(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記スタイラスの揺動中心から前記接触子に向かう方向を接触子方向とした場合、前記接触子方向は、前記第1方向の成分と前記第2方向の成分とを有する、請求項1から4のいずれか1項に記載の変位検出器。
前記接触子が前記被測定面に接触しない状態において、前記第1方向の成分と前記第2方向の成分との比は1:0.58から1:1.73までの範囲内にある、請求項5に記載の変位検出器。
前記接触子が前記被測定面に接触しない状態において、前記第1方向の成分と前記第2方向の成分との比は1:0.75から1:1.33までの範囲内にある、請求項5に記載の変位検出器。
前記接触子が変位した場合、前記変位検出部は、前記接触子の変位として前記第1方向の変位と前記第2方向の変位とを検出可能である、請求項1から8のいずれか1項に記載の変位検出器。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の変位検出器は2つの接触子を有するために、測定時の変位検出器の姿勢が制限される(姿勢の自由度が低くなる)という問題がある。また、変位検出器の構成が複雑になるという問題もある。更に、一方の接触子で測定している際に、2つの接触子のアームを接続する軸を介して他方の接触子が動くことを考慮する必要があるなどの改良の余地がある。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、複数の方向の変位を測定可能な変位検出器であって、単純な構成を有し、且つ、高精度な測定が可能な変位検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の第1の態様に係わる変位検出器は、検出器本体と、測定対象物の被測定面に接触する接触子を有するスタイラスと、検出器本体に設けられ、互いに直交する第1方向及び第2方向を含む面を揺動面としてスタイラスを揺動可能に保持するスタイラス保持部と、検出器本体に設けられ、接触子と被測定面との接触に伴う接触子の変位を検出する変位検出部と、を備え、スタイラスは、第1一端部と第1他端部とを有し、第1一端部がスタイラス保持部に保持され、第1一端部から第1他端部に向かって第1方向に延びる第1アームと、第2一端部と第2他端部とを有し、第2一端部が第1他端部に接続され、第2一端部から第2他端部に向かって第2方向に延び、第2他端部に接触子が設けられた第2アームと、を有する。
【0009】
上記の変位検出器において、スタイラスは第1方向及び第2方向を含む面を揺動可能であるため、接触子は第1方向及び第2方向の2方向に変位可能である。これにより1つの変位検出部のみで2方向の変位を測定できるため、変位検出器の構成の単純化を実現することができる。ひいては、変位検出器の製造コストを低減することが可能となる。また、変位検出器は可動部として揺動中心を1つ有するだけであるため、可動部に起因する誤差の発生を低減し、高精度な測定を実現することが可能となる。
【0010】
ここで、好ましくは、スタイラスはスタイラス保持部を介して揺動面に直交する回転軸を中心に揺動可能に軸支される。この場合、変位検出器は接触子を被測定面に向かう方向に付勢する力を付与する測定力付与部を備えることが望ましい。測定力付与部として、例えばバネ、カウンターウェイト等が挙げられる。
【0011】
あるいは、好ましくは、スタイラス保持部は検出器本体に弾性体を介して揺動可能に取り付けられる。弾性体として、例えばバネが挙げられる。この場合、変位検出器から測定力付与部を省くことができる。
【0012】
好ましくは、スタイラスの揺動中心から接触子に向かう方向を接触子方向とした場合、接触子方向は、第1方向の成分と第2方向の成分とを有する。
【0013】
好ましくは、接触子が被測定面に接触しない状態において、第1方向の成分と第2方向の成分との両方が、接触子方向の成分全体の50%以上である。より好ましくは、接触子が被測定面に接触しない状態において、第1方向の成分と第2方向の成分との両方が、接触子方向の成分全体の60%以上である。更により好ましくは、接触子が変位した場合、変位検出部は、接触子の変位として第1方向の変位と第2方向の変位とを検出可能である。第1方向の成分と第2方向の成分とを適切な範囲内にすることにより、測定方向によって感度に大きな差ができないようにすることができる。
【0014】
また、好ましくは、上記の変位検出器において、変位検出部は第1方向及び第2方向それぞれについて校正値を有する。2つの測定方向のそれぞれについて校正値を設定するため、変位検出器はいずれの測定方向でも高精度に測定することが可能である。
【0015】
また、好ましくは、上記の変位検出器において、変位検出部は、コアと複数のコイルと有する差動変圧器を備え、スタイラス保持部は、揺動中心から見てスタイラスを支持する側とは反対側の端部においてコアを支持する。
【0016】
本発明の第2の態様に係わる表面性状測定機は、第1の態様に係わる変位検出器と変位検出器を保持し、且つ、水平方向及び水平方向に対して直交する鉛直方向に測定対象物に対して相対的に変位検出器を移動させる移動機構と、を備える。第1の態様に係わる変位検出器を採用することにより、表面性状測定機の構成を単純化することが可能となる。
【0017】
好ましくは、第2の態様に係わる表面性状測定機は、測定開始時に変位検出器の接触子が測定対象物に接触した際の移動機構の移動方向に基づいて変位検出器の測定方向を検出する制御部を更に備える。測定方向を自動的に検出することにより、測定の効率を向上させることができる。ここで、好ましくは、制御部は移動機構の駆動を制御する信号に基づいて変位検出器の移動方向を検出する。
【0018】
本発明の第3の態様に係わる真円度測定機は、第1の態様に係わる変位検出器と、鉛直方向に対して平行なステージ回転軸周りに測定対象物を回転させる回転ステージを備える。第1の態様に係わる変位検出器を採用することにより、真円度測定機の構成を単純化することが可能となる。
【0019】
また、好ましくは、第3の態様に係わる真円度測定機は、変位検出器を保持し、且つ、水平方向及び水平方向に対して直交する鉛直方向に測定対象物に対して相対的に変位検出器を移動させる移動機構と、測定開始時に変位検出器の接触子が測定対象物に接触した際の移動機構の移動方向に基づいて変位検出器の測定方向を検出する制御部を更に備える。測定方向を自動的に検出することにより、測定の効率を向上させることができる。ここで、好ましくは、制御部は移動機構の駆動を制御する信号に基づいて変位検出器の移動方向を検出する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、複数の方向の変位を高精度に測定可能な変位検出器であって、単純な構成を有する変位検出器を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について説明する。
【0023】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る表面性状測定機(真円度測定機)の全体構成を示す図である。なお、X軸方向、Y軸方向、及びZ軸方向は互いに直交する方向であり、X軸方向は水平方向、Y軸方向はX軸方向に直交する水平方向、Z軸方向は上下方向(鉛直方向)である。
図1に示すように、表面性状測定機10は、水平移動機構12、垂直移動機構14、回転テーブル16、変位検出器20及び制御部50を備える。
【0024】
水平移動機構12は水平方向(
図1中のX軸方向)に延設される。水平移動機構12の一方端は変位検出器20を着脱可能に保持し、水平移動機構12の他方端は垂直移動機構14により保持される。水平移動機構12はモータ(不図示)の駆動により水平方向に移動される。
【0025】
垂直移動機構14は鉛直方向に本体ベース(不図示)上に立設される。水平移動機構12は垂直移動機構14のモータ(不図示)の駆動により、垂直移動機構14に沿って上下方向に移動される。水平移動機構12の移動により変位検出器20の水平方向及び上下方向の位置が調節される。
【0026】
回転テーブル16は本体ベース上に設けられる。X軸方向微動つまみ(不図示)及びY軸方向微動つまみ(不図示)によって回転テーブル16をX軸方向及びY軸方向に微動送りすることが可能である。また、X軸方向傾斜つまみ(不図示)及びY軸方向傾斜つまみ(不図示)によって回転テーブル16のX軸方向及びY軸方向の傾斜が調整される。本体ベースに設けられたモータ(不図示)により、回転ステージ14は、Z軸方向に平行な回転軸を中心に回転される。
【0027】
回転テーブル16の上面には測定対象物となるワークWが載置される。回転テーブル16の回転軸はZ軸方向と平行である。ワークWはその中心軸が回転テーブル16の回転軸と一致するように載置される。回転テーブル16に載置されたワークWは、回転テーブル16とともに回転軸を中心に回転される。
【0028】
制御部50は不図示のCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、及び入出力インターフェース等を備える。制御部50では、ROMに記憶されている制御プログラム等の各種プログラムがRAMに展開され、RAMに展開されたプログラムがCPUによって実行されることにより、入出力インターフェースを介して各種の演算処理や制御処理が実行される。
【0029】
図1において1つの制御部50を示すが、1つの制御部50を機能ごとに複数の制御部に分けてもよい。また、制御部50の位置も任意に決めることが可能である。
【0030】
制御部50は、制御プログラム等の各種プログラムに従って、水平移動機構12、垂直移動機構14、回転テーブル16及び変位検出器20を統括的に制御する。例えば、不図示の入出力インターフェースを介して入力されたユーザの指示に基づいて、制御部50は水平移動機構12、垂直移動機構14及び回転テーブル16を駆動する。また、例えば、制御部50は変位検出器20を校正する。また、例えば、制御部50は測定開始時に水平移動機構12及び垂直移動機構14の駆動方向に基づいて変位検出器20の測定方向を検出する。制御部50が行う各種の処理について詳しくは後述する。
【0031】
変位検出器20は検出器本体30及びスタイラス40を備える。検出器本体30は変位検出部31、測定力付与部32、及びスタイラス保持部33を備える。本実施形態では変位検出部31の例としてLVDTについて説明する。
【0032】
変位検出部31は複数のコイルを有するボビンとコアとを有する。ボビンは固定部、例えば検出器本体30に固定されている。コアの一方端はスタイラス保持部33に接続され、他方端は自由端である。LVDTの構成は公知であるため、詳しい説明については省略する。
【0033】
スタイラス保持部33の一方端は変位検出部31のコアに接続される。スタイラス保持部33の他方端はスタイラス40を揺動可能(又は回動可能)に保持する。第1実施形態では、スタイラス保持部33は他方端に軸受34を有し、軸受34を回転軸(揺動中心)にしてスタイラス40を揺動可能に保持する。軸受34は、例えば各種のベアリングである。
図1では、スタイラス40はY軸方向に平行な回転軸を中心に揺動可能に保持される。
【0034】
測定時にスタイラス40の先端にある接触子44の位置が変位すると、その変位はスタイラスアーム42及びスタイラス保持部33を介して変位検出部31のコアに伝えられ、コアの位置が変位する。変位検出部31はコアの位置の変位量及び変位の向きを検出することにより、接触子44の変位量及び変位の向きを検出する。
【0035】
測定力付与機構32は、接触子44を測定面に向かって押し付けるように作用する(付勢する)測定力をスタイラス40に付与する。測定力付与機構32は例えば弾性体を有する。本実施形態では、一例として弾性体をコイルバネとして説明する。コイルバネは引張りバネ(引きバネ)でもよいし、圧縮バネでもよい。測定力付与機構32のコイルバネの一方端はスタイラス保持部33に接続され、コイルバネの他方端は固定部、例えば検出器本体30に固定されている。
【0036】
また、本実施形態では、制御部50は、変位検出器20によって変位を測定する方向(測定方向)を自動的に検出することができる。測定方向の検出について詳しくは後述する。
【0037】
スタイラス40はスタイラスアーム42及び接触子44を備える。スタイラスアーム42は、例えば略L字形であり、X軸方向に延びる水平アーム部45とZ軸方向に延びる垂直アーム部46とを備える。水平アーム部45の基端は変位検出器20のスタイラス保持部33に保持され、水平アーム部45の先端は垂直アーム部46の基端に一致する。垂直アーム部46は水平アーム部45の先端から鉛直方向下向きに延び、垂直アーム部46の先端には接触子44が設けられる。
【0038】
測定時には、接触子44はワークWの測定面に接触し、測定面の変位に従って接触子44の位置が変位する。接触子44の形状及び材質は特に限定されないが、接触子44の形状の例として、球形、半球形、円筒形、円板形、斧形、円錐形、多角錐形等が挙げられる。接触子44の材質の例として、例えば、ルビー、ジルコニア、セラミック等が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、接触子44は略L字形のスタイラスアーム42を介して変位検出器20に接続されるため、接触子44の位置は変位検出器20の直下ではない。接触子44の中心とスタイラス40の揺動の中心(軸受34の中心)とを結ぶ線(
図1において一点鎖線で示す線L)は、鉛直線に対して角度(スタイラス40の傾斜角度)θを形成する。この角度θは特に限定されないが、好ましくは、角度θは30°から60°であり、より好ましくは、角度θは38°から52°であり、更により好ましくは、角度θは略45°である。
図1では例として角度θが45°である場合を示す。角度θについて詳しくは後述する。
【0040】
以下、
図2から
図4を用いて、表面性状測定機10を用いて水平方向(X軸方向)及び上下方向(Z軸方向)の変位を測定する際の変位検出器20の姿勢について説明する。例として、中空円柱形のワークWについて説明するが、ワークWの形状を限定する趣旨ではない。
図2から
図4は、それぞれ、外周側面の真円度、上面の平面度、及び内周側面の真円度を測定する場合の変位検出器20の姿勢を示す。
【0041】
本実施形態ではスタイラスアーム42は軸受34によってY軸方向に平行な回転軸を中心に揺動可能であるため、接触子44はX−Z平面上を揺動する。つまり、接触子44はX軸方向及びZ軸方向に変位可能である。したがって、ワークWの外周側面の真円度を測定するために水平方向の変位を測定する場合(
図2)と、ワークWの上面の平面度を測定するために水平方向の変位を測定する場合(
図3)とで、変位検出器20の姿勢を変更する必要がない。
【0042】
更に、本実施形態では変位検出器20の姿勢変更の手間を低減するために、スタイラスアーム42の形状も工夫している。つまり、スタイラスアーム42は略L字形であるため、接触子44は検出器本体30のX軸方向及びZ軸方向の延長線上にはない。検出器本体30がワークWと干渉する恐れがないため、ワークWの内周側面の真円度を測定する場合(
図4)でも変位検出器20の姿勢を変更する必要がない。これにより、姿勢変更に伴う作業効率の低下を防ぐことが可能となる。
【0043】
本実施形態の変位検出器20は、Y軸方向を中心に揺動可能な(回動可能な)スタイラス40を用いているため、変位検出器20により検出される接触子44が変位する方向は、スタイラス40の回転軸を中心とする円弧に接する接線方向となる。つまり、接触子44の変位はX軸方向成分とZ軸方向成分とを含む。そこで、制御部50は、接触子44の変位量及び角度θに基づいて測定方向に対応する変位量(X軸方向の変位量又はZ軸方向の変位量)を算出する。
【0044】
以下、制御部50による変位量の算出について説明する。測定開始前において接触子44の中心とスタイラス40の回転軸とを結ぶ線(
図1において一点鎖線で示す線L)と、鉛直線とがなす角度をθとする。測定中に接触子44は微小な円弧を描くように揺動し、接触子44の揺動により生じるこの角度θの変化量(角度変化量)をdθとする。
【0045】
この角度変化量dθは十分に小さいため、接触子44の微小な円弧形の変位を、接触子44の中心と揺動の回転軸とを結ぶ線に対して垂直な線分(つまり円弧の接線方向の線分)に近似することができる。
【0046】
接触子44の揺動半径は接触子44の中心と揺動の回転軸との距離であり、既知であるから、制御部50は、三角関数を用いてX−Z平面上の接触子44の変位量を水平方向(X軸方向)の変位量と、垂直方向(Z軸方向)の変位量とに分解することが可能である。より具体的には、接触子44が揺動により描く円弧の接線方向の線分の長さをDとすると、X軸方向の変位量はD・cos θで、Z軸方向の変位量はD・sin θで算出可能である。
【0047】
制御部50は水平方向の変位を測定する場合には接触子44の変位量にcos θを乗算した結果を測定結果として出力し、上下方向の変位を測定する場合には接触子44の変位量にsin θを乗算した結果を測定結果として出力する。
【0048】
このように、本実施形態によれば、1つのLVDTを有する変位検出器20を用いて2方向の変位を測定することが可能である。これにより、構造の単純化、製造コスト削減、及び装置の小型化を実現することができる。
【0049】
また、変位検出器20が有する可動な部品は軸受34だけであり、可動部の数が少ない(運動自由度が1である)。これにより、可動部に起因する誤差の発生を低減することができる。また、本実施形態の変位検出器20は接触子を1つ有するだけであるため、接触子を2つ備える特許文献1の発明と比べて、変位検出器20の姿勢の自由度及び各方向での変位の測定精度を向上させることができる。
【0050】
以下、
図5を用いてスタイラス40の傾斜角度θの望ましい大きさについて説明する。
図5は角度θと変位検出器20のゲインとの関係を示すグラフであり、横軸が角度θ(単位:°)を示し、縦軸がゲインの大きさを示す。
図5において、点線がX軸方向のゲインを示し、実線がZ軸方向のゲインを示す。ゲインは接触子44の変位量に対応し、
図5のグラフではゲインは1を最大値とする相対値で示される。
【0051】
ゲイン全体の中でX軸方向の成分が占める割合とZ軸方向の成分が占める割合との間の差が大きい場合、測定方向によって測定感度の差が大きくなる。そこで、測定感度が不利になる方の方向のゲインが最大感度(角度θが0(ゼロ)°の場合)の2分の1以上となるようにθの大きさを決めることが望ましい。この場合、
図5から分かるように、X軸方向の成分が占める割合とZ軸方向の成分が占める割合との比は約1:0.58から1:1.73までの範囲となり、角度θは30°から60°までの範囲となる。
【0052】
より好ましくは、測定感度が不利になる方の方向のゲインが最大感度(角度θが0(ゼロ)°の場合)の約60%以上となるように角度θの大きさを決めることである。この場合、
図5から分かるように、X軸方向の成分が占める割合とZ軸方向の成分が占める割合との比は約1:0.75から1:1.33までの範囲となり、角度θは約38°から52°までの範囲となる。
【0053】
更により好ましくは、X軸方向とZ軸方向とで測定感度に差がないことである。
図5ではX軸方向のゲインとZ軸方向のゲインとが交わる時の角度θに相当し、この時の角度θは略45°である。
【0054】
続いて、変位検出器20の校正について説明する。例えば、校正は表面性状測定機10の出荷前に行われる。出荷後も、必要に応じて適宜校正が行われ、校正値が更新されることにしてもよい。本実施形態では変位検出器20は1つのLVDTを用いて2方向の変位を測定するため、2つの測定方向のそれぞれについて校正を行う。
【0055】
まず、X軸方向及びZ軸方向のそれぞれについて、実際の変位量(既知)と変位検出部31で得られる信号量との相関関係を示すデータを取得する。相関関係を示すデータとして、例えば校正値テーブル及び校正カーブが挙げられる。続いて、それぞれの測定方向ついて、この相関関係を示すデータに基づいて良好な信号量が得られるゲインを校正値として決定する。
【0056】
ここで、ワークWが中空円柱形等の場合、内周側面(内周方向)を測定する際に用いる校正値を更に決定してもよい。決定された校正値は、例えば、制御部50に設けられた不図示のメモリに記憶される。メモリの種類は特に限定されないが、例えばメモリはROM又はRAMである。
【0057】
なお、LVDTの校正方法は従来と大きくは変わらないため、詳しい説明を省略する。2つの測定方向のそれぞれについて校正値を設定するため、本実施形態の変位検出器20はいずれの測定方向でも高精度に測定することが可能である。
【0058】
次に、
図6を用いて本実施形態の表面性状測定機10を用いた測定手順について説明する。
図6は測定の手順を示すフローチャートである。まず、制御部50は、水平移動機構12及び垂直移動機構14を用いて変位検出器20を移動させ、接触子44をワークWの測定面に接触させる(ステップS10)。
【0059】
続いて、水平移動機構12及び垂直移動機構14の駆動方向に基づいて制御部50は測定方向を自動的に検出する(ステップS12)。以下、
図2から
図4を用いて本実施形態での測定方向の自動検出について説明する。例として中空円柱形のワークWについて説明するが、ワークWの形状を限定する趣旨ではない。
【0060】
ワークWの外周側面の真円度を測定する場合、
図2に示すように、制御部50は水平移動機構12をX軸の負の方向(
図2では水平に左側に向かって)に駆動させ、回転テーブル16上のワークWの外周側面に接触子44を接触させる。接触子44がワークWに接触すると、変位検出部31は接触子44の変位を検出する。水平移動機構12をX軸の負の方向に駆動させた際に接触子44の変位を検出したことに基づいて、制御部50はX軸方向の変位(外径)の測定が行われることを自動的に検出する。なお、
図2に示す状態で垂直移動機構14をZ軸方向に移動させながら外周側面の真直度を測定する場合も同様にして測定方向を検出可能である。
【0061】
ワークWの上面の平面度を測定する場合、
図3に示すように、制御部50は垂直移動機構14をZ軸の負の方向(
図2では垂直に下側に向かって)に駆動させ、回転テーブル16上のワークWの上面に接触子44を接触させる。接触子44がワークWに接触すると、変位検出部31は接触子44の変位を検出する。垂直移動機構14をZ軸の負の方向に駆動させた際に接触子44の変位を検出したことに基づいて、制御部50はZ軸方向の変位の測定が行われることを自動的に検出する。なお、
図3に示す状態で水平移動機構12をX軸方向に移動させながら上面の真直度を測定する場合も同様にして測定方向を検出可能である。
【0062】
ワークWの内側側面の平面度を測定する場合、
図4に示すように、制御部50は水平移動機構12をX軸の正の方向(
図4では水平に右側に向かって)に駆動させ、回転テーブル16上のワークWの内側側面に接触子44を接触させる。接触子44がワークWに接触すると、変位検出部31は接触子44の変位を検出する。水平移動機構12をX軸の正の方向に駆動させた際に接触子44の変位を検出したことに基づいて、変位検出部31はX軸方向の変位(内径方向)の測定が行われることを自動的に検出する。なお、
図4に示す状態で垂直移動機構14をZ軸方向に移動させながら内側側面の真直度を測定する場合も同様にして測定方向を検出可能である。
【0063】
このように、本実施形態では、測定開始時に水平移動機構12及び垂直移動機構14のどちらがどの方向に駆動された際に接触子44がワークWに接触したのかに基づいて、測定方向を自動的に検出することができる。これにより、測定の効率を向上させることができる。続いて、制御部50は検出された測定方向に応じた校正値をメモリから読みだして設定し(ステップS14)、接触子44の変位の測定を行う(ステップS16)。
【0064】
例えば、円柱状のワークWの外周側面の真円度を測定する場合、
図2に示す状態で回転テーブル16(及びワークW)を回転させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。また、例えば、ワークWの外周側面の真直度を測定する場合、
図2に示す状態で垂直移動機構14を駆動して検出器本体30をZ軸方向に移動させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。
【0065】
また、例えば、ワークWの上面の平面度を測定する場合、
図3に示す状態で回転テーブル16(及びワークW)を回転させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。また、例えば、ワークWの上面の真直度を測定する場合、
図3に示す状態で水平移動機構12を駆動して検出器本体30をX軸方向に移動させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。
【0066】
また、例えば、中空円柱状のワークWの内周側面の真円度を測定する場合、
図4に示す状態で回転テーブル16(及びワークW)を回転させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。また、例えば、ワークWの内周側面の真直度を測定する場合、
図4に示す状態で垂直移動機構14を駆動して検出器本体30をZ軸方向に移動させながら変位検出部31で接触子44の変位を測定する。
【0067】
本実施形態では接触子44の変位量はX軸方向成分とZ軸方向成分とを含むため、制御部50は変位検出部31によって測定された接触子44の変位量を、測定方向の変位量に変換する演算を行い、演算結果を測定結果として出力する(ステップS18)。具体的には、X軸方向(水平方向)の変位を測定する場合には、制御部50は接触子44の変位量にcos θを乗算してX軸方向の変位量を算出し、算出した結果を測定結果として出力する。一方、Z軸方向(上下方向)の変位を測定する場合には、制御部50は接触子44の変位量にsin θを乗算してZ軸方向の変位量を算出し、算出した結果を測定結果として出力する。
【0068】
ステップS18の後、他の方向についても測定を行う場合には(ステップS20:Yes)、ステップS10に戻る。上述のように、測定方向を変更する際、本実施形態では変位検出器20の姿勢を変更する必要がないため、測定を効率的に行うことができる。他の方向についても測定を行わない場合には(ステップS20:No)、測定を終了する。
【0069】
このように、本実施形態によれば、軸受34を揺動中心としてX−Z平面上を揺動可能なスタイラス40を用いる。接触子44の中心とスタイラス40の回転軸とを結ぶ線は、鉛直線に対して所定の角度θを形成するため、スタイラス40の揺動中心から接触子44に向かう方向(接触子方向)はX軸方向成分とZ軸方向成分とを含む。接触子44は、揺動の回転軸から接触子44に向かう方向に対して垂直な方向に変位するため、接触子44の変位もまたX軸方向成分とZ軸方向成分とを含む。よって、1つのLVDTを備える変位検出器20でX軸方向及びZ軸方向の変位を測定することが可能である。
【0070】
これにより、変位検出器20の構成を単純化し、製造コストを低減することが可能となる。また、本実施形態の変位検出器20では可動部の数が少ないため、誤差が発生しにくくなる。
【0071】
<第2実施形態>
以下の第2実施形態では変位検出器の構成が第1実施形態と異なる。具体的には、第2実施形態では変位検出器は軸受34の代わりに弾性体を備える。第2実施形態に係る表面性状測定機の全体構成は基本的に第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
図7は第2実施形態に係わる変位検出器60の構成を示す。
【0072】
図7では、変位検出器60は弾性体の一例として板バネ61を備える。
図7に示すように、板バネ61の一方端はバネ保持部材62により保持されており、バネ保持部材62は固定部、例えば検出器本体30に固定されている。板バネ61の他方端はバネ保持部材63により保持されており、バネ保持部材63はスタイラス保持部33に接続される。
【0073】
図7では、可動部と区別できるように変位検出器60の構成のうち不動な部分はシェーディング(網掛け)されている。第2実施形態では、スタイラス40は板バネ61のほぼ中央(バネ保持部材62及び63によって保持されていない部分の中央)を中心(揺動の中心)として揺動可能に構成されている。測定時にスタイラス40の先端にある接触子44の位置が変位すると、その変位はスタイラスアーム42及びスタイラス保持部33を介して変位検出部31のコアに伝えられ、変位検出部31はこの変位を検出する。
【0074】
また、バネ保持部材63は可動であるが、バネ保持部材62は不動である。このため、接触子44の位置が変位した結果、板バネ61が中立点から変位する(変形する)と、板バネ61により反力が発生する。この反力の作用する方向は接触子44の変位の方向とは反対であるため、反力は接触子44を測定面に押し付けるように作用する。この反力が第1実施形態での測定力付与機構32による測定力の役割を果たすため、第2実施形態では測定力付与機構32を不要にすることができる。これにより、変位検出器60の構成を一層単純化することが可能となる。
【0075】
<第3実施形態>
第2実施形態と同様に第3実施形態でも、変位検出器は軸受34の代わりに弾性体を備える。第3実施形態に係る表面性状測定機の全体構成は基本的に第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
図8は第3実施形態に係わる変位検出器70の構成を示す。
【0076】
図8では、変位検出器70は弾性体の一例として十字バネ71を備える。
図8に示すように、十字バネ71の4端のうちの2端はバネ保持部材72により保持されており、バネ保持部材72は固定部、例えば検出器本体30に固定されている。十字バネ71の4端のうちの残る2端端はバネ保持部材73により保持されており、バネ保持部材73はスタイラス保持部33に接続される。
【0077】
図8では、可動部と区別できるように変位検出器70の構成のうち不動な部分はシェーディング(網掛け)されている。第3実施形態では、スタイラス40は十字バネ71の中心(十字の交点)を中心(揺動の中心)として揺動可能に構成されている。測定時にスタイラス40の接触子44の位置が変位すると、その変位はスタイラスアーム42及びスタイラス保持部33を介して変位検出部31のコアに伝えられるため、変位検出部31は変位を検出することができる。
【0078】
また、バネ保持部材73は可動であるが、バネ保持部材72は不動である。接触子44の位置が変位した結果、十字バネ71が中立点から変位すると、十字バネ71により反力が発生する。第2実施形態と同様に、第3実施形態でもこの反力が第1実施形態での測定力付与機構32による測定力の役割を果たすため、測定力付与機構32を不要とすることができる。
【0079】
<第4実施形態>
第4実施形態では、変位検出器は測定力付与機構32の代わりにカウンターウェイトを備える。第4実施形態に係る表面性状測定機の全体構成は基本的に第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
図9は第4実施形態に係わる変位検出器80の構成を示す。
【0080】
図9に示すように、変位検出器80は軸受34から見てスタイラス40とは反対側にカウンターウェイト81を備える。例えば、スタイラス40が軸受34を中心に揺動すると、カウンターウェイト81はスタイラス40の揺動方向とは反対方向に揺動する。これにより、第1実施形態における測定力付与機構32を不要とすることができる。
【0081】
<効果>
以上説明したように、各実施形態に係わる変位検出器20,60,70及び80は1つの変位検出部31のみを有するため、より単純な構成で2方向の変位を測定可能である。これにより、変位検出器20,60,70及び80の製造コストを低減することが可能となる。
【0082】
変位検出器20,60,70及び80が有する可動部の数が少ないため(運動自由度が低いため)、可動部に起因する誤差の発生を低減することが可能となる。また、測定方向それぞれについて校正値を設定するため、いずれの測定方向でも高精度に測定することが可能である。
【0083】
測定開始時の駆動機構(水平移動機構12及び垂直移動機構14)の移動方向に基づいて測定方向を自動的に検出することが可能であるため、測定効率を向上することができる。
【0084】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。