特許第6787797号(P6787797)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787797
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】電子デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/25 20060101AFI20201109BHJP
   H03H 3/08 20060101ALI20201109BHJP
   H03H 9/145 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 23/08 20060101ALI20201109BHJP
   H01L 23/02 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
   H03H9/25 A
   H03H3/08
   H03H9/145 C
   H01L23/08 A
   H01L23/02 B
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-7344(P2017-7344)
(22)【出願日】2017年1月19日
(65)【公開番号】特開2018-117267(P2018-117267A)
(43)【公開日】2018年7月26日
【審査請求日】2019年11月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】吉田 和明
(72)【発明者】
【氏名】矢野 義明
(72)【発明者】
【氏名】青柳 誠
【審査官】 橋本 和志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/158744(WO,A1)
【文献】 国際公開第2009/057699(WO,A1)
【文献】 特開2011−130356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
H01L 23/02
H01L 23/08
H03H 3/08
H03H 9/145
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、電子部品を作製する工程と、
上記基板上に第1有機レジストを形成し、この第1有機レジストのパターニングにより上記電子部品の上方に中空部を設けるための壁部を形成する工程と、
上記壁部の上に上記中空部の屋根部を構成する第2有機レジストを配置する工程と、
上記第2有機レジストを露光する工程と、
上記第2有機レジストの加熱処理を行うことにより、上記屋根部をドーム状に形成する工程と、
上記第2有機レジストの現像を行う工程と、
少なくとも上記ドーム状の屋根部の外側をモールド樹脂により封止する工程と、含んでなる電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子デバイスの製造方法、特に移動体通信機器に用いられ、圧電体を用いた表面弾性波デバイス等のように中空構造を有する電子デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、移動体通信機器に搭載される電子機器(電子デバイス)は、圧電体デバイス等を含む複数の電子部品をモジュール化して用いることが多くなってきている。このモジュール化とは、例えば通信機器の低コスト化を図るため、複数の電子部品を表面実装した後、全体を樹脂封止し、複数の通信機能を有する装置として製作することである。このモジュール化の際の樹脂封止は、例えばトランスファモールディング法で行われる。このトランスファモールディング法とは、160℃前後に融解した樹脂を6MPa前後の圧力で電子部品の周辺に流し込み硬化させることで樹脂封止する、電子部品の組み立て方法を示す。
【0003】
電子デバイスには、例えば圧電体を用いた表面弾性波デバイス[以下、SAW(Surface Acoustic Wave)デバイスとする]があり、移動体通信機器に広く用いられるSAWデバイスとして、例えば数十MHzから数GHzの周波数帯における通信機器に搭載される各種フィルタがあり、この各種フィルタの例としては、送信用バンドパスフィルタ、受信用バンドパスフィルタ、局部発振器用フィルタ、中間周波数フィルタ、アンテナ共用器等が挙げられる。移動体通信機器の小型・多機能化に伴い、これらのフィルタも小型・多機能化が望まれている。
【0004】
図7に、従来のSAWデバイス(フィルタ)の構成(下記特許文献1と同様の構成のもの)を示しており、符号の1は圧電体基板、2は櫛形電極[以下、IDT(Inter-Digital Transducer)とする)、3は電極、4は保護膜、5は壁部、6は屋根部であり、この壁部5と屋根部6にて上記IDT2の上方(図では下方)が中空部50とされる。なお、8は外部端子である。
このようなSAWデバイスによれば、圧電体基板1の圧電効果によってIDT2が振動することで、所定のフィルタ動作が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−108993号公報
【特許文献2】特許4586852号公報
【特許文献3】特許5117083号公報
【特許文献4】特許5424973号公報
【特許文献5】特許5425005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、SAWデバイスでは、上述のように、圧電体基板1上に形成されたIDT2が圧電効果により振動することで、所望のフィルタ動作が行われるため、IDT2の上側に中空部50を確保する必要があり、この中空部50が確保されず、IDT2と屋根部6が接触してしまう場合には、SAWデバイスの電気的特性が損なわる恐れがある。
一方、モジュール化で適用される上記トランスファモールディング法は、一般的に160℃前後に融解した封止用の樹脂を6MPa前後の圧力で電子部品の周辺に流し込むため、SAWデバイスに6MPa前後の圧力がかかることになる。
【0007】
そのため、図7の構成のSAWデバイスをモジュール基板に実装してトランスファモールドする際には、上記のトランスファモールド圧に耐えて中空を確保し、IDT2が屋根部6と接触しない構造体にする必要がある。そのため、例えば屋根部6を形成する樹脂層を厚くしたり、或いは硬い材料で構成したりしなければならない。
しかし、屋根部6の樹脂層を厚くすると、電子デバイスの低背化・小型化が図れないし、最善の方法とはならない。
【0008】
また、上記特許文献2及び3には、中空の屋根部に金属(内部導体や金属補強層)による補強構造を施し、耐モールド圧力性を向上させることが提案されており、また特許文献4では、引張強度の大きい有機若しくは無機材料を補強構造として屋根部に挟み込む構造が提案されている。
しかし、これら特許文献2乃至4に記載されているものにおいては、補強構造による耐モールド圧力性向上の効果が期待できる反面、補強構造の製作過程による製造工数及び材料費の増大は避けられず、またSAWデバイスの高さの増加が懸念されるため、最善の方法とは言い難い。
【0009】
更に、特許文献5には、中空を形成する外囲壁部と天井部にフィラーを添加して弾性率を向上させる構造が提案されているが、この場合は、脆性の高まりによる破損の危険性も潜んでおり、最善の方法ではない。
【0010】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、補強構造の追加や材料の強化を行うことなく、汎用性の高い一般的な材料を用いて、中空の構造体が強固となり、耐モールド圧力性を向上させることができる電子デバイスの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、請求項の発明に係る電子デバイスの製造方法は、基板に、電子部品を作製する工程と、上記基板上に第1有機レジストを形成し、この第1有機レジストのパターニングにより上記電子部品の上方に中空部を設けるための壁部を形成する工程と、上記壁部の上に上記中空部の屋根部を構成する第2有機レジストを配置する工程と、上記第2有機レジストを露光する工程と、上記第2有機レジストの加熱処理を行うことにより、上記屋根部をドーム状に形成する工程と、上記第2有機レジストの現像を行う工程と、少なくとも上記ドーム状の屋根部の外側をモールド樹脂により封止する工程と、含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中空部からドーム状に突出した形状の屋根部を設ける構成を採用することで、中空部の構造体が強固となり、耐モールド圧力性の向上した電子デバイスを得ることができる。また、補強構造の追加や材料の強化を行うことなく、汎用性の高い一般的な材料及び製造方法により中空部を形成することができるため、作業性の低下、製造コストの上昇、デバイスの大型化を招くことなく、安易な方法で優れた電子デバイスが提供可能になるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施例に係る電子デバイスであるSAWデバイスの構成を模式的に示した断面図である。
図2】実施例のSAWデバイスにトランスファモールド成形を施した構成を模式的に示した断面図である。
図3】実施例のSAWデバイスの製造工程の断面図である。
図4】実施例のSAWデバイスの製造工程図である。
図5】実施例において中空領域の面積と屋根部の膨らみ量との関係を示すグラフである。
図6】実施例の屋根部のドーム型形状と従来の平型形状における中空領域の面積と屋根部のたわみとの関係を示すグラフである。
図7】従来のSAWデバイスの構成を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に、実施例のSAWデバイスの構成、図2に、トランスファモールド成形後の構成、図3,4に、製造工程を示している。これらの図において、符号の1は圧電体基板、2は櫛形電極(IDT)、3はIDT2に接続される電極、4は保護膜、5はIDT2を囲む壁部、7はドーム状の屋根部であり、この壁部5と屋根部7にて上記IDT2の上方(図1図2では下方)が中空部50となる。なお、8は電極3に接続される外部端子である。
図2において、10はトランスファモールディング法により成形された樹脂封止体であり、この封止体10は、実施例では屋根部7の外側とSAWデバイスの外周に形成される(少なくとも屋根部7の外側に配置されればよい)。
【0016】
上記圧電体基板1は、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶等の圧電性基板、又は基板上に圧電体膜を形成したものを用いることができる。
上記IDT2及び電極3は、Al、Cu、Au、Niの内のいずれかを主成分とする材料、若しくはこれらの材料の合金、又は金属間化合物を多層に積層した化合物等から形成される。上記保護膜4は、ケイ素、酸素、窒素の内いずれかを主成分とする材料、若しくはこれらの材料の化合物を多層に積層した化合物から形成されている。
【0017】
上記屋根部7としては、ヤング率2.6GPa程の汎用性の高い一般的な材料である有機レジストが用いられ、この有機レジストを中空部分を保持した状態で壁部5上に載置、接着させた後、加熱処理することで、ドーム状の屋根部7とする。
このSAWデバイスの屋根部7のドーム形状は、トランスファモールディング法により樹脂封止する際にSAWデバイスにかかる圧力(例えば6MPa)に十分耐え、中空部50が潰されてIDT2に接触して電気的機能を損うことはない。図2の矢示に示されるように、SAWデバイスにトランスファモールド成形が施されると、ドーム状の屋根部7に残留圧縮応力ベクトルが生じ、この残留応力がトランスファモールド形成時の圧力に対する反力(又は抗力)となり、中空部50の潰れを防ぐためである。
【0018】
次に、図3及び図4により実施例のSAWデバイスの製造工程について説明する。
最初に、図3(a)及び図4のステップ101に示されるように、IDT2、電極3、保護膜4を形成した圧電体基板1上に、例えばラミネータ等の装置を用いて、第1有機レジスト12を貼る。
図3(b)及び図4のステップ102では、壁部5を形成するために露光する。この露光は、パターン精度、製造作業性、製造コスト等を考慮した上で、等倍露光若しくは縮小投影露光を選択する。
【0019】
図3(c)及び図4のステップ103,104では、第1有機レジスト12に付着しているレジスト保護フィルムを剥し、酸の拡散及び架橋反応の促進を目的とした露光後の加熱処理を行う。なお、上記レジスト保護フィルムは、有機レジストを平板状に保つために設けられているものである。
その後、図3(d)及び図4のステップ105では、壁部5を立体構造として形成する現像を行う。このとき、外部端子8に接続する電極3の一部を露出する。
【0020】
この現像後、図3(e)及び図4のステップ106のように、壁部5を完成させるための加熱処理を行う。上記の露光後及び現像後の加熱処理は、共に一定の温度とする又はステップ状に昇温する加熱処理であってもよいし、いずれかが一定温度又はステップ状に昇温しても構わない。これらの加熱の条件は、圧電体基板1、IDT2の形状、壁部5のパターンによって適時選択可能なパラメータである。このパラメータの代表例は、露光後の加熱が90℃で5分、現像後の加熱が200℃で60分である。
【0021】
上記の工程で、SAWデバイスの中空部50の壁部5が作製され、以下の工程にてドーム状の屋根部7が作製される。
図3(f)及び図4のステップ107に示されるように、上記壁部5の上面に、例えばラミネータ等の装置を用いて第2有機レジスト14を貼る。この第2有機レジスト14は、壁部5を形成した上記第1有機レジスト12と同一品若しくは異種品のどちらでも構わない。第2有機レジストは、パターン精度、製造作業性、製造コスト等を考慮したうえで選定する。
【0022】
次に、図3(g)及び図4のステップ108では、ドーム状の屋根部7を形成するため露光する。この露光は、パターン精度、製造作業性、製造コスト等を考慮したうえで、等倍露光もしくは縮小投影露光を選択する。
図3(h)及び図4のステップ109,110では、第2有機レジスト14に付着しているレジスト保護フィルムを剥がし、酸の拡散及び架橋反応の促進を目的とした露光後の加熱処理を行う。この露光後の加熱処理により、ドーム状の屋根部7が形成される。
【0023】
このドーム状の屋根部7が形成されるメカニズムは、加熱時の中空内空気の膨張に伴う第2有機レジスト14の膨張により理解できる。一般的に、有機レジストの線膨張係数は正の値を有するため、圧電体基板上に形成された壁部5の第1有機レジスト12は、圧電体基板1との接触面を起点として膨張し、壁部5の上面に形成された屋根部7の第2有機レジスト14は、壁部5と屋根部7の接触面を起点として図面上方へ膨張する。この時、壁部5と接触する第2有機レジスト14の一部は壁部5と圧電体基板1とで固定されている一方、壁部間の第2有機レジスト14の部分は自由であるため、境界条件に起因する線膨張係数の寄与に差が生じ、ドーム形状の屋根部7が形成されることになる。
【0024】
その後、図3(i)及び図4のステップ111では、外部端子8に接続する電極3の一部を露出する。
図3(j)及び図4のステップ112では、現像後の加熱処理を行う。露光後及び現像後の加熱処理は、適切な一定温度で行うことが望ましい。これらの加熱条件は、圧電体基板1、IDT2の形状、壁部5のパターン、屋根部7のパターンによって適時選択可能なパラメータである。このパラメータの代表例は、露光後の加熱が90℃で5分、現像後の加熱が200℃で60分である。
特に、ドーム状の屋根部7を形成する加熱処理は、圧電体基板側をホットプレートに接するようにして加熱処理することが好ましい。一方、第2有機レジスト表面から加熱するRTA法は、加熱への初期において表面が硬化してしまうため避けるのが好ましい。
【0025】
図3(k)及び図4のステップ113では、電極3に接続される形で外部端子8の形成が行われる。
そして、このようにして作製されたSAWデバイスは、他の回路部品と共に図示しない実装基板に実装された状態で、トランスファモールディング法により樹脂封止され、図2に示されるように、SAWデバイスの周囲が封止体10によって樹脂封止される。このとき、トランスファモールド圧がかかることになるが、上記ドーム状の屋根部7は、トランスファモールド圧に十分耐え得る強固な構造となるので、中空構造体が潰れることもない。
【0026】
図5に、中空面積(屋根部の面積)とドーム状の屋根部7の膨らみ量との関係を示しており、ドーム状の膨らみ量は屋根部7の面積に影響を受けることが確認されている。
図6に、中空面積とドーム状の屋根部7のたわみとの関係を示しており、実施例のドーム型(図の60)は、従来の平型(図の61)に比べたわみが小さくなり、実施例では耐モールド圧力性が向上することが確認されている。
【0027】
ドーム状の屋根部7にてトランスファモールド耐性が向上するメカニズムは、両端固定梁と両端固定アーチにおける荷重に対して、梁若しくはアーチに生じる応力により理解できる。先ず、トランスファモールド時の樹脂は高温の流体の状態で屋根部7に荷重をかけるため、分布荷重の荷重条件となる。分布荷重が梁に加わるとき、梁に生じる応力の向きは荷重と同一方向であるため、中空に向かって梁がたわむ。一方、分布荷重がアーチに加わるとき、アーチにはその曲線に沿った圧縮力が先ず応力として生じるため、梁に比べてたわみが減少する。
【0028】
上記実施例において、トランスファモールド成形による樹脂封止の前に、屋根部7の外側に弾性率が高い材料の膜、例えば金属膜を形成し、屋根部7と封止体10の間に金属膜を配置することにより、屋根部7の強度を更に高めることも可能である。
以上、実施例を詳述したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、種々の変形及び変更が可能である。
【0029】
なお、本発明は、圧電体を用いた表面弾性波(SAW)デバイスだけでなく、IDT以外の電子部品又は回路素子を設けたデバイス、圧電体を用いたその他の電子デバイス、バルク弾性波(BAW:Bulk Acoustic Wave)や圧電薄膜共振子(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)を用いたデバイス、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子等にも適用可能である。
【符号の説明】
【0030】
1…圧電体基板、 2…IDT、
3…電極、 4…保護膜、
5…壁部、 6…屋根部、
7…屋根部、 8…外部端子、
10…封止体、 12…第1有機レジスト、
14…第2有機レジスト、 50…中空部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7