(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6787834
(24)【登録日】2020年11月2日
(45)【発行日】2020年11月18日
(54)【発明の名称】誘電率測定システム、装置および方法
(51)【国際特許分類】
G01N 22/02 20060101AFI20201109BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20201109BHJP
【FI】
G01N22/02 B
G01N22/00 Y
G01N22/00 V
G01N22/00 W
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-77299(P2017-77299)
(22)【出願日】2017年4月10日
(65)【公開番号】特開2018-179663(P2018-179663A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2019年6月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】徐 照男
(72)【発明者】
【氏名】濱田 裕史
(72)【発明者】
【氏名】矢板 信
【審査官】
藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−162158(JP,A)
【文献】
特開2005−156188(JP,A)
【文献】
米国特許第04507602(US,A)
【文献】
巨 陽, 細井 厚志,「マイクロ波を利用した探傷技術と材料評価への適用」,検査技術,日本工業出版株式会社,2009年12月 1日,Vol.14, No.12,pp.1-7
【文献】
Teruo Jyo et al.,"THz Permittivity Imaging Using Multi-tone Unwrapped Phase Slope Method",41st International Conference on Infrared, Millimeter, and Terahertz waves (IRMMW-THz),IEEE,2016年 9月,pp.345-346
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00‐22/02
G01N 21/3581
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
m個(mは3以上の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を被測定物に照射する送信機と、
前記被測定物を透過した電磁波を検出して前記被測定物の比誘電率を算出する受信機とを備え、
前記送信機は、前記被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、前記被測定物の既知の厚さをL、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1(nは1以上(m−1)以下の整数)の間隔f
sが
【数1】
を満たすm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を前記被測定物に照射し、
前記受信機は、
前記被測定物を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信するアンテナと、
このアンテナで受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する位相測定部と、
この位相測定部の測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差を算出する位相差算出部と、
この位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す更新処理部と、
m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記更新処理部によって更新した後の位相とを直線近似する近似部と、
この近似部によって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する比誘電率算出部とから構成されることを特徴とする誘電率測定システム。
【請求項2】
請求項1記載の誘電率測定システムにおいて、
前記位相測定部は、前記送信機と前記受信機のアンテナとの間に背景物質のみがあって前記被測定物がない状態と、前記背景物質と前記被測定物とがある状態のそれぞれで1回ずつ前記位相の測定を行い、
前記位相差算出部は、前記背景物質のみがあって前記被測定物がない状態で測定された電磁波の位相と前記背景物質と前記被測定物とがある状態で測定された電磁波の位相との差である位相変化を周波数毎に算出し、隣接する2つの周波数fn,fn+1の電磁波の位相変化θnとθn+1との差を、これら周波数fn,fn+1の電磁波の位相差とし、
前記更新処理部は、前記位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にfn+1以降の各周波数の電磁波の位相変化θn+1,θn+2,・・・,θmのそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返し、
前記近似部は、m個の周波数f1,f2,・・・,fmのうちの最低の周波数f1の電磁波の位相変化θ1と、f1を除くm−1個の周波数f2,・・・,fmの電磁波の位相θ2,・・・,θmを前記更新処理部によって更新した後の位相変化φ2,・・・,φmとを直線近似することを特徴とする誘電率測定システム。
【請求項3】
被測定物を透過したm個(mは3以上の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信するアンテナと、
このアンテナで受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する位相測定部と、
この位相測定部の測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1(nは1以上(m−1)以下の整数)の電磁波の位相差を算出する位相差算出部と、
この位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す更新処理部と、
m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記更新処理部によって更新した後の位相とを直線近似する近似部と、
この近似部によって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の既知の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する比誘電率算出部とを備え、
前記m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波は、前記被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の間隔f
sが
【数2】
を満たすことを特徴とする誘電率測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の誘電率測定装置において、
前記位相測定部は、前記電磁波の到来方向に背景物質のみがあって前記被測定物がない状態と、前記背景物質と前記被測定物とがある状態のそれぞれで1回ずつ前記位相の測定を行い、
前記位相差算出部は、前記背景物質のみがあって前記被測定物がない状態で測定された電磁波の位相と前記背景物質と前記被測定物とがある状態で測定された電磁波の位相との差である位相変化を周波数毎に算出し、隣接する2つの周波数fn,fn+1の電磁波の位相変化θnとθn+1との差を、これら周波数fn,fn+1の電磁波の位相差とし、
前記更新処理部は、前記位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にfn+1以降の各周波数の電磁波の位相変化θn+1,θn+2,・・・,θmのそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返し、
前記近似部は、m個の周波数f1,f2,・・・,fmのうちの最低の周波数f1の電磁波の位相変化θ1と、f1を除くm−1個の周波数f2,・・・,fmの電磁波の位相θ2,・・・,θmを前記更新処理部によって更新した後の位相変化φ2,・・・,φmとを直線近似することを特徴とする誘電率測定装置。
【請求項5】
被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、前記被測定物の既知の厚さをL、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の間隔f
sが
【数3】
を満たすm個(mは3以上の整数、nは1以上(m−1)以下の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を前記被測定物に照射する第1のステップと、
前記被測定物を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信する第2のステップと、
この第2のステップで受信したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する第3のステップと、
この第3のステップの測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差を算出する第4のステップと、
この第4のステップで算出した位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す第5のステップと、
m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記第5のステップによって更新した後の位相とを直線近似する第6のステップと、
この第6のステップによって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する第7のステップとを含むことを特徴とする誘電率測定方法。
【請求項6】
請求項5記載の誘電率測定方法において、
背景物質のみがあって前記被測定物がない状態と、前記背景物質と前記被測定物とがある状態のそれぞれで1回ずつ前記第3のステップを行い、
前記第4のステップは、前記背景物質のみがあって前記被測定物がない状態で測定された電磁波の位相と前記背景物質と前記被測定物とがある状態で測定された電磁波の位相との差である位相変化を周波数毎に算出し、隣接する2つの周波数fn,fn+1の電磁波の位相変化θnとθn+1との差を、これら周波数fn,fn+1の電磁波の位相差とするステップを含み、
前記第5のステップは、前記第4のステップで算出した位相差が負の場合にfn+1以降の各周波数の電磁波の位相変化θn+1,θn+2,・・・,θmのそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返すステップを含み、
前記第6のステップは、m個の周波数f1,f2,・・・,fmのうちの最低の周波数f1の電磁波の位相変化θ1と、f1を除くm−1個の周波数f2,・・・,fmの電磁波の位相θ2,・・・,θmを前記第5のステップによって更新した後の位相変化φ2,・・・,φmとを直線近似するステップを含むことを特徴とする誘電率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波を用いて物体の比誘電率を測定する誘電率測定システム、装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物品の製造メーカにおいては、製品検査の重要度が増している。特に、食品の製造メーカにおいては、加工食品への異物混入により、会社の信頼性低下や出荷停止など、業績を逼迫する状況になる場合も生じている。製品の出荷検査の段階で、製品への異物混入を検出して、異物が混入した製品の出荷を未然に防ぐことが望ましい。しかしながら、既存の検出装置であるイメージング装置は、金属の検出は可能であるが、昆虫や、製品とは異なる食品などの有機物質を高い精度で検出することはできないという問題点があった。
【0003】
一方、物体の比誘電率を求めることができれば、物体への異物の混入を検出することが可能になる。従来、電磁波を用いて物体の比誘電率を測定する方法として2周波CW(Continuous Wave)法が提案されている(非特許文献1参照)。測定は、
図10(A)に示すように電磁波放射器100と検出器101との間に被測定物がない場合と、
図10(B)に示すように被測定物102がある場合の2回行う。
【0004】
まず、
図10(A)の構成で2つの異なる周波数f
1とf
2の電磁波が空気を透過した後の位相θ
1_
airとθ
2_
airを測定する。次に、
図10(B)の構成で2つの異なる周波数f
1とf
2の電磁波が被測定物102を透過した後の位相θ
1_
sampleとθ
2_
sampleを測定し、被測定物102がない場合の測定結果との位相変化θ
1=θ
1_
sample−θ
1_
air、θ
2=θ
2_
sample−θ
2_
airを算出する。これら位相変化θ
1,θ
2の差分である位相差θ
2−θ
1は式(1)で表される。この式(1)により被測定物102の比誘電率ε
rを算出することができる。式(1)におけるLは被測定物102の厚さ、cは光速である。
【0005】
【数1】
【0006】
しかしながら実際には、被測定物内部で発生する反射波が原因で位相揺れが発生するため、測定される位相変化には誤差が存在する。非特許文献1に開示された従来の方法で高精度な誘電率測定を行うためには、2周波の間隔Δf=f
2−f
1をできるだけ拡げる必要がある。
【0007】
図11(A)は、誘電率測定の誤差(比誘電率ε
rの算出誤差)が2周波の間隔Δfの増大に伴って1/Δfで減少するが、Δfの上限に達すると急激に増大することを示している。
図11(B)は、2周波の間隔Δfが狭い場合を示しており、観測される電磁波の位相に、測定環境等に影響される乱れがあるため、この乱れが位相誤差になり、誘電率測定の誤差が大きくなることを示している。一方、
図11(C)のように2周波の間隔Δfが拡がると、位相誤差の影響が小さくなり、誘電率測定の誤差が小さくなるが、
図11(D)のように2周波間の位相差が2π以上変化すると、測定不能となってしまう(
図11(A)のΔfの上限)。以上のように、非特許文献1に開示された方法では、2周波の間隔Δfに上限が存在するため、高い精度で物体の比誘電率を測定することができないという問題があった。
【0008】
このような問題を解決する方法として、発明者らは、複数周波数で位相接続を行う方法を提案した(非特許文献2参照)。非特許文献2に開示された誘電率測定方法では、隣接する周波数の間隔f
sが式(2)の条件を満たす複数の周波数の電磁波で被測定物を透過した後の電磁波の位相を測定し、測定した各位相に対して位相接続を行い位相の不連続点を補償する(
図12)。
【0009】
【数2】
【0010】
式(2)のε
eff_
maxは被測定物がとりうる実効的な比誘電率の最大値である。位相接続(アンラップ)は、隣接する2つの周波数の電磁波の位相θ
nとθ
n+1間の差分を算出し、算出した差分が0以上の場合には、θ
n+1以降の位相の全てに0を加算し、差分が負の場合には、θ
n+1以降の位相の全てに2πを加算する処理である。
図12の点120は位相のサンプリング点(位相測定点)を示し、点121は位相接続後の点を示し、直線122は位相の傾きの真値を示している。
【0011】
非特許文献2に開示された方法では、位相接続を行った後に、最初の位相サンプリング点と位相接続された最後の点とから、
図12の直線123で示すような位相の傾きを算出し、式(1)を用いて被測定物の比誘電率を算出する。こうして、非特許文献2に開示された方法では、2周波間隔Δfを広げることができ、比誘電率の測定誤差を低減可能である。
【0012】
しかしながら実際には、測定に用いる送受信デバイス(例えばアンプ、発振器等)の帯域には制限がある。一般的に中心周波数300GHz付近のデバイスの帯域は300GHzの10%の30GHz程度である。そのため、非特許文献2に開示された方法では、測定に用いる送受信デバイスの帯域を超えて2周波間隔Δfを広げることはできず、更なる測定誤差の低減が難しいという課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Liangliang Zhang,et al.,“Terahertz multiwavelength phase imaging without 2π ambiguity”,Optics letters,Vol.31,Issue 24,pp.3668-3670,2006
【非特許文献2】T.Jyo,et al.,“THz Permittivity Imaging Using Multi-tone Unwrapped Phase Slope method”,IRMMW 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、複数の周波数の電磁波を用いる誘電率測定方法において、物体の比誘電率の測定誤差を従来よりも更に低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の誘電率測定システムは、m個(mは3以上の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を被測定物に照射する送信機と、前記被測定物を透過した電磁波を検出して前記被測定物の比誘電率を算出する受信機とを備え、前記送信機は、前記被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、前記被測定物の既知の厚さをL、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1(nは1以上(m−1)以下の整数)の間隔f
sが
【数3】
を満たすm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を前記被測定物に照射し、前記受信機は、前記被測定物を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信するアンテナと、このアンテナで受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する位相測定部と、この位相測定部の測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差を算出する位相差算出部と、この位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す更新処理部と、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記更新処理部によって更新した後の位相とを直線近似する近似部と、この近似部によって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する比誘電率算出部とから構成されることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明の誘電率測定システムの1構成例において、前記位相測定部は、前記送信機と前記受信機のアンテナとの間に背景物質のみがあって前記被測定物がない状態と、前記背景物質と前記被測定物とがある状態のそれぞれで1回ずつ前記位相の測定を行い、前記位相差算出部は、前記背景物質のみがあって前記被測定物がない状態で測定された電磁波の位相と前記背景物質と前記被測定物とがある状態で測定された電磁波の位相との差である位相変化を周波数毎に算出し、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相変化θ
nとθ
n+1との差を、これら周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差とし、前記更新処理部は、前記位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相変化θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mのそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返し、前記近似部は、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相変化θ
1と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相θ
2,・・・,θ
mを前記更新処理部によって更新した後の位相変化φ
2,・・・,φ
mとを直線近似することを特徴とするものである。
【0017】
また、本発明の誘電率測定装置は、被測定物を透過したm個(mは3以上の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信するアンテナと、このアンテナで受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する位相測定部と、この位相測定部の測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1(nは1以上(m−1)以下の整数)の電磁波の位相差を算出する位相差算出部と、この位相差算出部によって算出された位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す更新処理部と、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記更新処理部によって更新した後の位相とを直線近似する近似部と、この近似部によって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の既知の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する比誘電率算出部とを備え、前記m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波は、前記被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の間隔f
sが
【数4】
を満たすことを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の誘電率測定方法は、被測定物の想定される最大比誘電率をε
eff_
max、前記被測定物の既知の厚さをL、光速をcとしたとき、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の間隔f
sが
【数5】
を満たすm個(mは3以上の整数、nは1以上(m−1)以下の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を前記被測定物に照射する第1のステップと、前記被測定物を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信する第2のステップと、この第2のステップで受信したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する第3のステップと、この第3のステップの測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差を算出する第4のステップと、この第4のステップで算出した位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返す第5のステップと、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の位相を前記第5のステップによって更新した後の位相とを直線近似する第6のステップと、この第6のステップによって得られた近似直線の傾きと前記被測定物の厚さLとから、前記被測定物の比誘電率を算出する第7のステップとを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、隣接する2つの周波数の間隔f
sを適切に設定したm個の周波数の電磁波を被測定物に照射し、被測定物を透過したm個の周波数の電磁波を受信して、電磁波のそれぞれの位相を測定し、この測定結果を基に隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差を算出し、算出した位相差が負の場合にf
n+1以降の各周波数の電磁波の位相のそれぞれに2πを加算して更新する処理を、n=1からn=m−1まで繰り返し、m個の周波数のうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相と、f
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の更新後の位相とを直線近似し、近似直線の傾きと被測定物の厚さLとから、被測定物の比誘電率を算出することにより、送受信デバイスによって制限される周波数間隔Δf=f
m−f
1の範囲内で、被測定物の比誘電率を従来よりも高い精度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の誘電率測定方法を説明する図である。
【
図2】
図2は、被測定物内部で発生する反射波による電磁波の位相の揺れを説明する図である。
【
図3】
図3は、基本波と2回反射波のみが存在する場合の電磁波の位相の揺れを示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例に係る誘電率測定システムの構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の実施例に係る誘電率測定システムの動作を説明するフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の実施例の測定対象となる被測定物の1例を説明する図である。
【
図7】
図7は、従来の誘電率測定方法および本発明の実施例に係る誘電率測定方法における誘電率測定誤差を計算した結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施例の測定対象となる被測定物の他の例を説明する図である。
【
図9】
図9は、従来の誘電率測定方法および本発明の実施例に係る誘電率測定方法により被測定物の比誘電率を測定した結果を示す図である。
【
図10】
図10は、従来の誘電率測定方法で用いる光学系の構成を説明する図である。
【
図11】
図11は、従来の誘電率測定方法の問題点を説明する図である。
【
図12】
図12は、従来の他の誘電率測定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[発明の原理]
本発明では、
図1のように隣接する周波数の間隔f
s=f
n+1−f
nが以下の式(3)を満たす複数の周波数f
1,f
2,・・・,f
n,f
n+1,・・・,f
m-1,f
mの電磁波で被測定物を透過した後の電磁波の位相を測定する(mは3以上の整数、nは1以上(m−1)以下の整数)。このとき、電磁波の周波数f
nにおいて検出した位相(被測定物がないときと被測定物があるときの位相変化)をθ
nとする。
図1の白丸印は位相のサンプリング点(位相測定点)を示している。
【0023】
式(3)におけるLは被測定物の厚さ、cは光速、ε
eff_
maxは被測定物がとりうる実効的な比誘電率の最大値である。本発明により誘電率測定を行う場合、ε
eff_
maxについては、予め設定した固定値を使用する。
【0024】
次に、従来と同様に測定した各位相に対して位相接続を行う。具体的には、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相θ
nとθ
n+1間の差分を算出し、算出した差分が負の場合には、θ
n+1以降の位相θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mの全てに2πを加算して更新する。差分が0以上の場合には、位相θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mの全てに0を加算すればよい。すなわち、差分が0以上の場合には値の更新は不要である。
【0025】
以上のような更新ステップを、n=1からn=m−1まで繰り返す。n=m−1までの更新ステップが完了した後の位相θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mを、φ
n+1,φ
n+2,・・・,φ
mとする。
図1の黒丸印は位相接続後の点を示している。なお、周波数f
1の電磁波の位相θ
1は更新の対象とならないため、φ
1とせず、θ
1のままとしている。
【0026】
続いて、位相接続後の各位相θ
1,φ
2,・・・,φ
n,φ
n+1,・・・,φ
mに対して最小二乗法による直線近似を行う。最後に、近似直線の傾きαから式(4)を用いて被測定物の比誘電率ε
rを算出する。
【0028】
図1の直線50は従来の位相接続で得られる直線を示し、直線51は本発明の直線近似で得られる直線を示し、直線52は位相の傾きの真値を示している。
本発明によれば、被測定物内の反射波に起因する電磁波の位相の揺れによる誤差を平均化し、送受信デバイスによって制限されたΔfの範囲内で、測定誤差をさらに低減可能である。
【0029】
次に、式(3)の導出について説明する。
図1に示す周波数軸上の位相θ
1,θ
2,・・・,θ
n,θ
n+1,・・・,θ
mの揺れは基本波(反射せずに透過する波)と反射波との干渉、そして反射波同士の干渉によって起きる。位相の揺れは各干渉波の伝搬長差に応じた周期関数の重なりで構成される。そのため、位相の揺れの1/2周期より細かい周波数間隔で1周期以上サンプリングし、直線近似することで、位相の揺れが平均化され、その影響を低減可能である。
【0030】
説明のために、例として
図2のような、周囲が空気(比誘電率ε
1=1)で囲まれた、比誘電率ε
2=3、厚さL=30mmの被測定物10を考える。被測定物10内では基本波と2回反射波のみが存在すると仮定する。なお、
図2では、説明を分かり易くするために基本波と2回反射波とが位置的に離れているように記載しているが、実際には基本波と2回反射波とは同じ位置で重なって発生する波である。
【0031】
基本波と2回反射波の伝搬長差Dは式(5)のように表される。
【0033】
また、基本波と2回反射波とによる電磁波の位相揺れの周期CYは式(6)のように表される(
図3)。
【0035】
すなわち、基本波と2回反射波の伝搬長差Dが大きいほど、
図3の周波数軸上での位相θの揺れの周期CYが細かくなる。被測定物10内の反射波として、2回反射波のみが存在する場合、式(7)に示す周波数間隔f
sで位相揺れの1周期以上にわたり被測定物10を透過した後の電磁波の位相θを測定し、各位相θから近似直線を求めることで、位相θの揺れの影響が軽減され、所望の位相傾きを得ることができる。
【0037】
一方で、実際の被測定物10内では、2回反射、4回反射・・・というように無限回の反射が発生する。全ての反射波による影響を打ち消すためには、無限に細かい周波数間隔の電磁波で位相θを測定する必要がある。しかし、反射波のエネルギーEは、被測定物10内での電磁波の反射回数nに応じて、式(8)のように減衰する。
【0039】
つまり、4回反射以降の反射波のエネルギーは大きく減衰するため、2回反射波が位相θの揺れに一番影響する。そのため、2回反射の中で基本波との伝搬長差Dが一番長い場合(位相θの揺れが一番細かい場合)に合わせて、測定に用いる電磁波の周波数の間隔f
sを選ぶことが望ましい。
被測定物10の実効誘電率の最大値がε
eff_
maxの場合、2回反射の中で基本波との一番大きい伝搬長差D
maxは式(9)のように表される。
【0041】
したがって、位相θの揺れの1周期以上の周波数範囲にわたって、周波数間隔f
sが式(3)を満たす複数の周波数の電磁波で位相θを測定し、各位相θに対して直線近似を行うことで、伝搬長差D
maxによる位相θの揺れの影響およびD
maxよりも短い伝搬長差Dによる位相θの揺れの影響を低減することができる。
【0042】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。
図4は本発明の実施例に係る誘電率測定システムの構成を示すブロック図である。誘電率測定システムは、m個(mは3以上の整数)の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を被測定物10に照射する送信機1と、被測定物10を透過した電磁波を検出して被測定物10の比誘電率ε
rを算出する受信機2(誘電率測定装置)とから構成される。
受信機2は、アンテナ20と、位相測定部21と、位相差算出部22と、更新処理部23と、近似部24と、比誘電率算出部25と、算出結果出力部26とを備えている。
【0043】
図5は本実施例の誘電率測定システムの動作を説明するフローチャートである。まず、比誘電率ε
1が既知の背景物質11(例えば空気)のみがあって被測定物10がない状態で送信機1は、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を背景物質11に照射する(
図5ステップS100)。
【0044】
上記のとおり、隣接する2つの周波数の間隔f
s=f
n+1−f
nは式(3)を満たしている。本実施例では、食品における異物混入検出などの用途を想定しているので、実効的な比誘電率の最大値ε
eff_
maxについては、異物の最大誘電率を考慮して、想定される値を予め設定しておけばよい。また、本実施例では、送信機1からアンテナ20への方向の被測定物10の厚さLは既知の値である。なお、送信機1は、例えばGHzオーダーの複数の周波数の電磁波を物体に照射できるものであればよい。
【0045】
受信機2のアンテナ20は、背景物質11を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信する(
図5ステップS101)。
受信機2の位相測定部21は、アンテナ20で受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する(
図5ステップS102)。なお、電磁波の位相(正確には送信機1側の基準の信号に対する受信機2で受信した信号の位相の変化量)を測定する技術は、例えばネットワークアナライザー(VNA:Network Analyzer)などの既存の測定器を使用して実現できる周知の技術である。
【0046】
次に、誘電率測定システムを使用するユーザは、背景物質11の内部、またはその上部に、厚さLが既知で、比誘電率ε
rが未知の被測定物10を配置する。
送信機1は、このように被測定物10が配置された状態で、背景物質11および被測定物10にm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を照射する(
図5ステップS103)。
【0047】
受信機2のアンテナ20は、背景物質11および被測定物10を透過したm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波を受信する(
図5ステップS104)。
受信機2の位相測定部21は、アンテナ20で受信されたm個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mの電磁波のそれぞれの位相を測定する(
図5ステップS105)。
【0048】
続いて、受信機2の位相差算出部22は、ステップS102で得られた電磁波の位相とステップS105で得られた電磁波の位相との差である位相変化θを電磁波の周波数毎に算出し、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1(nは1以上(m−1)以下の整数)の電磁波の位相変化θ
nとθ
n+1との差θ
n+1−θ
nを、2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差Δθとする(
図5ステップS106)。このように、本実施例では、2回の位相の測定結果の差分をとることで得られる被測定物10による正味の位相変化をθとする。位相差算出部22は、以上のような位相差Δθの算出をn=1からn=m−1までのそれぞれについて行う。
【0049】
次に、受信機2の更新処理部23は、隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差Δθが負かどうかを判定し(
図5ステップS108)、位相差Δθが負の場合には、θ
n+1以降の位相変化θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mのそれぞれに2πを加算して更新する(
図5ステップS109)。上記のとおり、位相差Δθが0以上の場合には、位相変化θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mのそれぞれに0を加算することになるので、位相差Δθが0以上の場合には位相変化の更新は不要である。このような更新ステップを、n=1から開始して、nを1ずつ増やしながら繰り返し行い(
図5ステップS107〜S110)、n=m−1まで処理を終えた時点で(
図5ステップS111においてYES)、更新処理部23の動作が終了する。上記のとおり、n=m−1までの更新ステップが完了した後の位相変化θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mを、φ
n+1,φ
n+2,・・・,φ
mとする。
【0050】
なお、ステップS109の処理を繰り返すことにより、位相変化θ
n+1,θ
n+2,・・・,θ
mが増大していくが、ステップS109の処理後においても隣接する2つの周波数f
n,f
n+1の電磁波の位相差Δθは変化しない。したがって、ステップS109の処理を1回行う度に位相差Δθを計算し直す必要はなく、位相差算出部22の算出結果を基にステップS108の判定処理を行うようにすればよい。
【0051】
受信機2の近似部24は、m個の周波数f
1,f
2,・・・,f
mのうちの最低の周波数f
1の電磁波の位相変化θ
1とf
1を除くm−1個の周波数f
2,・・・,f
mの電磁波の更新後の位相変化φ
2,・・・,φ
mとを最小二乗法により直線近似する(
図5ステップS112)。
【0052】
受信機2の比誘電率算出部25は、近似部24によって得られた近似直線の傾きαと、被測定物10の既知の厚さLとを用いて、式(4)により被測定物10の比誘電率ε
rを算出する(
図5ステップS113)。
【0053】
受信機2の算出結果出力部26は、比誘電率算出部25の算出結果を出力する(
図5ステップS114)。具体的には、算出結果出力部26は、例えば比誘電率算出部25が算出した被測定物10の比誘電率ε
rを表示したり、比誘電率ε
rの情報を外部に送信したりする。以上のようにして、本実施例の誘電率測定システムの動作が終了する。
【0054】
本実施例では、従来との比較のため、1例として
図6に示すような比誘電率ε
1=3、厚さL
1=30mmの背景物質11の中に比誘電率ε
r=10で厚さL=2〜10mmの範囲の被測定物10が入っている場合について本実施例の効果を説明する。この条件の場合、実効誘電率の最大値ε
eff_
maxは4.88である。式(3)から計算される、本実施例で必要な周波数間隔f
sは1.2GHzより小さい値とする必要がある。
【0055】
非特許文献1に開示された従来の方法において、f
1=300GHzとf
2=308GHzの2周波を用いた場合の誘電率測定誤差(比誘電率ε
rの算出誤差)のシミュレーション結果を
図7に示す。この場合、2周波の間隔は8GHzとなる。
図7の点線70が非特許文献1に開示された方法で被測定物10の比誘電率ε
rを算出した場合の誤差を示している。最大誤差は14.5%であった。
【0056】
図7の一点鎖線71は非特許文献2に開示された従来の方法で被測定物10の比誘電率ε
rを算出した場合の誤差を示している。ここでは、f
1=300GHz、f
2=308GHz、f
3=316GHz、f
4=324GHz、f
5=330GHzの5つの周波を用いて、電磁波の最低周波数と最高周波数の周波数間隔Δfを30GHzまで拡張した。この方法の場合の最大誤差は3.7%であった。
【0057】
一方、
図7の実線72は本実施例の方法で被測定物11の比誘電率ε
rを算出した場合の誤差を示している。この例では、f
1=300GHzからf
31=330GHzまでの1GHz間隔の31周波を用いた。シミュレーションの結果、最大誤差を0.86%まで低減可能なことが分かった。
【0058】
次に、被測定物10の別の例として、
図8に示すように縦横50mm、厚さL=21mmのチョコレート10aの中に合成樹脂からなる異物10bが入った被測定物10の場合について本実施例の効果を説明する。
【0059】
図9(A)は非特許文献1に開示された方法により
図8の被測定物10の比誘電率ε
rを測定した結果を示す図、
図9(B)は非特許文献2に開示された方法により被測定物10の比誘電率ε
rを測定した結果を示す図、
図9(C)は本実施例の方法により被測定物10の比誘電率ε
rを測定した結果を示す図である。
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)では、被測定物10の面内の比誘電率ε
rの分布を色分けで示している。ここで、非特許文献1に開示された方法については、f
1=280GHzとf
2=288GHzの2周波を用いた。非特許文献2および本実施例の方法については、f
1=280GHzからf
6=310GHzまでの6GHz間隔の6周波を用いた。
【0060】
図9(D)、
図9(E)、
図9(F)はそれぞれ
図9(A)、
図9(B)、
図9(C)の直線Aの位置の比誘電率ε
rを示す図である。
図9(D)、
図9(E)、
図9(F)の90は比誘電率ε
rの理論値を示し、91は非特許文献1に開示された方法による測定結果を示し、92は非特許文献2に開示された方法による測定結果を示し、93は本実施例の方法による測定結果を示している。異物10bの位置の比誘電率ε
rの測定誤差は、非特許文献1に開示された方法の場合で3.6%、非特許文献2に開示された方法の場合で1.3%、本実施例の方法の場合で0.29%であった。
【0061】
本実施例で説明した位相測定部21と位相差算出部22と更新処理部23と近似部24と比誘電率算出部25と算出結果出力部26とは、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置及びインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。本発明の誘電率測定方法を実現させるためのプログラムは、フレキシブルディスク、CD−ROM、DVD−ROM、メモリカードなどの記録媒体に記録された状態で提供され、記憶装置に格納される。コンピュータのCPUは、記憶装置に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、電磁波を用いて物体の比誘電率を測定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…送信機、2…受信機、10…被測定物、11…背景物質、20…アンテナ、21…位相測定部、22…位相差算出部、23…更新処理部、24…近似部、25…比誘電率算出部、26…算出結果出力部。