特許第6787553号(P6787553)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787553
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】圧電素子
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/02 20060101AFI20201109BHJP
   H01L 41/113 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 41/047 20060101ALI20201109BHJP
   H02N 2/18 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H04R17/02
   H01L41/113
   H01L41/047
   H02N2/18
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-24729(P2017-24729)
(22)【出願日】2017年2月14日
(65)【公開番号】特開2018-133647(P2018-133647A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年12月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山崎 王義
【審査官】 齊田 寛史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2011−527152(JP,A)
【文献】 特開2002−107374(JP,A)
【文献】 特開2003−254989(JP,A)
【文献】 特表2008−532370(JP,A)
【文献】 特開2011−097311(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 17/02
H01L 41/047
H01L 41/113
H02N 2/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板に周囲が固定された圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、
前記圧電膜は、少なくとも第1の圧電膜と第2の圧電膜を含む積層構造からなることと、
前記第1の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子および第2の圧電素子が形成されていることと、
前記第2の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第3の圧電素子および第4の圧電素子が形成されていることと、
前記支持基板に固定された圧電膜の固定部側に、前記第1の圧電素子および前記第3の圧電素子を配置し、前記圧電膜の中心側に、前記第2の圧電素子および前記第4の圧電素子を配置していることと、
前記第1の圧電素子と前記第3の圧電素子が並列に接続し、前記第2の圧電素子と前記第4の圧電素子が並列に接続し、前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子が直列に接続し、前記第3の圧電素子と前記第4の圧電素子が直列に接続していることと
前記第1の圧電素子と前記第3の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第2の圧電素子と前記第4の圧電素子とが上下対称に積層形成されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項2】
請求項1記載の圧電素子において、
前記第1乃至第4の圧電素子からなる圧電素子の組が、前記圧電膜の中心を通る区画線によって区画される複数の領域に、それぞれ配置していることを特徴とする圧電素子。
【請求項3】
請求項1又は2いずれか記載の圧電素子において、
前記並列に接続した圧電素子の組は、前記第1の圧電膜あるいは前記第2の圧電膜の表面、裏面あるいは膜間に配置された前記圧電素子の電極から連続する延長部により接続していることを特徴とする圧電素子。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、
振動により前記圧電膜が湾曲変位した場合に、該変位の変曲点により区画される領域毎に、少なくとも前記上下対称に積層形成された前記第1の圧電素子および前記第3の圧電素子からなる圧電素子の組と、前記第2の圧電素子および前記第4の圧電素子からなる圧電素子の組のいずれかが配置されていることを特徴とする圧電素子。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか記載の圧電素子において、
前記圧電膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子に関し、特に、高感度、低雑音の圧電素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、急速に需要が拡大しているスマートフォンには、小型、薄型で、組立のハンダリフロー工程の高温処理耐性を有するMEMS(Micro Electro Mechanical System)技術を用いたマイクロフォンが多く使われている。また、MEMSマイクロフォンに限らず、その他のMEMS素子が様々な分野で急速に普及してきている。
【0003】
この種のMEMS素子の多くは、音響圧力等による振動板の振動変位を対向する固定板との容量変化としてとらえ、電気信号に変換して出力する容量素子である。しかし容量素子は、振動板と固定板との間隙の空気の流動によって生じる音響抵抗のために、信号雑音比の改善が限界になりつつある。
【0004】
そこで、圧電材料からなる薄膜(圧電膜)で構成される単一の振動板の歪みにより音響圧力等を電圧変化として取り出すことができる圧電素子が注目されている。
【0005】
ところで圧電素子では、音響圧力等がない場合に圧電膜の残留応力や温度変動が不要な信号として出力され特性を劣化させることが知られている。そこで、圧電膜の一端を自由端とする片持ち梁構造を採用することによって残留応力を解放する技術が開示されている(例えば特許文献1等)。
【0006】
図6に、片持ち梁構造の圧電素子の断面図を示す。図6に示すように、支持基板となるシリコン基板1に絶縁膜2を介して多層構造の圧電膜3a、3bが固定され、圧電膜3aは上下から電極4aと電極4bにより、圧電膜3bは電極4bと電極4cによりそれぞれ挟み込まれた構造となっている。圧電膜および電極はそれぞれ長方形の平面形状を有しており、一端がシリコン基板1に固定され、他端が自由端となっている。また電極4aと電極4cは一方の配線電極5aに接続し、電極4bは別の配線金属5bに接続されている。
【0007】
このような圧電素子では、音響圧力等を受けて圧電膜3aが歪むとその内部に分極が起こり、電極4aに接続する配線金属5aと、電極4bに接続する配線金属5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。同様に圧電膜3bが歪むとその内部に分極が起こり、電極4cに接続する配線金属5aと、電極4bに接続する配線金属5bから電圧信号を取り出すことが可能となる。
【0008】
ところで、この種の圧電型MEMSマイクロフォンでは、音響圧力に対する出力電圧の比、即ち感度が、容量型MEMSマイクロフォンに比べて低いことが知られている。一般的に前者の感度は、後者の感度のおよそ10分の1以下に留まる。
【0009】
そのため、増幅回路が必要となる。しかしながら、一般的なCMOS半導体装置の製造方法に従い製造される増幅回路を備える構成とすると、信号雑音比は増幅回路に制限されてしまう。また微細化に優れたCMOS技術により圧電素子を形成すると、微細化を必要としない圧電素子が占める面積が大きく、製造コストの増大を招いてしまう。そのため、圧電素子の感度向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第5707323号公報
【特許文献2】特表2014−515214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の圧電型MEMS素子は、容量型MEMS素子の感度と比較して感度が低いという問題点があった。本発明はこのような問題点を解消し、感度の高い圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本願請求項1に係る発明は、支持基板に周囲が固定された圧電膜と、該圧電膜を挟んで配置する一対の電極とを備えた圧電素子において、前記圧電膜は、少なくとも第1の圧電膜と第2の圧電膜を含む積層構造からなることと、前記第1の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第1の圧電素子および第2の圧電素子が形成されていることと、前記第2の圧電膜を挟んで配置する前記一対の電極を複数組備え、少なくとも第3の圧電素子および第4の圧電素子が形成されていることと、前記支持基板に固定された圧電膜の固定部側に、前記第1の圧電素子および前記第3の圧電素子を配置し、前記圧電膜の中心側に、前記第2の圧電素子および前記第4の圧電素子を配置していることと、前記第1の圧電素子と前記第3の圧電素子が並列に接続し、前記第2の圧電素子と前記第4の圧電素子が並列に接続し、前記第1の圧電素子と前記第2の圧電素子が直列に接続し、前記第3の圧電素子と前記第4の圧電素子が直列に接続していることと、前記第1の圧電素子と前記第3の圧電素子とが上下対称に積層形成され、前記第2の圧電素子と前記第4の圧電素子とが上下対称に積層形成されていることを特徴とする。
【0013】
本願請求項2に係る発明は、請求項1記載の圧電素子において、前記第1乃至第4の圧電素子からなる圧電素子の組が、前記圧電膜の中心を通る区画線によって区画される複数の領域に、それぞれ配置していることを特徴とする。
【0014】
本願請求項3に係る発明は、請求項1又は2いずれか記載の圧電素子において、前記並列に接続した圧電素子の組は、前記第1の圧電膜あるいは前記第2の圧電膜の表面、裏面あるいは膜間に配置された前記圧電素子の電極から連続する延長部により接続していることを特徴とする。
【0015】
本願請求項4に係る発明は、請求項1乃至3いずれか記載の圧電素子において、振動により前記圧電膜が湾曲変位した場合に、該変位の変曲点により区画される領域毎に、少なくとも前記上下対称に積層形成された前記第1の圧電素子および前記第3の圧電素子からなる圧電素子の組と、前記第2の圧電素子および前記第4の圧電素子からなる圧電素子の組のいずれかが配置されていることを特徴とする。
【0016】
本願請求項5に係る発明は、請求項1乃至4いずれか記載の圧電素子において、前記圧電膜は、音響圧力によって振動する膜であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の圧電素子は、第1の圧電膜に形成する圧電素子と第2の圧電膜に形成する圧電素子とを上下対称に重なり合うように配置することで、重なり合う圧電膜の残留応力や温度変動に起因して発生する圧電電圧を相互に相殺して圧電膜の残留応力の影響を低減した上で、音響圧力等によって生じる第1の圧電膜による圧電電圧と第2の圧電膜による圧電電圧を重畳させることで出力信号のレベルを上げることを可能としている。
【0018】
特に本発明では、複数の圧電素子を接続した圧電素子の組を複数接続する構成とすることで、圧電電圧が重畳し、出力信号のレベルを上げることを可能としている。
【0019】
また本発明によれば、圧電膜が振動により湾曲変形する際、その変位の変曲点により区画される領域毎に第1の圧電膜に形成する圧電素子と第2の圧電膜に形成する圧電素子との組を配置することで、区画された領域毎に、圧電膜の延伸方向で生じる引張応力領域と圧縮応力領域とでそれぞれ圧電素子を分離し、それぞれの領域で発生する電圧信号を重畳するように接続し、効率的に電気エネルギーに変換して取り出すことが可能となる。
【0020】
本発明によれば、圧電素子間の接続は圧電素子の電極を延長して行うことができ、圧電膜の変位に影響を与えるスルーホール等の接続手段を必要としない点でも、効率的に電気エネルギーに変換できるという利点がある。
【0021】
特に、本発明の圧電素子の圧電膜を音響圧力によって振動する厚さに設定し、音響トランスデューサとして使用した場合、高感度で信号雑音比の改善が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の第1の実施例の圧電素子の電極の平面図である。
図2】本発明の第1の実施例の圧電素子の一部断面図である。
図3】本発明の第1の実施例の説明図である。
図4】本発明の第1の実施例の説明図である。
図5】本発明の第2の実施例の圧電素子の一部断面図である。
図6】従来の圧電素子の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の圧電素子は、支持基板に圧電膜の周囲(振動板の外周部分)を固定した構造としている。圧電膜は少なくとも2層の圧電膜を含む積層構造とする。それぞれの圧電膜には、その一部を挟み込むように電極を配置した圧電素子が複数個形成され、各圧電素子を並列あるいは直列に接続する構成としている。特に本発明では、各圧電素子は上下対称に重なり合うように配置している。本発明は上記の構成とすることで、上下対称に重なり合う圧電素子の出力により残留応力や温度変動により生じる圧電電圧が相互に相殺され、信号雑音比の向上を図っている。また、上下対称に重なり合う圧電素子の組を所定の位置に配置することにより、信号を効率的に取り出すことができる構成としている。さらに本発明では、圧電素子の組を直列に接続する構成としている。以下、本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合を例にとり詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
本発明の第1の実施例について説明する。図1は第1の実施例の圧電素子の電極の平面図を、図2図1に示す圧電素子の電極が配置される圧電素子のA面およびB面における断面図をそれぞれ模式的に示している。図1(a)に示すように、下層電極は複数の電極4a1〜4a4からなり、それぞれ隣接する2つの電極が接続した構造となっている。たとえば電極4a1は、2つの圧電素子を構成する2つの電極部分と、この電極部分を接続するための延長部とが一体となった構造となっている。同様に、図1(b)に示すように、中間層電極も複数の電極4b1〜4b5からなり、電極4b1〜4b4は隣接する2つの電極が延長部を介して接続した構造であり、電極4b5は独立した構造となっている。上層電極4c1〜4c4は、下層電極と同一の形状としている。
【0025】
図2に、圧電膜を挟んで図1に示す圧電素子の下層電極、中間層電極および上層電極を積層したA面およびB面の断面図を示す。図2に示すように、支持基板となるシリコン基板1上に、シリコン酸化膜(SiO2)からなる絶縁膜2を介して、圧電膜3a、3bが積層形成している。圧電膜3a、3bは、絶縁膜2を介してシリコン基板1に周囲が固定されており、例えば円形の振動板を構成している。圧電膜は、例えば窒化アルミニウム(AlN)を用いることができ、圧電性を示す結晶配向方向は、積層形成されたそれぞれの圧電薄膜で同一方向となるように形成している。なお、中央部にはベント穴を形成している。
【0026】
本実施例の圧電素子の構造について詳細に説明すると、圧電膜3aの裏面側に下層電極となる電極4a1、電極4a2、電極4a3、電極4a4が形成されている。また圧電膜3aの上面側であり圧電膜3bの下面側(膜間に相当)には、中間層電極となる電極4b1、電極4b2、電極4b3、電極4b4、電極4b5が形成されており、電極4b1は配線電極5aに、電極4b5は配線電極5bにそれぞれ接続している。さらに圧電膜3bの上面側には、上層電極となる電極4c1、電極4c2、電極4c3、電極4c4が形成されている。これらの電極は、図1(a)(b)に示すように、円形に配置されている。電極は、モリブデン(Mo)、プラチナ(Pt)、チタン(Ti)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)等の金属薄膜で形成することができる。
【0027】
このように構成すると、図2に断面図を示すように、電極4a1、圧電膜3a(第1の圧電膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C1(第1の圧電素子に相当)が形成される。同様に、電極4a1、圧電膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C2(第2の圧電素子に相当)、電極4c1、圧電膜3b(第2の圧電膜に相当)および電極4b1が重なり合う領域で圧電素子C3(第3の圧電素子に相当)が、電極4c1、圧電膜3bおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C4(第4の圧電素子に相当)が形成される。
【0028】
同様に、電極4a2、圧電膜3aおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C5(図2の圧電素子C1に相当)が形成され、電極4a2、圧電膜3aおよび電極4b3が重なり合う領域で圧電素子C6(同様に圧電素子C2に相当)、電極4c2、圧電膜3bおよび電極4b2が重なり合う領域で圧電素子C7(圧電素子C3に相当)が、電極4c2、圧電膜3bおよび電極4b3が重なり合う領域で圧電素子C8(圧電素子C4に相当)が形成される。
【0029】
また、電極4a3、圧電膜3aおよび電極4b3が重なり合う領域で圧電素子C9(図2の圧電素子C1に相当)が形成され、電極4a3、圧電膜3aおよび電極4b4が重なり合う領域で圧電素子C10(圧電素子C2に相当)、電極4c3、圧電膜3bおよび電極4b3が重なり合う領域で圧電素子C11(圧電素子C3に相当)が、電極4c3、圧電膜3bおよび電極4b4が重なり合う領域で圧電素子C12(圧電素子C4に相当)が形成される。
【0030】
さらに、電極4a4、圧電膜3aおよび電極4b4が重なり合う領域で圧電素子C13(図2の圧電素子C1に相当)が形成され、電極4a4、圧電膜3aおよび電極4b5が重なり合う領域で圧電素子C14(圧電素子C2に相当)、電極4c4、圧電膜3bおよび電極4b4が重なり合う領域で圧電素子C15(圧電素子C3に相当)が、電極4c4、圧電膜3bおよび電極4b5が重なり合う領域で圧電素子C16(圧電素子C4に相当)が形成される。
【0031】
ここで、例えば第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2は、圧電素子を構成する電極4a1を共通に使用することで対向する電極(それぞれ電極4b1、電極4b2)と重なり合っていない電極4a1の領域(延長部に相当)によって接続している。同様に第3の圧電素子C3と第4の圧電素子C4は、圧電素子を構成する電極4c1を共通に使用することで、対向する電極(それぞれ電極4b1、電極4b2)と重なり合っていない電極4b1の領域(延長部に相当)によって接続している。このような接続とすることで、圧電膜内にスルーホール等の圧電素子の変位に影響を与える接続手段を形成する必要がなくなる。
【0032】
その結果、第1の圧電素子C1と第2の圧電素子C2の直列接続と、第3の圧電素子C3と第4の圧電素子C4の直列接続とが並列接続する構成となる。本実施例では、この第1乃至第4の圧電素子に相当する圧電素子の組が4組直列に接続した構成となり、配線電極5aと配線金属5bとの間に、これら圧電素子C1〜C16が接続した構成となる。具体的には、図3に示す構成となる。図3において、第1の圧電素子C1、第3の圧電素子C3が圧電膜の外周側、即ち支持基板に固定されている固定部側の圧電膜上に配置され、第2の圧電素子C2、第4の圧電素子C4が圧電膜の中央側、即ち第1の圧電素子C1および第3の圧電素子C3が形成される領域と圧電膜の中心との間の圧電膜上に配置される。同様に、圧電素子C5、C7、C9、C11、C13およびC15が圧電膜の固定部側に配置され、圧電素子C6、C8、C10、C12、C14、C16が圧電膜の中心側に配置される。
【0033】
また図2から明らかなように、第1の圧電素子C1と第3の圧電素子C3、第2の圧電素子C2と第4の圧電素子C4は、少なくとも各圧電素子を形成するよう領域において、電極4b1、電極4b2の厚さ方向の中心を通る面に対し、上下対称となっている。
【0034】
本発明の圧電素子を音響トランスデューサとして構成する場合、シリコン基板1に形成された空孔6から音響圧力が加わる。音響圧力を受けた圧電膜は、上方に湾曲変位する。その結果、圧電膜を構成する窒化アルミニウムに引張応力と圧縮応力が発生することになる。
【0035】
図4は、図2で説明した領域の圧電素子に音響圧力信号が印加され、圧電膜が上方に変位した場合の一例を示している。図4に示すように圧電膜に引張応力と圧縮応力が発生し、変位の変曲点によって圧電膜の応力の向きは2つの領域に分けられる。具体的には、円形の圧電膜が絶縁膜2を介してシリコン基板1に固定されている固定部近傍の外周部では、圧電膜3aに引張応力が発生し、圧電膜3bには圧縮応力が発生する。一方、それより内側の中央部では、圧電膜3aに圧縮応力が発生し、圧電膜3bには引張応力が発生する。このように変位の変曲点によって応力の向きが異なる2つの領域に分けられる。
【0036】
ところで、本実施例の圧電素子は、図2に示すように、圧電素子C1と圧電素子C2の直列接続と圧電素子C3と圧電素子C4の直列接続とが、並列に接続しており、さらに上下対称な構造としている。ここで、外周部で発生する電圧と中央部で発生する電圧は、それぞれ極性が逆で、同一の値とすることができ、残留応力や温度変動に起因する同相の電圧を相殺することが可能となる。
【0037】
また本実施例の圧電素子は、圧電素子C1乃至圧電素子C4からなる圧電素子の組が4組直列に接続した構造となっているため、音響圧力信号が印加されることに基づく4組の各圧電素子の組の出力信号(電圧)は、残留応力や温度変動に起因する信号を含まずに重畳加算され、音響圧力(Pa)に対する出力電圧(Vout)の比(Vout/Pa)で定義される音響トランスデューサとしての感度の増大を図ることが可能となる。
【0038】
なお、各電極の大きさ等は信号雑音比を最大化する観点から最適化されることが望ましい。これは配線電極5a、5bから見た等価的キャパシタの容量をCoutとした場合に、この等価的キャパシタに蓄えられるエネルギー(Cout・Vout2/2)を最大化するように各電極の大きさを決めればよい。
【0039】
具体的には、各圧電薄膜の膜厚、電極の大きさの一設計例を示す。例えば、入力する信号が人間の音声とし、振動部の共振周波数を20kHzとする。また、スマートフォンのような電子機器に搭載することを想定した平面寸法とする。振動板の直径は800μm、窒化アルミニウムからなる圧電膜3a、3bの厚さはともに0.37μm、モリブデンからなる電極4a1〜4a4、電極4b1〜4b5、電極4c1〜4c4の厚さはいずれも50nm、第1のコンデンサC1の一方の電極4b1の外周部から内側に向かう電極の寸法を75μm、さらに内側に向かって小さい扇型となっている電極4b2の一部の中心からの外側に向かう電極の寸法を230μmとする。
【0040】
このようにすると、第1の圧電素子C1と第3の圧電素子C3の組から出力される信号(容量値)と、第2の圧電素子C2と圧電素子C4の組から出力される信号(容量値)はほぼ等しくなり、さらに圧電素子C1〜C4の組からなる圧電素子の組に相当する4つの圧電素子の組についても同様となり、重畳された信号を得ることが可能となり、空孔6の容量を3mm3とした場合、10mV/Pa程度の感度となることが確認できた。
【実施例2】
【0041】
次に第2の実施例について説明する。一般的に窒化アルミニウム等の圧電膜をスパッタ法で堆積させる場合、圧電膜が堆積する表面(下地)の影響を受けることが知られている。上記第1の実施例で説明した圧電素子の場合、圧電膜3bを堆積させる際、下地表面にはモリブデンからなる電極4b1等が形成されている部分と、電極が形成されず、圧電膜3aが大きく露出している部分とがある。このような下地表面上に特性の揃った圧電膜を形成することが大変難しい。
【0042】
そこで、電極が形成されていない部分を電極と同一の材料で被覆すればよい。具体的には、下層電極となる電極4a1〜4a4と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(図5に示す電極4d1を含む電極)を形成する。同様に、中間層電極となる電極4b1〜電極4b5と同時に、これらの電極が形成されていない領域に、これらの電極と接続しないダミー電極(図5に示す電極4d2を含む電極)を形成する。このように形成されたダミー電極により、特性の揃った圧電膜を形成することが可能となる。なお、上層電極となる電極4c1〜4cと同時に、これらの電極が形成されていない領域、これらの電極と接続しない電極(図5に示す電極4d3を含む電極)を形成することも可能である。このダミー電極を形成することで、中間層電極の厚さ方向の中心を通る面に対し、ほぼ上下対称となる構造とすることができ、引張と圧縮の応力がバランスして応力が零となる中央軸面を中間層電極面内とし、音響圧力を効率的に出力電圧として取り出すことが可能となる。
【0043】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。具体的には、圧電膜として窒化アルミニウムに限定されるものでなく、窒化スカンジウムアルミニウム(Al1-xScxN)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)も利用することが可能である。また、各電極の形状、接続する圧電素子の数や接続は、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0044】
1:シリコン基板、2:絶縁膜、3a、3b:圧電薄膜、4a、4b、4c、4d:電極、5a、5b:配線電極、6:空孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6