【実施例1】
【0019】
ミラー電子顕微鏡を用いた検査装置について、
図1を用いて説明する。但し、
図1には真空排気用のポンプやその制御装置、排気系配管、被検査ウェハの搬送系などは略されている。また、電子線の軌道は、説明のため実際の軌道より誇張されている。
【0020】
まず、電子線照射に係わる部分について説明する。電子銃101から放出された照射電子線100aは、コンデンサレンズ102によって収束されながら、セパレータ103により偏向されて、検査対象となるウェハ104に略平行束の電子線となって照射される。電子銃101には、光源径が小さく大きな電流値が得られる、Zr/O/W型のショットキー電子源が用いられるが、より高い電流値が得られるLaB6電子源やより輝度の高い冷陰極電子源等の電子源を用いてもよい。また、電子銃101は、電子源近傍に磁界レンズを配する磁界重畳型電子銃であってもよい。電子銃101の引出電圧、引き出された電子線の加速電圧、および電子源フィラメントの加熱電流などの、電子銃の運転に必要な電圧と電流は電子銃制御装置105により供給、制御されている。電子源にショットキー電子源や冷陰極電子源が用いられている場合には、電子銃101内は、10
−6Pa以下といった超高真空に維持される必要があるため、メンテナンス時等において真空維持のための遮蔽バルブが備えられている。
【0021】
図では、コンデンサレンズ102は1つのレンズとして描かれているが、より平行度の高い照射電子線が得られる様に、複数のレンズや多極子を組み合わせた電子光学システムであっても良い。コンデンサレンズ102は、対物レンズ106の後焦点面に電子線が集束するように調整されている。対物レンズ106は、複数の電極からなる静電レンズか、または、磁界レンズである。
【0022】
セパレータ103は、被検査ウェハ104に向かう照射電子線と、被検査ウェハ104から戻ってくるミラー電子線とを分離するために設置される。本実施例では、E×B偏向器を利用したセパレータを用いている。E×B偏向器は、上方から来た電子線を偏向し、下方から来た電子線を直進させるように設定できる。この場合、図のように照射電子線を供給する電子光学鏡筒は傾斜され、反射された電子を結像する電子光学鏡筒は直立する。また、セパレータとして、磁界のみを用いた偏向器を使用することも可能である。電子線の光軸に垂直な方向に磁界を設置し、照射電子線を被検査ウェハ104の方向へ偏向し、被検査ウェハ104からの電子は照射電子線の来る方向とは正反対の方向へ偏向する。この場合は、照射電子線鏡筒の光軸と電子線結像鏡筒の光軸とは、対物レンズの光軸を中心に左右対称の配置となる。
【0023】
セパレータによって照射電子線100aが偏向されるとき発生する収差を補正する必要がある場合は、収差補正器を追加配置してもよい。また、セパレータ103が磁界偏向器の場合は、補助的なコイルを設けて補正する。
【0024】
セパレータ103によって偏向された照射電子線100aは、対物レンズ106により、被検査ウェハ104表面に対し垂直に入射する平行束の電子線に形成される。前述のように、対物レンズ106の後焦点100bに電子線が集束されるように、照射系コンデンサレンズ102が調整されるので、平行性の高い電子線を被検査ウェハ104に対して照射できる。照射電子線100aが照射する被検査ウェハ104上の領域は、例えば10000μm
2等といった面積を有する。対物レンズ106は、被検査ウェハ104表面上方にミラー電子を引き上げるための陽極を備えている。
【0025】
移動ステージ制御装置107によって制御されている移動ステージ108の上に、絶縁部材を介してウェハホルダ109が設置され、その上に被検査ウェハ104は戴置されている。移動ステージ108の駆動方式は、直交する二つの直進運動、または、被検査ウェハ104の中心を回転中心とした回転運動及びウェハの半径方向への直進運動、あるいは,これらの組合せである。またこれらに加えて、上下方向の直進運動や,傾き方向の運動が追加されてもよい。移動ステージ108はこれらの運動により,被検査ウェハ104表面上の全面あるいは一部分を、電子線照射位置すなわち対物レンズ106の光軸上に位置させる。
被検査ウェハ104表面に負電位を形成するため、高圧電源110(負電圧印加電源)は、電子線の加速電圧とほぼ等しい負電圧をウェハホルダ109に印加している。照射電子線100aは、ウェハホルダ109(試料支持部材)に印加された負電圧によって形成される減速電界によって被検査ウェハ104の手前で減速される。ウェハホルダ109に印加する負電圧は、被検査ウェハ104に衝突する前に反対方向に電子軌道が反転する様に、微調整しておく。ウェハで反射された電子は、ミラー電子100cとなる。
【0026】
ミラー電子100cは対物レンズ106やその他の結像レンズによって集束され、撮像素子に投影されることによって、画像信号に変換される。セパレータ103は本実施例ではE×B偏向器であるので、下方から進行した電子線に対しては偏向作用を持たないように制御でき、ミラー電子100cは直立した結像系カラム方向に直進し、該第1の像は中間電子レンズ111、投影電子レンズ112によって順次結像される。
【0027】
これらの中間レンズ111及び投影レンズ112は、静電または磁界レンズである。最終的な電子像は画像検出部11
6に拡大投影される。
図1では投影電子レンズ112は1つの電子レンズとして描かれているが、高い倍率の拡大や像歪みの補正などのために複数の電子レンズや多極子で構成される場合もある。本図には記されていないが、電子線をより詳細に調整するための偏向器や非点補正器などが必要に応じて装備されている。
【0028】
紫外線光源113からの紫外線は、分光器114により分光されて、紫外線光学素子115により、被検査ウェハ104に照射される。被検査ウェハ104は真空中に保持されているため、紫外線を透過する材料(例えば石英など)で作成された窓で大気側と真空側とを分け、紫外線光学素子115から発せられた紫外線を、該窓越しに照射する。あるいは、紫外線光源113を真空内に設置してもよい.その場合は、分光器114による波長選択ではなく、特定の発光波長の紫外光を放出する固体素子などを用いることも可能である。紫外線の照射波長は、例えばウェハ材料のバンドギャップより大きなエネルギーに対応する波長とする。または、材料のバンドギャップ内のエネルギー準位の状況によっては、半導体材料内にキャリアを発生させる波長として、バンドギャップエネルギーより小さいエネルギーの波長を選ぶ場合もある。紫外線光源113、分光器114、紫外線光学素子115の間は、光ファイバーなどで紫外線を伝達される。または、紫外線光源113、分光器114は一体化した構成でもよい。また、紫外線光源113に特定の範囲の波長のみを透過するフィルターを備えることができる場合は、分光器114を使用しない場合もある。
【0029】
画像検出部116(撮像素子)はミラー電子100cの像を電気信号に変換し、欠陥判定部117に送る。画像検出部116は、一例として、電子線を可視光に変換する蛍光板、蛍光板の電子像を撮像するカメラから構成される場合、また別の一例として、電子を検出するCCD素子など2次元検出器から構成される場合、などがある。電子像の強度や蛍光の強度を増倍する機構を備えていてもよい。
【0030】
ウェハ104表面の各場所のミラー電子像は、移動ステージ108を駆動しながら、画像検出部116から出力される。
【0031】
移動ステージ108は各撮像時に停止する場合と、あるいは、停止しないで一定の速度を保って移動を続ける場合とがある。後者の場合は、画像検出部116は時間遅延積分(TDI;Time Delay Integration)型の撮像を行う。移動ステージ108の加減速時間が不要のため高速の検査動作が可能となるが、移動ステージ108の移動速度と、画像素子の信号転送速度(ラインレート)とを同期させる必要がある。
【0032】
上記のTDI撮像動作の条件をはじめ、様々な装置各部の動作条件は、検査装置制御部118から入出力される。検査装置制御部118には、予め電子線発生時の加速電圧、電子線偏向幅・偏向速度、ステージ移動速度、画像検出素子からの画像信号取り込みタイミング、紫外線照射条件等々の諸条件が入力されており、移動ステージ制御装置107、各電子光学素子を制御する電子光学系制御装置119、紫外線光源113や分光器114の制御系、などを総括的に制御する。検査装置制御部118は、役割を分担し通信回線で結合された複数の計算機から構成される場合もある。また、モニタ付入出力装置120が設置されており、ユーザーによる検査装置の調整、動作条件の入力、検査の実行、などが行える。
【0033】
モニタ付入出力装置120から、検査の実行の命令がユーザーから入力されると、移動ステージ108が駆動し、ウェハ104上に指定された検査開始位置を対物レンズ106の中心直下に移動する。ミラー電子像を画像検出部116が取得した後、設定値分だけ移動ステージ108を移動し次のミラー電子像を撮像し、以下、検査終了位置に設定された撮影位置に至るまで繰り返す。ウェハ104のほぼ全面の撮影が終了するまで、本動作を繰り返す場合もあるが、ウェハ104の一定の面積を検査した後、別の場所に移動し、再度一定の面積の検査を開始する場合もある。ウェハ104のほぼ全面を検査する場合により好まれるのは、前述したミラー電子像のTDI撮像である。
【0034】
次に、ミラー電子顕微鏡による、SiCウェハ表面に残存した加工変質領域(潜傷)の検出原理を、
図2を用いて説明する。本実施例では、紫外線照射による加工変質領域の帯電現象を利用して検出する。
図2(a)に、紫外線を照射していないときのウェハ表面断面の状況を模式的に示した。(1)は、平坦な表面の下部に加工変質領域が存在している場合であり、図では三角形状の加工変質領域を例示している。このケースは表面に凹凸が無いため、従来の光学的な方法では検出されない。(2)は、表面に例えば傷など凹形状があり、さらにその内部に加工変質領域が残存しているケースである。(3)は、表面に凹形状が存在するものの、内部の加工変質領域は伴っていないケースである。(2)と(3)は凹みの幅が回折限界よりも広い場合は、光学的な方法で検出できるが、内部の加工変質領域の有無は判別できない。ウェハ表面上で、照射電子が反転する等電位面を合わせて示している。(1)のケースは局所的な帯電や表面の凹凸が無いので、等電位面は平坦である。(2)、(3)のケースは局所的な帯電は無いものの、表面に凹みがあるため、その形状に沿って等電位面も凹むことになる。
【0035】
これらの欠陥部位に紫外線を照射したときの電位の変化を、
図2(b)に例示した。照射する紫外線の波長は、ウェハ材料のバンドギャップエネルギー(通常ウェハに用いられる、4H−SiCの場合は、3.4eV)に対応する波長より短い波長が適切である。紫外線が照射されると、紫外線が透過する深さまで内部でキャリアが発生する。n型半導体の場合は電子が、加工変質領域に捕獲され局所的に負に帯電する。
【0036】
p型半導体の場合は、ホールが捕獲するため正に帯電する。図の等電位面は、n型半導体の場合で、加工変質領域が負に帯電している場合を示している。(1)のケースでは、局所的な負帯電領域が発生し、等電位面は押し上げられてと凸形状となる。(2)のケースは、表面はv凹形状であるが負帯電による押し上げ効果の方が高く、等電位面はやはり凸形状となる。(3)のケースでは、帯電する領域が無いため、紫外線の照射の有無に関わらず、等電位面は凹形状のままである。
【0037】
ミラー電子顕微鏡は、上記の等電位面の凹凸を明暗に変換して画像化する。その原理について、
図3を用いて概説する。
図3(a)は、表面に凹凸がある場合の照射電子の軌道反転の様子を模式的に示している。表面形状に応じて等電位面が変形している。ミラー電子顕微鏡では、照射電子線はほぼ平行に試料表面に照射され、一定の等電位面で軌道反転する。表面が凹み等電位面が凹んでいる場合は、電子線は収束する様に反転する。一方、表面が凸形状で等電位面が盛り上がっている場合は、電子線は発散するように軌道反転する。
【0038】
軌道反転した電子は対物レンズにより電子像を形成する。対物レンズのフォーカス面を試料表面からずらすことにより、等電位面の凹凸を電子像の明暗として表示することができる。
図3では、フォーカス面を点線で示したように、表面より上方に設定している。この場合、等電位面が凹んで電子線が収束しながら軌道反転する場合、フォーカス面においては電子線が集中し、電子像では明るい点として現れる。一方、等電位面が盛り上がり、電子線が発散しながら軌道反転している場合は、フォーカス面では電子の密度が低くなり、暗い部分として電子像に現れる。
【0039】
フォーカス面を仮想的に試料表面より下方に設定するような光学条件にすれば、
図3の場合と逆に、等電位面が凸なら明るい、凹なら暗いコントラストとなって電子像に現れる。また、
図3(b)に示したように、表面に凹凸は無くても局所的に正または負に帯電した領域が存在する場合でも、等電位面が凹む、あるいは盛り上がる等するので、表面の凹凸と同じように、画像の明暗として電子像に現れる。なお、フォーカス面の位置を対物レンズで調整する例について説明したが、対物レンズのフォーカスは一定とし、後段の中間電子レンズや投影電子レンズでフォーカス条件を調整してもよい。
【0040】
図2の現象と
図3のミラー電子像形成原理を利用すると、ミラー電子顕微鏡像で潜傷等の欠陥の判別が可能である。例えば、
図2(a)のような平坦な潜傷の場合、紫外線を照射しない状態ではミラー電子像に明暗として現れないが、紫外線を照射すると等電位面が盛り上がって
図3(b)の(2)の状況となり、ミラー電子像に暗いコントラストとで現れる。すなわち、紫外線を照射しながら暗いコントラストを検出したとき、紫外線照射を停止する、あるいは、強度を小さくするなどの変化を紫外線照射条件に与えることで、その暗いコントラストが消失したり、薄くなったりすれば潜傷であると判断できる。
【0041】
以下、上記の原理に基づいた、ミラー電子顕微鏡検査装置による検査動作の流れを
図4に示す。検査装置の各電子光学素子(電子銃101、コンデンサレンズ102、セパレータ103、対物レンズ106、中間電子レンズ111、投影電子レンズ112)、画像検出部116、紫外線照射系などは、予め調整された条件に設定されている。
【0042】
まず、(1)の「検査条件の入力」ステップにおいて、ユーザーはウェハ上の検査領域を指定する。モニタ付入出力装置120上には、検査領域のマップ表示のほかに、撮像画像の予測枚数や全検査時間の予測値などが表示され、ユーザーが効率の良い検査条件を設定できるように配慮されている。ユーザーが作成した検査領域や検査実施の順番等についての各種条件は、検査装置制御部118に記憶され、ユーザーはそれら条件を呼び出すことにより同じ検査動作を複数のウェハに対して実施できる。検査条件が決まったら、ユーザーはモニタ付入出力装置120を介して検査動作の開始を命令する。検査装置制御部118は命令を受け取ったらウェハの装置への投入(ロード)を開始する。
【0043】
(2)の「ウェハロード動作」ステップにおいて、ユーザーが指定した被検査ウェハ104がウェハホルダ109に戴置され、ウェハホルダ109は装置内の移動ステージ108上に設置される。その後、ユーザーにより予め指定された位置に移動ステージ108は移動する。合わせて、検査装置制御部118に記憶されている負電位が高圧電源110によりウェハホルダ109に印加される。対物レンズ106の構成要素のうち、ウェハ104上方に電界を形成するための陽極に関しては、場合によってはこのステップで印加する方が、放電のリスクを低減できる。
【0044】
(3)の「撮像条件調整」ステップでは、移動ステージ108によって、ユーザーによって指定された、あるいは検査装置制御部118に登録されている、撮像条件調整を実施するウェハ位置へ移動する。この位置において、電子線及び紫外線が照射される。紫外線照射の開始は光源の点燈でも良いし、シャッターを設置しシャッターの開放により実施されても良い。電子線の照射はブランキング(図示せず)の解除あるいは、電子銃101の遮蔽バルブの開動作で実施される。ミラー電子像は画像検出部116が取り込み、モニタ付入出力装置120に表示される。ユーザーは表示されたミラー電子像を見ながら、ウェハホルダ109への供給負電圧値、その他電子光学条件を、必要であれば調整する。
【0045】
(4)の「検査画像の取得」ステップでは、ステップ(1)でユーザーが設定した、検査開始位置に移動し、ステップ(1)で入力した撮影座標に従って、移動ステージ制御装置107からの制御により動かしながら、画像検出部116によりミラー電子像を取得する。ミラー電子像取得に必要な電子光学素子の条件は、電子光学系制御装置119により随時維持されている。ミラー電子像は随時欠陥判定部117によって画像解析されており、特定の形状のミラー電子像コントラストが検出されるかどうかを判断している。この特定形状は、ユーザーが予め欠陥判定部117に登録しておく形状であり、例えば、筋状、楕円形様、などである。これらは、加工変質領域が残存していればあり得る形状として登録されている。
【0046】
(5)の「加工変質領域の判定」ステップでは、ステップ(4)で加工変質領域と推定されるミラー電子像のコントラストが検出された場合、移動ステージ108を停止し、加工変質領域の種類を特定する。この判定には前述の基本原理に従い、照射紫外線の強度等に変化を与えて実施する。紫外線照射条件の変化によるミラー電子画像の差がみられるかどうかで加工変質領域の種類を判定する。欠陥種の判定が終了すると、その移動ステージの位置、加工変質領域であるかどうかの判定結果、などを検査装置制御部118に記録し、再びステップ(4)の検査画像取得モードに戻る。
【0047】
図9は、ミラー電子顕微鏡画像を用いて、欠陥種の判定を行うより具体的な工程を示すフローチャートである。
図9に例示する処理内容は、電子顕微鏡を制御する動作プログラム(レシピ)として、所定の記憶媒体に記憶される。
図12は欠陥検査を自動的に実行するためのレシピを記憶する記憶媒体(メモリ1206)を備えた演算処理装置1203を含む欠陥検査システムの一例を示す図である。
図12に例示するシステムには、ミラー電子顕微鏡本体1201とミラー電子顕微鏡を制御する制御装置1202を備えたミラー電子顕微鏡1200、ミラー電子顕微鏡1200を制御するための信号を供給すると共に、ミラー電子顕微鏡によって得られた画像信号を処理する演算処理装置1203、必要な情報の入力を行うための入力部や検査情報を出力するための入出力装置1210、及び外部の検査装置1211が含まれている。
【0048】
演算処理装置1203には、メモリ1203に記憶された動作プログラムを制御装置1202に伝達するレシピ実行部1204、及びミラー電子顕微鏡によって取得された画像信号を処理する画像処理部1205が含まれている。画像処理部1205には、画像データに欠陥候補等が含まれているか否かを判定する画像解析部1207、欠陥候補の中から欠陥の種類を判定する欠陥判定部1208、及び欠陥判定に基づいて、ミラー電子顕微鏡画像を用いた再検査等を実行するか否かを判定する検査要否判定部1209が含まれている。画像解析部1207では、例えば画像の2値化処理等に基づいて、暗部と明部を識別し、その暗部領域、或いは明部領域の形状等を判定する。形状判定は、例えば特定方向に長く、幅の狭い線状の輝度変位領域が存在する場合に、その部分を欠陥候補として判定する。また、欠陥判定部1208では、
図9や
図11に示すフローに従って、欠陥種を特定する。更に、検査要否判定部1209では、欠陥候補情報に基づいて画像取得に基づく検査を再度行うか否かの判定を行う、検査要否判定部1209の判定処理については、
図9のフローチャートを用いてより詳細に説明する。
【0049】
図1や
図12に例示するミラー電子顕微鏡は、
図9に例示するフローチャートに従って、自動検査を実行する。まず、ミラー電子顕微鏡の真空試料室に試料(本実施例の場合SiCウェハ)を導入する(ステップ901)。次に、レシピに記憶された検査位置情報に基づいて移動ステージ108を制御して、電子ビームの照射位置に検査対象位置を位置付ける(ステップ902)。全面検査の場合は、ウェハ全ての領域を網羅するように電子ビームの照射位置が位置付けられる。次に、位置付けられた検査位置に対して、紫外光を照射すると共に電子ビームを照射することによって、紫外光が照射された状態の画像を取得する(ステップ903、904)。画像解析部1207では、得られた画像信号の中に、コントラストを持つ所定形状領域が存在するか否かを判定する(ステップ905)。本実施例の場合、線状のパターンを欠陥として捉える検査を行っているため、線状パターン以外は欠陥と見做さない判定を行っているが、形状判定を行うことなく、コントラストがついた領域が存在する画像をもれなく、欠陥候補画像とするようにしても良い。また、他の形状を欠陥候補として同定するようにしても良い。
【0050】
次に、線状パターンの明暗の判定結果に基づいて、検査要否判定部1209は、紫外光照射を停止した上で、電子ビーム照射を行うことによって画像生成を行う(ステップ906、907)か、
図2(3)に例示するような「潜傷ではない傷」として欠陥判定を行う(ステップ909)。画像解析部1207は、紫外光照射をしない状態で取得された画像について、線状部位の輝度の判定を行う(ステップ908)。欠陥判定部1208は、
図2に例示するような現象を利用して、線状部位が「暗→コントラストなし」と変位した部分について、「平坦な潜傷」と判定し、「暗→明」と変位した部分について、「傷を伴う潜傷」と判定する(ステップ909)。なお、紫外光照射の有無に係わらず、線状部分が暗いままであるような場合は、未知欠陥として同定したり、検査が適正に行われなかったとしてエラーを発生するようにしても良い。また、「その他の結晶歪み」と評価したり、「潜傷なし」と判定するようにしても良い。また、このような欠陥の種類の特定ができているのであれば、その判定を行うようにしても良い。演算処理装置1203は、以上のような判定情報(欠陥識別情報)とウェハの座標情報をメモリ1206等に併せて登録しておく(ステップ910)。上述のような処理をウェハ全面、或いは指定された検査対象個所の検査が終了するまで継続する。
【0051】
本実施例では、検査の効率化、高速化のために「潜傷ではない傷」について、紫外光照射をしない画像形成に基づく検査工程をスキップするような処理を行う。本実施例に例示するような判断アルゴリズムを採用することによって、「紫外光を照射しない状態における画像」の取得を必要最低限とすることができ、検査の効率化、高速化を実現することが可能となる。即ち、画像取得の手間を抑制しつつ、紫外光照射による欠陥部位の顕在化の効果の享受が可能となる。
【0052】
図10は、ウェハ全面、或いは全ての指定検査個所について、紫外光を照射した状態の画像と、紫外光を照射しない状態の画像を取得して欠陥種の判定を行う工程を示すフローチャートである。ステップ901〜908、910は、
図9に例示したフローチャートと同じ処理である。ステップ1001にて、
図11に例示するような判断アルゴリズムに基づいて、欠陥種の判定を行う。なお、
図10ではビーム照射を伴う検査と欠陥解析を併せて行う例を説明しているが、ウェハ全面、或いは全ての指定検査個所について、紫外光を照射した状態の画像と、紫外光を照射しない状態の画像を先に取得して記憶し、記憶された情報を用いて、後から纏めて欠陥判定を行うようにしても良い。
【0053】
図11に例示する解析処理工程では、まず紫外光が照射された状態で得られた画像を解析し、他の部分と識別可能なコントラスト領域の輝度を判定する(ステップ1101)。コントラスト領域が認められない場合には、欠陥がないものとして識別する(ステップ1103)。次に、紫外光が照射されない状態で得られた画像を解析し、コントラスト領域の輝度を判定する(ステップ1102)。この解析結果に基づいて、「暗→コントラストなし」を「平坦な潜傷」、「暗→明」を「傷を伴う潜傷」、「明→明」を「潜傷ではない傷」、それ以外を「その他の結晶歪み」、「潜傷なし」、未知欠陥、或いは検査不可(エラー)として判定する(ステップ1103)。
【0054】
以上のように単なる輝度情報ではなく、帯電条件を変えたときの画像の変化に関する情報を欠陥の判定基準とすることによって、欠陥の高精度検出を実現することが可能となる。
【0055】
なお、光学式の検査装置等、外部の検査装置1211にて得られた欠陥の座標情報に基づいて、検査位置を指定するようにしても良い。
【0056】
図6に、エピタキシアル層形成前のn型4H−SiCウェハの加工変質領域判定工程を例示する。
図6(a)は、
図4のステップ(4)でミラー電子像に現れた筋状のコントラストのモデル図である。対物レンズのフォーカス条件はウェハ表面の上方に設定されているとし、等電位面が凸状に変形すると、暗いコントラストとなる。
図6(a)のような暗い筋状のコントラストは、加工変質領域の局所的な負帯電の可能性があることを示している。
【0057】
ミラー電子像に暗いコントラストが現れたかどうかは、例えば欠陥判定部117や画像解析部1207による画像処理で判断する。検査装置制御部118は移動ステージ107を停止し、このコントラストが加工変質領域の負帯電によって形成されたものか、平面上の凸形状の反映かの判定作業に移行する。
図6にモデル図で示した、加工変質領域のミラー電子像の紫外線照射条件変化に伴う変化は一例であり、加工変質領域の幅や深さによって様々である。判断基準としてのミラー電子像コントラストの変化量は、検出したい加工変質領域の大きさに合わせ、ユーザーが設定する。
【0058】
紫外線光源113のシャッターを閉じることによって、ウェハへの紫外線照射を停止することができる。紫外線照射を停止した際、
図6(b)のミラー電子像のモデル図の様に明るいコントラストに変化した場合、
図2の(a)、(b)の(2)のケースに対応する、表面に凹みを伴う筋状の加工変質領域であると判定される。一方、
図6(c)の様に殆ど変化が見られない場合は、加工変質領域は無いと判定する。紫外線停止前後のミラー電子像の変化の判断は、欠陥判定部117において
図6(a)のミラー電子像と
図6(b)あるいは(c)との差画像を作成し、予め設定した差の尤度を越えたかどうかで行う。
【0059】
ユーザーが設定した検査範囲のミラー電子像の撮像が終了したら、検査装置制御部118は、モニタ付き入出力装置120に、加工変質領域が撮像された移動ステージの位置をマップ表示する。
図5にモニタ付き入出力装置120のGUI(グラフィカル・ユーザー・インターフェース)における表示例を示す。加工変質領域のマップを表示する部分のみを抽出して図示した。本GUIでは検査対照のウェハサイズが、ウェハサイズ表示欄121に表示されている。検査結果は、マップ表示領域122に、ウェハの外形と共に表示される。連続で撮像したウェハ上の位置が、観察箇所表示123で示されている。本例ではウェハ上を十字に、また、右上の四半円を45度方向に観察したことを示している。ステップ(5)の加工変質領域判定によって、加工変質領域であると判定された箇所を、加工変質領域存在箇所表示124によって示されている。加工変質領域で無いと判定された箇所も、表示125によって加工変質領域と区別して表示されている。また、ミラー電子像コントラストの違いや、紫外線照射条件変化による差の大きさによって、必要に応じてさらに分類し、マップ表示領域112に表示してもよい。また、紫外線照射中に等電位面が凸であった箇所を選択的に表示し、加工変質領域の可能性のある箇所として、上記マップに明示してもよい。
【0060】
本実施例によれば、ミラー電子顕微鏡を用いた検査装置において、SiCウェハの加工変質領域(潜傷)を検出できる。