特許第6789323号(P6789323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エルジー・ケム・リミテッドの特許一覧

<>
  • 特許6789323-有機電界発光素子およびその製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789323
(24)【登録日】2020年11月5日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】有機電界発光素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20201116BHJP
   H05B 33/12 20060101ALI20201116BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20201116BHJP
   C07F 11/00 20060101ALI20201116BHJP
   C07F 9/00 20060101ALI20201116BHJP
   C07C 333/04 20060101ALI20201116BHJP
   C07C 329/04 20060101ALI20201116BHJP
   C09D 1/00 20060101ALI20201116BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20201116BHJP
【FI】
   H05B33/22 D
   H05B33/14 A
   H05B33/12 C
   H05B33/10
   C07F11/00 B
   C07F11/00 C
   C07F9/00 A
   C07C333/04
   C07C329/04
   C09D1/00
   C09D7/20
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-567074(P2018-567074)
(86)(22)【出願日】2017年7月4日
(65)【公表番号】特表2019-525453(P2019-525453A)
(43)【公表日】2019年9月5日
(86)【国際出願番号】KR2017007087
(87)【国際公開番号】WO2018012782
(87)【国際公開日】20180118
【審査請求日】2018年12月21日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0089386
(32)【優先日】2016年7月14日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ソクヒ・ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジンセク・キム
(72)【発明者】
【氏名】スンキョン・カン
(72)【発明者】
【氏名】トング・イ
(72)【発明者】
【氏名】ファキョン・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェ・ハク・チョン
(72)【発明者】
【氏名】ジヨン・シン
(72)【発明者】
【氏名】デホ・キム
(72)【発明者】
【氏名】ジェスン・ペ
(72)【発明者】
【氏名】ジェチョル・イ
【審査官】 横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−290205(JP,A)
【文献】 英国特許第01047698(GB,B)
【文献】 特開2002−050485(JP,A)
【文献】 特開平07−331237(JP,A)
【文献】 特表2013−529180(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0037065(US,A1)
【文献】 特開2009−152178(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/00−56
H05B 33/00−28
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫黄を含む有機金属錯体と、
有機溶媒とを含み、
前記硫黄を含む有機金属錯体が、下記化学式1〜4のうちの1つで表される化合物のうちの1または2以上を含むものである、
有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
前記化学式1〜4において、
Mは、5B、6B、または7B族遷移金属であり、
nは、1〜7の整数であり、
〜Rは、互いに同一または異なり、それぞれ独立に、または同時に炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基、またはヘテロ基である。
【請求項2】
前記Mは、Mo、V、W、またはReである、請求項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項3】
前記コーティング組成物は、硫黄を含まない有機金属錯体をさらに含むものである、請求項1又は2に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項4】
前記硫黄を含まない有機金属錯体は、W、Mo、V、Re、Ni、Mn、Fe、Ru、Os、Rh、Pd、Pt、Zr、Ti、Cuを含むことができ、1種または2種以上の金属と、前記金属に結合した有機リガンドとを含むものである、請求項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項5】
前記硫黄を含まない有機金属錯体は、Mo、V、W、またはReを含むものである、請求項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項6】
前記有機溶媒は、アルコール系溶媒である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項7】
前記有機溶媒は、ケトン系溶媒である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項8】
前記有機溶媒は、下記化学式5で表される溶媒を含むものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物:
【化5】
前記化学式5において、nは、1から20までの整数であり、lとmは、それぞれあるいは同時に0から5までの整数であり、R、R、RおよびRは、それぞれあるいは同時に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数2〜40のヘテロアリール基、炭素数1〜20のエステル基である。
【請求項9】
前記有機溶媒は、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジペンチルエーテル、エチレングリコールジヘキシルエーテル、1,2プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレンジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、PEG600、およびトリエチレングリコールのうちの少なくとも1つを含むものである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物。
【請求項10】
基板を準備するステップと、
前記基板上に第1電極を形成するステップと
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップと、
前記有機物層上に第2電極を形成するステップとを含み、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に、請求項1〜9のいずれか1項に記載のコーティング組成物を用いて正孔注入または輸送層または電荷発生層をコーティング方法で形成するステップをさらに含む有機電界発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層の厚さは、1nm〜1,000nmである、請求項10に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項12】
前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層を形成した後、アニーリングするステップをさらに含む、請求項10又は11に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項13】
前記アニーリングは、温度150〜250℃で行うものである、請求項12に記載の有機電界発光素子の製造方法。
【請求項14】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、金属酸−硫化物を含む正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含み、
前記金属酸−硫化物が、下記化学式1〜4のうちの1つで表される化合物のうちの1または2以上を含む、硫黄を含む有機金属錯体から形成されたものである、有機電界発光素子。
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
前記化学式1〜4において、
Mは、5B、6B、または7B族遷移金属であり、
nは、1〜7の整数であり、
〜Rは、互いに同一または異なり、それぞれ独立に、または同時に炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基、またはヘテロ基である。
【請求項15】
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、請求項1〜9のいずれか一項に記載のコーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含む有機電界発光素子。
【請求項16】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層の厚さは、1nm〜1,000nmである、請求項14または15に記載の有機電界発光素子。
【請求項17】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層は、アニーリングされたものである、請求項14〜16のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項18】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層は、温度150〜250℃でアニーリングされたものである、請求項17に記載の有機電界発光素子。
【請求項19】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層内の各元素の比率をM(OxSy)zで表す時、0<Z≦4であり、x+y=1の時、0≦x<1、0<y≦1である、請求項14〜18のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【請求項20】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層のバンドギャップは、1.8〜3.5eVである、請求項14〜19のいずれか一項に記載の有機電界発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2016年7月14日付で韓国特許庁に提出された韓国特許出願第10−2016−0089386号の出願日の利益を主張し、その内容のすべては本明細書に組み込まれる。
【0002】
本明細書は、有機電界発光素子の製造方法およびこれによって製造された有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光現象は、特定の有機分子の内部プロセスによって電流が可視光に変換される例の一つである。有機発光現象の原理は次の通りである。アノードとカソードとの間に有機物層を位置させた時、2つの電極の間に電流をかけると、カソードとアノードからそれぞれ電子と正孔が有機物層に注入される。有機物層に注入された電子と正孔は再結合してエキシトン(exciton)を形成し、このエキシトンが再び基底状態に落ちながら光を発する。この原理を利用する有機電界発光素子は、一般的に、カソードおよびアノードと、それらの間に位置した有機物層、例えば、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を含む有機物層から構成される。
【0004】
真空工程を用いて有機電界発光素子を製造する場合には、高い装備投資費用および工程費用に対する負担が非常に大きく、均一な大面積化に限界があり、蒸着時、基板に蒸着されずに捨てられる比率が高くて材料使用率が低いという欠点がある。反面、溶液工程を用いて有機電界発光素子を作製する場合、高価な蒸着装備を排除して生産単価を低減することができ、大面積化が容易であるという利点がある。しかし、蒸着工程とは異なり、溶液工程により有機電界発光素子を構成する層を積層する場合、上部層を形成する工程によって下部層が損傷する可能性が高い。すなわち、溶液工程に使用される溶媒またはインクによって下部層の物質が再び溶解して上部層と混合が行われたり物理的に薄膜が損傷する現象が発生しうる。このような現象を防止するために、各層に使用される溶媒を互いへの溶解度がないように製造したり、下部層に対する後処理により上部層の形成時に下部層が溶けないようにする工程が追加されたりする。
【0005】
このような溶液工程方式によって製造する有機電界発光素子において、最も多く使用される正孔注入層物質は、導電性高分子である。これらは自体の溶解度が高くない方であり、主に水溶液形態であるので、上部層に使用される有機溶媒との溶媒特性が異なって工程性がある程度保障される。また、これらを使用した場合、比較的低い駆動電圧を示すことが分かる。しかし、これらは、主にpHが低い酸性のドーパント物質を使用することによって、下部層の電極物質を損傷させる特徴があり、これによって寿命特性が低下するという欠点がある。一方、他の形態の正孔注入層の形成方法としては、アリールアミン系物質にイオン性物質やTCNQのようなn型物質をドーピングして形成する方法が知られている。しかし、この方法の場合には、先に言及したように、後工程の溶媒またはインクに対する耐性の問題が依然として存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本明細書は、有機電界発光素子を溶液工程によって作製時に使用可能な正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング用組成物、これを用いた有機電界発光素子の製造方法、これによって製造された有機電界発光素子を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書の一実施態様は、
硫黄を含む有機金属錯体と、
有機溶媒とを含む有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物を提供する。
【0008】
本明細書のもう一つの実施態様によれば、前記コーティング組成物は、硫黄を含まない有機金属錯体をさらに含む。この時、前記硫黄を含まない有機金属錯体は、前記硫黄を含む有機金属錯体と異なるものであり、硫黄を含まない。本明細書のもう一つの実施態様は、
基板を準備するステップと、
前記基板上に第1電極を形成するステップと、
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップと、
前記有機物層上に第2電極を形成するステップとを含み、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に、前述した実施態様に係るコーティング組成物を用いて正孔注入または輸送層または電荷発生層をコーティング方法で形成するステップをさらに含む有機電界発光素子の製造方法を提供する。
【0009】
本明細書のもう一つの実施態様は、
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、金属酸−硫化物を含む正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含む有機電界発光素子を提供する。
【0010】
本明細書のもう一つの実施態様は、
第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、前述した実施態様に係るコーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含む有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0011】
MoO、WO、Vなどの金属酸化物は、ほとんどバンドギャップ(band gap)が大きい特性を有するが、伝導度が大きくない。例えば、MoOの場合、3.0eVのバンドギャップを有することにより、これを有機電界発光素子の正孔注入層に適用する場合、発光層から発光した光を吸収しないという利点を有することができる。しかし、真空蒸着方式で得られたMoOの場合、物質の伝導度が高くなく、ほとんど絶縁物(insulator)として作用することが知られている。反面、Mo−Sは、バンドギャップが1.8eVであって、発光する光を吸収する可能性は高くなるが、電荷移動性(mobility)が高い。したがって、これを用いて、Mo−Oのような金属酸化物またはMo−Sのような金属硫化物だけでなく、これらの中間状態であるMo(O、S)のような金属酸−硫化物(metal oxy−sulfide)の薄膜を製造し、この薄膜のOとSの比率を調節することによりバンドギャップを自由に調節することができ、これとともに、電荷の移動度を高めることができる。このように製造された薄膜は、有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層として有用な役割を果たすことができる。
【0012】
特に、前記のような薄膜を、硫黄を含む有機金属錯体と、有機溶媒とを含むコーティング組成物を用いる溶液工程方式によって製造することにより、ITO電極のような電極に対する損傷がなく、界面特性が改善され、溶媒耐性に優れて素子の寿命が増加した有機電界発光素子を提供することができる。特に、本明細書の実施態様によれば、前述した有機金属錯体を用いることにより、ハロゲン基のような置換基を一部含んでも、ケトン、アルコール系またはエステル系溶媒に溶解しながら溶媒によって再び結合して適切な粘度とコーティング性が良好なインクに製造され、これを用いて正孔注入または輸送層または電荷発生層をコーティング方法で製造するのに有利である。また、一部の極性を有する有機溶媒を用いることにより、これによって、金属酸化物の粉末自体を、HまたはNHOHなどを添加して溶かした水溶液を使用した場合に比べて、薄膜形成特性に優れ、インクジェットなどの量産工程を可能にし、残留水分を排除して素子特性が向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本明細書の一実施態様に係る有機電界発光素子の例を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本明細書において、ある部材が他の部材の「上に」位置しているとする時、これは、ある部材が他の部材に接している場合のみならず、2つの部材の間にさらに他の部材が存在する場合も含む。
【0016】
本明細書において、ある部分がある構成要素を「含む」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くのではなく、他の構成要素をさらに包含できることを意味する。
【0017】
本明細書の一実施態様は、硫黄を含む有機金属錯体と、有機溶媒とを含む有機電界発光素子の正孔注入または輸送層または電荷発生層コーティング組成物を提供する。
【0018】
本明細書のもう一つの実施態様によれば、前記硫黄を含む有機金属錯体は、下記化学式1〜4のうちの1つで表される化合物のうちの1または2以上を含む。
【0019】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【0020】
前記化学式1〜4において、
Mは、5B、6B、または7B族遷移金属であり、好ましくは、Mo、V、W、またはReであり、
nは、1〜7の整数であり、
〜Rは、互いに同一または異なり、それぞれ独立に、炭素数1〜20のアルキル基、または炭素数6〜20のアリール基、またはヘテロ基である。
【0021】
本明細書のもう一つの実施態様によれば、前記コーティング組成物は、硫黄を含まない有機金属錯体をさらに含む。この時、前記硫黄を含まない有機金属錯体を使用する場合、前記硫黄を含む有機金属錯体は、硫黄を含まない有機金属錯体に対して、モル比で0.01〜100モル%使用することができる。
【0022】
前記実施態様において、前記硫黄を含まない有機金属錯体は、金属として、W、Mo、V、Re、Ni、Mn、Fe、Ru、Os、Rh、Pd、Pt、Zr、Ti、Cuなどを含むことができ、1種または2種以上の金属を含んでもよい。
【0023】
前記実施態様において、前記硫黄を含まない有機金属錯体は、酸化数−2〜+6までの錯体であってもよい。前記有機金属錯体は、前述した金属に結合した有機リガンドを含む。有機リガンドは特に限定されるものではないが、溶剤の溶解性や隣接する有機物層との界面特性などを考慮して選択されてもよい。例えば、有機リガンドとしては、カルボニル、アセチル基、アセチルアセトネート基、メチルアセトアセテート基、エチルアセトアセテート基、チオアセテート、イソシアネート、シアネート、イソシアネート、ハロゲン原子などが挙げられる。また、有機リガンドは、芳香族環および/またはヘテロ環を含む構造であってもよいし、例えば、ベンゼン、トリフェニルアミン、フルオレン、ビフェニル、ピレン、アントラセン、カルバゾール、フェニルピリジン、トリチオフェン、フェニルオキサジアゾール、フェニルトリアゾール、ベンゾイミダゾール、フェニルトリアジン、ベンゾジアチアジン、フェニルキノキサリン、フェニレンビニレン、フェニルシロール、またはこれら構造の組み合わせであってもよい。前記芳香族環またはヘテロ環は、置換基を有してもよいし、例えば、置換基は、アルキル基、ハロゲン原子、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基などであってもよい。前記アルキル基およびアルコキシ基は、例えば、炭素数1〜12であってもよい。
【0024】
具体的には、有機リガンドの例としては、acac(acetylacetonate)、エチルアセトアセテート(ethylacetoacetate)、メチルアセトアセテート(methylacetoacetate)、OPh、カルボニル、メトキシ、エトキシ、プロポキシ基、イソプロポキシ、ブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、エチルヘキシルオキシなどのアルコキシ、またはアセテート系であってもよいが、これにのみに限定されるものではない。また、これらとハロゲン基が一緒に存在する形態のリガンドであってもよい。
【0025】
前記有機金属錯体は、金属酸化物を含むことができ、前記金属酸化物に前述した有機リガンドが配位される。例えば、有機金属錯体としては、W(CO)、Mo(CO)、WOCl、MoO(acac)、Ni(acac)、Ti(OPh)、チタン(IV)オキシドアセチルアセトネート(titanium(IV)oxide acetylacetonate)がある。もう一つの例として、有機金属錯体がVを含む場合、一部の酸素が置換されたVO(acac)であってもよく、置換されないV(acac)であってもよい。もう一つの例として、有機金属錯体がWを含む場合にも、W(acac)であってもよく、一部酸化物化されたWO(acac)であってもよい。
【0026】
また、前記有機金属錯体は、2つ以上の異なるリガンドが結合した形態であってもよい。例えば、前記有機金属錯体は、チタンジイソプロポキシドビス(アセチルアセテート)、チタンジイソプロポキシドビス(エチルアセチルアセテート)、モリブデンジクロライドジオキシド、ReCl(CO)であってもよい。
【0027】
本発明のもう一つの実施態様によれば、前記硫黄を含む有機金属錯体と前記硫黄を含まない有機金属錯体は、同一の金属を含んでもよく、互いに異なる金属を含んでもよい。
【0028】
一実施態様において、前記有機溶媒は、アルコール系またはエーテル系(ether)溶媒である。
【0029】
もう一つの実施態様において、前記有機溶媒は、ケトン系溶媒である。
【0030】
本発明において、有機溶媒としては、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、イソホロン(isophorone)、アセチルアセトン、テトラロン(tetralone)、エチルベンゾエート、メチルベンゾエート、エチルアセテート、エチルアセトアセテート、ジエチルアセトアセテート、メチルベンゾエート、エチルベンゾエート、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、シクロペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ヘプタノール、オクタノールであってもよく、下記化学式5で表される溶媒であってもよい。
【0031】
【化5】
【0032】
前記化学式5において、nは、1から20までの整数であり、lとmは、それぞれあるいは同時に0から5までの整数であり、R、R、RおよびRは、それぞれあるいは同時に水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数2〜20のアルキニル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数2〜40のヘテロアリール基、炭素数1〜20のエステル基である。
【0033】
一実施態様によれば、前記有機溶媒は、好ましくは、沸点が350℃以下である。具体例としては、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノペンチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジペンチルエーテル、エチレングリコールジヘキシルエーテル、1,2プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレンジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、PEG600、トリエチレングリコールなどが使用できる。
【0034】
前記化学式5で表される溶媒の場合、特に、金属酸−硫化物の前駆体として使用する有機金属錯体と化学的に強い結合をせず、かつ、前駆体を他の酸化状態や物質に容易に変化させないことにより、素子の作製後、有機物が残らない酸化物薄膜を作ることができるという利点がある。
【0035】
一実施態様によれば、前記コーティング組成物中、硫黄を含む有機金属錯体の含有量は、0.01〜50重量%であることが好ましい。もう一つの実施態様によれば、前記コーティング組成物中、硫黄を含む有機金属錯体および硫黄を含まない有機金属錯体の含有量は、0.01〜50重量%であることが好ましい。前記コーティング組成物には、コーティング性および粘度などの特性を改善するために、有機金属錯体のほか、添加剤をさらに含んでもよい。例えば、前記添加剤は、分散剤、界面活性剤、重合体、結合剤、架橋結合剤、乳化剤、消泡剤、乾燥剤、充填剤、増量剤、増粘化剤、フィルム条件化剤、抗酸化剤、流動剤、平滑性添加剤、および腐食抑制剤からなる群より選択されるいずれか1つ以上を含むことができる。
【0036】
本発明のもう一つの実施態様は、有機電界発光素子の製造方法に関し、
基板を準備するステップと、
前記基板上に第1電極を形成するステップを形成するステップと、
前記第1電極上に1層以上の有機物層を形成するステップと、
前記有機物層上に第2電極を形成するステップとを含み、
前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に、前述した実施態様に係るコーティング組成物を用いて正孔注入または輸送層または電荷発生層をコーティング方法で形成するステップをさらに含む。
【0037】
前記正孔注入または輸送層または電荷発生層を形成するコーティング方法としては、例えば、スピンコーティング方式、インクジェット方式、ノズルプリンティング、湿式コーティング、噴霧コーティング、ドクターブレードコーティング、接触プリンティング、上部フィードリバースプリンティング、下部フィードリバースプリンティング、ノズルフィードリバースプリンティング、グラビアプリンティング、マイクログラビアプリンティング、リバースマイクログラビアプリンティング、ローラコーティング、スロットダイコーティング、毛細管コーティング、ジェット沈着、噴霧沈着からなる群より選択されるいずれか1つであってもよいし、好ましくは、スピンコーティング、インクジェットコーティング、ノズルプリンティングなどであってもよい。
【0038】
前記コーティング方法は、前述した組成物を第1電極または第2電極上にコーティングした後、乾燥することにより行われる。乾燥および熱処理または乾燥後熱処理は、窒素あるいは大気中で可能であるが、大気中で行うことが溶媒および有機物リガンドを除去するのに有利であり、有機金属錯体を金属酸−硫化物に転換するのに有利である。また、熱処理は、使用する有機金属錯体に応じて処理温度が異なるが、150℃以上、好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上で進行させることが好ましい。
【0039】
一実施態様によれば、前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層の厚さは、1nm〜1,000nmである。一般的に、有機電界発光素子では、キャビティ効果によって素子全体の厚さを最適化することが必要であり、厚さの最適化時、上部層の材料によって、数nmから1マイクロメートルまでも厚さを変化させる必要がある。この時、素子特性の低下なしに、電荷注入または輸送層の厚さを多様化できる場合、上層の素子の構造および厚さ変化に対する制約が減少して、最適化された素子特性を提供するのに有利である。本発明で提供する正孔注入または輸送層は、厚さに応じた電圧の上昇がない材料および素子を提供する。
【0040】
もう一つの実施態様によれば、前記製造方法は、前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層を形成した後、アニーリングするステップをさらに含む。前記アニーリングは、温度150〜250℃、好ましくは180〜250℃で行うことができる。本発明において、アニーリングは、有機金属錯体の有機物リガンドをアニーリング過程で除去し、金属酸−硫化物に変化させることを目的とするので、有機金属錯体のリガンドが分解できる程度の高温であることが好ましく、酸−硫化物への変化のために酸素がある雰囲気であることが好ましい。
【0041】
前記実施態様において、正孔注入または輸送層または電荷発生層を、前述した実施態様に係るコーティング組成物を用いて形成することを除けば、残りの電極および有機物層の材料および製造方法は、当技術分野で知られているものを用いることができる。
【0042】
一例によれば、第1電極は、アノードであり、第2電極は、カソードである。
【0043】
もう一つの例によれば、第2電極は、アノードであり、第1電極は、カソードである。
【0044】
一例によれば、前記有機物層は、発光層を含む。
【0045】
もう一つの例によれば、前記有機物層は、多層構造からなってもよいし、例えば、発光層と、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電子注入層、電子阻止層、および正孔阻止層のうちの少なくとも1層とを含む。例えば、本明細書の一実施態様に係る有機電界発光素子の構造は、図1に例示されている。
【0046】
図1には、基板101上に、アノード201、正孔注入層301、正孔輸送層401、発光層501、電子輸送層601、およびカソード701が順次に積層された有機電界発光素子の構造が例示されている。前記図1で、正孔注入層301が前述したコーティング組成物を用いて形成される。ただし、前記図1は、有機電界発光素子を例示したものであり、これに限定されない。
【0047】
前記有機電界発光素子が複数の有機物層を含む場合、前記有機物層は、同一の物質または異なる物質で形成される。
【0048】
例えば、本明細書の有機電界発光素子は、基板上に、アノード、有機物層、およびカソードを順次積層させることにより製造することができる。この時、スパッタリング法(sputtering)や電子ビーム蒸発法(e−beam evaporation)のようなPVD(Physical Vapor Deposition)方法を利用して、基板上に金属または導電性を有する金属酸化物、またはこれらの合金を蒸着させてアノードを形成し、その上に正孔注入層、正孔輸送層、発光層、および電子輸送層を含む有機物層を形成した後、その上にカソードとして使用可能な物質を蒸着させることにより製造される。このような方法以外にも、基板上に、カソード物質から有機物層、アノード物質を順に蒸着させて有機電界発光素子を作ることができる。この時、アノードとカソードとの間に位置する層のうちの少なくとも1層または全部は、溶液工程を用いて形成することができる。溶液工程としては、印刷法、例えば、インクジェットプリンティング、ノズルプリンティング、オフセットプリンティング、転写プリンティング、またはスクリーンプリンティングなどがあるが、これらに限定されない。溶液工程を用いる時、素子の製造時に時間および費用的に経済的な効果がある。前記有機物層を溶液工程で行う場合、必要に応じて、追加的に熱処理または光処理を行ってもよい。ここで、熱処理温度および時間は、工程条件や使用される材料によって選択されてもよいし、例えば、85℃〜300℃で1分〜1時間行われる。
【0049】
前記アノード物質としては、通常、有機物層に正孔注入が円滑となるように仕事関数の大きい物質が好ましい。本発明で使用可能なアノード物質の具体例としては、バナジウム、クロム、銅、亜鉛、金のような金属、またはこれらの合金;亜鉛酸化物、インジウム酸化物、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウムガリウム亜鉛酸化物(IGZO)、フッ素ドーピングされたスズ酸化物(FTO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)のような金属酸化物;ZnO:AlまたはSNO:Sbのような金属と酸化物との組み合わせ;ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ[3,4−(エチレン−1,2−ジオキシ)チオフェン](PEDOT)、ポリピロールおよびポリアニリンのような導電性高分子などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0050】
前記カソード物質としては、通常、有機物層に電子注入が容易となるように仕事関数の小さい物質であることが好ましい。カソード物質の具体例としては、マグネシウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、チタン、インジウム、イットリウム、リチウム、ガドリニウム、アルミニウム、銀、スズおよび鉛のような金属、またはこれらの合金;LiF/AlまたはLiO/Alのような多層構造の物質などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0051】
前述した有機金属錯体を含むコーティング組成物を用いて形成する正孔注入または輸送層のほか、追加の正孔注入層を形成する場合、前記正孔注入層物質としては、正孔を輸送する能力を有し、アノードからの正孔注入効果、発光層または発光材料に対して優れた正孔注入効果を有し、発光層で生成された励起子の電子注入層または電子注入材料への移動を防止し、また、薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。正孔注入物質のHOMO(highest occupied molecular orbital)がアノード物質の仕事関数と周辺有機物層のHOMOとの間であることが好ましい。正孔注入物質の具体例としては、金属ポルフィリン(porphyrin)、オリゴチオフェン、アリールアミン系の有機物、ヘキサニトリルヘキサアザトリフェニレン系の有機物、キナクリドン(quinacridone)系の有機物、ペリレン(perylene)系の有機物、アントラキノンおよびポリアニリンとポリチオフェン系の導電性高分子などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0052】
前記正孔輸送層は、正孔注入層から正孔を受け取って発光層まで正孔を輸送する層で、正孔輸送物質としては、アノードや正孔注入層から正孔輸送を受けて発光層に移しうる物質で、正孔に対する移動性の大きい物質が好適である。具体例としては、アリールアミン系の有機物、導電性高分子、および共役部分と非共役部分が共にあるブロック共重合体などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0053】
前記発光層物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子の輸送をそれぞれ受けて結合させることにより可視光線領域の光を発しうる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体例としては、8−ヒドロキシ−キノリンアルミニウム錯体(Alq);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10−ヒドロキシベンゾキノリン−金属化合物;ベンゾキサゾール、ベンズチアゾールおよびベンズイミダゾール系の化合物;ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどがあるが、これらにのみ限定されるものではない。
【0054】
前記発光層は、ホスト材料およびドーパント材料を含むことができる。ホスト材料は、縮合芳香族環誘導体またはヘテロ環含有化合物などがある。具体的には、縮合芳香族環誘導体としては、アントラセン誘導体、ピレン誘導体、ナフタレン誘導体、ペンタセン誘導体、フェナントレン化合物、フルオランテン化合物などがあり、ヘテロ環含有化合物としては、カルバゾール誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ラダー型フラン化合物、ピリミジン誘導体などがあるが、これらに限定されない。
【0055】
ドーパント材料としては、芳香族アミン誘導体、スチリルアミン化合物、ホウ素錯体、フルオランテン化合物、金属錯体などがある。具体的には、芳香族アミン誘導体としては、置換もしくは非置換のアリールアミノ基を有する縮合芳香族環誘導体であって、アリールアミノ基を有するピレン、アントラセン、クリセン、ペリフランテンなどがあり、スチリルアミン化合物としては、置換もしくは非置換のアリールアミンに少なくとも1個のアリールビニル基が置換されている化合物で、アリール基、シリル基、アルキル基、シクロアルキル基、およびアリールアミノ基からなる群より1または2以上選択される置換基が置換もしくは非置換である。具体的には、スチリルアミン、スチリルジアミン、スチリルトリアミン、スチリルテトラアミンなどがあるが、これらに限定されない。また、金属錯体としては、イリジウム錯体、白金錯体などがあるが、これらに限定されない。
【0056】
前記電子輸送層は、電子注入層から電子を受け取って発光層まで電子を輸送する層で、電子輸送物質としては、カソードから電子注入をよく受けて発光層に移しうる物質であって、電子に対する移動性の大きい物質が好適である。具体例としては、8−ヒドロキシキノリンのAl錯体;Alqを含む錯体;有機ラジカル化合物;ヒドロキシフラボン−金属錯体などがあるが、これらにのみ限定されるものではない。電子輸送層は、従来技術により使用されているような、任意の所望のカソード物質とともに使用可能である。特に、適切なカソード物質の例は、低い仕事関数を有し、アルミニウム層またはシルバー層が後に続く通常の物質である。具体的には、セシウム、バリウム、カルシウム、イッテルビウム、およびサマリウムであり、各場合、アルミニウム層またはシルバー層が後に続く。
【0057】
前記電子注入層は、電極から電子を注入する層で、電子を輸送する能力を有し、カソードからの電子注入効果、発光層または発光材料に対して優れた電子注入効果を有し、発光層で生成された励起子の正孔注入層への移動を防止し、また、薄膜形成能力の優れた化合物が好ましい。具体的には、フルオレノン、アントラキノジメタン、ジフェノキノン、チオピランジオキシド、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、ペリレンテトラカルボン酸、フレオレニリデンメタン、アントロンなどとそれらの誘導体、金属錯体化合物および含窒素5員環誘導体などがあるが、これらに限定されない。
【0058】
前記金属錯体化合物としては、8−ヒドロキシキノリナトリチウム、ビス(8−ヒドロキシキノリナト)亜鉛、ビス(8−ヒドロキシキノリナト)銅、ビス(8−ヒドロキシキノリナト)マンガン、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、トリス(2−メチル−8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)ガリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)ベリリウム、ビス(10−ヒドロキシベンゾ[h]キノリナト)亜鉛、ビス(2−メチル−8−キノリナト)クロロガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナト)(o−クレゾラート)ガリウム、ビス(2−メチル−8−キノリナト)(1−ナフトラート)アルミニウム、ビス(2−メチル−8−キノリナト)(2−ナフトラート)ガリウムなどがあるが、これらに限定されない。
【0059】
前記正孔阻止層は、正孔のカソード到達を阻止する層で、一般的に、正孔注入層と同じ条件で形成される。具体的には、オキサジアゾール誘導体やトリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、BCP、アルミニウム錯体(aluminum complex)などがあるが、これらに限定されない。
【0060】
本発明のもう一つの実施態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、金属酸−硫化物を含む正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含む有機電界発光素子を提供する。
【0061】
本発明のもう一つの実施態様は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に備えられる1層以上の有機物層とを含む有機電界発光素子であって、前記第1電極と有機物層との間、前記第2電極と有機物層との間、または前記有機物層が2層以上存在する場合、有機物層の間に備えられ、前述した実施態様に係るコーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層をさらに含む有機電界発光素子を提供する。
【0062】
前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層は、金属酸−硫化物を含む。
【0063】
一例によれば、前記正孔注入または輸送層または電荷発生層内のS/Oの比率は、0.1〜100である。すなわち、正孔注入または輸送層または電荷発生層内の各元素の比率をM(OxSy)zで表す時、0<Z≦4であり、x+y=1の時、0≦x<1、0<y≦1である。
【0064】
もう一つの例によれば、前記正孔注入または輸送層または電荷発生層のバンドギャップは、1.8〜3.5eVである。
【0065】
一例によれば、前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層の厚さは、1nm〜1,000nmである。この時、前記正孔注入または輸送層または電荷発生層は、金属硫化物によって電荷濃度と移動度が増加して、厚さによる電圧の減少が起こらない。
【0066】
もう一つの例によれば、前記コーティング組成物を用いて形成された正孔注入または輸送層または電荷発生層は、アニーリングされたものである。例えば、前記正孔注入または輸送層または電荷発生層は、温度150〜250℃、好ましくは180〜250℃でアニーリングされたものである。
【0067】
有機電界発光素子のその他の構成は、前述した説明および当技術分野で知られているものが適用可能である。
【0068】
本明細書に係る有機電界発光素子は、使用される材料によって、前面発光型、後面発光型、または両面発光型であってもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を挙げて詳細に説明する。しかし、本発明に係る実施例は種々の異なる形態に変形可能であり、本発明の範囲が以下に述べる実施例に限定されると解釈されない。本明細書の実施例は、当業界における通常の知識を有する者に本発明をより完全に説明するために提供されるものである。
【0070】
実施例1
ITOがコーティングされたガラス基板を、水、イソプロパノールで順次に洗浄した後、MoO(acac)とMo−ethylxantateを50:50の重量比でエチレングリコールモノメチルエーテルに4wt%で溶かした溶液を、ITOが蒸着された基材上に2000rpmで30秒間スピンコーティングした。得られた薄膜を、酸素雰囲気下、200℃で15分間熱処理して、非常に均一な10nmの厚さの正孔注入層を形成した。
【0071】
前記正孔注入層の上部に、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を用いて650Åの厚さの正孔輸送層を形成した。
【0072】
前記正孔輸送層の上部に、電子ブロック層(electron blocking layer)を150Åの厚さに形成した。前記電子ブロック層上に、下記化学式の青色蛍光ホストのBHに青色ドーパントのBDを重量比95:5でドーピングして300Åの厚さの発光層を形成した。
【0073】
【化6】
【0074】
次に、前記発光層の上部に、電子輸送材料ET201およびLIQを1:1の重量比率で同時蒸着して200Åの厚さの電子輸送層を形成した。
【0075】
最終的に、前記電子輸送層にAlを800Åの厚さに蒸着して有機電界発光素子を製造した。この素子の特性を表1に示した。
【0076】
実施例2
Mo−ethylxantateの代わりにMo−diethylthiocarbamateを用いたことを除いて、実施例1と同様に素子を作製した。
【0077】
実施例3
MoO(acac)の代わりにVO(acac)を用い、Mo−ethylxantateの代わりにV−ethylxantateを用いたことを除いて、実施例1と同様に素子を作製した。
【0078】
実施例4
MoO(acac)の代わりにWO(acac)を用い、Mo−ethylxantateの代わりにW−ethylxantateを用いたことを除いて、実施例1と同様に素子を作製した。
【0079】
比較例1
正孔注入層なしに、ITO上にNPBを蒸着して正孔輸送層を形成したことを除けば、実施例1と同様に素子を作製した。
【0080】
前述した実施例および比較例で製造された素子の電圧、効率、寿命(LT80)特性を10m/cmの条件で測定して、測定結果を下記表1に示した。
【0081】
【表1】
【0082】
前記表から明らかなように、主に金属酸化物を蒸着して正孔注入層を形成したり、正孔注入層を形成しない場合に比べて、素子の効率および寿命が向上した。
【符号の説明】
【0083】
101:基板
201:アノード
301:正孔注入層
401:正孔輸送層
501:発光層
601:電子輸送層
701:カソード
図1