特許第6790626号(P6790626)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790626
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】オートクレーブ装置
(51)【国際特許分類】
   C22B 3/06 20060101AFI20201116BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   C22B3/06
   C22B23/00 102
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-176529(P2016-176529)
(22)【出願日】2016年9月9日
(65)【公開番号】特開2018-40047(P2018-40047A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】内藤 大志
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/191020(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101423893(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01J 3/02−3/04
B01J 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔壁で複数に区画された区画室と、
各区画室に設けられ、該区画室内のスラリーを撹拌するための撹拌機と、
を備えるオートクレーブ装置であって、
少なくとも1以上の前記隔壁には、通液口が設けられ、
前記通液口に対して、前記撹拌機による撹拌で発生した液流の上流の位置に、少なくとも前記隔壁又は当該オートクレーブ装置の壁面から起立した遮蔽部材が設けられている
オートクレーブ装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材は、1以上の屈曲部を有している
請求項1に記載のオートクレーブ装置。
【請求項3】
前記遮蔽部材は、前記隔壁を挟んで対向するいずれかの区画室、若しくは両方の区画室において、該隔壁に設けられた通液口に対して設けられている
請求項1又は2に記載のオートクレーブ装置。
【請求項4】
当該オートクレーブ装置は、ニッケル及びコバルトの混合硫化物を含むスラリーに対して高温高圧下で酸を添加して浸出処理を施すために用いられる
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のオートクレーブ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のオートクレープ装置を用いて、スラリーに含まれる固形物から有価金属を浸出させる
有価金属の浸出処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブ装置に関するものであり、より詳しくは、原料スラリーを高温高圧下で浸出する処理に用いられるオートクレーブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉱石や混合硫化物、マット等の原料(固形物)を高温高圧下で浸出する処理では、オートクレーブ装置が用いられる。オートクレーブ装置は、反応容器を複数の隔壁で区画した複数の区画室と、各区画室内でスラリーを撹拌するための撹拌機とから構成されている。
【0003】
具体的に、オートクレーブ装置では、加熱、加圧された原料スラリー(原料と浸出液の懸濁液)等が、隔壁で複数に区画されたオートクレーブ装置内の第1の区画室に供給され、第1の区画室に設けられた撹拌機によって撹拌しながらスラリーを滞留させて、固形物から有価金属の浸出を進行させる。そして、浸出に十分な時間に亘ってスラリーを滞留させると、オーバーフロー等により第2の区画室以降にスラリーを移送し、順次、同様にしてさらに有価金属の浸出を進行させる。オートクレーブ装置では、このようにして各区画室内でスラリーを滞留させて有価金属の浸出を進行させることから、浸出液への有価金属の浸出率は下流の区画室ほど高くなる。
【0004】
さて、オートクレーブ装置においては、その隔壁の下部に通液口が設置されることがある。この通液口は、スラリー中の固形物を効率よく下流の区画室に移送し、また、非常停止時に通液口を介してスラリーを速やかに排出する等の目的で設置される。このようにして隔壁に通液口が設けられている場合、下流の区画室へのスラリーの移送は、隔壁の上部からのオーバーフローによることのほか、その隔壁下部に設けられた通液口を介しても行われることになる(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
通液口は、隔壁の中央底部に設けられることが一般的であるが、特許文献2では、オートクレーブの隔壁に設けるスラリー移送用の通液口の有効な設置位置に関する技術が開示されており、滞留時間の平均化や効率的な操業を促進させることができるとしている。
【0006】
ここで、下流の区画室へ移送されるスラリーの量としては、供給されたスラリーの量に見合った量が所定の平均滞留時間にて定量的に移送されることが理想的であり、通液口が設置されている場合には、隔壁の上部をオーバーフローする量と通液口を介して移送されている量とのバランスが定常的に取れていることが好ましいと考えられる。
【0007】
しかしながら、各区画室においては、撹拌機によりスラリーが撹拌されているため、その撹拌により発生する液流があり、その液流による吐出力が通液口に作用する。また、隔壁を挟んで上流側の液流による吐出力と下流側の液流による吐出力とのバランスにより、どちらかの吐出力が勝れば通液口に好ましくない液流が生じる。
【0008】
そして、上流側と下流側の液流による吐出力のバランスが不均衡になると、通液口を介してスラリーが一方の区画室に流れ込んでしまい、結果として、オートクレーブ装置内での処理効率が低下する要因になることがある。このように、撹拌による吐出力で生じた通液口内への液流は、下流側、上流側のどちらに発生したとしても好ましい現象ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−082420号公報
【特許文献2】特開2014−025143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、高温加圧下での浸出処理等に用いられ、複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、撹拌の液流による吐出力によって発生した通液口内への液流を低減することができるオートクレーブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、隔壁に設けられた通液口に対して、撹拌により発生する液流の上流の位置に遮蔽部材を設けることで、その通液口への液流を低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、隔壁で複数に区画された区画室と、各区画室に設けられ、該区画室内のスラリーを撹拌するための撹拌機と、を備えるオートクレーブ装置であって、少なくとも1以上の前記隔壁には、通液口が設けられ、前記通液口に対して、前記撹拌機による撹拌で発生した液流の上流の位置に、少なくとも前記隔壁又は当該オートクレーブ装置の壁面から起立した遮蔽部材が設けられている、オートクレーブ装置である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記遮蔽部材は、1以上の屈曲部を有している、オートクレーブ装置である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記遮蔽部材は、前記隔壁を挟んで対向するいずれかの区画室、若しくは両方の区画室において、該隔壁に設けられた通液口に対して設けられている、オートクレーブ装置である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、当該オートクレーブ装置は、ニッケル及びコバルトの混合硫化物を含むスラリーに対して高温高圧下で酸を添加して浸出処理を施すために用いられる、オートクレーブ装置である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明に係るオートクレープ装置を用いて、スラリーに含まれる固形物から有価金属を浸出させる、有価金属の浸出方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数の区画室に区画する隔壁に通液口が設けられているオートクレーブ装置において、撹拌の液流による吐出力によって発生した通液口内への液流を低減することができる。これにより、オートクレーブ装置内での処理効率の低下を抑えることができ、工業的に極めて有利である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】オートクレーブ装置の構成を示す図であり、(a)はオートクレーブ装置1を水平に切断して内部構造を模式的に示した横断平面図であり、(b)はオートクレーブ装置を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。
図2】隔壁の一部拡大図であり、隔壁の下部に設けられた通液口の構成を説明するための模式図である。
図3】通液口に対して第1の実施態様に係る遮蔽部材を設置したときの図である。
図4】通液口に対して第2の実施態様に係る遮蔽部材を設置したときの図である。
図5】通液口に対して第3の実施態様に係る遮蔽部材を設置したときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X〜Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.オートクレーブ装置の構成≫
図1は、本実施の形態に係るオートクレーブ装置の構成を示す図である。図1の(a)は、オートクレーブ装置1を水平に切断して内部構造を模式的に示した横断平面図であり、(b)は、オートクレーブ装置1を垂直に切断して内部構造を模式的に示した縦断側面図である。なお、この図1では、後で詳述する遮蔽部材を、隔壁に設けた通液口に対して設置した例を示している。
【0021】
オートクレーブ装置1は、例えば、少なくともニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(固形物)を含有する原料スラリー(原料となる固形物と浸出液との懸濁液)を、硫酸物等の溶解液とする浸出処理に用いられる。より具体的に、オートクレーブ装置1では、加熱、加圧された原料スラリーを収容し、硫酸等の酸を添加して撹拌することによって、高温高圧下でスラリー中の固形物に含まれる有価金属を高温加圧浸出する。なお、浸出される有価金属としては特に限定されず、原料固形物としてニッケル及びコバルトの混合硫化物を用いた場合には、ニッケル、コバルトが有価金属として浸出される。
【0022】
オートクレーブ装置1は、少なくとも、複数の区画室10と、各区画室10に設けられてスラリーを撹拌するための撹拌機20と、を備えている。また、区画室10は、オートクレーブ装置1内に設けられた隔壁30によって複数に区画されている。図1に示すオートクレーブ装置1の例では、4つの隔壁30(30A,30B,30C,30D)によって5区画に区画された5つの区画室10(10A,10B,10C,10D,10E)が設けられている。また、各区画室10A〜10E内には、それぞれ、撹拌機20(20A,20B,20C,20D,20E)が設けられている。
【0023】
なお、オートクレーブ装置における区画室の数は、原料や浸出条件等に応じて適宜設定することができるものである。
【0024】
[区画室]
区画室10は、オートクレーブ装置1において原料スラリーに対する浸出処理等の処理を施す反応場となる空間である。上述したように、オートクレーブ装置1では、隔壁30によって5つに区画された5つの区画室10A〜10Eにより構成されている。
【0025】
(区画室での浸出処理)
区画室10は、上流側(図1の左側)から順に、第1の区画室10A、第2の区画室10B・・・と続き、最下流側(図1の右側)が最終の第5の区画室10Eで構成されている。オートクレーブ装置1においては、最上流の第1の区画室10Aに原料スラリーが装入され、また第1の区画室10Aの上部から垂下された配管を介して硫酸等の溶液がスラリーに供給される。そして、第1の区画室10Aでは、後述する撹拌機20Aによる撹拌によって、スラリー中の固形物に含まれる有価金属が溶液中に浸出される。
【0026】
第1の区画室10Aにてスラリーの撹拌が施されるとともに、そのスラリーの一部は、第1の区画室10Aと第2の区画室10Bとを区画する隔壁30Aの上部をオーバーフローして、第2の区画室10Bへと移送される。そして、第2の区画室10Bでは、第1の区画室10Aにおける処理と同様に、撹拌機20Bによる撹拌によって順次浸出処理が進行する。なお、このとき、第2の区画室10Bにおいても、その上部から配管を垂下させて、浸出に用いる硫酸等の溶液やスラリー等を供給することができる。
【0027】
以降順次、第3の区画室10C、第4の区画室10Dへとスラリーが主としてオーバーフローにより移送され、各区画室10において浸出処理が進行していく。そして、最下流の第5の区画室10Eにおいても同様にして、スラリーに対する浸出処理が施されると、その第5の区画室10Eに設けられた浸出液排出管(図示しない)を介して、有価金属が浸出されて得られた浸出液を含むスラリーが排出される。
【0028】
(区画室の構成)
区画室10においては、内部のスラリーを撹拌するための撹拌機20が設けられている。なお、撹拌機20について後で詳述する。また、区画室10のうち、第1の区画室10Aには、原料のスラリーを装入するための原料スラリー装入管(図示しない)が付設されており、その原料スラリー装入管を介して固形物を含むスラリーが装入される。
【0029】
また、区画室10には、例えばその上部から垂下されるようにして、硫酸等の酸溶液やスラリー、ガス、蒸気等を供給するための種々の供給配管が付設されている。
【0030】
ここで、少なくともニッケルとコバルトとの混合硫化物を含む原料スラリーに対する浸出処理に当該オートクレーブ装置1を用いる場合、各区画室10内における、ニッケル硫化物やコバルト硫化物の浸出処理時の反応は、下記式(1)及び式(2)となる。
NiS+2O→NiSO ・・・(1)
CoS+2O→CoSO ・・・(2)
【0031】
上記反応式に示すように、高温高圧下での浸出処理では、反応に必要なガス(Oガス等)をスラリー中に供給したり、高温高圧状態を維持するために蒸気を供給するなど、区画室10には種々の供給配管等を付設するのが通例である。また、ニッケル及びコバルトの混合硫化物に対する浸出処理では、硫酸等の酸を供給して硫酸酸性の浸出液とすることから、硫酸を供給するための配管も当然に付設されることになる。また、濃度調節等の目的で水やスラリーを供給することもある。なお、図1(b)では、硫酸供給配管等の配管5が付設されている様子を示している。
【0032】
[撹拌機]
撹拌機20は、第1の区画室10A〜第5の区画室10Eのそれぞれに設置されており、各区画室10の内部に装入、移送されたスラリーを撹拌する。
【0033】
撹拌機20としては、例えば図1に模式的に示すように、撹拌軸21と複数の撹拌羽根22とを備えたプロペラ形状のものを用いることができる。この撹拌機20は、各区画室10の上部天井から垂下されて、オートクレーブ装置1を上部から視たとき(図1(a)参照)、各区画室10の中央部分に撹拌軸が位置するように設けることができる。
【0034】
撹拌機20は、例えば時計回りに所定の速度で撹拌軸を回転させ、撹拌羽根によってスラリーを撹拌する。この撹拌機20による撹拌によって、区画室10内のスラリーには所定の方向への液流が発生する。
【0035】
[隔壁]
隔壁30は、オートクレーブ装置1の内部を複数に区画するためのものであり、隔壁30を挟んで隣り合う区画室が構成される。例えば、第1の区画室10Aと第2の区画室10Bとの間には第1の隔壁30Aが設けられており、第2の区画室10Bと第3の区画室10Cとの間には第2の隔壁30Bが設けられている。
【0036】
隔壁30は、図1(b)の縦断側面図に示すように、オートクレーブ装置1の底部壁面から立設されており、また、その高さが、オートクレーブ装置1を側面視したときの高さよりも短くなっている。これにより、上流側の区画室10(例えば第1の区画室10A)にて浸出処理が施されたのち、液量が隔壁30の高さよりも多くなったスラリーは、その隔壁30の上部からオーバーフローすることによって下流側の区画室10(例えば第2の区画室10B)に移送されるようになる。
【0037】
なお、隔壁30の形状は、特に限定されず、各区画室が区画されるように、オートクレーブ装置1の内部の形状に沿った形状とすることができる。
【0038】
ここで、隔壁30には、例えばその下部の位置に通液口40が設けられている。通液口40は、例えば、区画室10内のスラリーに含まれる固形物を効率よく下流の区画室に移送するために用いられる。したがって、上流の区画室10から下流の区画室10へのスラリーの移送は、上述したように隔壁30の上部からのオーバーフローとともに、この通液口40を介しても行われる。
【0039】
隔壁30の形状としては、特に限定されないが、例えば四角形とすることができる。また、通液口40は、オートクレーブ装置1内の全ての隔壁30に設けることができるが、その一部の隔壁30のみに設けるようにしてもよい。
【0040】
≪2.隔壁に設けられた通液口について≫
<2−1.通液口について>
図2は、隔壁30の一部拡大図であり、隔壁30の下部に設けられた通液口40の構成を示す模式図である。図2に示す通液口40の模式図は、図1中の矢印Pで示す方向からの斜視図であり、下流側にある第3の区画室10Cから、隔壁30B(第2の区画室10Bと第3の区画室10Cとを隔てる隔壁)に設けられている通液口40Bを視たとき図である。なお、図1では、第2の隔壁30B、第3の隔壁30C、第4の隔壁30Dに、それぞれ、通液口40B、通液口40C、通液口40Dが設けられている例を示している。
【0041】
図2に示すように、通液口40Bは、4つの辺51,52,53,54で形成される四角形の形状を有している。ここで、第3の区画室10Cにおいて、隔壁30Bにこのような通液口40Bが設けられている場合、時計回りに撹拌機20Cを回転させてスラリーを撹拌すると、その撹拌によって発生する通液口40B近傍での液流は、図2中の矢印F1で示すように図2の左手前から右奥への方向の流れとなる。したがって、通液口40Bの開口部を構成する各辺(51,52,53,54)のうち、この撹拌により発生する液流の上流側に相対する辺は、辺51となる。
【0042】
一方、図示しないが、隔壁30Bに設けられた通液口40Bを、上流側にある第2の区画室10Bから視ると、同様にして時計回りに回転する撹拌機20Bによるスラリーの撹拌によって、第2の区画室10Bから正面に通液口40Bを視たときに、その左手前から右奥への方向に流れる液流が発生する。
【0043】
このように、第2の区画室10Bでの撹拌により発生する液流と、第3の区画室10Cでの撹拌により発生する液流とは、隔壁30Bに設けられた通液口40Bに対して吐出力として作用する。このとき、その液流による両者の吐出力のバランスが不均衡となると、上流側から下流側へのスラリーの移送に不具合を来たし、浸出処理における浸出率の低下等を引き起こす。
【0044】
すなわち、通液口40Bの入口近傍に作用する吐出力が変化して、通液口40Bの両側の吐出力(第2の区画室10Bからの吐出力と第3の区画室10Cからの吐出力)のバランスが崩れることによって、例えば、上流側の吐出力が大きくなって下流側への液流が発生すれば、十分に浸出されていない滞留時間の短いスラリーが通液口40Bを通って下流側に排出されることになり、有価金属の浸出率が低下する要因となる。また逆に、下流側の吐出力が大きくなって上流側への液流が発生すれば、液量バランスから下流側へ隔壁30Bをオーバーフローする液量が増えることになるため、この場合も、十分に浸出されていない滞留時間の短いスラリーが下流側に排出されることにつながり、やはり浸出率が低下する要因となる。
【0045】
このような通液口40の入口近傍に作用する吐出力の変化は、区画室10内に設けられた配管等の存在によって頻繁に生じることがあり、配管等の存在によって液流が乱れる結果として生じる。特に、上述したように、ニッケルとコバルトとの混合硫化物を含む原料スラリーに対する浸出処理においては、高温高圧下での浸出処理に必要なガスや高温高圧状態を維持するために蒸気、浸出に用いる硫酸等の酸溶液等を供給するための多くの配管が付設されているため、そのような配管等による液流の乱れは生じやすくなり、結果として通液口40に作用する吐出力に変化をもたらす。
【0046】
<2−2.遮蔽部材>
そこで、オートクレーブ装置1においては、隔壁30に設けられた通液口40に対して、所定の位置に遮蔽部材を設けることを特徴としている。具体的には、区画室10の撹拌機20による撹拌で発生した液流の上流に位置するように、少なくともその隔壁30又はオートクレーブ装置1の壁面から起立した遮蔽部材を設ける。
【0047】
(第1の実施態様)
図3は、図2と同じく、第3の区画室10Cから隔壁30Bに設けられた通液口40Bを視たときの斜視図であり、その第3の区画室10Cにおいて通液口40Bに対して遮蔽部材61を設置したときの図である。
【0048】
遮蔽部材61は、図3に示すように、通液口40Bを構成する辺51よりも、第3の区画室10C内での撹拌により発生した液流(流れの方向は、図中の矢印F)の上流となる位置に、隔壁30B及びオートクレーブ装置1の底部の壁面1wから起立して設けられている。なお、液流の上流となる位置とは、図3において通液口40Bを構成する辺51よりも左方の位置である。
【0049】
また、遮蔽部材61は、3つの屈曲部を有して合計3枚の板(61P,61Q,61R)で構成されている。具体的に、遮蔽部材61を構成する板61Pは、隔壁30Bにおける通液口40Bの辺51よりも左方の位置及びオートクレーブ装置1の底部の壁面1wから起立した板であり、残りの2枚の板61Q,61Rは、それぞれ、隔壁30B、オートクレーブ装置1の壁面1wと固定された板である。
【0050】
このように、通液口40Bに対して遮蔽部材61を設けることにより、第3の区画室10Cでの撹拌に基づき発生する液流による吐出力が、通液口40Bの入口近傍に直接的に作用し難くなり、吐出力によって発生した通液口内への液流を低減させることができる。これにより、その吐出力に起因する通液口40Bを通じてのスラリーの流れ込みを防止することができる。すなわち、第3の区画室10Cから通液口40Bを通って第2の区画室10Bにスラリーが逆移送されることを防ぐことができる。
【0051】
また、図示しないが、第2の区画室10Bにおいても、遮蔽部材61と同様の遮蔽部材を隔壁30Bに設けられた通液口40Bに対して同様にして設置するようにすることで、第2の区画室10Bから通液口40Bを通って過剰のスラリーが第3の区画室10Cに移送されてしまうことを防ぐことができる。なお、通液口40Bを有する隔壁30Bを介して隣り合う区画室10B,10Cのうち、通液口40Bの入口近傍における撹拌の液流による吐出力が大きい側のみに遮蔽部材61を設置するようにしてもよい。
【0052】
ここで、遮蔽部材61を設けることで、それが物理的な障害となって区画室10内での撹拌による液流に乱れが生じやすくなることも考えられる。しかしながら、遮蔽部材61のように、1以上の屈曲部を有して複数枚の板で構成されてなる遮蔽部材とすることで、通液口40を囲うカバー形状とすることができ、液流の乱れを緩和することができる。また、遮蔽部材61のように、このように通液口40を囲うように構成することで、その遮蔽部材61と、隔壁30やオートクレーブ装置の壁面1wとの接合部面積も増大するため、接合強度が高くなり耐久性を向上させることができる。
【0053】
(第2の実施態様)
図4は、第2の実施態様に係る遮蔽部材62を示す模式図である。図4も、第3の区画室10Cから隔壁30Bに設けられた通液口40Bを視たときの斜視図であり、その第3の区画室10Cにおいて通液口40Bに対して遮蔽部材62を設置したときの図である。
【0054】
遮蔽部材62は、図4に示すように、通液口40Bを構成する辺51よりも、第3の区画室10C内での撹拌により発生した液流(流れの方向は、図中の矢印F)の上流となる位置に、隔壁30B及びオートクレーブ装置1の底部の壁面1wから起立して設けられている。なお、液流の上流となる位置とは、図4において通液口40Bを構成する辺51よりも左方の位置である。
【0055】
また、遮蔽部材62は、少なくとも1つの屈曲部を有して合計2枚の板(62P,62Q)で構成されている。具体的に、遮蔽部材62を構成する板62Pは、隔壁30Bにおける通液口40Bの辺51よりも左方の位置及びオートクレーブ装置1の底部の壁面1wから起立した板であり、板62Qは、隔壁30Bと固定された板である。このようにして、通液口40Bに対して遮蔽部材62を設けることにより、液流による吐出力が、通液口40Bの入口近傍に直接的に作用し難くなり、吐出力によって発生した通液口内への液流を低減させることができる。これにより、その吐出力に起因する通液口40Bを通じてのスラリーの流れ込みを防止することができる。
【0056】
また、図示しないが、第2の区画室10Bにおいても、遮蔽部材62と同様の遮蔽部材を隔壁30Bに設けられた通液口40Bに対して同様にして設置するようにすることで、第2の区画室10Bから通液口40Bを通って過剰のスラリーが第3の区画室10Cに移送されてしまうことを防ぐことができる。なお、通液口40Bを有する隔壁30Bを介して隣り合う区画室10B,10Cのうち、通液口40Bの入口近傍における撹拌の液流による吐出力が大きい側のみに遮蔽部材62を設置するようにしてもよい。
【0057】
また、遮蔽部材62は、図3に示した第1の実施態様に係る遮蔽部材61と同様に、通液口40Bを囲うようにして構成されているが、遮蔽部材61と異なり、撹拌による液流(矢印F)に対向する面を構成する板62Pの角度を変えている。これにより、遮蔽部材61を設置したことに起因する液流の乱れをより緩和することができる。
【0058】
なお、図3に示す遮蔽部材61及び図4に示す遮蔽部材62は、オートクレーブ装置1の壁面1wにその側面の一部が固定されて構成されている。通液口40は、通常操業時のみならず、非常停止時にスラリーを速やかに排出する目的も兼ねて隔壁30に付設されているため、隔壁30の底部近傍に設けられることが多い。したがって、図2に示したように、オートクレーブ装置1の底部壁面1wは、四角形の通液口40を形成する辺(底辺)54に沿うようにして存在している。このことから、オートクレーブ装置1の壁面1wにその側面の一部が固定されてなる遮蔽部材61や遮蔽部材62を設けることで、そのオートクレーブ装置1の壁面1wを含めて通液口40を囲っている形状とすることができ、スラリーの流れ込みをより一層に効果的に防ぐことができる。
【0059】
(第3の実施態様)
図5は、第3の実施態様に係る遮蔽部材63を示す模式図である。図5も、第3の区画室10Cから隔壁30Bに設けられた通液口40Bを視たときの斜視図であり、その第3の区画室10Cにおいて通液口40Bに対して遮蔽部材63を設置したときの図である。
【0060】
遮蔽部材63は、図5に示すように、通液口40Bを構成する辺51よりも、第3の区画室10C内での撹拌により発生した液流(流れの方向は、図中の矢印F)の上流となる位置に、隔壁30B及びオートクレーブ装置1の底部の壁面1wから起立して設けられている。なお、液流の上流となる位置とは、図5において通液口40Bを構成する辺51よりも左方の位置である。
【0061】
また、遮蔽部材63は、1枚の板状の遮蔽板により構成されている。このようにして、撹拌により発生した液流の上流となる位置に遮蔽部材62を設けることにより、液流による吐出力が、通液口40Bの入口近傍に直接的に作用し難くなり、吐出力によって発生した通液口内への液流を低減させることができる。これにより、その吐出力に起因する通液口40Bを通じてのスラリーの流れ込みを防止することができる。
【0062】
また、図示しないが、第2の区画室10Bにおいても、遮蔽部材63と同様の遮蔽部材を隔壁30Bに設けられた通液口40Bに対して同様にして設置するようにすることで、第2の区画室10Bから通液口40Bを通って過剰のスラリーが第3の区画室10Cに移送されてしまうことを防ぐことができる。なお、通液口40Bを有する隔壁30Bを介して隣り合う区画室10B,10Cのうち、通液口40Bの入口近傍における撹拌の液流による吐出力が大きい側のみに遮蔽部材63を設置するようにしてもよい。
【0063】
以上のように、オートクレーブ装置1において、隔壁30に設けられた通液口40に対して、撹拌機20による撹拌で発生した液流の上流の位置に、少なくともその隔壁30又はオートクレーブ装置1の壁面1wから起立した遮蔽部材61,62,63が設けられていることにより、撹拌の液流による吐出力が通液口40に直接作用することを抑えることができ、隔壁30を挟んだ隣の区画室10へのスラリーの流れ込みを防ぐことができる。これにより、各区画室10におけるスラリーの滞留時間が平均化され、スラリーを構成する鉱石や混合硫化物、マット等の原料(固形物)からの有価金属の浸出率の低下を防ぐことができる。
【符号の説明】
【0064】
1 オートクレーブ装置
1w オートクレーブ装置の壁面(底部壁面)
10,10A〜10E 区画室
20,20A〜20E 撹拌機
21 撹拌軸
22 撹拌羽根
30,30A〜30D 隔壁
40,40B〜40D 通液口
61,62,63 遮蔽部材
図1
図2
図3
図4
図5