特許第6790241号(P6790241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790241
(24)【登録日】2020年11月6日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】電解用電極およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/08 20060101AFI20201116BHJP
   C25B 1/26 20060101ALN20201116BHJP
   C25B 1/16 20060101ALN20201116BHJP
   C25B 1/34 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   C25B11/08 A
   !C25B1/26 A
   !C25B1/16
   !C25B1/34
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-510866(P2019-510866)
(86)(22)【出願日】2018年7月30日
(65)【公表番号】特表2019-531407(P2019-531407A)
(43)【公表日】2019年10月31日
(86)【国際出願番号】KR2018008645
(87)【国際公開番号】WO2019031753
(87)【国際公開日】20190214
【審査請求日】2019年2月22日
(31)【優先権主張番号】10-2017-0102524
(32)【優先日】2017年8月11日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2018-0087750
(32)【優先日】2018年7月27日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】特許業務法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】チョン、チョンウク
(72)【発明者】
【氏名】ファン、キョ−ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】パン、チョンオプ
(72)【発明者】
【氏名】パン、ヨンチュ
(72)【発明者】
【氏名】イ、トンチョル
(72)【発明者】
【氏名】キム、ヨンイ
(72)【発明者】
【氏名】オム、ヒチュン
(72)【発明者】
【氏名】キム、ミョンフン
【審査官】 西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−215580(JP,A)
【文献】 特開2016−148074(JP,A)
【文献】 特開2003−277966(JP,A)
【文献】 特公昭48−015151(JP,B1)
【文献】 特公昭49−045222(JP,B1)
【文献】 特開2006−097122(JP,A)
【文献】 特開平08−269763(JP,A)
【文献】 特開2012−180597(JP,A)
【文献】 特開2008−133532(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 11/08
C25B 1/16
C25B 1/26
C25B 1/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金族金属前駆体、希土類金属前駆体、有機溶媒、およびアミン系溶媒を含む電極製造用コーティング液を製造する段階と、
前記電極製造用コーティング液を金属基板上に塗布して触媒層を形成する段階と、
前記触媒層を乾燥させる段階と、
前記触媒層を熱処理する段階とを含む、電解用電極の製造方法であって、
前記アミン系溶媒は、電極製造用コーティング液100体積%に対して3〜40体積%含まれるものである、電解用電極の製造方法。
【請求項2】
前記白金族金属前駆体は、塩化ルテニウム水和物(RuCl3・nH2O)、テトラアミンプラチナム(II)クロライド水和物(Pt(NH34Cl2・H2O)、塩化ロジウム(RhCl3)、硝酸ロジウム水和物(Rh(NO33・nH2O)、塩化イリジウム水和物(IrCl3・nH2O)、硝酸パラジウム(Pd(NO32)からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項3】
前記希土類金属前駆体は、硝酸セリウム(III)(Ce(NO33)、炭酸セリウム(III)(Ce2(CO33)、塩化セリウム(III)(CeCl3)、酸化イットリウム(Y23)、および炭酸イットリウム(Y2(CO33)からなる群より選択される1種以上である、請求項1または2に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒は、C1〜C6のアルコールおよびC4〜C8のグリコールエーテルの混合溶媒である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項5】
前記C1〜C6のアルコールおよびC4〜C8のグリコールエーテルの混合比は、10:1〜1:2である、請求項4に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項6】
前記アミン系溶媒は、C6〜C30の飽和または不飽和脂肪族アミンである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項7】
前記アミン系溶媒は、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ラウリルアミン、およびヘキサデシルアミンからなる群より選択される1種以上である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項8】
前記白金族金属前駆体および希土類金属前駆体は、1:1〜10:1のモル比率で含まれるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項9】
前記電極製造用コーティング液の濃度は、50〜150g/Lである、請求項1〜8のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥段階の温度は、70〜200℃である、請求項1〜9のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【請求項11】
前記熱処理段階の温度は、300〜600℃である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の電解用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願との相互参照
本出願は、2017年8月11日付の韓国特許出願第10−2017−0102524号および2018年7月27日付の韓国特許出願第10−2018−0087750号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示されたすべての内容を本明細書の一部として含む。
【0002】
本発明は、電解用電極およびその製造方法に関する。より具体的には、本発明は、電解用電極の過電圧数値を安定化させ、針状構造を増大させて耐久性を向上させることができる電解用電極およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
クロル−アルカリ工程(Chlor−alkali process)は、塩水の電気分解で塩素(Cl2)および苛性ソーダ(NaOH)を製造する工程であって、石油化学分野における基礎素材として幅広く使用される2つの物質を大量生産できる、産業的に有用な工程である。
【0004】
クロル−アルカリ工程は、電解触媒を含む電解用電極を備えるクロル−アルカリ膜またはダイヤフラム(diaphragm)電解セルで行われる。クロル−アルカリ工程では、理論的に必要な電圧以外に、セル内の各種固有抵抗を克服するために過電圧が適用されなければならない。このような過電圧が減少すると、セルの作用に関連するエネルギー費用が大きく節約されるので、過電圧要求量を最小化する方法を開発することが望ましい。
【0005】
電解セルの過電圧要求量を減少させる方法の一つとして、電極の過電圧を減少させる方策が多数提案されてきた。陰極(cathode)の場合、従来用いられていた軟鋼やニッケルまたはステンレススチールが300〜400mVの過電圧を有していて、その表面を活性化して過電圧を減少させる方法が提案された。
【0006】
しかし、電解電圧を減少させるためには、電極の過電圧をさらに減少させることが必須である。また、事故や停電によって電解セルの作動が突然停止する場合、整流器を介して電気的に陰極陽極が接続されているため、電解生成物の逆分解による逆電流が流れるが、これにより、陰極成分金属の部分溶出が起こるなどによって陰極活性が劣化し、過電圧効率が減少する問題があるので、逆電流による影響を最小化できる方策も要求される。
【0007】
前記問題点を解決するために多様な構成の電極が開示された。
【0008】
日本国特開平11−140680号公報では、金属基材上に酸化ルテニウムを主体とする電極物質層を形成し、その表面に多孔質でかつ活性が低い保護層をさらに形成して電極の耐久性を向上させている。
【0009】
日本国特開平11−229170号公報では、酸化ルテニウムを分散させたニッケルの電着層を有し、その表面を酸化チタンからなる導電性酸化物で被覆して水銀による被毒耐性を向上させている。
【0010】
しかし、これらの方法は、追加の原料を必要としたり、条件の設定が難しくて製造工程が複雑になるという欠点があり、電極の耐久性が十分に確保されない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−140680号公報
【特許文献2】特開平11−229170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記の問題点を解決するためのものであって、過電圧が低く優れた耐久性を有する電解用電極を提供し、追加的な前駆体の導入や製造設備の変更なしに前記効果を奏する電極を製造できる電解用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明は、金属基板と、前記金属基板上に形成された触媒層とを含む電解用電極であって、
前記触媒層は、窒素、白金族金属、および希土類金属を含み、
前記触媒層中の窒素の含有量は、白金族金属に対して20〜60モル%である、電解用電極を提供する。
【0014】
この時、前記触媒層は、希土類金属の針状構造を含むことができ、前記針状構造は、50〜300nmの厚さおよび0.5〜10μmの長さを有する針状の構造体を2以上含むものであってもよい。
【0015】
また、本発明は、白金族金属前駆体、希土類金属前駆体、有機溶媒、およびアミン系溶媒を含む電極製造用コーティング液を製造する段階と、
前記電極製造用コーティング液を金属基板上に塗布して触媒層を形成する段階と、
前記触媒層を乾燥させる段階と、
前記触媒層を熱処理する段階とを含む、電解用電極の製造方法を提供する。
【0016】
この時、前記白金族金属前駆体は、塩化ルテニウム水和物(RuCl3・nH2O)、テトラアミンプラチナム(II)クロライド水和物(Pt(NH34Cl2・H2O)、塩化ロジウム(RhCl3)、硝酸ロジウム水和物(Rh(NO33・nH2O)、塩化イリジウム水和物(IrCl3・nH2O)、硝酸パラジウム(Pd(NO32)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0017】
また、前記希土類金属前駆体は、硝酸セリウム(III)(Ce(NO33)、炭酸セリウム(III)(Ce2(CO33)、塩化セリウム(III)(CeCl3)、酸化イットリウム(Y23)、および炭酸イットリウム(Y2(CO33)からなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0018】
前記有機溶媒は、C1〜C6のアルコールおよびC4〜C8のグリコールエーテルの混合溶媒であってもよく、前記C1〜C6のアルコールおよびC4〜C8のグリコールエーテルの混合比は、10:1〜1:2であってもよい。
【0019】
前記アミン系溶媒は、C6〜C30の飽和または不飽和脂肪族アミンであってもよいし、具体的には、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ラウリルアミン、およびヘキサデシルアミンからなる群より選択される1種以上であってもよい。前記アミン系溶媒は、電極製造用コーティング液100体積%に対して3〜40体積%含まれる。
【0020】
前記白金族金属前駆体および希土類金属前駆体は、1:1〜10:1のモル比率で含まれる。
【0021】
前記電極製造用コーティング液の濃度は、50〜150g/Lであってもよい。
【0022】
前記乾燥段階の温度は、70〜200℃の範囲、前記熱処理段階の温度は、300〜600℃の範囲であってもよい。
【0023】
また、本発明は、前記製造方法によって製造された電解用電極を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の電解用電極は、既存の電極に比べて希土類金属の針状構造が発達していて触媒物質の脱落が抑制され、これにより、逆電流の際にも安定した性能を示すなど耐久性に優れている。また、本発明の電解用電極は、過電圧数値が低く電解セルの過電圧要求量を顕著に減少させることができる。さらに、本発明の電解用電極の製造方法によれば、追加の前駆体の導入や製造設備の変更なくても前記効果を有する電解用電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の電解用電極と商用電極の耐久性評価結果である。
図2】実施例1、2および比較例1の電解用電極のセル駆動後の表面SEMイメージである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本明細書で使用される用語は、単に例示的な実施例を説明するために使用されたものであり、本発明を限定しようとする意図ではない。単数の表現は、文脈上明らかに異なって意味しない限り、複数の表現を含む。本明細書において、「含む」、「備える」または「有する」などの用語は、実施された特徴、段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、1つまたはそれ以上の他の特徴や段階、構成要素、またはこれらを組み合わせたものの存在または付加の可能性を予め排除しないことが理解されなければならない。
【0027】
本発明は、多様な変更が加えられ様々な形態を有しうることから、特定の実施例を例示し、下記に詳細に説明する。しかし、これは本発明を特定の開示形態に対して限定しようとするものではなく、本発明の思想および技術範囲に含まれるあらゆる変更、均等物乃至代替物を含むことが理解されなければならない。
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明は、金属基板と、前記金属基板上に形成された触媒層とを含む電解用電極であって、
前記触媒層は、窒素、白金族金属、および希土類金属を含み、
前記触媒層中の窒素の含有量は、白金族金属に対して20〜60モル%である、電解用電極を提供する。
【0030】
本発明の電解用電極において、触媒層は、アミン系溶媒を含んで製造され、これにより、触媒層には窒素が含まれる。このようにアミン系溶媒を用いることによって発達した針状構造を有する本発明の電解用電極は、優れた耐久性を示し、これにより、逆電流の際にも安定した性能の実現が可能であるという利点を示す。また、このような電極は、既存の商用電極に比べて過電圧数値が改善される効果を奏する。
【0031】
この時、前記触媒層中の窒素の含有量は、好ましくは、白金族金属に対して35モル%、または40モル%以上であってもよく、55モル%以下、または50モル%以下であってもよい。万一、白金族金属に対する窒素の含有量が20モル%未満であったり、60モル%以上であれば、電極の耐久性向上効果が確保されにくいことがある。
【0032】
本発明において、金属基板は、電気伝導性を有する金属基材であって、本発明の技術分野で通常用いられるものが制限なく使用可能である。
【0033】
前記金属基板の形態は特に制限されないが、例えば、メッシュ、不織布、発泡体、パンチング多孔板、ブレード(braid)金属、エキスパンデッド(expanded)金属、またはこれと類似する形状の多孔性基材が使用できる。
【0034】
また、前記金属基板の材質は、ニッケル、ニッケル合金、ステンレス鋼、銅、コバルト、鉄、鋼鉄、またはこれらの合金が可能であり、電気伝導性および耐久性の側面からニッケルまたはニッケル合金が好ましい。
【0035】
白金族金属は、ルテニウム(Ru)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、およびパラジウム(Pd)を含む、白金と性質が類似する8族〜10族の遷移金属を意味する。前記白金族金属は、触媒活性を有し、電解用電極に含まれて過電圧を低下させ、寿命特性を向上させることができる。制限するわけではないが、本発明の一実施例によれば、前記白金族金属は、ルテニウムであってもよい。
【0036】
また、前記希土類金属は、セリウム(Ce)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、スカンジウム(Sc)などを意味し、本発明の一実施例によれば、前記希土類金属は、セリウムであってもよい。
【0037】
一方、前記触媒層は、希土類金属の針状(needdle−like)構造を含むことができる。前記針状構造は、針状の構造体(針状構造体)を2以上含む構造を意味する。触媒層に希土類金属の針状構造が発達した場合、電極触媒物質である白金族金属を支持する役割を果たすことができ、これにより、白金族金属の脱落が抑制され、逆電流条件下でも電極性能の低下が起こらず優れた耐久性を示す。
【0038】
具体的には、前記針状構造をなす構造体の厚さは、50nm〜300nmであってもよく、または50〜200nmであってもよいし、長さは、0.5〜10μm、または0.5〜5μmの範囲であってもよい。後述する実験例で具体化されるように、本発明の電解用電極は、アミン系溶媒を含んで製造され、触媒層に前記のような希土類金属の針状構造が発達することから、既存の電解用電極に比べて安定した電極特性および耐久性を示す。
【0039】
一方、本発明は、白金族金属前駆体、希土類金属前駆体、有機溶媒、およびアミン系溶媒を含む電極製造用コーティング液を製造する段階と、
前記電極製造用コーティング液を金属基板上に塗布してコーティング層を形成する段階と、
前記コーティング層を乾燥させる段階と、
前記コーティング層を熱処理して触媒層を製造する段階とを含む、電解用電極の製造方法を提供する。
【0040】
本発明によって製造された電解用電極は、過電圧改善の程度が優れ、セル駆動時、電極表面に希土類金属の針状構造が増加する効果を奏する。これにより、前記電極は、耐久性が顕著に向上し、逆電流現象が起こった後にも安定した過電圧効率を確保できる。
【0041】
本発明において、電極製造用コーティング液は、白金族金属前駆体と希土類金属前駆体をそれぞれ1種以上含む。
【0042】
本発明において、白金族金属前駆体は、前記白金族金属の塩または酸化物であってもよい。この時、前記塩または酸化物は、水和物形態のものが使用されてもよい。
【0043】
前記白金族金属前駆体の非制限的な例としては、塩化ルテニウム水和物(RuCl3・nH2O)、テトラアミンプラチナム(II)クロライド水和物(Pt(NH34Cl2・H2O)、塩化ロジウム(RhCl3)、硝酸ロジウム水和物(Rh(NO33・nH2O)、塩化イリジウム水和物(IrCl3・nH2O)、硝酸パラジウム(Pd(NO32)からなる群より選択される1種以上が挙げられる。
【0044】
前記白金族金属前駆体は、熱処理段階によって焼成され、触媒活性粒子、つまり、水の電気還元に対して触媒性の金属または化合物粒子に変換される。このような白金族金属または化合物が電極内に含まれる場合、電極過電圧が改善される効果を得ることができる。
【0045】
前記希土類金属前駆体は、前述した希土類金属を含む塩または酸化物であって、具体的には、硝酸セリウム(III)(Ce(NO33)、炭酸セリウム(III)(Ce2(CO33)、塩化セリウム(III)(CeCl3)、酸化イットリウム(Y23)、および炭酸イットリウム(Y2(CO33)からなる群より選択される1種以上が使用できるが、これに制限されるわけではない。
【0046】
また、前記塩または酸化物は、水和物(Hydrate)形態のものを使用することができる。一例として、硝酸セリウム6水和物、炭酸セリウム5、8、または9水和物、塩化セリウム1、3、6、または7水和物、炭酸イットリウム3水和物などが使用できる。
【0047】
前記希土類金属前駆体は、熱処理段階で焼成され、希土類金属酸化物に変換される。希土類金属酸化物は、水素発生活性は不足するが、水素が発生する環境下で粒子状から針状に変化し、このような針状形態は、白金族化合物の触媒層を支持する役割を果たして触媒層の脱落を抑制する効果がある。
【0048】
本発明の製造方法によって製造された電解用電極は、既存の製造方法によって製造された電極に比べて、セル駆動中に希土類金属酸化物の針状構造が顕著に増加することが確認され、これにより、逆電流発生後にも安定的に電極性能を維持するなど優れた耐久性を示す。
【0049】
好ましくは、本発明において、前記希土類金属前駆体は、セリウム(Ce)塩または酸化物を1種以上含む。本発明の好ましい一実施例によれば、前記希土類金属前駆体としては、硝酸セリウム6水和物(Ce(NO33・6H2O)を使用することができ、前記白金族金属前駆体としては、ルテニウムクロライド水和物(RuCl3・nH2O)を使用することができる。
【0050】
前記白金族金属前駆体および希土類金属前駆体の混合比率は特に制限されるわけではなく、使用される前駆体の種類に応じて適切に調節可能であるが、最終的に製造される電解用電極の触媒活性を最適化するために、1:1〜10:1、または3:1〜10:1のモル比率で混合して使用できる。
【0051】
本発明において、電極製造用コーティング液に使用される溶媒は、白金族金属前駆体および希土類金属前駆体の溶解が可能な有機溶媒であって、乾燥および熱処理段階で95%以上揮発できる溶媒が好適である。
【0052】
例えば、前記有機溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒などの有機極性溶媒が使用可能であり、1種以上を混合して使用することができる。好ましくは、前記有機溶媒としては、アルコール系溶媒、グリコールエーテル系溶媒、またはこれらの組み合わせが使用可能である。
【0053】
前記アルコール系溶媒は、C1〜C6のアルコールが好ましく、具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、およびプロピレングリコールからなる群より選択される1種が使用できるが、これに制限されない。
【0054】
前記グリコールエーテル系溶媒は、C4〜C8のグリコールエーテルが好ましく、具体的には、2−エトキシエタノール、2−プロポキシエタノール、2−イソプロポキシエタノール、2−ブトキシエタノール、および2−(2−メトキシエトキシ)エタノールからなる群より選択される1種以上が使用できるが、これに制限されるわけではない。
【0055】
本発明の一実施例において、前記有機溶媒は、C1〜C6アルコールおよびC4〜C8グリコールエーテルの混合溶媒であってもよい。このような混合溶媒を用いる場合、単一アルコール系溶媒のみを用いた電極に比べて、製造した電極の剥離とクラック(crack)の発生が顕著に減少する効果があり、大面積コーティング時、乾燥時間が長くなるにつれてより均一なコーティングが可能な効果があって、好ましい。
【0056】
前記効果を確保するために、C1〜C6アルコールおよびC4〜C8グリコールエーテルの混合比は、10:1〜1:2の範囲であることが好ましく、4:1〜1:1の範囲がより好ましい。本発明の一実施例では、前記有機溶媒として、イソプロピルアルコールおよび2−ブトキシエタノールの1:1混合溶媒、またはエタノールおよび2−ブトキシエタノールの1:1混合溶媒を使用したが、溶媒の組み合わせおよび混合比がこれに制限されるわけではない。
【0057】
本発明において、電極製造用コーティング液は、前記有機溶媒のほか、安定化剤としてアミン系溶媒をさらに含む。このようにコーティング液にアミン系溶媒を含む場合、最終的に製造される電極は、セル駆動中に表面に希土類金属の針状構造が増大し、これにより、電極の耐久性が向上し、電極の過電圧減少効果もさらに向上する効果を示す。
【0058】
前記アミン系溶媒は、C6〜C30の飽和または不飽和脂肪族アミンが使用可能であり、その種類は特に制限されるわけではないが、例えば、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、ラウリルアミン、およびヘキサデシルアミンからなる群より選択される1種以上が使用できる。あるいは、前記アミン系溶媒は、オクチルアミン、オレイルアミン、およびこれらの組み合わせが使用できる。
【0059】
本発明において、前記アミン系溶媒は、電極製造用コーティング液100体積%に対して3〜40体積%の範囲で含まれ、または5〜30体積%含まれる。万一、アミン系溶媒の含有量が3体積%未満であれば、前記電極の耐久性向上効果、過電圧減少効果を確保できず、40体積%を超えると、金属前駆体を溶解させにくくて、前駆体が均一に分散した電極製造用コーティング液が得られない問題がある。
【0060】
本発明において、電極製造用コーティング液の製造方法は特に限定されず、一例として、有機溶媒とアミン系溶媒とを混合した混合溶媒に白金族金属前駆体と希土類金属前駆体を投入し、溶解させる方法によるとよい。あるいは、金属前駆体の溶解をより容易にするために、有機溶媒に先に金属前駆体を完全に溶解させた後、アミン系溶媒を投入して混合する方法で前記コーティング液を製造することができる。
【0061】
この時、電極製造用コーティング液の最終濃度は、50〜150g/L、または80〜120g/Lであってもよい。前記濃度範囲を満足する時、コーティング液中の金属前駆体の含有量が十分になって電極性能および耐久性を確保でき、コーティング液を基板上に適切な厚さにコーティングできて、工程効率が極大化される。
【0062】
次に、前記電極製造用コーティング液を金属基板上に塗布して触媒層を形成し、これを乾燥および熱処理して電解用電極を製造する。この時、金属基板は、触媒層を形成する前に、脱脂、ブラストなどの清浄化処理または表面粗化処理をして、触媒層との付着性をさらに向上させることができる。
【0063】
また、適切な厚さの電極を形成するために、コーティング液の塗布、乾燥、および熱処理段階は数回繰り返される。
【0064】
電極製造用コーティング液の塗布方法は特に制限されず、スプレーコーティング、ペイントブラッシング、ドクターブレード、浸漬−引上げ法、スピンコーティング法など、当業界で知られたコーティング法が使用できる。
【0065】
乾燥段階は、触媒層に含まれている溶媒を除去するために行うものであって、乾燥条件は特に制限されず、使用された溶媒および触媒層の厚さに応じて適切に調節可能である。例えば、前記乾燥段階は、70〜200℃の温度で5分〜15分間行われる。
【0066】
次に、金属前駆体の焼成のための熱処理段階を行う。
【0067】
前記熱処理段階において、触媒層中の白金族金属前駆体と希土類金属前駆体の熱分解が起こり、これにより、触媒活性を有する白金族金属およびその化合物と希土類金属酸化物などに変換される。
【0068】
熱処理条件は、使用された金属前駆体の種類に応じて異なるが、具体的には、熱処理温度は、300〜600℃または400〜550℃、熱処理時間は、10分〜2時間であってもよい。
【0069】
万一、前述のように塗布、乾燥、および熱処理段階を1回以上繰り返して電極を製造する場合、各塗布、乾燥段階の後に行う熱処理段階は、5分〜15分程度と短く行い、最後の乾燥段階の後の最終熱処理段階は、30分以上、または1時間〜2時間程度と十分な時間行う方法を使用することができる。このように最後の熱処理段階を長時間行うと、金属前駆体を完全に熱分解させることができ、各触媒層の界面が最小化され、電極性能向上効果を得ることができて、好ましい。
【0070】
このような方法によって製造された電解用電極において、触媒層の厚さは特に限定されるものではないが、具体的には、0.5〜5μmの範囲であってもよいし、1〜3μmの範囲であってもよい。
【0071】
前述した本発明の製造方法によって製造された電解用電極は、各種工業電解の電解セルに適用可能であり、特に、クロル−アルカリセル(chlor−alkali cell)の陰極(cathode)として好適に使用できる。
【0072】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を提示するが、下記の実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の範疇および技術思想の範囲内で多様な変更および修正が可能であることは当業者にとって明らかであり、このような変更および修正が添付した特許請求の範囲に属することも当然である。
【0073】
[実施例]
<実施例1>
RuCl3・nH2OとCe(NO32・6H2Oとが6:1のモル比率で混合された金属前駆体を、イソプロピルアルコール(IPA)と2−ブトキシエタノール(2−butoxy ethanol)との1:1(体積比)混合溶媒に溶かして前駆体溶液を製造し、前記前駆体溶液とアミン系溶媒(Oleylamine)とを2:1の比率(体積比)で混合して、100g/Lの濃度の電極製造用コーティング液を製造した。前記コーティング液をニッケルメッシュにブラシコーティング後、200℃で10分乾燥、500℃で10分熱処理する工程を計10回繰り返した後、500℃で1時間熱処理して、電解用電極を得た。
【0074】
<実施例2>
アミン系溶媒としてオレイルアミンの代わりにオクチルアミン(Octylamine)を用いたことを除けば、実施例1と同様の方法で電解用電極を製造した。
【0075】
<比較例1>
RuCl3・nH2OとCe(NO32・6H2Oとが6:1のモル比率で混合された金属前駆体を、イソプロピルアルコール(IPA)と2−ブトキシエタノール(2−butoxy ethanol)との1:1(体積比)混合溶媒に溶かして、100g/Lの濃度のコーティング液を製造した。前記コーティング液をニッケルメッシュにブラシコーティング後、200℃で10分乾燥、500℃で10分熱処理する工程を計10回繰り返した後、500℃で1時間熱処理して、電解用電極を得た。
【0076】
<比較例2>
RuCl3・nH2OとCe(NO32・6H2Oとが6:1のモル比率で混合された金属前駆体を、イソプロピルアルコール(IPA)と2−ブトキシエタノール(2−butoxy ethanol)との1:1(体積比)混合溶媒に溶かして前駆体溶液を製造し、追加の添加剤としてシュウ酸をルテニウムに対して0.5倍モルとなるように添加し溶解させて、100g/Lの濃度のコーティング液を製造した。前記コーティング液をニッケルメッシュにブラシコーティング後、200℃で10分乾燥、500℃で10分熱処理する工程を計10回繰り返した後、500℃で1時間熱処理して、電解用電極を得た。
【0077】
[製造例]
前記各実施例および比較例の電解用電極(10mm×10mm)を陰極とする半セルを次の方法で製造した。電解液としては前記32重量%NaOH水溶液、相対電極はPtワイヤ、基準電極はSaturated Calomel電極(SCE)を用いて、各実施例および比較例の電極を陰極とする半セルを製造した。
【0078】
[実験例1:過電圧改善の程度の評価]
前記製造例の半電池を用いて、線形走査電位法(Linear Sweep Voltammetry)により各電解用電極の電流密度4.4kA/m2における電圧を測定した。前記実験を10回繰り返して測定された電圧の平均値を過電圧改善平均数値とし、商用電極(Asahi Kasei商用陰極電極:ncz−2)の電圧と比較して過電圧改善の程度を算出した。
【0079】
<LSV Test条件>
電極size:10mm×10mm、温度:90℃、電解液:32重量%NaOH水溶液
サンプル(電解用電極)前処理:電流密度−6A/cm2で1時間水素を発生させるように電解。
【0080】
Initial potential(V):−500.0e-3
Final potential(V):−1.500.0e0
Scan rate(V/s):10.0e-3
Sample period(V):1.0e-3
【0081】
【表1】
【0082】
前記表1を参照すれば、アミン系溶媒としてオレイルアミンを添加して製造された実施例1は、商用電極に比べて平均過電圧改善の程度が−51mVで、アミン系溶媒を添加せずに製造された比較例1、およびアミン系溶媒の代わりにシュウ酸を添加して製造された比較例2より優れていることが分かる。また、アミン系溶媒としてオクチルアミンを添加して製造された実施例2の電極も、過電圧が−55mV改善されたことが明らかになった。
【0083】
前記結果から、電極製造用コーティング液にアミン系溶媒を含む場合、既存と同一の工程条件でより優れた過電圧改善効果を有する電極を製造できることを確認できる。
【0084】
[実験例2:耐久性評価]
前記製造例の半セルに対して、下記の試験条件で逆電流テスト(Reverse current test)を行って、実施例1の電極と商用電極(実験例1と同一)に対する耐久性を評価し、その結果を下記表2および図1に示した。
【0085】
<Reverse current test条件>
電極size:10mm×10mm、温度:90℃、電解液:32重量%NaOH水溶液
サンプル前処理:電流密度−0.1A/cm2で20分間、−0.2A/cm2および−0.3A/cm2で各3分間、−0.4A/cm2で30分間水素を発生させるように電解。
【0086】
Revers current条件:+0.05kA/m2
【0087】
【表2】
【0088】
逆電流テストの際、活性層の電解が起こる−0.1Vまで到達する時間を確認した時、実施例1の電極(2.31時間)が商用電極(1.01時間)に比べて2.29倍さらにかかることを確認できた。
【0089】
前記結果から、本発明によって製造された電極は、逆電流の際にも商用電極に比べて耐久性における利点があることを確認できる。
【0090】
[実験例3:電極表面構造の比較]
前記実験例1のテストが完了した電池を分解して、実施例1、2および比較例1の電極表面の状態を、SEMによりそれぞれ1000倍、10000倍で確認した(図2)。そして、SEMの長さ測定ツールにより針状構造の厚さと長さを測定した。
【0091】
図2を参照すれば、電極製造用前駆体溶液にアミン系溶媒を添加した実施例1および2は、アミン系溶媒を添加しない比較例1に比べて、セル駆動後、電極表面にセリウムの針状構造が明確に現れることを確認できる。
【0092】
具体的には、実施例1の場合、各針状の構造体が厚さ50〜200nm、長さ0.5〜5μmに形成されたのに対し、比較例1の場合、厚さ20〜50nm、長さ0.2〜0.5μmに過ぎなかった。つまり、アミンを添加した電極においてセリウムの針状構造が2〜4倍増加したことを確認できる。
【0093】
また、比較例1の電極表面に剥離および亀裂が発生したのに対し、実施例1および2は明確な剥離と亀裂が観察されなかった。
【0094】
前記結果から、本発明の製造方法による場合、希土類金属の針状構造が増加し、これにより、電極の耐久性を顕著に向上させることができることが分かる。
【0095】
[実験例4:電極表面成分の比較]
前記実施例1、2および比較例1で製造された電極の成分をEDX(Energy Dispersive Spectrometer)により測定した。1つの電極のそれぞれ異なるポイントに対して3回ずつ測定し、電極内のRuおよびNのモル%を下記表3に記載した。
【0096】
【表3】
【0097】
測定結果、電解用電極の製造時、アミン系溶媒が含まれている実施例1と2の電極の場合、ルテニウム対比の窒素のモル比率が35〜50%と高かったのに対し、アミンを用いない比較例1の場合、ルテニウム対比の窒素のモル比率が13〜19%と低く現れたことを確認できる。
【0098】
前記結果から、本発明の方法によって製造された電極は、製造時、アミン系溶媒が含まれない電極に比べて、熱処理後にもアミン成分である窒素の含有量が高いことを確認できる。
図1
図2