【文献】
LIU, Shaomin et al.,Bioceramic Macrocapsules for Cell Immunoisolation,Angewandte Chemie International Edition,2007年,Vol.46,p.3062-3065
【文献】
PROKOP, A. et al.,Water Soluble Polymers for Immunoisolation II: Evaluation of Multicomponent Microencapsulation Syste,Advances in Polymer Science,1998年,Vol.136,p.53-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
【0011】
<<移植用チャンバー>>
移植用チャンバーは、生物学的構成物をレシピエントに移植するための容器である。移植用チャンバーは、その内部に生物学的構成物を内包することができる。
本発明の移植用チャンバーは内部と外部との境界(移植用チャンバー内部と外部とを隔てる境界)に免疫隔離膜を有する。
【0012】
<免疫隔離膜>
本明細書において、免疫隔離膜は免疫隔離のために用いられる膜を意味する。
免疫隔離は移植の際のレシピエントの免疫拒絶反応を防止する方法の一つである。ここで、免疫拒絶反応は、移植される生物学的構成物に対するレシピエントの拒絶反応である。免疫隔離により、レシピエントの免疫拒絶反応から生物学的構成物が隔離される。免疫拒絶反応としては、細胞性免疫応答に基づくものおよび液性免疫応答に基づくものが挙げられる。
【0013】
免疫隔離膜は酸素、水、グルコース等の栄養分は透過させ、免疫拒絶反応に関与する免疫細胞等の透過を阻止する選択透過性の膜である。免疫細胞としては、マクロファージ、樹状細胞、好中球、好酸球、好塩基球、ナチュラルキラー細胞、各種T細胞、B細胞、その他リンパ球が挙げられる。
免疫隔離膜は、用途に応じ、免疫グロブリン(IgMまたはIgG等)および補体のような高分子量タンパク質の透過を阻止することが好ましく、インスリンなどの比較的低分子量の生理活性物質を透過させることが好ましい。
【0014】
免疫隔離膜の選択透過性は用途に応じて調整すればよい。免疫隔離膜は、例えば、分子量500kDa以上、100kDa以上、80kDa以上、または50kDa以上などの物質を遮断する選択透過性の膜であればよい。例えば、免疫隔離膜は、抗体の中で最も小さいIgG(分子量約160kDa)の透過を阻止できることが好ましい。また、免疫隔離膜は、球体としてのサイズとして直径500nm以上、100nm以上、50nm以上、または10nm以上などの物質を遮断する選択透過性の膜であればよい。
【0015】
本発明の移植用チャンバーは、内部と外部との境界に免疫隔離膜を含む。また、免疫隔離膜は多孔質膜を含む。免疫隔離膜は多孔質膜のみからなっていてもよく、またはハイドロゲル膜などの他の層を含んでいてもよい。免疫隔離膜の少なくとも1つの表面は多孔質膜であることが好ましく、免疫隔離膜が多孔質膜からなることも好ましい。
免疫隔離膜の厚みは、特に限定されないが、10μm〜500μmであればよく、10μm〜250μmであることが好ましく、15μm〜200μmであることがより好ましい。
【0016】
[多孔質膜]
(多孔質膜の熱収縮率)
本発明の移植用チャンバーにおいて、多孔質膜は、膜面方向の熱収縮率のうち最大の熱収縮率が0.00%以上5.00%以下でありかつ上記膜面方向の熱収縮率のうち、最大の熱収縮率と最小の熱収縮率の差が0.00%以上1.30%以下である。熱収縮率が低く、膜面方向の熱収縮率が等価である多孔質膜は孔径が変化しにくい。本発明者らは、熱収縮率についての具体的な値として、上記の値の範囲とすることにより、物質透過性が変化しにくい移植用チャンバーを提供できることを見出した。
上記最大の熱収縮率は、2.00%以下であることが好ましく、1.00%以下であることがより好ましい。また、最大の熱収縮率と最小の熱収縮率の差は0.50%以下であることが好ましく、0.10%以下であることがより好ましい。
【0017】
本明細書において、最大の熱収縮率、および最大の熱収縮率と最小の熱収縮率との差は、直径dmmの円形に切り出した多孔質膜を90℃熱水に3時間浸漬後、湿潤状態の多孔質膜について以下AおよびBを測定して、以下の式から求めたものとする。
A:切り出した直後の円形の中心を通る直線の中で最も短い直線の長さ(mm)
B:切り出した直後の円形の中心を通る直線の中で最も長い直線の長さ(mm)
(最大熱収縮率)=(d−A)/d×100%
(最小熱収縮率)=(d−B)/d×100%
(熱収縮率差)=(最大熱収縮率)−(最小熱収縮率)
【0018】
(多孔質膜の構造)
多孔質膜は複数の孔を有する膜をいう。孔は例えば膜断面の走査型電子顕微鏡(SEM)撮影画像または透過型電子顕微鏡(TEM)撮影画像で確認することができる。
多孔質膜の厚みは、特に限定されないが、10μm〜500μmであればよく、10μm〜250μmであることが好ましく、15μm〜200μmであることがより好ましい。
【0019】
多孔質膜のバブルポイント径は0.02μm以上25μm以下であることが好ましく、0.2μm〜10μmであることがより好ましく、0.5μm〜5μmであることがさらに好ましい。バブルポイント測定は多孔質膜を液体に浸漬し、下側から空気の圧力を上げていくとある値に達した時に最初にネック部の最大の孔径の孔から気泡が発生することを利用した測定方法である。この時の圧力をバブルポイント圧と呼び、バブルポイント圧に基づき、公知の式を用いてバブルポイント径を求めることができる。厚み方向で孔径分布がない多孔質膜においては、バブルポイント径は、通常、多孔質膜の最大孔径に該当する。厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜においては、バブルポイント径は、後述の緻密部位における最大の孔径に該当する。
【0020】
多孔質膜の最小孔径は0.02μm〜1.5μmであることが好ましく、0.02μm〜1.3μmであることがより好ましい。このような多孔質膜の最小孔径で少なくとも通常の細胞の透過を阻止することができるからである。多孔質膜の最小孔径はASTM F316−80により測定することができる。
【0021】
(厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜)
多孔質膜は、厚み方向で孔径分布を有することが好ましい。また、多孔質膜は、孔径が最小となる層状の緻密部位を内部に有することが好ましい。さらに、この緻密部位から多孔質膜の少なくとも一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましい。孔径は、後述する分割線の平均孔径で判断するものとする。
膜の表面とは主表面(膜の面積を示すおもて面または裏面)を意味し、膜の端の厚み方向の面を意味するものではない。多孔質膜の表面は他の層との界面であってもよい。なお、本発明の免疫隔離膜において、多孔質膜は孔径または孔径分布(厚み方向での孔径の差異)などについ膜内方向(膜表面に平行な方向)で一様の構造を有していることが好ましい。
【0022】
孔径分布を有する多孔質膜を使用することにより、移植用チャンバーの寿命を向上させることができる。実質的に異なる孔径の複数の膜を用いて多段階の濾過を行なったような効果が得られ、膜の劣化を防止することができるからである。
【0023】
孔径は電子顕微鏡によって得られた膜断面の写真から測定すればよい。多孔質膜はミクロトーム等により切断し、断面が観察できる薄膜の切片として、多孔質膜断面の写真を得ることができる。
【0024】
本明細書において、膜の厚み方向の孔径の比較は、膜断面のSEM撮影写真を膜の厚み方向に20分割したときの19本の分割線における孔径の比較により行なうものとする。分割線と交差するまたは接する孔を連続して50個以上選択し、それぞれの孔径を測定し、平均値を算出して平均孔径とする。ここで、孔径は、選択された孔が分割線と交差する部分の長さではなく、膜断面のSEM撮影写真から孔の面積を画像処理により算出し、得られた面積を真円の面積として算出される直径を用いる。このとき、孔が大きく、50個以上選択できない分割線については、膜断面を得るSEM撮影写真の視野を広げて50個測定するものとする。得られた平均孔径を分割線ごとで比較することにより膜の厚み方向の孔径の比較を行なう。
【0025】
孔径が最小となる層状の緻密部位は、上記膜断面写真における分割線のうちで平均孔径が最小となる分割線を含む多孔質膜の層状の部位をいう。緻密部位は2つ以上の分割線を含んでいてもよい。例えば、最小平均孔径の1.1倍以内の平均孔径を有する連続する分割線が2つ以上連続しているとき、緻密部位はこの連続する2つ以上の分割線を含むものとする。本明細書において、緻密部位の厚みは、緻密部位が含む分割線の数と膜の厚みの20分の1との積とする。
【0026】
厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜については、緻密部位の平均孔径を多孔質膜の最小平均孔径と判断できる。最小孔径は、緻密部位の判断後、さらにASTM F316−80により測定することが好ましい。
【0027】
厚み方向で孔径分布を有する多孔質は、緻密部位を膜内に有することが好ましい。膜内とは膜の表面に接していないことを意味し、「緻密部位を膜内に有する」とは、緻密部位が、膜のいずれかの表面にもっとも近い区分ではないことを意味する。緻密部位を膜内に有する構造の多孔質膜を用いることにより、同じ緻密部位を表面に接して有する多孔質膜を用いた場合よりも、透過させることが意図された物質の透過性が低下しにくい。いかなる理論にも拘泥するものではないが、緻密部位が膜内にあることによりタンパク質の吸着が起こりにくくなるためと考えられる。
【0028】
緻密部位は、多孔質膜の厚みの中央部位よりもいずれか一方の表面側に偏っていることが好ましい。具体的には、緻密部位が多孔質膜のいずれか一方の表面から多孔質膜の厚みの2分の1より小さい距離にあることが好ましく、5分の2以内の距離にあることがさらに好ましい。この距離は上述の膜断面写真において判断すればよい。本明細書において、緻密部位がより近い側の多孔質膜の表面を「表面X」という。多孔質膜が緻密部位を有し、表面Xを有している場合、移植用チャンバーにおいては、多孔質膜の表面Xが内部側にあることが好ましい。すなわち、免疫隔離膜中の多孔質膜の緻密部位がより移植用チャンバーの内部に近くなるように、免疫隔離膜が配置されていることが好ましい。表面Xを移植用チャンバーの内部側にすることにより、生理活性物質の透過性をより高くすることができる。
【0029】
多孔質膜においては緻密部位から少なくともいずれか一方の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましい。多孔質膜において、緻密部位から表面Xに向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していてもよく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していてもよい。これらのうち、少なくとも緻密部位から表面Xと反対側の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加していることが好ましく、緻密部位から多孔質膜のいずれの表面に厚み方向で向かうときも孔径が連続的に増加していることがより好ましい。「厚み方向で孔径が連続的に増加」とは、厚み方向に隣り合う区分の間の平均孔径の差異が、最大平均孔径と最小平均孔径の差異の50%以下、好ましくは40%以下、より好ましくは30%以下となるように増加していることをいう。「連続的に増加」は、本質的には、減少がなく一律に増加することを意味するものであるが、減少している部位が偶発的に生じていてもよい。例えば、区分を表面から2つずつ組み合わせたときに、組み合わせの平均値が、一律に増加(表面から緻密部位に向かう場合は一律に減少)している場合は、「緻密部位から膜の表面に向かって厚み方向で孔径が連続的に増加している」と判断できる。
【0030】
厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜は、例えば後述する製造方法により実現することができる。厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜は、特にポリスルホンおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択されるポリマーを用いて製造されることが好ましい。
【0031】
厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜においては、上記分割線のうちで平均孔径が最大となる分割線のその平均孔径を多孔質膜の最大平均孔径と判断することができる。厚み方向で孔径分布を有する多孔質膜の最大平均孔径は0.15μm以上100μm以下であることが好ましく、1.0μm〜50μmであることがより好ましく、2.0μm〜21μmであることがさらに好ましい。平均孔径が最大となる分割線は多孔質膜のいずれかの表面にもっとも近い分割線であることが好ましい。
【0032】
厚み方向で孔径分布を有する多孔質において、緻密部位の平均孔径(最小平均孔径)と最大平均孔径との比(多孔質膜の最小平均孔径と最大平均孔径との比であって最大平均孔径を最小平均孔径で割った値、本明細書において「異方性比」ということもある。)は、3以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上がさらに好ましい。緻密部位以外の平均孔径を大きくし、多孔質膜の物質透過性を高くするためである。また、異方性比は、25以下であることが好ましく、20以下であることがより好ましい。上記の多段濾過のような効果が異方性比が25以下の範囲で効率よく得られるためである。
【0033】
(多孔質膜の元素分布)
多孔質膜は、少なくとも一方の表面において、式(I)および式(II)を満たすことが好ましい。
B/A ≦ 0.7 (I)
A ≧ 0.015 (II)
式中、Aは膜の表面におけるC元素(炭素原子)に対するN元素(窒素原子)の比率を示し、Bは同じ表面から30nmの深さにおけるC元素に対するN元素の比率を示す。
式(II)は多孔質膜の少なくとも一方の表面に一定量以上のN元素が存在することを示すものであり、式(I)は多孔質膜中のN元素が表面30nm未満に偏在していることを示しているものである。
【0034】
表面が式(I)および式(II)を満たすことにより、多孔質膜の生体親和性、特に、特に、式(I)および式(II)を満たす表面側の生体親和性が高くなる。
多孔質膜は、いずれか一方のみの表面が、式(I)および式(II)を満たしていてもよく、または両表面が式(I)および式(II)を満たしていてもよいが、両表面が式(I)および式(II)を満たしていることが好ましい。いずれか一方のみの表面が式(I)および式(II)を満たす場合、その表面は、後述の移植用チャンバーにおいて、内側であっても、または外側であってもよいが、内側であることが好ましい。また、いずれか一方のみの表面が式(I)および式(II)を満たす場合であって、多孔質膜が上述の表面Xを有しているとき、式(I)および式(II)を満たす表面は表面Xであることが好ましい。
【0035】
本明細書において、膜表面のC元素に対するN元素の比率(A値)および表面から30nmの深さにおけるC元素に対するN元素の比率(B値)は、XPS測定結果を用いて算出したものとする。XPS測定はX線光電子分光法であり、膜表面にX線を照射し、膜表面から放出される光電子の運動エネルギーを計測することで、膜表面を構成する元素の組成を分析する方法である。実施例に記載する単色化Al−Kα線を用いた条件で、スパッタ開始時の結果からA値を計算し、スパッタレートから測定した膜の表面から30nmであると計算される時間の結果からB値を計算するものとする。
【0036】
B/Aは0.02以上であればよく、0.03以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。
Aは0.050以上であることが好ましく、0.080以上であることがより好ましい。また、Aは0.20以下であればよく、0.15以下であることが好ましく、0.10以下であることがより好ましい。
Bは0.001〜0.10であればよく、0.002〜0.08であることが好ましく、0.003〜0.07であることがより好ましい。
【0037】
多孔質膜の元素分布、特にN元素の分布は、後述する多孔質膜の製造方法において、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間、凝固液の温度、浸漬時間、洗浄のためのジエチレングリコール浴の温度、洗浄のためのジエチレングリコール浴への浸漬時間、多孔質製造ラインの速度等によって制御することができる。なお、N元素の分布は、製膜原液中の含有水分量によっても制御することができる。
【0038】
(多孔質膜の組成)
多孔質膜はポリマーを含んでいればよい。多孔質膜は本質的にポリマーから構成されていることが好ましい。
多孔質膜を形成するポリマーは生体適合性であることが好ましい。ここで、「生体適合性」とは、無毒性、非アレルギー誘発性を含む意味であるが、ポリマーが生体内において被包化される性質を含むものではない。
ポリマーは数平均分子量(Mn)が1,000〜10,000,000であるものが好ましく、5,000〜1,000,000であるものがより好ましい。
【0039】
ポリマーの例としては、熱可塑性または熱硬化性のポリマーが挙げられる。ポリマーの具体的な例としては、ポリスルホン、酢酸セルロース等のセルロースアシレート、ニトロセルロース、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、スチレン−ブタジエンコポリマー、エチレン−酢酸ビニルコポリマーのケン化物、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、オルガノシロキサン−ポリカーボネートコポリマー、ポリエステルカーボネート、オルガノポリシロキサン、ポリフェニレンオキシド、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等を挙げることができる。これらは、溶解性、光学的物性、電気的物性、強度、弾性等の観点から、ホモポリマーであってもよいし、コポリマーやポリマーブレンド、ポリマーアロイとしてもよい。
これらのうち、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロースアシレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネートが好ましく、ポリスルホンがより好ましい。
【0040】
ポリマーとしてポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを用いる場合、多孔質膜は、さらに親水性ポリマーを含むことが好ましい。親水性ポリマーの例としては、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等を挙げることができ、これらのうち、ポリビニルピロリドンが好ましい。疎水性であるポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを親水性ポリマーと組み合わせることにより、生体適合性を向上させることができる。
【0041】
多孔質膜は上記成分以外の他の成分を添加剤として含んでいてもよい。
上記添加剤としては、塩化ナトリウム、塩化リチウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硫酸ナトリウム、塩化亜鉛等の無機酸の金属塩、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム等の有機酸の金属塩、ポリエチレングリコール等のその他の高分子、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライド等の高分子電解質、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルメチルタウリン酸ナトリウム等のイオン系界面活性剤等を挙げることができる。添加剤は多孔質構造のための膨潤剤として作用していてもよい。添加剤としては、金属塩を用いることが好ましい。ポリスルホンまたはポリエーテルスルホンを含む多孔質膜は、塩化リチウムを含むことが好ましい。
【0042】
多孔質膜は単一の層として1つの組成物から形成された膜であることが好ましく、複数層の積層構造ではないことが好ましい。多孔質膜を単一の層として1つの組成物から形成することにより、単純な手順で安価に移植用チャンバーを製造することが可能である。
【0043】
(多孔質膜の製造方法)
多孔質膜の製造方法としては流延法が好ましい。熱収縮率が低く、膜面方向の熱収縮率が等価である多孔質膜を容易に作製できるからである。
流延法においては、支持体上にポリマーを含む製膜原液が流延される。製膜原液がポリマーとともに含む添加剤や溶媒の選択により、製造される膜に所望の多孔性を付したり、その孔径を調整したりすることができる。
【0044】
支持体としては、プラスチックフィルムまたはガラス板を用いればよい。プラスチックフィルムの材料の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリアミド、ポリオレフィン、セルロース誘導体、シリコーンなどが挙げられる。支持体としてはガラス板またはPETが好ましく、PETがより好ましい。
【0045】
製膜原液は溶媒を含んでいてもよい。溶媒は使用するポリマーに応じて、使用するポリマーの溶解性が高い溶媒(以下、「良溶媒」ということがある)を用いればよい。孔径分布を有する多孔質膜の製造において後述の凝固液を用いる場合、良溶媒は、凝固液に浸漬した場合速やかに凝固液と置換されるものが好ましい。溶媒の例としては、ポリマーがポリスルホン等の場合、N−メチル−2−ピロリドン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアクリロニトリル等の場合、ジオキサン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがポリアミド等の場合にはジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドあるいはこれらの混合溶媒が挙げられ、ポリマーがセルロースアセテート等の場合はアセトン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドンあるいはこれらの混合溶媒が挙げられる。これらのうち、N−メチル−2−ピロリドンを用いることが好ましい。
【0046】
製膜原液は良溶媒に加えて、ポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒(以下、「非溶媒」ということがある)を用いることが好ましい。非溶媒としては、水、セルソルブ類、メタノール、エタノール、プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン、ポリエチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0047】
製膜原液としてのポリマー濃度は、5質量%以上35質量%以下、好ましくは10質量%以上30質量%以下であればよい。35質量%以下であることにより、得られる多孔質膜に十分な透過性(例えば水の透過性)を与えることができ、5質量%以上とすることにより選択的に物質を透過する多孔質膜の形成を担保することができる。添加剤の添加量は添加によって製膜原液の均一性が失われることが無い限り特に制限は無いが、通常溶媒に対して0.5容量%以上10容量%以下である。製膜原液が非溶媒と良溶媒とを含む場合、非溶媒の良溶媒に対する割合は、混合液が均一状態を保てる範囲であれば特に制限はないが、1.0質量%〜50質量%が好ましく、2.0質量%〜30質量%がより好ましく、3.0質量%〜10質量%がさらに好ましい。
【0048】
製膜原液に用いる溶媒の種類および量や流延後の乾燥方法を調節することにより上述の孔径分布を有する多孔質膜を作製することができる。孔径分布を有する多孔質膜の製造は、例えば以下(1)〜(4)をこの順で含む方法で行なうことができる。
(1)ポリマー、必要に応じて添加剤、および必要に応じて溶媒を含む製膜原液を溶解状態で支持体上に流延する。
(2)流延された液膜の表面に調温湿風を当てる。
(3)調温湿風を当てた後に得られる膜を凝固液に浸漬する。
(4)必要に応じて支持体を剥離する。
【0049】
調温湿風の温度は、4℃〜60℃、好ましくは10℃〜40℃であればよい。調温湿風の相対湿度は、20%〜95%、好ましくは30%〜90%であればよい。調温湿風は、0.1m/秒〜10m/秒の風速で0.1秒間〜30秒間、好ましくは1秒間〜10秒間、当てていればよい。
緻密部位の平均孔径および位置は、調温湿風中に含まれる水分濃度、調温湿風を当てる時間によって制御することができる。なお、緻密部位の平均孔径は、製膜原液中の含有水分量によっても制御することができる。
【0050】
上記のように液膜の表面に調温湿風を当てることによって、溶媒の蒸発の制御を行い、液膜の表面から内部に向かってコアセルベーションを起こすことができる。この状態でポリマーの溶解性が低いがポリマーの溶媒に相溶性を有する溶媒を収容する凝固液に浸漬することによって、上記のコアセルベーション相を微細孔として固定させ微細孔以外の細孔も形成することができる。
【0051】
上記の凝固液に浸漬する過程において凝固液の温度は−10℃〜80℃であればよい。この間で温度を変化させることによって、緻密部位より支持体面側におけるコアセルベーション相の形成から凝固に至るまでの時間を調節し、支持体面側に至るまでの孔径の大きさを制御することが可能である。凝固液の温度を高くすると、コアセルベーション相の形成が早くなり凝固に至るまでの時間が長くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりやすい。一方、凝固液の温度を低くすると、コアセルベーション相の形成が遅くなり凝固に至るまでの時間が短くなるため、支持体面側へ向かう孔径は大きくなりにくい。
【0052】
孔径分布を有する多孔質膜はポリスルホンおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択されるポリマーを含む製膜原液を用いて製造されることが好ましく、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択されるポリマーとポリビニルピロリドンとを含むことがより好ましい。多孔質膜を製造するための製膜原液においては、ポリビニルピロリドンは、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンの総質量に対し、50質量%〜120質量%で含まれていることが好ましく、80質量%〜110質量%で含まれていることがより好ましい。さらに、製膜原液が添加剤として塩化リチウムを含むとき、塩化リチウムは、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンの総質量に対し、5質量%〜20質量%で含まれていることが好ましく、10質量%〜15質量%で含まれていることがより好ましい。
【0053】
凝固液としては、用いられるポリマーの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。このような溶媒の例としては、水、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコールなどのグリコール類;エーテル、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;グリセリン等のグリセロール類などが挙げられる。好ましい凝固液の例としては、水、アルコール類またはこれらの2種以上の混合物が挙げられる。これらのうち、水を用いることが好ましい。
【0054】
凝固液への浸漬の後、使用した凝固液とは異なる溶媒で洗浄を行なうことも好ましい。洗浄は、溶媒に浸漬することにより行なうことができる。洗浄溶媒としてはジエチレングリコールが好ましい。洗浄溶媒としてジエチレングリコールを用い、フィルムを浸漬するジエチレングリコールの温度および浸漬時間のいずれか一方または双方を調節することにより、多孔質膜中のN元素の分布を調節できる。特に、多孔質膜の製膜原液にポリビニルピロリドンを用いる場合において、ポリビニルピロリドンの膜への残量を制御することができる。ジエチレングリコールでの洗浄の後さらに、水で洗浄してもよい。
【0055】
孔径分布を有する多孔質膜の製造方法については、特開平4−349927号公報、特公平4−68966号公報、特開平4−351645号公報、特開2010−235808号公報等を参照することができる。
【0056】
[他の層]
免疫隔離膜は多孔質膜以外の他の層を含んでいてもよい。
他の層としては、ハイドロゲル膜が挙げられる。ハイドロゲル膜は、生体適合性であるものが好ましく、例としては、アルギン酸ゲル膜、アガロースゲル膜、ポリイソプロピルアクリルアミド膜、セルロースを含む膜、セルロース誘導体(例えばメチルセルロース)を含む膜、ポリビニルアルコール膜などが挙げられる。ハイドロゲル膜としては、アルギン酸ゲル膜が好ましい。アルギン酸ゲル膜の具体例としては、アルギン酸−ポリ−L−リジン−アルギン酸のポリイオンコンプレックス膜を挙げることができる。
【0057】
<移植用チャンバーの構造等>
免疫隔離膜は移植用チャンバーの内部と外部との境界を形成する面の少なくとも一部に配置される。このように配置することにより、移植用チャンバーに内包される生物学的構成物を外部に存在する免疫細胞等から保護しつつ、水、酸素、グルコース等の栄養分を移植用チャンバーの外部から内部に取り込むことができる。
【0058】
免疫隔離膜は移植用チャンバーの内部と外部との境界の全面に配置されていてもよく、全面に対し、例えば、1〜99%、5〜90%、10〜80%、20〜70%、30〜60%、40〜50%等の面積に相当する一部に配置されていてもよい。免疫隔離膜は移植用チャンバーの内部と外部との境界の実質的に全面に配置されていることが好ましい。免疫隔離膜が配置される面は1つの連続した部分であってもよく、2つ以上の部分に分かれていてもよい。
免疫隔離膜が移植用チャンバーの内部と外部との境界の全面に配置されていないとき、残りの面は、例えば、細胞等に加えて酸素、水、グルコース等の栄養分も透過させない不透過性の膜などの材料で形成されていればよい。
【0059】
移植用チャンバーは、免疫隔離膜同士が対向して接合している接合部を有していてもよい。接合している免疫隔離膜の部分は特に限定されないが、免疫隔離膜の端部であることが好ましい。特に、端部同士が接合されていることが好ましい。なお、本明細書において、膜について「端部」というとき、膜の厚みからなる側面(エッジ)に実質的に接する一定幅の外周部分またはその一部を意味する。免疫隔離膜同士は、後述の注入口などを除く外周全てが接合されていることが好ましい。例えば、移植用チャンバーは、2つの免疫隔離膜を対向させてその外周を接合した構成、または、線対称構造の1つの免疫隔離膜が2つ折りにされ、対面した外周を接合した構造であることも好ましい。
【0060】
接合は接着剤を利用した接着または融着等を用いて行なうことができる。例えば、硬化性接着剤を用いて接着させることができる。接着剤としては、エポキシ系、シリコン系、アクリル系、ウレタン系などの公知の接着剤が挙げられる。
また、多孔質膜の間に熱可塑性の樹脂を挟み、その部分を加熱することにより、両者を接合してもよい。このとき、熱可塑性の樹脂として、多孔質膜を形成するポリマーよりも低い融点の樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性の樹脂の例として、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどが挙げられる。中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルがより好ましい。
【0061】
さらに、免疫隔離膜中の多孔質膜同士を両者の間に他の材料を挟まずに、直接接した状態で融着してもよい。このような融着によっては、挟み込む樹脂などに由来する問題がない移植用チャンバーを得ることができる。ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択されるポリマーを含む多孔質膜を用いる場合、上記ポリマーの融点未満かつガラス転移温度以上の温度に加熱することによって、多孔質膜同士が融着して一体化することができる。融着のための加熱は具体的には、190℃以上340℃未満であればよく、230℃以上340℃未満が好ましい。
【0062】
移植用チャンバーの形態は限定されず、袋、バッグ、チューブ、マイクロカプセル、太鼓などの形態であればよい。例えば、太鼓形態の移植用チャンバーはシリコーンリングの上下に免疫隔離膜を接合させて形成することができる。移植用チャンバーの形状は、後述する移植用デバイスとしての使用の際に、レシピエント内における移動を防止できる形状であることが好ましい。移植用チャンバーの形状の具体例としては、円筒状、円盤状、矩形、卵型、星形、円形などが挙げられる。移植用チャンバーは、シート状、ストランド状、らせん状などであってもよい。移植用チャンバーは、生物学的構成物を内包し、後述の移植用デバイスとした際に初めて上記の形状となるものであってもよい。
【0063】
移植用チャンバーは、容器としての形状や強度を維持するための生体適合性プラスチック等を含んでいてもよい。例えば、移植用チャンバーの内部と外部との境界が多孔質膜および生体適合性プラスチックからなっていてもよい。または実質的に内部と外部との境界の全面に多孔質膜が配置されている移植用チャンバーは、強度の観点からさらに内部と外部との境界の外側に網状構造の生体適合性プラスチックが配置されていてもよい。
【0064】
<注入口>
移植用チャンバーは、移植用チャンバー内部に生物学的構成物等を注入するための注入口などが設けられていることも好ましい。注入口として、移植用チャンバーの内部に通じるチューブが設けられていてもよい。
チューブは例えば熱可塑性の樹脂を含むものであればよい。熱可塑性の樹脂は多孔質膜のポリマー材料よりも融点が低いものであることが好ましい。
【0065】
チューブに用いられる熱可塑性の樹脂として、具体的にはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネートなどが挙げられる。中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレンが好ましく、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリ塩化ビニルが特に好ましい。
【0066】
チューブは、例えば多孔質膜の一部に接するように免疫隔離膜に挟んだ後、上記一部と接合される。接合は融着または接着剤を用いた接着等により行うことができる。このうち、融着を行うことが好ましい。融着は熱融着であればよい。5.00%以下の最大熱収縮率を有し、膜面方向の熱収縮率が等価である多孔質膜を利用すると、このような熱融着を行なう場合に膜が縮みにくいため接合部において剥離等が生じにくい。
【0067】
融着を行う場合、チューブは多孔質膜のポリマー材料よりも融点が低い熱可塑性の樹脂を含むことが好ましい。融点がより低い熱可塑性の樹脂を含むチューブを多孔質膜と融着するとき、加熱時にまずチューブ材が溶けて多孔質膜の孔に入り込むことができると考えられるからである。このとき、特に、0.05%以上の最大熱収縮率を有する多孔質膜を使用することが好ましい。多孔質膜がわずかに収縮して、孔に入り込んだ部分を締付け、入り込んだ部分を孔から抜けにくくすることができるからである。入り込んだ部分とチューブは一体化しているため、全体として多孔質膜とチューブとは剥がれにくくなる。
【0068】
接着を行う場合、接着剤としては膜を構成するポリマーやチューブの材質に応じて適宜選択でき、エポキシ系、シリコン系、アクリル系、ウレタン系などの接着剤を用いることができる。例えば、多孔質膜のポリマー材料よりも融点が低い樹脂材料を含むチューブを用いる場合に、接着による接合を行うことができる。
【0069】
<移植用チャンバーの用途>
移植用チャンバーは生物学的構成物を内包して、生物学的構成物をレシピエントに移植するために用いられる。移植用チャンバーの利用により、移植される生物学的構成物に対するレシピエントの免疫拒絶反応を防止することができる。すなわち、免疫隔離膜はレシピエントの免疫系からの生物学的構成物の保護のために用いることができる。なお、本明細書において、レシピエントは移植を受ける生体を意味する。レシピエントは哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。
【0070】
[生物学的構成物]
生物学的構成物は、生体由来の構造物を意味する。生体としては、ウイルス、細菌、酵母、真菌細胞、昆虫、植物、および哺乳動物などが挙げられる。生体は通常哺乳動物であることが好ましい。哺乳動物としては、ウシ、ブタ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ヒト等が挙げられる。生物学的構成物は哺乳動物のいずれか由来の構造物であることが好ましい。
【0071】
生物学的構成物としては、器官、組織、細胞などが挙げられる。生物学的構成物としては、これらのうち、細胞が好ましい。細胞は1つであっても複数であってもよいが複数であることが好ましい。複数の細胞は、互いに分離したものであってもよく、集合体であってもよい。
【0072】
生物学的構成物は、生体から直接取得したものであってもよい。また、特に生物学的構成物が細胞である場合、生物学的構成物は生体から直接取得したものであってもよく、胚性幹細胞(ES細胞)、誘導多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞等の細胞を分化誘導したものであってもよい。細胞は、前駆細胞であってもよい。
【0073】
生物学的構成物としては、一態様として、生理活性物質を放出するものが好ましい。生理活性物質の例としては、各種ホルモン、各種サイトカイン、各種酵素、その他各種生体内因子が挙げられる。より具体的な例としては、インスリン、ドーパミン、第VIII因子等が挙げられる。
【0074】
ここで、インスリンとは、21アミノ酸残基のA鎖と30アミノ酸残基のB鎖がジスルフィド結合を介してつながったポリペプチド(分子量約6000)である。ほ乳類の生体内においてインスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞から分泌されている。本発明において生物学的構成物としてインスリン分泌細胞を用いる場合、分泌するインスリンは、ヒト型のインスリンでもよく、その他のほ乳類型(例えばブタ型)のインスリンでもよい。インスリンは遺伝子組み換えの方法により作製されたインスリンでもよい。遺伝子組み換えインスリンの取得方法としては、例えば、門脇孝編:糖尿病ナビゲーター(270〜271頁、田尾健、岡芳和「現在と将来のインスリン製剤」、メディカルレビュー社、2002年参照)の記載を参照できる。各種、インスリン類似体(例えば、H.C.Lee,J.W.Yoon,et al.,Nature、第408巻、483〜488頁、2000年参照)を用いてもよい。
【0075】
生物学的構成物はインスリン分泌細胞であることが好ましい。インスリン分泌細胞とは、血糖値変化に応答してインスリンを分泌できる細胞をいう。インスリン分泌細胞としては、特に限定されるものではなく、例えば、膵臓のランゲルハンス島に存在する膵β細胞を挙げることができる。膵β細胞としては、ヒトの膵β細胞でもよく、ブタ、マウスなどの膵β細胞であってもよい。ブタからの膵β細胞の抽出方法は特開2007−195573号公報の記載を参考にすることができる。また、インスリン分泌細胞としては、ヒト幹細胞から誘導された細胞(例えば、宮崎純一、再生医療、第1巻、第2号、57〜61頁、2002年参照)、または小腸上皮幹細胞から誘導された細胞(例えば、藤宮峯子ら、再生医療、第1巻、第2号、63〜68頁、2002年参照)であってもよく、インスリンをコードする遺伝子を組み込んだ、インスリン分泌性の細胞であってもよい(例えば、H.C.Lee,J.W.Yoon,et al.,Nature、第408巻、483〜488頁、2000年参照)。さらに、膵臓のランゲルハンス島であってもよい(例えば、堀洋、井上一知、再生医療、第1巻、第2号、69〜77頁、2002年参照)。
【0076】
<<移植用デバイス>>
移植用デバイスは、少なくとも、移植用チャンバーおよび生物学的構成物を含む複合体である。移植用デバイスにおいては、移植用チャンバーに生物学的構成物が内包されている。
移植用デバイスにおいて、移植用チャンバーには、生物学的構成物のみが内包されていてもよく、または、生物学的構成物および生物学的構成物以外の他の構成物または成分が内包されていてもよい。例えば、生物学的構成物はハイドロゲルとともに、好ましくはハイドロゲルに内包された状態で、移植用チャンバーに内包されていてもよい。または、移植用デバイスは、pH緩衝剤、無機塩、有機溶媒、アルブミンなどのタンパク質、ペプチドを含んでいてもよい。
移植用デバイスにおいて、生物学的構成物は1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。例えば、移植の目的の生理活性物質を放出するか、またはその他の移植の目的の機能を果たす生物学的構成物のみが含まれていてもよく、これらの生物学的構成物の機能を補助する生物学的構成物がさらに含まれていてもよい。
【0077】
移植用デバイスは例えば腹腔内または皮下などに移植されるものであればよい。または、移植用デバイスは血管接続デバイスであってもよい。例えば、生物学的構成物としてインスリン分泌細胞を用いる場合、血液と膜を直接接するように移植することによって、血糖値変化に対応したインスリン分泌が可能となる。
【0078】
移植用デバイスおよび移植用チャンバーについては、蛋白質核酸酵素、第45巻、2307〜2312頁、(大河原久子、2000年)、特表2009−522269号公報、特表平6−507412号公報等の記載を参照できる。
【実施例】
【0079】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0080】
<多孔質膜の作製>
ポリスルホン多孔質膜
ポリスルホン(ソルベイ社製 P3500)15質量部、ポリビニルピロリドン(K−30)15質量部、塩化リチウム1質量部、水2質量部をN−メチル−2−ピロリドン67質量部に溶解して製膜原液を得た。この製膜原液をPETフィルム表面に流延した。上記流延した液膜表面に30℃、相対湿度80%RHに調節した空気を2m/secの速度で5秒間当てた。その後直ちに65℃の水を満たした凝固液槽に浸漬した。PETフィルムを剥離して多孔質膜を得た。その後、80℃のジエチレングリコール浴に120秒間つけ、その後純水でよく洗浄、乾燥し実施例1の厚み50μmの多孔質膜を得た。
【0081】
また、流延する製膜原液の厚み、製膜原液中の水分の量(0.1−4質量部)、流延後の調温湿風の相対湿度(20−95%RH)の調節、および凝固浴温度(10℃から80℃)の調節により、バブルポイント径および多孔質膜の厚みを表1に記載の値にそれぞれ制御して同様に膜を作製し、実施例2〜4の膜を得た。
【0082】
酢酸セルロース多孔質膜
酢酸セルロース(CA1:置換度2.9)5質量部をジメチルクロライド55質量部に溶解し、この溶液にメタノールを少量ずつ34質量部添加した。次いで、この溶液にグリセリン0.2質量部と純水6質量部とを少量ずつ添加して未溶解物が殆どない状態の溶液とし、濾紙で濾過することにより、ドープを調製した。
調製したドープをギヤーポンプで送液し、さらに、ろ過を行ってから、エンドレスバンド上に載せて搬送されるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にダイから流延した。
この流延膜を20〜40℃の乾燥風により20分間乾燥した。
エンドレスバンドから、フィルムをPETとともに剥ぎ取り、これを15分間、80〜120℃で熱風乾燥して巻き取り機で巻き取った。なお、PET上の酢酸セルロースには、多数の微細孔が形成されていた。
剥離バーを用いて、酢酸セルロース微細多孔質膜をPETから分離し、実施例5の多孔質膜を得た。
酢酸セルロース(置換度2.9)を別の酢酸セルロース(CA2:置換度2.5)に代える以外は実施例4と同様の手順で膜を作製し実施例6の多孔質膜を得た。
【0083】
PVDF多孔質膜
ポリフッ化ビニリデン樹脂15質量部、ジメチルアセトアミド65質量部、ポリエチレングリコール20質量部を混合後、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート1質量部を加えて混合溶液を得た。これをガラス上に流延し、ただちに65℃の水中に3分間浸漬し、20℃水中で水洗後乾燥した。
続いて、40℃の30質量%の水酸化ナトリウム水溶液に20分間浸漬後、20℃水中で水洗後乾燥して実施例7の多孔質膜を得た。
【0084】
PC多孔質膜
ポリカーボネートフィルム(厚み20μm)にヘリウムイオンビームを入射角がこのフィルムの主面に垂直な方向となるように照射した。アルゴンイオンの照射密度は、1.0×10
7個/cm
2とした。得られたフィルムを60℃の6N水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬後、60℃の純水に10分間浸漬して洗浄し、30℃の乾燥オーブンに60分収容して乾燥させ実施例8の膜を得た。
【0085】
PTFE多孔質膜
PTFEパウダー100質量部に液状潤滑剤(流動パラフィン)20質量部を加えた混和物を予備成形し、ペースト押出しにより丸棒状に成形した。このPTFE成形物を、ロール圧延により厚さ0.2mmとした後、抽出溶媒(デカン)を用いて液状潤滑剤を除去し、150℃に加熱した乾燥機で抽出溶媒も除去し、PTFEシートを得た。
得られたシートを2軸延伸機を用いて延伸温度300℃、延伸速度50%/秒の条件で、まず幅方向に約5倍に延伸(第1延伸)した後、次いで2軸方向に同時に延伸(第2延伸)した。第2延伸においては50%/秒の速度で2軸それぞれの方向に同じ7倍に延伸した。延伸の後、膜寸法を固定した状態で380℃で10分間加熱して焼成し比較例1の膜を得た。
【0086】
PET多孔質膜
特開2011−208125号公報の実施例1に記載の方法で、熱固定温度を変化させることで、所望の熱収縮率の2軸延伸PETフィルムを得た。
このフィルムに対し、アルゴンイオンビームを入射角がこのフィルムの主面に垂直な方向となるように照射した。アルゴンイオンの照射密度は、2.0×10
7個/cm
2とした。照射後のフィルムを60℃に保持したエッチング処理液(エタノール濃度40質量%、水酸化カリウム濃度14質量%の水溶液)に1分間浸漬した。その後、エッチング処理液からフィルムを取り出し、これを60℃の純水に10分間浸漬して洗浄した後、30℃の乾燥オーブンに60分収容して乾燥させ比較例2の膜を得た。
特開2011−208125号公報の実施例1に記載の方法のうち、熱固定温度を変更した以外は比較例2と同様の手順で比較例3の膜を得た。
【0087】
<多孔質膜の評価>
熱収縮評価
作製した膜を直径47mmの円形に切り出し、円の中心に印をつけた。切り出した膜を90℃熱水に3時間浸漬した。25℃の湿潤状態で膜の以下A、Bを測定後、下記の式に従って最大熱収縮率と最小熱収縮率および熱収縮率比を求めた。
A:中心印を通る直線の中で最も短い直線の長さ(mm)
B:中心印を通る直線の中で最も長い直線の長さ(mm)
(最大熱収縮率)=(47−A)/47×100%
(最小熱収縮率)=(47−B)/47×100%
(熱収縮率差)=(最大熱収縮率)−(最小熱収縮率)
【0088】
バブルポイント径評価
バブルポイント径は、パームポロメータ(西華産業製 CFE−1200AEX)を用いた細孔径分布測定試験において、GALWICK(Porous Materials,Inc社製)で完全に濡らした膜のサンプルに対して空気圧を5cm
3/minで増大させて評価した。
【0089】
<移植用チャンバー(チューブ無し)の作製および評価>
構造評価
・多孔質膜2枚を向かい合わせ、周縁部同士を1mm幅でインパルス式ヒートシーラーを用いて、直接接合して、20mm角の正方形(多孔質膜の非接合部が20mm角の正方形)の袋状の移植用チャンバーを作製した。
・移植用チャンバーを90℃熱水で3時間浸漬後、下記(a)〜(c)を評価した。
【0090】
(a)反り/シワ評価(乾燥させて評価した。)
1:発生なし
2:僅かな反りやシワが発生
3:小さな反りやシワが発生
4:大きな反りやシワが発生
(b)寸法評価(25℃湿潤状態で評価した。)
4辺のうち最も大きく収縮した辺の収縮率で評価した。
(c)孔径変化
熱水浸漬後に乾燥した移植用チャンバーから膜を切り出してバブルポイント径を測定し、熱水浸漬前のバブルポイント径に対する減少分「(浸漬前−浸漬後)/浸漬前」としてを算出した。
【0091】
移植評価
・コスモ・バイオ株式会社製膵島培養キット(ラット)を用いて膵島細胞を準備した。
・多孔質膜2枚を向かい合わせ、一部を残して周縁部(外周)同士を1mm幅でインパルス式ヒートシーラーを用いて、直接接合して、20mm角の正方形(多孔質膜の非接合部が20mm角の正方形)の袋状の移植用チャンバーを作製した。
・90℃熱水で3時間浸漬後に乾燥させた。
・移植用チャンバーをエチレンオキシドガスで滅菌し、未接合部から袋内に膵島細胞を入れ、未接合部を上記と同様に接合して封入した。
・移植用チャンバー(移植用デバイス)をI型糖尿病のモデルラットへ移植し、2週間後の血糖値の改善率(以下式)を評価した。
(改善率)=(移植前血糖値−移植後血糖値)/(移植前血糖値−正常値)×100%
【0092】
<チューブ付き移植用チャンバーの作製および評価>
多孔質膜2枚を向かい合わせ、周縁部の1辺の中央部の間にポリエチレン製チューブ(ベクトン・ディッキンソンアンドカンパニー社製、イントラメディックポリエチレンチュービングPE100)を挟みこんだ。上記チューブに太さ1.2mmのステンレス針金を挿入し、インパルス式ヒートシーラーを用いて多孔質膜とチューブを接合するとともに、チューブを挟みこんだ辺において多孔質膜同士を直接接合した。続いて、残りの3辺を同様にして直接接合し、チューブに挿入した針金を除去してチューブ付き移植用チャンバーを作製した。
【0093】
得られたチューブ付き移植用チャンバーにつき、移植用チャンバー(チューブ無し)と同様に、90℃熱水で3時間浸漬後、反り/シワ評価、寸法評価、および孔径変化を行なった。
【0094】
得られたチューブ付き移植用チャンバーをエチレンオキシドガスで滅菌後、チューブからチャンバー内部へ上記と同様に準備した膵島細胞を導入した。続いてチューブ部の一部をインパルス式ヒートシーラーを用いて溶かし、導入口を塞ぐことで膵島細胞をチャンバー内部に封入した。得られた移植用チャンバー(移植用デバイス)をI型糖尿病のモデルラットへ移植し、2週間後の血糖値の改善率(以下式)を評価した。
(改善率)=(移植前血糖値−移植後血糖値)/(移植前血糖値−正常値)×100%
さらに、移植後2週間後にチャンバーをラットから取り出し、チャンバーの外観を観察することにより、移植後のチューブ接合部の剥離評価を行なった。
以上の結果を表1〜表3に示す
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】