(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Fe基ナノ結晶合金リボンの層状体の最外層の前記Fe基ナノ結晶合金リボンの、外部に露出する面およびその反対側の面におけるグロー放電分析による酸素の発光強度をそれぞれ、O(out)およびO(in)としたとき、O(out)/O(in)>1.0の関係が成立する請求項1または2に記載の磁心。
前記第1熱処理工程の後、前記第2熱処理工程の前に、前記層状体の層方向に対して外力を付与し、次いで解放する弛緩工程をさらに含む、請求項5から7のいずれかに記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限られない。
【0023】
本実施形態の磁心は、Fe基ナノ結晶合金リボンの層状体と、層状体に含漬した樹脂とを備える。磁心は、以下において詳細に説明する工程によって製造されることにより、インピーダンス比透磁率μ
rzの高周波帯域における高温での低下が抑制されている。具体的には、室温から温度160℃まで20分で昇温し、次いで500時間保持した後、室温まで空冷する加熱試験を行ったときに、加熱試験の前後において、周波数100kHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率が5%未満に抑制されている。
【0024】
インピーダンス比透磁率μ
rzの低下率は、加熱試験前(樹脂含浸後で加熱前)の磁心のインピーダンス比透磁率をμ
before、加熱試験した後の磁心のインピーダンス比透磁率をμ
afterとして、(μ
before−μ
after)/μ
before×100(%)の式により算出したものである。
【0025】
図1は、本発明の実施形態の一例である磁心の製造方法における各製造工程を示す。
【0026】
本実施形態では、まず工程S1に示すように、熱処理によりナノ結晶化するFe基アモルファス合金リボンを用意する。次に、工程S2に示すように、前記Fe基アモルファス合金リボンを巻回して環状の巻回体(層状体)を作製する。短冊状に切断された、あるいは円環状に形成された複数のFe基アモルファス合金リボンを積み重ね、層状体を構成してもよい。
【0027】
その後、巻回体に対して、工程S3に示すように、第1熱処理工程(ナノ結晶化のための熱処理)を、酸素濃度を100ppm以下に制御した第1雰囲気中で行う。本熱処理における一定温度範囲内において、熱処理とともに巻回体に対して磁場を印加しても良い(磁場中熱処理)。
【0028】
その後、工程S4に示すように、巻回体に対して外力を付与し、次いで解放する弛緩工程を行うことが好ましい。
【0029】
さらに、工程S5に示すように、ナノ結晶化された巻回体に対して、酸素を含む酸化性の雰囲気中で、100℃以上かつ結晶化開始温度未満の温度範囲での第2熱処理工程(第1熱処理温度より低温での熱処理)を行う。第2熱処理工程は、第1熱処理工程よりも酸素濃度の高い第2雰囲気中で行う。第2熱処理工程は、例えば0.1%以上50%以下の酸素濃度雰囲気中で行われ、好ましくは大気中で行われる。
【0030】
この第2熱処理を行った後に、工程S6に示すように、ナノ結晶合金巻回体に対して耐振動性を向上させるための樹脂含浸処理を行う。工程S6により、層状体のリボンどうしの間に樹脂が含浸し、巻回体のFe基ナノ結晶合金リボンによる層間および巻回体の表面に樹脂が配置され、本実施形態の磁心が完成する。
【0031】
以下、本実施形態における各工程S1〜S6について、より具体的に説明する。
【0032】
まず、工程S1に示すように、熱処理によりナノ結晶合金となるFe基アモルファス合金リボンを準備する。Fe基アモルファス合金リボンは、例えば、公知の単ロール法によって作製することができる。単ロール法では、原料合金を溶解して得られた溶湯を回転ロール上に吐出し、急冷凝固することによって、リボン状のアモルファス合金を作製する。
【0033】
本実施形態において、Fe基アモルファス合金、または巻磁心を構成するナノ結晶化合金としては、たとえば、(Fe
1-aM
a)
100-x-y-z-α
-β
-γCu
xSi
yB
zM'αM"βXγ(原子%)で表される組成を有する合金が適用できる。ここで、MはCo及び/又はNiであり、M'はNb,Mo,Ta,Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn及びWからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、M"はAl,白金族元素,Sc,希土類元素,Au,Zn,Sn,Reからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素、XはC,Ge,P,Ga,Sb,In,Be,Asからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素である。また、a,x,y,z,α,β及びγは、それぞれ0≦a≦0.5,0.1≦x≦3,0≦y≦30,0≦z≦25,5≦y+z≦30,0≦α≦20,0≦β≦20及び0≦γ≦20を満足する。
【0034】
さらに、0≦a<0.1,0.8≦x≦1.5,14≦y≦20,5≦z≦7,2≦α≦5,0≦β≦10及び0≦γ≦10を満足すると結晶組織の粒径の制御がしやすい。この制御がしやすい組成は、第1熱処理工程において、最高温度580℃以上600℃以下で熱処理する場合に、用いることが好ましい。
【0035】
上記のような組成に設定することによって、前記第1熱処理工程により安定してナノ結晶合金となる巻回体を作製することができる。
【0036】
Fe基アモルファス合金リボンの厚さは、例えば、10μm〜30μm程度であってよい。厚さが10μm未満では、鋳造時のリボン破断の頻度が高くなり、安定した長時間の鋳造が困難であり、また、鋳造後のリボンの機械的強度が不十分になるおそれがある。厚さが30μm超では急冷時の冷却が不十分となり安定してアモルファス相を形成することが困難になる場合がある。また、高周波用途に使用するため、渦電流の発生による損失を抑えるには、リボンは薄い方が好ましい。この観点から、リボンの厚さは10〜20μmが好ましく、10〜15μmがより好ましい。
【0037】
工程S1で得られるアモルファス合金リボンの幅は、例えば、10mm〜100mmであってよい。ただし、合金リボンの安定した製造のためには、リボンの幅は70mm以下、さらには60mm以下が好ましい。なお、幅広に形成した合金リボンを裁断(スリット加工)して、より幅狭の複数のリボンを得るようにしてもよい。このようにすれば、生産性を向上させて低コスト化を図ることができる。
【0038】
次に、工程S2にて巻回体を形成する。この工程S2では、工程S1において得られたアモルファス合金リボンを、巻回体の内周の直径を規定する円柱状の基台に固定し、基台を回転させることによって巻回体(トロイダル形状)を作製する。巻回体の円柱状の基台の径(巻回体の内径)は例えば5mm〜300mmであってよく、巻回体の外径は、例えば10mm〜400mmであってよい。
【0039】
また、工程S2において、巻回体を作製する代わりに、前記アモルファス合金リボンを、外径がリボン幅未満であるようにリング状に金型を用いて打ち抜いて(例えば、外径50mm内径30mm)、リング状の合金リボンを多数枚積み重ねることで積層体(層状体)を作製し、これを用いて磁心を作製してもよい。
【0040】
本明細書では、上記のようにリボンを巻回することによって得られる巻回体、および、リボンを積み重ねることによって得られる積層体を、「層状体」と称することがある。層状体は、層構造を有していればよく、巻回体のように、一続きのリボンを巻回して重ね合わせることによって層構造が形成されていてもよいし、積層体のように、分離したリボンを複数段重ねることによって層構造が形成されていてもよい。また、層状体の層面が重なる方向(典型的には層面に直交する方向)、すなわち、巻回体においては外周面から内周面に向かう方向、積層体においては積層の方向を、層状体の層方向と称することがある。
【0041】
なお、層状体の占積率(層状体の積層断面に占めるリボンの割合)は、70〜85%とすることが好ましい。占積率が85%を超えると、リボンどうしの電気的な接続箇所が増大しやすくなって渦電流損が発生しやすくなるので、インピーダンス比透磁率が低下しやすくなる。一方、占積率が70%未満であると、層状体のリボンがずれ易いため、樹脂含浸の際の層状体の取り扱いが難しくなる。
【0042】
次に、工程S3に示すように、作製した巻回体に対して、第1熱処理工程(ナノ結晶化のための熱処理工程)を行う。上記の組成を有するFe基アモルファス合金を、結晶化温度以上に加熱すると、ナノ結晶化できる。なお、温度が高すぎると結晶が粗大化してナノ結晶組織が維持されなくなるので、典型的には最高温度550℃〜600℃で第1熱処理を行うことが好ましい。
【0043】
図2は、ナノ結晶化熱処理における温度プロファイル(温度カーブ)の一例を示す。
図2において、温度プロファイルにおける最高温度を以下では第1熱処理温度と呼ぶ。図示した例では585℃が、第1熱処理温度である。
【0044】
図2に示す例では、室温から420℃までは4.7℃/分の昇温速度で昇温し、その後、最高温度585℃までは0.7℃/分の昇温速度で昇温している。このように、室温から400℃近傍までは、3〜7℃/分の昇温速度で比較的急速に昇温し、その後、最高温度までは、平均して0.2〜1℃/分の比較的緩やかな昇温速度とすることで、効率よく且つ安定してナノ結晶化を行うことができる。ここで、400℃近傍から最高温度に至る途中で、前記温度範囲において、所定の温度での保持時間を20分〜2時間程度設けても良い。また、保持する回数は1回以上であってもよい。更に、
図2では最高温度での保持時間は設けられていないが、最高温度での保持時間を最長1時間程度設けても良い。また、ナノ結晶化後の冷却過程において、最高到達温度から200℃低温までの温度域では、2〜15℃/分の冷却速度で冷却してもよい。通常、100℃以下まで冷却した後、ナノ結晶化された巻回体を大気中に取り出すことができる。
【0045】
なお、前記400℃近傍から最高温度の範囲において、所定の温度での保持時間や、最高温度での保持時間は、熱処理する巻回体全体の熱容量と特性の安定性を考慮して、設定することが好ましい。
【0046】
また、熱処理温度の制御は、熱処理炉の容量や、熱処理される非晶質合金リボンが結晶化することによる発熱量を考慮しながら、実際の熱処理炉内の温度分布が±5℃以下になるように制御することが好ましい。このような制御を行うことによって、熱処理後の巻回体の磁気特性を安定させることができる。
【0047】
本実施形態において、ナノ結晶化のための第1熱処理工程は、酸素濃度が100ppm以下に制限された第1雰囲気中で行われる。用いる第1雰囲気としては例えばArガスやN
2ガス等の不活性ガスが挙げられる。
【0048】
後述するように、本実施形態では、第1熱処理工程よりも酸化性が高い第2の雰囲気中で第2熱処理工程を行うので、第1熱処理工程における酸素濃度は、例えば100ppm以下、典型的には、10ppm以下または5ppm以下に抑えられていてよい。
【0049】
上記の第1熱処理工程において、所定の温度範囲で巻回体に対して直流磁場を印加しながら熱処理を行ってもよい。磁場の印加方向は、例えば、巻回体の軸方向(リボンの幅方向)である。巻回体の軸方向に磁場を印加することによって磁気異方性を与えて、高周波領域まで初透磁率の低下が抑制された特性を得ることができる。なお、磁場の印加方向に応じて角型比等の磁気特性が変化するので、用途に応じて異なる方向(例えば周方向)に磁場を印加してもよい。
【0050】
磁場を巻回体の軸方向に印加する場合、印加する磁場の強度は、例えば、50kA/m以上300kA/m以下(好ましくは60kA/m以上240kA/m)であってよい。磁場を巻回体の周方向に印加する場合、印加する磁場の強度は、例えば、5A/m以上30A/m以下(好ましくは6A/m以上24A/m)であってよい。また、磁場を印加する時間については、特に制限はないが、1分〜180分程度が実用的である。
【0051】
上記の磁場の印加は、例えば、結晶化開始温度より50℃低い温度から、結晶化開始温度より50℃高い温度までの温度域においてのみ選択的に行ってもよいし、熱処理開始時から、最高温度を経て、100℃程度まで冷却し、巻回体を取り出す直前まで行っても良い。結晶化開始温度は、示差走査熱量計(DSC:Differential Scanning Calorimetry)によって同定することができる。より具体的には、昇温時において、ナノ結晶化の開始による発熱反応をDSCが検出したときの温度を結晶化開始温度と見なすことができる。なお、上記の(Fe
1-aM
a)
100-x-y-z-α
-β
-γCu
xSi
yB
zM'αM"βXγ(原子%)で表される組成を有するFe基アモルファス合金において、結晶化開始温度は約480℃〜約500℃程度である。
【0052】
再び
図1を参照する。工程S3に示した第1熱処理工程の後、工程S4に示すように、第1熱処理された巻回体に対して外部から力を付与する(加える)とともに、その後、巻回体に付与した外力を解放して弛緩する工程を行うことが好ましい。通常ナノ結晶化熱処理では、アモルファス合金の結晶化によって巻回体は1%程度収縮する。前記収縮により、合金リボンの層間が電気的に接続する状態で固定される箇所が発生する。この固定箇所を弛緩して電気的な接続箇所を低減するために、工程S4では、巻回体の径方向(層状体において層が形成されている方向:層方向)に、圧力をかける。指で押して、その後、指を離す程度の外力付与および解放によって固定箇所が弛緩され、弛緩後は層間同士が軸方向(幅方向)に幾分摺動できるようになる。その結果、コアロスの改善が見込める。
【0053】
その後、工程S5に示すように、前記工程S4により外力が付与および解放された巻回体に対して、第1熱処理工程よりも酸化性の雰囲気中で、第2熱処理工程を行う。第2熱処理工程は、第1熱処理工程後に100℃以下にまで冷却され、大気中に取り出されて室温状態となったナノ結晶化合金(巻回体)に対して行われる。以下の実施例で詳細に説明するように、第2熱処理工程を行うことにより、樹脂が含浸した磁心でも、加熱試験後のインピーダンス特性の低下が抑制される。
【0054】
第2熱処理により加熱試験後のインピーダンス特性の低下が抑制される理由は、以下のものであると推測される。
【0055】
Fe基ナノ結晶合金リボンは、単ロール法により製造されるが、肉厚に偏差があったり、表面に凹凸が存在する。そのため、層状体とした場合には、隣接するリボンどうしは面全体で接触しておらず、部分的に点接触しているものの、その他は隙間を介して積層されている。樹脂はこの隙間に含浸され、その後、加熱硬化される。加熱硬化された樹脂は、リボンの面に垂直に見て、斑状もしくは斑点状にリボン表面に存在している。これは、樹脂が有機溶剤等により希釈された状態で含浸され、また、樹脂が乾燥される際に有機溶剤が揮発するためである。このように、樹脂は部分的にリボンどうしを固定しているため、加熱試験により樹脂が収縮すると、リボンどうしの距離が縮まり、接触する可能性が高くなる。特にリボンの端部側(積層面側)は、拘束されていないので最も歪みやすい。リボンの端部側が接触してしまうと、通電時の渦電流損が大きくなりやすく、その結果、インピーダンス特性が低下するものと思われる。
【0056】
本発明の第2熱処理を、樹脂を含浸する前に行うことで、リボンは、リボンどうしの間に隙間があるので、その端部の表面が酸化される。酸化される端部は、リボンの端面だけでなく、リボンの両面の端面側も酸化される。酸化された端部の表面は絶縁性が生じるので、上記のように、リボンの端部どうしが接触しても通電が抑制され、渦電流損の発生を抑制でき、その結果、本発明の効果が得られるものと推察される。
【0057】
第2熱処理工程において、熱処理温度(最高温度:第2熱処理温度と呼ぶことがある)は、100℃以上、かつ、上記のDSCによって同定される結晶化開始温度未満の温度である。第2熱処理温度は、例えば、100℃以上350℃以下の温度であってよい。この温度が100℃未満である場合、インピーダンス特性の低下を抑制する効果が小さくなりやすい。一方、この温度が350℃超である場合、磁区の方向が乱れ、保磁力Hcが増加する傾向がある。好ましい温度は、150℃以上330℃以下の範囲であり、さらに好ましい温度は、200℃以上300℃以下の範囲である。
【0058】
第2熱処理工程における熱処理温度は、最高でも結晶化開始温度未満の温度であるので、第1熱処理工程における最高温度に比べて低い。
【0059】
また、第2熱処理工程は、好ましくは大気中(酸素濃度:約20.9%)で行われ、少なくとも第1熱処理工程における熱処理雰囲気中の酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する雰囲気中で行われる。
【0060】
第1熱処理工程において、高い酸素濃度を有する雰囲気中で行うことは現実的ではない。なぜなら、第1熱処理工程は、Fe基ナノ結晶合金リボンにナノ結晶を析出させるための熱処理であるため、550℃以上の温度となるので、高い酸素濃度の雰囲気中で行うと、層状体が過剰に酸化されて得られる磁心の保磁力が大きくなってしまうためである。そのため、本発明では、第1熱処理工程とは別に第2熱処理工程を設け、その温度を100℃以上350℃以下と第1熱処理工程よりも低い温度とし、さらに、第1熱処理工程における熱処理雰囲気中の酸素濃度よりも高い酸素濃度を有する雰囲気中で行っている。
【0061】
第2熱処理工程における熱処理雰囲気中の酸素濃度は、例えば、0.1%以上50%以下であれば良い。また、磁場印加する場合は第1熱処理工程で行うため、第2熱処理工程は無磁場中で行うこともできる。
【0062】
第2熱処理温度での保持時間は、例えば1時間以上24時間以下であってよく、好ましくは、2時間以上6時間以下である。
【0063】
本工程における温度プロファイルは特に限定されないが、例えば、巻回体を収容したオーブン内の温度を室温から100℃以上350℃以下の第2熱処理温度まで30分〜1時間かけて昇温し、第2熱処理温度で2時間〜6時間保持し、その後、第2熱処理温度から100℃未満〜室温までの温度に、2時間〜4時間かけて冷却する工程を行えばよい。
【0064】
第1熱処理よりも酸化性の雰囲気(好ましくは、酸素濃度0.1%以上50%以下の雰囲気)で行う第2熱処理では、合金リボン表面が酸化される。以下の実施例で示すように、発明者の解析によれば、巻回体の最外周の合金リボン表面では、第2熱処理により酸化層が厚くなる傾向があったが、巻回体の内部の合金リボン表面では、酸化層が厚くなる現象は認められなかった。
【0065】
この第2熱処理を施した本発明の磁心は、最外層の前記Fe基ナノ結晶合金リボンの露出する側の面とその裏側の面が、グロー放電発光分析(GD−OES)における分析値で、露出する側の面での酸素の発光強度をO(out)、その裏側の面での酸素の発光強度をO(in)としたとき、次式:O(out)/O(in)>1.0を満たすものとなる。また、このO(out)/O(in)を、1.1以上、さらには1.2以上とすることもできる。なお、このGD−OESの測定結果であるO(out)、及び、O(in)は、リボンの表面から30nm以下の範囲における酸素の発光強度の最大値を測定したものである。
【0066】
その後、
図1の工程S6に示すように樹脂含浸処理を行う。含浸させる樹脂としては、エポキシ系、アクリル系などの樹脂を適宜使用できる。また、樹脂を含浸させる際に用いる溶剤としては、例えば、アセトンを用いることができる。
【0067】
樹脂と溶剤との合計質量に対する樹脂質量の比(すなわち、樹脂を含む溶剤中における樹脂含有率)は、5mass%〜40mass%程度が好ましく、より好ましくは、7mass%〜30mass%、さらに好ましくは、10mass%〜30mass%である。
【0068】
含浸処理は、例えば、常温、大気圧の条件下で30秒〜5分程度、未硬化の樹脂と溶剤とを混合した樹脂溶液に巻回体を浸漬することによって行うことができる。また、樹脂含浸後の硬化処理は、常温大気中に放置した後、100℃以上の温度に加熱することで行ってもよい。
【0069】
以上に説明した工程S1〜工程S6によって、樹脂含浸により高い耐振動性を有しつつ磁気特性に優れた磁心を作製できる。
【0070】
なお、通常は、磁心に導線を巻回してコイルやトランスを作製するが、合金リボンが巻回された磁心に直接導線を巻回すると、合金リボンと導線の絶縁が不十分となるおそれがあり、また、導線が磁心のエッジで破損・破断するおそれもある。このため、磁心を樹脂ケースに格納した状態で導線を巻回することが一般に行われる。従って、上記の工程S6の後に、樹脂含浸した巻磁心をケースに格納・収容してもよい。例えば、エンジニアリング・プラスチックからなる円環状のケースに巻磁心を収容し、このケースを介してコイルを形成する導線を巻回することによって、コモンモードチョークコイルを作製することができる。エンジニアリング・プラスチックとして、ガラスフィラーが混合されたPET(ポリエチレンテレフタラート)やPBT(ポリブチレンテレフタラート)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)などを使用できる。また、ケース中の磁心は、ケース内側と磁心との間に充填したシリコン系の接着剤によって固定するのが好ましい。ケース中の磁心が固定されない場合、振動や衝撃により磁心とケースの接触し、磁心の表面の一部が破損するおそれがある。
【0071】
コモンモードチョークコイルの特性指標として、インピーダンス比透磁率μ
rzを使用することが多い。インピーダンス比透磁率μ
rzとは、漏れ磁束が無視できる閉磁路磁心において,一次側巻線に交流電流(磁化力に相当)を流したとき、相互インダクタンスによって二次側に発生する電圧(磁束密度に相当)から計算される比透磁率である。本指標は、JIS規格C2531(1999年改正)に記載されている通り、以下の式で表される。以下の式からわかるように、インピーダンス比透磁率μ
rzは、複素透磁率の絶対値に等しい。
μ
rz=(μ
r'2+μ
r"2)
1/2
【0072】
なお、本明細書では、インピーダンス比透磁率μ
rzの測定は、Agilent製4194Aを用い、測定条件は発信出力電圧OSC=0.5V、AVG 8、R-Xモードで行っている。
【0073】
インピーダンス比透磁率μ
rzが広い周波数帯域で高い値であれば、広い周波数帯域でのコモンモードノイズの吸収・除去能力に優れていることになる。
【0074】
本実施形態の磁心は、特に、150℃以上の高温環境下に長時間放置されたときにも100kHz以上の高周波帯域において、インピーダンス比透磁率の低下が抑制される。従って、特に、耐振動性、耐熱性が求められる車載用などの分野において好適に利用される。
【0075】
より具体的には、本実施形態による磁心は、160℃で500時間保持する処理を含む加熱試験の前後で、周波数100kHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率を5%未満にすることができる。また、同加熱試験の前後で周波数1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率を10%以下にすることができる。なお、上記の加熱試験は、より詳細には、大気中で、室温から温度160℃まで20分かけて昇温し、次いで500時間保持した後、室温まで空冷する加熱試験である。上記の室温まで空冷する工程は、磁心を160℃で500時間保持した後、例えば、24時間大気中に放置することによって行ってもよい。
【0076】
以下、本発明の実施例および比較例を説明する。
【0077】
(実施例1)
合金組成Fe:bal、Cu:1.0、Nb:3.0、B:6.5、Si:15.5(数字はいずれも原子%を示し、balは残部を示す)とする合金溶湯を、単ロール法により急速凝固させて、厚さ13μm、幅52mmの合金リボンを作製した。作製した合金リボンをスリット加工して10mm幅のリボンを5条得た。スリット加工後の10mm幅の合金リボンを巻回して、内径21mm、外径31mm、高さ10mmとなる巻回体を2ヶ(試料A、B)作製した。また、リボンを巻き回す際には張力を調整することで、巻回体の占積率が75%となるようにした。巻始めと巻終わりは、スポット溶接によって隣接する合金リボンと固定させた。
【0078】
次に、前記巻回体2ヶに対して、
図2に示すような、第1熱処理(ナノ結晶化磁場中熱処理)を行い、ナノ結晶合金とした。最高温度(第1熱処理温度)は595℃とした。温度480℃〜530℃の領域では130kA/mの磁場を巻回体の軸方向(合金リボンの幅方向)に印加した。また、第1熱処理は窒素雰囲気で行い、酸素濃度は5ppmであった。
【0079】
次に、前記第1熱処理後に室温まで冷却し、大気中に取り出した巻回体に対して、直径方向から指で押す工程を行って、隣接する合金リボン間の固定部分を弛緩させた。
【0080】
次に、大気雰囲気オーブンに巻回体を入れて、250℃まで30分で加熱し、250℃で4時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで第2熱処理を行った。
【0081】
次に、前記巻回体を樹脂含侵した。エポキシ樹脂とアセトンとを混合した樹脂溶液(質量比率:エポキシ樹脂/アセトン=10/90)に、巻回体を浸漬させた。室温で1分浸漬させた後、巻回体を溶液から取り出し、巻回体表面の溶液を除去した。更に室温に1時間放置した後、大気雰囲気のオーブンで150℃で15分加熱することでエポキシ樹脂の硬化を行った。以上の工程で磁心を作製した。
【0082】
次に、ガラスフィラーが混合されたPET(ポリエチレンテレフタラート)製のケースに前記樹脂含侵後の磁心を格納した。磁心とケース内側とはシリコン系の接着剤で固定した。
【0083】
次に、樹脂ケースに格納・固定された磁心に対して、樹脂ケースの上から1ターンのコイルを巻回し、周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。測定機は、Agilent製4194Aを用いた。測定条件は、OSC 0.5V、AVG 8、R-Xモードで行った。
【0084】
次に、大気雰囲気のオーブンに、前記磁心を収容して、室温から温度160℃まで20分で加熱し、次いで500時間保持した後、24時間大気中に放置することで、室温まで空冷する加熱試験を行った。そして、この加熱試験の後、前記加熱試験の前と同様にして、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。
【0085】
これらの測定結果及び、樹脂含侵後のインピーダンス比透磁率μ
rzの測定値を100として、上記の加熱試験後の測定値の比率(%)を<>内に記載した結果を表1に示す。また、表2に、上記の加熱試験後における加熱試験前に対するインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率をそれぞれの試料について示す。なお、表1および表2には、後述する比較例1、実施例2、実施例3の結果も同様に示している。
【0086】
表2に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1の試料A、Bでは、1%または2%と小さい低下率である。
【0087】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1の試料A、Bでは、3%または4%と小さい低下率である。
【0090】
(比較例1)
実施例1に記載の250℃で4時間の第2熱処理を行うことなく(省略して)、他の工程は実施例1と同様にして、磁心2ヶ(試料C、D)を作製した。実施例1と同様に、160℃で500時間保持する工程を含む上記の加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を上記の表1および表2に示している。
【0091】
周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1の試料A、Bでは、1%または2%と小さい低下率であるのに対して、比較例1の試料C、Dでは14%または16%と大きい。
【0092】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1の試料A、Bでは、3%または4%と小さい低下率であるのに対して、比較例1の試料C、Dでは27%または31%と大きい。
【0093】
(比較例2)
実施例1に記載の250℃で4時間の第2熱処理を行うことなく(省略して)、かつ、第1熱処理の第1雰囲気を酸素濃度35ppmとした製造方法(特許文献2に該当する製造方法)により、巻回体を製造した。
【0094】
用いる合金リボンは、20mm幅のものを用いた。この合金リボンを巻回して、内径45mm、外径60mm、高さ20mmとなる巻回体とし、この巻回体を6ヶ製造した。
【0095】
次に、この巻回体6ヶに対して、酸素濃度が35ppmの窒素雰囲気中とした以外は、実施例1と同様に、
図2に示すような第1熱処理(ナノ結晶化磁場中熱処理)を行い、ナノ結晶合金とした。
【0096】
その後は、第2熱処理を行うことなく(省略して)、他の工程は実施例1と同様にして巻回体及び磁心の作製を行った。その後、磁心の加熱試験を行った。加熱試験は、保持する温度を155℃とした以外は、実施例1と同様に行った。
【0097】
その結果を
図9、
図10に示す。
図9は周波数100kHzでの測定結果であり、
図10は周波数1MHzでの測定結果である。なお、
図9、
図10にプロットした点は、作製した磁心6ヶの測定値の平均値である。
【0098】
図9に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、155℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、その低下率は15%を超えてしまう(15.7%)。
【0099】
また、
図10に示すように、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、155℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、その低下率は25%を超えてしまう(29.0%)。
【0100】
これらの加熱試験の結果は、保持温度が155℃である。そのため、もし加熱試験の保持温度が実施例1等と同じ160℃で行ったものであれば、低下率はさらに大きくなることは明らかである。
【0101】
(実施例2、3)
実施例1では最高温度595℃で第1熱処理を行っているが、実施例2では最高温度を590℃とし、実施例3では最高温度を585℃として第1熱処理を行い、他の工程は実施例1と同様にして、それぞれ磁心2ヶ(590℃:試料E、F)(585℃:試料G、H)を作製した。また、実施例1と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を、上記の表1および表2に示している。
【0102】
周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1では、1%または2%、実施例2では2%、実施例3では3%と、いずれもと小さい低下率である。
【0103】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例1では、3%または4%、実施例2では4%、実施例3では7%と、いずれも小さい低下率である。
【0104】
(実施例4)
合金リボン幅を25mmとして、他の条件は実施例1と同様にして合金リボンを作製した。作製した合金リボンを巻回して、内径21mm、外径31mm、高さ25mmとなる磁心を2ヶ(試料I、J)作製し、第1熱処理等の後工程は実施例1と同様に行った。
【0105】
実施例1と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果およびインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率を下記の表3および表4に示す。
【0106】
なお、表3では、表1と同様に、樹脂含侵後のインピーダンス比透磁率μ
rzの測定値を100として、上記の加熱試験後の測定値の比率(%)を<>内に記載している。また、表4は、表2と同様に、上記の加熱試験後における加熱試験前に対するインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率を示す。
【0107】
周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例4では、3%と小さい低下率である。
【0108】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例4では、6%または9%と小さい低下率である。
【0109】
(実施例5)
実施例1と同様にして52mm幅の合金リボンを作製した。作製した合金リボンをスリット加工し、25mm幅とした。スリット加工後の合金リボンを巻回して、内径21mm、外径31mm、高さ25mmとなる磁心を2ヶ(試料K、L)作製し、第1熱処理等の後工程を実施例1と同様に行った。
【0110】
実施例1と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を下記の表3および表4に示す。
【0111】
周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例5では、3%と小さい低下率である。
【0112】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例5では、5%または8%と小さい低下率である。
【0113】
実施例4と実施例5を対比すると、スリット加工有り無しで、特性の有意差は認められない。
【0116】
(比較例3)
比較例1と同様に、250℃で4時間の第2熱処理を行うことなく(省略して)、かつ、樹脂含浸しない以外は、他の工程は実施例1と同様にして、磁心5ヶを作製した。160℃で1時間、100時間、200時間、500時間それぞれ保持する実施例1と同様の加熱試験を行った後、室温で周波数100kHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を
図3に示している。なお、
図3にプロットした点は、作製した磁心5ヶの測定値の平均値である。
【0117】
図3に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、その低下率は僅か(3%)である。つまり、樹脂含浸しない磁心では、周波数100kHzでの加熱試験後のインピーダンス比透磁率μ
rzが500時間経過後でも5%未満であり、そもそも低下しづらいことがわかる。
【0118】
対して、樹脂含浸した磁心では、比較例1、2に示すように、第2熱処理を行わない場合は、加熱試験後のインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率が10%を大きく超えてしまう(14%、15%)。
【0119】
このことから、樹脂含浸した磁心は、樹脂含浸しないものよりも、加熱試験によるインピーダンス比透磁率μ
rzの低下率が大きくなることが分かる。
【0120】
(実施例6)
実施例1では10mm幅の合金リボンを巻回して、内径21mm、外径31mm、高さ10mmとなる巻回体としているが、実施例6では外径の寸法を変え、内径21mm、外径26mm、高さ10mmとなる巻回体とした。他の工程は実施例1と同様にして、それぞれ磁心2ヶ(試料M、N)を作製した。また、実施例1と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を、下記の表5および表6に示している。
【0121】
表6に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例6の試料M、Nは、2%または3%と小さい低下率である。
【0122】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例6の試料M、Nは、6%または7%と小さい低下率である。
【0125】
(実施例7、8)
上記の実施例6では第2熱処理を大気雰囲気で行っているが、実施例7では酸素濃度を1%とし、実施例8では酸素濃度を5%とした。他の工程は実施例6と同様にして、それぞれ磁心2ヶ(酸素濃度1%:試料O、P)(酸素濃度5%:試料Q、R)を作製した。また、実施例6と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を、下記の表7および表8に示している。
【0126】
表8に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例7の試料O、P、および、実施例8の試料Q、Rでは、2%と小さい低下率である。
【0127】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例7の試料O、P、および、実施例8の試料Q、Rでは、7%または8%と小さい低下率である。
【0130】
(実施例9〜13)
上記の実施例6では第2熱処理を、250℃まで30分で加熱し、250℃で4時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行っているが、実施例9〜13は、保持する温度と保持する時間を変えて実験を行った。詳細には、実施例9では200℃まで30分で加熱し、200℃で4時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行った。実施例10では300℃まで30分で加熱し、300℃で4時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行った。実施例11では200℃まで30分で加熱し、200℃で24時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行った。実施例12では250℃まで30分で加熱し、250℃で24時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行った。実施例13では300℃まで30分で加熱し、300℃で24時間保持し、その後3時間で100℃まで冷却する温度プロファイルで行った。他の工程は実施例6と同様にして、それぞれ磁心2ヶ(保持温度200℃、4時間保持:試料S、T)(保持温度300℃、4時間保持:試料U、V)(保持温度200℃、24時間保持:試料W、X)(保持温度250℃、24時間保持:試料:試料Y、Z)(保持温度300℃、24時間保持:試料AA、AB)を作製した。また、実施例6と同様にして、160℃で500時間保持する工程を含む加熱試験を行った後、室温で周波数100kHz及び1MHzでのインピーダンス比透磁率μ
rzを測定した。その結果を、表9および表10に示している。なお、参考のため、表9および表10には、実施例6の試料(保持温度250℃、4時間保持:試料:試料M、N)の測定結果を併記する。
【0131】
表10に示すように、周波数100kHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例9〜実施例13の試料S、T、U、V、W、X、Y、Z、AA、ABは、1%〜4%と小さい低下率である。
【0132】
また、周波数1MHzのインピーダンス比透磁率μ
rzについて、160℃で500時間の高温放置を含む上記の加熱試験の前後での低下率に注目すると、実施例9〜実施例13の試料S、T、U、V、W、X、Y、Z、AA、ABは、4%〜8%と小さい低下率である。特に実施例13の試料(保持温度300℃、24時間保持:試料AA、AB)は、低下率が4%または5%と低い値である。
【0135】
(実施例14)
実施例6の巻回体(第2熱処理(250℃で4時間保持)を行い、その後、樹脂含浸した巻回体)2ヶの最外層(最外周)のFe基ナノ結晶合金リボンの、外部に露出する面(以下、露出面)と、その反対側の面(以下、裏面)の組成を分析した。分析は、グロー放電発光分析(GD−OES:堀場社製GD-PROFILER2)を用いて行った。測定条件は、ガス圧力を600Pa、出力を35W、パルスモードとし、アノード径をφ2mmとした。測定する元素は、Fe、Ni、Cu、Si、O、C、Bとした。
【0136】
図4は、2ヶ測定した内の一方の巻回体の、露出面と裏面におけるGD−OES分析結果である。分析した酸素の発光強度は、上記測定条件において、スパッタ時間1秒以下で得られる酸素の発光強度を測定したものである。
【0137】
図4に示すように、露出面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(out))は0.56であった。また、裏面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(in))は0.35であった。ピーク発光強度の比であるO(out)/O(in)は1.6であった。
【0138】
図5は、他方の巻回体の、露出面と裏面におけるGD−OES分析結果である。露出面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(out))は0.44であった。また、裏面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(in))は0.32であった。ピーク発光強度の比であるO(out)/O(in)は1.4であった。
【0139】
(実施例15)
実施例12の巻回体(第2熱処理(250℃で24時間保持)を行い、その後、樹脂含浸した巻回体)2ヶの最外層(最外周)のFe基ナノ結晶合金リボンの、外部に露出する面(以下、露出面)と、その反対側の面(以下、裏面)の組成を、実施例12と同様に、分析した。
【0140】
図6は、2ヶ測定した内の一方の巻回体の、露出面と裏面におけるGD−OES分析結果である。露出面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(out))は0.42であった。また、裏面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(in))は0.26であった。ピーク発光強度の比であるO(out)/O(in)は1.6であった。
【0141】
図7は、他方の巻回体の、露出面と裏面におけるGD−OES分析結果である。露出面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(out))は0.42であった。また、裏面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(in))は0.35であった。ピーク発光強度の比であるO(out)/O(in)は1.2であった。
【0142】
(比較例4)
比較例1の巻回体(第2熱処理を行うことなく(省略して)、他の工程は実施例1と同様にして作製した巻回体)を用意し、実施例14と同様にして露出面と裏面のGD−OES分析を行った。
【0143】
図8は、比較例4の磁心における、露出面とその裏面でのGD−OES分析結果である。
【0144】
図8に示すように、露出面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(out))は0.27であった。また、裏面における酸素の発光強度の最大値(ピーク発光強度O(in))は0.30であった。ピーク発光強度の比であるO(out)/O(in)は0.9であった。
【0145】
(考察)
実施例1〜14および比較例1、2の結果から、磁心に樹脂を含浸させても、第2熱処理を行うことによって、高温環境下におけるインピーダンス比透磁率μ
rzの低下を抑制できることが分かる。したがって、本開示によれば、含浸樹脂によって機械的強度が向上しており、かつ、第2熱処理による高温でのインピーダンス比透磁率の低下が抑制された磁心が得られることが分かった。また、比較例3の結果から、磁心に樹脂を含浸させなければ、加熱試験後にインピーダンス比透磁率μ
rzは低下しにくいことが分かる。つまり、本発明の製造方法を用いる必要があるのは、樹脂を含浸させた磁心を製造する場合である。
【0146】
特に、本発明の実施形態による磁心は、160℃の高温環境下で長期間使用したときにも高いインピーダンス比透磁率μ
rzが維持されることが期待でき、車載用部品として好適に使用される。
【0147】
また、実施例14、15および比較例4の結果から、第2熱処理工程が施されたかどうかは、磁心の最外層の、外部に露出する面およびその反対側の面におけるグロー放電分析による酸素の発光強度を測定すれば判別できることが分かる。第2熱処理工程は、第1熱処理工程よりも酸素濃度が高い雰囲気で熱処理を行うため、第2熱処理を行うことによって、最外層の外部に露出する面は、反対側の面よりも酸化される。実施例14、15では、第2熱処理が施されているため、最外層の外部に露出する面および反対側の面におけるグロー放電分析による酸素の発光強度をそれぞれ、O(out)およびO(in)としたとき、O(out)/O(in)は1を超えている。これに対し、比較例1では、第2熱処理が施されていないため、O(out)/O(in)は1未満である。