【実施例】
【0018】
(実施例1)
本例は、車両の運転操作の支援や自動運転や情報提供等を目的として道路に敷設される磁気マーカ1に関する例である。この内容について、
図1〜
図11を参照して説明する。
【0019】
図1及び
図2の磁気マーカ1は、例えば、車両5が走行する車線530の中央に沿って敷設される。このように路面53に敷設された磁気マーカ1は、例えば車両5の底面50に取り付けた磁気センサ2等により検出できる。磁気センサ2による磁気マーカ1の検出信号は、例えば車両5側の図示しないECU等に入力され、車線維持のための自動操舵制御や車線逸脱警報などの運転支援制御や自動走行制御など各種の車両側の制御に利用できる。
【0020】
磁気マーカ1は、
図3及び
図4のごとく、直径100mm、厚さ2.5mmの扁平な円形シート状のマーカである。この磁気マーカ1では、磁気を発生する磁性層11の表裏両面に、ガラス繊維の繊維シートであるガラスクロス12G(
図7)を含む保護層12が積層されている。さらに、各保護層12の外側には、舗装用材料であるアスファルトを主体とした層が積層され、これにより磁気マーカ1は5層構造となっている。
【0021】
磁性層11は、最大エネルギー積(BHmax)=6.4kJ/m
3の等方性マグネットよりなる層である。この磁性層11は、基材としてのアスファルトの中に酸化鉄の粉末である磁粉111(
図6)を分散させて形成されている。
保護層12は、母材(マトリクス)としてのアスファルトをガラスクロス12Gに含浸させた複合材料(繊維強化複合材料)の層である。
保護層12の外側の層のうち、敷設時に路面53に面することになる層は、アスファルトよりなる接合層16である。この接合層16をなすアスファルトは、路面53に接合する際に接着材として機能する。
保護層12の外側の層のうち、接合層16とは反対側の層は、砂等の骨材をアスファルトに混ぜた防滑層15である。
【0022】
磁気マーカ1は、
図4のごとく、接着材として機能する接合層16を形成するアスファルトにより路面53に接着される。厚さ2.5mmという磁気マーカ1の厚さは、路面53にプリントされる白線や制限速度表示等の路面標識の厚さと同程度となっている。また、表面側の防滑層15は、周囲の路面53と同様、アスファルトにより形成されているうえ、滑り止めを目的とした骨材が含まれている。それ故、車両タイヤが磁気マーカ1を踏んだときにも運転者が違和感を感じるおそれが少なく、スリップ等の生じるおそれも極めて少なくなっている。
【0023】
ここで、作製する磁気マーカ1の仕様の一部を表1に示す。
【表1】
【0024】
有限要素法を用いた軸対称3次元静磁場解析によるコンピュータシミュレーションを利用すると、表面磁束密度Gsが1mTで直径100mmの磁気マーカ1が作用する鉛直方向の磁界分布が
図5のように求まる。同図は、鉛直方向に作用する磁気の磁束密度の対数目盛を縦軸に設定し、磁気マーカ1の表面を基準とした鉛直方向の高さ(マーカ表面からの高さ)を横軸に設定した片対数グラフである。同図によれば、車両5側の磁気センサ2の取り付け高さとして想定される250mmの位置について、磁気マーカ1が作用する磁束密度が8マイクロテスラ(0.08×10
-4テスラ)となることを把握できる。なお、利用したコンピュータシミュレーションについては、発明者らが実証実験により精度を予め確認済みである。
【0025】
例えば、磁束密度の測定レンジが±0.6ミリテスラであって、測定レンジ内の磁束分解能が0.02マイクロテスラの高感度のマグネトインピーダンス(MI:Magneto Impedance)センサを採用すれば、磁気マーカ1が作用する8マイクロテスラの磁界を確実性高く検出できる。ここで、MIセンサは、外部磁界に応じてインピーダンスが変化する感磁体を含むマグネトインピーダンス素子を利用した磁気センサである。マグネトインピーダンス素子(MI素子)は、パルス電流あるいは高周波電流等が感磁体を流れるときに表皮層の電流密度が高くなる表皮効果に起因し、外部磁界によって表皮層の深さ(厚さ)が変動して感磁体のインピーダンスが敏感に変化するというマグネトインピーダンス効果(MI効果)を利用して磁気を検出する素子である。このようなMI効果を利用するMI素子によれば、高感度な磁気計測が可能である。なお、MI素子を利用したMIセンサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2005/19851号公報、WO2009/119081号公報、特許4655247号公報などに詳細な記載がある。
【0026】
次に、(1)磁気マーカの作製、(2)磁気マーカを保持するロール体の形成、(3)磁気マーカの施工、の各内容について順番に説明する。
(1)磁気マーカの作製
本例では、磁性層11をなす磁性シート104Aを形成した後、その表裏両面に保護層12等をなす層を積層した打抜き用の中間シート104Bを中間加工品として得、さらに、この中間シート104Bを対象とした打抜き加工により着磁前の磁気マーカ1を作製している。
【0027】
磁性シート104Aを作製するに当たっては、まず、基材となる溶融状態のアスファルトの中に磁粉111(本例では酸化鉄の粉末)を混練したスラリー113を生成する(
図6(a))。このスラリー113を所定形状に成型したペレット101(
図6(b))を乾燥させた後、圧延ローラ102によりシート状に薄く引き延ばすことにより、シート状の磁性シート104Aを作製できる(
図6(c))。この磁性シート104Aは、磁気マーカ1の磁性層11となる第1の層をなすシートである。
【0028】
続いて、この磁性シート104Aの表裏両面に、磁気マーカ1の保護層12となる第2の層等を積層する工程を実施することにより、磁気マーカ1を打ち抜くための中間加工品である中間シート104Bを生成する。本例では、加工面が鉛直方向上方に面するように磁性シート104Aを水平に延べた状態でこの工程を実施し、磁性シート104Aを裏返して表裏両面に同様の加工を施している。
【0029】
まず、磁性シート104Aの表面を覆うようにガラス繊維の織布であるガラスクロス12Gを配置する(
図7(d))。そして、アスファルトを主体とした溶融材料をガラスクロス12Gの表面に塗布し、ガラスクロス12Gにアスファルトを含浸させる。これにより母材(マトリクス)であるアスファルトがガラスクロス12Gにより強化された複合材料が形成され、これにより、複合材料よりなる上記の第2の層を形成できる。
【0030】
その後、ガラスクロス12Gにアスファルトが含浸できる量を超えて、さらに上記の溶融材料を供給する。そうすると、複合材料よりなる上記の第2の層の外側にアスファルトを主体とした層を形成できる。なお、磁性シート104Aの両面で、適用する溶融材料の成分が相違している。一方の面に塗布する溶融材料の成分はほぼ全てアスファルトである一方、他方の面に塗布する溶融材料は、アスファルトに砂等の骨材を混ぜた材料となっている。骨材を混ぜたアスファルトによって形成される層が磁気マーカ1の上記の防滑層15となり、ほぼアスファルトのみで形成される層が磁気マーカ1の上記の接合層16となる。
【0031】
このように作製した
図7(e)の中間シート104Bは、磁性シート104Aの一方の表面側に、保護層12となる層と接合層16となる層とが積層され、他方の表面側に、保護層12となる層と防滑層15となる層とが積層されたシートである。この中間シート104Bの断面構造は、磁性層11をなす第1の層の表裏両面に保護層12をなす第2の層が積層され、さらに、この第2の層の外側に、接合層16となる層または防滑層15となる層が積層された5層構造(図示略)をなしている。
【0032】
中間シート104Bは、実線円で打ち抜き済みの位置を示し、破線円で打ち抜き予定位置を示す通り(
図7(e))、複数の磁気マーカ1を打ち抜き可能な大判シートである。磁気マーカ1の打ち抜きには、例えば
図8のごとく、打ち抜いた磁気マーカ1を収容可能な円筒状の打抜き型3を利用できる。打抜き型3は、図示しない油圧シリンダに従動して上下にストロークするトムソンホルダ32と、先端に円形状の刃先を有する略円筒状のトムソン型31と、トムソン型31に内挿配置された状態で筒方向に摺動可能な吸着ユニット33と、を含めて構成されている。
【0033】
図8の吸着ユニット33は、図示しないエアポンプから延設されたチューブを接続する吸入ポート330を備え、この吸入ポート330が空圧回路を介して先端面の吸引口332に連通している。この吸着ユニット33は、同図のごとく、中間シート104Bから打ち抜いた磁気マーカ1を吸着すると共に、新たに磁気マーカ1を打ち抜く毎にその厚さ分だけ後退することで、トムソン型31内において打ち抜いた磁気マーカ1を順次積層する。
【0034】
図8の打抜き型3を用い、中間シート104Bの位置を順次ずらしながら打ち抜き加工を連続的に施せば、打ち抜いた磁気マーカ1(
図7(f))を複数、重ね合わせた積層体100を形成できる。打ち抜き加工を連続的に実施する途中で、中間シート104Bを取り替えることも良い。中間シート104Bを途中で取り替えれば、より多くの枚数の磁気マーカ1が積層された積層体100が得られる。
【0035】
(2)磁気マーカを保持するロール体の形成
保管や施工現場への運搬等の利便性を考慮し、磁気マーカ1を保持するロール体10を利用している。本例では、長い帯状のポリエチレン製のキャリアシート400がロール状に巻かれたシートロール40を用いてこのロール体10を形成している(
図9参照。)。なお、本例では、磁気マーカ1の直径100mmに対応して、キャリアシート400の幅を150mmとしている。巻出し軸461にセットされたシートロール40から巻き出したキャリアシート400は、ガイドローラ464等を利用して作業面47の上面を経由し、その先端が巻取り軸463に係止される。
【0036】
キャリアシート400に対する磁気マーカ1の移載には、例えば、積層体100を収容すると共に取り出し口340に磁気マーカ1を1枚ずつ供給するホルダー34を利用できる。ホルダー34は、作業面47のキャリアシート400に対して取り出し口340が対面するように位置し、判子を押すようにキャリアシート400の表面に1枚ずつ磁気マーカ1を移載可能である。
【0037】
ホルダー34は、付勢部材342により押し出し方向に付勢されたサポート板341を有している。このサポート板341により押し出し方向に付勢された積層体100は、内径がわずかに絞られた取り出し口340に対して端面が面一をなすように位置する。この状態で判子を押すようにホルダー34をキャリアシート400に押し当てれば、積層体100の端面に位置する磁気マーカ1を1枚、キャリアシート400に移載できる。その後、ホルダー34を後退させれば、サポート板341により付勢された積層体100が取り出し口340と面一になるまで押し出されて磁気マーカ1の厚さ分だけ前進し、次の磁気マーカ1をキャリアシート400に移載できる状態となる。
【0038】
なお、ホルダー34では、取り出し口340の開口側に防滑層15が面するように積層体100が収容される。したがって、このホルダー34を利用して磁気マーカ1をキャリアシート400に移載すれば、磁気マーカ1の防滑層15がキャリアシート400側に位置し、接合層16が反対側に位置する状態となる。
【0039】
ロール体10を形成するに当たっては、キャリアシート400の巻き出し部分が作業面47に沿って一定速度で通過するように巻出し軸461及び巻取り軸463の回転速度が制御される。キャリアシート400が通過している間、繰り返し判子を押すように一定の時間間隔で上記のホルダー34を昇降させれば、磁気マーカ1を一定の間隔でキャリアシート400に移載できる。巻取り軸463側では、磁気マーカ1を一定の間隔で保持するキャリアシート400が巻き取られて、磁気マーカ1を保持するロール体10を形成できる。
【0040】
(3)磁気マーカの施工
まず、ロール体10に保持された磁気マーカ1の施工に適用する作業装置あるいは作業車両システムの一例である作業車両4の構成を説明し、続けてこの作業車両4による施工の手順について説明する。
図10に示すこの作業車両4は、磁気マーカ1を敷設する路面53を洗浄する洗浄装置410、路面53等を加熱する2基の加熱装置411・412、磁気マーカ1を供給する供給装置42、供給装置42から供給された磁気マーカ1を路面53に配置する配置装置43、路面53を加圧する加圧装置44、敷設された磁気マーカ1を着磁する着磁装置45、磁気を検出する検出装置47を装備する特殊車両である。
【0041】
洗浄装置410は、路面に向けて高圧水流を噴射する噴射ノズルを含む装置である。
加熱装置411・412は、火炎を放射するバーナーを含み、路面53に対面するように火炎放射口を設けた装置である。加熱装置411・412は、配置装置43を挟んで前後に2基設けられている。前側の第1の加熱装置411が磁気マーカ1を配置する前の路面53を加熱し、後ろ側の第2の加熱装置412が磁気マーカ1を配置済みの路面53を加熱する。
【0042】
供給装置42は、キャリアシート400に保持された磁気マーカ1を配置装置43に供給する装置である。供給装置42は、上記のロール体10を取り扱い、キャリアシート400を巻き出して磁気マーカ1を取り外し可能とする。供給装置42は、ロール体10をセットするための巻出し軸421と、ロール体10から巻き出したキャリアシート400を巻き取る巻取り軸422と、を備えている。ロール体100から巻き出され、巻取り軸422に巻き取られる前のキャリアシート400は、保持する磁気マーカ1を外側にした状態で配置装置43を構成する加圧ローラ431の外周に巻き付けられる。ここで、巻出し軸421は、キャリアシート400を巻き出し可能にロール体10を保持する手段を構成し、巻取り軸422は、ロール体10から巻き出され、磁気マーカ1が取り外された後のキャリアシート400を巻き取る手段を構成している。
【0043】
配置装置43は、磁気マーカ1を路面53に配置する装置である。配置装置43は、キャリアシート400を巻き付けた状態で路面53を加圧しながら転動する加圧ローラ431を備えている。加圧ローラ431は、路面53を転動しながらキャリアシート400を路面53に押し付けることにより、キャリアシート400に保持された磁気マーカ1を路面53に移載する。
【0044】
加圧装置44は、路面53を転動しながら加圧する加圧ローラ441を含み、この加圧ローラ441の重みにより路面53を均す装置である。加圧装置44は、磁気マーカ1を加熱した後の路面53を均すことができるよう、第2の加熱装置412よりも後ろ側に配置されている。
【0045】
着磁装置45は、路面53に敷設された磁気マーカ1に対して磁界を作用し、磁気マーカ1が磁極性を持つように着磁する装置である。着磁装置45は、電線を巻回した円筒状のコイル451と、コイル451の内側に内挿配置される強磁性材料よりなる鉄芯452と、の組み合わせを含む磁界発生部、コイル451に対する通電を制御する電力供給部(図示略)等を備えている。この着磁装置45は、後ろ側の第2の加熱装置412及び加圧ローラ441よりもさらに後ろ側に配置され、加熱・加圧がなされた後の磁気マーカ1を対象として着磁を実行する。なお、加圧後、着磁前の磁気マーカ1を冷却するための送風装置を設けることも有効である。磁気マーカ1の温度が高くキュリー温度に近い状態では効率良く着磁できないおそれがある一方、磁気マーカ1を予め冷却しておけば効率の良い着磁が可能になる。
【0046】
以上のような構成の作業車両4を用いた磁気マーカ1の施工方法(
図11)は、磁気マーカ1を敷設する位置に当たる路面53を洗浄する洗浄工程P101と、路面53を予め加熱する第1の加熱工程P102と、路面53に磁気マーカ1を配置する配置工程P103と、磁気マーカを配置した路面53を加熱する第2の加熱工程P104と、磁気マーカ1を配置した路面53を加圧する加圧工程P105と、路面53に配置された磁気マーカ1に磁界を作用して着磁する着磁工程P106と、磁気マーカ1が発生する磁気を検出する検出工程P107と、をこの順番で実施する方法である。
【0047】
なお、
図10の作業車両4では、前進に応じて、洗浄装置410による洗浄位置、前側の第1の加熱装置411による加熱位置、配置装置43による磁気マーカ1の配置位置、後ろ側の第2の加熱装置412による加熱位置、加圧装置44による加圧位置、着磁装置45の着磁位置、及び検出装置47による検出位置が、この順番で磁気マーカ1の敷設位置を通過するように各装置が配置されている。この作業車両4を前進させることで、洗浄工程P101、第1の加熱工程P102、配置工程P103、第2の加熱工程P104、加圧工程P105、着磁工程P106、検出工程P107等の各工程を順番に実施できる。以下、磁気マーカ1の施工方法を構成する各工程(
図11)の内容について説明する。
【0048】
上記の洗浄工程P101は、路面53に対面するように取り付けられた洗浄装置410の噴射ノズルから高圧水流を噴射することにより、路面53のゴミや汚れを除去して磁気マーカ1を敷設する位置を洗浄する工程である。
【0049】
第1の加熱工程P102は、磁気マーカ1を敷設する位置に当たる路面53を加熱装置411のバーナーにより予め加熱する予加熱工程である。この工程は、車線に沿って移動する作業車両4の前側の第1の加熱装置411による加熱範囲内に、磁気マーカ1を敷設する位置が含まれたときに実施する。なお、磁気マーカ1を敷設する位置は、予め×印などでマーキングされた位置であっても良く、DGPS(Differencial Global Positioning System)により測位した所定の位置であっても良い。この第1の加熱工程P102によれば、バーナーから放射した火炎により路面53をなす舗装用材料であるアスファルトを加熱し、軟化できる。
【0050】
配置工程P103は、ロール体10から巻き出したキャリアシート400に保持された磁気マーカ1を路面53に移載して配置する工程である。供給装置42によるロール体10からのキャリアシート400の巻き出しは、図示しない減速機構を介して作業車両4の駆動輪の回転に従動して行われる。減速機構による減速度合いは、磁気マーカ1を敷設する位置に到達する毎に、キャリアシート400に保持された磁気マーカ1が加圧ローラ431と路面53との間隙に位置するように調整されている。加圧ローラ31と路面53との間隙に位置した磁気マーカ1は、加圧ローラ31により路面53に押し付けられて圧着される。
【0051】
上記のようにキャリアシート400では、防滑層15を内側(シート側)にして磁気マーカ1が保持され、接合層16が外側となっている。キャリアシート400の裏側から加圧すれば、路面53に対して接合層16が押し付く状態で磁気マーカ1を配置できる。磁気マーカ1を配置する際、路面53は加熱されて高温状態にあるため、接合層16を形成するアスファルトが暖められて軟化し、路面53側のアスファルトと一体化する。これによりアスファルトが接着材として機能し、磁気マーカ1を強固に接着できる。
【0052】
第2の加熱工程P104では、路面53に配置された磁気マーカ1を周囲の路面53と共に加熱する後加熱工程である。この加熱工程P104によれば、周囲の路面53のアスファルトと共に、磁気マーカ1の表面をなす防滑層15のアスファルトを加熱して軟化できる。
加圧工程P105は、磁気マーカ1及び周囲を加熱した後で加圧する工程である。道路の路面53を舗装するのとほぼ同様のこの工程を実施すれば、磁気マーカ1を敷設した路面53を均一性高く均すことができると共に、磁気マーカ1の表面側のアスファルトと周囲のアスファルトとを渾然一体に近づけて境界をなくすことができる。
【0053】
着磁工程P106は、敷設した磁気マーカ1に対して磁界を作用して着磁する工程である。
検出工程P107は、磁気マーカ1が発生する磁気を検出することで、着磁により所望の磁気特性が実現されているかどうかの検査を行う工程である。この検出工程P107による検査に合格すれば、磁気マーカ1の敷設が完了する。
【0054】
次に、本例の(1)磁気マーカ自体、(2)磁気マーカの作製方法、(3)ロール体、(4)施工、の特徴等について総括して説明する。
(1)磁気マーカについて
本例の磁気マーカ1は、基材であるアスファルトに磁粉111を分散させた磁性層11の表裏両面に、ガラスクロス12Gを含む保護層12が積層された磁気マーカ1である。この保護層12は、ガラスクロス12Gにアスファルトを含浸させた複合材料により形成されている。ガラス繊維によってアスファルトの材料的な強度や対磨耗性等の特性が改善された複合材料による保護層12によれば、内側の磁性層11を保護でき、磁気マーカ1の耐久性を向上できる。
【0055】
磁気マーカ1では、敷設時に路面53に面する側の保護層12の外側にアスファルトよりなる接合層16が形成されている。また、敷設時の磁気マーカ1の表面側の保護層12の外側には、アスファルトに骨材を混ぜた防滑層15が形成されている。詳しくは後述するが、接合層16は施工の際、接着材として機能する層として有用である。防滑層15は、敷設後に路面53と一体をなし車両タイヤのスリップ防止に寄与する層として有用である。
【0056】
以上のように、磁気マーカ1は、高い耐久性を簡単な構造で実現することで、低コストかつ小型化を実現した優れた特性の製品となっている。
磁気マーカ1を構成する磁性層11をなす基材として本例では高分子材料であるアスファルトを例示している。これに代えて、高分子材料であるゴムやプラスチック等の樹脂材料を基材として採用しても良い。ゴムを基材にすればラバーマグネットとなり、プラスチックを基材とすればプラスチックマグネットとなる。アスファルトやゴムや樹脂材料などの高分子材料を基材として磁粉111を分散させたマグネットは柔軟性を備え、例えば焼結磁石等のマグネットに比べて割れが生じにくいという利点がある。柔軟性の高い磁気マーカ1であれば、施工時の路面53の凹凸に対応できるので施工不良を抑制できる。また、運用中の路面53の変形等にも対応できるので、長期に渡る使用期間における不良の発生を抑制できる。さらに、アスファルト等の高分子材料を基材とした磁性シート104Aは比較的低コストで高精度に成形可能であるため、生産コストを抑制しながら高品質の磁気マーカ1を提供できる。
【0057】
磁性層11をなす基材を樹脂材料とする一方、保護層12の母材をアスファルトにする等、異なる材料としても良い。
保護層12をなす繊維としてガラスクロス12Gを例示したが、不織布や単繊維であっても良い。また保護層12をなす材料として、アスファルトを含浸させた複合材料を例示したが、カーボンクロスやガラスクロスのみよりなる層であっても良い。ガラスクロス等により磁性層11を覆うことは、耐久性を高めるために有効である。
防滑層15は、例えばポリアミド樹脂材料の中に硬質骨材を混ぜ込んだ粉体塗料の塗膜層であっても良い。
【0058】
磁粉111をなす磁性材料は、本例の酸化鉄には限定されず、ネオジウム、サマリウムコバルト等の様々な材料を採用できる。基材をなす材料や磁粉111をなす磁性材料については、磁気マーカ1に要求される磁気的仕様や環境仕様等に応じて、適切な磁性材料を選択的に決定するのが良い。すでに金属が酸化した状態の酸化鉄は、錆等による性能劣化が少なく、長期に渡って初期性能を維持できるという利点がある。磁気マーカ1は、ある程度の透湿性を有するアスファルトにより形成された保護層12等により磁性層11の両面を覆った構造を有し、磁性層11の密閉が完全とは言えない。酸化鉄の磁粉を採用すれば、不完全な密閉状態であっても酸化等による性能劣化のおそれが少ないため、磁気マーカ1の初期性能が損なわれるおそれが少ない。
【0059】
なお、磁気マーカ1では、磁性層11の基材としてアスファルトを採用する一方、アスファルトを主体とした防滑層15や接合層16が外側に積層されている。このように磁性層11の基材と接合層16や防滑層15の構成材料が同じ材料であると、磁性層11に含まれる磁粉111が接合層16や防滑層15に流出するおそれが生じる一方、保護層12を構成するガラスクロス12Gによれば、磁粉111の流出を防止でき、磁気マーカ1の磁気的特性の劣化を防止できる。
【0060】
なお、打ち抜きにより磁気マーカを作製する方法に代えて、1枚ずつ磁気マーカを作製することもできる。また、磁気マーカは、積層体やロール体とせずに1枚ずつ取り扱うことも可能である。接合層及び保護層をあらかじめ設けた磁気マーカを例示したが、磁性層と、両面の保護層との3層構造の磁気マーカや、磁性層と保護層との2層構造の磁気マーカであっても良い。この場合には、施工の際、接着層を設けて路面に接着すると共に、舗装用材料等を表面側に配設しても良い。また、着磁した磁気マーカを製品としても良い。
【0061】
(2)磁気マーカの作製方法について
本例では、磁性層11となる層、保護層12となる層などを予め積層した中間シート104Bから打ち抜いて磁気マーカ1を効率良く作製している。大判の中間シート104Bを準備し、複数の磁気マーカ1を打ち抜けば、作製効率を向上でき製品コストを抑制できる。例えば車線逸脱警報や自動運転等を実現する場合、車線に沿わせて比較的短い間隔で磁気マーカ1を連続的に敷設する必要があり膨大な数の磁気マーカ1が必要になる。それ故、磁気マーカ1の製品コストの抑制は、磁気マーカ1の施工コストの削減に直結する。
【0062】
ここで、磁気マーカ1の磁性層11は、磁粉111として酸化鉄が分散する層である。酸化鉄の磁粉111は、打ち抜き加工による磁気マーカ1の作製方法に適している。磁性材料として酸化鉄を採用した磁気マーカ1であれば、酸化による性能劣化が生じ難いので、打ち抜き断面のコーティング処理等の必要性が低く、手間を低減できるからである。
【0063】
さらに、本例では、打ち抜いた磁気マーカ1を型内で積層可能な打抜き型3を利用し、磁気マーカ1の積層体100を形成している。そして、この積層体100を収容して1枚ずつ排出可能なホルダー34を利用して、判子を押すように磁気マーカ1を1枚ずつキャリアシート400に移載している。大径で薄い磁気マーカ1を単体で取り扱う場合、外周が欠けたり割れたりするおそれがある一方、本例の作製方法では、磁気マーカ1を単体で取り扱うことがない。本例の作製方法による作製過程における磁気マーカ1は、中間シート104Bの一部をなす状態、積層体100を構成する状態、及びキャリアシート400に保持された状態、いずれかの状態にある。磁気マーカ1が単体で取り扱いされることが少ないので、上記のような外周の欠けや割れ等のトラブルを未然に回避できる。
【0064】
なお、上記の打抜き型3をホルダー34のように活用することもできる。キャリアシート400を打ち抜かないようにトムソンホルダ32の下死点高さを調節すると共に、磁気マーカ1を移載する毎に積層体100を押し出すように吸着ユニット33を動作させれば、ホルダー34の機能を打抜き型3の構成で実現できる。打抜き型3をホルダー34のように活用する場合には、接合層16となる層が上面を向くように裏返した中間シート104Bを打ち抜くと良い。このように打ち抜けば、キャリアシート400に磁気マーカ1を移載したとき、キャリアシート400側に防滑層15を位置させることが可能になる。
【0065】
(3)磁気マーカを保持するロール体について
磁気マーカ1を保持するキャリアシート400を巻き取ったロール体10を利用すれば、施工場所への運搬等が非常に容易であり、さらに、キャリアシート400を巻き出しながら磁気マーカ1を1つずつ敷設できる。ロール体10において、磁気マーカ1はキャリアシート400に巻き込まれた状態で保護されるため、保管や運搬中に割れや欠け等のトラブルを未然に回避できる。
【0066】
キャリアシート400の材質として、ポリエチレンを例示したが、これに代えてポリプロピレン等の樹脂材料を採用することも良く、紙や布等であっても良い。
磁気マーカ1を1枚ずつキャリアシート400の長手方向に配置したロール体10を例示したが、例えば、車線に沿って磁気マーカ1を2個、3個など複数個ずつ並列配置する場合には、その複数個を並列して保持する幅広のキャリアシート400を採用することもできる。このときキャリアシート400における磁気マーカ1の並列幅を、車線に敷設する際の並列幅と一致させることも良い。この場合には、キャリアシート400に並列して保持する複数の磁気マーカ1をそのまま路面53に転写するように移載できる。
【0067】
(4)磁気マーカの施工(路面への敷設)
本例の施工では、磁気マーカ1を敷設する位置に当たる路面53を予め加熱しておき、設置面にアスファルトよりなる接合層16が形成された磁気マーカ1を押し付けている。例えば予め加熱した路面53に磁気マーカ1を配置すれば、路面53の熱により接合層16をなすアスファルトを溶融状態に近づけて路面53側のアスファルトと一体化でき、これにより磁気マーカ1を強固に接着できる。
【0068】
敷設状態の磁気マーカ1の表面側にも、アスファルトを主体とした防滑層15が形成されている。本例では、上記のように路面53に磁気マーカ1を配置した後、磁気マーカ1の表面を含む範囲を再度、加熱し加圧している。磁気マーカ1の表面側を周囲の路面53と共に加熱すれば、防滑層15及び周囲のアスファルトを溶融状態に近づけることができ、この状態で加圧すれば、防滑層15のアスファルトと周囲のアスファルトとを渾然一体に近づけながら表面を均すことができる。磁気マーカ1と周囲との境界や段差を解消できれば、車両タイヤが通過する際に磁気マーカ1に作用するおそれがある外力を抑制でき、磁気マーカ1にトラブルが生じるおそれを抑制できる。
【0069】
さらに、本例の施工では、敷設した磁気マーカ1を加熱、加圧した後で、作業車両4側から磁界を作用することで磁気マーカ1を着磁し、所望の磁気的特性を実現している。このように加熱工程の後で着磁を実施すれば、加熱工程で加熱された磁粉111の温度がキュリー温度に達して起こり得る減磁や消磁によるトラブルの心配がない。
【0070】
加圧ローラ431によりキャリアシート400の裏側から加圧し、路面53に磁気マーカ1を圧着する構成を例示している。これに代えて、巻き出したキャリアシート400から磁気マーカ1を吸着して取り外し、路面53に移載するピック・アンド・プレース機構を利用することもできる。ピック・アンド・プレース機構は、例えば左右方向及び鉛直方向に進退可能であって、かつ、磁気マーカ1を負圧により吸着可能な吸着ヘッドを備える配置装置により構成できる。
【0071】
なお、本例では、車線に沿って磁気マーカ1を連続的に配置する施工を例示しているが、例えば、分岐路や交差点等への接近情報を報知するために分岐路等の手前に磁気マーカ1を配置することも良い。
本例では、予め磁気マーカ1の表面側にアスファルトを含む防滑層15を設けた例である。これに代えて、あるいは加えて、磁気マーカ1を配置する工程の後、前記第2の加熱工程(後加熱工程)の前に、アスファルトの層を磁気マーカ1の表面側に形成する工程を実施することもできる。
【0072】
着磁装置45を備える作業車両4は、着磁済みの磁気マーカの磁極性を変更するための再着磁や、長年の使用によって減磁を生じた磁気マーカの再着磁等の作業にも適用可能である。検出装置47を備えていれば、再着磁した磁気マーカの磁極性の確認や、磁気特性の確認等を併せて実施できる。
【0073】
本例では、ロール体10からキャリアシート400を巻き出す作業装置の一例として作業車両4を例示している。作業装置は、車両に搭載可能な装置であっても良く、車両等で牽引して移動できる装置であっても良い。
【0074】
本例では、磁気マーカ1を検出する磁気センサ2としてMIセンサを例示している。これに代えて、例えばフラックスゲートセンサやTMR型センサなど他の原理を採用する高感度センサを組み合わせても良い。フラックスゲートセンサは、軟磁性コアに周期電流を流したときのコア磁束の飽和タイミングが外部磁界に応じて変化することを利用し、飽和のタイミングから磁気強度を計測する高感度な磁気センサである。なお、フラックスゲートセンサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2011/155527号公報、特開2012−154786号公報などに詳細な記載がある。
TMR(Tunneling Magneto Resistive)型センサは、強磁性層の間に膜厚1nm程度の絶縁体層を挟み込む構造をもち、膜面に対して垂直に電圧を印加するとトンネル効果によって絶縁体層に電流が流れ、その際の電気抵抗が外部磁界に応じて大きく変化するトンネル磁気抵抗(TMR)効果を利用した高感度な磁気センサである。なお、TMR型センサについては多数の出願がなされており、例えば、WO2009/078296号公報、特開2013−242299号公報などに詳細な記載がある。
【0075】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。