(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787438
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/18 20060101AFI20201109BHJP
【FI】
C25D11/18 301F
C25D11/18 313
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-84510(P2019-84510)
(22)【出願日】2019年4月25日
(65)【公開番号】特開2020-180345(P2020-180345A)
(43)【公開日】2020年11月5日
【審査請求日】2020年2月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(72)【発明者】
【氏名】永井 達夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 裕都喜
【審査官】
▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2009−185391(JP,A)
【文献】
特開2003−160897(JP,A)
【文献】
特開2000−203970(JP,A)
【文献】
特表2001−509549(JP,A)
【文献】
米国特許第06410197(US,B1)
【文献】
特開2016−145382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極酸化処理により表面に細孔を形成したアルミニウム又はアルミニウム合金に対して細孔表面の封孔処理を行うアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法であって、酸化剤を添加した硫酸に樹脂を溶解した溶液を封孔処理液として、該封孔処理液に陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬することにより、該細孔を樹脂によって封孔する、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法。
【請求項2】
前記封孔処理液の硫酸濃度が85〜98重量%、温度が90〜120℃である、請求項1に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法。
【請求項3】
前記酸化剤として、硫酸を電気分解してできる過硫酸を用いる、請求項1又は2に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法。
【請求項4】
前記封孔処理液の過硫酸濃度が3〜10g/Lである、請求項3に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法。
【請求項5】
前記封孔処理液に陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬した後、前記アルミニウム又はアルミニウム合金を取り出して、120〜150℃で熱処理する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面に形成された細孔を封孔処理する封孔処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金は私達の身の回りで広く使われている。しかし、空気中においては緻密で安定的な酸化皮膜を生成するものの、その膜厚は2nm程度と非常に薄く、使用環境によっては腐食してしまう。そこで、十分な酸化皮膜を得るために人工的な酸化処理が行われる。その処理は、対象物を陽極に接続し、電気を通ずることで酸化することから、陽極酸化処理と呼ばれている。このようなアルミニウム又はアルミニウム合金を陽極酸化する方法として、特許文献1には、シュウ酸溶液や硫酸溶液、ほう酸溶液を用いる基本的な陽極酸化法によりアルミニウム容器を陽極酸化することが記載されている。
【0003】
陽極酸化処理後にできた表面には無数の細孔が形成される。この陽極酸化皮膜による細孔は化学的に活性のため、酸素や他の化学物質と反応しやすい状態にあり、汚れ防止、耐食性及び耐食性などの向上等を達成するため、封孔処理を施すのが一般的である。この封孔処理方法としては、沸騰水封孔、水蒸気封孔、常温封孔、酢酸ニッケル水溶液を用いて封孔処理を行う酢酸ニッケル封孔等が知られている。
【0004】
なかでも、沸騰水封孔に比べて皮膜の耐食性が得られやすく、水蒸気封孔に比べて作業効率に優れており、常温封孔に比べて液管理がしやすい、等の理由により、酢酸ニッケル封孔が特に多く用いられている。これらの封孔処理においては、封孔剤を含む70〜100℃の水溶液(封孔処理液)を収容した封孔槽中に、陽極酸化皮膜を形成したアルミニウム基材を浸漬することにより、封孔処理が行われる(特許文献2)。なお、陽極酸化皮膜の封孔処理に先立ち、陽極酸化皮膜の細孔内に抗菌剤等の機能性材料を充填した後封孔処理することで封入し、機能性を付与することも行われている。
【0005】
また、アルミニウム合金の陽極酸化皮膜に関する国内規格(JIS H8601−1968)では、封孔方法として水和封孔を規定している。さらに、陽極酸化処理技術基準(JIS H9500−1971、JIS H9501−1971)においては、加圧水蒸気封孔又は煮沸封孔(高温封孔)における処理条件を規定して、高温封孔の場合には封孔助剤の添加を認めている。これらの反応は、陽極酸化処理で生成した無水状態のAl
2O
3を水和物(Al
2O
3・nH
2O)に変化させ、その際の体積膨張によって細孔を閉塞するという作用が有力である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−103377号公報
【特許文献2】特開2004−277866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の封孔方法における封孔度合いを知るために、本発明者らが各種封孔方法により封孔したアルミニウム合金のサンプルを35℃の10N塩酸溶液に浸漬し、HCl耐酸試験を実施して、水素が発生するまでの時間を測定した結果を
図2に示す。この
図2から明らかなように、現在単独の封孔方法としては加圧水蒸気封孔法(約0.5MPa、約150℃)が最も信頼性が高いが、それでも約500分で水素が発生している、すなわち封孔が十分でないことがわかった。アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に優れた汚れ防止性、耐食性などの向上等の効果を付与するためには、アルミニウム陽極酸化皮膜の細孔を高度に封孔することが望ましい。
【0008】
本発明は、上記従来の課題に鑑みてなされたものであり、アルミニウム陽極酸化皮膜の細孔を高度に封孔することが可能な、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、陽極酸化処理により表面に細孔を形成したアルミニウム又はアルミニウム合金に対して、細孔表面の封孔処理を行うアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法であって、該細孔を樹脂によって封孔する、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法を提供する(発明1)。上記発明(発明1)においては、酸化剤を添加した硫酸に樹脂を溶解した溶液を封孔処理液として、該封孔処理液に陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬することが好ましい(発明2)。
【0010】
かかる発明(発明1,2)によれば、陽極酸化表面は親水性であるので、そのままでは樹脂成分が吸着や付着することはないが、硫酸に樹脂を溶解したものを封孔処理液とすることにより、該酸化剤が樹脂表面を溶解するとともに酸化し、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基を有する樹脂成分のモノマー誘導体やオリゴマー誘導体として溶出する。この封孔処理液にアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬することにより、親水基を有する樹脂成分のモノマー誘導体やオリゴマー誘導体が細孔内に浸透して吸着あるいは付着し、アルミニウム合金の陽極酸化処理面を効率良く硬度に封孔することができる。これによりアルミニウム又はアルミニウム合金の汚れ防止性、耐食性などを向上することができる。
【0011】
上記発明(発明2)においては、前記封孔処理液の硫酸濃度が85〜98重量%、温度が90〜120℃であることが好ましい(発明3)。
【0012】
かかる発明(発明3)によれば、硫酸濃度及び溶液温度を調整することで封孔処理液に溶出させる樹脂による異なる溶解挙動を調整することができる。
【0013】
上記発明(発明2,3)においては、前記酸化剤として、硫酸を電気分解してできる過硫酸を用いることが好ましい(発明4)。
【0014】
かかる発明(発明4)によれば、過硫酸は酸化能が高いので。樹脂成分をヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基を有する樹脂成分のモノマー誘導体やオリゴマー誘導体として好適に溶出することができる。なお、本願発明において、過硫酸とはペルオキソ一硫酸及び/又はペルオキソ二硫酸をいう。
【0015】
上記発明(発明4)においては、前記封孔処理液の過硫酸濃度が3〜10g/Lであることが好ましい(発明5)。
【0016】
かかる発明(発明5)によれば、過硫酸濃度を調整することで、使用する樹脂成分の溶解速度をコントロールすることができる。
【0017】
上記発明(発明2〜5)においては、前記封孔処理液に陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬した後、前記アルミニウム又はアルミニウム合金を取り出して、120〜150℃で熱処理することが好ましい(発明6)。
【0018】
かかる発明(発明6)によれば、陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金の細孔内に浸透した親水基を有する樹脂成分のモノマー誘導体やオリゴマー誘導体が、加熱により水分(H
2O)を除去されて疎水性樹脂に復元することにより、水分の付着が抑制されるため、アルミニウム又はアルミニウム合金の汚れ防止性、耐食性など耐久性を大幅に向上することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸化剤を添加した硫酸に樹脂を溶解した溶液を封孔処理液とし、該封孔処理液に陽極酸化処理したアルミニウム又はアルミニウム合金を浸漬することにより、アルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面を効率良く高度に封孔することができる。これにより、アルミニウム又はアルミニウム合金の汚れ防止性、耐食性などを向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の一実施形態によるアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法の封孔処理工程を実施するための装置を示す概略図である。
【
図2】従来のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法による耐酸性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態によるアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法について、
図1を参照にして詳細に説明する。
【0022】
本実施形態のアルミニウム又はアルミニウム合金の陽極酸化処理面の封孔処理方法は、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、これらを「アルミニウム基材」又は「アルミニウム基板」と称する場合がある)を陽極酸化処理して、その表面に細孔を形成する陽極酸化処理工程の後段の工程として、アルミニウム又はアルミニウム合金の細孔表面を封孔処理する封孔工程で用いられる方法である。
【0023】
[陽極酸化処理工程]
<アルミニウム基材>
本実施形態において、処理対象となるアルミニウム基材は特に限定されず、例えば純アルミニウムやアルミニウムを主成分とし微量(例えば5重量%以下)の異元素を含む合金が挙げられる。アルミニウム基材の厚さは、良好な表面処理面を形成する観点から1mm以上が好ましい。アルミニウム基材の厚さの上限については特に制限はない。このアルミニウム基材には、陽極酸化処理に先立ち、予め脱脂処理や電解研磨、鏡面仕上げ処理といった表面処理を施してあってもよい。
【0024】
<陽極酸化作用機構>
一般に、アルミニウムを陽極酸化処理すると、陽極では、
2Al→2Al
3++6e
− …(1)
の反応に従ってAl
3+が溶出する。溶出したAl
3+は、陽極反応として一部又は局部電池で起こる次式(2)で表される水分解反応によって酸素発生する。
3H
2O→3(O)+6H
++6e
− …(2)
そして、式(1),(2)の総括反応の結果、次式(3)の通りAl
2O
3となる。
2Al+3H
2O→Al
2O
3+6H
++12e
− …(3)
【0025】
アルミニウムの陽極酸化処理は式(1)のアルミニウムの溶解と式(2)、(3)のアルミニウムの酸化(Al
2O
3生成)との競争反応であり、アルミニウムの酸化速度が速くなるほど微細な孔を開けることが可能となる。
【0026】
[封孔工程]
本実施形態においては、上述したような陽極酸化処理工程によりアルミニウム基材に形成された微細孔を以下のようにして封孔する。
【0027】
<封孔処理装置>
図1は、本発明の一実施形態によるアルミニウム合金の封孔処理方法を行うのに好適な封孔処理装置を示している。
図1において、封孔処理装置1は、外周に恒温ヒータ3が設けられた処理槽2と、循環ポンプ5と熱交換器9が付設された配管4から連続する電解セル6と、この電解セル6から処理槽2に処理液を供給する配管7とを有する。この電解セル6内には、本実施形態においては、ダイヤモンド電極よりなる陽極6A及び陰極6Bと、両者間に配置されたバイポーラ電極6Cとが設けられている。なお、処理槽2内には、槽内を撹拌するための液循環機能等撹拌手段を設置してもよい。
【0028】
このような封孔処理装置1において、処理槽2及び電解セル6には、初期状態において所定の濃度の硫酸が充填されていて、陽極6A及び陰極6Bに直流電源ユニットから所定の電流を通電して、硫酸を電気分解することにより、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸(酸化剤)を含む硫酸溶液(以下、本明細書中では過硫酸溶液とする)Sを生成して、この過硫酸溶液Sを、配管7を経由して処理槽2に供給可能となっている。この過硫酸溶液Sは処理槽2から配管4を経由して循環ポンプ5により電解セル6に還流することで、過硫酸溶液Sが循環するように構成されている。そして、処理槽2内には、被処理対象であるアルミニウム合金板8が冶具8Aに固定された状態で上下方向に吊設されている。
【0029】
<過硫酸溶液>
この過硫酸溶液Sは、硫酸濃度が85〜98重量%、特に90〜95重量%であることが好ましい。硫酸濃度が85重量%未満では得られる過硫酸溶液Sの硫酸濃度が薄過ぎて、後述する樹脂成分を十分に溶解させることができず、封孔処理が十分でない。一方、硫酸濃度が98重量%を超えても樹脂成分の溶解性は高まるが、硫酸濃度が高くなればなるほど吸湿性が強くなり、98重量%を超えた濃度の硫酸溶液を作製することが極めて難しくなる。
【0030】
<樹脂成分>
過硫酸溶液Sに溶解する樹脂成分としては、硫酸に溶解できる樹脂成分であれば特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)樹脂などのオレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ナイロン6やナイロン66などのナイロン樹脂(ポリアミド樹脂)、ポリフタルアミド(PPA)樹脂などを用いることができる。これらの中では、ポリプロピレン(PP)樹脂などのオレフィン系樹脂が好ましい。
【0031】
<封孔処理方法>
次に上述したような封孔処理装置1を用いたアルミニウム合金の封孔処理方法について説明する。
【0032】
(封孔処理液の調製工程)
まず、処理槽2に硫酸を入れて恒温ヒータ3により加熱したら、循環ポンプ5により硫酸を電解セル6に供給し、図示しない直流電源ユニットから所定の電流を通電して、硫酸を電気分解することにより、ペルオキソ二硫酸等の過硫酸溶液Sを生成し、この過硫酸溶液Sを、配管7を経由して処理槽2に供給して循環する。
【0033】
この時、過硫酸溶液Sの溶液温度が90〜120℃、特に100〜110℃となるように必要に応じて恒温ヒータ3により加熱する。過硫酸溶液Sの温度が90℃未満では樹脂を十分に溶解させることができないため、封孔効果が十分でない。一方、過硫酸溶液Sの温度が120℃を超えると、過硫酸の分解が促進して処理効率が低下する。
【0034】
また、電解セル6における硫酸の電気分解は、電気分解により生成するペルオキソ二硫酸等の過硫酸濃度が3〜10g/L、特に5〜7g/Lとなる条件とすればよい。過硫酸濃度が3g/L未満では、樹脂を十分に溶解させることができないだけでなく、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基に十分に酸化できない。一方、過硫酸濃度の上限については特に制限はないが、10g/Lを超えても上記効果の向上が得られないばかりか経済的でもないことから、10g/L以下程度とすればよい。
【0035】
そして、処理槽2内の過硫酸溶液Sが上述した溶液温度及び過硫酸濃度になったら、処理槽2に樹脂成分の粉末又はペレットを投入することにより樹脂を溶解する。この樹脂成分の投入量は、使用する樹脂成分の種類にもよるが、過硫酸溶液Sの100重量%に対して、1〜20重量%とするのが好ましい。樹脂成分が1重量%未満では、後述する樹脂成分の誘導体が少なすぎて、十分に封孔できないおそれがある一方、20重量%を超えると樹脂成分の溶解が困難となる。同様の理由により特に3〜10重量%とすることが好ましい。また、樹脂投入後の保持時間は、短すぎると樹脂成分が十分に溶解しにくい一方、長すぎてもそれ以上の樹脂成分の溶解促進効果が得られなくなり、かえって経済的ではないことから、10〜120分程度、特に20〜60分程度とすればよい。
【0036】
このように過硫酸溶液Sに樹脂成分を溶解すると、以下のような作用が発揮される。すなわち、アルミニウム合金の陽極酸化処理は、例えば濃度9〜27重量%の硫酸溶液を使用することから容易に想像できるように、陽極酸化により成長していく細孔内表面を含め全ての陽極酸化表面は親水性である。この親水性の表面や微細孔に疎水性である樹脂成分は分子量に関係なく吸着や付着させることはできない。そこで、酸化剤を添加し、その酸化剤が樹脂表面を溶解及び酸化することによりヒドロキシル基やカルボキシル基などの親水基を有するプロピレンモノマー誘導体やオリゴマー誘導体として溶解させる。以下、ポリプロピレンの場合を例に説明する。
【0037】
ポリプロピレンの粉末又はペレットを硫酸濃度85〜98重量%、溶液温度90〜120℃の電解硫酸液に10〜120分浸漬させると、下記化学式に示すように疎水性であるポリプロピレン樹脂の最表面が酸化剤により酸化され、表面から溶解することにより、ヒドロキシル基を有するモノマー誘導体となる。
【0039】
(浸漬工程)
その後、陽極酸化処理したアルミニウム合金板8を処理槽2内の樹脂瀬成分を溶解した過硫酸溶液Sに所定時間、例えば5〜30分間,特に10〜20分間浸漬することにより、アルミニウム合金板8の表面に樹脂成分が十分に吸着するので、アルミニウム合金板8を処理槽2から取り出して、乾燥することにより、アルミニウム合金の陽極酸化処理面の微細孔を封孔することができる。
【0040】
(熱処理工程)
上記浸漬工程により、封孔処理を完了しても、この封孔アルミニウム合金板8は使用に耐えうる耐久性を有するが、さらに120〜150℃で数分間、例えば5〜30分程度、特に10〜20分程度熱処理を施すことにより、さらに耐久性を向上させることができる。熱処理温度が120℃未満では、樹脂を十分に縮重合できず、封孔処理の耐久性が十分でない一方、熱処理温度の上限については、素地であるアルミニウム合金と陽極酸化皮膜Al
2O
3の線膨張率の差異(アルミニウム合金:23×10
−6/K、Al
2O
3:3×10
−6/K)から150℃を超えて熱を加えるとクラックが発生するおそれが生じる。なお、熱処理を施す場合には、アルミニウム合金板8を別途乾燥しなくてもよい。
【0041】
この熱処理により、ヒドロキシル基間で縮重合を起こしポリマー化する。ポリプロピレンの場合、上記化学式と逆反応により、モノマー誘導体が疎水性樹脂に変化する。これにより、表面が疎水化するので、雨や結露といった水分の付着を抑制することが可能となり、アルミニウム合金板8の耐久性を大幅に向上することができる。なお、アルミニウム合金板8の陽極酸化皮膜を単に樹脂でコーティングすることが考えられるが、単にコーティングしたのでは、微細孔が封孔されないので、コーティングした樹脂は耐摩耗性に劣るため、使用や経時に伴い短期間で消失してしまい、その耐久性の向上効果はわずかである。
【0042】
以上、本発明のアルミニウム合金の封孔処理方法について、前記実施形態に基づいて説明してきたが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、例えば前記実施形態のようなバッチ処理でなく連続処理にも適用可能である。また、アルミニウム合金は、本実施形態のように板に限らず種々の形状の成形体に適用可能であることは言うまでもない。さらに、アルミニウム合金に微細孔を形成する陽極酸化処理方法は特に限定されず、どのような方法の陽極酸化処理であっても同様に適用することができる。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの記載により何ら限定されるものではない。
【0044】
<過硫酸濃度測定方法>
まず、ヨウ素滴定により処理液(過硫酸溶液S)中に含まれる全酸化剤濃度を測定する。このヨウ素滴定とは、過硫酸溶液Sにヨウ化カリウム(KI)を加えてヨウ素(I
2)を遊離させ、そのI
2をチオ硫酸ナトリウム標準溶液で滴定してI
2の量を求め、そのI
2の量から、酸化剤濃度を求めるものである。次に過硫酸溶液Sの過酸化水素濃度のみを過マンガン酸カリウム滴定により求め、ヨウ素滴定値から過マンガン酸カリウム滴定値を差し引くことにより過硫酸濃度を算出する。
【0045】
<耐久性試験>
電線等の皮膜に穴や傷の有無を調べる方法として、JIS C3216−5『ピンホール試験』がある。今回はこのピンホール試験を耐久性試験として採用した。ピンホール試験とは、フェノールフタレインを滴下した食塩2g/Lの水溶液中に、サンプルを陰極にセットし、電圧:12V、通電時間(評価時間)1分で、陰極から水素が発生すると同時に、溶液が赤紫に変色すると不合格とした。そして、合格の場合、水素発生及び赤紫への変色があるまで電圧を上げ、そのときの電圧を測定した。
【0046】
[実施例1]
陽極酸化処理後のアルミニウム−マグネシウム系合金A5052製のアルミニウム合金板8を
図1に示す装置を用いて封孔処理を行った。処理槽の仕様及び処理条件は以下の通りであった。
【0047】
<処理槽及び被処理材>
処理槽2の容積:40L
アルミニウム合金板8の大きさ:500mm×500mm×厚さ5mm
【0048】
<過硫酸生成用電解セル6及び電解条件>
セル容積:0.5L
陽極及び陰極:ダイヤモンド電極(直径150mmφ)
バイポーラ電極材質:陽極、陰極と同じ
電流密度:50A/dm
2
液循環量:52L/hr
【0049】
<封孔処理条件>
硫酸濃度:92重量%
過硫酸濃度:5g/L
処理温度:110℃
処理時間:10分
樹脂成分:ポリプロピレン樹脂
樹脂成分の濃度:過硫酸溶液Sを100重量%に対し5重量%溶解
【0050】
<熱処理条件>
処理温度:150℃
処理時間:10分
【0051】
上記条件で陽極酸化処理後のアルミニウム合金板8に封孔処理を施した後、このアルミニウム合金板8に対して、ピンホール試験(耐久性試験)を行った。封孔処理条件を表1に、ピンホール試験の結果を表2にそれぞれ示す。
【0052】
[実施例2〜6及び比較例1]
封孔処理条件を表1に示すように種々設定を変更した以外は実施例1と同様にして封孔処理を施し、封孔度を知るためのピンホール試験(耐久性試験)を実施した。封孔処理条件を表1に、ピンホール試験の結果を表2にそれぞれあわせて示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表2から明らかな通り、実施例1〜4のアルミニウム合金の封孔処理方法によると、ピンホール試験において12V以上の耐電圧が得られた。また熱処理温度が低い実施例5では、耐電圧が7Vであり、硫酸濃度が低かった実施例6では耐電圧が5Vと低かった。一方、酸化剤である過硫酸を含まない硫酸で樹脂を溶解した溶液で封孔処理をした比較例1では、処理後のピンホール試験での耐電圧が5Vと低かった。
【符号の説明】
【0056】
1 処理装置
2 処理槽
3 恒温ヒータ
4 配管
5 循環ポンプ
6 電解セル
6A 陽極
6B 陰極
6C バイポーラ電極
7 配管
S 過硫酸溶液
8 陽極酸化処理したアルミニウム基板
8A 枠状ホルダ
9 熱交換器