特許第6789967号(P6789967)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6789967複合フィルムの積層のためのオキサゾリン含有水性ポリマー分散体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6789967
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】複合フィルムの積層のためのオキサゾリン含有水性ポリマー分散体
(51)【国際特許分類】
   C09J 157/04 20060101AFI20201116BHJP
   C08F 2/22 20060101ALI20201116BHJP
   C08F 246/00 20060101ALI20201116BHJP
   C08F 226/06 20060101ALI20201116BHJP
   C08J 5/12 20060101ALI20201116BHJP
   C09J 133/04 20060101ALI20201116BHJP
   C09J 133/02 20060101ALI20201116BHJP
   C09J 123/00 20060101ALI20201116BHJP
   B32B 7/12 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C09J157/04
   C08F2/22
   C08F246/00
   C08F226/06
   C08J5/12CES
   C09J133/04
   C09J133/02
   C09J123/00
   B32B7/12
【請求項の数】17
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-549046(P2017-549046)
(86)(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公表番号】特表2018-514605(P2018-514605A)
(43)【公表日】2018年6月7日
(86)【国際出願番号】EP2016054858
(87)【国際公開番号】WO2016146427
(87)【国際公開日】20160922
【審査請求日】2019年3月8日
(31)【優先権主張番号】15159621.0
(32)【優先日】2015年3月18日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ツォアン
(72)【発明者】
【氏名】カール−ハインツ シューマッハー
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/187692(WO,A1)
【文献】 特開2007−217594(JP,A)
【文献】 特開2005−307114(JP,A)
【文献】 特開平01−221402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F,C08C,C08J
C09D,C09J,B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル乳化重合によって製造される、複合フィルムを製造するための積層用接着剤としての水性ポリマー分散体の使用であって、
まず第一段階で、水性媒体中で、ラジカル乳化重合によって、水中に分散した第一のポリマーを製造し、ここで第一のポリマーは、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有する第一の組成物から製造され、
さらなる段階で、水性媒体中であって第一のポリマーの存在下で、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有し第一の組成物とは異なるさらなる組成物のラジカル乳化重合によって、ポリマー分散体を製造し、
ここで、第一段階のモノマーが、少なくとも一つの酸基を有する少なくとも一種のモノマーを、全段階のモノマー100質量部を基準として、少なくとも0.1質量部の量で含み、
さらなる段階のモノマーが、少なくとも一つのオキサゾリン基を有する少なくとも一種のモノマーを含み、
第一段階の重合を5未満のpH値で行い、さらなる段階の重合前に、さらなる段階前のポリマー分散体のpH値が5を超えるまで、酸基を揮発性塩基で中和し、
全段階のモノマー100質量部を基準として合計0.5質量部未満の乳化剤を使用するか、または乳化剤を使用せず、および
製造されたポリマーのガラス転移温度が、−10℃未満である、
前記使用
【請求項2】
オキサゾリン基を含むモノマーが、さらなる段階においてのみ使用され、かつ全段階のモノマー100質量部を基準として0.5〜4質量部の量で使用される、請求項1記載の使用
【請求項3】
オキサゾリン基を含むモノマーが、式:
【化1】
(上記式中、基は以下の意味を有する:
Rは、少なくとも一つのエチレン性不飽和基を含むC2〜20アルケニル基であり;
、R、R、Rは、互いに独立して、H、ハロゲン、C1〜20アルキル、C2〜20アルケニル、C6〜20アリール、C7〜32アリールアルキル、C1〜20ヒドロキシアルキル、C1〜20アミノアルキルおよびC1〜20ハロアルキルから選択される)
の化合物から選択されている、請求項1または2記載の使用
【請求項4】
オキサゾリン基を有するモノマーが、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,5−ジメチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4,5,5−テトラメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5,5−ジメチル−2−オキサゾリンおよび2−イソプロペニル−4,4,5,5−テトラメチル−2−オキサゾリンから成る群より選択されている、請求項1から3までのいずれか1項記載の使用
【請求項5】
第一段階で、酸基を有するモノマーが、酸基を有しないモノマーと共重合され、酸基を有するモノマー対酸基を有しないモノマーの質量比が、5:95〜15:85の範囲にある、請求項1から4までのいずれか1項記載の使用
【請求項6】
第一段階で使用される、少なくとも一つの酸基を有するモノマーが、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸、不飽和ホスホン酸およびこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されており、第一段階で使用される、酸基を有しないモノマーが、C1〜C10アルキルアクリレートおよびC1〜C10アルキルメタクリレートおよびこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の使用
【請求項7】
さらなる段階で使用されるモノマーの少なくとも60質量%が、C1〜C20アルキルアクリレート、C1〜C20アルキルメタクリレート、20個までのC原子を含むカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を含むアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子と1つまたは2つの二重結合を有する脂肪族炭化水素およびこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されている、請求項1から6までのいずれか1項記載の使用
【請求項8】
全段階のポリマーが、オキサゾリン基を含むモノマーと酸モノマー以外には、(メタ)アクリル酸の誘導体だけから形成されているポリマーである、請求項1から7までのいずれか1項記載の使用
【請求項9】
第一段階の重合の際に分子量調整剤が使用される、請求項1から8までのいずれか1項記載の使用
【請求項10】
第一段階で使用されるモノマーの量対さらなる段階で使用されるモノマーの量の質量比が、10:90〜65:35である、請求項1から9までのいずれか1項記載の使用
【請求項11】
第一段階の重合がシードラテックスの存在下で行われる、請求項1から10までのいずれか1項記載の使用
【請求項12】
さらなる段階で使用されるモノマーが、全段階のモノマー100質量部を基準として、酸基を有するモノマーを最大で1質量部含むか、または酸基を有するモノマーを含まない、請求項1から11までのいずれか1項記載の使用
【請求項13】
前記揮発性塩基が、アンモニア水溶液である、請求項1〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
複合フィルムを製造するための積層用接着剤としての水性ポリマー分散体の製造方法であって、
まず第一段階で、水性媒体中で、ラジカル乳化重合によって、水中に分散した第一のポリマーを製造し、ここで第一のポリマーは、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有する第一の組成物から製造され、
さらなる段階で、水性媒体中であって第一のポリマーの存在下で、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有し第一の組成物とは異なるさらなる組成物のラジカル乳化重合によって、ポリマー分散体を製造し、
ここで、第一段階のモノマーが、少なくとも一つの酸基を有する少なくとも一種のモノマーを、全段階のモノマー100質量部を基準として、少なくとも0.1質量部の量で含み、
さらなる段階のモノマーが、少なくとも一つのオキサゾリン基を有する少なくとも一種のモノマーを含み、
第一段階の重合を5未満のpH値で行い、さらなる段階の重合前に、さらなる段階前のポリマー分散体のpH値が5を超えるまで、酸基を揮発性塩基で中和し、
全段階のモノマー100質量部を基準として全体で0.5質量部未満の乳化剤を使用するか、または乳化剤を使用せず、および
製造されたポリマーのガラス転移温度が、−10℃未満である、
前記製造方法。
【請求項15】
前記揮発性塩基が、アンモニア水溶液である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項14又は15に記載の方法によって製造された水性ポリマー分散体を含有する接着剤を使用して互いに接着されている、第一のフィルムと少なくとも一つの第二のフィルムとを有する複合フィルム。
【請求項17】
請求項14又は15に記載の方法によって製造された水性ポリマー分散体を用意し、前記水性ポリマー分散体を使用して、少なくとも2つのフィルムを互いに接着することを含む、複合フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルムの積層のための水性ポリマー分散体と、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーから当該水性ポリマー分散体を多段階で製造する方法とに関する。第一段階では、ラジカル乳化重合によって第一のポリマーを製造する。さらなる段階では、水性ポリマー分散体を第一のポリマーの存在下で製造する。第一段階のモノマーは、酸基を有するモノマーを含む。さらなる段階のモノマーは、オキサゾリン基を有するモノマーを含む。第一段階の重合を5未満の低いpH値で行う。第一のポリマーの酸基をさらなる段階の重合前に中和する。水性ポリマー分散体は、複合フィルムを製造するための接着剤として使用され得る。
【背景技術】
【0002】
水性ポリマー分散体に基づく複合フィルムの積層のための積層用接着剤は、一般的に、耐薬品性または耐熱性を向上させるために、架橋剤を必要とする。そのために、積層用の接着剤分散体はしばしば、イソシアネート架橋剤で調製される。欠点は、これらの調製物が、比較的短い加工時間(いわゆるポットライフ)を有し、かつ健康上問題となるものであり得ることである。そのうえ、従来の水性ポリマー分散体は一般的に、分散体を安定化させるために比較的多くの乳化剤量を必要とする。欠点は、乳化剤量が多いことによって、積層用水性接着剤調製物の瞬間粘着性が低下し得ることである。オキサゾリンモノマーを使用して製造されるポリマー分散体は、欧州特許第0176609号明細書、特開2013−057081号または国際公開第06/112538号に記載されている。これらのポリマー分散体は、比較的多い乳化剤量を含有しており、このことは、複合フィルムの積層用接着剤としての適用にとって欠点となる。オキサゾリンモノマーを有しない複合フィルムの積層のためのポリマー分散体は、国際公開第2011/154920号に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
できるだけ長いポットライフを有し、健康上できるだけ問題とならない、複合フィルムの積層のための水性ポリマー分散体を提供し、この水性ポリマー分散体を用いて、できるだけ良好な耐薬品性、できるだけ良好な瞬間接着性およびできるだけ良好な耐熱強度を有する複合フィルムを製造可能にすることが課題であった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本課題を、以下でより詳細に説明する製造方法およびこの方法により得られるポリマー分散体によって解決できることが分かった。本発明の対象は、
ラジカル乳化重合によって製造される、複合フィルムの積層のための水性ポリマー分散体であって、
まず第一段階で、水性媒体中で、ラジカル乳化重合によって、水中に分散した第一のポリマーを製造し、ここで第一のポリマーは、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有する第一の組成物から製造され、
さらなる段階で、水性媒体中であって第一のポリマーの存在下で、エチレン性不飽和のラジカル重合可能なモノマーを含有し第一の組成物とは異なるさらなる組成物のラジカル乳化重合によって、ポリマー分散体を製造し、
ここで、第一段階のモノマーが、少なくとも一つの酸基を有する少なくとも一種のモノマーを、全段階のモノマー100質量部を基準として、少なくとも0.1質量部の量で含み、
さらなる段階のモノマーが、少なくとも一つのオキサゾリン基を有する少なくとも一種のモノマーを含み、
第一段階の重合を5未満、好適には4.5以下のpH値で行い、さらなる段階の重合前に、さらなる段階前のポリマー分散体のpH値が5を超えるまで、好適には5.5以上になるように、酸基を揮発性塩基、好ましくはアンモニア水溶液で中和し、
モノマー100質量部を基準として合計0.5質量部未満の乳化剤を使用するか、または乳化剤を使用せず、および
製造されたポリマーのガラス転移温度が、−10℃未満である、
前記ポリマー分散体である。
【0005】
本発明の対象は、水性ポリマー分散体の相応する製造方法でもある。ここに記載される方法は、特別に適合させたいわゆる(多段階の)ワンポット法による複合フィルムの積層に特に適用するためのポリアクリレート分散体の製造を含み、このワンポット法は、エマルションポリマーを、「その場」で、つまり乳化重合の間に形成される保護コロイドによって安定化させることに基づく。
【0006】
本発明による方法の原理は、第一の重合段階において水性分散体中で、小さなポリマー粒子を、少なくとも一つの酸基を有する少なくとも一種のエチレン性不飽和モノマー(例えばアルキル(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸とからの混合物)を含有する第一のモノマー組成物のラジカル重合によって、好適にはシード制御で形成し、引き続き中和し、その後、主モノマー、例えばアルキル(メタ)アクリレートと、オキサゾリンモノマーと、任意でスチレンとからの混合物を供給することに基づく。第一段階で形成される粒子は、中和後に保護コロイドとして作用することができ、それにより、本発明によるポリマー分散体を安定化させることができる。第一段階の反応開始時に、反応容器中のpH値は、連続的に酸を添加することによって絶えず低下する。そうすることで、第一の重合段階で形成されるポリマー粒子は、溶解されていない状態で存在することが条件付けられる。オキサゾリン含有モノマーを含むこの重合段階の前に中和(例えばアンモニアの添加による)することによって初めて、主モノマーの添加によって開始する乳化重合において分散安定化作用を及ぼすことができる保護コロイドが形成される。というのも、保護コロイドは好適には、無極性のアルキル(メタ)アクリレート単位と、極性を有する中和された(メタ)アクリル酸単位またはイタコン酸単位とから構成されているからである。
【0007】
本発明の対象はまた、積層用接着剤としての、積層用接着剤を製造するための、または複合フィルムの製造における、本発明による水性ポリマー分散体の使用、相応する複合フィルム、および複合フィルムの相応する製造方法でもあり、この製造方法では、本発明による水性ポリマー分散体が用意され、少なくとも2つのフィルムを、水性ポリマー分散体を使用して互いに接着する。
【0008】
以下で時折、「(メタ)アクリル・・・」という名称および類似する名称を「アクリル・・・またはメタクリル・・・」のための省略表記として使用する。Cx−アルキル(メタ)アクリレートという名称および類似する名称において、xはアルキル基のC原子の数を意味する。
【0009】
ガラス転移温度は、示差走査熱量測定(ASTM D3418−08、いわゆる「中点温度」)によって特定される。ポリマー分散体のポリマーのガラス転移温度は、第二加熱曲線(加熱速度20℃/min)を評価する際に得られるガラス転移温度である。
【0010】
本発明により製造されるポリマー分散体は、エチレン性不飽和化合物(モノマー)をラジカル乳化重合することによって得られる。その際、第一段階およびさらなる段階の重合はどちらも、好適には、乳化剤が本発明によるポリマー分散体を安定化させるためには添加されないという意味合いで、乳化剤不含であるかまたはほんの少しの量の乳化剤を使用して行われる。乳化剤は、重合混合物に添加される非ポリマー系両親媒性界面活性物質である。ここで、例えば、ポリマーシードを安定化させるために使用された結果として存在する少量の乳化剤は、無害である。ポリマー分散体の全モノマー100質量部を基準として、全体で0.5質量部未満、殊に0.4質量部未満、0.3質量部未満の乳化剤を使用するか、または乳化剤を使用しない。殊に、好適には、反応性の乳化剤、つまり共重合可能な乳化剤も使用しない。
【0011】
第一段階では、少なくとも一つの酸基を有する少なくとも一種のモノマーを、全モノマーの合計量100質量部を基準として、少なくとも0.1質量部、好適には1〜10質量部の量で含むモノマーから、ポリマーを製造する。好適には、第一段階で、酸基を有するモノマー(酸モノマー)を、酸基を有しないモノマー、殊に非イオン性モノマーと共重合させる。酸基を有するモノマー対酸基を有しないモノマーの質量比は、第一重合段階のモノマー混合物において、好適には0.5:99.5〜30:70、好適には1:99〜20:80または1:99〜15:85の範囲にある。
【0012】
第一段階のポリマーは、例えば2〜3の低いpH値の場合および酸基が中和されていない場合、水溶性ではなく、水中に分散している。第二段階の重合の前に中和剤を添加する場合、酸基の中和度が上昇するほど、第一段階のポリマーの水溶性は向上する。水溶性が上昇するほど、第一段階のポリマーは、さらなる段階のポリマーのための保護コロイドとして作用することができ、高いポリマー固体含量を有するポリマー分散体を安定化させることができる。保護コロイドは、溶媒和によって多量の水と結合し、かつ水溶性ポリマーの分散体を安定化させることができるポリマー化合物である。乳化剤とは反対に、保護コロイドは一般的に、ポリマー粒子と水との間の界面張力を低下させない。保護コロイドの数平均分子量は、好適には1000g/mol以上、殊に2000g/mol以上、好ましくは50000g/molまで、または10000g/molまで、例えば1000〜100000g/mol、1000〜10000g/mol、または2000〜10000g/molである。
【0013】
中和の際に保護コロイドとして作用する第一段階のポリマーを、(殊に本発明によるポリマー分散体の合計固体含量が50質量%を超える場合に)重合させるモノマー100質量%を基準として、好適には1〜60質量%、または5〜50質量%、または7〜40質量%、または10〜30質量%の量で使用する。
【0014】
第一段階のポリマーの酸基を、部分的または完全に、適切な塩基で中和する。好適には、揮発性塩基、殊に揮発性有機塩基またはアンモニアを使用する。アンモニアは、好適にはアンモニア水溶液の形態で使用される。揮発性塩基または揮発性アミンは好適には、標準圧力で60℃未満、好適には20℃未満の沸点を有するものである。
【0015】
酸基を有するモノマー(酸モノマー)は、モノマー100質量部を基準として、少なくとも0.1質量部、かつ好適には5質量部未満、例えば0.1〜4質量部の量で使用される。酸モノマーは、エチレン性不飽和の酸モノマー、例えばエチレン性不飽和カルボン酸、ビニルホスホン酸または共重合可能なリン酸である。エチレン性不飽和カルボン酸としては、好適には3〜6個のC原子を分子中に有するα,β−モノエチレン性不飽和モノカルボン酸およびジカルボン酸を使用する。その例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ビニル乳酸およびエチレン性不飽和ホスホン酸である。アクリル酸およびメタクリル酸およびこれらの混合物が好ましく、アクリル酸が特に好ましい。
【0016】
第一段階で使用する酸モノマーを、第一段階で、酸基を有しないモノマーと共重合させることができる。第一段階のポリマーは好適には、以下でより詳細に定義される少なくとも40質量%の非イオン性の主モノマーから、ならびにエチレン性不飽和の酸モノマーから選択される二種類目のモノマーから形成される。さらに、第一段階のポリマーは任意で、好適には非イオン性のさらなるモノマーから形成されていてよい。第一段階のポリマーは、好適には少なくとも40質量%、殊に40〜80質量%、または50〜80質量%が主モノマーから構築されており、この主モノマーは、C1〜C20アルキル(メタ)アクリレート、20個までのC原子を含むカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を含むアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子と1つまたは2つの二重結合を有する脂肪族炭化水素およびこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されている。第一段階のポリマーのための主モノマーは例えば、C〜C10アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。殊に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も適している。1〜20個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えばラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。ビニル芳香族化合物としては、ビニルトルエン、α−およびp−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン、好適にはスチレンが考えられる。ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。ハロゲン化ビニルは、塩素、フッ素または臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、好ましくは塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。ビニルエーテルとしては、例えばビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルが挙げられる。1〜4個のC原子を含むアルコールのビニルエーテルが好ましい。4〜8個のC原子と2つのオレフィン二重結合を有する炭化水素としては、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンが挙げられる。第一段階のポリマーのための主モノマーとしては、C〜C10のアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、殊にC〜Cのアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレートが好ましい。極めて特に好ましくは、第一段階のポリマーはいわゆる純アクリレート(Reinacrylat(a straight acrylate))であり、つまりこれは、(酸モノマー以外には)(メタ)アクリル酸誘導体(例えばそのエステル)だけから形成されている。
【0017】
好ましい実施形態において、第一段階のポリマーは、以下の共重合体である:
(i)全段階で重合させるモノマー全体100質量%を基準として、5〜40質量%の量で使用される共重合体、
(ii)全段階のモノマーの合計を基準として、少なくとも50質量%および99.9質量%までが、C1〜C10アルキル(メタ)アクリレートおよびこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されている主モノマーから構築されている共重合体、および
(iii)全段階のモノマーの合計を基準として、少なくとも0.1質量%および4質量%までが、好適にはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸およびこれらの混合物から成る群より選択されているエチレン性不飽和の酸モノマーから構築されている共重合体。
【0018】
本発明の実施形態において、第一段階の重合で、少なくとも1種の分子量調整剤(または連鎖移動剤)を使用する。そうすることで、連鎖停止反応によって、エマルションポリマーのモル質量を低減することができる。この過程で調整剤は、ポリマーに、通常その鎖端に結合される。調整剤の量は、重合させる全段階のモノマー100質量部を基準として、殊に0.05〜4質量部、特に好ましくは0.05〜0.8質量部、極めて特に好ましくは0.1〜0.6質量部である。適切な調整剤は、例えばチオール基を有する化合物、例えばtert−ブチルメルカプタン、チオグリコール酸エチルヘキシルエステル、メルカプトエタノール、メルカプトプロピルトリメトキシシランまたはtert−ドデシルメルカプタンである。調整剤は一般的に、2000g/mol未満、殊に1000g/mol未満のモル質量を有する低分子化合物である。
【0019】
本発明の好ましい実施形態において、第一段階の重合はシードラテックスの存在下で行われる。シードラテックスは、好適には20〜40nmの平均粒径を有する微細なポリマー粒子の水性分散体である。シードラテックスは、全段階の合計モノマー量を基準として、好適には0.05〜5質量%、特に好ましくは0.1〜3質量%の量で使用される。例えば、ポリスチレンに基づく、またはポリメチルメタクリレートに基づくラテックスが適している。好ましいシードラテックスは、ポリスチレンシードである。
【0020】
オキサゾリン基を有するモノマーは、全段階のモノマー100質量部を基準として、好ましくは0.5〜4質量部、特に好ましくは0.75〜3質量部の範囲にある量で使用される。好適には、オキサゾリン基を含むモノマーを、さらなる重合段階においてのみ使用する。オキサゾリン基を有するモノマーは、少なくとも1つのオキサゾリン基、殊に少なくとも1つの2−オキサゾリン基を含むモノエチレン性不飽和の親水性モノマー(以下でオキサゾリンモノマーとも称する)である。このモノマーは好ましくは、ちょうど1つのオキサゾリン基、殊にちょうど1つの2−オキサゾリン基を含む。
【0021】
オキサゾリンモノマーは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基および少なくとも1つのオキサゾリン基を含む有機化合物である。本発明の意味合いにおいて、オキサゾリン基は、ちょうど1個の酸素原子およびちょうど1個の窒素原子を含む5員環を有する複素環式化合物を示す。オキサゾリン基は殊に、以下の構造要素によって記載することができる2−オキサゾリン基である。
【化1】
【0022】
オキサゾリンモノマーは好ましくは、式:
【化2】
(上記式中、基は以下の意味を有する:
Rは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含むC2〜20アルケニル基であり;
、R、R、Rは、互いに独立して、H、ハロゲン、C1〜20アルキル、C2〜20アルケニル、C6〜20アリール、C7〜32アリールアルキル、C1〜20ヒドロキシアルキル、C1〜20アミノアルキルおよびC1〜20ハロアルキルから選択され、好ましくは、H、ハロゲンおよびC1〜20アルキルから選択される)
による化合物である。
【0023】
エチレン性不飽和基は、末端C=C二重結合を示す。
【0024】
アルキルは、1〜20個の炭素原子、好ましくは1〜18個の炭素原子、特に好ましくは1〜12個の炭素原子を殊に含む、直鎖状、分枝鎖状または環状の炭化水素基、好ましくは直鎖状または分枝鎖状の炭化水素鎖から成る一価の基を示す。アルキル基は例えば、メチル、エチル、n−プロピルまたはイソプロピルであってよい。
【0025】
アルケニルは、2〜20個の炭素原子、好ましくは2〜18個の炭素原子、特に好ましくは2〜12個の炭素原子を殊に含み、1つ以上のC−C二重結合を含む、直鎖状または分枝鎖状の炭化水素鎖から成る一価の基を示しており、ここでC−C二重結合は、炭化水素鎖内に、または炭化水素鎖の端部(末端C=C二重結合)に生じ得る。アルケニル基は例えば、アリル基であってよい。
【0026】
アリールは、6〜20個の炭素原子を殊に含む、置換または非置換の芳香族炭化水素基を示す。アリール基は例えば、フェニル基であってよい。
【0027】
アリールアルキルは、1〜20個の炭素原子、好ましくは2〜18個の炭素原子、特に好ましくは2〜12個の炭素原子を殊に含む、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基から、1つ以上の水素原子をアリール基と交換することによって誘導される一価の基を示し、ここでアリール基は、6〜14個の炭素原子を殊に含む、置換または非置換の芳香族炭化水素基である。芳香族炭化水素基は例えば、フェニルであってよく、アリールアルキル基は例えば、ベンジル基であってよい。
【0028】
ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素から選択される置換基、好ましくは塩素を示す。
【0029】
ハロアルキルは、2〜20個の炭素原子、好ましくは2〜18個の炭素原子、特に好ましくは2〜12個の炭素原子を殊に含む、直鎖状または分枝鎖状のアルキル基から、1つ以上の水素原子をハロゲン原子(−F、−Cl、−Br、−I、殊にCl)と置換することによって誘導される一価の基を示す。同様のことが、ヒドロキシアルキルおよびアミノアルキルの基について当てはまる。
【0030】
好ましくは、Rは、少なくとも1つのエチレン性不飽和基を含むC1〜10アルケニル基、好ましくはC1〜6アルケニル基である。好ましい実施形態において、基Rは、ちょうど1つのエチレン性不飽和基を含む。基Rは殊に、ビニル、アリル、イソプロペニル(2−プロペン−2−イル)、2−プロペン−1−イル、3−ブテン−1−イルまたは4−ブテン−1−イルから選択されている。殊に好ましくは、Rはビニルまたはイソプロペニル、特に好ましくはイソプロペニルである。
【0031】
基R、R、RおよびRは好ましくは、互いに独立して、H、ハロゲン、C1〜10アルキル、C6〜12アリール、C7〜13アリールアルキル、C1〜10アルコキシ、C1〜10ヒドロキシアルキル、C1〜10アミノアルキルおよびC1〜10ハロアルキルから、殊にHおよびC1〜6アルキルから、特に好ましくはH、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、n−ペンチルおよびn−ヘキシルから、殊にH、メチルおよびエチルから選択されている。好ましい実施形態において、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つの基がHである。好ましい実施形態において、基RおよびRがHである。好ましい実施形態において、全ての基R、R、RおよびRがHである。好ましい実施形態において、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つの基がHである。
【0032】
好ましい実施形態において、基R、R、RおよびRは、互いに独立して、H、メチルおよびエチルから選択されており、R、R、RおよびRのうち少なくとも2つの基がHであり、好ましくは基RおよびRがHである。
【0033】
殊に好ましくは、オキサゾリンモノマーは、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5,5−ジメチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4,4,5,5−テトラメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4,4−ジメチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5,5−ジメチル−2−オキサゾリンおよび2−イソプロペニル−4,4,5,5−テトラメチル−2−オキサゾリンから成る群より選択される少なくとも1種のモノマーである。2−ビニル−2−オキサゾリンおよび/または2−イソプロペニル−2−オキサゾリンの使用が特に好ましく、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン(iPOxまたはIPOx)が殊に好ましい。
【0034】
さらなる段階の重合のために使用されるモノマーは、好適には少なくとも60質量%、好ましくは少なくとも80質量%、例えば80〜99.5質量%、特に好ましくは少なくとも90質量%が、以下で記載される1つ以上の主モノマーからのものである。主モノマーは、C〜C20アルキル(メタ)アクリレート、20個までのC原子を含むカルボン酸のビニルエステル、20個までのC原子を有するビニル芳香族、エチレン性不飽和ニトリル、ハロゲン化ビニル、1〜10個のC原子を含むアルコールのビニルエーテル、2〜8個のC原子と1つもしくは2つの二重結合を有する脂肪族炭化水素、またはこれらのモノマーの混合物から成る群より選択されている。
【0035】
例えば、C〜C10アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル、例えばメチルメタクリレート、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、エチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートが挙げられる。殊に、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの混合物も適している。1〜20個のC原子を有するカルボン酸のビニルエステルは、例えばラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニルエステルおよび酢酸ビニルである。ビニル芳香族化合物としては、ビニルトルエン、α−およびp−メチルスチレン、α−ブチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−n−デシルスチレン、好適にはスチレンが考えられる。ニトリルの例は、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルである。ハロゲン化ビニルは、塩素、フッ素または臭素で置換されたエチレン性不飽和化合物、好ましくは塩化ビニルおよび塩化ビニリデンである。ビニルエーテルとしては、例えばビニルメチルエーテルまたはビニルイソブチルエーテルが挙げられる。1〜4個のC原子を含むアルコールのビニルエーテルが好ましい。4〜8個のC原子と2つのオレフィン二重結合を有する炭化水素としては、ブタジエン、イソプレンおよびクロロプレンが挙げられる。
【0036】
さらなる段階の重合のための主モノマーとしては、C〜C10のアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、殊にC〜Cのアルキルアクリレートおよびアルキルメタクリレート、およびビニル芳香族、殊にスチレン、ならびにこれらの混合物が好ましい。メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、n−ヘキシルアクリレート、オクチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレート、2−プロピルヘプチルアクリレート、ならびにこれらのモノマーの混合物が極めて特に好ましい。
【0037】
主モノマーの他に、さらなる段階の重合のためのモノマーは、さらなるモノマー、例えばヒドロキシル基を含むモノマー、殊にC〜C10ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドを含むことができる。さらに、さらなるモノマーとしては、フェニルオキシエチルグリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、アミノ(メタ)アクリレート、例えば2−アミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。さらなるモノマーとしては、架橋モノマーも挙げられる。好適には、さらなる段階で使用されるモノマーは、全モノマーの合計を基準として、酸基を有するモノマーを最大で1質量部含むか、または酸基を有するモノマーを含まない。
【0038】
さらなる段階の重合のためのモノマーは殊に、少なくとも60質量%、特に好ましくは少なくとも80質量%、例えば60〜99.5質量%、極めて特に好ましくは少なくとも95質量%が、少なくとも1種のC〜C20アルキル(メタ)アクリレートから選択されている。
【0039】
好適には、第一およびさらなる段階のポリマー(オキサゾリン基を含むモノマーと酸モノマーは別とする)は、純アクリレートであり、つまり、オキサゾリン基を含むモノマーと酸モノマー(好適には(メタ)アクリル酸および/またはイタコン酸)以外には、(メタ)アクリル酸(好適にはそのエステル)の誘導体だけから形成されているポリマーである。
【0040】
好適には、さらなる段階の重合のモノマーは、さらなる段階のモノマーから製造されるポリマーについて算出するガラス転移温度が、−45℃〜+15℃、殊に−40℃〜+10℃の範囲にあるように選択されている。本発明によると、当業者であれば、モノマーの種類および量を目的に応じて変えることによって、ポリマーがガラス転移温度を所望の範囲で有する水性ポリマー組成物を製造することができる。Fox方程式を用いて概算することができる。Fox(T.G.Fox、Bull.Am.Phys.Soc.1956[Ser.II]1、123頁、およびUllmann’s Encyclopaedie der technischen Chemie、19巻、18頁、第四版、Verlag Chemie、Weinheim、1980による)によると、混合重合体(共重合体)のガラス転移温度の算出のためには、以下の式:
【数1】
(上記式中、x、x、・・・・xは、モノマー1、2、・・・・nの質量分率を意味し、T、T、・・・・Tは、それぞれモノマー1、2、・・・・nのうち1つのみから構築される重合体のガラス転移温度をケルビン度で意味する)が近似的に良好である。たいていのモノマーの単独重合体についてのT値は公知であり、例えばUllmann’s Ecyclopedia of Industrial Chemistry、A21巻、169頁、第五版、VCH Weinheim、1992に示されており、単独重合体のガラス転移温度に関するさらなる出典は、例えばJ.Brandrup、E.H.Immergut著、Polymer Handbook、第一版、J.Wiley、New York 1966、第二版、J.Wiley、New York 1975、および第三版、J.Wiley、New York 1989である。エチルアクリレートについては、−13℃の値を使用する。
【0041】
本発明によるポリマー分散体(全段階)のポリマーの実際のガラス転移温度は、好適には−10℃以下、例えば−40〜−10℃の範囲にある。実際のガラス転移温度は、示差走査熱量測定(ASTM D3418−08、いわゆる「中点温度」)によって特定される。これは、第二加熱曲線(加熱速度20℃/min)の評価の際に得られるガラス転移温度である。
【0042】
酸モノマーを含む第一の重合段階の重合と、オキサゾリンモノマーを含むさらなる重合段階の重合との間で、1回以上の追加の重合段階を行うことができ、これは好適には、同様に酸モノマーを含むことができ、原則的に種類および量に応じて、第一の重合段階と同じモノマーを含むことができる。
【0043】
第一段階および任意で追加の(好適には酸を含む)段階で使用されるモノマーの量対オキサゾリンを含むさらなる段階で使用されるモノマーの量の質量比は、好適には10:90〜90:10または10:90〜60:40、特に好ましくは10:90〜65:35である。
【0044】
本発明によるポリマー分散体の製造は、乳化重合によって行われる。乳化重合の際に、エチレン性不飽和化合物(モノマー)を水中で重合させ、ここで通常は、イオン性および/もしくは非イオン性の乳化剤および/もしくは保護コロイド、または安定化剤を、界面活性化合物として、モノマーの液滴と、後にモノマーから形成されるポリマー粒子とを安定化させるために使用する。しかしながら、本発明によると、全段階の重合は、乳化剤少なめで、または完全にもしくはほぼ乳化剤不含で行われる。さらなる段階の重合の際に生成するポリマー分散体を安定化させるために、第一段階のポリマーを使用し、このポリマーを、その場で中和剤を添加することによって、保護コロイドとして作用していない非水溶性ポリマーから、保護コロイドとして作用するポリマーに変換する。
【0045】
第一のポリマーの酸基の中和は好適には、中和剤をさらなる段階の重合前に供給することによって行われる。好適には、モノマーを全て供給した後に、少なくとも10%、好適には30〜100%または30〜90%の酸当量を中和するために必要とされる中和剤の量が、重合容器内に含まれている。
【0046】
第一段階および第二段階の乳化重合を、水溶性開始剤を用いて開始することができる。水溶性開始剤は例えば、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩およびアルカリ金属塩、例えばペルオキソ二硫酸ナトリウム、過酸化水素、または有機過酸化物、例えばtert−ブチルヒドロペルオキシドである。開始剤としては、いわゆる還元−酸化(レドックス)開始剤系も適している。レドックス開始剤系は、少なくとも1種のたいてい無機である還元剤と無機または有機の酸化剤とから成る。酸化成分は例えば、すでに先に挙げた乳化重合用開始剤である。還元成分は例えば、亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸のアルカリ金属塩、例えば二亜硫酸ナトリウム、脂肪族のアルデヒドおよびケトンの重亜硫酸付加化合物、例えばアセトン重亜硫酸塩、または還元剤、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸およびこれらの塩もしくはアスコルビン酸である。レドックス開始剤系は、金属成分が複数の価数段階で生じ得る可溶性金属化合物とともに使用され得る。通常のレドックス開始剤系は、例えばアスコルビン酸/硫酸鉄(II)/ペルオキシ二硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド/二亜硫酸ナトリウム、tert−ブチルヒドロペルオキシド/ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウムである。個別の成分、例えば還元成分はまた、混合物、例えばヒドロキシメタンスルフィン酸のナトリウム塩と二亜硫酸ナトリウムとからの混合物であってもよい。
【0047】
上記の開始剤は、たいてい水溶液の形態で使用され、ここで下限濃度は、分散体中に存在可能な水量によって、上限濃度は、水中での当該化合物の溶解度によって特定されている。一般的に、開始剤の濃度は、重合させるモノマーを基準として、0.1〜30質量%、好ましくは0.5〜20質量%、特に好ましくは1.0〜10質量%である。また、複数の様々な開始剤を乳化重合において使用することができる。
【0048】
さらなる段階および任意の追加の段階の重合において、上記の分子量調整剤(または連鎖移動剤)を使用することができる。しかしながら、好適には、さらなる段階および任意の追加の段階の重合は、さらなる分子量調整剤の添加なしで行われる。
【0049】
乳化重合は一般的に、30〜130℃、好適には50〜90℃で行われる。重合媒体は、水だけから成っていても、水と水混和性の液体、例えばメタノールとの混合物から成っていてもよい。好適には水だけが使用される。第一段階の乳化重合は、バッチプロセスとしても、段階式または勾配式の手順を含む供給法の形態でも実施可能である。重合の際に、粒径をより良好に調整するために、好ましくはポリマーシードを予め装入する。
【0050】
開始剤をラジカル水性乳化重合の過程で重合容器に加える手法は、一般的な当業者に公知である。これは、完全に重合容器に予め装入されても、その消費量に応じて、ラジカル水性乳化重合の過程で連続的または段階的に使用されてもよい。これは、個別の場合では、開始剤系の化学的性質および重合温度の両方による。好適には一部を予め装入し、消費量に応じて、残りを重合域に送る。残りのモノマーを除去するために、通常は、本来の乳化重合の終了後、つまり少なくとも95%のモノマーの転化後にも開始剤を加える。供給法の場合、個別の成分を、上から側面において、または下から反応器の底を通して反応器に送ることができる。
【0051】
乳化重合において、ポリマーの水性分散体は一般的に、15〜75質量%、好ましくは40〜75質量%、特に好ましくは50質量%以上の固体含量で得られる。反応器の高い空時収量のためには、できるだけ高い固体含量を有する分散体が好ましい。60質量%を超える固体含量を得ることを可能にするためには、二峰性または多峰性の粒径に調整することが望ましい。というのも、そうしなければ粘度があまりに高くなり、もはやこの分散体を取り扱うことができないからである。新たな粒子グループの作製は、例えばシードを添加することによって、過剰な乳化剤量を添加することによって、またはミニエマルションを添加することによって行われ得る。高い固体含量において粘度が低いことに付随するさらなる利点は、高い固体含量における改善された被覆挙動である。1つ以上の新たな粒子グループの作製は、任意の時点で行われ得る。この任意の時点は、低い粘度のために求められる粒径分布によって導かれる。
【0052】
そのようにして製造されたポリマーは好適には、その水性分散体の形態で使用される。分散体粒子のサイズ分布は、単峰性、二峰性または多峰性であってよい。単峰性の粒径分布の場合、水性分散体中に分散したポリマー粒子の平均粒径は、好適には400nm未満、殊に200nm未満である。ここで平均粒径とは、粒径分布のd50値と理解され、つまり全粒子の合計質量の50質量%が、d50値よりも小さい粒子直径を有する。粒径分布は、公知のやり方で、流体力学クロマトグラフィー(HDC)によって測定可能である。二峰性または多峰性の粒径分布の場合、粒径は1000nmまでであってよい。ポリマー分散体のpH値は、好適には5を超えるpH、殊に5.5〜8のpH値に調整される。
【0053】
本発明によると、本発明によるポリマー分散体は、積層体を製造するために水性接着剤配合物中で、つまり大面積の基材を接着するため、殊に複合フィルムを製造するために積層用水性接着剤配合物中で使用される。
【0054】
よって、本発明はまた、複合フィルムを製造する方法に関し、この方法では、少なくとも1つの本発明によるポリマー分散体を含む水性接着剤配合物を使用する。ここで水性ポリマー分散体は、そのまま、または一般的な助剤と調合した後に使用され得る。一般的な助剤は、例えば湿潤剤、増粘剤、さらなる保護コロイド、光安定化剤、殺生物剤、消泡剤などである。本発明による接着剤配合物は、可塑化樹脂(粘着付与剤)またはその他の可塑剤の添加を必要としない。複合フィルムの製造方法では、少なくとも2つのフィルムを、水性ポリマー分散体を使用して互いに接着する。
【0055】
複合フィルムを製造するための本発明による方法では、本発明によるポリマー分散体または相応して調合した配合物を、接着させる大面積の基材上に、好適には0.1〜20g/m、特に好ましくは1〜7g/mの層厚で、例えばドクターブレード、塗布などによって施与する。一般的な被覆法、例えばローラ塗布、リバースロール塗布、グラビアロール塗布、リバースグラビアロール塗布、ブラシ塗布、ロッド塗布、スプレーコーティング、エアーブラシコーティング、メニスカスコーティング、カーテンコーティングまたはディップコーティングを適用することができる。分散体の水を短時間脱水させた後に(好適には1〜60秒後)、被覆された基材を第二の基材で積層する(貼り合わせる)ことができ、ここで温度は例えば、20〜200℃、好適には20〜100℃、圧力は例えば、100〜3000kN/m、好適には300〜2000kN/mであり得る。
【0056】
好適には、本発明によるポリマー分散体を、一成分の薬剤として、つまりさらなる架橋剤なしで、殊にイソシアネート架橋剤なしで適用する。フィルムのうち少なくとも1つは、接着剤で被覆された側で印刷または金属化されていてよい。基材としては、例えばポリマーフィルム、殊にポリエチレン(PE)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアセテートからのもの、セロファン、金属、例えばアルミニウムで被覆された(蒸着された)ポリマーフィルム(略:金属化フィルム)または金属フィルム、例えばアルミニウムからのものが適している。上記のフィルムを、互いに接着することができるか、または別の種類のフィルム、例えば金属フィルムを有するポリマーフィルム、様々なポリマーフィルムなどと互いに接着することができる。上記のフィルムは、例えば印刷インキを用いて印刷されていてもよい。
【0057】
本発明の実施形態は、上記の本発明による水性ポリマー分散体のうちいずれかを使用して製造される複合フィルムであり、ここで第一のフィルムの材料は、OPP、CPP、PE、PETおよびPAから選択されており、第二のフィルムの材料は、OPP、CPP、PE、PET、PAおよび金属フィルムから選択されている。本発明の実施形態において、第一のフィルムおよび/または第二のフィルムは、本発明によるポリマー分散体で被覆される側でそれぞれ、印刷または金属化されている。基材フィルムの厚さは例えば、5〜100μm、好適には5〜40μmであり得る。
【0058】
フィルム基材の表面処理は、本発明によるポリマー分散体で被覆する前に必ずしも必要とはされない。しかしながら、フィルム基材の表面を被覆前に改質すると、より良好な結果を得ることができる。ここで、通常の表面処理、例えばコロナ処理を接着作用の強化のために適用することができる。コロナ処理またはその他の表面処理は、被覆組成物による十分な濡れ性に必要とされる程度で実施される。通常、この目的のためには、1平方メートルおよび1分あたり約10ワットのコロナ処理で十分である。あるいは、または付加的に、任意でさらにプライマーまたは中間層をフィルム基材と接着剤被覆との間で使用することもできる。さらに、複合フィルムは、さらなる付加的な機能層、例えばバリア層、印刷層、カラー層もしくはワニス層、または保護層を有することができる。ここで機能層は、外部、つまり接着剤で被覆された側とは反対のフィルム基材側に、または内部でフィルム基材と接着剤層との間に存在することができる。
【0059】
様々な基材を互いに接着できること、つまり積層(貼り合わせ)できることは本発明の利点であり、ここで本発明によるポリマー分散体は、基材への接着剤配合物の良好な接着性を保証し、接着された複合体の強度を高める。さらに、本発明によるポリマー分散体は、良好な瞬間接着性および良好な耐熱強度によって優れている。
【0060】
本発明による製造方法および本発明による生成物の特別な利点は、殊に以下のことである:
−長いポットライフ、好適には50℃で少なくとも10日間、
−良好な耐薬品性、
−良好な瞬間接着性、好適には少なくとも1.5N/15mmの瞬間接着性、
−良好な耐熱強度、好適には90℃で0.3N/15mmを超える耐熱強度、
−良好な剥離強度、好適には24時間後に少なくとも1.8N/15mmの剥離強度、
−乳化剤は少なめであるか、またはほぼ乳化剤不含で作業可能であること(例えば乳化剤で安定化させたポリマーシードを使用する場合、殊に、僅かな量の乳化剤であれば無害である)、
−保護コロイドがその場で製造されることを理由として、保護コロイドの別々の合成、輸送および貯蔵を省略することができるため、保護コロイドで安定化されたその他のポリマー分散体に比べてコストが削減されていること。
【実施例】
【0061】
粒径の特定:
粒径の特定を、Polymer Labs社のPSDA(Particle Size Distribution Analyzer;粒径分布分析器)を用いて流体力学的な分画によって行う。使用されるCartridgePL0850−1020という型式の塔を2ml/minの貫流で稼動させる。試料を溶離液により0.03AU/μlの吸収率まで希釈する。この試料をサイズ排除の原理によって流体力学的直径10に従って溶離させる。溶離剤は、ドデシルポリ(エチレングリコールエーテル)23を0.2質量%、ドデシル硫酸ナトリウムを0.05質量%、リン酸二水素ナトリウムを0.02質量%およびアジ化ナトリウムを0.02質量%、脱イオン水中に含有する。pHは5.8である。溶離時間は、ポリスチレン格子(Polystyrol−Eichlatices)を用いて較正される。20nm〜1200nmの範囲で測定する。UV検出器を用いて254nmの波長で検出する。
【0062】
ガラス転移温度の特定:
ガラス転移温度を、示差走査熱量測定を利用してASTM D3418−08に従って測定する。調整のために、ポリマーを注ぎ出し、一晩かけて乾かし、そして1時間にわたり、真空乾燥器内において120℃で乾燥させる。測定時には、この試料を150℃に加熱し、急速に冷却し、そして150℃まで20℃/minで加熱しながら測定する。いわゆる中点温度が記載されている。
【0063】
実施例1:二段階の重合によるポリマー分散体(2.36pphmのIPOx、Tg=−32℃)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、5.9gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および166.5gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液46.4gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水92.7g、イタコン酸6.5g、メタクリル酸3.3g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.2g、n−ブチルアクリレート110.5g、メチルアクリレート34.1gおよびスチレン13.0gから成るエマルション274.4gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、10分にわたり、3.7%濃度のアンモニアを用いて7.5のpHに調節した。引き続き、脱イオン水92.7g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)4.6g、スチレン29.3g、n−ブチルアクリレート423.4g、イソプロペニルオキサゾリン(IPOx)15.3gおよびメチルアクリレート14.6gから成る第二のエマルション供給物を120分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水41.6gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(7%濃度)35.5gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)13.0gを計量供給した。その後、アンモニア(25%濃度)0.3gおよび脱イオン水41.6gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルター(Perlonfilter(Perlon filter))を介して濾過した。分散体は、49.8%の固体含量、7.4のpH値、−32℃の全体ガラス転移温度および222nmの粒径を有していた。
【0064】
実施例2:二段階の重合によるポリマー分散体(1pphmのIPOx)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.1gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および163.2gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45.0gを加え、2分間攪拌した。その後、120分にわたり、脱イオン水163.04g、イタコン酸6.3g、アクリル酸3.15g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)3.4g、n−ブチルアクリレート173.6g、メチルアクリレート192.0gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション302.7gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、10分にわたり、5%濃度のアンモニアを用いて7のpHに調節した。引き続き、脱イオン水45.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、イソプロペニルオキサゾリン(IPOx)6.3g、n−ブチルアクリレート143.8gおよびメチルアクリレート104.8gから成る第二のエマルション供給物を70分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(4.8%濃度)50.2gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水34.3gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、50.7%の固体含量、7.0のpH値、−16℃の全体ガラス転移温度および206nmの粒径を有していた。
【0065】
実施例3:三段階の重合によるポリマー分散体(2pphmのIPOx、Tg=−15℃)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.1gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および168.8gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水117.4g、イタコン酸6.3g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.1g、n−ブチルアクリレート29.9g、メチルアクリレート83.5gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション238.9gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、脱イオン水45.6g、アクリル酸3.2g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、n−ブチルアクリレート143.8gおよびメチルアクリレート108.5gから成る第二のエマルション供給物を、続いて60分で計量供給した。第二のエマルション供給段階を開始してから15分後に、45分にわたり、5%濃度のアンモニア56.7gを、別々の供給によってともに計量供給した。第二のエマルション供給とアンモニア供給が終了した後に、完全脱塩水45.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、n−ブチルアクリレート140.7g、メチルアクリレート101.6gおよびイソプロペニルオキサゾリン(IPOx)12.6gからの第三のエマルション供給物を60分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(13.2%濃度)8.7gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水34.3gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、49.1%の固体含量、6.5のpH値、−15℃の全体ガラス転移温度および179nmの粒径を有していた。
【0066】
実施例4:三段階の重合によるポリマー分散体(1.8pphmのIPOx、Tg=−14℃)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.11gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および172.0gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水117.4g、イタコン酸6.3g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.1g、n−ブチルアクリレート29.9g、メチルアクリレート83.5gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション238.9gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、脱イオン水45.6g、アクリル酸0.63g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7gおよびメチルアクリレート107.9gから成る第二のエマルション供給物を、続いて60分で計量供給した。第二のエマルション供給段階を開始してから15分後に、45分にわたり、3.66%濃度のアンモニア51.7gを、別々の供給によってともに計量供給した。第二のエマルション供給とアンモニア供給が終了した後に、完全脱塩水45.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7g、メチルアクリレート96.2gおよびイソプロペニルオキサゾリン(IPOx)11.7gからの第三のエマルション供給物を60分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(13.2%濃度)8.7gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水34.3gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、48.9%の固体含量、7.5のpH値、−14℃の全体ガラス転移温度および174nmの粒径を有していた。
【0067】
実施例5:三段階の重合によるポリマー分散体(1.4pphmのIPOx)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.11gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および172.0gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水117.4g、イタコン酸6.3g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.1g、n−ブチルアクリレート29.9g、メチルアクリレート83.5gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション238.9gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、脱イオン水45.6g、アクリル酸0.63g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7gおよびメチルアクリレート107.9gから成る第二のエマルション供給物を、続いて60分で計量供給した。第二のエマルション供給段階を開始してから15分後に、45分にわたり、3.66%濃度のアンモニア51.7gを、別々の供給によってともに計量供給した。第二のエマルション供給とアンモニア供給が終了した後に、完全脱塩水45.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7g、メチルアクリレート99.1gおよびイソプロペニルオキサゾリン(IPOx)8.82gからの第三のエマルション供給物を60分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(13.2%濃度)8.7gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水34.3gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、49.7%の固体含量、7のpH値、−14℃の全体ガラス転移温度および183nmの粒径を有していた。
【0068】
実施例6:三段階の重合によるポリマー分散体(0.5pphmのIPOx)
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.1gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および172.0gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水117.4g、イタコン酸6.3g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.1g、n−ブチルアクリレート29.9g、メチルアクリレート83.5gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション238.9gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、脱イオン水45.6g、アクリル酸0.63g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7gおよびメチルアクリレート107.9gから成る第二のエマルション供給物を、続いて60分で計量供給した。第二のエマルション供給段階を開始してから15分後に、45分にわたり、3.7%濃度のアンモニア51.7gを、別々の供給によってともに計量供給した。第二のエマルション供給とアンモニア供給が終了した後に、完全脱塩水45.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)2.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート6.3g、n−ブチルアクリレート140.7g、メチルアクリレート104.9gおよびイソプロペニルオキサゾリン(IPOx)3.0gからの第三のエマルション供給物を60分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(13.2%濃度)8.7gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水34.3gを加え、実験体を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、49.6%の固体含量、7のpH値、−15℃の全体ガラス転移温度および198nmの粒径を有していた。
【0069】
比較例7(IPOxなし):
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、5.8gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および163.8gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液42.9gを加え、2分間攪拌した。その後、60分にわたり、脱イオン水111.8g、イタコン酸6.0g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)1.1g、n−ブチルアクリレート28.5g、メチルアクリレート79.6gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション227.5gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、脱イオン水86.8g、アクリル酸0.6g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)4.3g、2−ヒドロキシプロピルアクリレート12.0g、n−ブチルアクリレート267.9gおよびメチルアクリレート205.5gから成る第二のエマルション供給物を120分で計量供給した。第二のエマルション供給段階を開始してから15分後に、105分にわたり、3.66%濃度のアンモニア49.2gを、別々の供給によってともに計量供給した。供給終了後、脱イオン水30.0gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(13.2%濃度)8.2gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.0gを計量供給した。その後、アンモニア(25%濃度)0.2gおよび脱イオン水32.7gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、50.7%の固体含量、6.5のpH値、−15℃の全体ガラス転移温度および185nmの粒径を有していた(流体力学クロマトグラフィー)。
【0070】
比較例8(乳化剤含有):
アンカー型攪拌機を備える80℃に加熱された2Lの反応器に、6.1gのポリスチレンシード(固体含量:33%、粒径:30nm)および163.2gの脱イオン水を満たした。80℃の内部温度に達した後に、7%濃度のペルオキソ二硫酸ナトリウム溶液45.0gを加え、2分間攪拌した。その後、120分にわたり、脱イオン水140.9g、イタコン酸6.3g、アクリル酸3.15g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)40.5g、n−ブチルアクリレート173.6g、メチルアクリレート192.0gおよび2−エチルヘキシルチオグリコレート0.6gから成るエマルション310.9gを計量供給した。同時に、反応温度を60分にわたり85℃に上昇させた。第一のエマルション供給終了後、15分にわたり、5%濃度のアンモニアを用いて7のpHに調節した。引き続き、脱イオン水23.0g、ナトリウムラウリルポリエトキシスルフェート(Disponil(登録商標)FES27、水中で28%濃度、BASF SE)27.0g、イソプロペニルオキサゾリン(IPOx)6.3g、n−ブチルアクリレート143.8gおよびメチルアクリレート104.8gから成る第二のエマルション供給物を70分で計量供給した。供給終了後、脱イオン水31.5gを加え、温度を80℃に下げた。80℃の内部温度で、60分にわたり、アセトン重亜硫酸塩(4.8%濃度)50.2gおよびtert−ブチルヒドロペルオキシド(10%濃度)12.6gを計量供給した。その後、脱イオン水44.8gを加え、実験体溶液を室温に冷却した。冷却後、分散体を125μmのペルロンフィルターを介して濾過した。分散体は、49.4%の固体含量、7.0のpH値、−16℃の全体ガラス転移温度および172nmの粒径を有していた。
【0071】
複合フィルムの製造:
中和されたポリマー分散体を、2g/m(固体含量を基準とする)の乾燥層厚で、市販のフィルム(OPP−ink;印刷された二軸延伸ポリプロピレン)上にドクターブレードで塗る。熱風による乾燥後、そのように被覆したフィルムを第二のフィルム(metalized cast PP;金属化した無延伸PP)で巻き、引き続き、6.5barの圧力によって、ローラプレス機内において5m/minで、70℃で圧着する。引き続き、この複合フィルムを、1日室温および標準条件下で貯蔵する。
【0072】
剥離強度(瞬間接着性および耐熱強度)の特定:
剥離強度を特定するために、複合フィルムを切断して幅15mmの条片にする。引き続き、これらの条片を、角度2×90°(180°)、速度100mm/minで、剥離強度のためのZwick社製万能試験機(型式1120.25.01)内において23℃で引き剥がし、そのために必要な力をニュートンで測定する。瞬間接着性を特定するために、23℃で1分後の剥離強度を測定した。耐熱強度を特定するために、剥離強度を加熱したチャンバ内において90℃で測定した。接着剤の耐薬品性を記載するために、積層体を、7日間50℃でトマトケチャップ中に貯蔵し、その後、これらの積層体について、23℃で剥離強度を求めた。それらの結果は、表1に要約されている。
【表1】
【表2】
【0073】
これらの結果は、第一段階で酸モノマーを中和した後にエマルションポリマー段階でオキサゾリン含有モノマーを共重合することによって、熱負荷において、とりわけ攻撃的な媒体の影響下(例えばケチャップ中での貯蔵後)においても、剥離強度の著しい改善がもたらされることを示す。乳化剤を少なめにすることによって、分散体は、優れた瞬間接着性を得る(表2)。