特許第6789061号(P6789061)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789061
(24)【登録日】2020年11月5日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20201116BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20201116BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20201116BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20201116BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C08L21/00
   C08K5/548
   C08L9/00
   C08K3/36
   B60C1/00 Z
   B60C1/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-206403(P2016-206403)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-65954(P2018-65954A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】時宗 隆一
(72)【発明者】
【氏名】土田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】北郷 亮太
(72)【発明者】
【氏名】石野 崇
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
【審査官】 幸田 俊希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−083393(JP,A)
【文献】 特開昭59−184192(JP,A)
【文献】 特開平10−182847(JP,A)
【文献】 特開2000−083393(JP,A)
【文献】 特開平09−132609(JP,A)
【文献】 特表2007−509226(JP,A)
【文献】 米国特許第05994448(US,A)
【文献】 米国特許第06326424(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0053262(US,A1)
【文献】 国際公開第2016/105932(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0020576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 9/00
C08K 5/548
C08K 3/36
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記平均組成式(I)で表され、かつ硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である有機珪素化合物、及び、シリカを含む無機フィラーを含有するタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
(式中、xは、硫黄原子の平均個数を表す。mは、6〜12の整数を表す。R〜Rは、同一若しくは異なって炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を表し、R〜Rの少なくとも1つ及びR〜Rの少なくとも1つが前記アルコキシ基である。なお、R〜Rは、前記アルキル基又は前記アルコキシ基が結合した環構造を形成したものでもよい。)
【請求項2】
ジエン系ゴム、前記無機フィラー、及び前記有機珪素化合物を含有し、
前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記無機フィラーの配合量が5〜150質量部、前記無機フィラー100質量部に対する前記有機珪素化合物の配合量が0.5〜15質量部である請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記無機フィラーは、シリカ含有率が90質量%以上である請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車に対する安全性及び低燃費性への要求に伴って、タイヤ用ゴム材料には、ウェットスキッド特性、燃費特性、耐摩耗性の同時改良が望まれているが、これらは互いに二律背反の関係にあり、バランス良く改善することは一般に困難である。
【0003】
従来から、このような問題を解決する方法として、シリカ(低発熱化充填剤)を使用する方法が知られているが、シリカは、その表面官能基であるシラノール基の水素結合により粒子同士が凝集する傾向があり、分散が不充分となるため、加工性に劣る、等の問題がある。
【0004】
そこで、シリカ分散性を向上させる方法として、シランカップリング剤の使用が開発されており、例えば、特許文献1には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等が提案されている。しかしながら、このような汎用シランカップリング剤を用いても、高水準の加工性や耐摩耗性を得るという点について更なる改善が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4266248号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、低燃費性を維持しつつ、耐摩耗性と加工性の両立が可能となるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記平均組成式(I)で表され、かつ硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である有機珪素化合物を含有するタイヤ用ゴム組成物に関する。
【化1】
(式中、xは、硫黄原子の平均個数を表す。mは、6〜12の整数を表す。R〜Rは、同一若しくは異なって炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を表し、R〜Rの少なくとも1つ及びR〜Rの少なくとも1つが前記アルコキシ基である。なお、R〜Rは、前記アルキル基又は前記アルコキシ基が結合した環構造を形成したものでもよい。)
【0008】
ジエン系ゴム、無機フィラー、及び前記有機珪素化合物を含有し、前記ジエン系ゴム100質量部に対する前記無機フィラーの配合量が5〜150質量部、前記無機フィラー100質量部に対する前記有機珪素化合物の配合量が0.5〜15質量部であることが好ましい。
【0009】
前記無機フィラーは、シリカ含有率が90質量%以上であることが好ましい。
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製した空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記平均組成式(I)で表され、かつ硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である有機珪素化合物を含有するタイヤ用ゴム組成物であるので、低燃費性を維持しつつ、耐摩耗性と加工性の両立が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、下記平均組成式(I)で表され、かつ硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である有機珪素化合物を含有する。
【化2】
(式中、xは、硫黄原子の平均個数を表す。mは、6〜12の整数を表す。R〜Rは、同一若しくは異なって炭素数1〜6のアルキル基又はアルコキシ基を表し、R〜Rの少なくとも1つ及びR〜Rの少なくとも1つが前記アルコキシ基である。なお、R〜Rは、前記アルキル基又は前記アルコキシ基が結合した環構造を形成したものでもよい。)
【0012】
無機フィラーを含むジエン系ゴム配合において、前記式(I)の有機珪素化合物をシランカップリング剤として用いることで、良好な低燃費性(低発熱性)が得られると共に、一般にシリカ配合で問題となる加工性や、低燃費性と背反する耐摩耗性をバランス良く改善することを見出した。
【0013】
このような作用効果が得られた理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推察される。
【0014】
有機珪素化合物(シランカップリング剤)によりシリカとゴムが架橋されるが、シランカップリング剤として、特に、硫黄原子と珪素原子の間の炭素原子の個数が6〜12である上記式(I)の化合物を用いることで、シリカとゴムとの結合の長さが一般的なシランカップリング剤に比べ長くなる。そのため、架橋部位に、ある程度の柔軟性が付与され、その結果、ゴムの破壊に繋がる外部応力に対して、応力を緩和し易くなると考えられる。よって、一般的なシランカップリング剤に比べ、耐摩耗性を改善すると推察される。また、ケイ素と硫黄の間の炭素数が一般的なシランカップリング剤に比べ長くなると、シラニゼーションの速度がやや遅くなるため、混練中でシリカとゴムが過度に結合することが抑制され、良好な加工性も得られると、推察される。従って、良好な低燃費性を維持しつつ、加工性と耐摩耗性の両立が可能となり、これらの性能をバランス良く改善できる。
【0015】
xは、前記有機珪素化合物の硫黄数の平均値を表す。つまり、前記平均組成式(I)で表される有機珪素化合物は、異なる硫黄数を持つ化合物の混合物であり、ゴム組成物に含まれる前記有機珪素化合物の硫黄数の平均値がxである。xは、{2×(硫黄原子の個数)}/(珪素原子の個数)で表される。低燃費性、耐摩耗性、加工性の性能バランスの点から、xは、好ましくは2.0〜2.4、より好ましくは2.0〜2.3である。特に、xを上限未満とすることで、未加硫ゴムのムーニー粘度上昇を抑制し、良好な加工性が得られる。ここで、硫黄原子の個数、珪素原子の個数は、蛍光X線により組成物中の硫黄量、珪素量を測定しそれぞれの分子量より換算した値である。
【0016】
mは、6〜12の整数を表し、好ましくは6〜10、より好ましくは8である。これにより前述の作用効果が発揮され、本発明の効果が充分に得られる。
【0017】
アルキル基(R〜R)の炭素数は大きい程、シラニゼーションを阻害する傾向がある。これにより加工性が向上する反面、シラニゼーションが不十分となり、低燃費性、補強性、耐摩耗性などの性能が悪化する恐れがある。
アルキル基(R〜R)は、上記性能バランスの点から、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4である。アルキル基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。
【0018】
アルコキシ基(R〜R)の炭素数は大きい程、シラニゼーションを阻害する傾向がある。これにより加工性が向上する反面、シラニゼーションが不十分となり、低燃費性、補強性、耐摩耗性などの性能が悪化する恐れがある。
アルコキシ基(R〜R)は、上記性能バランスの点から、好ましくは炭素数1〜6、より好ましくは炭素数1〜4である。アルコキシ基中の炭化水素基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基等が挙げられる。
【0019】
アルキル基、アルコキシ基(R〜R)の炭素数は大きい程、シラニゼーションを阻害する傾向がある。これにより加工性が向上する反面、シラニゼーションが不十分となり、低燃費性、補強性、耐摩耗性などの性能が悪化する恐れがある。
〜Rの少なくとも1つ及びR〜Rの少なくとも1つが炭素数1〜6のアルコキシ基であり、好ましくは、R〜R、R〜Rのそれぞれ2つ以上が炭素数1〜6のアルコキシ基である。
【0020】
なお、R〜Rは、炭素数1〜6のアルキル基、アルコキシ基が結合した環構造を形成したものでもよい。例えば、(i)Rがエトキシ基、Rがメチル基が結合した環構造、(ii)Rがエチル基、Rがメチル基が結合した環構造、を形成する場合、それぞれ、R及びRで「−O−C−CH−」、「−C−CH−」という2価の基が形成され、Siに結合した構造が挙げられる。
【0021】
前記有機珪素化合物は、硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である。つまり、ゴム組成物に含まれる前記平均組成式(I)で表される有機珪素化合物は、全硫黄個数と全珪素個数の比が前記範囲のものである。
【0022】
硫黄原子の個数/珪素原子の個数は、低燃費性、耐摩耗性、加工性の性能バランスの点から、好ましくは1.0〜1.2、より好ましくは1.0〜1.15である。
【0023】
前記有機珪素化合物の含有量は、後述の無機フィラー100質量部に対して0.5質量部以上が好ましく、4質量部以上がより好ましく、6質量部以上が更に好ましい。0.5質量部以上にすることで、有機珪素化合物(シランカップリング剤)を介したゴムとシリカとの化学的な結合が充分に形成され、良好なシリカ分散性が得られるので、低燃費性、耐摩耗性が改善される。該有機珪素化合物は、15質量部以下が好ましく、12質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。15質量部以下にすることで、良好な加工性を確保できる。
【0024】
前記平均組成式(I)で表され、かつ所定範囲の硫黄原子の個数/珪素原子の個数を有する前記有機珪素化合物は、例えば、以下の製法により調製できる。
下記式(I−1)
【化3】
(式中、R〜R及びmは、上記と同様である。Xは、ハロゲン原子を表す。)
で表されるハロゲン基含有有機珪素化合物、及びNaSで表される無水硫化ソーダ、更に必要により硫黄を反応させることにより、前記有機珪素化合物を製造できる。
【0025】
X(ハロゲン原子)としては、Cl、Br、I等が例示される。
【0026】
前記平均組成式(I)で示されるスルフィド鎖含有有機珪素化合物を構成する化合物の例としては、下記のものが挙げられる。
【0027】
【化4】
【0028】
上記式(I−1)のハロゲン基含有有機珪素化合物の例としては、下記のものが挙げられる。
【化5】
【0029】
上記反応を行う際、スルフィド鎖の調整のため、硫黄の添加は任意であり、所望の平均組成式(I)の化合物となるように、平均組成式(I−1)の化合物と無水硫化ソーダとの配合量から決定すればよい。
【0030】
例えば、平均組成式(I)の化合物のxを2.2にしたい場合、無水硫化ソーダ1.0molと、硫黄1.2molと、式(I−1)の化合物2.0molとを反応させればよい。
【0031】
その際の溶媒の使用は任意であり、無溶剤でもよいが、ペンタン、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、メタノール、エタノール等のアルコール類等の溶媒を用いてもよく、特にテトラヒドロフラン等のエーテル、メタノール、エタノール等のアルコールを用いて反応させることが好ましい。
【0032】
その際の反応温度は、特に限定されないが、室温〜200℃程度でよく、特に60〜170℃が好ましく、更に好ましくは60〜100℃である。反応時間は30分以上であるが、2〜15時間程度で反応は完結する。
【0033】
本発明において、溶媒を使用した場合、反応終了後生成した塩を濾別する前、又は濾別した後に減圧下で留去すればよい。
【0034】
本発明のゴム組成物として、ジエン系ゴム、無機フィラー、及び前記有機珪素化合物を含有するものが挙げられる。
【0035】
ジエン系ゴムとしては、イソプレン系ゴム、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、ブチルゴム(IIR)等が挙げられる。前記イソプレン系ゴムは、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、改質NR(脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム(UPNR)等)、変性NR(エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素添加天然ゴム(HNR)、グラフト化天然ゴム等)、変性IR(エポキシ化イソプレンゴム、水素添加イソプレンゴム、グラフト化イソプレンゴム等)等が挙げられる。ジエン系ゴムは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が良好に得られるという点から、SBR、イソプレン系ゴム、BRが好ましい。
【0036】
SBRとしては特に限定されず、乳化重合SBR(E−SBR)、溶液重合SBR(S−SBR)等を使用できる。NRとしては、例えば、SIR20、RSS♯3、TSR20等を使用できる。BRとしては特に限定されず、ハイシス1,4−ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、希土類系触媒を用いて合成したBR(希土類BR)などが挙げられる。SBR、BRは、変性SBR、変性BRでもよく、主鎖、末端のいずれかが変性されたSBR、BRでも、両方が変性されたSBR、BRでもよい。変性基としては、シリカと相互作用又は反応性を有する窒素含有基などが挙げられる。
【0037】
本発明のゴム組成物は、無機フィラーを含むことが好ましい。無機フィラーとしては、シリカ、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、タルク、マイカ、等が挙げられる。なかでも、低燃費性とグリップ性のバランスが良い点から、シリカが好ましい。
【0038】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0039】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、70m/g以上が好ましく、150m/g以上がより好ましい。70m/g以上にすることで、耐摩耗性等が向上する傾向がある。該シリカのNSAは、500m/g以下が好ましく、200m/g以下がより好ましい。500m/g以下にすることで、加工性が改善される傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0040】
シリカ等の無機フィラーの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、更に好ましくは20質量部以上である。5質量部以上にすることで、低燃費性等が改善される傾向がある。該含有量は、好ましくは150質量部以下、より好ましくは100質量部以下、更に好ましくは90質量部以下である。150質量部を超えると、加工性と低燃費性能のバランスが悪化する傾向がある。
【0041】
本発明のゴム組成物に含まれる無機フィラー100質量%中、シリカ含有率は、90質量%以上が好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%でもよい。無機フィラーとして多量のシリカをに用いることで、良好な耐摩耗性、低燃費性が得られる。
【0042】
本発明のゴム組成物は、カーボンブラックを含むことが好ましい。良好な耐摩耗性、加工性が付与され、本発明の効果が充分に得られる。
【0043】
カーボンブラックの含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは2質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。2質量部以上にすることで、耐摩耗性等が改善される傾向がある。該含有量は、好ましくは80質量部以下である。80質量部以下にすることで、低燃費性が良好になる傾向がある。
【0044】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、各種老化防止剤、オイル等の軟化剤、ワックス、硫黄などの加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合できる。
【0045】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法等により製造できる。
【0046】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材(サイドウォール、トレッド(キャップトレッド)、ベーストレッド、アンダートレッド、クリンチエイペックス、ビードエイペックス、ブレーカークッションゴム、カーカスコード被覆用ゴム、インスレーション、チェーファー、インナーライナー;ランフラットタイヤのサイド補強層;等)に好適に使用できる。なかでも、低燃費性、耐摩耗性が良好であるため、トレッド(キャップトレッド)に好適に適用できる。
【0047】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でトレッド等の形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0048】
本発明のタイヤは、乗用車用タイヤ、バス用タイヤ、トラック用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ、競技用タイヤ等として好適に用いられる。
【実施例】
【0049】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
なお、下記において、化合物中に含まれる硫黄量および珪素量は、蛍光X線測定により求めた数値である。具体的には、下記製造例の各反応生成物を0.1g採取し、トルエン5mLで希釈後、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン8gをトルエン20mLで希釈した内部標準溶液を300μL添加し、ポリエチレンフィルム製の液体カップに入れて蛍光X線測定を行い、内部標準法により化合物中に含まれる硫黄量および珪素量を定量した。
【0050】
(製造例1:シラン化合物1の合成(x=2.2、m=8、R〜R=OCHCH))
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた2Lセパラブルフラスコに、無水硫化ソーダ78.0g(1.0モル)、硫黄38.5g(1.2モル)およびエタノール480gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、8−クロロオクチルトリエトキシシラン622g(2.0モル)を滴下投入し、80℃にて10時間加熱撹拌した。この反応液を、濾過板を用いて加圧濾過することで、反応の進行とともに生成した塩が除去された濾液を得た。得られた濾液を100℃まで加熱し、10mmHg以下の減圧下でエタノールを留去することで、反応生成物としてシラン化合物1を得た。
得られたシラン化合物1は、化合物中に含まれる硫黄量が10.8質量%(0.34モル)、珪素量が8.7質量%(0.31モル)であり、硫黄原子の個数/珪素原子の個数は1.1であった。
【0051】
(製造例2:シラン化合物2の合成(x=2.0、m=8、R〜R=OCHCH))
硫黄の量を32.1g(1.0モル)に変更した以外は、製造例1と同様の手順で合成し、反応生成物としてシラン化合物2を得た。
得られたシラン化合物2は、化合物中に含まれる硫黄量が10.0質量%(0.31モル)、珪素量が8.8質量%(0.31モル)であり、硫黄原子の個数/珪素原子の個数は1.0であった。
【0052】
(製造例3:シラン化合物3の合成(x=2.4、m=8、R〜R=OCHCH))
硫黄の量を45.0g(1.4モル)に変更した以外は、製造例1と同様の手順で合成し、反応生成物としてシラン化合物3を得た。
得られたシラン化合物3は、化合物中に含まれる硫黄量が11.9質量%(0.37モル)、珪素量が8.7質量%(0.31モル)であり、硫黄原子の個数/珪素原子の個数は1.2であった。
【0053】
(製造例4:シラン化合物4の合成(x=2.2、m=8、R、R、R、R=OCHCH、R、R=CH))
8−クロロオクチルトリエトキシシランの代わりに8−クロロオクチルジエトキシメチルシラン562g(2.0モル)を用いた以外は、製造例1と同様の手順で合成し、反応生成物としてシラン化合物4を得た。
得られたシラン化合物4は、化合物中に含まれる硫黄量が11.0質量%(0.34モル)、珪素量が8.7質量%(0.31モル)であり、硫黄原子の個数/珪素原子の個数は1.1であった。
【0054】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
SBR:日本ゼオン(株)製のSBR1502
BR:宇部興産(株)製のウベポールBR150B
NR:RSS#3
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックN220(NSA:111m/g、DBP吸収量:115ml/100g)
シリカ:デグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
シラン化合物1:上記製造例1
シラン化合物2:上記製造例2
シラン化合物3:上記製造例3
シラン化合物4:上記製造例4
シラン化合物5:エボニックデグッサ社製のSi266(下記式:x=2.2)
【化6】
オイル:(株)ジャパンエナジー製のX−140
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックN
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン3C
ステアリン酸:日油(株)製のビーズステアリン酸つばき
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤CBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ(N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製のノクセラーD(N,N’−ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤TBBS:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0055】
(実施例及び比較例)
表1〜3に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄及び加硫促進剤以外の材料を160℃で3分間混練し、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄及び加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。
更に、得られた未加硫ゴム組成物を170℃の条件下で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0056】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物について下記の評価を行った。結果を表1〜3に示す。
【0057】
(加工性(ムーニー粘度))
未加硫ゴム組成物について、JIS K6301に基づき、(株)島津製作所製のMV202を用いて、130℃でムーニー粘度(ML1+4)を測定した。比較例1、2、3のムーニー粘度の値を100として、各配合のムーニー粘度を指数表示した。以下の計算式により、各配合のムーニー粘度(130℃)をそれぞれ指数表示した。指数が大きいほど、加工性に優れていることを示す。
(ムーニー粘度指数)=(比較例1、2又は3のムーニー粘度)/(各配合のムーニー粘度)×100
【0058】
(ゴムシート生地(練り生地外観))
未加硫ゴム組成物を押出し成型し、得られたゴムシートの表面性状を目視により以下の基準で評価した。シート性状が良好なほど、生地の外観に優れることを示す。
◎:艶が有り、非常に良好
○:平面性が高く、良好
△:多少も凹凸があり、普通
×:凹凸があり、悪い
【0059】
(低燃費性(粘弾性試験))
得られた加硫ゴム組成物から所定サイズの試験片を切り出し、(株)上島製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で、50℃における加硫ゴムシートの損失正接(tanδ)を測定した。以下の計算式により、各配合のtanδ(50℃)をそれぞれ指数表示した。指数が大きいほど、低燃費性に優れることを示す。
(転がり抵抗指数)=(比較例1、2又は3のtanδ)/(各配合のtanδ)×100
【0060】
(耐摩耗性)
得られた加硫ゴム組成物について、ランボーン摩耗試験機を用いて、温度20℃、スリップ率20%及び試験時間2分間の条件下でランボーン摩耗量を測定した。測定したランボーン摩耗量から容積損失量を計算し、下記計算式により、各配合の容積損失量を指数表示した。指数が大きいほど、耐摩耗性に優れることを示す。
(ランボーン摩耗指数)=(比較例1、2又は3の容積損失量)/(各配合の容積損失量)×100
【0061】
【表1】
【0062】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
表1〜3により、上記平均組成式(I)で表され、かつ硫黄原子の個数/珪素原子の個数が1.0〜1.5である有機珪素化合物を用いた実施例では、Si266を用いた比較例に比べて、良好な低燃費性(転がり抵抗指数)を維持しながら、加工性、耐摩耗性が改善され、これらの性能バランスが顕著に改善されることが明らかとなった。