(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種の配合量が、組成物の全量基準で、0.1質量%以上30質量%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の水溶性焼入れ油組成物。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。
[水溶性焼入れ油組成物]
本実施形態に係る水溶性焼入れ油組成物は、以下の成分(A)から選ばれる少なくとも1種と、成分(B)及び成分(C)から選ばれる少なくとも1種とを配合してなる。
上記「成分(A)から選ばれる少なくとも1種と、成分(B)及び成分(C)から選ばれる少なくとも1種とを配合してなる水溶性焼入れ油組成物」には、「新油時に、成分(A)から選ばれる少なくとも1種と、成分(B)及び成分(C)から選ばれる少なくとも1種とを含有する組成物」も含まれるものとする。また、本発明の効果を損なわない範囲において、その他添加剤を含む水溶性焼入れ油組成物としてもよい。
本実施形態において「特性秒数」とは、JIS K 2242:2012:付属書A(B法)に準拠して測定される「特性秒数」を指すものとする。
本実施形態において「冷却速度」とは、JIS K 2242:2012:付属書A(B法)に準拠して測定される、350℃から150℃までの温度域における冷却時間から算出される冷却速度を指すものとする。
【0009】
<ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)>
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物には、ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種が配合され、ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)の質量平均分子量は10,000以上100,000以下であることを要する。
質量平均分子量が10,000未満であると、十分な冷却速度を有する水溶性焼入れ油組成物が得られにくいため好ましくない。質量平均分子量が100,000を超えると、組成物自体の粘度が上昇することによるハンドリング性の悪化、材料の汚染、及び部材による油の持去り等のため好ましくない。十分な冷却速度を確保するために、ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)の質量平均分子量は好ましくは12,000以上80,000以下、より好ましくは14,000以上50,000以下である。なお、この質量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算値である。
【0010】
ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)は、繰り返し単位としてオキシアルキレン単位を有し、質量平均分子量が10,000以上100,000以下の範囲にあればよく、特に限定されない。このようなポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)としては、例えば下記一般式(I)で表される化合物を好ましくは挙げることができる。
R
1O−(R
AO)
n−R
2 (I)
式中、R
Aは炭素数2〜6のアルキレン基を示す。R
1及びR
2はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜11のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜18の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を示す。nは該化合物の重量平均分子量が10,000以上100,000以下の範囲となる数である。(R
AO)単位が複数ある場合、すなわちn≧2の場合には、各(R
AO)単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。オキシアルキレン単位(R
AO)が異なる場合は共重合体となるが、この場合ランダム及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)は、好ましくは水溶性である。
【0011】
ポリオキシアルキレングリコールやその誘導体(A)の好ましいものの例としては、上記式(1)の(R
AO)単位が、エチレンオキシド;プロピレンオキシド;ブチレンオキシド等の1種のアルキレンオキシドで構成されているポリオキシアルキレングリコール;上記式(1)の(R
AO)単位が、エチレンオキシド,プロピレンオキシド及びブチレンオキシド等の中から選ばれた二種以上のアルキレンオキシドの共重合体から構成されるポリオキシアルキレングリコール;上記式(1)の末端R
1及びR
2の少なくとも一方が、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜11のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜18の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基のいずれかを示すポリオキシアルキレングリコールの誘導体を挙げることができる。
【0012】
R
1及びR
2が示す炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,ヘキシル基,2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等を挙げることができる。炭素数1〜11のアシル基としては、上記メチル基やエチル基等、炭素数1〜10のアルキル基として具体的に上述した基とカルボニル基とを有するものを挙げることができる。
R
1及びR
2が示す炭素数5〜18の飽和脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,シクロヘプチル基,シクロオクチル基,シクロノニル基,シクロデシル基等を挙げることができる。炭素数5〜18の不飽和脂環式炭化水素基としては、シクロペンテニル基やシクロヘキセニル等、上記した飽和脂環式炭化水素基が少なくとも1つの不飽和結合を有するものを挙げることができる。炭素数5〜18の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニル基,ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。
置換基としては例えば、C
1〜C
6アルキル基,C
1〜C
6アルコキシ基,C
6〜C
14のアリール基等が挙げられる。
ポリオキシアルキレングリコールの具体例としては、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコールを挙げることができる。
【0013】
ポリオキシアルキレングリコールやその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種が配合されるが、2種以上が配合されていてもよい。本実施形態の水溶性焼入れ油組成物における、ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種の配合量は、組成物の全量基準で、好ましくは0.1質量%以上30質量%以下である。上記配合量は、ポリオキシアルキレングリコールやその誘導体(A)そのものの量を指し、複数のポリオキシアルキレングリコールやその誘導体(A)が含まれる場合には合計量を示す。ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種の配合量が上記範囲であれば、十分な冷却速度を確保することができるため好ましい。ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体(A)から選ばれる少なくとも1種の配合量は、組成物の全量基準で、より好ましくは1質量%以上25質量%以下、さらに好ましくは2質量%以上20質量%以下である。
【0014】
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物には、アルキレングリコールエーテル(B)及びモノカルボン酸(C)から選ばれる少なくとも1種が配合される。これら成分(B)及び(C)から選ばれる少なくとも1種を配合することにより、新油時(初期)の冷却曲線から得られる特性秒数を短くすることができ、また十分な冷却速度を提供する。さらに、劣化後の上記特性秒数及び冷却速度の変化を小さくする、すなわち耐久性を持たせることができる。以下、詳述する。
【0015】
<アルキレングリコールエーテル(B)>
本実施形態において、アルキレングリコールエーテル(B)はその沸点が200℃以上であり、その1モル当たりの分子量が1,000g/mol以下であることを要する。なお、上記沸点は常圧におけるものである。アルキレングリコールエーテル(B)の沸点が200℃未満であると、新油時と劣化後の特性秒数の変化が大きく、耐久性に劣る。すなわち、初期特性には優れるものの、高温の処理物を処理する間に蒸気膜段階が伸びる傾向にあり、特性秒数が長くなり、焼入れ油としての耐久性に劣る。
アルキレングリコールエーテル(B)の沸点は、好ましくは205℃以上、より好ましくは220℃以上である。また、アルキレングリコールエーテル(B)の沸点は、好ましくは350℃以下、より好ましくは300℃以下である。
【0016】
アルキレングリコールエーテル(B)の1モル当たりの分子量は、1,000g/mol以下であることを要する。1モル当たりの分子量が1,000g/molを超えると、新油時の特性秒数を短くできない場合がある。
アルキレングリコールエーテル(B)の1モル当たりの分子量は、好ましくは75g/mol以上、より好ましくは100g/mol以上、さらに好ましくは140g/mol以上、特に好ましくは160g/mol以上である。また、アルキレングリコールエーテル(B)の1モル当たりの分子量は、好ましくは500g/mol以下、より好ましくは250g/mol以下である。
【0017】
アルキレングリコールエーテル(B)はその沸点が200℃以上であり、1モル当たりの分子量が1,000g/mol以下であれば特に限定されない。このようなアルキレングリコールエーテル(B)としては、例えば下記一般式(II)で表される化合物を好ましくは挙げることができる。
R
11O−(R
BO)
m−R
12 (II)
式中、R
Bは炭素数2〜6のアルキレン基を示す。R
11及びR
12はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜11のアシル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜18の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を示し、R
11及びR
12の少なくとも一方は炭素数1〜10のアルキル基、または置換基を有していてもよい炭素数5〜18の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基若しくは芳香族炭化水素基を示す。mは該化合物の1モル当たりの分子量が1,000g/mol以下の範囲となる数である。(R
BO)単位が複数ある場合、すなわちm≧2の場合には、各(R
BO)単位は同一であってもよく、異なっていてもよい。オキシアルキレン単位(R
BO)が異なる場合は共重合体となるが、この場合ランダム及びブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0018】
アルキレングリコールエーテルの好ましい例としては、上記式(1)の(R
BO)単位が、エチレンオキシド;プロピレンオキシド;ブチレンオキシド等の1種のアルキレンオキシド、又はエチレンオキシド,プロピレンオキシド及びブチレンオキシド等の中から選ばれた二種以上のアルキレンオキシドから構成され、上記式(1)の末端R
11及びR
12の少なくとも一方が、炭素数1〜10のアルキル基を示すアルキレングリコールエーテルを挙げることができる。中でも、R
11及びR
12のどちらかが水素原子であるアルキレングリコールモノエーテルを挙げることができる。
【0019】
R
11及びR
12が示す炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基,エチル基,n−プロピル基,イソプロピル基,n−ブチル基,イソブチル基,sec−ブチル基,tert−ブチル基,ヘキシル基,2−エチルヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等を挙げることができる。炭素数1〜11のアシル基としては、上記メチル基やエチル基等、炭素数1〜10のアルキル基として具体的に上述した基とカルボニル基とを有するものを挙げることができる。
R
11及びR
12が示す炭素数5〜18の飽和脂環式炭化水素基としては、シクロペンチル基,シクロヘキシル基,シクロヘプチル基,シクロオクチル基,シクロノニル基,シクロデシル基等を挙げることができる。炭素数5〜18の不飽和脂環式炭化水素基としては、シクロペンテニル基やシクロヘキセニル等、上記した飽和脂環式炭化水素基が少なくとも1つの不飽和結合を有するものを挙げることができる。炭素数5〜18の芳香族炭化水素基としては、具体的には、フェニル基,ナフチル基等のアリール基を挙げることができる。
置換基としては例えば、C
1〜C
6アルキル基,C
1〜C
6アルコキシ基,C
6〜C
14のアリール基等が挙げられる。
【0020】
アルキレングリコールエーテルとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール及びジプロピレングリコール由来の単位を有する、アルキレングリコールモノアルキルエーテルが好ましい。例えば、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノオクチルエーテル、エチレングリコールモノデシルエーテル、エチレングリコールモノラウリルエーテルなどのエチレングリコールモノアルキルエーテル;このエチレングリコールモノアルキルエーテルのエチレンオキシ基の代わりにプロピレンオキシ基またはブチレンオキシ基を有するポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル,例えば、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロプレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロプレングリコールモノブチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテルを挙げることができる。このようなアルキレングリコールエーテルは1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
本実施形態において、水溶性焼入れ油組成物に配合されるアルキレングリコールエーテル(B)の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下である。配合量が0.1質量%以上であれば、冷却曲線から得られる特性秒数が十分に短くでき、かつ十分な冷却速度を提供することができる。また、劣化後の特性秒数や冷却速度の変化が小さく、耐久性に優れる。10質量%以下であれば、上記特性に加えて、水への溶解性を確保することができる。なお、アルキレングリコールエーテル(B)を2種以上併用する場合の「アルキレングリコールエーテル(B)の配合量」とは、その合計量を指すものとする。
アルキレングリコールエーテル(B)の配合量は、組成物全量基準で、より好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.4質量%以上3質量%以下である。
【0022】
<モノカルボン酸(C)>
本実施形態におけるモノカルボン酸(C)は特に限定されないが、主鎖の炭素数が4以上11以下であるモノカルボン酸が好ましい。本実施形態においては、モノカルボン酸の主鎖の炭素数には、カルボキシル基形成炭素も含まれるものとする。なお、本実施形態において、主鎖の決定は、IUPAC命名法に従う。
上記モノカルボン酸(C)としては、例えば、カプロン酸、カプリル酸、ノナン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸から選択される少なくとも1種であることが好ましく、3,5,5−トリメチルヘキサン酸がより好ましい。モノカルボン酸(C)の主鎖の炭素数は、より好ましくは5以上10以下、さらに好ましくは6以上9以下である。
【0023】
本実施形態において、水溶性焼入れ油組成物に配合されるモノカルボン酸(C)の配合量は、組成物全量基準で、好ましくは0.05質量%以上10質量%以下である。モノカルボン酸(C)を配合する場合に、その配合量が組成物全量基準で0.05質量%以上10質量%以下であれば、冷却曲線から得られる特性秒数が十分に短くでき、かつ十分な冷却速度を提供することができる。また、劣化後の特性秒数や冷却速度の変化が小さく、耐久性に優れる。中でも、モノカルボン酸(C)は、耐久性の面でより優れる。
モノカルボン酸(C)の配合量は、組成物全量基準で、より好ましくは0.1質量%以上8質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以上5質量%以下である。
【0024】
本発明者等によれば、沸点が200℃以上であり、1モル当たりの分子量が1,000g/mol以下であるアルキレングリコールエーテル(B)を配合することにより、劣化後の特性秒数や冷却速度の変化を抑えながら、十分な冷却速度が得られると共に、特性秒数を非常に短くすることができることを見出した。また、モノカルボン酸(C)を配合すると、十分な冷却速度と短い特性秒数が得られると共に、劣化後の特性秒数と冷却速度の変化の抑制に非常に優れることも見出した。
本実施形態において、アルキレングリコールエーテル(B)又はモノカルボン酸(C)のいずれか一方が配合されても本実施形態の効果を得ることができる。また、アルキレングリコールエーテル(B)とモノカルボン酸(C)とを併用した場合も優れた効果を得ることができる。
【0025】
<アルカノールアミン>
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物には、水、及び上記成分(A)〜(C)に加えて、アルカノールアミンを配合することも好ましい。
アルカノールアミンとしては、本実施形態の効果を阻害しない限り特に限定されない。例えば、好ましくは炭素数1以上12以下、より好ましくは2以上9以下のアルカノールアミンを配合することができる。上記アルカノールアミンの具体例としては、モノエタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン,モノメタノール−ジエタノールアミン,モノイソプロパノールアミン,トリイソプロパノールアミン,モノシクロヘキシルエタノールアミン,ジシクロヘキシルエタノールアミン,モノ(2−メチル−シクロペンチル)エタノールアミン及びシクロヘキシルジエタノールアミン等が挙げられる。
上記アルカノールアミンの配合量は特に限定されないが、組成物の全量基準で、通常、0.1質量%以上10質量%以下、好ましくは0.2質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.4質量%以上4質量%以下である。
【0026】
<その他成分>
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物には、本実施形態の目的が損なわれない範囲で、所望により、水溶性焼入れ油に慣用されているその他の添加剤を配合することができる。かかるその他添加剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール,トリルトリアゾールなどの腐食防止剤、防錆剤、銅不活性化剤、酸化防止剤、シリコーン系消泡剤、着色剤などを適宜配合することができる。また、モノカルボン酸(C)以外の脂肪族カルボン酸として、脂肪族ジカルボン酸を配合することができる。脂肪族ジカルボン酸としては、オクタン二酸(スベリン酸)、ノナン二酸(アゼライン酸)、デカン二酸(セバシン酸)、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ヘキサデカン二酸、オクタデカン二酸、イコサン二酸、ドコサン二酸、テトラコサン二酸、ヘキサコサン二酸、オクタコサン二酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸(これらジカルボン酸は直鎖状でも分岐状でもよい)を挙げることができる。
これらの添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲内で、適宜調整することができる。添加剤の含有量は、潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、通常0.001質量%以上10質量%以下、好ましくは0.005質量%以上8質量%以下、より好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以上1質量%以下である。なお、添加剤として複数成分を含有する場合には、各成分は独立して上記範囲で含有されるものとする。
なお、本実施形態の水溶性焼入れ油組成物に配合される水、成分(A)〜(C)、アルカノールアミン及びその他成分の合計配合量は、100質量%を超えないものとする。
【0027】
<水>
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物に含まれる水は特に限定されず、蒸留水、イオン交換水、水道水、工業用水などいずれを用いてもよい。
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物における水の含有量については特に制限はなく、成分(A)〜(C)、アルカノールアミン及びその他成分の合計の残部(各成分と水とを合計して100質量%となる)広い範囲で選択することができる。水の含有量は、通常50〜99質量%の範囲で広く選択され、好ましくは60〜98質量%、より好ましくは70〜97質量%である。
本発明の一態様において、水、成分(A)、(B)及び(C)の合計含有量は、水溶性焼入れ油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは80〜100質量%、より好ましくは95〜100質量%である。
本発明の一態様において、水、成分(A)、(B)、(C)、アルカノールアミン及びその他添加剤の合計含有量は、水溶性焼入れ油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは90〜100質量%、より好ましくは95〜100質量%である。
【0028】
本実施形態の水溶性焼入れ油組成物は、JIS K 2242:2012:付属書A(B法)に規定される冷却性試験から得られる冷却曲線における特性秒数が4秒以内であることが好ましく、より好ましくは4秒未満、さらに好ましくは3秒以内である。本実施形態の水溶性焼入れ油組成物は、蒸気膜崩壊後に、300秒付近の十分な冷却速度を有することができる。
また、本実施形態における水溶性焼入れ油組成物は耐久性にも優れる。例えば、新油時の上記特性秒数及び冷却速度と、劣化後の特性秒数及び冷却速度の変化を小さくすることができる。
【0029】
本実施形態によれば、上記水溶性焼入れ油組成物を濃縮した濃縮液も提供される。このような濃縮液は、保存や運搬などの便宜を図る上で好ましい。
本実施形態における濃縮液は、上記水溶性焼入れ油組成物を、好ましくは2倍以上30倍以下、より好ましくは2.5倍以上25倍以下、さらに好ましくは3倍以上20倍以下に濃縮したものである。
【0030】
次に、本実施形態の焼入れ方法について説明する。
<焼入れ方法及び使用>
本実施形態は、金属からなる部材を焼入れ後、上記した水溶性焼入れ油組成物を用いて冷却する焼入れ方法も提供する。上記した水溶性焼入れ油組成物は、特性秒数が十分に短く、また、十分な冷却速度を有し、さらに劣化後の上記特性秒数及び冷却速度の変化が小さいため、本実施形態の焼入れ方法は、処理する金属部材の焼割れや、焼入れ歪を有意に抑えることができるため好ましい。
また、本実施形態は、金属からなる部材を焼入れ後に冷却する際の、上記水溶性焼入れ油組成物の使用も提供する。
本実施形態の焼入れ方法としては、浸漬焼入れ及び高周波焼入れ等などを用いることができる。
【実施例】
【0031】
以下、本実施形態を実施例によりさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらに何ら限定されない。
【0032】
実施例1〜4及び比較例1〜4
表1に示す配合材料及び割合で、水溶性焼入れ油組成物を調製した。
上記水溶性焼入れ油組成物について、以下の評価方法により各水溶性焼入れ油組成物について冷却性能及びその耐久性を評価した。結果を表1に併せて示す。
【0033】
[評価方法]
(1)冷却性評価
JIS K 2242:2012:付属書A(B法)に規定される冷却性試験に準拠し、液温40℃で得られる各水溶性焼入れ油組成物についての冷却曲線を得た。
(1.1)特性秒数
上記冷却曲線から、特性温度(蒸気膜段階が終了する温度)に到達するまでの時間(特性秒数)を得た。
(1.2)冷却速度
上記冷却曲線において、350℃から150℃までの冷却速度を算出した。
(2)耐久性試験(誘導加熱劣化試験)
先に、上記(1)の冷却性評価を行い、これを誘導加熱劣化試験前の結果とした。次に、以下に示す条件で誘導加熱劣化試験を行った。劣化試験後、再度、上記(1)の冷却性評価を行い、これを誘導加熱劣化試験後の結果とした。
試験条件
テストピース:SUS304(φ25×50mm)
焼入温度 :850℃(25kHz誘導加熱)
油量 :400ml
油温 :40℃
撹拌 :200rpm
窒素吹込み:200ml/分
焼入時間 :5分
焼入回数 :100回
【表1】
【0034】
表1及び2の配合材料は以下の通りである。
(A)ポリオキシアルキレングリコール及びその誘導体
・ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(質量平均分子量:15,000,多分散度(Mw/Mn)=1.5,エチレンオキシド:プロピレンオキシド=72:28)
(B)アルキレングリコールエーテル
・ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃,1モル当たりの分子量:190.3g/mol)
・エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃,1モル当たりの分子量:146.3g/mol)
(その他アルキレングリコールエーテル)
・プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:170℃,1モル当たりの分子量:132.2g/mol)
(C)モノカルボン酸
・3,5,5−トリメチルヘキサン酸(カルボキシル基を形成する炭素を除く最も長い直鎖部分の炭素数:5)
<アルカノールアミン>
・モノイソプロパノールアミン
・シクロヘキシルジエタノールアミン
<水>
・イオン交換水
<その他成分>
・デカン二酸、ドデカン二酸、ベンゾトリアゾール、水酸化カリウム、N−(2−ヒドロキシエチル)ピペラジン
【0035】
実施例の水溶性焼入れ油組成物は、特性秒数が十分に短く、十分な冷却速度を有し、冷却性能に優れることがわかる。また、劣化後の上記特性秒数及び冷却速度の変化が小さいため、耐久性にも優れる。実施例1からは、成分(B)を含むことにより、十分な冷却速度を維持しながら、短い特性秒数が得られることがわかる。実施例4からは、成分(C)を含むことにより、劣化前後の変化率が小さく、耐久性に優れることがわかる。沸点が200℃未満のアルキレングリコールエーテルを含む比較例3や比較例4は、初期の特性秒数は許容できる範囲であるものの、劣化後の特性秒数の変化率が大きい。