特許第6788393号(P6788393)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京エレクトロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000002
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000003
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000004
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000005
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000006
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000007
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000008
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000009
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000010
  • 特許6788393-銅膜を形成する方法 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788393
(24)【登録日】2020年11月4日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】銅膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20201116BHJP
   H01L 21/3205 20060101ALI20201116BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20201116BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20201116BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20201116BHJP
   C23C 14/14 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   H01L21/28 A
   H01L21/88 R
   H01L21/28 301R
   H01L21/285 S
   C23C14/14 D
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-128799(P2016-128799)
(22)【出願日】2016年6月29日
(65)【公開番号】特開2018-6452(P2018-6452A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122507
【弁理士】
【氏名又は名称】柏岡 潤二
(72)【発明者】
【氏名】戸島 宏至
(72)【発明者】
【氏名】島田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】平澤 達郎
(72)【発明者】
【氏名】波多野 達夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 真司
【審査官】 桑原 清
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06541371(US,B1)
【文献】 特開2002−343796(JP,A)
【文献】 特開2001−226767(JP,A)
【文献】 特開2000−183064(JP,A)
【文献】 特表2003−524888(JP,A)
【文献】 特開平06−333927(JP,A)
【文献】 特表2014−534609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/285
H01L 21/3205
H01L 21/768
H01L 23/532
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅膜を形成する方法であって、
被加工物の絶縁膜の表面に沿って窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である下地膜を形成する工程と、
前記絶縁膜及び前記下地膜を有し、209ケルビン以下の温度に冷却された被加工物の該下地膜上に銅膜を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記絶縁膜及び前記下地膜を有する前記被加工物は、ギフォードマクマホンサイクルを利用する冷凍機を用いて、209ケルビン以下の前記温度に冷却される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記下地膜はスパッタリングにより形成され、
前記スパッタリングによって形成される前記下地膜の膜厚は、該下地膜がアモルファス化するように1.0nm以上2.5nm以下の膜厚に設定される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記絶縁膜、前記下地膜、及び、前記銅膜を有する被加工物の温度を昇温させる工程を更に含む、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記絶縁膜には凹部が形成されており、
前記下地膜は、前記凹部を画成する前記絶縁膜の表面に沿って形成される、
請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、銅膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては配線加工が行われる。配線加工技術の一種としては、ダマシン法が知られている。ダマシン法では、絶縁膜の凹部を画成する表面上にバリア膜が形成される。バリア膜は一般的には、タンタル、窒化タンタル、コバルト、又は、ルテニウムから形成される。次いで、バリア膜上に銅膜が形成される。銅膜は、例えばスパッタリング法により形成される。
【0003】
下記の特許文献1には、スパッタリング法による銅膜の形成において、絶縁膜を有する被加工物の温度が20℃以下の低温に設定されることが記載されている。特許文献1によれば、被加工物の温度を低温に設定した状態で銅のスパッタリングを行うことにより、銅の凝集が抑制され、銅膜の表面が平坦になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−343570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、銅から形成される配線は低い抵抗を有することが要求される。しかしながら、銅膜中の結晶の粒径が小さいと、銅から形成される配線の抵抗は高くなる。したがって、低い抵抗を有する銅膜を形成することが必要となっている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様においては、銅膜を形成する方法が提供される。この方法は、被加工物の絶縁膜の表面に沿って窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である下地膜を形成する工程と、該絶縁膜及び該下地膜を有し、209ケルビン以下の温度に冷却された被加工物の該下地膜上に銅膜を形成する工程と、を含む。
【0007】
タンタル、窒化タンタル、コバルト、又は、ルテニウムから形成された一般的なバリア膜を有する被加工物を低温に冷却し、当該バリア膜上に銅膜を形成し、当該銅膜を昇温させても、銅膜中の結晶の粒径は大きくならない。一方、一態様に係る方法では、窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である下地膜を有する被加工物が低温に冷却され、当該下地膜上に銅膜が形成される。この下地膜上に形成された銅膜が昇温されると、銅膜中の結晶の粒径が大きくなる。したがって、一態様に係る方法によれば、低い抵抗を有する銅膜が形成される。なお、一実施形態では、銅膜中の結晶の粒径を大きくするための昇温は、当該銅膜を有する被加工物を常温(例えば、室温)環境下に置くことにより、行われ得る。
【0008】
一実施形態では、下地膜の膜厚は、下地膜がアモルファス化するように設定される。一実施形態では、下地膜の膜厚は、1.0nm以上2.5nm以下の膜厚に設定される。
【0009】
一実施形態では、絶縁膜には凹部が形成されている。下地膜は、凹部を画成する絶縁膜の表面に沿って形成される。なお、別の実施形態では、絶縁膜の比較的平坦な表面上に下地膜及び銅膜が形成されてもよい。また、この銅膜にプラズマエッチングが適用されて、配線が形成されてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、低い抵抗を有する銅膜を形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る銅膜を形成する方法を示す流れ図である。
図2図1に示す方法が適用され得る被加工物の一例を示す拡大断面図である。
図3図1に示す方法の実施に用いることが可能な処理システムを示す図である。
図4図4の(a)は図1に示す方法の工程ST2の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図4の(b)は工程ST2の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。
図5図5の(a)は図1に示す方法の工程ST3の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図5の(b)は工程ST3の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。
図6図1に示す方法の工程ST4の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図である。
図7図7の(a)は図1に示す方法の工程ST5の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図7の(b)は工程ST5の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。
図8】下地膜の膜厚に対する銅膜のシート抵抗の依存性の評価結果を示すグラフである。
図9】工程ST4の冷却温度に対する銅膜のシート抵抗の依存性の評価結果を示すグラフである。
図10】工程ST4の冷却温度に対する銅膜の表面粗さの依存性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0013】
図1は、一実施形態に係る銅膜を形成する方法を示す流れ図である。図1に示す方法MTは、被加工物の絶縁膜の表面に沿って銅膜を形成するための方法である。方法MTは、工程ST1〜工程ST6を含む。工程ST1〜工程ST6それぞれの詳細については後述する。
【0014】
図2は、図1に示す方法が適用され得る被加工物の一例を示す拡大断面図である。図2に示す被加工物W1は、例えば円盤形状を有する。被加工物W1は、下地層10及び絶縁膜12を有している。絶縁膜12は、下地層10上に設けられている。絶縁膜12は、例えば酸化シリコンから形成されている。なお、絶縁膜12は、低誘電率材料(Low−K材料)から形成されていてもよい。
【0015】
絶縁膜12には、凹部12rが形成されている。凹部12rは、絶縁膜12の上面12tから絶縁膜12の膜厚方向に沿って延びている。凹部12rは、例えば溝又はホールであり得る。凹部12rは、例えば、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成される。
【0016】
以下、方法MTを詳細に説明する前に、方法MTの実施に用いることができる処理システムについて説明する。図3は、図1に示す方法の実施に用いることが可能な処理システムを示す図である。図3に示す処理システム100は、ローダモジュール102、ロードロックモジュール104及び106、搬送モジュール108、複数の処理モジュール110a〜110h、並びに、制御部112を備えている。なお、処理システム100が備える複数の処理モジュールの個数は、図3に示す例では八つであるが、任意の個数であってもよい。
【0017】
ローダモジュール102は、大気圧環境下において被加工物を搬送する装置である。ローダモジュール102には、複数の台114が取り付けられている。複数の台114の各々の上には、複数の被加工物を収容可能な容器116がそれぞれ搭載される。容器116の各々は、例えばFOUP(Front−Opening Unified Pod)であり得る。
【0018】
ローダモジュール102は、チャンバ102cを提供している。チャンバ102c内には搬送装置102tが設けられている。搬送装置102tは、被加工物を保持して当該被加工物を搬送するためのロボットアームを含み得る。このローダモジュール102には、ロードロックモジュール104及びロードロックモジュール106が接続されている。搬送装置102tは、容器116とロードロックモジュール104の間、又は、容器116とロードロックモジュール106の間において被加工物を搬送する。
【0019】
ロードロックモジュール104及びロードロックモジュール106はそれぞれ、予備減圧のためのチャンバ104c及びチャンバ106cを提供している。ロードロックモジュール104及びロードロックモジュール106には、搬送モジュール108が接続されている。搬送モジュール108は、減圧可能な搬送チャンバ108cを提供している。搬送チャンバ108c内には、搬送装置108tが設けられている。搬送装置108tは、被加工物を保持して当該被加工物を搬送するためのロボットアームを含み得る。この搬送モジュール108には、複数の処理モジュール110a〜110hが接続されている。搬送モジュール108の搬送装置108tは、ロードロックモジュール104及びロードロックモジュール106の何れかと複数の処理モジュール110a〜110hの何れかとの間、及び、複数の処理モジュール110a〜110hのうち任意の二つの処理モジュール間で、被加工物を搬送する。
【0020】
複数の処理モジュール110a〜110hは、方法MTの複数の工程を実行するための処理モジュールを含んでいる。一例において、処理モジュール110aは、後述する工程ST1におけるエッチングを行うためのプラズマエッチング装置である。処理モジュール110aは、例えば容量結合型のプラズマエッチング装置である。なお、処理モジュール110aは、誘導結合型のプラズマエッチング装置、或いは、マイクロ波といった表面波によりガスを励起させるプラズマエッチング装置であってもよい。
【0021】
一例において、処理モジュール110bは、工程ST2におけるバリア膜の形成に用いられる成膜装置である。処理モジュール110bは、例えばスパッタリング装置である。また、一例においては、処理モジュール110cは、工程ST3における下地膜の形成に用いられる成膜装置である。処理モジュール110cは、例えばスパッタリング装置である。また、一例において、処理モジュール110dは、工程ST4における被加工物の冷却に用いられる処理装置である。また、一例において、処理モジュール110eは、工程ST5における銅膜の形成に用いられる成膜装置である。処理モジュール110eは、例えばスパッタリング装置である。なお、一つの処理モジュールである成膜装置によって、工程ST2、工程ST3、及び、工程ST5のうち二以上の工程における膜の形成が行われてもよい。また、工程ST4とST5とが同一の処理モジュールで行われてもよい。
【0022】
制御部112は、ローダモジュール102、搬送モジュール108、及び、複数の処理モジュール110a〜110hを制御するよう構成されている。制御部112は、例えば、プロセッサ及びメモリといった記憶装置を有するコンピュータ装置であり得る。記憶装置には、処理システム100の各部を制御するためのプログラム及び処理システム100において上述した方法MTを実施するためのレシピデータが記憶されている。プロセッサは、記憶装置に記憶されているプログラム及びレシピデータに従って動作し、処理システム100の各部を制御するための制御信号を当該各部に出力する。
【0023】
再び図1を参照し、方法MTについて詳細に説明する。以下の説明では、処理システム100が利用される場合を例にとって方法MTを説明する。しかしながら、方法MTは処理システム100とは異なる別の処理システムを用いて実施することも可能である。また、以下の説明では、図1と共に、図4の(a)、図4の(b)、図5の(a)、図5の(b)、図6図7の(a)、及び、図7の(b)を参照する。図4の(a)は図1に示す方法の工程ST2の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図4の(b)は工程ST2の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。図5の(a)は図1に示す方法の工程ST3の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図5の(b)は工程ST3の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。図6は、図1に示す方法の工程ST4の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図である。図7の(a)は図1に示す方法の工程ST5の実行に用いられる処理モジュールの一例を概略的に示す図であり、図7の(b)は工程ST5の実行後の被加工物を示す拡大断面図である。
【0024】
図1に示すように、方法MTでは、まず、工程ST1が実行される。工程ST1では、被加工物W1に対するエッチングが行われる。一実施形態の工程ST1では、処理モジュール110aのチャンバ内に設けられた載置台上に被加工物W1が載置される。そして、処理モジュール110aのチャンバ内において、アルゴンガスといった希ガスのプラズマが生成される。そして、載置台の下部電極にバイアス用の高周波が供給される。工程ST1では、チャンバ内において生成されたイオンが、被加工物W1に対して引き込まれる。この工程ST1では、被加工物W1に対するスパッタエッチングが行われ、被加工物W1がその表面から僅かに削られる。この工程ST1により、被加工物W1から被加工物W2が作成される。
【0025】
次いで、方法MTでは、工程ST2が実行される。工程ST2では、被加工物W2の表面上にバリア膜が形成される。バリア膜が形成される表面は、凹部12rを画成する絶縁膜12の表面を含む。バリア膜は、タンタル、窒化タンタル、コバルト、又は、ルテニウムから形成される。一実施形態では、工程ST1の実行後、処理モジュール110aから搬送モジュール108を介して処理モジュール110bに被加工物W2が搬送される。そして、処理モジュール110bにおいて、工程ST2のバリア膜の形成が行われる。
【0026】
図4の(a)に示すように、処理モジュール110bは、スパッタリング装置である。処理モジュール110bは、チャンバ本体120b、ステージ122b、ターゲットホルダ126b、電源130b、ガス供給部132b、及び、排気装置134bを備えている。チャンバ本体120bは、その内部空間をチャンバSbとして提供している。ステージ122bは、チャンバSb内に設けられている。ステージ122bは、その上に載置された被加工物を保持するよう構成されている。例えば、ステージ122bは、静電チャックを含み得る。また、ステージ122bは、回転軸124bによって支持されている。回転軸124bが駆動装置によって回転されることにより、ステージ122bはその中心軸線を中心に回転可能になっている。
【0027】
ステージ122bの上方には、ターゲットホルダ126bが設けられている。ターゲットホルダ126bは、ターゲット128bを保持する。ターゲット128bは、バリア膜を構成する物質から形成されている。ターゲットホルダ126bには電源130bが接続されている。電源130bは、直流電源であってもよく、或いは、高周波電源であってもよい。
【0028】
処理モジュール110bでは、ガス供給部132bからチャンバSbにガスが供給されるようになっている。ガス供給部132bから供給されるガスは、アルゴンガスといった希ガス、又は、他の不活性ガスである。また、処理モジュール110bでは、チャンバ本体120bに排気装置134bが接続されている。排気装置134bは、チャンバSbを減圧する装置であり、圧力調整弁、及び、ターボ分子ポンプといった真空ポンプを含み得る。
【0029】
一実施形態の工程ST2では、ステージ122b上に載置された被加工物W2がステージ122bによって保持され、ステージ122bが回転される。また、ガス供給部132bからチャンバSbにガスが供給される。また、排気装置134bによってチャンバSbが減圧される。さらに、電源130bからの電圧がターゲットホルダ126bに印加される。これにより、ターゲット128bの周囲でプラズマが生成され、当該プラズマ中のイオンがターゲット128bに引き込まれる。イオンがターゲット128bに衝突すると、ターゲット128bを構成する物質が当該ターゲット128bから放出される。この物質が被加工物W2上に堆積する。これにより、被加工物W2の表面上にバリア膜14が形成されて、被加工物W3が作成される。被加工物W3は、図4の(b)に示すように、下地層10、絶縁膜12、及び、バリア膜14を含んでいる。バリア膜14は、タンタル、窒化タンタル、コバルト、又は、ルテニウムから形成される。
【0030】
方法MTでは、次いで、工程ST3が実行される。工程ST3では、被加工物W3のバリア膜14の表面上に下地膜が形成される。即ち、被加工物W3の絶縁膜12の表面に沿って下地膜が形成される。下地膜は、窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である。一実施形態では、工程ST2の実行後、処理モジュール110bから搬送モジュール108を介して処理モジュール110cに被加工物W3が搬送される。そして、処理モジュール110cにおいて、工程ST3の下地膜の形成が行われる。
【0031】
図5の(a)に示すように、処理モジュール110cは、処理モジュール110bと同様のスパッタリング装置である。処理モジュール110cは、チャンバ本体120c、ステージ122c、ターゲットホルダ126c、電源130c、ガス供給部132c、及び、排気装置134cを備えている。チャンバ本体120cはチャンバScを提供している。ステージ122cは、チャンバSc内に設けられている。ステージ122cは、回転軸124cによって支持されており、駆動装置による回転軸124cの回転に伴って、その中心軸線を中心に回転する。ターゲットホルダ126cは、ステージ122cの上方においてターゲット128cを保持している。ターゲット128cは、下地膜を構成する物質から形成されている。電源130c、ガス供給部132c、排気装置134cはそれぞれ、電源130b、ガス供給部132b、排気装置134bと同様に構成されている。
【0032】
一実施形態の工程ST3では、ステージ122c上に載置された被加工物W3がステージ122cによって保持され、ステージ122cが回転される。また、ガス供給部132cからチャンバScにガス(アルゴンガスといった希ガス又は他の不活性ガス)が供給される。また、排気装置134cによってチャンバScが減圧される。さらに、電源130cからの電圧がターゲットホルダ126cに印加される。これにより、ターゲット128cの周囲でプラズマが生成され、当該プラズマ中のイオンがターゲット128cに引き込まれる。イオンがターゲット128cに衝突すると、ターゲット128cを構成する物質が当該ターゲット128cから放出される。この物質が被加工物W3上に堆積する。これにより、被加工物W3の表面上に下地膜16が形成されて、被加工物W4が作成される。被加工物W4は、図5の(b)に示すように、下地層10、絶縁膜12、バリア膜14、及び、下地膜16を含んでいる。下地膜16は、窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である。
【0033】
一実施形態では、下地膜16の膜厚は、当該下地膜16がアモルファス化するように設定される。例えば、工程ST3では、その膜厚が1.0nm以上2.5nm以下の膜厚になるよう下地膜16が形成される。
【0034】
次いで、方法MTでは、工程ST4が実行される。工程ST4では、被加工物W4が209ケルビン(K)以下の温度に冷却される。一実施形態では、工程ST3の実行後、処理モジュール110cから搬送モジュール108を介して処理モジュール110dに被加工物W4が搬送される。そして、処理モジュール110dにおいて、工程ST4の被加工物の冷却が行われる。
【0035】
図6に示すように、処理モジュール110dは、チャンバ本体120d、ステージ122d、及び、冷却機140dを備えている。チャンバ本体120dは、その内部空間をチャンバSdとして提供している。ステージ122dは、チャンバSd内に設けられている。ステージ122d上には被加工物が載置される。ステージ122dには冷却機140dが結合されている。冷却機140dは、ステージ122d上に載置された被加工物を209ケルビン以下の温度に冷却するよう構成されている。冷却機140dは、例えば、ギフォードマクマホンサイクル(G.M.サイクル)を利用する冷凍機であり得る。一実施形態の工程ST4では、ステージ122d上に載置された被加工物W4が冷却機140dによって209ケルビン以下の温度に冷却される。
【0036】
方法MTでは、次いで、工程ST5が実行される。工程ST5では、工程ST4において冷却された被加工物W4の下地膜16上に銅膜が形成される。一実施形態では、工程ST4の実行後、処理モジュール110dから搬送モジュール108を介して処理モジュール110eに被加工物W4が搬送される。そして、処理モジュール110eにおいて、工程ST5の銅膜の形成が行われる。
【0037】
図7の(a)に示すように、処理モジュール110eは、処理モジュール110bと同様のスパッタリング装置である。処理モジュール110eは、チャンバ本体120e、ステージ122e、ターゲットホルダ126e、電源130e、ガス供給部132e、及び、排気装置134eを備えている。チャンバ本体120eはチャンバSeを提供している。ステージ122eは、チャンバSe内に設けられている。ステージ122eは、回転軸124eによって支持されており、駆動装置による回転軸124eの回転に伴って、その中心軸線を中心に回転する。ターゲットホルダ126eは、ステージ122eの上方においてターゲット128eを保持している。ターゲット128eは、銅から形成されている。電源130e、ガス供給部132e、排気装置134eはそれぞれ、電源130b、ガス供給部132b、排気装置134bと同様に構成されている。
【0038】
一実施形態の工程ST5では、工程ST4において冷却された被加工物W4がステージ122e上に載置されて、当該ステージ122eによって保持される。また、ステージ122eが回転される。また、ガス供給部132eからチャンバSeにガス(アルゴンガスといった希ガス又は他の不活性ガス)が供給される。また、排気装置134eによってチャンバSeが減圧される。さらに、電源130eからの電圧がターゲットホルダ126eに印加される。これにより、ターゲット128eの周囲でプラズマが生成され、当該プラズマ中のイオンがターゲット128eに引き込まれる。イオンがターゲット128eに衝突すると、ターゲット128eを構成する物質、即ち銅が当該ターゲット128eから放出される。この物質が被加工物W4上に堆積する。これにより、被加工物W4の下地膜16上に銅膜18が形成されて、被加工物W5が作成される。被加工物W5は、図7の(b)に示すように、下地層10、絶縁膜12、バリア膜14、下地膜16、及び、銅膜18を含んでいる。
【0039】
方法MTでは、次いで、工程ST6が実行される。工程ST6では、工程ST5の実行後にも引き続きその温度が低温である被加工物W5が、昇温される。被加工物W5は、加熱装置によって昇温されてもよいが、一実施形態では、自然昇温される。即ち、一実施形態の工程ST6では、意図的に加熱装置を利用することなく、常温(例えば、室温)環境下に被加工物W5が置かれることにより、被加工物W5の昇温が行われる。例えば、被加工物W5は、ロードロックモジュール104又はロードロックモジュール106内において昇温される。
【0040】
タンタル、窒化タンタル、コバルト、又は、ルテニウムから形成された一般的なバリア膜を有する被加工物を低温に冷却し、当該バリア膜上に銅膜を形成し、当該銅膜を昇温させても、銅膜中の結晶の粒径は大きくならない。一方、方法MTでは、窒化チタン膜、タングステン膜、又は、窒化タングステン膜である下地膜16を有する被加工物W4が工程ST4において低温(209ケルビン以下の温度)に冷却され、当該下地膜16上に銅膜18が形成される。比較的高温に設定された被加工物上では表面拡散により銅粒子が凝集するが、低温に冷却された被加工物W4の下地膜16上では銅粒子の凝集が抑制される。その結果、工程ST5において形成された銅膜18は、工程ST6の昇温前には比較的小さい結晶粒を有する。
【0041】
そして、上記の下地膜16上に形成された銅膜18が昇温されると、銅膜18中の結晶の粒径が大きくなる。本願発明者の実験によれば、バリア膜14の直上に銅膜を形成すると、当該銅膜中の結晶の配向は(111)配向が支配的になっていた。一方、下地膜16上に形成された銅膜18が昇温されると、当該銅膜18中の結晶の配向は、(111)配向のみならず、(200)配向といった他の配向も含んでいた。したがって、方法MTによれば、大きい粒径をもった結晶から構成された銅膜18が得られる。故に、方法MTによれば、低い抵抗を有する銅膜18が形成される。
【0042】
以上、実施形態について説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく種々の変形態様を構成可能である。例えば、バリア膜14を形成する工程ST2は省略されてもよい。即ち、下地膜16が絶縁膜12の直上に形成されてもよい。
【0043】
また、方法MTが適用される被加工物の例として、凹部を画成する絶縁膜12を有する被加工物を例示した。即ち、凹部内に銅配線を形成する目的で銅膜18が形成される例を説明した。しかしながら、方法MTでは、比較的平坦な表面を有する絶縁膜上に下地膜16及び銅膜18が形成されてもよい。この場合には、後に銅膜18がエッチングされることによって、銅配線が形成され得る。
【0044】
以下、方法MTの評価のために行った実験について説明する。なお、本発明は以下に説明する実験によって限定されるものではない。
【0045】
[下地膜の膜厚に対する銅膜のシート抵抗の依存性の評価]
実験では、方法MTを実行することにより、膜厚の異なる下地膜16上に銅膜18を形成して複数のサンプルを得た。銅膜18の膜厚は50nmであった。また、工程ST4では、被加工物を100ケルビンに冷却した。工程ST6では銅膜の形成後の被加工物の温度を室温環境下で昇温させた。そして、各サンプルの銅膜のシート抵抗を測定した。図8に結果を示す。図8は、下地膜の膜厚に対する銅膜のシート抵抗の依存性の評価結果を示すグラフである。図8において、横軸は下地膜16の膜厚を示しており、縦軸は銅膜のシート抵抗の値を示している。図8に示すように、方法MTによって得られる銅膜18のシート抵抗の値は相当に低かった。また、特に下地膜16の膜厚が1.0nm以上2.5nm以下の膜である場合には、銅膜18のシート抵抗の値がより低くなっていた。
【0046】
[工程ST4の冷却温度に対する銅膜のシート抵抗及び表面粗さの依存性]
実験では、シリコン酸化膜を有する被加工物を冷却し(工程ST4)、冷却された被加工物のシリコン酸化膜上に銅膜(膜厚:50nm)を形成し(工程ST5)、そして、当該銅を有する被加工物を室温環境下で昇温させる(工程ST6)ことにより、複数のサンプルを得た。複数のサンプルは、工程ST4において被加工物の温度を互いに異なる温度に設定することにより、得た。なお、シリコン酸化膜は、冷却された下地膜16と同様に、冷却されたシリコン酸化膜上に形成された銅膜が昇温されると当該銅膜の結晶の粒径が大きくなるという特性を有する。実験では、複数のサンプルの銅膜それぞれのシート抵抗及び算術平均粗さ(Ra)を測定した。図9は、工程ST4の冷却温度に対する銅膜のシート抵抗の依存性の評価結果を示すグラフである。図9において、横軸は工程ST4における被加工物の冷却温度を示しており、縦軸はシート抵抗の値を示している。図10は、工程ST4の冷却温度に対する銅膜の表面粗さの依存性の評価結果を示すグラフである。図10において、横軸は工程ST4における被加工物の冷却温度を示しており、縦軸は算術平均粗さ(Ra)を示している。図9に示すように、工程ST4において209ケルビン以下の温度に被加工物が冷却されることにより、工程ST6の昇温後の銅膜のシート抵抗の値が低くなることが確認された。また、図10に示すように、工程ST4において209ケルビン以下の温度に被加工物が冷却されることにより、工程ST6の昇温後の銅膜の表面粗さが小さくなることが確認された。なお、各サンプルの銅膜中の結晶の粒径は、500nm程度であり、通常の銅膜中の結晶の粒径(50nm程度)に対して相当に大きな粒径になっていた。
【符号の説明】
【0047】
W1〜W5…被加工物、12…絶縁膜、14…バリア膜、16…下地膜、18…銅膜、100…処理システム、110a〜110h…処理モジュール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10