特許第6788976号(P6788976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 新日鉄住金化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6788976-ポリイミドフィルムの製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6788976
(24)【登録日】2020年11月5日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20201116BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20201116BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20201116BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20201116BHJP
   B29C 41/12 20060101ALI20201116BHJP
   B29C 41/22 20060101ALI20201116BHJP
   B29K 79/00 20060101ALN20201116BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20201116BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08J5/18CFG
   H05K1/03 630B
   H05K1/03 610P
   C09D179/08 A
   B32B27/34
   B29C41/12
   B29C41/22
   B29K79:00
   B29L7:00
   B29L9:00
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-24267(P2016-24267)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-141379(P2017-141379A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2019年1月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(72)【発明者】
【氏名】柿坂 康太
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】神谷 美幸
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭59−223727(JP,A)
【文献】 特開昭63−146934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
B29C 41/00−41/52
B32B 27/00−27/42
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド酸を熱処理してイミド化することにより、単層又は積層された複数層のポリイミド樹脂層からなるポリイミドフィルムを製造する方法において、
前記ポリイミド樹脂層が、線熱膨張係数が5ppm/K以上30ppm/K未満の範囲内の低熱膨張性のポリイミド樹脂層を含むとともに、該低熱膨張性のポリイミド樹脂層を形成するための前記ポリアミド酸が、酸無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られるものであって、前記酸無水物成分がピロメリット酸二無水物及び3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含み、かつ、前記ジアミン成分が2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニルを含み、
前記ポリアミド酸をイミド化して前記低熱膨張性のポリイミド樹脂層を形成するときに、ピリジン骨格、キノリン骨格、イソキノリン骨格、アクリジン骨格及びベンゾキノリン骨格よりなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格に直接結合した2級又は3級のアミノ基を有する含窒素複素環化合物をイミド化触媒として用いることを特徴とするポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記含窒素複素環化合物が、下記式の(1)又は(2)で表されるピリジン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【化1】
[式(1)において、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、Rは炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、式(2)において、mは独立に1〜4の整数を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、Rは独立に炭素数が1〜4の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示す。]
【請求項3】
前記イミド化が、
支持基材上で、単層又は積層された複数層のポリアミド酸層を熱処理して行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記支持基材が、金属箔であって、
前記金属箔の上にポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥する操作を複数回繰り返す工程、又は前記金属箔の上にポリアミド酸の溶液を多層塗布して一括で乾燥する工程のいずれかの工程によって、積層された複数層のポリアミド酸層を形成し、続く熱処理工程でイミド化を行うことを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板に好適に使用できるポリイミドフィルムの製造方法に関し、より詳しくは、イミド化触媒を使用したポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フレキシブル基板の主要材料である銅張積層板は、導電性金属箔(以下、単に金属箔という)と絶縁層から構成され、可とう性を有することから、柔軟性や屈曲性が要求される部分の配線基板に用いられ、電子機器の小型化、軽量化に貢献している。銅張積層板の中でも、絶縁層にポリイミドを用いたものは、耐熱性や寸法安定性に優れることから、携帯電話やデジタルカメラなどの情報端末機等の配線基板に広く使用されている。これらのデジタル情報端末の需要は年々拡大を続けており、今後もさらに増加することが予想されるために、銅張積層板の生産数量を増加させることが製品供給上重要となる。
【0003】
ポリイミドフィルムを製造する方法の一つとして、閉環触媒及び脱水剤を含有するポリアミド酸の有機溶媒溶液を支持体表面にキャストし、ポリアミド酸をイミド化する方法が提案されている(例えば、特許文献1など)。しかしながら、特許文献1で提案されている閉環触媒及び脱水剤は、室温下でもイミド化(硬化ともいう)が進行するので、ポリアミド酸の有機溶媒溶液のゲル化が生じ、そのハンドリング性に問題があった。
【0004】
また、ポリアミド酸を閉環してポリイミドを製造する方法としては熱的閉環法と化学閉環法を併用した方法が提案されている(例えば、特許文献2など)。特許文献2によると、高温での硬化時間を短縮できるイミド化触媒として、イミダゾール化合物などが提案されている。しかし、これらのイミド化触媒を使用して得られるポリイミドフィルムの物性を制御するには限界があり、特に熱処理条件によって、ポリイミドフィルムの物性を制御する目的に対しては、その適用に制限があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−237928号公報
【特許文献2】特許第4823953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ポリイミドフィルムの生産性向上のために、イミド化触媒を使用する場合に高温での硬化時間の短縮化に伴うポリイミドフィルムの物性制御の制限を緩和し、物性制御の自由度が高いポリイミドフィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の課題を解決するため検討を重ねた結果、特定のイミド化触媒を使用することで、ポリイミドフィルムの物性制御の範囲を拡大させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、ポリアミド酸を熱処理してイミド化することにより、単層又は積層された複数層のポリイミド樹脂層からなるポリイミドフィルムを製造する方法である。そして、本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記ポリアミド酸をイミド化して前記ポリイミド樹脂層の少なくとも1層を形成するときに、ピリジン骨格、キノリン骨格、イソキノリン骨格、アクリジン骨格及びベンゾキノリン骨格よりなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格に直接結合した2級又は3級のアミノ基を有する含窒素複素環化合物をイミド化触媒として用いることを特徴とする。
【0009】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記含窒素複素環化合物が、下記式の(1)又は(2)で表されるピリジン化合物であってもよい。
【0010】
【化1】
【0011】
式(1)において、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、Rは炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、式(2)において、mは独立に1〜4の整数を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、Rは独立に炭素数が1〜4の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示す。
【0012】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記イミド化触媒を用いて形成される前記ポリイミド樹脂層が、低熱膨張性であってもよい。この場合、前記低熱膨張性のポリイミド樹脂層の線熱膨張係数が5ppm/K以上30ppm/K未満の範囲内にあってもよい。
【0013】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記イミド化が、支持基材上で、単層又は積層された複数層のポリアミド酸層を熱処理して行われてもよい。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法は、前記支持基材が金属箔であってもよく、前記金属箔の上にポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥する操作を複数回繰り返す工程、又は前記金属箔の上にポリアミド酸の溶液を多層塗布して一括で乾燥する工程のいずれかの工程によって、積層された複数層のポリアミド酸層を形成し、続く熱処理工程でイミド化を行うものであってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明方法によれば、得られるポリイミドフィルムの物性を制御しやすいため、目的に応じたポリイミドフィルムを高い生産性で提供することができる。また、本発明方法で使用するイミド化触媒は、室温でポリアミド酸のイミド化を進行させにくいため、ハンドリング性も良好である。さらに、本発明方法において、ポリアミド酸の塗膜を支持基材上でイミド化する場合、得られるポリイミドフィルムは寸法安定性に優れるので、このポリイミドフィルムを回路基板の絶縁層として用いることにより、回路基板の配線形成工程や実装工程での位置合わせの精度を高めることができ、信頼性の高い電子機器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例3、実施例4、比較例3、比較例4の結果をまとめて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
[ポリイミドフィルムの製造方法]
<ポリイミドフィルム>
まず、本発明方法で製造されるポリイミドフィルムは、ポリアミド酸を熱処理してイミド化を行い、単層又は複数層のポリイミド樹脂層からなるフィルムを形成してなるものである。なお、本発明でいうポリイミドとは、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の分子構造中にイミド基を有するポリマーからなる樹脂をいい、その分子骨格中に感光性基、例えばエチレン性不飽和炭化水素基を含有するものも含まれる。
【0019】
本発明のポリイミドフィルムの製造方法の態様として、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法などが挙げられる。また、本発明で製造されるポリイミドフィルムが、複数層のポリイミド樹脂層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。そして、上記[1]〜[4]の方法において、ポリアミド酸を熱処理してイミド化するときに、イミド化触媒としてアルキル基が結合したアミノ基を有する含窒素複素環化合物を用いる。
【0020】
上記[1]の方法は、例えば、次の工程1a〜1c;
(1a)支持基材にポリアミド酸の溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(1b)支持基材上でポリアミド酸を熱処理してイミド化することによりポリイミド樹脂層を形成する工程と、
(1c)支持基材とポリイミド樹脂層とを分離することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0021】
上記[2]の方法は、例えば、次の工程2a〜2c;
(2a)支持基材にポリアミド酸の溶液を塗布し、乾燥させる工程と、
(2b)支持基材とポリアミド酸のゲルフィルムとを分離する工程と、
(2c)ポリアミド酸のゲルフィルムを熱処理してイミド化することによりポリイミドフィルムを得る工程と、
を含むことができる。
【0022】
上記[3]の方法は、上記[1]の方法又は[2]の方法において、工程1a又は工程2aを複数回繰り返し、支持基材上にポリアミド酸の積層構造体を形成する以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0023】
上記[4]の方法は、上記[1]の方法の工程1a、又は[2]の方法の工程2aにおいて、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布し、乾燥させる以外は、上記[1]の方法又は[2]の方法と同様に実施できる。
【0024】
<支持基材>
本発明で製造されるポリイミドフィルムが単層又は複数層のいずれの場合であっても、支持基材上でポリアミド酸のイミド化を完結させることが好ましい。ポリアミド酸の樹脂層が支持基材に固定された状態でイミド化されるので、イミド化過程におけるポリイミド樹脂層の伸縮変化を抑制して、寸法精度を維持することができる。
【0025】
本発明で使用される支持基材は、ポリアミド酸の溶液が塗布される対象となり、カットシート状、ロール状又はエンドレスベルト状などの形状を使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、ポリイミド樹脂層の寸法精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、支持基材は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
【0026】
支持基材の材質としては、金属、セラミックス、樹脂、炭素など耐熱性があるものが挙げられるが、熱伝導性や柔軟性の観点から、金属が好ましい。従って、支持基材としては、金属箔、例えば銅箔、アルミニウム箔、ステンレス箔、鉄箔、銀箔、金箔、亜鉛箔、インジウム箔、スズ箔、ジルコニウム箔、タンタル箔、チタン箔、コバルト箔及びこれら合金箔が挙げられる。ポリイミド樹脂層を回路配線基板の絶縁層として適用し、また支持基材を回路配線基板の配線層として適用する場合には、支持基材は、銅箔又は銅合金箔が好ましい。また、ポリイミド樹脂層を支持基材から剥離して使用する場合には、支持基材としては、平滑なステンレスベルトやステンレスドラムなどが好適に使用可能である。
【0027】
支持基材としての金属箔の厚みは、例えば5〜35μmの範囲内が好ましく、9〜18μmの範囲内がより好ましい。金属箔が35μmより厚いと、ポリイミド樹脂層及び金属箔層からなる積層体としての屈曲性や折り曲げ性が悪くなる。一方、金属箔が5μmより薄いと、積層体としての製造工程において、張力等の調整が困難となり、皺等の不良が発生し易くなる。また、これらの金属箔は、接着力等の向上を目的として、その表面に化学的あるいは機械的な表面処理を施してもよく、防錆を目的とする化学的な表面処理を施してもよい。
【0028】
<ポリアミド酸>
本発明で製造されるポリイミドフィルムを構成するポリイミドの前駆体としては、公知の酸無水物とジアミンから得られる公知のポリアミド酸が適用できる。ポリアミド酸は、例えばテトラカルボン酸二無水物とジアミンをほぼ等モルで有機溶剤中に溶解させて、0〜100℃の範囲内の温度で30分〜24時間撹拌し重合反応させることで得られる。反応にあたっては、得られるポリアミド酸が有機溶剤中に5〜30重量%の範囲内、好ましくは10〜20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解することがよい。重合反応する際に用いる有機溶剤については、極性を有するものを使用することがよく、有機極性溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、2−ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N−メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶剤を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の一部使用も可能である。
【0029】
合成されたポリアミド酸は、溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶剤に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶剤可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cP〜100,000cPの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際に塗膜に厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。このように調製したポリアミド酸の溶液に、後述するイミド化触媒を添加し、塗布液として利用することができる。
【0030】
<イミド化触媒>
本発明において使用するイミド化触媒は、ピリジン骨格、キノリン骨格、イソキノリン骨格、アクリジン骨格及びベンゾキノリン骨格よりなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格に直接結合した2級又は3級のアミノ基を有する含窒素複素環化合物である。この含窒素複素環化合物において、2級又は3級のアミノ基は、アルキル基で置換されていることが好ましい。ここで、2級又は3級のアミノ基における置換基としてのアルキル基は、直鎖状、枝分かれ状、又は環状のアルキル基であってもよく、環状のアルキル基は、さらに直鎖状又は枝分かれ状のアルキル基で置換されていてもよい。このような含窒素複素環化合物は、ポリアミド酸の分子間に配位するので、分子配向度を高めることができると考えられる。また、アルキル基が置換したアミノ基は、ポリアミド酸のアミド基(−CONH−)のプロトンを引き抜き、求核性の増加した−CON−部位がポリアミド酸のカルボキシル基(−COOH)のカルボニルを攻撃し、イミド化を促進させると考えられる。このプロトン引き抜きの強さを表す指標として、含窒素複素環化合物の水溶液中でのプロトン錯体の酸解離指数(pKa)を適用することができる。本発明で使用する含窒素複素環化合物の酸解離指数は、8.8〜11.2の範囲内のものが好ましく、更に好ましくは9.0〜11.0の範囲内がよい。酸解離指数が8.8以上のイミド化触媒を使用することで、塩基性の窒素によるアミド基のプロトンの引き抜きをより効果的に行うことができるため、イミド化が促進すると考えられる。一方、酸解離指数が11.2を超えると、その高い塩基性からイミド化が過剰に促進されるため、添加直後から粘度が上昇しハンドリング性が悪くなるため好ましくない。
【0031】
本発明で用いるイミド化触媒としての含窒素複素環化合物は、下記式(1)又は(2)で表されるピリジン化合物であることが好ましい。
【0032】
【化2】
[式(1)中において、Rは水素原子又は炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示すが、好ましくはRは炭素数が1〜4の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、Rは炭素数が1〜6の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示すが、好ましくはRは炭素数が1〜4の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示し、式(2)において、mは独立に1〜4の整数を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、Rは独立に炭素数が1〜4の直鎖状若しくは枝分かれ状のアルキル基を示す。]
【0033】
含窒素複素環化合物の具体例としては、例えば、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、N,N−ジエチル−4−アミノピリジン、N,N−ジ(n−プロピル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(イソプロピル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(n−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(イソブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(sec−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(tert−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−エチルメチル−4−アミノピリジン、N,N−メチル−(n−プロピル)−4−アミノピリジン、N,N−エチル−(n−ブチル)−4−アミノピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(1−ピペリジニル)−ピリジン、4−(1−アゼパニル)−ピリジン、4−(1−ヘプタヒドロアゾシニル)−ピリジン、4−(3−メチル−1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(3,4−ジメチル−1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(3−メチル−1−ピペリジニル)−ピリジン、4−(3,4−ジメチル−1−ピペリジニル)−ピリジン等のピリジン骨格を有する含窒素複素環化合物、N−メチル−4−アミノキノリン、N−メチル−7−アミノキノリン、N,N−ジメチル−4−アミノキノリン、N,N−ジメチル−5−アミノキノリン、N,N−ジメチル−7−アミノキノリン等のキノリン骨格を有する含窒素複素環化合物、N−メチル−1−アミノイソキノリン、N−エチル−1−アミノイソキノリン、N−メチル−3−アミノイソキノリン、N−メチル−5−アミノイソキノリン、N−エチル−5−アミノイソキノリン、N−メチル−6−アミノイソキノリン、N−メチル−8−アミノイソキノリン、N−エチル−8−アミノイソキノリン、N,N−ジメチル−1−アミノイソキノリン、N,N−ジエチル−1−アミノイソキノリン、N,N−ジメチル−5−アミノイソキノリン、N,N−ジエチル−5−アミノイソキノリン、N,N−ジエチル−7−アミノイソキノリン、N,N−ジエチル−8−アミノイソキノリン等のイソキノリン骨格を有する含窒素複素環化合物、N−メチル−1−アミノアクリジン、N−エチル−1−アミノアクリジン、N−メチル−4−アミノアクリジン、N−エチル−4−アミノアクリジン、N−エチル−N−プロピル−1−アクリジンアミン、N,N−ジメチル−3−アミノアクリジン、N,N−ジメチル−9−アミノアクリジン、N,N−ジエチル−9−アミノアクリジン等のアクリジン骨格を有する含窒素複素環化合物、N−メチル−4−アミノベンゾ[f]キノリン、N−エチル−4−アミノベンゾ[f]キノリン、N,N−ジブチル−8−アミノベンゾ[f]キノリン、N−ブチル−4−アミノベンゾ[g]キノリン等のベンゾキノリン骨格を有する含窒素複素環化合物が挙げられる。これらの中でも、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、N,N−ジエチル−4−アミノピリジン、N,N−ジ(n−プロピル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(イソプロピル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(n−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(イソブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(sec−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−ジ(tert−ブチル)−4−アミノピリジン、N,N−エチルメチル−4−アミノピリジン、N,N−メチル−(n−プロピル)−4−アミノピリジン、N,N−エチル−(n−ブチル)−4−アミノピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(1−ピペリジニル)−ピリジン、4−(1−アゼパニル)−ピリジン、4−(1−ヘプタヒドロアゾシニル)−ピリジン、4−(3−メチル−1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(3,4−ジメチル−1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(3−メチル−1−ピペリジニル)−ピリジン、4−(3,4−ジメチル−1−ピペリジニル)−ピリジン等のピリジン骨格を有する含窒素複素環化合物から選択された少なくとも1種が好ましく、特に好ましくは、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(1−ピペリジニル)−ピリジンから選択された少なくとも1種であることがよい。このようなアルキル基が置換したアミノ基を有するピリジン化合物は、ポリイミドの配向度を向上させるので、特に低熱膨張性のポリイミド樹脂層に適用することが好ましい。低熱膨張性のポリイミド樹脂層の線熱膨張係数は、好ましくは5ppm/K以上30ppm/K未満の範囲内、より好ましくは10ppm/K以上20ppm/K以下の範囲内であることがよい。低熱膨張性のポリイミドは、熱処理時間の短縮化による線熱膨張係数の急激な上昇を生じやすいが、このようなイミド化触媒を使用することで、ポリイミド樹脂層の線熱膨張係数の急激な上昇を抑えることが可能となる。上記のピリジン化合物の中でも、特に、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン、4−(1−ピロリジニル)−ピリジン、4−(1−ピペリジニル)−ピリジンは、立体的な障害が生じにくいため、イミド化触媒としての機能を低下させずに、ポリイミドの配向度を向上させるので好ましい。
【0034】
イミド化触媒の添加量は、テトラカルボン酸二無水物の1モルとジアミン化合物の1モルから生じるポリアミド酸の構成単位1モルに対して、好ましくは0.01〜1モルの範囲内、より好ましくは0.05以上0.5モル未満の範囲内、更に好ましくは0.05〜0.25モルの範囲内がよい。このような範囲内とすることで、イミド化が過剰に促進されることによる粘度の上昇を抑制することができ、高いハンドリング性を保つことができる。なお、ポリアミド酸の構成単位1モルは、ポリイミドの構成単位1モルを与える。
【0035】
<イミド化>
ポリアミド酸の溶液は、支持基材上に塗布され、続く熱処理で乾燥及びイミド化(又は硬化)される。熱処理は、例えば60〜380℃の温度範囲内で行うことができる。この熱処理の一部である、溶媒を除去する乾燥工程は、例えば60〜200℃で30秒〜10分、好ましくは80〜180℃の温度範囲で1〜5分の時間をかけて行うことがよい。そして、ポリアミド酸のイミド化を完結させるためには、280〜380℃の温度範囲で熱処理を行うことが必要であり、好ましくは280〜360℃の温度範囲内で行うことがよい。熱処理の過程で、温度130〜280℃の間では、イミド化触媒がポリアミド酸のアミド基のプロトンを引き抜くことでよってイミド化が進行し、さらに、ポリアミド酸の分子間にイミド化触媒が配位するので、分子配向度を高めることができ、低熱膨張性のポリイミド樹脂層を得ることができると考えられる。さらにまた、熱処理時間の短縮化によるポリイミド樹脂層の生産性向上のため、乾燥とイミド化を含めた熱処理時間は、好ましくは10分以下、より好ましくは8分以下がよい。
【0036】
本発明において、単層又は複数層のポリイミド樹脂層を有するポリイミドフィルムを得ることができるが、ポリイミド樹脂層を形成する熱可塑性ポリイミド又は非熱可塑性ポリイミドのいずれを形成する工程においても、イミド化触媒として含窒素複素環化合物を用いたイミド化手法の適用が可能である。特に、低熱膨張性のポリイミド樹脂層の形成に含窒素複素環化合物を適用することは、得られるポリイミドフィルムに十分な特性を与えることができるので好ましく、ポリイミドフィルムが多層のポリイミド樹脂層からなる場合、生産設備の簡略化の観点から、低熱膨張性のポリイミド樹脂層にのみイミド化触媒を使用することが最も好ましい。
【0037】
<低熱膨張性のポリイミド樹脂層>
低熱膨張性のポリイミド樹脂層を形成するポリイミドの具体例としては、下記式(3)で表される構造単位を有することが好ましい。
【0038】
【化3】
【0039】
式(3)中、Arは下記式(4)〜式(7)で表される2価の基からなる群より選ばれた2価の芳香族基を示し、Arは式(8)〜式(15)で表される4価の基からなる群より選ばれた4価の芳香族基を示す。
【0040】
【化4】
【0041】
式(4)〜式(7)及び式(15)において、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、nは独立に0〜4の整数を示す。式(5)〜式(9)において、Xは独立に単結合又は−C(CH)−、−(CH)m−、−O−、−S−、−SO−、−NH−、−CO−若しくは−CONH−から選ばれる2価の基を示す。そして、Arの1モルに対して、式(5)〜式(7)において、Xとして表される基であって、−(CH)m−、−O−、−S−、−SO−、−NH−、−CO−及び−CONH−から選ばれる2価の基、並びに−O−が、合計で0.2〜0.6モル含まれる。mは1〜5の整数を示す。式(13)〜式(14)において、Zは独立に−CH−、−O−、−S−、−SO−、−NH−、−CO−又は−CONH−から選ばれる2価の基を示す。
【0042】
ポリイミドの原料として用いられるジアミンとしては、例えば、4,6-ジメチル-m-フェニレンジアミン、2,5-ジメチル-p-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノメシチレン、4,4'-メチレンジ-o-トルイジン、4,4'-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4'-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、2,4-トルエンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、4,4'-ジアミノジフェニルプロパン、3,3'-ジアミノジフェニルプロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエタン、3,3'-ジアミノジフェニルエタン、4,4'-ジアミノジフェニルメタン、3,3'-ジアミノジフェニルメタン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'-ジアミノジフェニルスルホン、3,3'-ジアミノジフェニルスルホン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ベンジジン、3,3'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,3'-ジメトキシベンジジン、4,4'-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3'-ジアミノ-p-テルフェニル、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、3,7-ジアミノジベンゾフラン、1,5-ジアミノフルオレン、ジベンゾ-p-ジオキシン-2,7-ジアミン、4,4'-ジアミノベンジルなどが挙げられる。
【0043】
また、ポリイミドの原料として用いられる酸無水物としては、例えば、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、2,6-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-テトラクロロナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3',4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3'',4,4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3'',4''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ペリレン-2,3,8,9-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-3,4,9,10-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-4,5,10,11-テトラカルボン酸二無水物、ペリレン-5,6,11,12-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,7,8-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,6,7-テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン-1,2,9,10-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4'-オキシジフタル酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物などが挙げられる。上記ジアミン及び酸無水物は、それぞれ1種のみを使用してもよく2種以上を併用することもできる。
【0044】
本実施の形態において、低熱膨張性のポリイミド樹脂層とするには、例えば、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニル、2-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリドを用いることがよく、特に好ましくは、ピロメリット酸二無水物及び2,2'-ジメチル-4,4'-ジアミノビフェニルを原料各成分の主成分とするものがよい。
【0045】
<高熱膨張性のポリイミド樹脂層>
また、熱膨張係数30ppm/K以上の高熱膨張性のポリイミド樹脂層とするには、例えば、原料の酸無水物成分としてピロメリット酸二無水物、3,3',4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を、ジアミン成分としては、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4'-ジアミノジフェニルエーテル、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼンを用いることがよく、特に好ましくはピロメリット酸二無水物及び2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを原料各成分の主成分とするものがよい。
【0046】
<積層構造>
また、ポリイミド樹脂層を低熱膨張性のポリイミド樹脂層と高熱膨張性のポリイミド樹脂層との積層構造とした場合、好ましくは、低熱膨張性のポリイミド樹脂層と高熱膨張性のポリイミド樹脂層との厚み比(低熱膨張性のポリイミド樹脂層/高熱膨張性のポリイミド樹脂層)が2〜15の範囲内であるのがよい。この比の値が、2に満たないとポリイミド樹脂層全体に対する低熱膨張性のポリイミド樹脂層が薄くなるため、ポリイミド樹脂層の寸法特性の制御が困難となり、銅箔をエッチングして回路配線層を形成した際の寸法変化率が大きくなり、15を超えると高熱膨張性のポリイミド樹脂層が薄くなるため、ポリイミド樹脂層と回路配線層との接着信頼性が低下する。
【0047】
本発明で製造されるポリイミドフィルムを、例えば回路配線基板の絶縁層として適用する場合、ポリイミド樹脂層は金属箔との接着性を良好なものとするために、金属箔と接するポリイミド樹脂層には高熱膨張性のポリイミドを選択することが好ましい。このような高熱膨張性のポリイミドは、熱可塑性のポリイミドとして知られているが、そのガラス転移温度は350℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0049】
[粘度の測定]
樹脂の粘度は、E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV−II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%〜90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0050】
[分子量の測定]
分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(東ソー株式会社製、商品名;HLC−8220GPC)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にはN,N−ジメチルアセトアミドを用いた。
【0051】
[イミド化率の評価]
ポリイミドフィルムのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、FT/IR)を用い、一回反射ATR法にてポリイミドフィルムの赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1009cm−1のベンゼン環炭素水素結合を基準とし、1778cm−1のイミド基由来の吸光度から算出した。なお、触媒添加を行わずに作製したポリイミドフィルムのイミド化率を100%とした。
【0052】
[線熱膨張係数(CTE)の測定]
線熱膨張係数は、3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から250℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(線熱膨張係数)を求めた。
【0053】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度は、5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、tanδが最大となる温度をガラス転移温度とした。
【0054】
実施例及び比較例に用いた略号は、以下の化合物を示す。
DMAP:N,N−ジメチル−4−アミノピリジン
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
4,4’−DAPE:4,4’−ジアミノジフェニルエーテル
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0055】
合成例1
300mlのセパラブルフラスコ中において、57gのDMAcに4.0gのm−TB(18.8mmol)及び0.9gの4,4’−DAPE(4.5mmol)を加え、室温下で撹拌しながら溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で4.8gのPMDA(22.1mmol)及び0.4gのBPDA(1.2mmol)を加え、3時間撹拌を続け、重合反応を行い、粘稠なポリアミド酸の溶液Aを得た。得られたポリアミド酸溶液Aの粘度は24,000cP、重量平均分子量(Mw)は120,000であった。
【0056】
合成例2
300mlのセパラブルフラスコ中において、53gのDMAcに4.0gのBAPP(9.7mmol)を加え、室温下で撹拌しながら溶解させた。次に、その溶液に窒素気流中で2.1gのPMDA(9.7mmol)を加え、3時間撹拌を続け、重合反応を行い、高熱膨張性ポリイミド樹脂前駆体である粘稠なポリアミド酸溶液Bを得た。得られたポリアミド酸の溶液Bの粘度は1200cP、重量平均分子量(Mw)は116,000であった。ポリアミド酸溶液Bから形成された厚み25μmの高熱膨張性ポリイミドフィルムの線熱膨張係数(CTE)は、55ppm/K、ガラス転移温度(Tg)は345℃であった。
【0057】
比較例1
合成例1で得られたポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが25μmになるように支持基材としての銅箔の上に塗布し、120〜360℃の範囲で段階的に昇温しながら13分間加熱処理を行うことでイミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板1を得た。得られた積層板1の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム1を得、得られたポリイミドフィルム1の線熱膨張係数を測定したところ、18.5ppm/Kであった。
【0058】
比較例2
ポリアミド酸溶液Aの熱処理時間を13分から8分に短縮した以外は、比較例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム2を得、線熱膨張係数を測定したところ30.7ppm/Kであった。
【0059】
実施例1
合成例1で得られたポリアミド酸溶液Aに、0.28gのDMAP(2.3mmol)を加えて2分間プラネタリーミキサーで攪拌することで、イミド化触媒が添加されたポリアミド酸溶液Cを得た。これを硬化後の厚みが25μmになるように支持基材としての銅箔の上に塗布し、120〜360℃の範囲で段階的に昇温しながら8分間加熱処理を行うことでイミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板3を得た。得られた積層板3の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム3を得た。得られたポリイミドフィルム3の線熱膨張係数を測定したところ、19.9ppm/Kであった。なお、ポリアミド酸溶液Cを室温下で2時間放置したが、粘度の上昇は確認されなかった。
【0060】
参考例1
合成例1で得られたポリアミド酸溶液A(固形分濃度;15重量%)の代わりに、固形分濃度を12重量%としたポリアミド酸溶液A’を準備し、このポリアミド酸溶液A’に、0.28gのDMAP(2.3mmol;ポリアミド酸の構成単位1モルに対して0.5モル)を加えて2分間プラネタリーミキサーで攪拌することで、イミド化触媒が添加されたポリアミド酸溶液C’を得た。このポリアミド酸溶液C’を室温下で2時間放置したところ、粘度が上昇し流動性を失っていることが確認された。
【0061】
実施例2
合成例1で得られたポリアミド酸溶液Aに、0.34gの4−(1−ピロリジニル)−ピリジン(2.3mmol)を加えて2分間プラネタリーミキサーで攪拌することで、イミド化触媒が添加されたポリアミド酸溶液Dを得た。これを硬化後の厚みが25μmになるように銅箔の上に塗布し、120〜360℃の範囲で段階的に昇温しながら8分間加熱処理を行うことでイミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板4を得た。得られた積層板4の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム4を得た。得られたポリイミドフィルム4の線熱膨張係数を測定したところ、20.8ppm/Kであった。
【0062】
実施例3
ポリアミド酸溶液Cの熱処理の際に、140℃での熱処理時間が最も長くなる熱処理条件を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム5を得、線熱膨張係数を測定したところ18.1ppm/Kであった。
【0063】
実施例4
ポリアミド酸溶液Cの熱処理の際に、200℃での熱処理時間が最も長くなる熱処理条件を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム6を得、線熱膨張係数を測定したところ28.5ppm/Kであった。
【0064】
比較例3
合成例1で得られたポリアミド酸溶液Aに、0.16gのイミダゾール(2.3mmol)を加えて2分間プラネタリーミキサーで攪拌することで、イミド化触媒が添加されたポリイミド前駆体樹脂溶液Eを得た。これを硬化後の厚みが25μmになるように銅箔の上に塗布し、120〜360℃の範囲で段階的に昇温しながら8分間加熱処理を行うことでイミド化を完了し、ポリイミド樹脂層の厚みが25μmの積層板7を得た。このとき、140℃での熱処理時間が最も長くなるような熱処理条件であった。得られた積層板7の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム7を得た。得られたポリイミドフィルム7の線熱膨張係数を測定したところ、19.1ppm/Kであった。
【0065】
比較例4
140℃での熱処理時間が最も長くなるような熱処理条件の代わりに、200℃での熱処理時間が最も長くなる熱処理条件を用いた以外は、比較例3と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム8を得、線熱膨張係数を測定したところ22.9ppm/Kであった。
【0066】
実施例3,4および比較例3,4の結果をまとめて図1および表1に示す。図1および表1において「最長熱処理温度」とは、総熱処理時間の中で最も保持時間が長かった温度を意味する。また、CTEは線熱膨張係数を意味し、PI樹脂層はポリイミド樹脂層を意味する。図1および表1のように、DMAPを用いたポリイミド樹脂層の熱処理条件に対する線熱膨張係数の変化の範囲(実施例3及び4)は、イミダゾールを用いたポリイミド樹脂層の線熱膨張係数の変化の範囲(比較例3及び4)に比べて3倍近く大きくなっており、イミダゾールを用いた場合に比べてDMAPを用いた方が、熱処理条件によって容易にポリイミド樹脂層の物性を制御できることを示している。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例5
銅箔1(電解銅箔)の上に、合成例2で得られたポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で30秒間乾燥した。その上に実施例1で得られたポリアミド酸溶液Cを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、130℃の範囲で2分間乾燥した。更にその上に、合成例2で得られたポリアミド酸溶液Bを、硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で30秒間乾燥した後、140〜360℃の範囲で段階的に昇温しながら5分間熱処理を行うことでイミド化を完了し、高熱膨張性ポリイミド/低熱膨張性ポリイミド/高熱膨張性ポリイミドの厚みがそれぞれ2μm/21μm/2μmの積層板9を得た。得られた積層板9の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム9を得た。得られたポリイミドフィルム9の線熱膨張係数を測定したところ、22.1ppm/Kであった。
【0069】
実施例6
ポリアミド酸溶液Cを用いる代わりに、実施例2で得られたポリアミド酸溶液Dを用いた以外は、実施例5と同様の方法で、高熱膨張性ポリイミド/低熱膨張性ポリイミド/高熱膨張性ポリイミドの厚みがそれぞれ2μm/21μm/2μmのポリイミドフィルム10を得、得られたポリイミドフィルム10の線熱膨張係数を測定したところ、22.9ppm/Kであった。
【0070】
実施例7
リップ幅200mmのマルチマニホールド式の3層共押出三層ダイを用い、合成例2で得られたポリアミド酸溶液B/実施例1で得られたポリアミド酸溶液C/合成例2で得られたポリアミド酸溶液Bの順の3層構造で銅箔上に押出し流延塗布した。その後、120〜360℃の温度で8分間熱処理を行うことでイミド化を完了し、高熱膨張性ポリイミド/低熱膨張性ポリイミド/高熱膨張性ポリイミドの厚みがそれぞれ2μm/21μm/2μmの積層板11を得た。得られた積層板11の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム11を得た。得られたポリイミドフィルム11の線熱膨張係数を測定したところ、22.4ppm/Kであった。
【0071】
実施例8
リップ幅200mmのマルチマニホールド式の3層共押出三層ダイを用い、合成例2で得られたポリアミド酸溶液B/実施例2で得られたポリアミド酸溶液D/合成例2で得られたポリアミド酸溶液Bの順の3層構造で銅箔上に押出し流延塗布した。その後、120〜360℃の温度で8分間熱処理を行うことでイミド化を完了し、高熱膨張性ポリイミド/低熱膨張性ポリイミド/高熱膨張性ポリイミドの厚みがそれぞれ2μm/21μm/2μmの積層板12を得た。得られた積層板12の銅箔層をエッチングにより除去しポリイミドフィルム12を得た。得られたポリイミドフィルム12の線熱膨張係数を測定したところ、23.1ppm/Kであった。
【0072】
実施例9
0.28gのDMAPを用いる代わりに、0.40gのN,N−ジメチル−4−アミノイソキノリン(pKa;9.40、2.3mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム13を得、線熱膨張係数を測定したところ27.4ppm/Kであった。
【0073】
実施例10
0.28gのDMAPを用いる代わりに、0.40gのN,N−ジメチル−1−アミノイソキノリン(pKa;7.84、2.3mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム14を得、線熱膨張係数を測定したところ26.3ppm/Kであった。
【0074】
実施例11
0.28gのDMAPを用いる代わりに、0.51gのN,N−ジメチル−9−アミノアクリジン(pKa;9.10、2.3mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム15を得、線熱膨張係数を測定したところ29.8ppm/Kであった。
【0075】
実施例12
0.28gのDMAPを用いる代わりに、0.56gのN−ブチル−4−アミノベンゾ[g]キノリン(pKa;8.89、2.3mmol)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で厚さ25μmのポリイミドフィルム16を得、線熱膨張係数を測定したところ31.7ppm/Kであった。
【0076】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。

図1