特許第6787025号(P6787025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787025
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】多孔フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20201109BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20201109BHJP
   C08L 53/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   C08J9/00 ACES
   C08J9/00CET
   C08L23/04
   C08L53/00
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-201418(P2016-201418)
(22)【出願日】2016年10月13日
(65)【公開番号】特開2017-75311(P2017-75311A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2019年5月29日
(31)【優先権主張番号】特願2015-201721(P2015-201721)
(32)【優先日】2015年10月13日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】小井土 俊介
(72)【発明者】
【氏名】瀬尾 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】根本 友幸
【審査官】 加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−145998(JP,A)
【文献】 特開2011−246539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00
C08L 23/04
C08L 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.955〜0.970g/cmであるポリエチレン系樹脂(A)55〜85重量部とビニル芳香族エラストマー(B)15〜45重量部の割合でそれぞれ含み(ただし、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計で100重量部となる。)、空孔率が50%以上であり、透気度が200秒/100ml以下であり、
前記ビニル芳香族エラストマー(B)の温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1g/10分以下であり、かつ、
前記ビニル芳香族エラストマー(B)がスチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、及びスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である多孔フィルム。
【請求項2】
ポリエチレン系樹脂(A)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.1〜10g/10分である請求項1に記載の多孔フィルム。
【請求項3】
厚みが70μm以上である請求項1または2に記載の多孔フィルム。
【請求項4】
二軸延伸フィルムである請求項1〜のいずれかに記載の多孔フィルム。
【請求項5】
ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計100重量部に対し、結晶核剤(C)を0.001〜10重量部含む請求項1〜の何れかに記載の多孔フィルム。
【請求項6】
ビニル芳香族エラストマー(B)中のビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有量が10〜40重量%である請求項1〜のいずれかに記載の多孔フィルム。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の多孔フィルムを備えた液体用フィルター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔フィルムに関する。本発明の多孔フィルムは、包装用品、衛生用品、畜産用品、農業用品、建築用品、医療用品、光拡散板、反射シート、電池用セパレーターまたは、分離膜として利用でき、特に食品関連分野、製薬・化粧品分野、化学工業品分野、電子工業分野に利用される濾過膜として好適に用いられるものである。
本発明はまた、この多孔フィルムを備えた水処理用フィルターに関する。
【背景技術】
【0002】
精密濾過膜や限外濾過膜等の多孔フィルムによる濾過操作は、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などの多方面にわたって実用化されている。特に近年は河川水等を除濁して飲料水や工業用水を製造するための手法としても多用されつつある。膜の素材としては、セルロース系、ポリアクリロニトリル系、ポリオレフィン系等多種多様のものが用いられている。
【0003】
中でもポリオレフィン系重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン等)は、疎水性で耐水性が高いため、水系濾過膜の素材として適しており、多用されている。これらポリオレフィン系重合体の中でも、廃棄時に問題となるハロゲン元素を含まず、かつ化学反応性の高い3級炭素原子が少ないために膜洗浄時の薬品劣化が起こりにくく、長期使用耐性が期待でき、かつ安価であるポリエチレンが、今後特に有望と考えられる。
【0004】
従来、この種の高分子よりなる膜に微細な連通孔を多数形成した多孔フィルムを作製する技術としては、下記に記載するような種々の技術が提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、ポリプロピレン系樹脂にポリオレフィン・ポリスチレン系エラストマーを含有するシートを二軸延伸して多孔フィルムを得ることが開示されている。
【0006】
特許文献2には、高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンと充填剤を含む樹脂組成物からなるフィルムを延伸して多孔フィルムを得る方法が開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、超高分子量ポリエチレンと高密度ポリエチレンからなる組成物と製膜用溶剤とを含有する混合物を押出して延伸した後、製膜用溶剤を有機溶剤で抽出除去し、乾燥して多孔フィルムを製造する方法が開示されている。
【0008】
特許文献4には、高密度ポリエチレンに無機充填剤を高い割合で充填し、延伸性の改良のためにエラストマー成分を添加し、延伸によって透湿性、透気性を保持しつつ耐透液性を両立させた多孔フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014−101445号公報
【特許文献2】特開2007−297583号公報
【特許文献3】特開2013−108045号公報
【特許文献4】国際公開第2014/088065号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1には、フィルム材料としてポリプロピレン系樹脂を用いることが記載されているが、特許文献1の実施例の透気度の値からすれば、得られる多孔フィルムの透気性能は低く、濾過膜として使用した場合、濾過速度が著しく低いものとなる。
【0011】
特許文献2では、ポリエチレン系樹脂の多孔フィルムを延伸によって作製しているが、特許文献2の実施例の透気度の値からすれば、得られる多孔フィルムの透気性能は低く、濾過膜として使用した場合、濾過速度が著しく低いものとなる。また、特許文献2に記載の多孔フィルムは、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の充填剤が高い割合で添加されているため、この多孔フィルムを濾過膜として使用した場合、無機充填剤の脱離が起き、濾過液への溶出が懸念される。
【0012】
特許文献3に記載の方法では、製膜用溶剤の抽出処理に要するコストが大きいという問題がある。また、抽出のための有機溶剤が大量に必要となり、環境への影響が懸念される。更には、特許文献3の実施例の透気度の値からすれば、得られる多孔フィルムの透気性能は低く、濾過膜として使用した場合、濾過速度が著しく低いものとなる。
【0013】
特許文献4に記載の多孔フィルムは、ポリエチレン樹脂と無機充填剤との界面で延伸剥離された多孔フィルムであり、無機充填剤が高い割合で添加されているため、濾過膜として使用をした場合、無機充填剤の脱離が起き、濾過液への溶出が懸念される。また、耐透液性を考慮したフィルムであるため透気性能は低く、濾過膜として使用した場合、濾過速度が著しく低いものとなる。
【0014】
本発明の課題は、空孔率が高く、透気性能に優れ、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などで使用される濾過膜として有用な濾過速度、濾過寿命、濾過精度に優れたポリエチレン製多孔フィルムを安価にかつ生産性良く提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記の実情に鑑み鋭意検討した結果、以下の発明が上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、第1の発明によれば、密度が0.955〜0.970g/cmであるポリエチレン系樹脂(A)55〜85重量部とビニル芳香族エラストマー(B)15〜45重量部の割合でそれぞれ含み(ただし、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計で100重量部となる。)、空孔率が50%以上であり、透気度が200秒/100ml以下であることを特徴とする多孔フィルムが提供される。
【0017】
さらに、第2の発明によれば、第1の発明において、前記ビニル芳香族エラストマー(B)の温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1g/10分以下である多孔フィルムが提供される。
【0018】
また、第3の発明によれば、第1または2の発明において、ポリエチレン系樹脂(A)の温度190℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が0.1〜10g/10分である多孔フィルムが提供される。
【0019】
さらに、第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、厚みが70μm以上である多孔フィルムが提供される。
【0020】
また、第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、二軸延伸フィルムである多孔フィルムが提供される。
【0021】
さらに、第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計100重量部に対し、結晶核剤(C)を0.001〜10重量部含む多孔フィルムが提供される。
【0022】
また、第7の発明によれば、第1〜6のいずれかの発明において、ビニル芳香族エラストマー(B)がビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有量が10〜40重量%の、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体、及びスチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体よりなる群から選ばれる1種又は2種以上である多孔フィルムが提供される。
【0023】
さらに、第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明に係る多孔フィルムを備えた液体用フィルターが提供される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、空孔率が高く、透気度が小さく透気性能に優れ、濾過速度、濾過寿命、濾過精度に優れたポリエチレン多孔フィルムを安価にかつ生産性良く提供することが可能となる。
本発明の多孔フィルムは、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などで使用される濾過膜として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0026】
なお、本発明における数値範囲の上限値及び下限値は、本発明が特性する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものである。また、本発明における主成分とは、最も多量に含有されている成分のことであり、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、更に好ましくは80重量%以上、含有する成分のことである。
【0027】
本発明の多孔フィルムは、密度が0.955〜0.970g/cmであるポリエチレン系樹脂(A)55〜85重量部とビニル芳香族エラストマー(B)15〜45重量部の割合でそれぞれ含み(ただし、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計で100重量部となる。)、空孔率が50%以上であり、透気度が200秒/100ml以下であることを特徴とする。
【0028】
このような本発明の多孔フィルムは、例えば、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)を主成分とするポリエチレン系樹脂組成物を用いて製膜した未延伸シートを、少なくとも一軸方向に延伸して多孔化することにより製造される。
以下、本発明の多孔フィルムの製造に用いられるポリエチレン系樹脂組成物を「本発明のポリエチレン系樹脂組成物」と称す場合がある。
【0029】
本発明の多孔フィルムは、海部をポリエチレン系樹脂(A)、島部をビニル芳香族エラストマー(B)としたシートの延伸工程の際に、海部であるポリエチレン系樹脂(A)と島部であるビニル芳香族エラストマー(B)の界面に応力集中させてボイドを形成させ、多孔化させることにより製造される。本発明の多孔フィルムは微細で孔径が均一な孔が多数あるため連通孔を形成しやすく、結果として空孔率が高く、かつ、透気度が低く透気性能に優れたフィルムとなる。特許文献4のように、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機充填剤を高い割合で含む未延伸シートを延伸して製造される多孔フィルムは、ベース樹脂と無機充填剤との界面で延伸剥離された多孔フィルムであり、無機充填剤の凝集により延伸ムラが生じ、孔の大きさの不均一性及び孔形成のバラツキにより、本発明の多孔フィルムに比較して連通孔を形成し難いと考えられる。従って、空孔形成の割合が低い多孔構造となり、透気度も劣るフィルムとなる。
後述するように、本発明の多孔フィルムを二軸延伸フィルムとすることで、多孔構造の制御が可能となり、空孔率が高く、透気性能が優れたフィルムとすることができる。
また、本発明の多孔フィルムが結晶核剤(C)を含有することにより、より緻密で均一な多孔構造を形成しやすくなり、延伸により透気度が低く透気性能が優れたフィルムとなりやすい。
【0030】
1.ポリエチレン系樹脂(A)
本発明におけるポリエチレン系樹脂(A)は、主としてエチレンに由来する構成単位(以下「エチレン単位」と称す場合がある。)からなる重合体又は共重合体であり、好ましくはエチレン単位が全構成単位の90重量%以上であるポリエチレンである。濾過膜としての使用を考慮した場合、ポリエチレン系樹脂は、廃棄時に問題となるハロゲン元素を含まず、かつ反応性の高い官能基や原子を含まない樹脂であるので膜洗浄時の薬品劣化が起こりにくく、長期使用耐性が期待できる。
【0031】
ポリエチレン系樹脂(A)は、具体的には、エチレンの単独重合体であってもよく、また、エチレン単位90重量%以上とα−オレフィンに由来する構成単位(以下「α−オレフィン単位」と称す場合がある。)10重量%以下との共重合体であってもよい。ポリエチレン系樹脂(A)が共重合体の場合に使用されるα−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0032】
ポリエチレン系樹脂(A)には、超高分子量ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、分岐状低密度ポリエチレンおよび鎖状低密度ポリエチレンが挙げられる。結晶性、機械強度、経済性の観点から、高密度ポリエチレンが好ましい。
【0033】
ポリエチレン系樹脂(A)は、その密度が0.955〜0.970g/cmであることを必須とし、0.955〜0.965g/cmであることが好ましい。ポリエチレン系樹脂(A)の密度が0.955g/cm未満であると、得られる多孔フィルムの結晶部分が少ないため、目的とする多孔構造の形成が困難となり、優れた濾過性能を満たすための空孔率を有する多孔フィルムを形成し得ない。一方、密度が0.970g/cmを超えると結晶部分が多すぎるため、延伸ムラのある多孔フィルムとなる。
【0034】
また、ポリエチレン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.1〜10g/10分であることが好ましく、0.2〜5g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分以上であると、成形加工時において十分な溶融粘度を有し、高い生産性を確保することができる。一方、MFRが10g/10分以下であると、十分な強度を有する多孔フィルムとすることができる。
【0035】
ポリエチレン系樹脂(A)の密度は、JIS K7112に従い、水中置換法で測定される。また、MFRはJIS K7210に準拠して、温度190℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0036】
なお、ポリエチレン系樹脂(A)は、1種を単独で用いてもよく、構成単位や密度、MFR等の物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
2.ビニル芳香族エラストマー(B)
本発明においては、ポリエチレン系樹脂(A)に対し、ビニル芳香族エラストマー(B)を所定の割合で含むことが重要である。ビニル芳香族エラストマー(B)を含むことにより、微細で均一性の高い多孔構造を効率的に得ることが可能となり、空孔の形状や孔径を制御し易くなる。
【0038】
本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)とは、スチレン等のビニル芳香族化合物に由来する構成単位を含む熱可塑性エラストマーの1種で、軟質成分(例えばブタジエンに由来する構成単位)と硬質成分(例えばスチレンに由来する構成単位)との連続体からなる共重合体である。
【0039】
この共重合体の種類については、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。一般にブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分れブロック構造等種々のものが知られている。本発明においてはいずれの構造のものを用いてもよい。
【0040】
本発明に用いられるビニル芳香族エラストマー(B)は、温度230℃、荷重2.16kgにおけるメルトフローレート(MFR)が1g/10分以下であることが好ましい。これは、本発明のポリエチレン系樹脂組成物中に分散したビニル芳香族エラストマー(B)は、ポリエチレン系樹脂(A)との粘度差によってその形状が変化するが、MFRが上記上限以下のものであれば、その形状が球状になり易いからである。球状分散したドメインは、アスペクト比が大きなドメインとは異なり、その後の延伸工程によって得られる多孔構造の均一性が高くなり易く、物性安定性に優れるので好ましい。さらに、MFRが上記上限以下であれば、延伸工程において、高い弾性率を有するマトリックスと低い弾性率のドメイン界面部分に応力が集中しやすくなるため、開孔起点が生じやすく、多孔化し易いという特徴を有する。ビニル芳香族エラストマー(B)のMFRの下限については特に制限はないが、通常、0.01g/10分以上である。
【0041】
ビニル芳香族エラストマー(B)のMFRはJIS K7210に準拠して、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定される。
【0042】
また、本発明におけるビニル芳香族エラストマー(B)は、スチレン等のビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有量が10〜40重量%であることが好ましく、15〜35重量%であることがより好ましい。ビニル芳香族エラストマー(B)中のスチレン等のビニル芳香族化合物に由来する構成単位の含有量が10重量%以上であることにより、効果的に本発明のポリエチレン系樹脂組成物中にドメインを形成することができ、40重量%以下であることにより、過度に大きなドメイン形成を抑制することができる。
【0043】
前記ビニル芳香族エラストマー(B)の具体的な種類については特に限定しないが、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0044】
本発明のポリエチレン系樹脂組成物中にビニル芳香族エラストマー(B)を効率的に分散させるためには、前記ビニル芳香族エラストマー(B)の中でも、ポリエチレン系樹脂(A)との相溶性が高い、エチレン成分、ブタジエン成分が含有されているものが好ましく、中でも、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)がより好ましい。
【0045】
なお、ビニル芳香族エラストマー(B)は1種を単独で用いてもよく、軟質成分及び硬質成分の種類や割合、共重合構造や、MFR等の物性の異なるものの2種以上を混合して用いてもよい。
【0046】
3.ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)の割合
本発明の多孔フィルムに含まれるポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)の割合は、ポリエチレン系樹脂(A)55〜85重量部、ビニル芳香族エラストマー(B)15〜45重量部であり、好ましくはポリエチレン系樹脂(A)60〜80重量部、ビニル芳香族エラストマー(B)20〜40重量部である(ただし、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計で100重量部)。
【0047】
従って、本発明のポリエチレン系樹脂組成物に含まれるポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)の割合も、ポリエチレン系樹脂(A)55〜85重量部、ビニル芳香族エラストマー(B)15〜45重量部であり、好ましくはポリエチレン系樹脂(A)60〜80重量部、ビニル芳香族エラストマー(B)20〜40重量部である(ただし、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計で100重量部)。
【0048】
ポリエチレン系樹脂(A)が85重量部以下でビニル芳香族エラストマー(B)が15重量部以上であることによって、延伸による多孔化が生じやすくなり、十分な空気層を確保することで、透気性能の向上が期待できる。一方、ポリエチレン系樹脂(A)が55重量部以上でビニル芳香族エラストマー(B)が45重量部以下であることによって、本発明のポリエチレン系樹脂組成物中のビニル芳香族エラストマー(B)同士が凝集を生じやすくなり、延伸による多孔化が生じ難くなる。
【0049】
4.多孔フィルム中の他の成分
本発明の多孔フィルム及び本発明のポリエチレン系樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲において、前記のポリエチレン系樹脂(A)、ビニル芳香族エラストマー(B)以外の成分、例えばポリエチレン系樹脂(A)以外の他の樹脂を含有することを許容することができる。
【0050】
他の樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、塩素化ポリエチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリメチルペンテン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、環状オレフィン系樹脂、ポリ乳酸系樹脂、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリブテン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアミドビスマレイミド系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルケトン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリケトン系樹脂、ポリサルフォン系樹脂、アラミド系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
また、本発明の多孔フィルム及び本発明のポリエチレン系樹脂組成物には、前述した成分のほか、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤を適宜含有することができ、これらの添加剤を含む場合、その含有量はポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計100重量部に対し、0.001〜10.0重量部とすることが好ましく、0.002〜5.0重量部とするのがより好ましい。
【0052】
前記添加剤としては、成形加工性、生産性および多孔フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂や、カーボンブラック等の顔料、結晶核剤、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤、分子吸着材などの添加剤が挙げられる。その中でも次に記載する結晶核剤を更に含有することが好ましい。
【0053】
5.結晶核剤(C)
本発明のポリエチレン系樹脂組成物は、結晶核剤(C)を更に含有することが好ましい。結晶核剤(C)を含有することにより、前記ポリエチレン系樹脂(A)の結晶化が促進され、結晶構造が緻密に均一化する。それゆえ、延伸前の樹脂組成物における前記ポリエチレン系樹脂(A)は緻密に均一化した結晶部と、該結晶部間に存在する非晶部とからなり、前記ビニル芳香族エラストマー(B)は前記ポリエチレン系樹脂(A)の非晶部に多く存在する。そのため、延伸により前記ポリエチレン系樹脂(A)の緻密な結晶部と前記ビニル芳香族エラストマー(B)との界面で生じる多孔化は、マトリックスの結晶化に伴う弾性率の向上によって容易になり、かつ、結晶の緻密な均一化によって、得られる多孔構造も緻密で均一な多孔構造を形成しやすくなる。
【0054】
本発明に用いる結晶核剤(C)は、ポリエチレン系樹脂(A)の結晶性を向上させる効果が認められれば、その種類を特に制限するものではない。例えばジベンジリデンソルビトール(DBS)化合物;1,3−O−ビス(3,4ジメチルベンジリデン)ソルビトール;ジアルキルベンジリデンソルビトール;少なくとも一つの塩素または臭素置換基を有するソルビトールのジアセタール;ジ(メチルまたはエチル置換ベンジリデン)ソルビトール;炭素環を形成する置換基を有するビス(3,4−ジアルキルベンジリデン)ソルビトール;脂肪族、脂環族、及び、芳香族のカルボン酸、ジカルボン酸または多塩基性ポリカルボン酸、相当する無水物、及び、金属塩などの有機酸の金属塩化合物;環式ビス−フェノールホスフェート、2ナトリウムビシクロ[2.2.1]ヘプテンジカルボン酸などの二環式ジカルボン酸及び塩化合物;ビシクロ[2.2.1]ヘプタン−ジカルボキシレートなどの二環式ジカルボキシレートの飽和の金属または有機の塩化合物;1,3:2,4−O−ジベンジリデン−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−エチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−イソプロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−n−プロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(m−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−メチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−エチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−イソプロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−n−プロピルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,3−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,5−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,5−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,3−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,5−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,5−ジエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4,5−トリメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4,5−トリメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(2,4,5−トリエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(3,4,5−トリエチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−メチルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−エチルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−イソプロピルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−n−プロピルオキシカルボニルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−n−ブチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(o−クロロベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−(p−クロロベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−[(5,6,7,8,−テトラヒドロ−1−ナフタレン)−1−メチレン]−D−ソルビトール、1,3:2,4−ビス−O−[(5,6,7,8,−テトラヒドロ−2−ナフタレン)−1−メチレン]−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−エチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−エチルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−p−クロルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−クロルベンジリデン−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3−O−(2,4−ジメチルベンジリデン)−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−ベンジリデン−2,4−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−D−ソルビトール、1,3−O−(3,4−ジメチルベンジリデン)−2,4−O−ベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチル−ベンジリデン−2,4−O−p−エチルベンジリデンソルビトール、1,3−p−エチル−ベンジリデン−2,4−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトール、1,3−O−p−メチル−ベンジリデン−2,4−O−p−クロルベンジリデン−D−ソルビトール、及び、1,3−O−p−クロル−ベンジリデン−2,4−O−p−メチルベンジリデン−D−ソルビトールなどのジアセタール化合物;ナトリウム2,2’−メチレン−ビス−(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート、アルミニウムビス[2,2’−メチレン−ビス−(4−6−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスフェート]、燐酸2,2−メチレンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)ナトリウムや、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘニン酸、モンタン酸等の脂肪酸;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、及び、ヘベニン酸アミドなどの脂肪酸アミド;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、及び、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩;シリカ、タルク、カオリン、及び、炭化カルシウム等の無機粒子;グリセロール、グリセリンモノエステルなどの高級脂肪酸エステル、及び類似物を挙げることができる。
【0055】
これらの中でも、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、及び、ヘベニン酸アミドなどの脂肪酸アミド;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩が特に好ましい。
【0056】
結晶核剤(C)の具体例としては、新日本理化(株)の商品名「ゲルオールD」シリーズ、(株)ADEKAの商品名「アデカスタブ」シリーズ、ミリケンケミカル社の商品名「Millad」シリーズ、「Hyperform」シリーズ、BASF社の商品名「IRGACLEAR」シリーズ等が挙げられ、また結晶核剤のマスターバッチとしては理研ビタミン(株)の商品名「リケマスターCN」シリーズ、ミリケンケミカル社の商品名「HL3−4」等が挙げられる。この中でも特に透明性を向上する効果が高いものとして、ミリケンケミカル社の商品名「HYPERFORM HPN−20E」、「HL3−4」、理研ビタミン(株)の商品名「リケマスターCN−001」「リケマスターCN−002」を挙げることができる。
【0057】
結晶核剤(C)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0058】
結晶核剤(C)は、ポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)との合計100重量部に対し、0.001〜10重量部の割合で用いることが好ましく、より好ましくは0.005〜5重量部である。
【0059】
なお、上記の結晶核剤(C)のうち、理研ビタミン(株)の商品名「リケマスターCN−001」「リケマスターCN−002」については、ポリエチレン系樹脂(A)に対し、0.5〜5.0重量部用いることが好ましい。
【0060】
6.多孔フィルム
以下、本発明の多孔フィルムの好適物性等について説明する。
【0061】
(1)厚み
本発明の多孔フィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、70μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。一方、上限は300μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましい。厚みが70μm以上であれば、充分な強度を有することができる。また、厚みが300μm以下であれば、小型化・軽量化が求められる用途に対しても使用が容易である。
【0062】
(2)透気度
本発明の多孔フィルムの透気度は、200秒/100ml以下である。好ましくは1秒/100ml以上100秒/100ml以下、より好ましくは5秒/100ml以上50秒/100ml以下である。透気度が上記範囲であれば、強度と多孔性を両立した多孔フィルムとなるため好ましい。
【0063】
また、多孔フィルムの透気度をフィルム厚み1μmあたりに換算した値は、好ましくは0.01秒/100ml/μm以上0.35秒/100ml/μm以下、より好ましくは0.02秒/100ml/μm以上0.30秒/100ml/μm以下である。厚さ1μmあたりの透気度が上記の範囲であると、以下に示す好適な濾過速度を有する多孔フィルムとなり易いため好ましい。
【0064】
なお、多孔フィルムの透気度は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0065】
(3)空孔率
空孔率は多孔構造を規定するための重要な要素であり、本発明の多孔フィルムにおける多孔層の空間部分の割合を示す数値である。一般に空孔率が高いほど、優れた濾過速度を有することが知られており、本発明の多孔フィルムは、空孔率が50%以上であり、好ましくは60%以上、より好ましくは65%以上である。一方、空孔率の上限は98%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。空孔率が50%以上であれば、透気性能及び濾過速度に優れた多孔フィルムとなり、98%以下であれば実用的な強度を得ることができる。
【0066】
なお、多孔フィルムの空孔率は、後掲の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0067】
(4)濾過速度
本発明の多孔フィルムの濾過速度は、好ましくは10ml/min・cm以上、より好ましくは15ml/min・cm以上、更に好ましくは20ml/min・cm以上である。一方、上限については、好ましくは100ml/min・cm以下、より好ましくは90ml/min・cm以下、更に好ましくは80ml/min・cm以下である。濾過速度が上記範囲であれば、強度と濾過効率を両立した多孔フィルムとなる。
【0068】
なお、濾過速度は、25℃の空気雰囲気下において、所定の体積V(ml)のアセトンが0.07MPaの圧力で、有効濾過面積A(cm)の多孔フィルムを通過する時間t(sec)を測定し、下記式に基づき算出される。
濾過速度[ml/min・cm]=(V×60)/(t×A)
【0069】
(5)濾過寿命
本発明の多孔フィルムの濾過寿命は、好ましくは1.00g/cm以上である。一方、濾過寿命の上限については、好ましくは10g/cm以下、より好ましくは5.0g/cm以下、更に好ましくは2.0g/cm以下である。濾過寿命が上記範囲であれば、濾過効率が良好な多孔フィルムとなる。
【0070】
なお、多孔フィルムの濾過寿命(g/cm)は、日産化学社製コロイダルシリカ(製品名:スノーテックスMP−4540M、平均粒子径:450nm、固形分:40重量%、媒体:水)をシリカ濃度4重量%になるように水で希釈し、超音波攪拌機中で十分に均一分散させた後、0.09MPaの圧力で多孔フィルムを通過させ、濾過が不可能になるまでに通過させた液体の重量W(g)を測定し、多孔フィルムの有効濾過面積A(cm)で除算することによって算出される。
【0071】
(6)濾過精度
本発明の多孔フィルムの濾過精度は、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.25%以下、更に好ましくは0.20%以下である。濾過精度が上記上限以下であれば、濾過精度が良好な多孔フィルムとなる。
【0072】
なお、濾過精度は、日産化学社製コロイダルシリカ(製品名:スノーテックスMP−4540M、平均粒子径:450nm、固形分:40重量%、媒体:水)をシリカ濃度4重量%になるように水で希釈し、超音波攪拌機中で十分に均一分散させた後、0.07MPaの圧力で多孔フィルムを通過させ、吸光度法により通過前後の液の濃度を測定し、粒子の捕集効率(%)を求めることで算出される。
【0073】
本発明の多孔フィルムは、密度が0.955〜0.970g/cmであるポリエチレン系樹脂(A)とビニル芳香族エラストマー(B)を所定の割合で含み、上記の透気度、空孔率を有するものである。この多孔フィルムは、延伸前のフィルム中のビニル芳香族エラストマーの分散径に由来する孔径分布が水濾過に適しており、上記の濾過速度、濾過寿命、及び、濾過精度の範囲を満たす。
【0074】
これに対して、前述の特許文献4のように、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の無機充填剤を高い割合で含む未延伸シートを延伸して製造される多孔フィルムは、無機充填剤の凝集により延伸ムラが生じ、孔の大きさの不均一性及び孔形成のバラツキにより、本発明の多孔フィルムに比較して連通孔を形成し難くなると考えられる。従って、空孔形成の割合が低い多孔構造となり、透気度も劣るフィルムとなる。空孔形成の割合が低い多孔構造となり、透気度が上記の範囲を満たすことができず、強度と多孔性を両立した多孔フィルムとするのは困難である。
一方、ポリプロピレン系樹脂とビニル芳香族エラストマーから得られる多孔フィルムは、後述する比較例9に示す通り、フィルム厚み1μmあたりの透気度が劣り、かつ濾過寿命が、本発明の多孔フィルムと比較して劣るフィルムとなる。
【0075】
7.多孔フィルムの製造方法
本発明の多孔フィルムを製造する方法としては、まず、ポリエチレン系樹脂(A)、ビニル芳香族エラストマー(B)、及び、必要に応じて配合される結晶核剤(C)、その他の成分を含む本発明のポリエチレン系樹脂組成物を調製し、このポリエチレン系樹脂組成物をポリエチレン系樹脂(A)の融点以上、分解温度未満の温度条件下で押出機等を用いて溶融・成形することによって、無孔膜状物(未延伸シート)を得、得られた未延伸シートを一軸延伸又は二軸延伸する方法が挙げられる。この方法であれば、未延伸シートの組成(即ち、ポリエチレン系樹脂組成物の組成)、厚み、および延伸倍率を変更することにより、作成される多孔フィルムの厚み、透気度、空孔率を容易に調整することができ、好ましい。
【0076】
上記未延伸シートの成形方法として、より具体的にはTダイ成形が挙げられる。
【0077】
本発明のポリエチレン系樹脂組成物の混練物を冷却しながら未延伸シートを成形する際のキャストロールの温度は80℃以上が好ましく、より好ましくは90℃以上で、更に好ましくは100℃以上である。本発明ではポリエチレン系樹脂(A)の結晶部分と非晶部分での延伸工程時による開孔によっても、良好な空孔構造を形成することが可能である。従って、キャストロールの温度を100℃以上とし、高い結晶化度の未延伸シートを得ることが好ましい。なお、キャストロールの温度の上限は、ポリエチレン系樹脂組成物の溶融温度より低く、通常115℃以下である。
【0078】
次いで、得られた未延伸シートについて一軸延伸、又は二軸延伸を行う。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。
本発明で目的とする、空孔率が高く、透気性能に優れた多孔フィルムを作製するには、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸を行うことがより好ましい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
【0079】
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度を、用いるポリエチレン系樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、逐次二軸延伸は多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすいという利点がある。
【0080】
逐次二軸延伸を用いる場合、以下の手順で縦延伸及び横延伸を行うことが好ましい。
【0081】
<縦延伸工程>
(低温縦延伸工程)
縦延伸を行う際は、延伸による開孔をし易くする理由から、高温縦延伸の前に以下の低温縦延伸工程を行うことが好ましい。
未延伸シートを0℃以上60℃未満、好ましくは10℃以上40℃未満の温度で、機械方向に1.1倍以上3.0倍未満、好ましくは1.2倍以上2.0倍未満の範囲でMD方向に一軸延伸する。ここで、0℃未満で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、60℃以上で延伸した場合は、得られる延伸フィルムの空孔率が低く、透気度が高くなる傾向がある。
なお、得られる多孔フィルムの透気性能が向上することから、上記延伸工程を実施する前に、シート成形工程で得られた未延伸シートを一定の温度範囲で一定時間熱処理しても良い。
【0082】
(高温縦延伸工程)
次いで、上記の低温縦延伸で得られた延伸シートを60℃以上160℃未満、好ましくは70℃以上130℃未満の温度でMD方向に1.5倍以上6.0倍未満、好ましくは1.5倍以上5.0倍の範囲で一軸延伸する。ここで、60℃未満で延伸した場合はフィルムが破断する傾向があり、また、160℃以上で延伸した場合は、得られる延伸フィルムの空孔率が低く、透気度が高くなる傾向がある。
【0083】
上記したような条件で2段階以上で延伸することで、各種用途に好適な良好な物性の多孔フィルムを得ることができる。この縦延伸工程を1段階とすると、得られる延伸フィルムが、要求された物性を満たさない場合がある。
【0084】
縦延伸倍率は、任意に選択することができるが、一軸延伸(即ち、低温縦延伸と高温縦延伸の合計)あたりの延伸倍率は1.7〜15倍が好ましく、より好ましくは1.8〜12倍であり、さらに好ましくは2.0〜10倍である。一軸延伸あたりの延伸倍率を1.7倍以上とすることで白化が進行して、延伸による多孔化が十分起こっていることを示唆している。また、10倍以下とすることで、空孔の変形は抑制され、十分に白化した多孔フィルムを得ることができる。
【0085】
<横延伸工程>
横延伸温度は、好ましくは70〜150℃であり、より好ましくは80〜140℃である。横延伸温度がこの範囲内であることによって、縦延伸時に生じた空孔が拡大されて空孔率を増加することができ、十分な多孔性を有することができる。
【0086】
横延伸倍率は、任意に選択できるが、好ましくは1.1〜10倍であり、より好ましくは1.5〜9.0倍、更に好ましくは2.0〜8.0倍である。この範囲の横延伸倍率で延伸することによって、縦延伸時に生じた空孔を変形させることなく、十分な空孔率を有する多孔フィルムを得ることができる。
【0087】
<熱処理>
上記のように逐次二軸延伸を行った後は、寸法安定性の向上のために、熱処理を行ってもよい。熱処理は、通常100〜150℃で1秒〜30分程度実施される。
【0088】
本発明の多孔フィルムは、このようにして多孔フィルムを作製した後、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてコロナ処理、プラズマ処理、印刷、コーティング、蒸着等の表面加工、更にはミシン目加工などを施すことができ、用途に応じて本発明の多孔フィルムを数枚重ねて使用することも可能である。
【0089】
多孔フィルムを製造する際、前述の特許文献3のように、製膜溶剤を有機溶媒によって抽出することによる手法も存在するが、抽出処理に要するコストが大きいことや、環境への影響という問題点がある。また、製造された多孔フィルムに微量の有機溶媒を含む可能性もあるため、多孔フィルムの性能として溶媒の溶出などが懸念される用途に用いる場合に不利である。
しかし、本発明の多孔フィルムは製造過程において有機溶媒を用いないため、有機溶媒を含まず、低コストであり環境への影響及び残存溶媒の溶出の懸念がないということに利点を有する。
【0090】
8.液体用フィルター
本発明の液体用フィルターは、上記のような本発明の多孔フィルムを備えるものである。本発明の液体用フィルターは、本発明の多孔フィルムの単層構造であってもよく、他の層と組み合わせた積層構造であってもよい。本発明の液体用フィルターは、水あるいはアセトンといった水系溶媒、ハロゲン化物、エステル類、エーテル、ベンゼン、トルエンといった石油系溶剤を精製するためのフィルター、具体的には、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などにおいて使用される精密濾過膜として有用である。
【0091】
多孔フィルムを濾過システムに組み込む場合、多孔フィルムを同心状に巻き付けた状態(ワインド型)や、プリーツ加工を施し円筒の容器に収納した状態(カートリッジフィルター)とすることが可能であり、このカートリッジフィルターを、簡便に濾過システムに組み込むことができる。
【実施例】
【0092】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明の多孔フィルムについて更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
以下において、多孔フィルムの引き取り(流れ)方向を「MD」、その直角方向を「TD」と記載する。
【0093】
[多孔フィルム原材料]
多孔フィルムの製造に用いた原材料は以下の通りである。
【0094】
<ポリエチレン系樹脂(A)>
・A−1;高密度ポリエチレン(ハイゼックス3600F、プライムポリマー社製、MFR(190℃、2.16kg):1.0g/10分、密度:0.958g/cm、融点:134℃、融解エンタルピーΔHm:207J/g、結晶化温度:115℃、結晶化エンタルピーΔHc:210J/g)
・A−2;高密度ポリエチレン(ハイゼックス3300F、プライムポリマー社製、MFR(190℃、2.16kg):1.1g/10分、密度:0.950g/cm、融点:132℃、融解エンタルピーΔHm:188J/g、結晶化温度:114℃、結晶化エンタルピーΔHc:189J/g)
【0095】
<ポリプロピレン系樹脂(A’)>
・A’−1;ホモポリプロピレン(ノバテックPP
FY6HA、日本ポリプロ株式会社製、MFR(230℃、2.16kg):2.4g/10min、密度:0.9g/cm
【0096】
<ビニル芳香族エラストマー(B)>
・B−1;スチレン系熱可塑性エラストマー(スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体、グレード名;SEPTON1001、クラレ社製、重量平均分子量Mw;186,000、分子量分布Mw/Mn;1.07、MFR(230℃、2.16kg);0.1g/10分、スチレン含有量;35重量%)
【0097】
<結晶核剤(C)>
・C−1;ポリエチレン用結晶核剤マスターバッチ(グレード名:リケマスターCN−002、理研ビタミン社製)
・C−2:核剤(ソルビトール系化合物、グレード名:ゲルオールMD−LM30G、新日本理化社製)
【0098】
[物性の測定方法]
製造された多孔フィルムの各種物性の測定方法は以下の通りである。
【0099】
(1)厚み
得られた多孔フィルムを1/1000mmのダイアルゲージにて、面内を不特定に5箇所測定しその平均を厚みとした。
【0100】
(2)透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P8117に準拠して多孔フィルムの透気度を測定した。測定機器として、デジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
また、測定された透気度(秒/100ml)を多孔フィルムの厚さで除して、厚さ1μmあたりの透気度(秒/100ml/μm)を算出した。
【0101】
(3)空孔率
得られた多孔フィルムの実質量W1を測定し、多孔フィルムの製造に用いたポリエチレン系樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0−W1)/W0}×100
【0102】
(4)濾過速度
25℃の空気雰囲気下において、所定の体積V(ml)のアセトンが0.07MPaの圧力で、有効濾過面積A(cm)の多孔フィルムを通過する時間t(sec)を測定し、下記式に基づき算出した。
濾過速度(ml/min・cm)=(V×60)/(t×A)
【0103】
(5)濾過寿命
日産化学社製コロイダルシリカ(製品名:スノーテックスMP−4540M、平均粒子径:450nm、固形分:40重量%、媒体:水)をシリカ濃度4重量%になるように水で希釈し、超音波攪拌機中で十分に均一分散させた後、0.09MPaの圧力で多孔フィルムを通過させ、濾過が不可能になるまでに通過した液体の重量W(g)を測定し、有効濾過面積A(cm)で除算することによって濾過寿命(g/cm)を算出した。
【0104】
(6)濾過精度
日産化学社製コロイダルシリカ(製品名:スノーテックスMP−4540M、平均粒子径:450nm、固形分:40重量%、媒体:水)をシリカ濃度4重量%になるように水で希釈し、超音波攪拌機中で十分に均一分散させた後、0.07MPaの圧力で多孔フィルムを通過させ、吸光度法により通過前後の液の濃度を測定し、粒子の捕集効率(%)を算出した。
【0105】
[実施例1]
ポリエチレン系樹脂(A−1)を70重量部、ビニル芳香族エラストマー(B−1)を30重量部、結晶核剤(C−1)を2.5重量部の割合で配合し、二軸押出機に投入し、設定温度230℃で溶融混練後、ストランドダイにてストランド状に賦形した後、ストランドカッターにて裁断し、ペレット化した。
【0106】
得られたペレットを単軸押出機に投入し、設定温度210℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、110℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚み500μmの未延伸シートを得た。その後、得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、3.0倍横方向に延伸した。その後、110℃で12秒熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0107】
[実施例2]
実施例1と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比200%(延伸倍率3.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。得られたMD延伸多孔フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、3.0倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0108】
[実施例3]
実施例1と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比200%(延伸倍率3.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。得られたMD延伸多孔フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、3.0倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1]
実施例1と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。得られたMD延伸多孔フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、多孔フィルムの濾過速度が小さく評価に時間を要するため、濾過寿命、濾過精度の評価は行わなかった。
【0110】
[比較例2]
実施例1と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比200%(延伸倍率3.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。得られたMD延伸多孔フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、多孔フィルムの濾過速度が小さく評価に時間を要するため、濾過寿命、濾過精度の評価は行わなかった。
【0111】
[比較例3]
ポリエチレン系樹脂(A−2)を70重量部、ビニル芳香族エラストマー(B−1)を30重量部、結晶核剤(C−1)を2.5重量部の割合で配合し、2軸押出機に投入し、設定温度230℃で溶融混練後、ストランドダイにてストランド状に賦形した後、ストランドカッターにて裁断し、ペレット化した。
【0112】
得られたペレットを単軸押出機に投入し、設定温度210℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、110℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚み500μmの未延伸シートを得た。その後、得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、濾過速度が小さく評価に時間を要するため、濾過寿命、濾過精度の評価は行わなかった。
【0113】
[比較例4]
比較例3と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、15℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比300%(延伸倍率4.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。得られたMD延伸多孔フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、濾過速度が小さく評価に時間を要するため、濾過寿命、濾過精度の評価は行わなかった。
【0114】
[比較例5]
ポリエチレン系樹脂(A−2)を70重量部、ビニル芳香族エラストマー(B−1)を30重量部、結晶核剤(C−1)を2.5重量部の割合で配合し、設定温度210℃に設定した同方向二軸押出機に投入して溶融混練し、溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、90℃に設定したキャストロールにて冷却固化して厚み250μmの未延伸シートを得た。
【0115】
その後、得られた未延伸シートを、20℃に設定したロール(X)と40℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、透気度が著しく大きく透気性能に劣り、濾過速度も著しく小さくなるため、濾過性能評価は行わなかった。
【0116】
[比較例6]
比較例5と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、20℃に設定したロール(X)と40℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比300%(延伸倍率4.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、透気度が著しく大きく透気性能に劣り、濾過速度も著しく小さくなるため、濾過性能評価は行わなかった。
【0117】
[比較例7]
ポリエチレン系樹脂(A−2)を70重量部、ビニル芳香族エラストマー(B−1)を30重量部の割合で配合し、設定温度210℃に設定した同方向二軸押出機に投入して溶融混練し、溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、90℃に設定したキャストロールにて冷却固化して厚み250μmの未延伸シートを得た。
【0118】
その後、得られた未延伸シートを、20℃に設定したロール(X)と40℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、透気度が著しく大きく透気性能に劣り、濾過速度も著しく小さくなるため、濾過性能評価は行わなかった。
【0119】
[比較例8]
比較例7と同様に未延伸シートを得た。得られた未延伸シートを、20℃に設定したロール(X)と40℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比300%(延伸倍率4.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度90℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度90℃、1.5倍横方向に延伸した。その後、実施例1と同様に熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。ただし、透気度が著しく大きく透気性能に劣り、濾過速度も著しく小さくなるため、濾過性能評価は行わなかった。
【0120】
[比較例9]
ポリプロピレン系樹脂(A’−1)を70重量部、ビニル芳香族エラストマー(B−1)を30重量部、結晶核剤(C−2)を0.1重量部の割合で配合し、二軸押出機に投入し、設定温度230℃で溶融混練後、ストランドダイにてストランド状に賦形した後、ストランドカッターにて裁断し、ペレット化した。
【0121】
得られたペレットを単軸押出機に投入し、設定温度200℃で溶融混練後、Tダイにてシート状に賦形した後、127℃に設定したキャストロールにて冷却固化を行い、厚み230μmの未延伸シートを得た。その後、得られた未延伸シートを、20℃に設定したロール(X)と20℃に設定したロール(Y)間において、ドロー比100%(延伸倍率2.0倍)を掛けて低温縦延伸を行った。次いで、120℃に設定したロール(P)と120℃に設定したロール(Q)間において、ドロー比50%(延伸倍率1.5倍)を掛けて高温縦延伸を行い、MD延伸フィルムを得た。次いで、得られたMD延伸フィルムを、京都機械社製フィルムテンター設備にて、予熱温度145℃、予熱時間12秒間で予熱した後、延伸温度145℃、3.0倍横方向に延伸した。その後、155℃で12秒熱処理を行い、二軸延伸多孔フィルムを得た。
得られたフィルムの評価結果を表2に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
【表2】
【0124】
実施例1〜3で得られた多孔フィルムは、空孔率が60%以上、透気度は50sec/100ml以下であり、良好な濾過速度、濾過寿命、濾過精度を有する多孔フィルムである。
【0125】
比較例1〜2で得られたフィルムは、横方向への延伸倍率が小さく形成される空孔の割合が低くなっているため、空孔率が実施例と比較して小さく、透気度が実施例と比較して大きい。その結果、濾過速度に劣り、濾過性能に劣るフィルムとなっていることがわかる。
【0126】
比較例3〜4で得られたフィルムは、ポリエチレン系樹脂(A−2)の密度が小さく結晶化度が低くビニル芳香族エラストマー(B−1)のとの界面で開孔起点が生じにくかったため、空孔率が実施例と比較して小さく、透気度が実施例と比較して大きい。その結果、濾過速度に劣り、濾過性能に劣るフィルムとなっていることがわかる。
【0127】
比較例5〜6で得られたフィルムは、空孔率が実施例と比較して小さく、透気度が実施例と比較して大きい。その結果、濾過速度に劣り、濾過性能に劣るフィルムとなっていることがわかる。この様な結果となる理由として、キャストロール温度が低く、良好な結晶構造系に至らなかったため、結果として結晶化度が低くなり、ポリエチレン系樹脂(A−2)の結晶化度が低下したため、ビニル芳香族エラストマー(B−1)のとの界面で開孔起点が生じにくかったことが考えられる。
【0128】
比較例7〜8で得られたフィルムは、空孔率が実施例と比較して小さく、透気度が実施例と比較して大きい。その結果、濾過速度に劣り、濾過性能に劣るフィルムとなっていることがわかる。この様な結果となる理由として、結晶核剤(C)を添加していないため、良好な結晶構造系に至らず、結果として結晶化度が低くなり、ポリエチレン系樹脂(A−2)の結晶化度が低下したため、ビニル芳香族エラストマー(B−1)のとの界面で開孔起点が生じにくかったことが考えられる。
【0129】
比較例9では、実施例1〜3に比較して、フィルム厚み1μmあたりの透気度が劣り、かつ濾過寿命もわずかながら劣る。この様な結果となる理由としては、用いたビニル芳香族エラストマーとの相溶性が、ベース樹脂であるポリプロピレン系樹脂とポリエチレン系樹脂によって異なることが考えられる。ポリエチレン系樹脂と比較して、比較例9で用いたポリプロピレン系樹脂はビニル芳香族エラストマーとの相溶性が小さく、ベース樹脂中に対するエラストマーの分散性が低くなっていると考えられる。従って、実施例1〜3と比較して、比較例9では得られる多孔構造にも差が生じていると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の多孔フィルムは、多数の空孔構造を有し、透気度が小さく透気性能に優れ、濾過速度、濾過寿命、濾過精度に優れたポリエチレン製多孔フィルムであり、特に水を精製するためのフィルター、具体的には、自動車産業(電着塗料回収再利用システム)、半導体産業(超純水製造)、医薬・食品産業(除菌、酵素精製)などにおいて使用される濾過膜として有用である。