(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の水素化触媒を用いた水素化方法では、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物を水素化した際に1,3−ブタジエンの水素化を十分に抑制することができず、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度の低下を十分に抑制することができなかった。
【0006】
そこで、本発明は、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物について、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを水素化することが可能な水素化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、ビニルアセチレンの濃度が所定値以上である1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物に対し、所定の水素化触媒を用いて水素化処理を行えば、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを効果的に水素化し得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水素化方法は、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物の水素化方法であって、水素の存在下、前記炭化水素混合物と水素化触媒とを接触させて少なくとも前記ビニルアセチレンを水素化する工程を含み、前記炭化水素混合物は、ビニルアセチレンを1質量%以上含有し、前記水素化触媒は、パラジウムを含有し、且つ、CO吸着量が0.5cm
3/g以下であることを特徴とする。このように、パラジウムを含有し、且つ、CO吸着量が0.5cm
3/g以下である水素化触媒を使用し、ビニルアセチレンを1質量%以上含有する炭化水素混合物を水素化すれば、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを水素化することができる。
なお、本発明において、「CO吸着量」は、本明細書の実施例に記載の方法に従って測定することができる。
【0009】
ここで、本発明の水素化方法は、前記CO吸着量が0.05cm
3/g以下であることが好ましい。水素化触媒のCO吸着量が0.05cm
3/g以下であれば、ビニルアセチレンの過水添を抑制しつつビニルアセチレンを1,3−ブタジエンへと選択的に水素化することができる。従って、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度の低下を更に抑制する、或いは、1,3−ブタジエン濃度を炭化水素混合物よりも高めることができる。
【0010】
また、本発明の水素化方法は、前記水素化触媒が、担体と、前記担体に担持されたパラジウムとを含むことが好ましい。担体にパラジウムを担持してなる水素化触媒を使用すれば、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを効率的に水素化することができる。
【0011】
更に、本発明の水素化方法は、前記パラジウムの担持量が0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましい。パラジウムの担持量が上記範囲内であれば、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下の抑制と、ビニルアセチレンの水素化とを効果的に両立することができる。
なお、本発明において、「パラジウムの担持量」は、蛍光X線分析を用いて測定することができる。
【0012】
また、本発明の水素化方法は、前記担体が、γ−アルミナと、α−アルミナおよびθ−アルミナの少なくとも一方とを含有することが好ましい。担体が、γ−アルミナと、α−アルミナおよびθ−アルミナの少なくとも一方とを含有する水素化触媒を使用すれば、ビニルアセチレンを1,3−ブタジエンへと選択的に水素化することができる。従って、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度の低下を更に抑制する、或いは、1,3−ブタジエン濃度を炭化水素混合物よりも高めることができる。
【0013】
更に、本発明の水素化方法は、前記水素化触媒がエッグシェル構造を有することが好ましい。エッグシェル構造を有する水素化触媒を使用すれば、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを効率的に水素化することができる。
【0014】
また、本発明の水素化方法は、前記水素化触媒の平均細孔径が5.0nm以上30nm以下であることが好ましい。水素化触媒の平均細孔径が上記範囲内であれば、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下の抑制と、ビニルアセチレンの水素化とを効果的に両立することができる。
なお、本発明において、「水素化触媒の平均細孔径」は、ガス吸着法を用いて測定することができる。
【0015】
更に、本発明の水素化方法は、前記工程において、気体状態の炭化水素混合物を前記水素化触媒に接触させることが好ましい。気体状態の炭化水素混合物を使用すれば、ハンドリングが容易であると共に炭化水素混合物中に含まれている炭化水素化合物の重合を防止することができる。
【0016】
そして、本発明の水素化方法は、前記炭化水素混合物が、C
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分を含むことが好ましい。C
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分を含む炭化水素混合物を水素化すれば、1,3−ブタジエンを高い収率で得ることが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物について、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを水素化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の水素化方法は、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物を水素化する際に用いることができる。なお、本発明の水素化方法において、得られる水素化物中の1,3−ブタジエンの濃度が水素化前の炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度よりも高くなる場合には、当該水素化方法は炭化水素混合物からの1,3−ブタジエンの製造に好適に用いることができる。
【0020】
(水素化方法)
本発明の水素化方法は、水素の存在下、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む炭化水素混合物と、水素化触媒とを接触させて少なくともビニルアセチレンを水素化する工程を含む。また、本発明の水素化方法は、ビニルアセチレンの濃度が所定値以上である炭化水素混合物に対し、所定の水素化触媒を用いて水素化処理を行うことを必要とする。
【0021】
そして、本発明の水素化方法によれば、所定の炭化水素混合物に対して所定の水素化触媒を用いて水素化処理を行っているので、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度が1,3−ブタジエンの水素化により低下するのを抑制しつつビニルアセチレンを水素化することができる。
【0022】
<炭化水素混合物>
本発明の水素化方法を用いて水素化される炭化水素混合物としては、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含有し、且つ、ビニルアセチレン濃度が1質量%以上である炭化水素混合物であれば、任意の炭化水素混合物を用いることができる。具体的には、特に限定されることなく、炭化水素混合物としては、ナフサをクラッキングしてエチレンを生産する際に得られるC
4留分などのC
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分を含む炭化水素混合物を用いることが好ましく、C
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分またはその混合物を用いることがより好ましい。C
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分を含む炭化水素混合物を水素化すれば、1,3−ブタジエンを高い収率で得ることが可能となるからである。
なお、C
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に生成した留分としては、特に限定されることなく、
(1)溶剤を用いてC
4炭化水素混合物を抽出蒸留した際に留出する、溶剤に対してブタジエン(1,2−ブタジエンおよび1,3−ブタジエン)よりも難溶性の炭化水素化合物(例えば、ブタン類およびブテン類など)を含む留分
(2)C
4炭化水素混合物の抽出蒸留により得られた、ブタジエンを高濃度で含む留分を精製して1,3−ブタジエンを得る際に生じる留分
(3)溶剤を用いてC
4炭化水素混合物を抽出蒸留した際に缶出する、アセチレンを含む抽出液(缶出液)から溶剤を回収した際に生じる留分
などが挙げられる。
【0023】
[ビニルアセチレン濃度]
ここで、炭化水素混合物中のビニルアセチレンの濃度は、1質量%以上であることが必要である。ビニルアセチレンの濃度が1質量%未満の場合には、所定の水素化触媒を使用した場合であっても炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの水素化を抑制することができず、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度が低下してしまう。
なお、ビニルアセチレンは反応性が高く、異常反応を起こし易いため、異常反応を予防する観点からは、炭化水素混合物中のビニルアセチレンの濃度は、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。一方、1,3−ブタジエンの水素化を十分に抑制する観点からは、炭化水素混合物中のビニルアセチレンの濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。
【0024】
[1,3−ブタジエン濃度]
また、炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましい。炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度が上記下限値以上であれば、炭化水素混合物を水素化して得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度を適度に高めることができるので、水素化物からの1,3−ブタジエンの回収効率を高めることができる。また、炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度が上記上限値以下であれば、1,3−ブタジエンが水素化されるのを抑制して、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度が低下するのを十分に抑制することができる。
【0025】
<水素化触媒>
本発明の水素化方法で使用する水素化触媒は、パラジウムを含有し、且つ、CO吸着量が0.5cm
3/g以下であることを必要とする。パラジウムを含有しない場合および/またはCO吸着量が0.5cm
3/g超の場合には、炭化水素混合物中のビニルアセチレンの濃度が1質量%以上であっても炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの水素化を抑制することができず、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度が低下してしまう。
【0026】
[活性成分]
ここで、水素化触媒は、パラジウム以外の元素(例えば、銅、ニッケル、白金等)を含有していてもよいが、活性成分としてパラジウムのみを含む一元系触媒であることが好ましい。
【0027】
そして、水素化触媒の活性成分は、特に限定されることなく、担体に担持された状態で炭化水素混合物の水素化に用いることができる。即ち、本発明の水素化方法で使用する水素化触媒は、パラジウムを含む活性成分を担体に担持してなる触媒であることが好ましく、パラジウムのみを担体に担持してなる触媒であることがより好ましい。
【0028】
[担体]
ここで、水素化触媒の担体としては、特に限定されることなく、ゼオライト、アルミナなどの既知の担体材料からなる担体を用いることができる。中でも、担体としては、γ−アルミナと、α−アルミナおよびθ−アルミナの少なくとも一方とを含有する担体を用いることが好ましい。γ−アルミナと、α−アルミナおよびθ−アルミナの少なくとも一方とを含有する担体を備える水素化触媒を使用すれば、炭化水素混合物中のビニルアセチレンを1,3−ブタジエンへと選択的に水素化し、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度の低下を更に抑制する、或いは、1,3−ブタジエン濃度を炭化水素混合物よりも高めることができるからである。
【0029】
なお、γ−アルミナと、α−アルミナおよびθ−アルミナの少なくとも一方とを含む担体を有する水素化触媒は、特に限定されることなく、γ−アルミナを含む担体に活性成分を担持した後、活性成分および担体を例えば1000℃以上で焼成することにより、得ることができる。
【0030】
[担持量]
また、活性成分を担体に担持させる場合、水素化触媒中におけるパラジウムの担持量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることがより好ましく、5.0質量%以下であることが好ましく、1.0質量%以下であることがより好ましい。パラジウムの担持量が上記下限値以上であれば、ビニルアセチレンを効果的に水素化することができる。また、パラジウムの担持量が上記上限値以下であれば、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下を十分に抑制することができる。
【0031】
[構造]
更に、水素化触媒の構造は特に限定されるものではないが、活性成分を担体に担持させる場合、水素化触媒はエッグシェル構造を有することが好ましい。エッグシェル構造の水素化触媒を使用すれば、1,3−ブタジエン濃度の低下を抑制しつつビニルアセチレンを効率的に水素化することができる。
なお、エッグシェル構造の水素化触媒は、特に限定されることなく、既知の手法を用いて調製することができる。
【0032】
ここで、水素化触媒がエッグシェル構造を有する場合、パラジウムを含む活性成分の層の厚みは、特に限定されることなく、例えば0.05mm以上2.0mm以下とすることができる。なお、活性成分の層の厚みは、既知の手法を用いて調整することができる。また、活性成分の層の厚みは、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光法(SEM−EDX)により測定することができる。
【0033】
[性状]
そして、本発明の水素化方法で使用する水素化触媒は、CO吸着量が0.5cm
3/g以下であることが必要であり、更に以下の性状を有することが好ましい。
【0034】
[[CO吸着量]]
ここで、水素化触媒のCO吸着量は、0.1cm
3/g以下であることが好ましく、0.05cm
3/g以下であることがより好ましく、0.045cm
3/g以下であることが更に好ましく、0.001cm
3/g以上であることが好ましく、0.005cm
3/g以上であることがより好ましい。CO吸着量が上記範囲内であれば、炭化水素混合物中のビニルアセチレンの過水添を抑制しつつビニルアセチレンを1,3−ブタジエンへと選択的に水素化し、得られる水素化物中の1,3−ブタジエン濃度の低下を更に抑制する、或いは、1,3−ブタジエン濃度を炭化水素混合物よりも高めることができるからである。
【0035】
[[平均細孔径]]
また、水素化触媒は、平均細孔径が5.0nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることが更に好ましく、30nm以下であることが好ましく、25nm以下であることがより好ましい。水素化触媒の平均細孔径が上記範囲内であれば、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下の抑制と、ビニルアセチレンの水素化とを効果的に両立することができる。
【0036】
[[比表面積]]
また、水素化触媒は、比表面積が10m
2/g以上であることが好ましく、20m
2/g以上であることがより好ましく、200m
2/g以下であることが好ましく、100m
2/g以下であることがより好ましい。水素化触媒の比表面積が上記範囲内であれば、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下の抑制と、ビニルアセチレンの水素化とを効果的に両立することができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、ガス吸着法を用いて測定したBET比表面積を指す。
【0037】
なお、上述した水素化触媒の性状(CO吸着量、平均細孔径、比表面積など)は、水素化触媒の調製条件を変更することにより調節することができる。具体的には、例えば、活性成分を担体に担持してなる触媒に焼成処理を施せば、CO吸着量および比表面積が減少し、平均細孔径が増大する。
【0038】
[水素化触媒の製造方法]
そして、上述した水素化触媒は、特に限定されることなく、既知の手法を用いてパラジウムを含む活性成分を任意に担体に担持させた後、任意に活性成分および活性成分を担持した担体を例えば空気などの酸素含有雰囲気下または窒素などの不活性ガス雰囲気下で焼成することにより、調製することができる。中でも、1,3−ブタジエンの水素化による1,3−ブタジエン濃度の低下を更に抑制し得る水素化触媒を得る観点からは、水素化触媒は、活性成分および活性成分を担持した担体を焼成することにより調製することが好ましく、活性成分および活性成分を担持した担体を1000℃以上の温度で焼成することにより調製することがより好ましい。なお、焼成時間は、特に限定されないが、1時間以上が好ましく、2時間以上10時間以下がより好ましい。
【0039】
<水素化>
そして、本発明の水素化方法では、上述した炭化水素混合物中に含まれているビニルアセチレンの水素化は、水素の存在下、上述した炭化水素混合物と上述した水素化触媒とを接触させることにより行う。なお、水素化は、回分式、半回分式、連続式の何れの方式で行ってもよい。
【0040】
[水素化条件]
ここで、水素の供給量および供給圧力は、特に限定されることなく、炭化水素混合物中に含まれているビニルアセチレンを十分に水素化可能な供給量および供給圧力とすることができる。具体的には、水素の供給量は、例えば体積比で炭化水素混合物の0.2倍以上2.0倍以下とすることができる。また、水素の供給圧力(ゲージ圧)は、例えば0kPa以上300kPa以下とすることができる。
なお、水素は窒素等の不活性ガスとの混合ガスとして供給してもよい。混合ガスとする場合の不活性ガスの比率は、例えば体積比で水素の0.1倍以上2.0倍以下とすることができる。また、混合ガスの供給圧力(ゲージ圧)は、例えば0kPa以上300kPa以下とすることができる。
【0041】
また、水素化触媒と接触させる炭化水素混合物は、液体の状態で水素化触媒と接触させてもよいし、気体の状態で水素化触媒と接触させてもよい。中でも、ハンドリング性および炭化水素混合物中に含まれている炭化水素化合物の重合防止の観点からは、炭化水素混合物は気体状態で水素化触媒と接触させることが好ましい(即ち、水素化は気相反応で行うことが好ましい)。
なお、炭化水素混合物の供給圧力(ゲージ圧)は、例えば0kPa以上300kPa以下とすることができる。
【0042】
更に、炭化水素混合物と水素化触媒とを接触させる温度は、特に限定されることなく、炭化水素混合物中に含まれているビニルアセチレンを水素化可能な温度とすることができる。具体的には、炭化水素混合物と水素化触媒とを接触させる温度は、例えば10℃以上50℃以下とすることができる。
【0043】
[水素化物の性状]
そして、炭化水素混合物を水素化して得られる水素化物は、ビニルアセチレンの濃度が5質量%未満であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。ビニルアセチレンの濃度が上記上限値以下であれば、水素化物が異常反応を起こすのを抑制することができる。
【0044】
また、水素化物中の1,3−ブタジエンの濃度(C
A、単位:質量%)は、炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度(C
B、単位:質量%)との差(C
A−C
B)が−3.0質量%以上となる濃度(C
A≧C
B−3.0)であることが好ましく、炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度以上(C
A≧C
B)であることがより好ましく、炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度よりも高い(C
A>C
B)ことが更に好ましい。1,3−ブタジエンの濃度の差(C
A−C
B)が−3.0質量%以上であれば、1,3−ブタジエンの水素化を十分に抑制することができる。なお、水素化物中の1,3−ブタジエンの濃度が炭化水素混合物中の1,3−ブタジエンの濃度よりも高くなれば(即ち、1,3−ブタジエンが水素化される量よりもビニルアセチレンが1,3−ブタジエンまで選択的に水素化される量の方が多ければ)、本発明の水素化方法を利用して1,3−ブタジエンを効率的に製造することができる。
【0045】
更に、水素化物中の1,3−ブタジエンの濃度は、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましい。1,3−ブタジエンの濃度が上記下限値以上であれば、水素化物から1,3−ブタジエンを効率的に分離回収することができるからである。なお、水素化物中の1,3−ブタジエンの濃度は、通常、40質量%以下である。
【0046】
なお、得られた水素化物中の1,3−ブタジエンは、特に限定されることなく、既知の分離回収方法を用いて回収し、合成ゴムや樹脂などの原料として利用することができる。
【0047】
<水素化方法の適用例>
そして、上述した本発明の水素化方法は、特に限定されることなく、抽出蒸留を用いてC
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収するプロセスにおいて副生する留分を水素化する際に特に好適に用いることができる。
より具体的には、本発明の水素化方法は、
図1に示すような1,3−ブタジエンの製造装置100において、抽出蒸留を用いてC
4炭化水素混合物から1,3−ブタジエンを分離回収する際に副生する留分を水素化部50で水素化する際に好適に用いることができる。
【0048】
ここで、
図1に示す製造装置100は、C
4留分などのC
4炭化水素混合物を抽出蒸留して1,3−ブタジエンを含む留分(A)とビニルアセチレンを含む抽出液(B)とを得る抽出蒸留部10と、抽出蒸留部10で得た抽出液(B)から溶剤を除去してビニルアセチレンを含有する高VA留分を得る放散部20と、抽出蒸留部10で得た留分(A)から1,3−ブタジエン以外の不純物を除去する不純物除去部30とを備えている。
また、製造装置100は、放散部20で得た高VA留分と、抽出蒸留部10で生成する留分および不純物除去部30で生成する留分の少なくとも一方、好ましくは両方とを混合して高VA留分よりもビニルアセチレン濃度が低い希釈留分を得る混合部40と、混合部40で得た希釈留分を本発明の水素化方法を用いて水素化処理し、希釈留分中のビニルアセチレンを水素化する水素化部50と、水素化部50で得た水素化物を抽出蒸留部10へと返送する任意の返送ライン60とを更に備えている。
【0049】
ここで、抽出蒸留部10は、例えば、C
4炭化水素混合物を気化させる蒸発塔11と、蒸発塔11で気化させたC
4炭化水素混合物を抽出蒸留して留分(C)と抽出液(D)とに分離する第一抽出蒸留塔12と、抽出液(D)から溶剤を除去する放散塔13と、抽出液(D)から溶剤を除去して得た留分を加圧するコンプレッサー14と、コンプレッサー14で加圧された留分を抽出蒸留して留分(A)と抽出液(B)とに分離する第二抽出蒸留塔15とを備えている。
【0050】
そして、第一抽出蒸留塔12では、C
4炭化水素混合物の供給段より上段に溶剤を供給してC
4炭化水素混合物を抽出蒸留することにより、溶剤に対して1,3−ブタジエンよりも難溶性のブタン類およびブテン類などを含む留分(C)を塔頂から留出させると共に、1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む抽出液(D)を塔底から缶出させる。
【0051】
また、放散塔13では、塔底より溶剤を缶出させると共に、塔頂より1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む留分を留出させる。なお、放散塔13で回収した溶剤は、任意に第一抽出蒸留塔12や第二抽出蒸留塔15などで再利用することができる。
【0052】
更に、第二抽出蒸留塔15では、放散塔13から留出した1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む留分の供給段より上段に溶剤を供給して1,3−ブタジエンおよびビニルアセチレンを含む留分を抽出蒸留することにより、1,3−ブタジエンを含む留分(A)を塔頂から留出させると共に、溶剤に対して1,3−ブタジエンよりも易溶性のビニルアセチレンなどを含む抽出液(B)を塔底から缶出させる。
【0053】
また、放散部20は、例えば、抽出液(B)中に混入した1,3−ブタジエンを回収するための第一放散塔21と、1,3−ブタジエンを回収した後の抽出液(B)から溶剤を除去してビニルアセチレンを含有する高VA留分を得る第二放散塔22とを備えている。
【0054】
そして、第一放散塔21では、抽出液(B)中に混入していた1,3−ブタジエンを含む留分を塔頂より留出させると共に、塔底よりビニルアセチレンを含有する缶出液を缶出させる。なお、第一放散塔21の塔頂から留出した1,3−ブタジエンを含む留分は、任意に第二抽出蒸留塔15へと返送することができる。
【0055】
また、第二放散塔22では、第一放散塔21からの缶出液中に含まれていたビニルアセチレンを含む高VA留分を塔頂より留出させると共に、塔底より溶剤を缶出させる。なお、第二放散塔22で回収した溶剤は、任意に第一抽出蒸留塔12や第二抽出蒸留塔15などで再利用することができる。
【0056】
不純物除去部30は、例えば、第二抽出蒸留塔15で得た留分(A)中に含まれている、1,3−ブタジエンよりも低沸点の不純物を除去する低沸点物除去塔31と、1,3−ブタジエンよりも高沸点の不純物を除去する高沸点物除去塔32とを備えている。
【0057】
そして、低沸点物除去塔31では、例えばメチルアセチレン等の低沸点の不純物を含む留分(E)を塔頂より留出させると共に、塔底より1,3−ブタジエンが富化された缶出液を缶出させる。
【0058】
また、高沸点物除去塔32では、1,3−ブタジエンが更に富化された留分を塔頂より留出させると共に、例えば1,2−ブタジエン等の高沸点の不純物を含む留分(F)を塔底より缶出させる。
【0059】
混合部40では、第一抽出蒸留塔12で生成した留分(C)、低沸点物除去塔31で生成した留分(E)および高沸点物除去塔32で生成した留分(F)からなる群より選択される少なくとも一つを放散部20で得た高VA留分と混合して希釈留分を得る。なお、通常、留分(C)、留分(E)および留分(F)中に含まれているビニルアセチレンの濃度は高VA留分中に含まれているビニルアセチレンの濃度よりも低いため、希釈留分中のビニルアセチレンの濃度は高VA留分中のビニルアセチレンの濃度よりも低くなる。従って、この製造装置100では、高VA留分の異常反応を予防することができる。
【0060】
ここで、混合部40としては、留分(C)、留分(E)および留分(F)からなる群より選択される少なくとも一つと高VA留分とを均一に混合することができるものであれば、特に限定されることなく、インラインミキサーなどの混合装置や合流配管などを用いることができる。
【0061】
そして、混合部40では、得られる希釈留分(炭化水素混合物)が1,3−ブタジエンを含有し、且つ、希釈留分中のビニルアセチレン濃度が1質量%以上となるように高VA留分を希釈する。
【0062】
水素化部50では、混合部40で得た希釈留分を水素化処理し、希釈留分中のビニルアセチレンを水素化する。
【0063】
ここで、水素化部50としては、特に限定されることなく、上述した水素化触媒が内部に充填された反応器と、反応器内へと水素を供給する水素供給ラインとを備え、任意に反応器内へと供給する希釈留分を気化させる蒸発器を更に備える水素化装置を用いることができる。
【0064】
返送ライン60は、水素化部50と抽出蒸留部10とを接続しており、水素化部50で得た水素化物を抽出蒸留部10へと返送する。具体的には、返送ライン60は、水素化部50の出口と、抽出蒸留部10の蒸発塔11とを接続している。そして、返送ライン60を介して返送された水素化物は、C
4炭化水素混合物と混合されて抽出蒸留部10へと供給される。その結果、水素化物中に含まれている1,3−ブタジエンは、C
4炭化水素混合物中に含まれている1,3−ブタジエンと共に効率的に分離回収される。
なお、返送ライン60には、水素化物を凝縮させるための凝縮器または昇圧ブロアーを有していてもよい。
【0065】
そして、この製造装置100では、本発明の水素化方法を用いているので、1,3−ブタジエンを効率的に製造することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、水素化触媒のCO吸着量および比表面積、並びに、炭化水素混合物および水素化物の組成は、下記の方法で測定した。
【0067】
<CO吸着量>
金属分散測定装置(MicrotracBel社製、BEL−METALIII)を使用し、測定試料を200℃で水素により還元した後、COパルス吸着法により、50℃で一酸化炭素(CO)の吸着量を測定した。
<比表面積>
比表面積分析装置(SHIMADZU社製、Flow SorbII)を用いて測定した。具体的には、N
2/He(体積比)=30/70の混合ガス雰囲気下、測定試料を液体窒素により冷却してN
2を吸着させた後、測定試料を室温に戻した際に脱離したN
2量を定量し、脱離したN
2量からBET法により比表面積を求めた。
<組成>
炭化水素混合物および水素化物の組成は、ガスクロマトグラフ(Agilent Technologies社製、7890A)を用いて以下の条件で測定した。
・ガスクロマトグラフ:Agilent(登録商標)7890A(アジレント社製)
・カラム:Agilent 19091P−S33、30.0m×250μm×5.00μm
・カラム温度:35℃×2.5分⇒5℃/分で昇温⇒100℃⇒10℃/分で昇温⇒180℃×10分
・インジェクション温度:200℃
・検出器温度:200℃
・キャリヤーガス:ヘリウム
・スプリット比:200/1
・検出器:FID
【0068】
(実施例1)
<水素化触媒の調製>
γ−アルミナ担体にパラジウムを担持してなる、エッグシェル構造を有する市販の触媒(日揮触媒化成製、製品名「N1182AZ」、パラジウム担持量:0.5質量%、CO吸着量:0.3456cm
3/g、比表面積:159m
2/g、平均細孔径:10.4nm)を、空気雰囲気下、1000℃で3時間焼成して水素化触媒を調製した。そして、水素化触媒のCO吸着量および比表面積を測定した。結果を表2に示す。
なお、得られた水素化触媒の担体をX線回折分析により分析したところ、γ−アルミナに由来するピークと、α−アルミナおよびθ−アルミナに由来するピークとが観察された。また、得られた水素化触媒は、エッグシェル構造を有していた。更に、得られた水素化触媒は、平均細孔径が19.3nmであった。
ここで、触媒の平均細孔径は、定容量式ガス吸着分析装置(BELSORP−miniII)を使用し、減圧下、130℃で120分乾燥した触媒について、窒素による吸着量を測定して求めた。
<炭化水素混合物の水素化>
ナフサをクラッキングしてエチレンを生産する際に得られるC
4留分から抽出蒸留により1,3−ブタジエンを分離回収した際に副生した留分を混合し、表1に示す組成の炭化水素混合物Aを調製した。
また、上記水素化触媒を充填したジャケット付き反応器(容量:0.02L)を準備した。そして、調製した水素化触媒を反応器内に充填した。
次に、気化させた炭化水素混合物(流量:50mL/分、圧力(ゲージ圧):5kPa)と、水素ガス(流量:25mL/分、圧力(ゲージ圧):5kPa)とを反応器に連続的に供給して、温度25℃で炭化水素混合物Aを水素化した。そして、得られた水素化物の組成を測定した。結果を表2に示す。
【0069】
(実施例2)
水素化触媒の調製時に、市販の触媒を焼成する温度を1100℃に変更した以外は実施例1と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
なお、得られた水素化触媒の担体をX線回折分析により分析したところ、γ−アルミナに由来するピークと、α−アルミナおよびθ−アルミナに由来するピークとが観察された。また、得られた水素化触媒は、エッグシェル構造を有していた。
【0070】
(実施例3)
水素化触媒の調製時に、市販の触媒を焼成する温度を900℃に変更した以外は実施例1と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
なお、得られた水素化触媒は、エッグシェル構造を有していた。
【0071】
(実施例4)
焼成を行うことなく、市販の触媒をそのまま水素化触媒として利用した以外は実施例1と同様にして炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0072】
(比較例1)
炭化水素混合物Aに替えて表1に示す組成のC
4留分からなる炭化水素混合物Bを使用した以外は実施例1と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0073】
(比較例2)
炭化水素混合物Aに替えて表1に示す組成のC
4留分からなる炭化水素混合物Bを使用した以外は実施例2と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0074】
(比較例3)
炭化水素混合物Aに替えて表1に示す組成のC
4留分からなる炭化水素混合物Bを使用した以外は実施例3と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0075】
(比較例4)
炭化水素混合物Aに替えて表1に示す組成のC
4留分からなる炭化水素混合物Bを使用した以外は実施例4と同様にして水素化触媒を調製し、炭化水素混合物の水素化を行った。そして、実施例1と同様にして測定を行った。結果を表2に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1および2より、実施例1〜4では、ビニルアセチレン濃度が1質量%未満の炭化水素混合物Bを用いた比較例1〜4と比較し、1,3−ブタジエンの水素化を抑制しつつビニルアセチレンを効率的に水素化可能であることが分かる。また、表1および2より、実施例1および2では炭化水素混合物よりも水素化物の1,3−ブタジエン濃度の方が高くなっており、ビニルアセチレンを1,3−ブタジエンへと選択的に水素化して1,3−ブタジエンを効率的に製造できることが分かる。