【文献】
Kenneth A. Burdett,An Improved Acid Chloride Preparation via Phase Transfer Catalysis,SYNTHESIS,1991年,pp.441-442,ISSN: 0039-7881
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ハロゲン化剤が、塩化チオニル、塩化オキザリル、塩化スルフリル、塩化ホスホリル、三塩化リン及び五塩化リンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1に記載のモノエステル化合物の製造方法。
前記テトラアルキルアンモニウム塩が、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラブチルアンモニウムクロライドからなる群から選ばれる少なくとも一種である、請求項1又は2に記載のモノエステル化合物の製造方法。
前記弱酸性の緩衝溶液が、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物の水溶液、及び/又は、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムとの混合物の水溶液である、請求項6又は7に記載のモノエステル化合物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記酸ハライド法により得られたジカルボン酸クロライドをヒドロキシ化合物と反応させてモノエステル化合物を製造する場合、原料であるジカルボン酸ジクロライドは、単離して用いられている。具体的には、酸ハライド法により得られたジカルボン酸クロライドは、ジカルボン酸化合物と塩化チオニル等の塩素化剤とを反応させて得た反応液から溶媒や低沸点物質を除去した後、残留物から再結晶法等により単離して、モノエステル化合物の製造に用いられている。塩素化剤由来のSO
2、HCl、SOCl
2等の酸成分が残存している場合には、後のエステル化反応において反応収率が大きく低下するので、エステル化反応の前にこれらの酸成分を完全に除去するためである。
しかしながら、少量スケールで目的物を製造する場合は、再結晶法等の精製方法が採用できるが、工業的生産規模で製造する場合には、再結晶法等の精製方法は煩雑であり、工業的に有利な製造方法とはいえない。
本発明はかかる実情に鑑みてなされたものであり、重合性液晶化合物を工業的に有利に製造することを可能とする、酸ハライド溶液の製造方法、ジカルボン酸ハライドを含有する混合溶液、及び、前記酸ハライド溶液を用いるモノエステル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、反応触媒の存在下、ジカルボン酸化合物に塩化チオニルを反応させることによりジカルボン酸クロライドを製造し、次いで、得られたジカルボン酸クロライドを用いてモノエステル化合物を製造する工業的製造方法について鋭意検討した。そして、調製した酸クロライドを含む反応液を乾固させることなく濃縮させて、そのまま次のエステル化反応を行う方法を試みた。その結果、用いる反応触媒の種類によって、後工程のエステル化反応に悪影響を及ぼす(すなわち、エステル化反応の収率を低下させる)場合と、悪影響を及ぼさない(すなわち、エステル化反応の収率を低下させない)場合があるという知見を得た。そして、この知見を一般化することにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして本発明によれば、下記〔1〕〜〔4〕の酸ハライド溶液の製造方法、〔5〕〜〔7〕の混合溶液、及び、〔8〕〜〔12〕のモノエステル化合物の製造方法が提供される。
【0008】
〔1〕非水混和性有機溶媒中、下記式(I):
【化1】
{式(I)中、A
−は、ハロゲン化物イオン、又は、R
5SO
3−(R
5は、メチル基、フェニル基若しくは4−メチルフェニル基を表す。)を表し、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、無置換の又は置換基を有するアルキル基を表す。ただし、R
1、R
2、R
3及びR
4の炭素原子数の総和は4以上100以下である。}で表されるテトラアルキルアンモニウム塩の存在下、ハロゲン化剤、及び、下記式(II):
【化2】
(式(II)中、nは0又は1を表す。)で表されるジカルボン酸化合物を反応させることにより、下記式(III):
【化3】
(式(III)中、nは0又は1を表し、Xはハロゲン原子を表す。)で表される酸ハライド化合物を含む非水混和性有機溶媒溶液を得る工程(α)、並びに、
得られた前記非水混和性有機溶媒溶液を濃縮する工程(β)、
を含むことを特徴とする、酸ハライド溶液の製造方法。
【0009】
〔2〕前記ハロゲン化剤が、塩化チオニル、塩化オキザリル、塩化スルフリル、塩化ホスホリル、三塩化リン及び五塩化リンからなる群から選ばれる少なくとも一種である、〔1〕に記載の酸ハライド溶液の製造方法。
【0010】
〔3〕前記テトラアルキルアンモニウム塩が、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラブチルアンモニウムクロライドからなる群から選ばれる少なくとも一種である、〔1〕又は〔2〕に記載の酸ハライド溶液の製造方法。
【0011】
〔4〕前記式(II)で表されるジカルボン酸化合物が、下記式(II−a):
【化4】
(式(II−a)中、nは0又は1を表す。)で示される化合物である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の酸ハライド溶液の製造方法。
【0012】
〔5〕非水混和性有機溶媒と、
下記式(III−1):
【化5】
(式(III−1)中、nは0又は1を表す。)で示されるジカルボン酸クロライドと、
下記式(I):
【化6】
{式(I)中、A
−は、ハロゲン化物イオン、又は、R
5SO
3−(R
5は、メチル基、フェニル基若しくは4−メチルフェニル基を表す。)を表し、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、無置換の又は置換基を有するアルキル基を表す。ただし、R
1、R
2、R
3及びR
4の炭素原子数の総和は4以上100以下である。}で表されるテトラアルキルアンモニウム塩と、
前記式(III−1)で示されるジカルボン酸クロライド100質量部に対して0.1質量部以上3質量部以下の塩酸と、
を含有する混合溶液。
【0013】
〔6〕前記テトラアルキルアンモニウム塩が、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラブチルアンモニウムクロライドからなる群から選ばれる少なくとも一種である、〔5〕に記載の混合溶液。
【0014】
〔7〕前記ジカルボン酸クロライドが、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライドである、〔5〕又は〔6〕に記載の混合溶液。
【0015】
〔8〕前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の製造方法により得られた酸ハライド溶液に、式(IV):R
6OH(式(IV)中、R
6は、有機基を表す。)で示されるヒドロキシ化合物、及び、塩基を添加する工程(γ)を含む、下記式(V):
【化7】
(式(V)中、R
6は前記と同じ意味を表し、nは0又は1を表す。)で示されるモノエステル化合物の製造方法。
【0016】
〔9〕前記式(IV)で示されるヒドロキシ化合物が、下記式(IV−1):
【化8】
(式(IV−1)中、R
7は水素原子、メチル基又は塩素原子を表し、mは1以上20以下の整数を表す。)で示される化合物である、〔8〕に記載のモノエステル化合物の製造方法。
【0017】
〔10〕前記工程(γ)の後に、前記工程(γ)で得られた反応液を弱酸性の緩衝溶液にて洗浄する工程(δ)をさらに含む、〔8〕又は〔9〕に記載のモノエステル化合物の製造方法。
【0018】
〔11〕前記弱酸性の緩衝溶液が、pHが5.0以上6.0以下の水溶液である、〔10〕に記載のモノエステル化合物の製造方法。
【0019】
〔12〕前記弱酸性の緩衝溶液が、酢酸と酢酸ナトリウムとの混合物の水溶液、及び/又は、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムとの混合物の水溶液である、〔10〕又は〔11〕に記載のモノエステル化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、重合性液晶化合物を工業的に有利に製造可能な製造中間体等として有用な酸ハライド溶液の製造方法、ジカルボン酸ハライドを含有する混合溶液、及び、前記酸ハライド溶液を用いるモノエステル化合物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を、1)酸ハライド溶液の製造方法、2)混合溶液、及び、3)モノエステル化合物の製造方法、に項分して詳細に説明する。
【0022】
1)酸ハライド溶液の製造方法
本発明の酸ハライド溶液の製造方法は、非水混和性有機溶媒中において、前記式(I)で表されるテトラアルキルアンモニウム塩(以下、「テトラアルキルアンモニウム塩(I)」ということがある。)の存在下、ハロゲン化剤、及び、前記式(II)で表されるジカルボン酸化合物(以下、「ジカルボン酸化合物(II)」ということがある。)を反応させることにより、前記式(III)で表される酸ハライド化合物(以下、「酸ハライド化合物(III)」ということがある。)を含む非水混和性有機溶媒溶液を得る工程(α)と、工程(α)で得られた非水混和性有機溶媒溶液を濃縮する工程(β)とを含むことを特徴とする。以下、各工程を順に説明する。
【0023】
〔工程(α)〕
工程(α)は、非水混和性有機溶媒中において、テトラアルキルアンモニウム塩(I)の存在下、ジカルボン酸化合物(II)とハロゲン化剤とを反応させることにより、酸ハライド化合物(III)を含む非水混和性有機溶媒溶液を得る工程である。
【0024】
〔ジカルボン酸化合物(II)〕
本発明に用いるジカルボン酸化合物(II)は、前記式(II)で表されるジカルボン酸である。前記式(II)中、nは0又は1を表し、1であることが好ましい。
【0025】
ジカルボン酸化合物(II)の具体例としては、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。これらの中でも、重合性液晶化合物の製造原料としての有用性の観点から、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が好ましい。
【0026】
前記ジカルボン酸化合物(II)には、下記式(II−1)、(II−2)に示すように、シス−トランスの立体異性体が存在し得る。本発明においては、シス異性体、トランス異性体、シス−トランス異性体混合物(ラセミ体)のいずれも使用することができる。中でも、重合性液晶化合物の製造中間体等としての有用性の観点から、下記式(II−1)で表されるトランス異性体が好ましい。
【化9】
【0027】
〔非水混和性有機溶媒〕
本発明に用いる非水混和性有機溶媒は、ジカルボン酸化合物(II)及びジカルボン酸化合物(II)に対応する酸ハライド化合物(III)を溶解し、水と混和しない有機溶媒であれば、特に制限されない。水と混和しない有機溶媒としては、25℃における水に対する溶解度が10g/L以下である有機溶媒が挙げられる。
【0028】
具体的には、非水混和性有機溶媒としては、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の鎖式脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶媒;2−ブタノン等のケトン系溶媒;等が挙げられる。
これらの溶媒は、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、シクロペンチルメチルエーテル、クロロホルム、トルエンがより好ましい。
【0029】
また、非水混和性有機溶媒としては、特に、ヒルデブランドの溶解度パラメーターが、14.0MPa
1/2以上22.0MPa
1/2以下である有機溶媒が好ましい。ヒルデブランドの溶解度パラメーターとは、ヒルデブランドにより導入された正則溶液論により定義された、材料間の相互作用の程度の数値予測を提供する値(δ)である。
このような有機溶媒を用いることにより、後の洗浄工程(δ)の操作を容易とし、目的とするモノエステル化合物を効率よく得ることができる。
【0030】
具体的には、非水混和性有機溶媒としては、シクロペンチルメチルエーテル(ヒルデブランドの溶解度パラメーター(δ):17.2MPa
1/2)、メチル−t−ブチルエーテル((δ):15.6MPa
1/2)、ジエチルエーテル((δ):15.1MPa
1/2)、ジブチルエーテル((δ):14.9MPa
1/2)、ジイソプロピルエーテル((δ):14.1MPa
1/2)、1,2−ジメトキシエタン((δ):19.2MPa
1/2)等のエーテル系溶媒;クロロホルム((δ):19.0MPa
1/2)等のハロゲン化炭化水素系溶媒;酢酸エチル((δ):18.6MPa
1/2)等のエステル系溶媒;トルエン((δ):18.2MPa
1/2)等の芳香族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン((δ):16.7MPa
1/2)等の脂環式炭化水素系溶媒;2−ブタノン((δ):19.0MPa
1/2)等のケトン系溶媒;及びこれらの混合溶媒等を好ましく例示することができる。なお、混合溶媒を用いる場合、混合溶媒の溶解度パラメーターは、加成則で計算することができる。
【0031】
非水混和性有機溶媒の使用量は、ジカルボン酸化合物(II)1gに対し、通常0.1g以上100g以下、好ましくは0.5g以上50g以下である。
【0032】
〔テトラアルキルアンモニウム塩(I)〕
本発明においては、ジカルボン酸化合物(II)とハロゲン化剤とを反応させてジカルボン酸化合物(II)に対応するジカルボン酸ハライドを得るに際し、反応触媒として、テトラアルキルアンモニウム塩(I)を用いる。
反応触媒として、テトラアルキルアンモニウム塩(I)を用いることで、より少ない触媒使用量、より低い反応温度、より短時間で、かつ、より収率よく目的とするジカルボン酸ハライドを得ることができる。また、酸ハライド溶液をそのまま次のエステル化反応の製造原料として使用する場合において、テトラアルキルアンモニウム塩(I)は、後工程のエステル化反応に悪影響(エステル化反応の収率を低下させる等)を及ぼすことが少ない。
【0033】
前記式(I)中、A
−は、塩化物イオン、臭化物イオン等のハロゲン化物イオン、又は、式:R
5SO
3−で表されるスルホネートイオンを表す。ここで、R
5は、メチル基、フェニル基若しくは4−メチルフェニル基を表す。
これらの中でも、汎用性の観点から、A
−としては、ハロゲン化物イオンが好ましく、塩化物イオンが特に好ましい。
【0034】
また、前記式(I)中、R
1、R
2、R
3及びR
4は、それぞれ独立して、無置換の又は置換基を有するアルキル基を表す。
R
1、R
2、R
3及びR
4の、無置換の又は置換基を有するアルキル基のアルキル基としては、炭素数1以上30以下のアルキル基、好ましくは炭素数1以上20以下のアルキル基、より好ましくは炭素数1以上18以下のアルキル基が挙げられる。また、R
1、R
2、R
3及びR
4のアルキル基は、直鎖構造を有するものであっても、分岐構造を有するものであってもよい。
R
1、R
2、R
3及びR
4の、無置換の又は置換基を有するアルキル基のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソアミル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、セチル基等が挙げられる。
ただし、R
1、R
2、R
3及びR
4の炭素原子数の総和は、4以上100以下、好ましくは4以上80以下、より好ましくは4以上50以下、特に好ましくは4以上30以下である。
【0035】
R
1、R
2、R
3及びR
4のアルキル基が有し得る置換基としては、反応に不活性な基であれば特に限定されない。例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1以上10以下のアルコキシ基;フェニル基、2−クロロフェニル基、4−メチルフェニル基、フェネチル基等の、無置換の又は置換基を有するフェニル基;等が挙げられる。
R
1、R
2、R
3及びR
4の、置換基を有するアルキル基の具体例としては、2−メトキシエチル基、3−メトキシプロピル基、ベンジル基、4−メチルベンジル基、フェネチル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
前記テトラアルキルアンモニウム塩(I)の好ましい具体例としては、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラブチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
テトラアルキルアンモニウム塩(I)は一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
テトラアルキルアンモニウム塩(I)の使用量は、本発明のより優れた効果が得られる観点から、ジカルボン酸化合物(II)1モルに対し、好ましくは0.0001モル以上であり、より好ましくは0.001モル以上であり、好ましくは1モル以下であり、より好ましくは0.5モル以下である。
【0038】
〔ハロゲン化剤〕
本発明で用いるハロゲン化剤としては、ジカルボン酸化合物(II)を対応する酸ハライド化合物(III)に変換するものであれば、特に限定されない。
【0039】
用いるハロゲン化剤としては、塩化チオニル(SOCl
2)、塩化オキザリル〔(COCl)
2〕、塩化スルフリル(SO
2Cl
2)、塩化ホスホリル(POCl
3)、三塩化リン(PCl
3)、五塩化リン(PCl
5)等の塩素化剤;臭化チオニル(SOBr
2)、三臭化ホウ素(BBr
3)、臭素(Br
2)等の臭素化剤;等が挙げられる。
これらのハロゲン化剤は、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、汎用性の観点から、塩化チオニル、塩化オキザリル、塩化スルフリル、塩化ホスホリル、三塩化リン及び五塩化リンからなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0040】
ハロゲン化剤の使用量は、ジカルボン酸化合物(II)1モルに対し、通常2モル以上5モル以下、好ましくは2モル以上3モル以下である。
【0041】
ジカルボン酸化合物(II)とハロゲン化剤との反応方法は、特に限定されない。例えば、ジカルボン酸化合物(II)の非水混和性有機溶媒溶液中に、所定量のテトラアルキルアンモニウム塩(I)を添加した後、所定量のハロゲン化剤を添加して、全容を攪拌する方法が挙げられる。
反応温度は、通常0℃以上100℃以下、好ましくは0℃以上50℃以下である。
反応時間は、基質の種類、反応規模等にもよるが、通常、数分から8時間である。
【0042】
〔酸ハライド化合物(III)〕
工程(α)で生成する酸ハライド化合物(III)は、前記式(III)で表されるジカルボン酸ハライドである。前記式(III)中、nは0又は1を表し、1であることが好ましい。また、前記式(III)中、Xはハロゲン原子を表し、塩素原子であることが好ましい。
なお、酸ハライド化合物(III)は、ジカルボン酸化合物(II)に対応するものである。従って、通常、式(II)中のnと式(III)中のnとは等しい。また、Xは、ハロゲン化剤由来のハロゲン原子である。
【0043】
〔工程(β)〕
工程(β)は、工程(α)で得られた非水混和性有機溶媒溶液を濃縮する工程である。工程(β)を設けることにより、反応系内に残存する、ハロゲン化剤由来の酸成分(SO
2、HCl、SOCl
2等の酸成分)を除去することができる。
【0044】
ここで、本発明において、「濃縮する」とは、工程(α)で得られた反応液(非水混和性有機溶媒溶液)から、ハロゲン化剤由来の酸成分(SO
2、HCl、SOCl
2等の酸成分)を、溶媒とともに除去する操作であって、非水混和性有機溶媒溶液中の溶媒を完全に除去するものではない。通常、非水混和性有機溶媒溶液中の溶媒量が、質量比で、当初(工程(α)の開始時)の溶媒量(仕込み量)の1/10以上4/5以下、好ましくは1/10以上1/2以下となるまで、非水混和性有機溶媒溶液を濃縮する。
【0045】
濃縮方法としては、特に限定されるものではないが、エバポレーター等の蒸発濃縮装置を用いた蒸発濃縮法が挙げられる。
また、濃縮操作は、常圧(0.1MPa程度)下で行っても、減圧下で行ってもよい。効率よく酸成分を除去することができる観点から、減圧下で行うことが好ましい。減圧下で濃縮を行う場合、減圧度は、通常、10mmHg以上500mmHg以下である。
【0046】
以上のようにして、非水混和性有機溶媒溶液の濃縮液を得ることができる。
得られる濃縮液は、酸ハライド化合物(III)を含む酸ハライド溶液であり、通常、非水混和性有機溶媒と、酸ハライド化合物(III)と、テトラアルキルアンモニウム塩(I)と、ハロゲン化剤由来の酸成分とを含み、任意に未反応のハロゲン化剤を更に含有する。そして、酸ハライド溶液中のハロゲン化剤由来の酸成分の量は、通常、酸ハライド化合物(III)100質量部当たり0.1質量部以上3質量部以下である。
この酸ハライド溶液は、後述するように、ヒドロキシ化合物とのエステル化反応によって、モノエステル化合物を製造する製造原料として有用である。
【0047】
2)混合溶液
本発明の混合溶液は、上述した酸ハライド溶液の製造方法により得られた、非水混和性有機溶媒溶液の濃縮液であって、前記酸ハライド化合物(III)が前記式(III−1)で表されるジカルボン酸クロライド(以下、「ジカルボン酸クロライド(III−1)」ということがある。)であり、酸成分としての塩酸の含有量が少ない溶液である。
即ち、本発明の混合溶液は、非水混和性有機溶媒と、ジカルボン酸クロライド(III−1)と、テトラアルキルアンモニウム塩(I)と、少量の塩酸とを含む。
【0048】
ここで、本発明の混合溶液においては、前記非水混和性有機溶媒が、ハロゲン化炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒、又は芳香族炭化水素系溶媒であることが好ましく、シクロペンチルメチルエーテル、クロロホルム、又はトルエンであることがより好ましい。
また、本発明の混合溶液においては、前記テトラアルキルアンモニウム塩(I)が、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド、及びテトラブチルアンモニウムクロライドからなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
更に、本発明の混合溶液においては、ジカルボン酸クロライド(III−1)が、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライドであるのが好ましく、トランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライドであるのが特に好ましい。
また、混合溶液中の塩酸の量は、ジカルボン酸クロライド(III−1)100質量部に対して、通常0.1質量部以上3質量部以下である。なお、混合溶液中における塩酸の量は、実施例に記載された方法により測定することができる。
本発明の混合溶液は、後述するモノエステル化合物の製造原料として特に有用である。
【0049】
3)モノエステル化合物の製造方法
本発明のモノエステル化合物の製造方法は、上記した本発明の酸ハライド溶液の製造方法により得られた酸ハライド溶液に、式(IV):R
6OH(R
6は有機基を表す。)で表されるヒドロキシ化合物(以下、「ヒドロキシ化合物(IV)」ということがある。)、及び、塩基を添加する工程(γ)を有する。
【0050】
ここで、本発明のモノエステル化合物の製造方法の反応スキームの一例を下記に示す。なお、以下では、酸ハライド溶液中に含まれている酸ハライド化合物(III)のXが塩素原子である場合、即ち、酸ハライド化合物(III)がジカルボン酸クロライド(III−1)である場合について示しているが、本発明は以下の一例に限定されるものではない。
【化10】
【0051】
すなわち、本発明のモノエステル化合物の製造方法は、式(III)で表される酸ハライド化合物(上記の例ではジカルボン酸クロライド(III−1))と、式(IV)で表されるヒドロキシ化合物とを反応させることにより、式(V)で表されるモノエステル化合物(以下、「モノエステル化合物(V)」ということがある。)を得るものである。なお、未反応の酸ハライド部分(上記の例では左側の酸クロライド部分)は、得られた反応液を処理する過程で加水分解されて、カルボキシル基に変化する。
【0052】
ここで、上記式(IV)および(V)中、R
6は有機基を表す。R
6の有機基は、水酸基等の酸素原子と炭素原子で結合する基である。
R
6の有機基の炭素数は、特に限定されないが、1以上30以下が好ましい。
有機基としては、例えば、無置換の又は置換基を有する、炭素数1以上30以下のアルキル基、無置換の又は置換基を有する、炭素数2以上30以下のアルケニル基、無置換の又は置換基を有する、炭素数2以上30以下のアルキニル基、無置換の又は置換基を有する、炭素数3以上30以下のシクロアルキル基等の、無置換の又は置換基を有する脂肪族炭化水素基;無置換の又は置換基を有する、炭素数6以上30以下の芳香族炭化水素基、無置換の又は置換基を有する、炭素数1以上30以下の芳香族複素環基;が挙げられる。
【0053】
また、上記式(V)中、nは0又は1を表し、1が好ましい。なお、モノエステル化合物(V)は、酸ハライド化合物(III)をモノエステル化したものである。従って、通常、式(III)中のnと式(V)中のnとは等しい。
【0054】
本発明に用いるヒドロキシ化合物(IV)は、R
6が無置換の又は置換基を有する脂肪族炭化水素基であるアルコール化合物であってもよいし、R
6が、無置換の又は置換基を有する炭素数6以上30以下の芳香族炭化水素基、或いは、無置換の又は置換基を有する炭素数1以上30以下の芳香族複素環基である、フェノール系化合物であってもよい。本発明においては、重合性液晶化合物の製造中間体等としての有用性の観点から、ヒドロキシ化合物(IV)は、フェノール系化合物であることが好ましく、R
6が、無置換の又は置換基を有する炭素数6以上30以下の芳香族炭化水素基であるフェノール化合物であることがより好ましく、下記式(IV−1)で表される化合物であることが特に好ましい。
【化11】
【0055】
ここで、上記式(IV−1)中、R
7は、水素原子、メチル基又は塩素原子を表す。
また、mは、1以上20以下の整数を表し、1以上12以下の整数が好ましく、2以上10以下の整数がさらに好ましい。
【0056】
上記式(IV−1)で表される化合物は公知物質であり、従来公知の方法により製造し、入手することができる(例えば、国際公開第2014/010325号等参照)。
【0057】
本発明に用いる塩基としては、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、フェニルジメチルアミン、ピリジン、ピコリン、ルチジン、4−(ジメチルアミノ)ピリジン等の有機塩基;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の無機塩基;が挙げられる。これらは1種単独で、或いは、2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、塩基としては、収率よく目的物が得られる観点から、有機塩基が好ましく、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の3級アミンがより好ましく、トリエチルアミンが特に好ましい。
【0058】
また、塩基の使用量は、酸ハライド化合物(III)1モルに対して、通常1モル以上3モル以下、好ましくは1モル以上1.5モル以下である。
【0059】
エステル化反応は、例えば、酸ハライド化合物(III)の非水混和性有機溶媒溶液中に、ヒドロキシ化合物(IV)を加え、得られる反応混合物に塩基を添加して、全容を撹拌することにより行うことができる。
反応温度は、通常0℃以上80℃以下、好ましくは0℃以上50℃以下、より好ましくは、0℃以上30℃以下である。
反応時間は、反応規模等にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0060】
本発明の製造方法においては、工程(γ)の後、工程(γ)により得られた反応液を、弱酸性の緩衝溶液(一般的にはpHが4.5以上7未満の緩衝溶液)、好ましくはpHが5.0以上6.0以下の緩衝溶液、より好ましくはpHが5.0以上6.0以下の緩衝水溶液にて洗浄する工程(δ)を有することが好ましい。
工程(γ)により得られた反応液中には、通常、目的物の他に、原料である酸ハライド化合物(III)由来物(未反応の酸ハライド化合物(III)が加水分解して生成したジカルボン酸化合物(II))が含まれるが、この工程(δ)を設けることにより、前記反応液中のジカルボン酸化合物(II)の含有量を低減することができる。その結果、後の工程の反応における、ジカルボン酸化合物(II)による悪影響(副反応の発生による収率の低下)を防ぐことができる。
【0061】
緩衝溶液は、水素イオン濃度に対する緩衝作用のある溶液であり、一般的には、弱酸とその共役塩基や、弱塩基とその共役酸を混合して得られるものである。緩衝溶液を用いることにより、急激なpH変化による目的物の分解を防止し、結果として目的物を収率よく得ることができる。
【0062】
本発明に用い得る緩衝溶液としては、例えば、酢酸と酢酸ナトリウムとの組み合わせ、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムとの組み合わせ、リン酸二水素カリウムと水酸化ナトリウムとの組み合わせ、クエン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとの組み合わせ、リン酸二水素カリウムとクエン酸との組み合わせ等の、混合系の緩衝溶液が挙げられる。
これらの中でも、本発明の効果をより得られる観点から、酢酸と酢酸ナトリウムの混合系の緩衝溶液、又は、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムの混合系の緩衝溶液であるのが好ましい。
【0063】
緩衝溶液は、従来公知の方法により調製することができる。例えば、pHが5.6(18℃)の、酢酸と酢酸ナトリウムの混合系の緩衝溶液は、0.2N酢酸と0.2M酢酸ナトリウム水溶液を、0.2N酢酸1.9ml、0.2M酢酸ナトリウム水溶液18.1mlの割合で混合することにより調製することができる。また、pHが5.8(20℃)の、フタル酸水素カリウムと水酸化ナトリウムの混合系の緩衝溶液は、0.2Mのフタル酸水素カリウム水溶液、0.2N水酸化ナトリウム水溶液、及び水を、0.2Mフタル酸水素カリウム水溶液50.0ml、0.2N水酸化ナトリウム水溶液43.0ml、及び水107.0mlの割合で混合することにより調製することができる。
【0064】
工程(δ)における緩衝溶液での反応液の洗浄回数は、特に制限されないが、通常1回以上3回以下である。緩衝溶液での洗浄は、反応液を水洗した後に行ってもよい。
【0065】
以上のようにして得られるモノエステル化合物(V)は、例えば、下記式(5)で表される重合性液晶化合物の製造原料として有用である(例えば、国際公開第2014/010325号参照)。
【化12】
(式(5)中、Aは、水素原子、メチル基又は塩素原子を表し、Rは、水素原子、又は、炭素数1以上20以下の有機基を表し、R
Xはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上6以下のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、炭素数1以上6以下のフルオロアルキル基、炭素数1以上6以下のアルコキシ基、又は、−C(=O)−O−R
aを表す。ここで、R
aは、水素原子又は置換基を有していても良い炭素数1以上10以下のアルキル基を表し、pは1以上20以下の整数を表す。)
【0066】
なお、上記式(5)で表される重合性液晶化合物は、例えば、以下の工程により製造することができる。
【化13】
(式中、A、R、R
X、及びpは、前記と同じ意味を表す。Lは、水酸基、ハロゲン原子、アルキルスルホニルオキシ基、アリールスルホニルオキシ基等の脱離基を表す。)
【0067】
すなわち、式(1)で示されるアルデヒド化合物と、モノエステル化合物(V)としての式(2)で示されるカルボン酸モノエステルとを反応させることにより、式(3)で示される化合物を得て、さらに、式(3)で示される化合物と、式(4)で示されるヒドラジン化合物とを反応させることで、目的とする式(5)で示される重合性液晶化合物を得ることができる。
いずれの反応においても、反応温度は、通常0℃以上80℃以下、好ましくは5℃以上50℃以下、より好ましくは5℃以上30℃以下である。反応時間は、反応規模等にもよるが、通常、数分から数時間である。
【実施例】
【0068】
以下、本発明を、実施例によりさらに詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例により何ら制限されるものではない。
【0069】
(実施例1)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがシクロペンチルメチルエーテル(CPME)に溶解した溶液の調製
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、ジカルボン酸化合物(II)としてのtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸8.65g(50.2mmol)と、非水混和性有機溶媒としてのCPME86.5gとを加えた。そこへ、テトラアルキルアンモニウム塩(I)としてのベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)を加えた。その後、23℃にて、ハロゲン化剤としての塩化チオニル12.54g(105mmol)を5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を50℃に加温して、1時間さらに攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターにて濃縮を行い、使用したCPMEの80%(69g)を抜き出して、ジカルボン酸クロライド(trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド)、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(A)とする。
【0070】
(実施例2)ジカルボン酸クロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液の調製
実施例1において、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)をトリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライド(商品名:Aliquat)126mg(0.25mmol)に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(B)とする。
【0071】
(実施例3)ジカルボン酸クロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド混合物がCPMEに溶解した溶液の調製
実施例1において、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)をメチルトリオクチルアンモニウムクロライド混合物(商品名:Adogen)126mg(0.25mmol)に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド混合物がCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(C)とする。
【0072】
(実施例4)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液の調製
実施例1において、非水混和性有機溶媒をCPME86.5gからクロロホルム100gに替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(D)とする。
【0073】
(実施例5)ジカルボン酸クロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液の調製
実施例2において、非水混和性有機溶媒をCPME86.5gからクロロホルム100gに替えた以外は、実施例2と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(E)とする。
【0074】
(実施例6)ジカルボン酸クロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド混合物がクロロホルムに溶解した溶液の調製。
実施例3において、非水混和性有機溶媒をCPME86.5gからクロロホルム100gに替えた以外は、実施例3と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、メチルトリオクチルアンモニウムクロライド混合物がクロロホルムに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(F)とする。
【0075】
(実施例7)ジカルボン酸クロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液の調製
実施例1において、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)をトリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライド(商品名:Aliquat)2.52g(5.0mmol)に替え、反応時間を30分に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、トリ(n−オクチル)メチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(G)とする。
【0076】
(実施例8)混合物1の製造
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、実施例1で製造した酸クロリド溶液(A)を加えたのち、CPME235gを加え、反応器を氷浴に浸して反応液内温を0℃とした。そこへ、ヒドロキシ化合物(IV)としての4−(6−アクリロイルオキシ−ヘクス−1−イルオキシ)フェノール(DKSH社製)12.64g(47.83mmol)を加えた。次いで、塩基としてのトリエチルアミン5.08g(50.2mmol)を、反応液内温を10℃以下に保持しながら、5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を0℃にて、そのまま1時間さらに攪拌した。そして、以下に示す反応により、モノエステルおよびジエステルを生成させた。
【化14】
次に、得られた反応液に、蒸留水32gを加えて25℃にて2時間洗浄を行った後、水層を抜き出した。有機層について、濃度1mol/リットルの酢酸と酢酸ナトリウムの混合物の水溶液からなる緩衝溶液(pH:5.5)53gで3回洗浄を行った後、緩衝溶液を抜き出した。
その後、蒸留水32gで1回洗浄を行った。得られた有機層にn−ヘキサン320mlを加えて結晶を析出させ、析出した結晶をろ取した。得られた結晶をn−ヘキサンで洗浄後、真空乾燥させて、白色固体として混合物1を15.22g得た。得られた結晶を高速液体クロマトグラフ(HPLC)にて分析を行い、検量線にてモノエステルとジエステルの定量を行ったところ、目的物であるモノエステルが10.55g(25.22mmol)、ジエステルが4.67g(7.02mmol)含まれていることが分かった。
【0077】
(実施例9)混合物2の製造
実施例8において、実施例1で製造した酸クロリド溶液(A)に替えて、実施例2で製造した酸クロリド溶液(B)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.45g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.69g(25.54mmol)、ジエステルが、4.76g(7.17mmol)含まれていることが分かった。
【0078】
(実施例10)混合物3の製造
実施例8において、実施例1で製造した酸クロリド溶液(A)に替えて、実施例3で製造した酸クロリド溶液(C)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行った。その結果、白色固体を14.93g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.31g(24.63mmol)、ジエステルが、4.62g(6.70mmol)含まれていることが分かった。
【0079】
(実施例11)混合物4の製造
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、実施例4で製造した酸クロリド溶液(D)を加えたのち、クロロホルム235gを加え、反応器を氷浴に浸して反応液内温を0℃とした。そこへ、ヒドロキシ化合物(IV)としての4−(6−アクリロイルオキシ−ヘクス−1−イルオキシ)フェノール(DKSH社製)12.64g(47.83mmol)を加えた。次いで、塩基としてのトリエチルアミン5.08g(50.2mmol)を、反応液内温を10℃以下に保持しながら、5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を0℃にて、そのまま1時間さらに攪拌した。
得られた反応液に、蒸留水32gを加えて25℃にて2時間洗浄を行った後、水層を抜き出した。有機層について、濃度1mol/リットルの酢酸と酢酸ナトリウムの混合物の水溶液からなる緩衝溶液(pH:5.5)53gで3回洗浄を行った後、緩衝溶液を抜き出した。
その後、蒸留水32gで1回洗浄を行った。得られた有機層にn−ヘキサン320mlを加えて結晶を析出させ、析出した結晶をろ取した。得られた結晶をn−ヘキサンで洗浄後、真空乾燥させて、白色固体として混合物4を15.34g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.20g(24.36mmol)、ジエステルが5.14g(7.74mmol)含まれていることが分かった。
【0080】
(実施例12)混合物5の製造
実施例11において実施例4で製造した酸クロリド溶液(D)に替えて、実施例5で製造した酸クロリド溶液(E)を用いた以外は、実施例11と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.41g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.21g(24.40mmol)、ジエステルが5.20g(7.83mmol)含まれていることが分かった。
【0081】
(実施例13)混合物6の製造
実施例11において実施例4で製造した酸クロリド溶液(D)に替えて、実施例6で製造した酸クロリド溶液(F)を用いた以外は、実施例11と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.51g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.34g(24.71mmol)、ジエステルが5.17g(7.78mmol)含まれていることが分かった。
【0082】
(実施例14)混合物7の製造
実施例8において実施例1で製造した酸クロリド溶液(A)に替えて、実施例7で製造した酸クロリド溶液(G)を用い、トリエチルアミン5.08g(50.2mmol)をトリエチルアミン6.10g(60.2mmol)に替えた以外は、実施例8と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.14g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.35g(24.72mmol)、ジエステルが4.79g(7.21mmol)含まれていることが分かった。
【0083】
(実施例15)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液の調製
実施例1において、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)をベンジルトリエチルアンモニウムクロライド57mg(0.25mmol)に替えた以外は、実施例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(H)とする。
【0084】
(実施例16)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液の調製
実施例15において、非水混和性有機溶媒をCPME86.5gからクロロホルム100gに替えた以外は、実施例15と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、ベンジルトリエチルアンモニウムクロライドがクロロホルムに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(I)とする。
【0085】
(実施例17)混合物11の製造
実施例8において、実施例1で製造した酸クロリド溶液(A)に替えて、実施例15で製造した酸クロリド溶液(H)を用いた以外は、実施例8と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.22g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.51g(25.11mmol)、ジエステルが4.71g(7.09mmol)含まれていることが分かった。
【0086】
(実施例18)混合物12の製造
実施例11において、実施例4で製造した酸クロリド溶液(D)に替えて、実施例16で製造した酸クロリド溶液(I)を用いた以外は、実施例11と同様の操作を行った。その結果、白色固体を15.36g得た。実施例11と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが10.23g(24.45mmol)、ジエステルが5.13g(7.72mmol)含まれていることが分かった。
【0087】
(比較例1)ジカルボン酸クロライド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)がCPMEに溶解した溶液の調製
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、ジカルボン酸化合物(II)としてのtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸8.65g(50.2mmol)と、非水混和性有機溶媒としてのCPME86.5gと、反応触媒(活性化剤)としてのN,N−ジメチルホルムアミド18mg(0.25mmol)とを加えた。その後、23℃にてハロゲン化剤としての塩化チオニル12.54g(105mmol)を5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を50℃に加温して20時間さらに攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターにて濃縮を行い、使用したCPMEの80%(69g)を抜き出して、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、N,N−ジメチルホルムアミドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(α)とする。
【0088】
(比較例2)ジカルボン酸クロライド、N,N−ジメチルホルムアミドがCPMEに溶解した溶液の調製
比較例1において、N,N−ジメチルホルムアミド18mg(0.25mmol)をN,N−ジメチルホルムアミド367mg(5.0mmol)に替え、反応時間を5時間に替えた以外は、比較例1と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、N,N−ジメチルホルムアミドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(β)とする。
【0089】
(比較例3)ジカルボン酸クロライド、N,N−ジメチルホルムアミドがクロロホルムに溶解した溶液の調製
比較例2において、非水混和性有機溶媒をCPME86.5gからクロロホルム100gに替えた以外は、比較例2と同様の操作を行い、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、N,N−ジメチルホルムアミドがクロロホルムに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(γ)とする。
【0090】
(比較例4)混合物8の製造
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、比較例1で製造した酸クロリド溶液(α)を加えたのち、CPME235gを加え、反応器を氷浴に浸して反応液内温を0℃とした。そこへ、ヒドロキシ化合物(IV)としての4−(6−アクリロイルオキシ−ヘクス−1−イルオキシ)フェノール(DKSH社製)12.64g(47.83mmol)を加えた。次いで、塩基としてのトリエチルアミン5.08g(50.2mmol)を、反応液内温を10℃以下に保持しながら、5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を0℃にて、そのまま1時間さらに攪拌した。
得られた反応液に、蒸留水32gを加えて25℃にて2時間洗浄を行った後、水層を抜き出した。有機層について、濃度1mol/リットルの酢酸と酢酸ナトリウムの混合物の水溶液からなる緩衝溶液(pH:5.5)53gで3回洗浄を行った後、緩衝溶液を抜き出した。
その後、蒸留水32gで1回洗浄を行った。得られた有機層にn−ヘキサン320mlを加えて結晶を析出させ、析出した結晶をろ取した。得られた結晶をn−ヘキサンで洗浄後、真空乾燥させて、白色固体として混合物8を14.55g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが9.81g(23.45mmol)、ジエステルが4.73g(7.12mmol)含まれていることが分かった。
【0091】
(比較例5)混合物9の製造
比較例4において、比較例1で製造した酸クロリド溶液(α)に替えて、比較例2で製造した酸クロリド溶液(β)を用い、トリエチルアミン5.08g(50.2mmol)を、トリエチルアミン6.10g(60.2mmol)に替えた以外は、比較例4と同様の操作を行った。その結果、白色固体を11.47g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが7.51g(17.95mmol)、ジエステルが3.96g(5.96mmol)含まれていることが分かった。
【0092】
(比較例6)混合物10の製造
比較例4において、比較例1で製造した酸クロリド溶液(α)に替えて、比較例3で製造した酸クロリド溶液(γ)を用い、CPMEに替えてクロロホルムを用い、トリエチルアミン5.08g(50.2mmol)を、トリエチルアミン6.10g(60.2mmol)に替えた以外は、比較例4と同様の操作を行った。その結果、白色固体を11.35g得た。実施例8と同様の方法で組成を確認したところ、目的物であるモノエステルが7.41g(17.71mmol)、ジエステルが3.94g(5.93mmol)含まれていることが分かった。
【0093】
以上の結果を表1、表2にまとめた。
なお、表中、「活性化剤」は酸クロライド化反応の反応触媒を指し、「活性化剤の添加量」はジカルボン酸化合物の量に対する比(モル比)を指し、「反応溶媒」は非水混和性有機溶媒を指す。また、「酸クロ溶液」は酸クロリド溶液の略語である。
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
表1から、テトラアルキルアンモニウム塩の存在下、酸クロライド化反応を行うと、従来から知られているN,N−ジメチルホルムアミドを用いる場合に比して、少ない添加量でも反応が速く進行し、効率的であることが分かる。
また、表2から、次工程のエステル化反応においても、テトラアルキルアンモニウム塩を使用して製造された酸クロリド溶液は、良好な反応成績を与えるが、N,N−ジメチルホルムアミドを使用して製造された酸クロリド溶液を用いた場合には、転化率が低くなり、反応が完結しないだけでなく、収量が低下する傾向があることが分かる。これは、反応系内に副生成物の生成が多く見られることに起因する。
【0097】
(測定例1)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液中の塩酸ガス量の測定(濃縮前)
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、ジカルボン酸化合物(II)としてのtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸8.65g(50.2mmol)と、非水混和性有機溶媒としてのCPME86.5gとを加えた。そこへ、テトラアルキルアンモニウム塩(I)としてのベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)を加えた。その後、23℃にてハロゲン化剤としての塩化チオニル12.54g(105mmol)を5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を50℃に加温して、1時間さらに攪拌した。反応終了後、メタノール16g(500mmol)を加えて1時間撹拌した。その後、水酸化ナトリウムを用いた滴定により塩酸ガスの含量を測定したところ、生成したtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド100質量部に対して25.5質量部の塩酸ガスが残存していた。
【0098】
(測定例2)ジカルボン酸クロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液中の塩酸ガス量の測定(濃縮後)
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、ジカルボン酸化合物(II)としてのtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸8.65g(50.2mmol)と、非水混和性有機溶媒としてのCPME86.5gとを加えた。そこへ、テトラアルキルアンモニウム塩(I)としてのベンジルトリメチルアンモニウムクロライド47mg(0.25mmol)を加えた。その後、23℃にてハロゲン化剤としての塩化チオニル12.54g(105mmol)を5分間かけてゆっくり滴下した。滴下終了後、全容を50℃に加温して、1時間さらに攪拌した。反応終了後、ロータリーエバポレーターにて濃縮を行い、使用したCPMEの80%(69g)を抜き出して、trans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドがCPMEに溶解した溶液を調製した。この溶液を酸クロリド溶液(A)とする。この酸クロリド溶液(A)にメタノール16g(500mmol)を加えて1時間撹拌した。その後、水酸化ナトリウムを用いた滴定により塩酸ガスの含量を測定したところ、生成したtrans−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸ジクロライド100質量部に対して1.8質量部の塩酸ガスが残存していた。