化メチルアンモニウム溶液を作製した。次いで、モル比でヨウ化メチルアンモニウム/(Pb)=1となるように更に溶液を混合した。
上記のガラス基板に、1000rpmの回転数で前記溶液をスピンコートにより塗布し、大気中100℃で10分間乾燥させることで、ペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜を得た。
【0072】
(発光スペクトル測定)
実施例11〜14で得られたペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜の発光スペクトルを、蛍光光度計(日本分光製、商品名FT−6500、励起光430nm、感度High)を用いて測定した。また、前記塗布膜の紫外可視吸光光度計を用いて透過率(%)を測定した。
尚、前記塗布膜間の発光強度の比較は、波長530nm付近の最大発光強度を、以下の式(S)−3で補正して行った。
[波長530nm付近の最大発光強度/(100−波長430nmの透過率)]×100 … (S)−3
【0073】
(発光スペクトル測定)
実施例15及び比較例4で得られたペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜の発光スペクトルを、蛍光光度計(日本分光製、商品名FT−6500、励起光430nm、感度High)を用いて測定した。また、前記塗布膜の紫外可視吸光光度計を用いて透過率(%)を測定した。
尚、前記塗布膜間の発光強度の比較は、波長500nm付近の最大発光強度を、以下の式(S)−4で補正して行った。
[波長500nm付近の最大発光強度/(100−波長430nmの透過率)]×100 … (S)−4
【0074】
(発光スペクトル測定)
実施例16及び比較例5で得られたペロブスカイト構造を有する化合物の塗布膜の発光スペクトルを、蛍光光度計(日本分光製、商品名FT−6500、励起光430nm、感度High)を用いて測定した。また、前記塗布膜の紫外可視吸光光度計を用いて透過率(%)を測定した。
尚、前記塗布膜間の発光強度の比較は、波長540nm付近の最大発光強度を、以下の式(S)−5で補正して行った。
[波長540nm付近の最大発光強度/(100−波長430nmの透過率)]×100 … (S)−5
【0075】
以下の表3及び表4に、実施例11〜14及び比較例4〜5のペロブスカイト構造を有する化合物の溶液作成における構成と、最大発光強度を記載する。表3及び表4中、「M/(M+Pb)」は上記一般式(1)中の「a」の仕込み比における値である。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
上記結果に示した通り、本実施形態を適用した、2価又は3価の金属イオンとしてバリウムイオンを用いた実施例11〜13、及びジスプロシウムイオンを用いた実施例14は、本実施形態を適用しない比較例1よりも最大発光強度が高かった。
また、Xとして2種のハロゲン化物イオン(Br及びCl)を用い、本実施形態を適用した実施例15は本実施形態を適用しない比較例4よりも最大発光強度が高かった。
同様に、Xとして2種のハロゲン化物イオン(Br及びI)を用い、本実施形態を適用した実施例16は本実施形態を適用しない比較例5よりも最大発光強度が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本実施形態によれば、高い発光強度を有するペロブスカイト構造を有する化合物及び前記化合物を含む発光材料を提供することが可能となる。
したがって、本実施形態のペロブスカイト構造を有する化合物及び前記化合物を用いた発光材料は、発光関連材料分野において好適に使用することができる。