(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記1次成形工程は、固定金型とスライド金型とにより形成されているキャビティに、溶融樹脂を射出し、前記固定金型の成形面上に、一方の半中空成形品を、接合部を有するように成形するとともに、前記スライド金型の成形面上に、他方の半中空成形品を、接合部と前記穴とを有するように成形する工程であり、
前記突き合わせ工程は、前記スライド金型を、前記スライド金型の成形面が前記固定金型の成形面に対向するように移動させて、前記一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせる工程であり、
前記内圧上昇工程は、前記穴を塞ぐ部材を前記穴に挿入した後、前記スライド金型を型締めすることで、前記一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力を大きくする工程である、請求項2に記載の中空成形品の製造方法。
【背景技術】
【0002】
中空成形品の製造方法として、射出成形機による製造方法が知られている。射出成形機により中空成形品を製造する場合、まず、1次成形において、中空成形品を二つ割りの半中空成形品あるいは分割体として成形する。続いて、2次成形において、その分割面を突き合わせ、そして突き合わせた部分に、溶融された樹脂(以下、「溶融樹脂」という。)を射出して1個の中空成形品を製造する。
【0003】
このような射出成形方法の実施に使用される金型は、固定金型とスライド金型とを含んで構成される。1次成形において、まずは、スライド金型を型締めする。続いて、固定金型では、第1の半中空成形品を成形するとともに、スライド金型では、第2の半中空成形品を成形する。そして、第1及び第2の半中空成形品が固化した後に、スライド金型を開き、スライド金型を、スライド金型の成形面が固定金型の成形面に対向するように移動し、第1の半中空成形品と第2の半中空成形品との接合部どうしを突き合わせる。この突き合わせにより、中空部(接合空間部)が形成される。
【0004】
図5は、第1の半中空成形品111の接合部111Aと第2の半中空成形品112の接合部112Aとを突き合わせ、中空部(接合空間部)113を形成したときの射出成形装置100の状態を示す模式図である。中空部(接合空間部)113を形成した後の2次成形では、一対の半中空成形品111、112の接合部111A、112Aの外周に、溶融樹脂114’を射出し、第1の半中空成形品部材111と第2の半中空成形品部材112とを一体化する。そして、溶融樹脂114’が硬化し、2次樹脂の硬化物114になった後に成形品を取り出すことで、
図6に示す中空成形品110が得られる。
【0005】
上記製造方法によると、中空成形品110を製造するための各々の工程を自動化でき、中空成形品110を低コストで効率よく量産できるという利点がある。また、一対の半中空成形品111、112が射出成形により成形されるので、中空成形品110が複雑な形状であっても量産可能という利点もある。
【0006】
ところで、上記の製造方法では、2次成形において、一対の半中空成形品111、112の接合部の外周に、溶融樹脂114’を射出するにあたり、
図7の(A)に示すように、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品111、112の形状が変形され得ることが知られている。また、
図7の(B)に示すように、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品111、112が破壊し、2次成形で供給される溶融材料114’が一対の半中空成形品111、112の中空部113に流れ込んで硬化し、2次樹脂の硬化物114になる可能性があることも知られている。
【0007】
この課題を解決するため、一対の半中空成形品111、112をリブ補強することや、一対の半中空成形品111、112を厚肉にすることが考えられる。しかしながら、一対の半中空成形品111、112のリブ補強、厚肉化のいずれによっても、中空部113の容積が小さくなるため、中空部113の容積を確保するため、一対の半中空成形品111、112を大型化しなければならないことが懸念される。
【0008】
特許文献1は、2次成形に関し、一方の半中空成形品の底部に設けられた透孔から、突き合わせ後の一対の半中空成形品の中空部に袋状の弾性体を挿入し、この袋状の弾性体の内部に圧縮空気を注入することで、突き合わせた接合部の内周部を加圧流体で膨張させた袋状の弾性体で支持してから、一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出し、溶融樹脂を冷却固化して中空成形品を得ることを開示する。そして、袋状の弾性体は、シリコンゴム、合成ゴム等からなる。また、2次成形用の溶融樹脂の温度は、例えば200℃程度である。特許文献1に記載の発明によると、突き合わせた接合部の内周部が、加圧流体で膨張させた袋状の弾性体で支持されているので、2次成形用の射出圧力を大きくしても、接合部分が変形して溶融樹脂が内部へ洩れることがなく、十分な接合強度を得ることができる。また、特許文献1に記載の発明によると、2次成形用の射出圧力を大きくすることができるので、2次成形用の溶融樹脂の流れの流路を長くすることもできる。さらに、特許文献1に記載の発明によると、溶融樹脂が内部へ洩れないので、薄肉の合成樹脂製中空成形品を得ることもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の手法では、溶融樹脂を冷却固化した後、袋状の弾性体から空気を抜き、袋状の弾性体を透孔から取り出すことを要する。そのため、一方の半中空成形品の底部に設けられた透孔の大きさが小さく、突き合わせ後の一対の半中空成形品の中空部の大きさが大きい場合、袋状の弾性体を透孔から取り出すのが困難となり得る。
【0011】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、薄肉、小型であっても中空部の容積が確保された中空成形品を低コストで効率よく量産することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のような課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、一対の半中空成形品の接合部の外周に溶融樹脂を射出する2次成形を行うにあたり、一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせた後、一対の半中空成形品の中空部に流動体を充填して、一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力が、一対の半中空成形品の外部から内部にかかる圧力以上である状態で、一対の半中空成形品を一体化することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0013】
(1)本発明は、接合部を有する一対の半中空成形品を成形する1次成形工程と、前記一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせる突き合わせ工程と、前記突き合わせ工程の前又は後に前記一対の半中空成形品の中空部に流動体を充填する充填工程と、前記充填工程の後、前記一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出し、前記一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力が、前記一対の半中空成形品の外部から内部にかかる圧力以上である状態で、前記一対の半中空成形品を一体化し、中空成形品を得る2次成形工程と、前記中空成形品の中空部から前記流動体を排出する流動体排出工程とを含み、前記充填工程で充填する流動体の沸点は、前記2次成形工程で射出する材料の温度よりも高い、中空成形品の製造方法である。
【0014】
(2)また、本発明は、前記一対の半中空成形品の少なくとも一方には、穴が形成されており、前記充填工程の後、前記穴を塞ぐ部材を前記穴に挿入し、前記一対の半中空成形品の外部から前記穴を塞ぐ部材に向けて力を加えることで、前記一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力を大きくする内圧上昇工程をさらに含み、前記2次成形工程は、前記内圧上昇工程によって、前記一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力が、前記一対の半中空成形品の外部から内部にかかる圧力以上にされた状態で、前記一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出する工程であり、前記流動体排出工程は、前記穴を塞ぐ部材を前記穴から外し、前記流動体を前記穴から排出する工程である、(1)に記載の中空成形品の製造方法である。
【0015】
(3)また、本発明は、前記1次成形工程は、固定金型とスライド金型とにより形成されているキャビティに、溶融樹脂を射出し、前記固定金型の成形面上に、一方の半中空成形品を、接合部を有するように成形するとともに、前記スライド金型の成形面上に、他方の半中空成形品を、接合部と前記穴とを有するように成形する工程であり、前記突き合わせ工程は、前記スライド金型を、前記スライド金型の成形面が前記固定金型の成形面に対向するように移動させて、前記一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせる工程であり、前記内圧上昇工程は、前記穴を塞ぐ部材を前記穴に挿入した後、前記スライド金型を型締めすることで、前記一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力を大きくする工程である、(2)に記載の中空成形品の製造方法である。
【0016】
(4)また、本発明は、前記一対の半中空成形品の少なくとも一方には、穴が形成されており、前記2次成形工程は、前記穴を塞ぐ部材を前記穴に挿入することと、前記一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出することと、前記溶融樹脂を前記接合部の外周に射出する射出圧力を、前記穴を塞ぐ部材に加えることとを含む、(1)に記載の中空成形品の製造方法である。
【0017】
(5)また、本発明は、前記流動体が粉体であり、前記充填工程で充填する前記粉体の融点が、前記2次成形工程で射出する材料の温度よりも高い、(1)から(4)のいずれかに記載の中空成形品の製造方法である。
【0018】
(6)また、本発明は、前記粉体が水溶性であり、前記粉体排出工程は、前記中空成形品の中空部に水溶液を供給し、前記粉体を前記水溶液で溶かす工程を含む、(5)に記載の中空成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によると、薄肉、小型であっても中空部の容積が確保された中空成形品を低コストで効率よく量産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨を限定するものではない。
【0022】
<樹脂複合成形体の製造方法>
〔第1の実施形態〕
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。本実施形態の製造方法は、(A)接合部を有する一対の半中空成形品を成形する1次成形工程と、(B)一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせる突き合わせ工程と、(C)突き合わせ工程の前又は後に、一対の半中空成形品の中空部に流動体を充填する充填工程と、(D)充填工程の後、一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出し、一対の半中空成形品の内部から外部にかかる圧力が、一対の半中空成形品の外部から内部にかかる圧力以上である状態で、前記一対の半中空成形品を一体化し、中空成形品を得る2次成形工程と、(E)中空成形品の中空部から流動体を排出する流動体排出工程とを含む。
【0023】
[(A)1次成形工程]
1次成形工程では、1次成形用金型を用いて、2以上の分割部分に分割され、その各々に接合部を有する半中空成形品を成形する。
【0024】
ここで、半中空成形品の材料は、射出成形が可能な材料であれば特に限定されるものでなく、樹脂材料、ゴム、接着剤、金属等のいずれであってもよい。このうち、樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、硬化性樹脂(熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、放射線硬化性樹脂等)のいずれであってもよい。樹脂材料として好適な材質としては、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリアセタール(POM)等が挙げられる。
【0025】
材料を半中空成形品に成形する方法としては、DSI(ダイスライドインジェクション)法、DRI(ダイロータリーインジェクション)法のように2次成形用金型と兼用の金型で射出成形する方法や、予め用意した部品と複合成形するインサート成形する方法等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、半中空成形品を別々の金型で成形して、それらを組み合わせて用いることもできる。
【0026】
具体的態様として、1次成形工程は、固定金型とスライド金型とにより形成されているキャビティに、溶融樹脂を射出し、固定金型の成形面上に、一方の半中空成形品を、接合部を有するように成形するとともに、スライド金型の成形面上に、他方の半中空成形品を、接合部と開口(穴)とを有するように成形することが挙げられる。
【0027】
1次成形される半中空成形品は、接合部を有しており、一対の分割部分に各々設けられている接合部どうしを接触させたときに、中空となる形状を有する。ここで、半中空成形品の接合部の形状には特に制限はなく、例えば突き合わせ部分が互いに嵌まり合うような形状にしてもよい。また、半中空成形品は必ずしも一対、すなわち二つのみの分割部分としたものに限定される訳ではなく、三つ以上の分割部分の接合部を接触させて、中空となる形状を有するようにしてもよい。
【0028】
半中空成形品について、リブ補強の有無は、特に限定されない。また、半中空成形品は、必ずしも厚肉である必要はなく、薄肉であってもよい。具体的に、半中空成形品の肉厚は、0.5mm以上8mm以下であってもよいし、1mm以上5mm以下であってもよい。
【0029】
射出成形機を用いて中空成形品を製造する際、これまでであれば、2次成形において、一対の半中空成形品の接合部の外周に、溶融樹脂を射出するにあたり、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品の形状が変形されたり、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品が破壊することに起因して、2次成形で供給される溶融材料が一対の半中空成形品の中空部113に流れ込んだりすることがあった。これらを解消するため、これまでであれば、一対の半中空成形品をリブ補強することや、一対の半中空成形品を厚肉にすること等の対策を要した。
【0030】
しかしながら、本実施形態に記載の発明では、半中空成形品のリブ補強や、半中空成形品の厚肉化等の対策を要することなく、中空成形品を量産できるため、リブ補強の有無は、特に限定されないし、半中空成形品が薄肉であってもよい。
【0031】
[(B)突き合わせ工程]
突き合わせ工程では、成形された半中空成形品の一対の分割部分について、接合部どうしを突き合わせる。具体的態様として、スライド金型を、スライド金型の成形面が固定金型の成形面に対向するように移動させて、一対の半中空成形品の接合部どうしを突き合わせることが挙げられる。これにより、半中空成形品が接合部において接触することで、中空部を有する組立体が形成される。
【0032】
図1は、第1の半中空成形品31の接合部31Aと第2の半中空成形品32の接合部32Aとを突き合わせ、中空部(接合空間部)33を形成したときの射出成形装置10の状態を示す模式図である。
【0033】
半中空成形品31、32の接合部31A、32Aどうしを突き合わせた組立体には、流動体41を導入及び導出させる開口34が設けられる。本実施形態は、開口34の大きさに関わらず、薄肉、小型であっても中空部33の容積が確保された中空成形品を、低コストで効率よく量産できることを特徴とする。その点で、開口34の大きさは、特に限定されるものでなく、中空部33の形状や容積に応じて適宜設定すればよい。開口34が大きければ、後述する流動体41の排出が容易となるが、中空成形品31の中空部33を気密状態に保つ必要がある用途に用いる場合には、最終的に開口34を封止する必要があるため、開口34を小さくしておく方が好ましい。開口34の断面積は、200mm
2以下であってもよいし、100mm
2以下であってもよい。また、中空部33の形状も特に限定されるものでなく、棒状であってもよく、柱状であってもよい。そして、中空部33の容積も特に限定されるものでなく、5000mm
3以上であってもよいし、10000mm
3以上であってもよい。
【0034】
また、中空部33の容積(単位:mm
3)の開口34の断面積(単位:mm
2)に対する比(中空部33の容積/開口34の断面積、単位:mm)も特に限定されるものでなく、20以上であってもよいし、100以上(たとえば500以上)であってもよい。
【0035】
[(C)充填工程]
充填工程は、突き合わせ工程の前又は後に、一対の半中空成形品31、32からなる組立体の中空部33に、流動体41を充填する工程である。
【0036】
充填工程のタイミングは、突き合わせ工程の前であってもよいし、突き合わせ工程の後であってもよい。突き合わせ工程の前である場合、十分な量の流動体の中へ半中空体成形品を沈めて、半中空体成形品の中空部33に流動体41が充満した状態で突き合わせ工程を行うことが挙げられる。突き合わせ工程の後である場合、突き合わせ工程によって得られる一対の半中空成形品31、32からなる組立体の中空部33に、流動体41を充填することが挙げられる。
【0037】
流動体41は、後の(D)2次成形工程で射出する溶融材料35’の温度よりも高い沸点を有する流動性の材料であれば、特に限定されず、粉体、ゲル、液体のいずれであってもよい。常温で流動性を示していても、(D)2次成形工程で射出する溶融材料35’の温度よりも沸点が低い材料であると、(D)2次成形工程で供給される溶融材料35’の熱が中空部33の内部に伝わり、その熱によって流動体が気化する。そうすると、流動体が一対の半中空成形品31、32からなる組立体の隙間から漏れ、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力を、一対の半中空成形品31、32の外部から内部にかかる圧力以上の状態に維持できない可能性がある。そのため、常温で流動性を示していても、(D)2次成形工程で射出する溶融材料35’の温度よりも沸点が低い材料を流動体41にすることは、好ましくない。
【0038】
中でも、流動体41が粉体であり、粉体の融点は、(D)2次成形工程で射出する溶融材料35’の温度よりも高いことが好ましい。(D)2次成形工程での溶融材料35’の射出温度において固体である粉体を中空部33に充填することで、後述する(D)2次成形工程において、組立体の中空部33の内部から外部にかかる圧力を、外部から内部にかかる圧力より大きくしたときにも、組立体の接合部の隙間からの流動体41の漏出を低減できるため、(D)2次成形工程で射出する溶融材料35’(2次材料)への汚染を低減できる。また、特に、エンジニアリング・プラスチックやスーパーエンジニアリング・プラスチックのように、高温の材料で2次成形を行う場合であっても、液体やゲルを充填させた場合と比べて、充填された材料の沸騰や熱膨張に起因した、成形品や金型の破損を防ぐことができる。
【0039】
中空部33に充填する流動体41の具体例としては、砂糖(スクロース)、塩化ナトリウム、砂、消石灰、金属粉、水溶性樹脂(たとえばポリビニルアルコールなど)からなる粉末等が挙げられる。その中でも、流動体41は、溶液に対して可溶性であることが好ましく、水溶性であることがさらに好ましい。このような流動体41を用いることにより、後述する(E)流動体排出工程において、流動体41を溶かすことの可能な溶液を中空部33に供給し、溶液に接した後の流動体41を溶液が溶解又は分散するため、流動体41を中空部33から効率的に排出でき、かつ、中空部33を溶液で洗浄できる。そのため、中空成形体への流動体41の残留を効率的に低減でき、中空成形体を水回り部材等にも好適に用いることができる。特に、水溶性の流動体41を用いることで、溶液として水を用いることができ、溶液にかかるコストが低減されるため、中空成形品の製造コストの面で有利である。
【0040】
ここで、水溶性の流動体41としては、流動体を中空部からの排出をより促進できる観点から、20℃の水に対する溶解度が0.1[g/100g−H
2O]以上のものが好ましく、1[g/100g−H
2O]以上のものがより好ましく、10[g/100g−H
2O]以上のものがさらに好ましく、30[g/100g−H
2O]以上のものがさらに好ましい。また、水溶性の流動体としては、必要に応じて酸やアルカリ等を含んだ水溶液と反応して、水溶性の物質(金属イオン等)を形成し、又は均一な水分散液を形成することで、可溶性を呈するものを用いてもよい。
【0041】
沸点、融点、水への溶解性を考慮すると、流動体41は、砂糖(スクロース)、塩化ナトリウムであることが好ましく、塩化ナトリウムであることがより好ましい。
【0042】
[(D)2次成形工程]
2次成形工程は、(C)充填工程の後、一対の半中空成形品31、32の接合部31A、32Aの外周に、溶融樹脂35’を射出し、一対の半中空成形品31、32を一体化し、中空成形品30を得る工程である。その際、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力は、一対の半中空成形品31、32の外部から内部にかかる圧力以上である。
【0043】
2次成形工程において射出する溶融樹脂35’の種類は、特に限定されず、エンジニアリング・プラスチックであってもよいし、スーパーエンジニアリング・プラスチックであってもよい。
【0044】
樹脂材料としてエンジニアリング・プラスチックやスーパーエンジニアリング・プラスチックを用いる場合、成形温度をより高温にする必要があり、半中空成形品を介して流動体の温度も上昇するため、流動体としてより高い温度でも流動性を示さない材料を用いることが求められる。そのため、特に樹脂材料としてエンジニアリング・プラスチックを用いる場合は、流動体として100℃で流動性を示さない材料を用いることが好ましく、120℃で流動性を示さない材料を用いることがより好ましい。また、樹脂材料としてスーパーエンジニアリング・プラスチックを用いる場合は、流動体として150℃で流動性を示さない材料を用いることが好ましく、160℃で流動性を示さない材料を用いることがより好ましい。他方で、樹脂材料としてエンジニアリング・プラスチックやスーパーエンジニアリング・プラスチックに該当しない材料を用いる場合は、より低い温度で流動性を示す材料を用いてもよい。
【0045】
2次成形工程において射出する樹脂の融点は、1次成形工程で用いられる材料の融点よりも低いことが好ましい。このとき、2次成形工程で射出する材料の成形温度を、1次成形工程で用いられる材料の融点よりも低く設定できる場合が多いため、1次成形工程で用いられる材料の変形を抑えられる。ただし、2次成形工程において射出する樹脂の融点が、1次成形工程で用いられる材料の融点より同じか、それより高い場合であっても、2次成形工程で射出する材料の成形温度が、一対の半中空成形品31、32を著しく溶融変形させるほど高いものでなければ、これを利用することができる。特に、1次成形工程で用いられる材料と、2次成形工程で射出する材料が相溶性のあるものならば、2次成形工程で射出する材料の成形温度が高い場合、一対の半中空成形品31、32の表面が溶融し、2次成形工程で射出する材料と相溶化することで、半中空成形品31、32をより強固に一体化させることができる。なお、半中空成形品31、32の接合部31A、32Aの表面に溝を設けておくことで、半中空成形品31、32、及び2次成形工程における溶融樹脂35’が、異なる材料の組み合わせであるような場合においても、強固に一体化させやすくなる。上記の溝は、1次成形工程で使用する金型にあらかじめ凹凸を彫っておくことで、接合部31A、32Aに溝を有する半中空成形品31、32を成形することで設けてもよく、半中空成形品31、32を切削加工することで設けてもよく、半中空成形品31、32にレーザー光などを照射することで、接合部31A、32Aの表層の材料を一部除去することで設けてもよい。特に、繊維状強化材を含有する樹脂からなる半中空成形品31、32に対し、レーザー光を照射して樹脂成分を一部除去することにより、内側に繊維状強化材が露出した溝を設ける場合、2次成形工程において、溝の内側に露出した繊維状強化材が、溶融樹脂35’の内部に埋め込まれるような状態で、溶融樹脂35’が充填されるため、より強固に一体化された中空成形品を得ることが可能となる。
【0046】
2次成形工程における溶融樹脂35’の射出は、一対の半中空成形品31、32からなる組立体の内部から外部にかかる圧力が、組立体の外部から内部にかかる圧力以上となる状態で行う。これにより、溶融樹脂35’の射出による圧力によっても流動体が変形し難くなるため、ひいては組立体の変形が抑制され、中空部において所望の容積が確保された中空成形品を作製することができる。
【0047】
組立体の内部から外部にかかる圧力を、組立体の外部から内部にかかる圧力以上に高める手段として、本実施形態では、(C)充填工程の後、開口34を塞ぐ部材42を開口34に挿入し、一対の半中空成形品31、32の外部から開口34を塞ぐ部材42に向けて力を加えることで、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力を大きくする内圧上昇工程を行うものとしてもよい。なお、ここでいう組立体の内部から外部にかかる圧力とは、上記の内圧上昇工程によって付加的に生じる内圧のみを指す訳ではなく、半中空成形品31、32が、外力として溶融樹脂35’の射出による圧力を受けた際に、半中空成形品31、32自体の剛性により生じる反発力、及び/又は組立体内部に充填された流動体41自体から生じる反発力も含むものである。したがって、半中空成形品31、32自体、及び/又は流動体41自体が高い強度を持つ場合や、流動体41を高密度で充填している場合などのように、上記の反発力が高く、それのみで溶融樹脂35’の射出による圧力に十分耐え得る場合には、上記の内圧上昇工程は行う必要はない。
【0048】
開口34を塞ぐ部材42として、ピストンの機能を有する金属シャフトが挙げられる。中空部33に、流動体41を中空部33の容積と略同じ体積になるように収容した後、開口34を塞ぐ部材34を開口34に挿入する。その後、スライド金型11を型締めすることで、中空部33に収容されている流動体41を圧縮する。そうすることで、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力を大きくすることができる。
【0049】
[(E)流動体排出工程]
流動体排出工程では、2次成形された中空成形品の中空部33から、中空部33に充填されていた流動体41を外部に排出する。これにより、中空成形品の中空部33を中空の状態にすることができる。
【0050】
流動体の排出は、中空成形品の中空部33に設けられた開口34から行う。例えば、溶融樹脂35’が硬化して硬化物になった後、開口34を塞ぐ部材42を開口34から外し、流動体41を開口34から排出する。本実施形態では、流動体41を粉末又は溶液の状態で排出できるため、中空部33に設けられている開口34が小さくても、流動体41の排出を容易に行うことができる。
【0051】
ここで、流動体41が溶液に対して可溶性を呈する場合は、中空成形品の中空部33に、流動体41を溶かすことの可能な溶液を供給し、その溶液に流動体41を溶かすことが好ましい。これにより、流動体41を中空部33からの排出を促進でき、かつ、中空部33を溶液で洗浄することができる。
【0052】
中空成形品の中空部33に供給する溶液としては、水、温水、エタノール、アセトンなどの有機溶媒等が挙げられる。中でも、中空成形品の製造コストの面で有利な点で、溶媒として水を用いることが好ましい、また、溶液は純粋な溶液であってもよいが、特に中空成形品の材料として耐薬品性の高い材料を用いている場合は、必要に応じて酸やアルカリ等を含んだものであってもよい。
【0053】
溶液を中空部33に供給すると、溶液と流動体41とが接触し、流動体41が溶液に溶ける。このとき、溶液と流動体41との間で化学反応が起こっていてもよく、流動体41又はその反応生成物が溶液に溶解又は分散することで、溶液に溶けた状態になればよい。
【0054】
〔第2の実施形態〕
続いて、
図2を参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。
【0055】
図2は、第1の半中空成形品31の接合部31Aと第2の半中空成形品32の接合部32Aとを突き合わせ、中空部33を形成したときの射出成形装置20の状態を示す模式図である。
【0056】
第1の実施形態では、(C)充填工程の後に内圧上昇工程を行うにあたり、開口34を塞ぐ部材42を開口34に挿入した後、スライド金型を型締めすることで、一対の半中空成形品31、32の外部から穴を塞ぐ部材42に向けて力を加え、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力を大きくした。第2の実施形態における射出成形装置20は、開口34を塞ぐ部材42が設置される位置の略上方に、溶融樹脂35’を供給する配管43を備える。そして、第2の実施形態では、(C)充填工程の後に(D)2次成形工程を行うにあたって、一対の半中空成形品31、32の接合部31A、32Aの外周に、溶融樹脂35’を射出するだけでなく、溶融樹脂35’を接合部31A、32Aの外周に射出する射出圧力を、開口34を塞ぐ部材42にも加えることで、一対の半中空成形品31、32の内部から外部にかかる圧力を大きくする。この点で、第2の実施形態は、第1の実施形態とは異なる。
【0057】
配管43の断面積は、開口34を塞ぐ部材42の断面積と略同じであることが好ましい。そうすることで、一対の半中空成形品31、32の外部から穴を塞ぐ部材42に向けて力を均一に加えることができる。
【0058】
なお、
図2において、
図1と同じ符号が用いられる部材については、第1の実施形態において説明された内容と同じである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
<実施例>
図1に記載の射出成形装置10を用いて、10個の中空成形品を得た。その際、各条件は、以下のとおりとした。
(A)1次成形工程
1次成形樹脂:ポリフェニレンサルファイド樹脂(製品名:ジュラファイド 0220A9、ビカット軟化点:250℃、ポリプラスチックス社製)
1次成形の条件:(予備乾燥)140℃、3時間、(シリンダ温度)320℃、(金型温度)150℃、(射出速度)20mm/sec、(保圧)50MPa
1次成形品の肉厚:2mm
開口34の断面積:28.26mm
2
中空部33の容積:20321.1mm
3
中空部33の容積(単位:mm
3)の開口34の断面積(単位:mm
2)に対する比(中空部33の容積/開口34の断面積):719
(C)充填工程
中空部33に、流動体41として食塩(塩化ナトリウム)を、中空部33の容積と略同じ体積になるように収容した。
(D)2次成形工程
スライド金型11を、型締め圧力:100tonにて型締めすることで、中空部33に収容されている流動体41を圧縮した。その後、2次成形に係る溶融樹脂35’を射出した。
2次成形樹脂:ポリフェニレンサルファイド樹脂(製品名:ジュラファイド 0220A9、ビカット軟化点:250℃、ポリプラスチックス社製)
2次成形の条件:(予備乾燥)140℃、3時間、(シリンダ温度)320℃、(金型温度)150℃、(射出速度)20mm/sec、(保圧)50MPa
(E)流動体排出工程
開口34を塞ぐ部材42を開口34から外し、中空成形品の中空部33に水を供給し、流動体41(食塩)を水で溶かすことで、流動体41(食塩)を開口34から排出した。
【0061】
<比較例1>
中空部33に、流動体41として食塩(塩化ナトリウム)を、中空部33の容積と略同じ体積になるように収容した後、スライド金型11の型締めを行うことなく、2次成形に係る溶融樹脂35’を射出した。それ以外は、実施例と同じ手法にて、10個の中空成形品を得た。
【0062】
<比較例2>
図5に記載の射出成形装置100を用いて、10個の中空成形品を得た。すなわち、中空成形品の中空部33に流動体41を充填することなく、2次成形に係る溶融樹脂35’を射出した。
【0063】
<評価>
実施例、比較例1、比較例2のそれぞれについて、中空成形品の外観を評価した。
図3に示すように、外観に不良が認められないものを良品とした。
図4の(A)に示すように、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品の形状に変形が認められるものを不良品1とした。
図4の(B)に示すように、2次成形での射出圧力によって一対の半中空成形品が破壊し、2次成形で供給される溶融材料が一対の半中空成形品の中空部に流れ込んだものを不良品2とした。そして、良品、不良品1、不良品2の数をカウントした。結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例の中空成形品は、1次成形品の肉厚が2mmと薄肉であり、開口の断面積が28.26mm
2、中空部の容積が20321.1mm
3、中空部の容積/開口の断面積が719と開口部が小さい形状であるが、全体の100%が良品である。その結果、実施例によると、薄肉、小型であっても中空部の容積が確保された中空成形品を低コストで効率よく量産できるといえる。さらに、開口部に対し中空部の容積が大きく、袋状弾性体を用いる従来技術では、中空部から取り出すことが困難な形状(いわゆる「不可能ボトル形状」)であっても、流動体を開口から容易に排出することができる。
【0066】
それに対し、比較例1の中空成形品は、良品が全体の30%にとどまり、比較例2の中空成形品は、良品が全体の10%にとどまる。したがって、比較例1及び2の製造方法では、1次成形品に対し、厚肉化、リブ補強等の対策が必要となり、中空部の容積を確保するため、一対の半中空成形品を大型化しなければならない。この点で、比較例1及び2の製造方法では、実施例に比べ、中空成形品を設計する際の自由度が劣る。