特許第6788770号(P6788770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788770
(24)【登録日】2020年11月5日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ガス生産システム、及びガス生産方法
(51)【国際特許分類】
   E21B 43/00 20060101AFI20201116BHJP
   E21B 43/01 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   E21B43/00 A
   E21B43/01
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-44176(P2018-44176)
(22)【出願日】2018年3月12日
(65)【公開番号】特開2019-157458(P2019-157458A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2020年2月4日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成28年度経済産業省「メタンハイドレート開発促進事業」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】守屋 英教
(72)【発明者】
【氏名】柴田 尚人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 正浩
(72)【発明者】
【氏名】村山 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】天満 則夫
【審査官】 石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2018/009073(WO,A1)
【文献】 特開2014−134049(JP,A)
【文献】 特開2011−012451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21B 1/00−49/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産するシステムであって、
地中内に埋設されるように構成された先端部を有する長尺状の管であって、前記先端部から上方に延びる前記管内の液体によって生じる圧力を用いて前記管の外部にあるガスハイドレートに作用する圧力を低減することにより、前記ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を前記管内の前記液体に取り込むように、前記先端部に設けられ前記管の外部に開口した孔を備えたライザー管と、
前記ライザー管内の液体の上方に形成される気相空間の圧力を計測する圧力計と、
前記気相空間の圧力の測定値の前記気相空間の基準圧力からの変動量に応じて、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより前記気液混合物の生産量を調整する制御装置と、を備えることを特徴とするガス生産システム。
【請求項2】
前記気液混合物は、ガスの気泡と、前記液体に混入する水とを含み、
前記ライザー管は、前記水が混入する前記ライザー管内の前記液体を排出するポンプを有し、
前記制御装置は、前記気相空間の圧力の測定値の前記変動量に応じて、前記ポンプによる前記液体の排出量を調整することで、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御する、請求項1に記載のガス生産システム。
【請求項3】
前記ライザー管内の前記液体の上方には、前記気泡の少なくとも一部が前記液体の液面に浮上して前記気相空間に流入した気体を、生産するガスとして取り出すガス生成管を、備える、請求項1又は2に記載のガス生産システム。
【請求項4】
前記圧力計は、前記制御装置による前記ガスハイドレートに作用する圧力の制御に伴って変動する前記液体の液面高さの範囲の上方に位置している、請求項1から3のいずれか1項に記載のガス生産システム。
【請求項5】
地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産する方法であって、
地中内に埋設された先端部を有し、前記先端部から上方に延びるライザー管内の液体によって生じる圧力を用いて前記管の外部にあるガスハイドレートに作用する圧力を低減させるステップと、
前記ガスハイドレートに作用する、低減された圧力によって前記ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を、前記ライザー管の外部に開口した孔から前記ライザー管内の前記液体に取り込み、前記気泡からガスを取り出すステップと、
前記液体の上方に形成された気相空間の圧力を計測するステップと、
前記ガスハイドレートに前記先端部における圧力を作用させるとき、および、前記気液混合物を前記ライザー管内の前記液体に取り込むとき、前記気相空間の圧力の測定値の前記気相空間の基準圧力からの変動量に応じて前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより前記気液混合物の生産量を調整するステップと、を備えることを特徴とするガス生産方法。
【請求項6】
前記気液混合物は、ガスの気泡と、前記液体に混入する水とを含み、
前記ガス生産方法は、さらに、ポンプを用いて、前記水が混入する前記液体を排出するステップを備え、
前記気液混合物の生産量を調整するステップでは、前記気相空間の圧力の測定値の前記変動量に応じて、前記ポンプによる前記液体の排出量を調整することで、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御する、請求項5に記載のガス生産方法。
【請求項7】
前記ライザー管内の前記液体の上方から、前記気泡の少なくとも一部が前記液体の液面に浮上して前記気相空間に流入した気体を、生産するガスとして取り出すステップをさらに備える、請求項5または6に記載のガス生産方法。
【請求項8】
前記ガスハイドレートに作用する圧力を低減させるステップの前に、前記気相空間を形成しないように前記液体が前記ライザー管内に満たされた状態から、前記液体の一部を排出して、前記ガスハイドレートが分解開始するまで前記液体の液面高さを下げるステップをさらに備え、
前記気液混合物の生産量を調整するステップでは、前記ガスハイドレートが分解開始したときの前記気相空間の圧力値を前記基準圧力として、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御する、請求項5から7のいずれか1項に記載のガス生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産するガス生産システム及びガス生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガス資源として、天然ガスハイドレートが注目されている。天然ガスは、燃焼時の二酸化炭素排出量が石油や石炭に比べ少なく、天然ガスと水からなる天然ガスハイドレートは、地球温暖化抑制の点で有望な資源である。
天然ガスハイドレートは、メタン分子を水分子が籠状に取り囲んだ結晶構造を有する包接化合物である。天然ガスハイドレートは、低温、高圧の環境下で、固体の状態で存在し、このような環境を満たす、深海の海底の表層や海底面下の地層中に安定して存在している。
【0003】
従来、海底内に存在する天然ガスハイドレートから天然ガスを取り出す方法として、天然ガスハイドレートにかかる高い水圧に対して減圧された圧力を作用させることで天然ガスハイドレートを分解する減圧法が知られている(例えば、特許文献1)。
減圧法では、具体的に、天然ガスを海底から海上に向けて運ぶ管(ライザー管)を用いて、管内の海水を排出することで液面を下げ、ライザー管内の海水の圧力を、天然ガスハイドレートを含んだ海底内の地層(ハイドレート層)に作用させ、分解させる。天然ガスハイドレートが分解して生成した天然ガスは、液体と混ざり合った混相流(気液混合物)としてライザー管内の海水に取り込まれる。混相流を取り込んだ海水は、ライザー管内で、天然ガスと海水とに分離され(気液分離され)、それぞれ海上に排出される。
【0004】
減圧法を用いて天然ガスの生産量を増やすためには、天然ガスハイドレートに作用する圧力を、天然ガスハイドレートが分解する圧力(分解圧力)の範囲に保つことが重要である。このため、減圧法では、混相流を取り込む取り込み口のあるライザー管の先端部における圧力(坑底圧)を計測して坑底圧を監視しながら、ポンプの回転周波数を制御して海水の排出量を制御することにより、坑底圧の調整を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−261252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ライザー管の海水に取り込まれた気液混合物には、天然ガスを含んだ気泡が含まれている。天然ガスハイドレートの分解を継続して行うと、液体中の気体の流れの形態(流動様式)が変化し、これに伴って、坑底圧が不安定になる場合がある。例えば、流路断面一杯に広がった大きな気泡と、微細気泡を含む液体部分とが流路に沿って交互に流れる形態の流れ(スラグ流)が発生すると、坑底圧は、急激に下がり、その後、ゆっくり上昇することを繰り返す(脈動する)ようになる。このような坑底圧に基づいて、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御して天然ガスの生産を行うと、天然ガスの生産量が一定であるにも拘らず、天然ガスハイドレートに作用する圧力が変動したと判断し、ライザー管内の液体の排出量を誤って調整するおそれがある。このような調整は、天然ガスハイドレートの分解の安定した制御を行う点から好ましくない。
また、坑底圧は、液体を吸い上げるポンプの故障など、ライザー管に関して発生した異常にも起因して変動する。このため、坑底圧が不安定な状態が定常化すると、このようなライザー管に関する異常に気づき難くなるという問題がある。水深の深い位置に配置されたポンプ等のメンテナンスには困難が伴うため、こうした異常が看過されることで、運転の継続に支障をきたすおそれがある。
【0007】
そこで、本発明は、液体中の気体の流動様式に影響を受けることなく、ガスハイドレートの分解の制御を安定して行うことができるガス生産システム及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産するシステムであって、
地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産するシステムであって、
地中内に埋設されるように構成された先端部を有する長尺状の管であって、前記先端部から上方に延びる前記管内の液体によって生じる圧力を用いて前記管の外部にあるガスハイドレートに作用する圧力を低減することにより、前記ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を前記管内の前記液体に取り込むように、前記先端部に設けられ前記管の外部に開口した孔を備えたライザー管と、
前記ライザー管内の液体の上方に形成される気相空間の圧力を計測する圧力計と、
前記気相空間の圧力の測定値の前記気相空間の基準圧力からの変動量に応じて、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより前記気液混合物の生産量を調整する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記気液混合物は、ガスの気泡と、前記液体に混入する水とを含み、
前記ライザー管は、前記水が混入する前記ライザー管内の前記液体を排出するポンプを有し、
前記制御装置は、前記気相空間の圧力の測定値の前記変動量に応じて、前記ポンプによる前記液体の排出量を調整することで、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することが好ましい。
【0010】
前記ライザー管内の前記液体の上方には、前記気泡の少なくとも一部が前記液体の液面に浮上して前記気相空間に流入した気体を、生産するガスとして取り出すガス生成管を、備えることが好ましい。
【0011】
前記圧力計は、前記制御装置による前記ガスハイドレートに作用する圧力の制御に伴って変動する前記液体の液面高さの範囲の上方に位置していることが好ましい。
【0012】
本発明の別の一態様は、地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産する方法であって、
地中内に埋設された先端部を有し、前記先端部から上方に延びるライザー管内の液体によって生じる圧力を用いて前記管の外部にあるガスハイドレートに作用する圧力を低減させるステップと、
前記ガスハイドレートに作用する、低減された圧力によって前記ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を、前記ライザー管の外部に開口した孔から前記ライザー管内の前記液体に取り込み、前記気泡からガスを取り出すステップと、
前記液体の上方に形成された気相空間の圧力を計測するステップと、
前記ガスハイドレートに前記先端部における圧力を作用させるとき、および、前記気液混合物を前記ライザー管内の前記液体に取り込むとき、前記気相空間の圧力の測定値の前記気相空間の基準圧力からの変動量に応じて前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより前記気液混合物の生産量を調整するステップと、を備えることを特徴とする。
【0013】
前記気液混合物は、ガスの気泡と、前記液体に混入する水とを含み、
前記方法は、さらに、ポンプを用いて、前記水が混入する前記液体を排出するステップを備え、
前記気液混合物の生産量を調整するステップでは、前記気相空間の圧力の測定値の前記変動量に応じて、前記ポンプによる前記液体の排出量を調整することで、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することが好ましい。
【0014】
前記ライザー管内の前記液体の上方から、前記気泡の少なくとも一部が前記液体の液面に浮上して前記気相空間に流入した気体を、生産するガスとして取り出すステップをさらに備えることが好ましい。
【0015】
前記ガスハイドレートに作用する圧力を低減させるステップの前に、前記気相空間を形成しないように前記液体が前記ライザー管内に満たされた状態から、前記液体の一部を排出して、前記ガスハイドレートが分解開始するまで前記液体の液面高さを下げるステップをさらに備え、
前記気液混合物の生産量を調整するステップでは、前記ガスハイドレートが分解開始したときの前記気相空間の圧力値を前記基準圧力として、前記ガスハイドレートに作用する圧力を制御することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上述のガス生産システム及びガス生産方法によれば、液体中の気体の流動様式に影響を受けることなく、ガスハイドレートの分解の制御を安定して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態のガス生産システムを概略的に示す図である。
図2】ライザー管の先端部付近の内部構成を説明する図である。体の形態の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のガス生産システム及びガスの製造方法について説明する。なお、以降の説明では、ガスハイドレートとして天然ガスハイドレートを例として挙げるが、ガスハイドレートは天然ガスハイドレートに限定されない。
また、本明細書でいうガス生産システムは、地中のガスハイドレートを減圧して分解することによりガスを生成するものであり、海底表面にあるガスハイドレートからガスを生成するシステムと異なる。
【0019】
(ガス生産システムの概略説明)
一実施形態のガス生産システム(以下、システムともいう)は、地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産するシステムである。システムは、ライザー管と、圧力計と、制御装置と、を主に備える。
ライザー管は、地中内に埋設されるように構成された先端部を有する長尺状の管である。ライザー管は、先端部に設けられ、管の外部に開口した孔を備える。この外部に開口した孔は、ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を管内の液体に取り込むように設けられている。ガスハイドレートは、ライザー管の先端部から上方に延びる管内の液体によって生じる圧力を用いて管の外部にあるガスハイドレートに作用する圧力を低減することにより分解される。
圧力計は、ライザー管内の液体の上方に形成される気相空間の圧力を計測する。
制御装置は、気相空間の圧力の測定値の気相空間の基準圧力からの変動量に応じてガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより気液混合物の生産量を調整する。
【0020】
通常、ライザー管内の液体の液面高さが高くなると、気相空間の圧力及び先端部における圧力(坑底圧)はそれぞれ高くなり、坑底圧が高くなると、ガスハイドレートに作用する圧力も高くなる。このため、気相空間の圧力が高くなると、ガスハイドレートに作用する圧力も高くなるといえる。また、気相空間は、ライザー管内の液面の上方にあるため、気相空間の圧力は、坑底圧と比べて、液体中の気体の流動様式による影響を受け難い。
したがって、気相空間の圧力を用いることで、ガスハイドレートの分解のためにガスハイドレートに作用させる圧力を安定して制御することができる。具体的に、気相空間の圧力の測定値の気相空間の基準圧力からの変動量に応じて、ガスハイドレートに作用する圧力は制御される。
【0021】
また、坑底圧は、液体中の気体の流動様式による影響を受け易く、圧力変動が発生し易いため、ポンプの故障など、ライザー管に関する異常が発生したと早急に判断することは難しい。一方、気相空間の圧力は、液体中の気体の流動様式による影響を受け難いので、この圧力が変動したときは、ライザー管に関して発生した異常であると判断し易い。つまり、気相空間の圧力を用いることで、坑底圧を用いた場合と比べ、ライザー管に関する異常が発生したことに速やかに気づくことができる。
【0022】
(ガス生産システムの具体的な説明)
図1は、一実施形態のシステム1を概略的に示す図である。図2は、ライザー管10の先端部10a付近の内部構成を説明する図である。以下、海底の地中内の天然ガスハイドレートを分解して天然ガスを生産するシステム1を例に説明する。
【0023】
システム1は、海上にある掘削船3から海底を経由して地中に延びるライザー管10から地中内の天然ガスハイドレートを分解して生成される天然ガスを地上に取り出すシステムである。
システム1は、ライザー管10と、気液分離装置20と、ポンプ23と、ガス生成ライン12と、液体排出ライン13と、制御装置40と、を主に備える。
【0024】
ライザー管10は、地中内に埋設されるように構成された先端部10aを有する長尺状の管である。ライザー管10は、図1に示す例では、掘削船3から鉛直下方に延び、先端部10aが、海底の坑井7内に埋設されている。坑井7は、掘削により設けられた穴であり、図1に示す例において、海底面2を含む上層4を貫通し、下層に位置するハイドレート層5内で閉塞している。上層4は、例えば、泥を多く含む泥質層である。ハイドレート層5は、例えば、泥と砂を多く含む砂泥互層と呼ばれる層である。ハイドレート層5は、天然ガスハイドレートが砂や泥に取り込まれて存在する、横方向に広がった砂質層を有している。上層4とハイドレート層5との境界は、例えば、海底面下数百メートルの位置にあり、海底面2は、例えば、水深300メートル〜千数百メートルの位置にある。
【0025】
ライザー管10は、管本体11と、スクリーン19(図2参照)と、を備える。
気液分離装置20と、ポンプ23と、ガス生成ライン12と、液体排出ライン13の一部とが、管本体11内に設けられている。
この他に、管本体11内には、ヒータ26が設けられている。
【0026】
管本体11は、揚収管として機能する部分18の後述する孔18aを除いて、内側の空間を水や海水から隔絶する部材である。管本体11には、図1に示す例では、内側の空間を上下に仕切る隔壁17a、17b、及び隔壁17cが設けられている。隔壁17cからライザー管10の先端まで延びる管本体11の部分は、ハイドレート層5から液体内に取り込まれた気液混合物が液体とともに上方に向かって流れる部分18(以降、この部分を、揚収管部分18ともいう)であり、図1に示す例では、隔壁17cから上方の管本体11の部分と比べ、管径が小さい。揚収管部分18は、ハイドレート層5内に位置している。
【0027】
スクリーン19は、揚収管部分18にライザー管10の外部に開口した孔18aを覆うように設けられている。孔18aは、ハイドレート層5内の砂質層と接する深さ位置にある揚収管部分18に設けられている。
スクリーン19は、天然ガスハイドレートの分解によって生成した気泡及び水、さらには海水を取り込み、砂や泥を分離除去する部材である。スクリーン19は、気泡、水、海水を通過させるが、砂や泥を通過させない機能を有している。スクリーン19は、例えば、多数の孔を有するシート状又は板状の構造体であって、互いに孔の大きさや形態が異なる複数の構造体から構成される。複数の構造体の組み合わせの具体例として、ジョンソンスクリーン、メッシュ、及びグレーチングが挙げられる。ジョンソンスクリーンは、ジョンソンスクリーン社製の金網状の構造体として周知である。グレーチングは鋼材を格子状に組んだ部材である。ジョンソンスクリーン、メッシュ、グレーチングは、揚収管部分18の側からハイドレート5層の側に向かって、この順に、揚収管部分18に重ねて配置される。
【0028】
図2に示すように、揚収管部分18には、スクリーン19を通過した気液混合物を取り込むための複数の孔18aが深さ方向に沿って設けられている。孔18aは、揚収管部分18の壁部を貫通し、揚収管部分18の外部に開口している。ライザー管10が孔18aを備えることで、坑底圧を用いて天然ガスハイドレートに作用する圧力を低減し、これによって、気液混合物をライザー管10内に取り込むことができる。
坑底圧とは、ライザー管10の先端部10aから上方に延びるライザー管10内の所定の範囲に充填された液体によってライザー管10内の先端部10aにおいて生じる圧力と後述する気相空間Gの圧力の和であり、後述する液面Sの下方の液体によって、ライザー管10の下端が受ける水頭圧によって定まる圧力である。ライザー管10の下端は、坑井7の穴底(坑底)と略同じ高さに位置している。ここで、先端部10aは、ライザー管10のうち孔18aの設けられる部分を含む。
ライザー管10内の液体には、天然ガスハイドレートから分解して生成された気液混合物が取り込まれるほか、孔18aを通って進入した水や海水が取り込まれる。気液混合物は気泡を含むので、ライザー管10内の液体には気泡が混在している。水や海水は、ハイドレート層5に含まれる水や海水、ハイドレート層5と接する他の地層に含まれる水や海水を起源としている。
【0029】
ライザー管10は、揚収管部分18の先端部、詳細にはライザー管10の下端に設けられた、坑底圧を測定する圧力計31を、さらに有している。圧力計31は、制御装置40に接続されており、坑底圧の計測信号を制御装置40に向けて出力する。
【0030】
図2に示すように、気液分離装置20、ポンプ23、及びヒータ26は、隔壁17b、17cによって仕切られたライザー管10の空間15b内に設けられている。空間15b内には、図2に示す例において、液体の液面Sの上方に、気液分離装置20によって液体から分離されたガスが流入する気相空間Gが形成される。なお、気相空間Gは、海底面2より上方に位置するようライザー管10内に形成されることが好ましい。
【0031】
気液分離装置20は、揚収管部分18内で液体に取り込まれる気液混合物中の気泡の少なくとも一部を分離する装置である。分離された気泡内のガスは、生産されるガスである。気液分離装置20は、一実施形態によれば、囲み容器21と、遠心分離器22と、を有する。
【0032】
囲み容器21は、液体排出ライン13を構成する液体輸送管14(後述)の下端を外側から囲むコップ形状の部材である。なお、液体輸送管14内には、遠心分離器22及びポンプ23が設けられている。図2に示す例では、囲み容器21は、管本体11の内壁と隙間をあけて配置された筒状の側壁21aと、側壁21aの下端を塞ぐ底壁21bと、を有する。側壁21aの上端が、液体輸送管14の下端より上方に位置している。これにより、気液混合物を含んだ液体は、図2に示す細い矢印に沿って、管本体11と側壁21aの隙間を上昇した後、液体は、側壁21aと液体輸送管14との隙間を下降し、液体輸送管14内に流れ込む。この過程で、比較的大きい気泡は、浮上速度が大きいため、液体が液体輸送管14内に流れ込むまでに、液体の流れと分離して液面Sに浮上し、ガスが気相空間Gに放出される。図2において、気泡の流れを太い矢印で示す。
すなわち、気液分離装置20は、液体の流路が上方に向けた上昇路と、液体から気泡の一部を排除するために、上昇路に接続され液体の流路を上方から下方に変更させる下降路と、を備える。このような気液分離の方式を、気体と液体にかかる重力(比重)を利用して分離するので、重力分離方式という。
【0033】
遠心分離器22は、液体輸送管14内に流れ込む液体中に依然として残存する比較的小さい気泡を液体から分離する装置である。遠心分離器22は、図2に示す例では、液体輸送管14内に設けられ、鉛直方向に延びる回転中心線の周りに回転する回転体22aを有する。回転体22aは、後述するモータ24によって駆動される。気泡を含んだ液体は、回転体22aに接近すると、回転体22aの回転によって作られた旋回流に沿って流れる。このとき、気泡及び液体に遠心力が作用し、液体は、気泡より比重が大きいため、回転中心線から遠ざかるように移動し、気泡は、液体に比べて回転中心線に近い側に集められる。このとき、集められて大きくなった気泡は、液体輸送管14に設けられた、液体輸送管14の外部に開口する孔から放出される。これにより、液面Sに浮上し気相空間Gに放出される。一方、液体輸送管14の孔から放出されなかった微小な気泡は、液体とともに液体輸送管14内を上昇する。このように、遠心力を利用して分離する方式を遠心分離方式という。
このように、気液分離装置20は、重力分離方式と遠心分離方式を併用するが、一実施形態によれば、重力分離方式のみで気液分離を行うことができる。また、一実施形態によれば、重力分離方式のみで気液分離を行うこともできる。
【0034】
ポンプ23は、液体を液体輸送管14内に引き込んでライザー管10から排出させる。図2に示す例のポンプ23は、液体輸送管14内に配置されており、モータ24と、モータ24によって駆動されるスクリュー25と、を有するオーガポンプである。スクリュー25は、鉛直方向に延びる軸と、軸の周りを螺旋状に延びる羽根と、を有しており、液体輸送管14内の液体を撹拌しながら上方に送る機能を有する。モータ24は、掘削船3の制御装置40に電気的に接続されている。モータ24は、制御装置40から出力された信号を受けて、設定された周波数あるいは調整された周波数で駆動するよう制御される。モータ24は、液体輸送管14内に、液体の流路となる隙間を形成するよう、液体輸送管14内に配置されている。なお、システム1の運転中、ライザー管10には孔18aを通って海水あるいは水が流入し続けることから、通常、ポンプ23は稼働した状態に維持される。
【0035】
ヒータ26は、空間15b内に流れ込んだ液体を加熱する装置である。ヒータ26は、制御装置40に接続されている。天然ガスハイドレートの分解反応は吸熱反応であるため、液体に取り込まれた気液混合物の温度が低下して天然ガスハイドレートが再生成し、例えば、液体輸送管14の下端を閉塞させる場合がある。ヒータ26は、システム1の運転中に継続してあるいは断続的に、液体を加熱して、天然ガスハイドレートの再生成を抑制する。また、天然ガスハイドレートが再生成したと判断された場合に、制御装置40から出力された信号を受けて駆動するよう制御され、液体を加熱することで、再生成した天然ガスハイドレートを加熱し、分解させる。
【0036】
ガス生成ライン12は、液面Sに浮上した気泡から生成され、気相空間Gに流入したガスを、生産する天然ガスとしてライザー管10内から取り出す、ガスの流路を構成する。具体的に、ガス生成ライン12は、気相空間G内のガスを、生産する天然ガスとして掘削船3まで運ぶ管(ガス生成管)からなる。ガス生成ライン12は、管本体11内に、液面Sの上方に配置されており、ガス生成ライン12の下端は、気相空間Gに接続されている。
ガス生成ライン12の先端部には、ガスの流量を調節する弁が設けられている。弁の開度は、ガスが一定量で排出されるよう調節されている。また、ガス生成ライン12の先端は、例えば、掘削船3あるいは他の船舶に備え付けられた貯蔵タンク(図示せず)に接続されている。貯蔵タンクに貯蔵された天然ガスは、適宜、液化され、掘削船3あるいは他の船舶で海上を輸送される。
【0037】
液体排出ライン13は、管本体11内で天然ガスと分離した液体を掘削船3まで運ぶ、液体の流路を構成する。
液体排出ライン13は、図1に示す例において、気液分離装置20から空間15aまで延びる液体輸送管14と、管本体11から分岐して、空間15aから掘削船3まで延びる管16と、を有している。空間15aは、隔壁17a,17bで仕切られた空間である。
排出された液体は、回収され、例えば貯水される。
【0038】
隔壁17bには、気相空間Gの圧力を計測する圧力計30が設けられている。圧力計30は、制御装置40に接続されており、気相空間Gの圧力の計測結果の情報が、制御装置40に送信される。上述したように、気相空間Gの圧力は、液体の液面Sの位置と相関性を有し、液体の液面Sの位置は、天然ガスハイドレートに作用する圧力と相関性を有している。したがって、気相空間Gの圧力は、天然ガスハイドレートに作用する圧力と相関性を有し、気相空間Gの圧力は、ハイドレート層5の天然ガスハイドレートの分解の速度に影響を与える圧力であり、気液混合物の生産量に影響を与える圧力であるといえる。圧力計30は、図2に示す例では、空間15aを囲む壁面に設けられている。
また、ライザー管10の先端部10aには、ライザー管10の先端部10aにおける圧力(坑底圧)を計測する圧力計31が設けられている。圧力計31は、制御装置40に接続されており、先端部10aにおける圧力(坑底圧)の計測結果の情報が、制御装置40に送信される。先端部10aにおける圧力は、液体の液面Sの位置及び気相空間Gの圧力によって定まる。
【0039】
制御装置40は、気液混合物の生産量を調整するために、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御するよう構成される。制御装置40は、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御を、気相空間Gの圧力の測定値を用いて行う。気相空間Gの圧力を用いた、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御については後述する。制御装置40は、CPU、メモリ等を含むコンピュータで構成される。制御装置40は、図1に示す例において、掘削船3に設けられている。
【0040】
システム1は、例えば、ライザー管10となる資材、及び圧力計30,31、制御装置40を掘削船3に積み、海上の所定の位置まで輸送して組み立てられる。坑井7は、システム1を組み立てる前に予め掘削される。
【0041】
システム1は、掘削船3の代わりに、固定式又は浮遊式の洋上プラットフォームを備えてもよい。この場合、洋上プラットフォームと陸地とを接続し、洋上プラットフォームから陸地に天然ガスを輸送するパイプラインを備えることが好ましい。
【0042】
(天然ガスハイドレートに作用する圧力の調整)
制御装置40は、気相空間Gの圧力の測定値の気相空間Gの基準圧力からの変動量に応じて、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御し、これにより、気液混合物の生産量を調整する。気相空間Gの圧力の測定値は、圧力計30から送信される計測結果の情報から取得される。気相空間Gの基準圧力とは、天然ガスハイドレートが分解開始したときの圧力、具体的には、ガス生成ライン12からのガスの排出量が所定量に達したときの圧力をいう。上述したように、気相空間Gの圧力は、天然ガスハイドレートに作用する圧力と相関性を有している。また、気相空間Gは、ライザー管10内の上方に位置しているため、気相空間Gの圧力は、坑底圧と比べて、液体中のガスの流動様式による影響を受け難い。したがって、気相空間Gの圧力を用いることで、天然ガスハイドレートの分解のために天然ガスハイドレートに作用させる圧力を安定して制御することができる。
【0043】
具体的には、制御装置40は、気相空間Gの圧力に関して目標圧力の範囲の情報を保持している。目標圧力の範囲は、天然ガスハイドレートを分解させる圧力に対応した気相空間Gの圧力の範囲であり、基準圧力を含む圧力の範囲である。気相空間Gの圧力が目標圧力の範囲内であれば、気相空間Gの圧力の測定値の基準圧力からの変動量の大きさは許容範囲内であり、天然ガスハイドレートの分解の速度を所定の範囲に制御し、気液混合物の生産量を調整することができる。
制御装置40は、一定の時間間隔で、気相空間Gの圧力の測定値が目標圧力の範囲にあるか否かを判定する。
この判定において、気相空間Gの圧力の測定値が目標圧力の範囲内にあれば、ガスハイドレートに作用する圧力を維持する制御を行う。具体的に、制御装置40は、ポンプ23の回転数を維持することで、ポンプ23による液体の排出量を維持する。これにより、天然ガスハイドレートに作用する圧力が維持される。
【0044】
一方、気相空間Gの圧力の測定値が目標圧力の範囲を超えて高くなっている場合、気相空間Gの圧力の測定値の基準圧力からの変動量が許容範囲を超え、天然ガスハイドレートの分解の速度が所定の範囲にないので、気相空間Gの圧力が低くなるよう制御が行われる。具体的に、制御装置40は、ポンプ23の回転数を上げ、ポンプ23による液体の排出量を増加させる。これにより、天然ガスハイドレートに作用する圧力が高くなり、天然ガスハイドレートの分解を促進することができる。
【0045】
また、気相空間Gの圧力の測定値が目標圧力の範囲より低くなっている場合、気相空間Gの圧力の測定値の基準圧力からの変動量が許容範囲を超え、天然ガスハイドレートの分解の速度が所定の範囲にないので、気相空間Gの圧力が高くなるよう制御が行われる。具体的に、制御装置40は、ポンプ23の回転数を下げ、ポンプ23による液体の排出量を低減する。これにより、天然ガスハイドレートに作用する圧力が低くなり、天然ガスハイドレートの分解を抑制することができる。
【0046】
以上のように、気相空間Gの圧力の測定値を用いて、気相空間Gの圧力の測定値の気相空間Gの基準圧力からの変動量に応じた制御を行うことで、坑底圧を用いる場合と比べて、天然ガスハイドレートの分解のために天然ガスハイドレートに作用させる圧力を安定して制御することができる。
なお、ライザー管10内の液体の液面高さは、液体中の気体の流動様式が変化して、液体中の気体の割合が大きくなることで、高くなる場合がある。この場合、気相空間Gの圧力は高くなる一方で、坑底圧は、混相流の比重が小さくなるために、低くなることがある。しかし、液体中の気体の割合が大きくなる場合は、天然ガスハイドレートの分解量が多い場合であるため、坑底圧は低くなっても、天然ガスハイドレートに作用する圧力は高くなる。したがって、気相空間の圧力が高くなると、上述したように、天然ガスハイドレートに作用する圧力も高くなるといえる。また、液体中の気体の割合が変動した場合、気相空間の圧力は、坑底圧と比べ、変動し難い。このため、液体中の気体の流動様式が変化した場合にも、上述したように、気相空間の圧力の変動量に応じて、天然ガスハイドレートに作用させる圧力を安定して制御することができる。
【0047】
また、気相空間Gの圧力を用いて、気相空間Gの圧力の測定値の気相空間Gの基準圧力からの変動量に応じた制御を行うことで、坑底圧を用いた場合と比べ、ライザー管内で異常が発生したことに速やかに気づくことができる。
【0048】
例えば、ポンプ23が故障すると、液体排出ライン13内に水が吸い上げられない。一方で、ライザー管10内には孔18aを通して水や海水が取り込まれ続ける。このため、液面高さが上昇し続け、気相空間Gの圧力も上昇を続ける。しかし、ライザー管10内の液体中の気体の流動様式の変動によって、気相空間Gの圧力がこのように変動することはない。このため、気相空間Gがこのような変動を示した場合は、異常が発生したことに気づきやすい。
この場合、制御装置40は、例えば、ポンプ23の駆動を停止することで、システム1の運転を停止する。システム1の停止後、ポンプ23の状態の確認など、異常を特定するための作業が行われ、必要に応じて、ポンプ23の修理、交換等が行われる。その後、制御装置40は、ポンプ23の駆動を再開し、システム1の運転を再開する。
【0049】
また、例えば、ライザー管10の孔18aあるいはスクリーン19が、砂や泥、あるいは、ライザー管10の外側で再生成した天然ガスハイドレートによって塞がって、ライザー管10内の液体に取り込まれる気液混合物の量が減少すると、ライザー管10内の液面高さが下降し続け、気相空間Gの圧力も下降を続ける。しかし、ライザー管10内の液体中の気体の流動様式によって、気相空間Gの圧力がこのように変動することはないため、気相空間Gがこのような変動を示した場合は、異常が発生したことに気づきやすい。
この場合も、制御装置40は、例えば、ポンプ23の駆動を停止することで、システム1の運転を停止する。システム1の停止後、ライザー管10の孔18aやスクリーン19の状態の確認など、異常を特定するための作業が行われ、適宜、例えば、再生成した天然ガスハイドレートを、インヒビターを用いて融解させることが行われる。その後、制御装置40は、ポンプ23の駆動を再開し、システム1の運転を再開する。
【0050】
このように、気相空間Gの圧力を用いることで、坑底圧を用いた場合と比べ、ライザー管内で異常が発生したことに速やかに気づくことができる。
【0051】
制御装置40は、目標圧力の範囲の情報に加え、許容圧力の範囲の情報を保持していてもよい。許容圧力の範囲は、目標圧力の範囲よりも広い、目標圧力の範囲を包含する気相空間Gの圧力の範囲である。制御装置40は、例えば、気相空間Gの圧力が許容圧力の範囲を超えれば、ポンプ23の回転数を下げ、気相空間Gの圧力が許容圧力の範囲内であれば、ポンプ23の駆動を継続することができる。
【0052】
以上のように、制御装置40は、気相空間Gの圧力の測定値の気相空間Gの基準圧力からの変動量に応じて、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御する。これにより、坑底圧を用いる場合と比べて、天然ガスハイドレートの分解のために天然ガスハイドレートに作用させる圧力を安定して制御することができる。また、気相空間Gの圧力を用いることで、坑底圧を用いた場合と比べ、ライザー管内で異常が発生したことに速やかに気づくことができる。
【0053】
制御装置40は、気相空間Gの圧力の測定値の変動量に応じて、ポンプ23による液体の排出量を調整することで、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御することが好ましい。気液混合物には、ライザー管内の液体に混入する水が含まれており、天然ガスハイドレートの分解が行われている間、ライザー管10内には絶えず水や海水が流入する。この場合に、ポンプ23を用いて液体の排出量の調整を行うことで、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御を容易に行うことができる。
【0054】
ライザー管10内の液面Sの上方には、気泡の少なくとも一部が液面Sに浮上して気相空間Gに流入した気体を、生産する天然ガスとして取り出すガス生成ライン12を備えることが好ましい。ガス生成ライン12内の空間が気相空間Gと連通していることにより、液体の液面高さが上がったときに、ガス生成ライン12内の空間がバッファとして機能し、気相空間G内の圧力が過度に上昇することが抑制される。
【0055】
圧力計30は、制御装置40による、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御に伴って変動する液面高さの範囲の上方に位置していることが好ましい。これによって、液面高さが高くなっても、気相空間Gの圧力を継続して計測することができる。制御装置40は、液面高さの範囲が、図2に示す例では、囲み容器21の上端より上方、かつ、隔壁17bより下方の高さ範囲内となるよう、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御を行う。液面高さが、囲み容器21の上端の高さ位置以下であると、気液混合物が、囲み容器21内に流入することができず、ポンプの空引きを発生させてしまう。また、液面高さが、隔壁17bの高さ位置以上であると、気相圧力を計測できない。
【0056】
したがって、一実施形態として、地中内のガスハイドレートを分解してガスを生産する天然ガス生産方法を以下のように実現することができる。
地中内に埋設された先端部10aを有し、先端部10aから上方に延びるライザー管10内の液体によってライザー管10内に生じる先端部10aにおける圧力を用いてライザー管10の外部にある天然ガスハイドレートに作用する圧力を低減させる。
次に、天然ガスハイドレートに作用する、低減された圧力によって天然ガスハイドレートから分解して生成される気泡を含む気液混合物を、ライザー管10の外部に開口した孔18aからライザー管10内の液体に取り込む。
液体の上方に形成された気相空間Gの圧力を計測する。
ガスハイドレートに先端部10aにおける圧力を作用させるとき、および、気液混合物をライザー管10内の液体に取り込むとき、ライザー管10内の空間に、気相空間Gの圧力の測定値の気相空間Gの基準圧力からの変動量に応じてガスハイドレートに作用する圧力を制御することにより気液混合物の生産量を調整する。
【0057】
天然ガス生産方法は、さらに、ポンプを用いて、水が混入する液体を排出する。
気液混合物は、ガスの気泡と、液体に混入する水とを含んでいる。天然ガス生産方法では、気液混合物の生産量を調整するとき、気相空間の圧力の測定値の変動量に応じて、ポンプ23による、水が混入する液体の排出量を調整することで、ガスハイドレートに作用する圧力を制御することが好ましい。気液混合物には、ライザー管内の液体に混入する水が含まれており、天然ガスハイドレートの分解が行われている間、ライザー管10内には絶えず水や海水が流入する。この場合に、ポンプ23を用いて液体の排出量の調整を行うことで、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御を容易に行うことができる。
【0058】
天然ガス生産方法では、ライザー管内の液面の上方から、気泡の少なくとも一部が液面に浮上して気相空間に流入した気体を、生産するガスとして取り出すことを、さらに行うことが好ましい。この態様では、ガスが取り出される空間(例えば、ガス生成ライン12内の空間)が気相空間Gと連通していることにより、液体の液面高さが上がったときに、ガスが取り出される空間がバッファとして機能し、気相空間G内の圧力が過度に上昇することを抑制することができる。
【0059】
天然ガス生産方法では、天然ガスハイドレートに作用する圧力の制御の前に、気相空間Gを形成しないように液体がライザー管10内に満たされた状態から、液体の一部を排出して、ガスハイドレートが分解開始するまで液体の液面高さを下げること、をさらに行うが好ましい。この場合、坑底圧を用いて、液面高さを下げることができる。坑底圧は、例えば、圧力計31から送信される計測結果の情報から取得される。液体の上方に気相空間Gが形成されたら、坑底圧に代えて、気相空間Gの圧力を用いて、上記説明した、気相空間Gの圧力の測定値を用いた制御を行う。すなわち、気液混合物の生産量を調整するとき、天然ガスハイドレートが分解開始し、気液混合物が生産され始めたときの気相空間Gの圧力値を基準圧力として、天然ガスハイドレートに作用する圧力を制御する。
【0060】
以上、本発明のガス生産システム及びガス生産方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0061】
1 ガス生産システム
2 海底面
3 掘削船
4 上層
5 ハイドレート層
7 坑井
10 ライザー管
10a 先端部
11 管本体
12 ガス生成ライン
13 液体排出ライン
14 液体輸送管
15a 空間
16 管
17a,17b,17c 隔壁
18 揚収管部分
20 気液分離装置
21 囲み容器
21a 側壁
21b 底壁
22 遠心分離器
23 ポンプ
24 モータ
25 スクリュー
26 ヒータ
30,31 圧力計
40 制御装置
図1
図2