特許第6786952号(P6786952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6786952ポリカーボネート樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物からなる成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6786952
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物からなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20201109BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20201109BHJP
   C08G 64/02 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   C08L69/00
   C08L53/00
   C08G64/02
【請求項の数】4
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-162091(P2016-162091)
(22)【出願日】2016年8月22日
(65)【公開番号】特開2018-30908(P2018-30908A)
(43)【公開日】2018年3月1日
【審査請求日】2019年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】安藤 正人
【審査官】 松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214666(JP,A)
【文献】 特表2014−504669(JP,A)
【文献】 特公平07−100763(JP,B2)
【文献】 特開平11−049944(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 − 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(X)および成分(Y)を含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
成分(X):少なくとも下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構
成単位と、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物
、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、及び芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物からな
る群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含み、全ジオール
に由来する構成単位100モル%に対して下記式(1)で表される化合物に由来する構成
単位を30モル%以上含む、ポリカーボネート樹脂
成分(Y):以下のAブロック及びBブロックからなるブロック共重合体の水添ブロッ
ク共重合
Aブロック:ビニル基を有する芳香族炭化水素の重合体
Bブロック:イソブチレンに由来する構成単位を含む重合体
【化1】
【請求項2】
前記成分(Y)中のAブロックの割合が10〜50重量%である、請求項1に記載の樹
脂組成物。
【請求項3】
前記成分(Y)が、Aブロックとしてスチレンの重合体からなるブロック共重合体の水
添ブロック共重合体である、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性、透明性(全光線透過率)、色調、耐湿熱性、および耐乾熱性についてバランスよく優れたポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は一般的に石油資源から誘導される原料を用いて製造される。しかしながら、近年、石油資源の枯渇が危惧されており、植物などのバイオマス資源から得られる原料を用いたポリカーボネート樹脂の提供が求められている。また、二酸化炭素排出量の増加、蓄積による地球温暖化が、気候変動などをもたらすことが危惧されていることからも、使用後の廃棄処分をしてもカーボンニュートラルな、植物由来モノマーを原料としたポリカーボネート樹脂の開発が求められている。
例えば、植物由来モノマーとしてイソソルビド(ISB)を使用し、炭酸ジフェニルとのエステル交換により、ポリカーボネート樹脂を得ることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
イソソルビドのようなジヒドロキシ化合物から得られるポリカーボネート樹脂は、光学特性に優れるだけでなく、従来汎用されている芳香族ポリカーボネート樹脂に比べて耐候性や表面硬度に極めて優れるのに対して、引張伸びあるいは応力が集中する部分での耐衝撃性などの機械物性のさらなる改善が求められている。かかる課題に対して、耐衝撃性を改善する手法としてポリカーボネート樹脂にコア・シェル型エラストマーを含有させることで耐衝撃性が改良されることが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
一方で、従来汎用されている芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、スチレン系エラストマーを含有させることで引張特性を改良できるという検討もなされている。さらに、金属触媒を使用してポリカーボネートとエラストマーの一部を反応させて相溶化できることも知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
さらに、非晶性ポリオレフィン樹脂(A)の特性を改善するため、非晶性ポリオレフィン樹脂(A)、及び芳香族ビニル化合物系重合体ブロックとイソブチレン系重合体ブロックとからなるブロック共重合体(B)を含有し、非晶性ポリオレフィン樹脂(A)が、エチレンと環状オレフィンとの両モノマーからなるか、もしくはそれらの両方とさらにα−オレフィンとからなる付加型共重合体(A−1)であるか、又は環状オレフィンの開環重合体の水素添加物(A−2)であり、かつ、(A)/(B)の重量比が95/5〜50/50の範囲内であることにより、耐衝撃性、透明性、ガスバリア性に優れた樹脂組成物が得られることが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】英国特許第1079686号明細書
【特許文献2】特開2012−214666号公報
【特許文献3】特開平11−49944号公報
【特許文献4】特開平9−124854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らの検討によれば、前記特許文献2のように、イソソルビドをモノマーとして用いたポリカーボネート樹脂にコア・シェル型エラストマーを含有させた樹脂組成物は、
優れた耐衝撃性を得られる。しかしながら、本来、イソソルビドをモノマーとして用いたポリカーボネート樹脂がもつ光学特性を損ねてしまうという課題があった。また、前記樹脂組成物は高温環境下での樹脂の色調変化が顕著であり、温度変化が大きい環境での長期での使用に際し、さらなる改善が求められていた。
また、前記特許文献3のように、芳香族ポリカーボネート樹脂に対し、スチレン系エラストマーを含有させると、スチレン系エラストマーの影響により、ポリカーボネート樹脂の透明性などの光学特性を損ねてしまう。また、金属触媒を使用して相溶性を高め、透明性を向上させることはできるものの金属触媒による副反応としての種々の異種構造生成によると考えられる黄色度等の色相悪化が課題であった。
【0008】
さらに、特許文献4は、実用的な衝撃強度を得るためにはブロック共重合体の配合量が多くなり、結果としてヘーズ値の悪化は避けられず実用的な衝撃強度と透明性をバランス良く付与することが困難であるという課題があった。
【0009】
つまり、本発明の目的は、耐衝撃性、透明性(全光線透過率)、色調、耐湿熱性、および耐乾熱性にバランスよく優れた樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定構造を有するポリカーボネート樹脂に特定のブロック共重合体を含有させたポリカーボネート樹脂組成物とすることで、前記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[1]〜[7]を要旨とする。
【0012】
[1]下記成分(X)および成分(Y)を含む、ポリカーボネート樹脂組成物。
成分(X):少なくとも下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂
成分(Y):以下のAブロック及びBブロックからなるブロック共重合体およびこの水添ブロック共重合体の少なくとも一方
Aブロック:ビニル基を有する芳香族炭化水素の重合体
Bブロック:分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体
【化1】
[2]前記ポリカーボネート樹脂が前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含む、[1]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[3]前記ポリカーボネート樹脂が、全ジオールに由来する構成単位100モル%に対して前記式(1)で表される化合物に由来する構成単位を30モル%以上含む、[1]または[2]に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[4]前記成分(Y)中のAブロックの割合が10〜50重量%である、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
[5]前記Aブロックが、水素化ポリスチレンブロックである、[1]〜[4]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[6]前記Bブロックを構成する重合体がイソブチレンに由来する構成単位を含む重合体である、[1]〜[5]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
[7][1]〜[6]のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む成形体
【発明の効果】
【0013】
本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性、透明性(全光線透過率)、色調、耐湿熱性、および耐乾熱性にバランスよく優れるため、各種製品の成形材料として幅広い用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本発明において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0015】
本発明は、下記成分(X)および成分(Y)を含む、ポリカーボネート樹脂組成物である。
成分(X):少なくとも下記一般式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位を含むポリカーボネート樹脂
成分(Y):以下のAブロック及びBブロックからなるブロック共重合体およびこの水添ブロック共重合体の少なくとも一方
Aブロック:ビニル基を有する芳香族炭化水素の重合体
Bブロック:分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体
【化2】
【0016】
[成分(X)]
本発明で用いる成分(X)のポリカーボネート樹脂は、少なくとも下記一般式(1)で表される化合物に由来する構成単位を有するポリカーボネート樹脂である。後述するが、全ジオールに由来する構成単位100モル%に対して、30モル%を超える割合で、下記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(これを、適宜「構成単位(a)」という)を含むポリカーボネート樹脂であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂は、構成単位(a)のホモポリカーボネート樹脂であってもよいし、構成単位(a)以外の構成単位を含む共重合ポリカーボネート樹脂であってもよい。耐衝撃性により優れるという観点からは、共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0017】
【化3】
【0018】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド(ISB)、イソマンニド、およびイソイデットが挙げられる。これらは1種を
単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の中でも、植物由来の資源として豊富に存在し、容易に入手可能な種々のデンプンから製造されるソルビトールを脱水縮合して得られるイソソルビド(ISB)が、入手及び製造のし易さ、耐候性、光学特性、成形性、耐熱性及びカーボンニュートラルの面から最も好ましい。
【0020】
なお、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸素によって徐々に酸化されやすい。したがって、保管中又は製造時の取り扱いの際には、酸素による分解を防ぐため、水分が混入しないようにし、また、脱酸素剤を用いたり、窒素雰囲気下にしたりすることが好ましい。
【0021】
また、ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(a)と、式(1)で表されるジヒドロキシ化合物以外のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(これを、適宜「構成単位(b)」という)、例えば脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、及び芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位(これを、適宜「構成単位(b)」という)とを含む共重合ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。これらのジヒドロキシ化合物は、色調が良好であることから、芳香環構造を含有しないジヒドロキシ化合物であることが好ましい。特に、脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、及びエーテル含有ジヒドロキシ化合物からなる群より選ばれる1種以上のジヒドロキシ化合物であれば、柔軟な分子構造を有するため、これらのジヒドロキシ化合物を原料として用いることにより、得られるポリカーボネート樹脂の耐衝撃性を向上させることができる。これらのジヒドロキシ化合物の中でも、耐衝撃性を向上させる効果の大きい脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることが好ましく、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物を用いることが最も好ましい。脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物、脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物、エーテル含有ジヒドロキシ化合物、及び芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物の具体例としては、以下の通りである。
【0022】
脂肪族炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ヘプタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール等の直鎖脂肪族ジヒドロキシ化合物;1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキシレングリコール等の分岐鎖を有する脂肪族ジヒドロキシ化合物。
【0023】
脂環式炭化水素のジヒドロキシ化合物としては、例えば、以下のジヒドロキシ化合物を採用することができる。1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、2,6−デカリンジメタノール、1,5−デカリンジメタノール、2,3−デカリンジメタノール、2,3−ノルボルナンジメタノール、2,5−ノルボルナンジメタノール、1,3−アダマンタンジメタノール、リモネン等の、テルペン化合物から誘導されるジヒドロキシ化合物等に例示される、脂環式炭化水素の1級アルコールであるジヒドロキシ化合物;1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−アダマンタンジオール、水添ビスフェノールA、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール等に例示される、脂環式炭化水素の2級アルコール又は3級アルコールであるジヒドロキシ化合物。
【0024】
エーテル含有ジヒドロキシ化合物としては、オキシアルキレングリコール類やアセタール環を含有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
オキシアルキレングリコール類としては、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール及びポリプロピレングリコール等を採用することができる。
【0025】
アセタール環を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば、下記構造式(2)で表されるスピログリコールや、下記構造式(3)で表されるジオキサングリコール等を採用することができる。
【0026】
【化4】
【0027】
【化5】
【0028】
芳香族基を含有するジヒドロキシ化合物としては、例えば以下のジヒドロキシ化合物を採用することができるが、これら以外のジヒドロキシ化合物を採用することも可能である。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジエチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3−フェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−(3,5−ジフェニル)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(4−ヒドロキシ−3−ニトロフェニル)メタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、1,3−ビス(2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル)ベンゼン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、2,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)ス
ルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’−ジクロロジフェニルエーテル等の芳香族ビスフェノール化合物;2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)スルホン等の芳香族基に結合したエーテル基を有するジヒドロキシ化合物;9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシプロポキシ)−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−イソブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−フェニルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3,5−ジメチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(2−ヒドロキシエトキシ)−3−tert−ブチル−6−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−(3−ヒドロキシ−2,2−ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等のフルオレン環を有するジヒドロキシ化合物。
【0029】
前記ポリカーボネート樹脂において、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100モル%に対する前記構成単位(a)の含有割合は、下限値としては、30モル%以上が好ましく、40モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましく、55モル%以上が特に好ましく、60モル%以上が最も好ましい。上限値としては、95モル%以下であることがより好ましく、90モル%以下であることがさらに好ましく、85モル%以下であることが特に好ましい。これらの場合には、生物起源物質含有率をより高めることができ、耐熱性をより向上させることができる。なお、ポリカーボネート樹脂における構成単位(a)の含有割合は100モル%でも良いが、分子量をより高めるという観点及び耐衝撃性をより向上させるという観点からは、構成単位(a)以外の構成単位が共重合されていることが好ましい。
【0030】
また、前記ポリカーボネート樹脂は、前記構成単位(a)及び前記構成単位(b)以外の構成単位(その他のジヒドロキシ化合物)を更に含んでいてもよい。ただし、本発明が良好な効果を奏するため、全ジヒドロキシ化合物に由来する構成単位100モル%に対して、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構成単位の含有割合は、10モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることより好ましい。
【0031】
前記その他のジヒドロキシ化合物は、ポリカーボネート樹脂に要求される特性に応じて適宜選択することができる。また、前記その他のジヒドロキシ化合物は、1種のみを用いてもよく、複数種を併用してもよい。前記その他のジヒドロキシ化合物を前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物と併用することにより、ポリカーボネート樹脂の柔軟性や機械物性の改善、及び成形性の改善などの効果を得ることが可能である。
【0032】
ポリカーボネート樹脂の原料として用いられるジヒドロキシ化合物は、還元剤、抗酸化剤、脱酸素剤、光安定剤、制酸剤、pH安定剤又は熱安定剤等の安定剤を含んでいても良い。特に、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は、酸性状態において変質しやすい性質を有する。したがって、ポリカーボネート樹脂の合成過程において塩基性安定剤を使用することにより、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の変質を抑制すること
ができ、ひいては得られるポリカーボネート樹脂組成物の品質をより向上させることができる。
【0033】
塩基性安定剤としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。長周期型周期表(Nomenclature of Inorganic Chemistry IUPAC Recommendations2005)における1族又は2族の金属の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、硼酸塩及び脂肪酸塩;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等の塩基性アンモニウム化合物;ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピロリジン、ピペリジン、3−アミノ−1−プロパノール、エチレンジアミン、N−メチルジエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール及びアミノキノリン等のアミン系化合物、並びにジ−(tert−ブチル)アミン及び2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系化合物。
【0034】
前記ジヒドロキシ化合物中における前記塩基性安定剤の含有量に特に制限はないが、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物は酸性状態では不安定であるため、塩基性安定剤を含むジヒドロキシ化合物の水溶液のpHが7付近となるように塩基性安定剤の含有量を設定することが好ましい。
【0035】
前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物に対する塩基性安定剤の含有量は、0.0001〜1重量%であることが好ましい。この場合には、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物の変質を防止する効果が十分に得られる。この効果をさらに高めるという観点から、塩基性安定剤の含有量は0.001〜0.1重量%であることがより好ましい。
【0036】
前記ポリカーボネート樹脂の原料に用いる炭酸ジエステルとしては、通常、下記一般式(4)で表される化合物を採用することができる。これらの炭酸ジエステルは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
【化6】
【0038】
前記一般式(4)において、A1及びA2は、それぞれ置換もしくは無置換の炭素数1〜18の脂肪族炭化水素基又は置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基であり、A1とA2
は同一であっても異なっていてもよい。A1及びA2としては、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基を採用することが好ましく、無置換の芳香族炭化水素基を採用することがより好ましい。
【0039】
前記一般式(4)で表される炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート(DPC)及びジトリルカーボネート等の置換ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート並びにジ−tert−ブチルカーボネート等を採用することができる。これらの炭酸ジエステルの中でも、ジフェニルカーボネート又は置換ジフェニルカーボネートを用いることが好ましく、ジフェニルカーボネートを用いることが特に好ましい。なお、炭酸ジエステルは、塩化物イオンなどの不純物を含む場合があり、不純物が重縮合反応を阻害したり、得られるポリカーボネート樹脂の色調を悪化させたりする場合があるため、必要に応じて、蒸留などにより精製したものを使用することが好ましい。
【0040】
ポリカーボネート樹脂は、上述したジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルをエステル交換反応により重縮合させることにより合成できる。より詳細には、重縮合と共に、エステル交換反応において副生するモノヒドロキシ化合物等を系外に除去することによって得ることができる。
【0041】
前記エステル交換反応は、エステル交換反応触媒(以下、エステル交換反応触媒を「重合触媒」と言う。)の存在下で進行する。重合触媒の種類は、エステル交換反応の反応速度及び得られるポリカーボネート樹脂の品質に非常に大きな影響を与え得る。
【0042】
重合触媒としては、得られるポリカーボネート樹脂の透明性、色調、耐熱性、耐候性、及び機械的強度を満足させ得るものであれば限定されない。重合触媒としては、例えば、長周期型周期表における第I族又は第II族(以下、単に「1族」、「2族」と表記する。)の金属化合物、並びに塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物及びアミン系化合物等の塩基性化合物を使用することができ、中でも1族金属化合物及び/又は2族金属化合物が好ましく、2族金属化合物が特に好ましい。
【0043】
前記の1族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸セシウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸セシウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素セシウム、フェニル化ホウ素ナトリウム、フェニル化ホウ素カリウム、フェニル化ホウ素リチウム、フェニル化ホウ素セシウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸カリウム、安息香酸リチウム、安息香酸セシウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸水素2カリウム、リン酸水素2リチウム、リン酸水素2セシウム、フェニルリン酸2ナトリウム、フェニルリン酸2カリウム、フェニルリン酸2リチウム、フェニルリン酸2セシウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、セシウムのアルコレート、フェノレート、ビスフェノールAの2ナトリウム塩、2カリウム塩、2リチウム塩及び2セシウム塩等。
1族金属化合物としては、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、リチウム化合物が好ましい。
【0044】
前記の2族金属化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、水酸化ストロンチウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素バリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素ストロンチウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウム、酢酸カルシウム、
酢酸バリウム、酢酸マグネシウム、酢酸ストロンチウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸ストロンチウム等。
2族金属化合物としては、マグネシウム化合物、カルシウム化合物又はバリウム化合物が好ましく、重合活性と得られるポリカーボネート樹脂の色調の観点から、マグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物が更に好ましく、カルシウム化合物が最も好ましい。
【0045】
なお、前記の1族金属化合物及び/又は2族金属化合物と共に補助的に、塩基性ホウ素化合物、塩基性リン化合物、塩基性アンモニウム化合物、アミン系化合物等の塩基性化合物を併用することも可能であるが、1族金属化合物及び/又は2族金属化合物のみを使用することが特に好ましい。
【0046】
前記の塩基性リン化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。トリエチルホスフィン、トリ−n−プロピルホスフィン、トリイソプロピルホスフィン、トリ−n−ブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン及び四級ホスホニウム塩等。
【0047】
前記の塩基性アンモニウム化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルベンジルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルフェニルアンモニウムヒドロキシド、テトラフェニルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド、メチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド及びブチルトリフェニルアンモニウムヒドロキシド等。
【0048】
前記のアミン系化合物としては、例えば、以下の化合物を採用することができる。4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−ジエチルアミノピリジン、2−ヒドロキシピリジン、2−メトキシピリジン、4−メトキシピリジン、2−ジメチルアミノイミダゾール、2−メトキシイミダゾール、イミダゾール、2−メルカプトイミダゾール、2−メチルイミダゾール、アミノキノリン及びグアニジン等。
【0049】
前記重合触媒の使用量は、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり0.1〜300μmolであることが好ましく、0.5〜100μmolであることがより好ましく、1〜50μmolであることが特に好ましい。
【0050】
重合触媒として、長周期型周期表における第2族金属及びリチウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、例えば、マグネシウム化合物、カルシウム化合物及びバリウム化合物からなる群より選ばれた少なくとも1種の金属を含む化合物を用いる場合、特にマグネシウム化合物及び/又はカルシウム化合物を用いる場合は、重合触媒の使用量は、該金属を含む化合物の金属原子量として、反応に使用した全ジヒドロキシ化合物1mol当たり、0.1μmol以上が好ましく、0.3μmol以上がより好ましく、0.5μmol以上が特に好ましい。また上限としては、10μmol以下が好ましく、5μmol以下がより好ましく、3μmol以下が特に好ましい。
【0051】
重合触媒の使用量を上述の範囲に調整することにより、重合速度を高めることができるため、重合温度を必ずしも高くすることなく所望の分子量のポリカーボネート樹脂を得ることが可能になるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化を抑制することができる。ま
た、未反応の原料が重合途中で揮発してジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルのモル比率が崩れてしまうことを防止することができるため、所望の分子量の樹脂をより確実に得ることができる。さらに、副反応の併発を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化又は成形加工時の着色をより一層防止することができる。
【0052】
1族金属の中でもナトリウム、カリウム、又はセシウムがポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響や、鉄がポリカーボネート樹脂の色調へ与える悪影響を考慮すると、ポリカーボネート樹脂(A)中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、1重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂の色調の悪化をより一層防止することができ、ポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂中のナトリウム、カリウム、セシウム、及び鉄の合計含有量は、0.5重量ppm以下であることがより好ましい。なお、これらの金属は使用する触媒からのみではなく、原料又は反応装置から混入する場合がある。出所にかかわらず、ポリカーボネート樹脂中のこれらの金属の化合物の合計量は、ナトリウム、カリウム、セシウム及び鉄の合計の含有量として、上述の範囲にすることが好ましい。
【0053】
(ポリカーボネート樹脂の合成)
ポリカーボネート樹脂は、前記式(1)で表されるジヒドロキシ化合物等のように原料として用いられるジヒドロキシ化合物と、炭酸ジエステルとを、重合触媒の存在下、エステル交換反応により重縮合させることによって得られる。
【0054】
原料であるジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルは、エステル交換反応前に均一に混合することが好ましい。混合の温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、かつ、通常250℃以下、好ましくは200℃以下、更に好ましくは150℃以下の範囲とし、中でも100℃以上120℃以下が好適である。この場合には、溶解速度を高めたり、溶解度を十分に向上させたりすることができ、固化等の不具合を十分に回避することができる。さらに、この場合には、ジヒドロキシ化合物の熱劣化を十分に抑制することができ、結果的に得られるポリカーボネート樹脂の色調をより一層良好なものにすることができると共に、耐候性の向上も可能になる。
【0055】
原料のジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを混合する操作は、酸素濃度10vol%以下、更には0.0001〜10vol%、中でも0.0001〜5vol%、特には0.0001〜1vol%の雰囲気下で行うことが好ましい。この場合には、色調をより良好なものにすることができると共に、反応性を高めることができる。
【0056】
ポリカーボネート樹脂を得るためには、反応に用いる全ジヒドロキシ化合物に対して、炭酸ジエステルを0.90〜1.20のモル比率で用いることが好ましい。この場合には、ポリカーボネート樹脂のヒドロキシ基末端量の増加を抑制することができるため、ポリマーの熱安定性の向上が可能になる。そのため、成形時の着色をより一層防止したり、エステル交換反応の速度を向上させたりすることができる。また、所望の高分子量体をより確実に得ることが可能になる。さらに炭酸ジエステルの使用量を前記範囲内に調整することにより、エステル交換反応の速度が低下を抑制することができ、所望の分子量のポリカーボネート樹脂のより確実な製造が可能になる。また、この場合には、反応時の熱履歴の増大を抑制することができるため、ポリカーボネート樹脂の色調や耐候性をより一層良好なものにすることができる。さらにこの場合には、ポリカーボネート樹脂中の残存炭酸ジエステル量を減少させることができ、成形時の汚れや臭気の発生を回避又は緩和することができる。以上と同様の観点から、全ジヒドロキシ化合物に対する炭酸ジエステル使用量は、モル比率で、0.95〜1.10であることがより好ましい。
【0057】
ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを重縮合させる方法は、上述の触媒存在下、複数の反応器を用いて多段階で実施される。反応の形式は、バッチ式、連続式、あるいはバッチ式と連続式の組み合わせの方法があるが、より少ない熱履歴でポリカーボネート樹脂が得られ、生産性にも優れている連続式を採用することが好ましい。
【0058】
重合速度の制御や得られるポリカーボネート樹脂の品質の観点からは、反応段階に応じてジャケット温度と内温、反応系内の圧力を適切に選択することが重要である。具体的には、重縮合反応の反応初期においては相対的に低温、低真空でプレポリマーを得、反応後期においては相対的に高温、高真空で所定の値まで分子量を上昇させることが好ましい。この場合には、未反応のモノマーの留出を抑制し、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのモル比率を所望の比率に調整し易くなる。その結果、重合速度の低下を抑制することができる。また、所望の分子量や末端基を持つポリマーをより確実に得ることが可能になる。
【0059】
また、重縮合反応における重合速度はヒドロキシ基末端とカーボネート基末端のバランスによって制御される。そのため、未反応モノマーの留出によって末端基のバランスが変動すると、重合速度を一定に制御することが難しくなり、得られる樹脂の分子量の変動が大きくなるおそれがある。樹脂の分子量は溶融粘度と相関するため、得られた樹脂を溶融加工する際に、溶融粘度が変動し、成形品の品質を一定に保つことが難しくなることがある。かかる問題は、特に連続式で重縮合反応を行う場合に起こりやすい。
【0060】
留出する未反応モノマーの量を抑制するためには、重合反応器に還流冷却器を用いることが有効であり、特に未反応モノマーが多い反応初期において高い効果を示す。還流冷却器に導入される冷媒の温度は使用するモノマーに応じて適宜選択することができるが、通常、還流冷却器に導入される冷媒の温度は該還流冷却器の入口において45〜180℃であり、好ましくは80〜150℃、特に好ましくは100〜130℃である。冷媒温度をこれらの範囲に調整することにより、還流量を十分に高め、その効果が十分得られると共に、留去すべきモノヒドロキシ化合物の留去効率を十分に向上させることができる。その結果、反応率の低下を防止することができ、得られる樹脂の着色をより一層防止することができる。冷媒としては、温水、蒸気、熱媒オイル等が用いられ、蒸気、熱媒オイルが好ましい。
【0061】
重合速度を適切に維持し、モノマーの留出を抑制しながら、得られるポリカーボネート樹脂の色調をより良好なものにするためには、前述の重合触媒の種類と量の選定が重要である。
【0062】
ポリカーボネート樹脂は、重合触媒を用いて、通常、2段階以上の工程を経て製造される。重縮合反応は、1つの重縮合反応器を用い、順次条件を変えて2段階以上の工程で行ってもよいが、生産効率の観点からは、複数の反応器を用い、それぞれの条件を変えて多段階で行うことが好ましい。
【0063】
重縮合反応を効率よく行う観点から、反応液中に含まれるモノマーが多い反応初期においては、必要な重合速度を維持しつつ、モノマーの揮散を抑制することが重要である。また、反応後期においては、副生するモノヒドロキシ化合物を十分留去させることにより、平衡を重縮合反応側にシフトさせることが重要になる。従って、反応初期に好適な反応条件と、反応後期に好適な反応条件とは通常異なっている。それ故、直列に配置された複数の反応器を用いることにより、それぞれの条件を容易に変更することができ、生産効率を向上させることができる。
【0064】
ポリカーボネート樹脂の製造に使用される重合反応器は、上述の通り、少なくとも2つ
以上であればよいが、生産効率などの観点からは、3つ以上、好ましくは3〜5つ、特に好ましくは4つである。重合反応器が2つ以上であれば、各重合反応器中で、更に条件の異なる反応段階を複数行ったり、連続的に温度・圧力を変えたりしてもよい。
【0065】
重合触媒は、原料調製槽や原料貯槽に添加することもできるし、重合反応器に直接添加することもできる。供給の安定性、重縮合反応の制御の観点からは、重合反応器に供給される前の原料ラインの途中に触媒供給ラインを設置し、水溶液で重合触媒を供給することが好ましい。
【0066】
重縮合反応の温度を調整することにより、生産性の向上や製品への熱履歴の増大の回避が可能になる。さらに、モノマーの揮散、及びポリカーボネート樹脂の分解や着色をより一層防止することが可能になる。具体的には、第1段目の反応における反応条件としては、以下の条件を採用することができる。即ち、重合反応器の内温の最高温度は、通常150〜250℃、好ましくは160〜240℃、更に好ましくは170〜230℃の範囲で設定する。また、重合反応器の圧力(以下、圧力とは絶対圧力を表す)は、通常1〜110kPa、好ましくは5〜70kPa、さらに好ましくは7〜30kPaの範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.5〜3時間の範囲で設定する。第1段目の反応は、発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ留去しながら実施されることが好ましい。
【0067】
第2段目以降は、反応系の圧力を第1段目の圧力から徐々に下げ、引き続き発生するモノヒドロキシ化合物を反応系外へ除きながら、最終的には反応系の圧力(絶対圧力)を1kPa以下にすることが好ましい。また、重合反応器の内温の最高温度は、通常200〜260℃、好ましくは210〜250℃の範囲で設定する。また、反応時間は、通常0.1〜10時間、好ましくは0.3〜6時間、特に好ましくは0.5〜3時間の範囲で設定する。
【0068】
ポリカーボネート樹脂の着色や熱劣化をより一層抑制し、色調がより一層良好なポリカーボネート樹脂(A)を得るという観点からは、全反応段階における重合反応器の内温の最高温度を210〜240℃とすることが好ましい。また、反応後半の重合速度の低下を抑止し、熱履歴による劣化を最小限に抑えるためには、重縮合反応の最終段階でプラグフロー性と界面更新性に優れた横型反応器を使用することが好ましい。
【0069】
連続重合において、最終的に得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準に制御するには、必要に応じて重合速度を調節することが好ましい。その場合は、最終段の重合反応器の圧力を調整することが操作性の良い方法である。
【0070】
また、前述したようにヒドロキシ基末端とカーボネート基末端の比率によって重合速度が変化するため、あえて片方の末端基を減らして、重合速度を抑制し、その分、最終段の重合反応器の圧力を高真空に保つことで、モノヒドロキシ化合物をはじめとした樹脂中の残存低分子成分を低減することができる。しかし、この場合には、片方の末端が少なくなりすぎると、末端基バランスが少し変動しただけで、極端に反応性が低下し、得られるポリカーボネート樹脂の分子量が所望の分子量に満たなくなるおそれがある。かかる問題を回避するため、最終段の重合反応器で得られるポリカーボネート樹脂は、ヒドロキシ基末端とカーボネート基末端とも10mol/ton以上含有することが好ましい。一方、両方の末端基が多すぎると、重合速度が速くなり、分子量が高くなりすぎてしまうため、片方の末端基は60mol/ton以下であることが好ましい。
【0071】
このようにして、末端基の量と最終段の重合反応器の圧力を好ましい範囲に調整することで、重合反応器の出口において、樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量を低減するこ
とができる。重合反応器の出口における樹脂中のモノヒドロキシ化合物の残存量は、2000重量ppm以下であることが好ましく、1500重量ppm以下であることがより好ましく、1000重量ppm以下であることが更に好ましい。このように、重合反応器の出口におけるモノヒドロキシ化合物の含有量を低減することにより、後の工程においてモノヒドロキシ化合物等の脱揮を容易に行うことができる。
【0072】
モノヒドロキシ化合物の残存量は少ない方が好ましいが、100重量ppm未満まで減らそうとすると、片方の末端基の量を極端に少なくし、重合反応器の圧力を高真空に保つような運転条件を取る必要がある。この場合には、前述のとおり、得られるポリカーボネート樹脂の分子量を一定水準に保つことが難しくなるので、通常100重量ppm以上、好ましくは150重量ppm以上である。
【0073】
副生したモノヒドロキシ化合物は、資源有効活用の観点から、必要に応じて精製を行った後、他の化合物の原料として再利用することが好ましい。例えば、モノヒドロキシ化合物がフェノールである場合、ジフェニルカーボネートやビスフェノールA等の原料として用いることができる。
【0074】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、90℃以上が好ましい。この場合には、前記ポリカーボネート樹脂組成物の耐熱性と生物起源物質含有率とをバランス良く向上させることができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、100℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。一方、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は170℃以下が好ましい。この場合には、前述の溶融重合によって溶融粘度を小さくすることができ、充分な分子量のポリマーを得ることができる。また、重合温度を高くして溶融粘度を下げることにより、分子量を高くしようとした場合には、構成成分(a)の耐熱性が充分でないため、着色し易くなるおそれがある。分子量の向上と着色の防止をよりバランス良く向上できるという観点から、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、165℃以下がより好ましく、160℃以下がさらに好ましく、150℃以下が特に好ましい。
【0075】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度が高いほど分子量が大きいことを示す。還元粘度は、通常0.30dL/g以上であり、0.33dL/g以上が好ましい。この場合には、成形品の機械的強度をより向上させることができる。一方、還元粘度は、通常1.20dL/g以下であり、1.00dL/g以下がより好ましく、0.80dL/g以下が更に好ましい。これらの場合には、成形時の流動性を向上させることができ、生産性や成形性をより向上させることができる。なお、ポリカーボネート樹脂の還元粘度は、塩化メチレンを溶媒として樹脂組成物の濃度を0.6g/dLに精密に調整した溶液を用いて、ウベローデ粘度管により温度20.0℃±0.1℃の条件下で測定した値を使用する。還元粘度の測定方法の詳細は実施例において説明する。
【0076】
ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、400Pa・s以上3000Pa・s以下が好ましい。この場合には、樹脂組成物の成形品が脆くなることを防止し、機械物性をより向上させることができる。さらにこの場合には、成形加工時における流動性を向上させ、成形品の外観が損なわれたり、寸法精度が悪化したりすることを防止することができる。さらにこの場合には、剪断発熱により樹脂温度が上昇することに起因する、着色や発泡をより一層防止することができる。同様の観点から、ポリカーボネート樹脂の溶融粘度は、600Pa・s以上2500Pa・s以下であることがより好ましく、800Pa・s以上2000Pa・s以下であることがさらにより好ましい。なお、本明細書において溶融粘度とは、キャピラリーレオメータ[東洋精機(株)製]を用いて測定される、温度240℃、剪断速度91.2sec-1における溶融粘度をいう。溶融粘度の測定方法の詳細は、後述の実施例において説明する。
【0077】
ポリカーボネート樹脂は、触媒失活剤を含むことが好ましい。触媒失活剤としては、酸性物質で、重合触媒の失活機能を有するものであれば特に限定されないが、例えば、リン酸、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、亜リン酸、オクチルスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、p−トルエンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩のごときホスホニウム塩;デシルスルホン酸テトラメチルアンモニウム塩、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルアンモニウム塩のごときアンモニウム塩;およびベンゼンスルホン酸メチル、ベンゼンスルホン酸ブチル、p−トルエンスルホン酸メチル、p−トルエンスルホン酸ブチル、ヘキサデシルスルホン酸エチルのごときアルキルエステル等を挙げることができる。
【0078】
前記触媒失活剤は、下記構造式(5)または下記構造式(6)で表される部分構造のいずれかを含むリン系化合物(以下、「特定リン系化合物」という。)を含んでいることが好ましい。前記特定リン系化合物は、重縮合反応が完了した後、即ち、例えば混練工程やペレット化工程等の際に添加することにより後述する重合触媒を失活させ、それ以降に重縮合反応が不要に進行することを抑制できる。その結果、成形工程等においてポリカーボネート樹脂が加熱された際の重縮合の進行を抑制でき、ひいては前記モノヒドロキシ化合物の脱離を抑制することができる。また、重合触媒を失活させることにより、高温下でのポリカーボネート樹脂の着色をより一層抑制することができる。
【0079】
【化7】
【0080】
【化8】
【0081】
前記構造式(5)または構造式(6)で表される部分構造を含む特定リン系化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸、次亜リン酸、ポリリン酸、ホスホン酸エステル、酸性リン酸エステル等を採用することができる。特定リン系化合物のうち、触媒失活と着色抑制の効果がさらに優れているのは、亜リン酸、ホスホン酸、ホスホン酸エステルであり、特に亜リン酸が好ましい。
【0082】
ホスホン酸としては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸(亜リン酸)、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、ビニルホスホン酸、デシルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホ
ン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、4−メトキシフェニルホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、プロピルホスホン酸無水物等。
【0083】
ホスホン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。ホスホン酸ジメチル、ホスホン酸ジエチル、ホスホン酸ビス(2−エチルヘキシル)、ホスホン酸ジラウリル、ホスホン酸ジオレイル、ホスホン酸ジフェニル、ホスホン酸ジベンジル、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジフェニル、エチルホスホン酸ジエチル、ベンジルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジメチル、フェニルホスホン酸ジエチル、フェニルホスホン酸ジプロピル、(メトキシメチル)ホスホン酸ジエチル、ビニルホスホン酸ジエチル、ヒドロキシメチルホスホン酸ジエチル、(2−ヒドロキシエチル)ホスホン酸ジメチル、p−メチルベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸エチル、ジエチルホスホノ酢酸tert−ブチル、(4−クロロベンジル)ホスホン酸ジエチル、シアノホスホン酸ジエチル、シアノメチルホスホン酸ジエチル、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸ジエチル、ジエチルホスホノアセトアルデヒドジエチルアセタール、(メチルチオメチル)ホスホン酸ジエチル等。
【0084】
酸性リン酸エステルとしては、例えば以下の化合物を採用することができる。リン酸ジメチル、リン酸ジエチル、リン酸ジビニル、リン酸ジプロピル、リン酸ジブチル、リン酸ビス(ブトキシエチル)、リン酸ビス(2−エチルヘキシル)、リン酸ジイソトリデシル、リン酸ジオレイル、リン酸ジステアリル、リン酸ジフェニル、リン酸ジベンジルなどのリン酸ジエステル、又はジエステルとモノエステルの混合物、クロロリン酸ジエチル、リン酸ステアリル亜鉛塩等。
【0085】
前記特定リン系化合物は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0086】
前記ポリカーボネート樹脂中の特定リン系化合物の含有量は、リン原子として0.1重量ppm以上5重量ppm以下であることが好ましい。この場合には、前記特定リン系化合物による触媒失活や着色抑制の効果を十分に得ることができる。また、この場合には、特に高温・高湿度での耐久試験において、ポリカーボネート樹脂の着色をより一層防止することができる。
【0087】
また、前記特定リン系化合物の含有量を重合触媒の量に応じて調節することにより、触媒失活や着色抑制の効果をより確実に得ることができる。前記特定リン系化合物の含有量は、重合触媒の金属原子1molに対して、リン原子の量として0.5倍mol以上5倍mol以下とすることが好ましく、0.7倍mol以上4倍mol以下とすることがより好ましく、0.8倍mol以上3倍mol以下とすることが特に好ましい。
【0088】
[成分(Y)]
本発明で使用する成分(Y)は、以下のAブロック及びBブロックからなるブロック共重合体およびこの水添ブロック共重合体の少なくとも一方である。
Aブロック:ビニル基を有する芳香族炭化水素の重合体
Bブロック:分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体
【0089】
上記ブロック共重合体において、ビニル基を有する芳香族炭化水素の重合体であるAブロックはハードセグメント、分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体であるBブロックはソフトセグメントを構成する。
【0090】
ブロック共重合体の代表例は、A−BまたはA−B−Aで表される共重合構造を有し、
Aおよび/またはBブロックの二重結合が部分的にあるいは完全に水素添加されていてもよいブロック共重合体であって、一般にスチレン系熱可塑性エラストマーとして知られている。
【0091】
上記のAブロックにおけるビニル基を有する芳香族炭化水素としては、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、4−モノクロロスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−ヒドロキシメチルスチレン、4−t−ブトキシスチレン、ジクロロスチレン、4−モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が挙げられ、スチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、4−クロロメチルスチレン、ビニルナフタレンが好ましく用いられ、さらにスチレン、α−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−t−ブチルスチレンが好ましく用いられ、最も好ましくはスチレンが用いられる。これらのビニル基を有する芳香族炭化水素は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
上記のBブロックを構成する分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体としては、エラストマー性が発現される限り、その種類は特に制限されず、分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体の構成単位が、分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素に由来する構成単位を含んでいればよい。
前記分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の炭素数は、特に限定されないが、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、6以下がさらに好ましい。
前記分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の二重結合の数は、B成分のエラストマー性を高める観点から、好ましくは2つ以下である。二重結合の数が1つの場合は、分子鎖が長いと重合体形成に不利に働くので、前記鎖状炭化水素の炭素数は4以下であることが好ましい。さらにこの二重結合については、部分的あるいは完全に水素添加されていてもよい。
好ましいBブロックを構成する分子内に二重結合を有する鎖状の不飽和炭化水素の重合体の態様としては、例えばエチレン、イソブチレン、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンのうち1種以上のモノマーに由来する構造単位を含む重合体およびその部分あるいは完全水素添加体であることが好ましい。その中でも、得られるポリカーボネート樹脂組成物の透明性、色調の観点から、イソブチレンに由来する構造単位を含む重合体がより好ましい。
【0093】
ブロック共重合体中のAブロックの割合は、上限として、好ましくは50重量%以下、より好ましくは45重量%以下、さらに好ましくは40重量%以下、特に好ましくは35重量%以下である。Aブロックの含有量が前記上限以下であることにより、成分(X)のポリカーボネート樹脂が有する種々の特性を損なうことなく、耐衝撃性等の機械物性の向上が可能となる。
一方で、ブロック共重合体中のAブロックの割合は、下限として、好ましくは10重量%以上、好ましくは12重量%以上、特に好ましくは15重量%以上である。Aブロックの割合が前記下限未満では、柔軟性、ゴム弾性が劣るため、十分な衝撃改質能が得られない可能性がある。
【0094】
また、前記の成分(Y)は上記ブロック共重合体を水素添加して得られる水添ブロック共重合体であることが望ましい。Aブロック中の芳香環の水素転化率は、上限は水素添加した場合は、通常100%以下となる。30%以上、好ましくは50%以上、さらに好ましくは90%以上である。水素添加率が前記範囲未満では得られるポリカーボネート樹脂組成物の透明性、色調が劣る傾向となる。
【0095】
本発明で用いる成分(Y)のブロック共重合体は、透明性、光学特性、柔軟性、機械物性、成形性、耐熱性、耐湿熱性、および耐乾熱性にバランスよく優れるものである。このブロック共重合体は、また、成分(X)のポリカーボネート樹脂との相溶性も良好であり、ポリカーボネート樹脂との樹脂組成物としてもポリカーボネート樹脂本来の透明性を損なうことがなく、また、ブロック共重合体とポリカーボネート樹脂は、屈折率が近似しているため、透明性に優れた樹脂組成物とすることができる。このため、本発明によれば、柔軟で成形性に優れる上に、耐衝撃性、透明性に優れた樹脂組成物を提供することができる。
【0096】
ブロック共重合体の水素化方法としては、上記の構造が得られるものであればどのような製造方法を用いてもよい。例えば、特開平11−100420号公報に記載される方法により、ルイス酸触媒等を用いて有機溶媒中でカチオン重合を行うことによって得られるビニル芳香族系ブロック共重合体の芳香環を水素化することによって得ることができる。
【0097】
ブロック共重合体の芳香環の水素化方法や反応形態などは特に限定されず、公知の方法に従って行えばよいが、水素化率を高くすることができ、また、重合体鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような好ましい水素化方法としては、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウムなどから選ばれる少なくとも1種の金属を含む触媒を用いて行う方法が挙げられる。この水素化触媒は、不均一系触媒、均一系触媒のいずれも使用可能であり、水素化反応は有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0098】
不均一系触媒は、金属又は金属化合物のままで、又は適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素、フッ化カルシウムなどが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。触媒成分の担持量は、触媒成分と担体との合計量に対して通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上で、通常60重量%以下、好ましくは50重量%以下である。
【0099】
均一系触媒としては、ニッケル、コバルト、チタン又は鉄などの金属化合物と、有機アルミニウムや有機リチウムのような有機金属化合物とを組み合わせた触媒;ロジウム、パラジウム、ルテニウム、レニウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウムなどの有機金属錯体などを用いることができる。
【0100】
上記金属化合物としては、各金属のアセチルアセトン塩、ナフテン酸塩、シクロペンタジエニル化合物、シクロペンタジエニルジクロロ化合物などが用いられる。有機アルミニウムとしては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリドなどのハロゲン化アルキルアルミニウム;ジイソブチルアルミニウムハイドライドなどの水素化アルキルアルミニウムなどが使用される。
【0101】
有機金属錯体としては、上記各金属のγ−ジクロロ−π−ベンゼン錯体、ジクロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体、ヒドリド−クロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体などが挙げられる。
【0102】
これらの水素化触媒は、それぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。水素化触媒の使用量は、ビニル芳香族系ブロック共重合体100重量部当たりの触媒有効成分量として、通常0.001重量部以上、好ましくは0.005重量部以上、より好ましくは0.01重量部以上で、通常50重量部以下、好ましくは30重量部以下、より好ましくは15重量部以下である。
【0103】
水素化反応は、5〜25MPaの圧力、100〜200℃の温度下にて、溶媒としてシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、n−オクタン、デカリン、テトラリン、ナフサ等の飽和炭化水素系溶媒あるいは、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒を用いて行なうことが好ましい。溶媒の使用量には特に制限はないが、通常、ブロック共重合体100重量部に対して100重量部以上、1000重量部以下である。
【0104】
上記水素化反応終了後に水素化ブロック共重合体を回収する方法は、特に限定されない。回収方法としては、通常、濾過、遠心分離等の方法により水素化触媒残渣を除去した後、水素化ブロック共重合体が溶解した溶液から、スチームストリッピングにより溶媒を除去するスチーム凝固法、減圧加熱下で溶媒を除去する直接脱溶媒法、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、水、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の、水素化ブロック共重合体の貧溶媒中に溶液を注いで水素化ブロック共重合体を析出、凝固させる凝固法などの公知の方法を採用することができる。
【0105】
ブロック共重合体は、テトラヒドロフランを溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、好ましくは10000以上、より好ましくは30000以上、更に好ましくは50000以上であり、一方、好ましくは200000以下、より好ましくは150000以下、更に好ましくは130000以下である。ブロック共重合体のMwが上記下限値以上であることにより、得られる成形体の機械強度、耐熱性、成形性が良好なものとなる傾向にあり、上記上限値以下であることにより、加工時の溶融粘度が下がり、成形性が良好なものとなる傾向にある。
【0106】
ブロック共重合体の分子量分布は、使用目的に応じて適宜選択できるが、上記のGPCにより測定されるポリスチレン換算のMwと数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で、好ましくは4以下、より好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。Mw/Mnが上記上限値以下であると、成形性や耐熱性、透明性などに優れる成形体が得られやすいために好ましい。
【0107】
[その他の成分]
本発明の樹脂組成物は、前記の成分(X)と成分(Y)以外にその他の成分を含んでいてもよい。
【0108】
添加剤としては、酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、フィラーなどの充填剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、架橋剤、架橋助剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤、有機拡散剤や無機拡散剤等の光拡散剤等が挙げられる。
【0109】
[ポリカーボネート系樹脂組成物の物性]
<ガラス転移温度>
ポリカーボネート系樹脂組成物においては、DSC法で測定したガラス転移温度のピークが単一であることが好ましい。また、ポリカーボネート樹脂組成物のガラス転移温度は、100℃以上200℃以下が好ましい。この場合には、耐熱性をより向上させることができるため、成形品の変形をより防止することができる。また、この場合には、樹脂組成物の製造時における成分(X)の熱劣化をより一層抑制することができ、耐衝撃性をより向上させることができる。さらに、成形時における樹脂組成物の熱劣化をより一層抑制することができる。同様の観点から、ポリカーボネート系樹脂組成物のガラス転移温度は、110℃以上190℃以下がより好ましく、120℃以上180℃以下がさらに好ましい。
【0110】
<衝撃強度>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物の衝撃強度は、例えば、後掲の実施例で詳述するノッチ付シャルピー衝撃強度試験で評価することができる。ノッチの先端半径Rが0.50mmノッチ付シャルピー衝撃強度は好ましくは10kJ/m以上、より好ましくは15
kJ/m以上、さらに好ましくは20kJ/m以上、特に好ましくは30kJ/m
上である。この範囲であることにより、優れた耐衝撃性を有する。
【0111】
<全光線透過率>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物の全光線透過率は、例えば、後掲の実施例で詳述する全光線透過率の測定方法で評価することができる。全光線透過率の値としては、好ましくは90%以上である。この範囲であることにより、優れた透明性を有する。
【0112】
<色調>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物の色調は、例えば、後掲の実施例で詳述する黄色度YI値の測定方法で評価することができる。黄色度YI値としては、好ましくは
5.0以下、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。この範囲であることにより、優れた透明性を有する。
【0113】
<長期耐湿熱性>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物の長期耐湿熱性は、例えば、後掲の実施例で詳述する長期耐湿熱性の測定方法で評価することができる。本評価において、ΔYI値が小さいほど、高温高湿環境下で長期使用した際の色調変化が小さく、長期使用に耐え得る耐湿熱性を有することを示す。本評価における好ましいΔYI値は5.0以下であり、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。この範囲であることにより、優れた長期耐湿熱性を有する。
【0114】
<長期耐乾熱性>
前記ポリカーボネート系樹脂組成物の長期耐乾熱性は、例えば、後掲の実施例で詳述する長期耐乾熱性の測定方法で評価することができる。本評価において、ΔYI値が小さいほど、高温乾燥環境下で長期使用した際の色調変化が小さく、長期使用に耐え得る耐乾熱性を有することを示す。本評価における好ましいΔYI値は5.0以下であり、より好ましくは3.0以下、特に好ましくは2.0以下である。この範囲であることにより、優れた長期耐乾熱性を有する。
【0115】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物は、例えば上記の各成分を機械的に溶融混練する方法によって製造することができる。ここで用いることができる溶融混練機としては、例えば単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダーブレンダー、ロールミル等を挙げることができる。混練温度の下限は、通常100℃以上、好ましくは145℃以上、より好ましくは160℃以上である。混練温度の上限は、通常350℃、好ましくは300℃、より好ましくは250℃である。混練に際しては、各成分を一括して混練しても、また任意の成分を混練した後、他の残りの成分を添加して混練する多段分割混練法を用いてもよい。
【0116】
[樹脂組成物の成形方法]
本発明の樹脂組成物は、例えば射出成形(インサート成形法、二色成形法、サンドイッチ成形法、ガスインジェクション成形法等)、押出成形法、インフレーション成形法、Tダイフィルム成形法、ラミネート成形法、ブロー成形法、中空成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等の成形法により種々の成形体に加工することができる。成形体の形状には
特に制限はなく、シート、フィルム、板状、粒子状、塊状体、繊維、棒状、多孔体、発泡体等が挙げられ、好ましくはシート、フィルム、板状である。また、成形されたフィルムは一軸あるいは二軸延伸することも可能である。延伸法としては、ロール法、テンター法、チューブラー法等が挙げられる。さらに、通常工業的に利用されるコロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、オゾン処理等の表面処理を施すこともできる。
【0117】
[用途]
本発明の樹脂組成物を含む成形体の用途は特に限定されないが、一例として、下記のような用途を挙げることができる。すなわち、電気・電子部品分野における電線、コード類、ワイヤーハーネス等の被覆材料、絶縁シート、OA機器のディスプレイやタッチパネル、メンブレンスイッチ、写真カバー、リレー部品、コイルボビン、ICソケット、ヒューズケース、カメラ圧板、FDDコレット、フロッピーハブ、光学部品分野における光ディスク基板、光ディスク用ピックアップレンズ、光学レンズ、LCD基板、PDP基板、プロジェクションテレビ用テレビスクリーン、位相差フィルム、フォグランプレンズ、照光スイッチレンズ、センサースイッチレンズ、フルネルレンズ、保護メガネ、プロジェクションレンズ、カメラレンズ、サングラス、導光板、カメラストロボリフレクター、LEDリフレクター、自動車部品におけるヘッドランプレンズ、ウインカーランプレンズ、テールランプレンズ、樹脂窓ガラス、メーターカバー、外板、ドアハンドル、リアパネル、ホイールキャップ、バイザー、ルーフレール、サンルーフ、インパネ、パネル類、コントロールケーブル被覆材、エアーバッグ・カバー、マッドガード、バンパー、ブーツ、エアホース、ランプパッキン類、ガスケット類、ウィンドウモール等の各種モール、サイトシールド、ウェザーストリップ、グラスランチャンネル、グロメット類、制震・遮音部材、建材分野における目地材、手すり、窓、テーブルエッジ材、サッシ、浴槽、窓枠、看板、照明カバー、水槽、階段腰板、カーポート、高速道路遮音壁、マルチウォールシート、鋼線被覆材、照明灯グローブ、スイッチブレーカー、工作機械の保護カバー、工業用深絞り真空成形容器、ポンプハウジング、家電、弱電分野における各種パッキン類、グリップ類、ベルト類、足ゴム、ローラー、プロテクター、吸盤、冷蔵庫等のガスケット類、スイッチ類、コネクターカバー、ゲーム機カバー、パチンコ台、OAハウジング、ノートPCハウジング、HDDヘッド用トレー、計器類の窓、透明ハウジング、OA用ギア付きローラー、スイッチケーススライダー、ガスコックつまみ、時計枠、時計輪列中置、アンバーキャップ、OA機器用各種ロール類、ホース、チューブ等の管状成形体、異型押し出し品、レザー調物品、咬合具、ソフトな触感の人形類等の玩具類、ペングリップ、ストラップ、吸盤、時計、傘骨、化粧品ケース、ハブラシ柄等の一般雑貨類、ハウスウェア、タッパーウェア等の容器類、結束バンド、ブロー成形による輸液ボトル、食品用ボトル、ウォーターボトル、化粧品用等のパーソナルケア用のボトル等各種ボトル、医療用部品におけるカテーテル、シリンジ、シリンジガスケット、点滴筒、チューブ、ポート、キャップ、ゴム栓、ダイヤライザー、血液コネクター、義歯、ディスポーザブル容器等、が挙げられ、また、発泡成形による用途にも適用可能である。
上記のうち、特にチューブでは、薬効成分の吸着を防止できる医療用チューブに好適であり、多層チューブの場合は、その内層材または中間層材に最適である。
【0118】
本発明の樹脂組成物を含む成形体のフィルム・シート分野における用途は特に限定されないが、一例として、下記のような用途を挙げることができる。すなわち、包装用ストレッチフィルム、業務用又は家庭用ラップフィルム、パレットストレッチフィルム、ストレッチラベル、シュリンクフィルム、シュリンクラベル、シーラント用フィルム、レトルト用フィルム、レトルト用シーラントフィルム、保香性ヒートシールフィルム、A−PET用シーラント、冷凍食品用容器・蓋、キャップシール、熱溶着フィルム、熱接着フィルム、熱封緘用フィルム、バッグ・イン・ボックス用シーラントフィルム、レトルトパウチ、スタンディングパウチ、スパウトパウチ、ラミネートチューブ、重袋、繊維包装フィルム等の食品、雑貨等包装分野、ハウス用フィルム、マルチフィルム等の農業用フィルム分野
、輸液バッグ、高カロリー輸液や腹膜透析用(CAPD)、抗生物質キットバッグ等の複室容器、腹膜透析用の排液バッグ、血液バッグ、尿バッグ、手術用バッグ、アイス枕、アンプルケース、PTP包装等の医療用フィルム・シート分野、土木遮水シート、止水材、マット、目地材、床材、ルーフィング、化粧フィルム、表皮フィルム、壁紙等の建材関連分野、レザー、天井材、トランクルーム内張、内装表皮材、制震シート、遮音シート等の自動車部品分野、ディスプレーカバー、バッテリーケース、マウスパッド、携帯電話ケース、ICカード入れ、フロッピーディスクケース、CD−ROMケース等の弱電分野、ハブラシケース、パフケース、化粧品ケース、目薬等医薬品ケース、ティッシュケース、フェイスパック等のトイレタリー又はサニタリー分野、文具用フィルム・シート、クリアファイル、ペンケース、手帳カバー、デスクマット、キーボードカバー、ブックカバー、バインダー等の事務用品関連分野、家具用レザー、ビーチボール等の玩具、傘、レインコート等の雨具、テーブルクロス、ブリスターパッケージ、風呂蓋、タオルケース、ファンシーケース、タグケース、ポーチ、お守り袋、保険証カバー、通帳ケース、パスポートケース、刃物ケース等の一般家庭用、雑貨分野、再帰反射シート、合成紙等が挙げられる。また、粘着剤組成物として、あるいは基材に粘着材が塗布されて粘着性が付与されたフィルム・シート分野として、キャリアテープ、粘着テープ、マーキングフィルム、半導体又はガラス用ダイシングフィルム、表面保護フィルム、鋼鈑・合板保護フィルム、自動車保護フィルム、包装・結束用粘着テープ、事務・家庭用粘着テープ、接合用粘着テープ、塗装マスキング用粘着テープ、表面保護用粘着テープ、シーリング用粘着テープ、防食・防水用粘着テープ、電気絶縁用粘着テープ、電子機器用粘着テープ、貼布フィルム、バンソウコウ基材フィルム等医療・衛生材用粘着テープ、識別・装飾用粘着テープ、表示用テープ、包装用テープ、サージカルテープ、ラベル用粘着テープ等が挙げられる。
【0119】
[フィルム]
本発明の樹脂組成物は、特にその優れた透明性、色調、機械物性、耐熱性、耐湿熱性、および耐乾熱性から、上記の各種用途のうち、フィルムの成形材料として有用である。
【0120】
本発明の樹脂組成物を含むフィルムは、本発明の樹脂組成物よりなる単層フィルムであってもよく、他の樹脂組成物との共押出により成形された2層以上の積層フィルムであってもよい。
このようなフィルムは、後述の容器に加工成形するための原反フィルムとして、或いは、電子機器や携帯電話、スマートフォン等の表示面の保護フィルム等として有用であり、その優れた透明性によりフィルム下の表示面の視認性を損なうことがなく、また、その優れた耐衝撃性から機器類の保護効果に優れたものとなる。さらには、優れた長期耐湿熱性および長期耐乾熱性から、様々な環境下での長期使用にも耐え得ることができる。
【実施例】
【0121】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0122】
なお、以下において、各種物性の測定は、下記の方法に従って行った。
【0123】
(1)分子量:
水素化ブロック共重合体又はブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を使用し、下記条件で標準ポリスチレン換算にて求めた。
装置:日本ウォーターズ(株)製Waters 2690
検出器(RI検出):日本ウォーターズ(株)製Waters 2410
カラム:昭和電工株式会社製Shodex KF−604・KF−603・
KF−602.50の各1本を3本直列に連結したものを用いた。
溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.7mL/min
温度:40℃
【0124】
(2)水素化率:
水素化ブロック共重合体の芳香環の水素化率(モル%)は、H−NMRスペクトルを測定して算出した。
【0125】
(3)ノッチ付シャルピー衝撃試験
下記で得られた機械物性用ISO試験片についてISO179(2000年)に準拠してノッチ付シャルピー衝撃試験を実施した。ノッチに関しては先端半径Rについて0.50mmについて測定を行った。なお、ノッチ付シャルピー衝撃強度は数値が大きいほど耐衝撃強度に優れるが、本発明ではノッチの先端半径Rが0.50mmの場合、成分(X)に対して、成分(Y)および他の樹脂成分の少なくとも一方を含むことにより、成分(X)よりもノッチ付シャルピー衝撃強度の値が向上したものを合格とした。
【0126】
(4)全光線透過率、Hazeの測定:
ポリカーボネート系透明樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機((株)松井製作所製 箱型乾燥機PO−80)を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。JIS K7136(2000年)に準拠し、日本電色工業(株)製ヘーズメータ「NDH2000」を使用し、D65光源にて、射出成形板の全光線透過率およびHazeを測定した。全光線透過率が大きいものほど透明性に優れたものと評価される。また、Hazeの値が小さいものほど光学特性が良好であると評価される。なお、本実施例では全光線透過率は、90%以上を合格とした。
【0127】
(5)黄色度YI値の測定
ポリカーボネート系透明樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機((株)松井製作所製 箱型乾燥機PO−80)を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。JIS K7136(2000年)に準拠し、日本電色工業(株)製測色色差計「ZE−2000」を使用し、C光源にて、射出成形板のYIを測定した。なお、本実施例ではYI値は、5.0以下を合格とした。
【0128】
(6)長期耐湿熱性
ポリカーボネート系透明樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機((株)松井製作所製 箱型乾燥機PO−80)を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。この成形板について、幅50mm×長さ50mmに切削した後、楠本化成(株)製 ETAC HIFLEX FX224Pにて、85℃、相対湿度85%の条件にて、960時間静置処理した。
処理前後のYI変化(ΔYI)について、JIS K7136(2000年)に準拠し、日本電色工業(株)製測色色差計「ZE−2000」を使用し、C光源にて、射出成形板のYIを測定した。
本評価において、ΔYI値が小さいほど、高温高湿環境下で長期使用した際の色調変化が小さく、耐湿熱性に優れることを示す。尚、本実施例においては、本評価におけるΔYI値が5.0以下を耐湿熱性に優れるとした。
【0129】
(7)長期耐乾熱性
ポリカーボネート系透明樹脂組成物のペレットを、熱風乾燥機((株)松井製作所製 箱型乾燥機PO−80)を用いて、90℃で4時間以上乾燥した。次に、乾燥したペレットを射出成形機(日本製鋼所製J75EII型)に供給し、樹脂温度240℃、金型温度60℃、成形サイクル50秒間の条件で成形を行うことにより、射出成形板(幅100mm×長さ100mm×厚さ2mm)を得た。この成形板について、幅50mm×長さ50mmに切削した後、東京理化器械(株)製 バキュームオーブンVOS−301SDにて、85℃、減圧操作を実施しない条件にて、960時間静置処理した。
処理前後のYI変化(ΔYI)について、JIS K7136(2000年)に準拠し、日本電色工業(株)製測色色差計「ZE−2000」を使用し、C光源にて、射出成形板のYIを測定した。
本評価において、ΔYI値が小さいほど、高温乾燥環境下で長期使用した際の色調変化が小さく、耐熱性に優れることを示す。尚、本実施例においては、本評価におけるΔYI値が5.0以下を耐乾熱性に優れるとした。
【0130】
[ポリカーボネート樹脂(PC−1、PC−2)の製造例]
[使用原料]
以下の製造例で用いた化合物の略号、および製造元は次の通りである。
<ジヒドロキシ化合物>
・ISB:イソソルビド[ロケットフルーレ社製]
・CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール[SKChemical社製]
・TCDDM:トリシクロデカンジメタノール[OXEA社製]
<炭酸ジエステル>
・DPC:ジフェニルカーボネート[三菱化学(株)製]
<触媒失活剤>
・亜リン酸[太平化学産業(株)製](分子量82.0)
<熱安定剤(酸化防止剤)>
・Irganox1010:ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][BASF社製]
・AS2112:トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト[(株)ADEKA製](分子量646.9)
<離型剤>
・E−275:エチレングリコールジステアレート[日油(株)製]
【0131】
[製造例1 ポリカーボネート樹脂(PC−1)]
竪型攪拌反応器3器と横型攪拌反応器1器、並びに二軸押出機からなる連続重合設備を用いて、ポリカーボネート樹脂の重合を行った。具体的には、まず、ISB、CHDM、及びDPCをそれぞれタンクで溶融させ、ISBを35.2kg/hr、CHDMを14.9kg/hr、DPCを74.5kg/hr(モル比でISB/CHDM/DPC=0.700/0.300/1.010)の流量で第1竪型攪拌反応器に連続的に供給した。同時に、触媒としての酢酸カルシウム1水和物の添加量が全ジヒドロキシ化合物1molに対して1.5μmolとなるように酢酸カルシウム1水和物の水溶液を第1竪型攪拌反応器に供給した。各反応器の反応温度、内圧、滞留時間はそれぞれ、第1竪型攪拌反応器:190℃、25kPa、90分、第2竪型攪拌反応器:195℃、10kPa、45分、第3竪型攪拌反応器:210℃、3kPa、45分、第4横型攪拌反応器:225℃、0.5kPa、90分とした。得られるポリカーボネート樹脂の還元粘度が0.41dL/g〜0.43dL/gとなるように、第4横型攪拌反応器の内圧を微調整しながら運転を行った。
【0132】
第4横型攪拌反応器より60kg/hrの量でポリカーボネート樹脂を抜き出し、続いて樹脂を溶融状態のままベント式二軸押出機[(株)日本製鋼所製TEX30α、L/D:42.0、L(mm):スクリュの長さ、D(mm):スクリュの直径]に供給した。押出機を通過したポリカーボネート樹脂を、引き続き溶融状態のまま、目開き10μmのキャンドル型フィルター(SUS316製)に通して、異物を濾過した。その後、ダイスからストランド状にポリカーボネート樹脂を排出させ、水冷、固化させた後、回転式カッターでペレット化し、ISB/CHDMのモル比が70/30mol%のポリカーボネート樹脂を得た。表−1において、得られたポリカーボネート樹脂を「(PC−1)」と表記した。
【0133】
前記押出機は3つの真空ベント口を有しており、ここで樹脂中の残存低分子成分を脱揮除去した。第2ベントの手前で樹脂に対して2000重量ppmの水を添加し、注水脱揮を行った。第3ベントの手前でIrganox1010、AS2112、E−275をポリカーボネート樹脂100重量部に対して、それぞれ0.1重量部、0.05重量部、0.3重量部を添加した。以上により、ISB/CHDM共重合体ポリカーボネート樹脂ペレットを得た。前記ポリカーボネート樹脂に対して、触媒失活剤として0.65重量ppmの亜リン酸(リン原子の量として0.24重量ppm)を添加した。なお、亜リン酸は次のようにして添加した。製造例1において得られたポリカーボネート樹脂のペレットに、亜リン酸のエタノール溶液をまぶして混合したマスターバッチを調製し、押出機の第1ベント口の手前(押出機の樹脂供給口側)から、押出機中のポリカーボネート樹脂100重量部に対して、マスターバッチを1重量部となるように供給した。
【0134】
[製造例2 ポリカーボネート樹脂(PC−2)]
製造例1において、仕込み組成をISB/TCDDM/DPC/酢酸カルシウム1水和物=0.70/0.30/1.00/1.3×10-6になるように変更した以外は、製造例1と同様に共重合ポリカーボネート樹脂を得た。表−1において、得られたポリカーボネート樹脂を「(PC−2)」と表記した。
[水素化ブロック共重合体(BP−2)の製造例]
[製造例3 ブロック共重合体の製造(BP−2)]
攪拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、ポリスチレンブロック含有量が30重量%で、Mw=111000、Mn=82100のポリスチレンブロック−ポリイソブチレンブロック−ポリスチレンブロックの共重合体25重量部及びテトラヒドロフラン75重量部からなる溶液と、水素化触媒として5重量%パラジウム担持活性炭触媒4重量部を入れて混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素ガスを供給し、温度170℃、圧力10MPaにて4.5時間水素化反応を行った。
水素化反応終了後、反応液をテトラヒドロフラン100重量部で希釈し、その溶液を濾過して水素化触媒を除去した。濾液をメタノール1200重量部中へ攪拌しながら注ぎ、析出した水素化ブロック共重合体を濾過により分離後、減圧乾燥機により乾燥させた。
このようにして得られた水素化ブロック共重合体は、下記式で表され、重量平均分子量(Mw)は103000、数平均分子量(Mn)は78200であった(Mw/Mn=1.3)。また、Aブロックの水素化率は97%であった。表−1において、得られた水素化ブロック共重合体を「(BP−2)」と表記した。
【化9】
【0135】
[実施例・比較例使用原料]
以下の実施例・比較例で用いた化合物の略号は次の通りである。
・ ポリカーボネート樹脂
PC−1:製造例1で製造したポリカーボネート樹脂
PC−2:製造例2で製造したポリカーボネート樹脂
・ ブロック共重合体
BP−1:水添スチレン−イソプレン−ブタジエン−ポリスチレン共重合体 [(株)ク
ラレ製 セプトン HG−252](ポリスチレンブロック含有量:28重量%)
BP−2:製造例3で製造したブロック共重合体
BP−3:水添スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体 [ クレイトンポ
リマージャパン(株)社製 クレイトンG1643] (ポリスチレンブロック含有量:16.6〜20.6重量%)
・ コアシェルゴム
CS−1:メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン系ゴム [アルケマ(株)製 クリアストレングスE−950]
【0136】
[実施例1]
製造例1で得られたポリカーボネート樹脂ペレットPC−1 2850重量部とブロック共重合体BP−1 150重量部をブレンドした後、真空ベントを設けた30mm二軸押出機(テクノベル(株)製KZW−15−30MG)を使用して樹脂中の残存低分子成分を脱揮除去しながら 230℃にて押出を行い、ポリカーボネート樹脂組成物ペレットを得た。次いで、得られたペレットを温度90℃の熱風乾燥機で5時間乾燥した後、75トン射出成形機(東芝機械(株)社製 EC−75)を用いて、ペレットの射出成形を行った。成形条件は、金型温度:60℃、シリンダー温度:240℃である。このようにして、幅100mm×長さ100mm×厚さ2mmの板状の成形体からなる試験片および同様に成形を行うことにより、ISO引張試験片を得た。得られたISO引張試験片について、0.5mmノッチを付けたシャルピー衝撃試験片を切り出し、シャルピー衝撃試験を実施した。また、板状の成形品について、幅50mm×長さ50mmに切削したサンプルについて全光線透過率、Haze、YIの測定を行った。
【0137】
[実施例2〜3、比較例3〜4]
表1に記載した組成に変更した以外は実施例1と同様の操作を実施した。
【0138】
[比較例1]
製造例1で製造したポリカーボネート樹脂PC−1のペレットについて、温度90℃の熱風乾燥機で5時間乾燥した後、75トン射出成形機(東芝機械(株)社製 EC−75)を用いて、ペレットの射出成形を行った。成形条件は、金型温度:60℃、シリンダー温度:240℃である。このようにして、幅100mm×長さ100mm×厚さ2mmの板状の成形体からなる試験片および同様に成形を行うことにより、ISO引張試験片を得
た。得られたISO引張試験片について、0.5mmノッチを付けたシャルピー衝撃試験片を切り出し、シャルピー衝撃試験を実施した。また、板状の成形品について、幅50mm×長さ50mmに切削したサンプルについて全光線透過率、Haze、YIの測定を行った。
【0139】
[比較例2]
比較例1において、用いたポリカーボネート樹脂をPC−2に変更した以外は、比較例1と同様の操作を実施した。
【0140】
【表1】
【0141】
表1より、本発明の樹脂組成物は、耐衝撃性、透明性(全光線透過率)、色調、耐湿熱性、および耐乾熱性の全てに優れることが分かる。これに対して、ブロック共重合体を含まない比較例1および比較例2では、実施例1〜3に比べて耐衝撃性に劣る。また、比較
例3は耐衝撃性に優れるが、実施例1に比べて透明性、光学特性および色調に劣る。比較例4は耐衝撃性に優れるが、実施例2に比べて色調、長期耐湿熱性、および長期耐乾熱性に劣る。