(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記誘導コイルは、前記下部コイル部の上端が前記ルツボの上端と同じ高さに配置されたときに、前記上部コイル部の下端が前記アフター・ヒーターの上端よりも上方に配置される形状を有する請求項1又は2に記載の結晶育成装置。
前記昇降機構は、前記単結晶の直胴部の育成時には前記アフター・ヒーターの周囲に前記上部コイル部が配置されるように前記誘導コイルを移動させる請求項5に記載の結晶育成装置。
前記肩部育成工程において、前記下部コイル部の上端を前記ルツボの上端と同じ高さに配置したときに、前記上部コイル部の下端は前記アフター・ヒーターの上端よりも上方に配置されるようにし、前記アフター・ヒーターを発熱させないようにする請求項8に記載の結晶育成方法。
前記直胴部育成工程において、前記誘導コイルを下降させた後、前記引き上げ軸の更なる引き上げに連動させて前記上部コイル部が前記単結晶の前記肩部の周囲に配置されるように前記誘導コイルを再度上昇させる工程を更に有する請求項8乃至10のいずれか一項に記載の結晶育成方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0012】
本発明のチョコラスキー式結晶育成装置は、大気中または不活性ガス雰囲気中で育成されるニオブ酸リチウムLiNbO
3(以下LN)、タンタル酸リチウムLiTaO
3(以下LT)、イットリウムアルミニウムガーネットY
3Al
5O
12(以下YAG)などの酸化物単結晶の製造に用いる結晶育成装置である。チョコラルスキー法は、ある結晶方位に従って切り出された種と呼ばれる、通常は断面の一辺が数mm程度の直方体単結晶の先端を、同一組成の融液に浸潤し、回転しながら徐々に引上げることによって、種結晶の性質を伝播しながら大口径化して単結晶を製造する方法である。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例を示した概要図である。
図1に示されるように、本実施形態に係る結晶育成装置は、ルツボ10と、ルツボ台20と、リフレクタ30と、アフター・ヒーター40と、断熱材50、51と、耐火物60と、引き上げ軸70と、誘導コイル80と、電源100と、支持台110と、チャンバー120と、制御部130とを備える。なお、加熱手段は、ルツボ10とアフター・ヒーター40とを加熱する誘導コイル80である。また、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給するために設けられている。
【0014】
本実施形態に係る結晶育成装置において、ルツボ10はルツボ台20の上に載置される。ルツボ10の上方には、リフレクタ30を介して、アフター・ヒーター40が設置されている。ルツボ10を取り囲むように断熱材50が設置されている。更に、アフター・ヒーター40を取り囲むように断熱材51が設けられている。また、断熱材50、51の外側には耐火物60が設けられ、ルツボ10の周囲全体を覆っている。耐火物60の側面の外側には、誘導コイル80が配置されている。誘導コイル80は、下部コイル部81と、上部コイル部82と、粗巻コイル部83とを有する。ルツボ10の水平方向の周囲を下部コイル部81が取り囲んでいる。また、アフター・ヒーター40よりも上方の断熱材51の水平方向の周囲を上部コイル部82が取り囲んでいる。更に、下部コイル部81と上部コイル部82との間に、両者を接続するとともに、アフター・ヒーター40の少なくとも一部の水平方向の周囲を取り囲むように粗巻コイル部83が設けられている。なお、
図1において、ルツボ10周辺の内部構造が見えるように、下部コイル部81の中央部分は破線で示している。誘導コイル80が外側に設けられた耐火物60は、支持台110の上に載置されている。また、誘導コイル80の周囲をチャンバー120が覆っている。なお、ルツボ10及びその周囲に設けられた断熱材50は、ホットゾーン部を構成する。また、ルツボ10の上方には、引き上げ軸70が設けられている。引き上げ軸70は、下端に種結晶保持部71を有し、引き上げ軸駆動部72により昇降可能に構成されている。更に、チャンバー120の周辺の外部に、電源100及び制御手段130が設けられる。また、
図1において、関連構成要素として、種結晶140と、結晶原料150とが示されている。
【0015】
次に、個々の構成要素について説明する。
【0016】
ルツボ10は、結晶原料150を保持し、結晶を育成するための容器である。結晶原料150は、結晶化する金属等が溶融した融液の状態で保持される。ルツボの材質は、結晶原料150にもよるが耐熱性のある白金やインジウム等で作製される。
【0017】
育成される単結晶は、単結晶の引き上げが進むにつれてルツボから遠ざかって行く為、単結晶の温度分布が大きくなり単結晶の割れ等の不具合が発生する場合がある。これを改善するため、ルツボ10の上方にアフター・ヒーター40を設置して適切な温度分布を維持する。アフター・ヒーター40の形状は、内径が得ようとする酸化物単結晶の直径より大きく、ルツボ10の直径より小さくする。全長は、得ようとする酸化物の全長の半分より長く、二倍より短い円筒状である。材質は白金やイリジウム等の金属で作製される。
【0018】
誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーター40を加熱するための手段であり、ルツボ10、アフター・ヒーター40及びアフター・ヒーター40の上方を囲むように配置される。誘導コイル80は、ルツボ10やアフター・ヒーターを誘導加熱できれば形態は問わないが、例えば、高周波加熱コイルからなる高周波誘導加熱装置として構成される。この場合には、電源100は、誘導コイル80に高周波電力を供給する高周波電源として構成される。なお後述するが、誘導コイル80には、上下方向に昇降する昇降機構が設けられている。この昇降機構は、例えば、モーター等を利用し、ウォームギア等を組み合わせた機構で構成されてもよい。昇降機構の詳細については後述する。
【0019】
また、電源100は、誘導コイル80のみならず、結晶育成装置全体に電源供給を行う。
【0020】
チャンバー120は、ルツボ10及び誘導コイル80の高熱を遮断するとともに、これらを収容する機能を有する。チャンバー120は、所定の垂直断面で水平方向等に分割可能であり、内部のルツボ10、誘導コイル80等が露出可能な構造となっている。
【0021】
支持台110は、耐火物60全体を支持するための支持台である。
【0022】
引き上げ軸70は、種結晶140を保持し、ルツボ10に保持された結晶原料(融液)150の表面に種結晶140を接触させ、回転しながら結晶を引き上げるための手段である。引き上げ軸70は、種結晶140を保持する種結晶保持部71を下端部に有するとともに、回転機構であるモーターを備えた引き上げ軸駆動機構72を有する。なお、モーターは、結晶の引き上げの際、結晶を回転させながら引き上げる動作を行うための回転駆動機構である。
【0023】
制御手段130は、結晶育成装置全体の制御を行うための手段であり、結晶育成プロセスを含めて結晶育成装置全体の動作を制御する。制御手段は、例えば、CPU(Central Processing Unit、中央処理装置、及びROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等のメモリを備え、プログラムにより動作するマイクロコンピュータから構成されてもよいし、特定の用途のために開発されたASIC(Application Specified Integra Circuit)等の電子回路から構成されてもよい。
【0024】
本実施形態に係る結晶育成装置は、種々の結晶原料に適用することができ、結晶原料の種類は問わないが、例えば、タンタル酸リチウム原料を用いてもよい。その他、種々の酸化物単結晶を育成するための結晶原料を用いることができる。
【0025】
次に、
図2を用いて、本発明の特徴である誘電コイル80について説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の一例の誘導コイル80を示した図である。
【0026】
図2に示される通り、本発明の実施形態に係る誘電コイル80は、ルツボ10の周囲に配置された下部コイル部81、アフター・ヒーター40の周囲又はアフター・ヒーター40よりも上方に配置される上部コイル部82、アフター・ヒーター40とルツボ10との間に配置される粗巻コイル部83からなる3つの部分で構成される、また、下部コイル部81、上部コイル部82及び粗巻コイル部83の巻ピッチは、互いに異なっている。更に、誘電コイル80は、昇降機構を有し、上下移動可能に構成されている。
【0027】
ルツボ10の周りに配置された下部コイル部81は、ルツボ10内の酸化物単結晶の原料150を融解するための加熱手段であり、誘電コイル80の巻ピッチを密にすることで出力を最大にするように設定される。このピッチは、従来から用いられている結晶育成装置のルツボ周辺に配置された誘電コイルのピッチと同様である。例えば、単結晶材質がタンタル酸リチウムの場合、下部コイル部81の巻き数は8〜14巻である。巻ピッチは30mm前後である。
【0028】
アフター・ヒーター40の周囲又はそれよりも上方には、誘電コイル80の上部コイル部82が設置される。この上部コイル部82は、単結晶の直胴部を育成中に、アフター・ヒーター40の横に設置し、アフター・ヒーター40を誘導加熱して発熱させ、単結晶の肩部を含む上部を保温する役割を果たす。従来、アフター・ヒーター40の周辺には誘電コイルは配置せずに、ルツボ10の周辺に配置された誘電コイル80からの磁界を用いて、ルツボ10の加熱よりは出力の弱い加熱により、ルツボ上方を適度に保温することで結晶を育成してきた。しかしながら、長尺の結晶を育成する場合には、引上げ長さが従来のより長くなり、従来のアフター・ヒーター40では結晶の上端と下端で温度勾配が大きくなり、引上げ中に熱応力等により結晶にクラック等不具合が発生しやすい。そこで、本発明の実施形態に係る結晶育成装置では、結晶引上げ中にアフター・ヒーター40の周辺に上部コイル部82を配置し、アフター・ヒーター40を直接加熱して、温度勾配を小さくする。よって、上部コイル部82は、下部コイル部81程の出力は必要としないため、上部コイル部82の巻ピッチは、下部コイル部81の巻ピッチよりも広いピッチでよい。また、上部コイル部82のコイルの巻き数も、結晶の引上げ長さにもよるが、2〜4巻程度でよい。
【0029】
ルツボ10とアフター・ヒーター40の間の部分には、粗巻コイル部83を設置する。粗巻コイル部83は、上部コイル部、下部コイル部を連結している。この部分の位置は、ほぼ、アフター・ヒーター40の長さに相当し、約100mm〜200mmである。このため、誘導コイル80の直径にもよるが、半巻から1巻で上部コイル部82と下部コイル部81を連結する。なお、この連結部は急激な折り曲げ形状とはせず緩やかな形状とする。急激な折り曲げ形状がある場合、ここに電力が集中しやすくコイルが劣化しやすい。また、粗巻コイル部83は、結晶育成の開始時であっても、終了近くであっても、アフター・ヒーター40の周囲の少なくとも一部を取り囲むような位置に配置されている。これにより、高周波誘導加熱されるアフター・ヒーターの発熱分布を滑らかにし結晶育成への悪影響を低減する。
【0030】
また、最初の配置では、上部コイル部82の下端は、アフター・ヒーター40の上端部付近とし、下部コイル部81の上端はルツボ10の上端部付近に配置する。また、誘電コイル80は、上下昇降機構を有する。
【0031】
図3は、本発明の実施形態に係る結晶育成装置の誘導コイル80の昇降機構90の一例を示した詳細図である。誘導コイル80は、コイルサポート91を介して、駆動モーター92に接続されている。昇降機構駆動90では、駆動モーター92の回転を、ウォームギア93及びボールネジ94等を用いて上下方向の駆動力に変換し、誘導コイル80を昇降している。
【0032】
図3の個々の構成要素について、以下、より詳細に説明する。
【0033】
コイルサポート91は、誘導コイル80を支持するための支持手段である。コイルサポート91は、誘導コイル80を上下動可能に支持できれば、種々の構成を有してよい。
【0034】
駆動モーター92は、誘導コイル80を上下動させるための駆動手段である。水平方向に回転軸を有する駆動モーター92の軸周りの回転駆動力は、ウォームギア93により垂直に延びたボールネジ94を回転させる駆動力に変換される。ボールネジ94は、ねじ軸94a及びナット94bを有し、ねじ軸94aの回転により、螺合するナット94bが上下動し、コイルサポート91を介して、誘導コイル80を昇降させることができる。なお、コイルサポート91、ウォームギア93及びボールネジ94は、誘導コイル80の直径方向に対向して一対設けられ、両側から誘導コイル80を支持及び昇降するように構成されている。
【0035】
なお、結晶育成の際の誘導コイル80の昇降動作は、例えば、制御部130により制御される。制御部130は、引き上げ軸駆動部72の引き上げ動作も制御しているので、この引き上げ動作に連動させて誘導コイル80の昇降動作を行うようにする。例えば、引き上げ軸70の引き上げ動作が開始し、引き上げられた単結晶が上方に移動するにつれて、上部コイル部82が、単結晶の肩部を含む上部をカバーする水平位置に来るように、誘導コイル90の昇降動作を制御する。同時に、結晶原料150の液面、つまり固液界面が低下するにつれて、下部コイル部81は、固液界面をカバーする水平位置に来るように誘導コイル80の昇降動作を制御する。つまり、誘導コイル80は、結晶の引き上げが開始すると、最初の位置よりも下降する動作を行うことになる。昇降動作の制御は、制御部130が、駆動モーター92の回転動作を制御することにより、制御することができる。
【0036】
この下降動作は、単結晶の種類にもよるが、例えば、誘導コイル80を0.5mm/h〜1mm/hの速度で徐々に降下させ、結晶育成中にトータルでは20mm〜75mm降下させてもよい。20mm未満では、上部コイルがアフター・ヒーターに一部しかかからず、上部の保温効果が小さい。75mmを超えると結晶育成時の速度を上げる必要があり、この場合ルツボ内の融液の温度変化が急激に起こり結晶育成に悪影響を与える。よって、誘導コイル80の下降動作における下降距離は、好ましくは、30mm〜40mmである。
【0037】
このように、本実施形態に係る結晶育成装置は、誘導コイル80を昇降させる昇降機構90を備えることにより、温度差分布の低い結晶育成動作を行い、割れ等の不具合の発生を防止することができる。
【0038】
また、
図3においては、誘導コイル80の下方に昇降機構90を設けた構成としている。かかる構成により、チャンバー120を載置する図示しない架台の内部に昇降機構90を収納することが可能である。但し、昇降機構90の設置位置は、用途に応じて種々の配置としてよい。
【0039】
また、
図3に示した誘導コイル80の昇降機構90は一例に過ぎず、誘導コイル80を昇降できれば、種々の昇降機構90を用いてよい。
【0040】
次に、
図4を用いて、本発明の実施形態に係る酸化物単結晶の結晶育成方法を以下に説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る結晶育成方法を説明するための図である。
図4(a)は、本発明の実施形態に係る結晶育成方法の一例の肩部育成時の状態を示した図であり、
図4(b)は、本発明の実施形態に係る結晶育成方法の一例の直胴部育成時の状態を示した図である。
【0041】
本発明の実施形態に係る結晶育成方法は、チョコラスキー法で育成されるLN,LT,YAGなどの酸化物単結晶の育成に適用することができる。ルツボ10に、酸化物単結晶の原料を投入し、誘導コイル80への高周波電流の供給により加熱し、ルツボ10内の結晶原料150を融解する。
【0042】
その後、
図4(a)に示されるように、引上げ軸70の先端の種結晶保持部71に種結晶140を取り付け、この種結晶140をルツボ10内の結晶原料150の融液の上面に接触させる(シーディング工程)。
【0043】
その後、
図4(b)に示されるように、種結晶140を回転させながら徐々に上方へ引き上げる。加熱温度や回転数、引上げ速度等を制御することで、引上げ結晶160に肩部(円錐状の形成される部分)161及び直胴部(ほぼ円柱状に形成される部分)162を育成し、所定の長さになったところで、引上げ速度等を制御し融液上面と育成した結晶160と切り離し、冷却して単結晶が完成する。
【0044】
本発明の製造方法では、前述した本発明の実施形態に係る結晶育成装置を使用し、シーディング(
図4(a)参照)および肩部形成時においては、アフター・ヒーター40の周囲に位置する上部コイル部82がアフター・ヒーター40よりも上に位置させる。これによって、アフター・ヒーター40の加熱が抑制され、ルツボ10の上方の温度勾配を大きくすることができ、結晶160の急成長を抑制することができる。加えて、下部コイル部81は、ルツボ10の加熱に加え、リフレクタ30を多く加熱させるような位置に配置される。これにより、融液表面の径方向温度勾配を大きくすることでも結晶160の急成長を抑制する。単結晶160の肩部161が形成された後は、直胴部162の育成とともに誘導コイル80を徐々に下げ、下部コイル部81によるルツボ10の底の加熱強化およびそれによる融液の自然対流を増加させる。また、リフレクタ30の発熱を抑えて、結晶160の外周部の温度上昇を防ぐ。加えて、上部コイル部82がアフター・ヒーター40の上端よりも下方、つまりアフター・ヒーター40を水平に取り囲む位置に配置されることで、アフター・ヒーター40の加熱が促進され、育成中の単結晶160の上部を保温する。これらの効果によって、長尺な単結晶を育成しても育成中に結晶160が曲がらず、結晶内外の温度差や融液対流の不安定さから生じる多結晶化によるクラックや、冷却時の歪によるクラックが発生し難い単結晶160を得ることができる。
【0045】
なお、将来的に更なる長尺化が可能となり、アフター・ヒーター40の長さが更に長くなったら、一旦、単結晶160の肩部161の高さ位置まで上部コイル部82を低下させ、その後、肩部161が上昇したら、その上昇に連動させて誘導コイル80を上昇させ、肩部161の周囲に上部コイル部82が配置されるような制御動作を行ってもよい。これにより、結晶160の更なる長尺化にも対応することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について具体的に説明する。以下の説明では、一例としてタンタル酸リチウム単結晶育成方法について説明する。なお、実施例においても、理解の容易のため、上述の実施形態で説明した構成要素に対応する構成要素には同一の参照符号を付すとともに、その詳細な説明を省略する。
【0047】
まず、イリジウム製のルツボ10にタンタル酸リチウムの原料を充填した。ルツボ10の上端には、イリジウム製のリフレクタ30を配置し、リフレクタ30の上には、イリジウム製のアフター・ヒーター40を配置した。ルツボ10及びアフター・ヒーター40は、銅製の高周波誘導コイル80によって加熱した。なお、高周波誘導コイル80は、上部コイル部82、粗巻コイル部83、下部コイル部81の3つの部位で構成とした。また、ジルコニア製及び/又はアルミナ製の耐火物60で保温した。ルツボ10内のタンタル酸ルツボ原料150を融解し、イリジウム製の引き上げ軸70を1〜20rpmで回転させながら、2〜5mm/hの速度で垂直に引き上げることによって、種結晶140から連続的に単結晶160を得た。
【0048】
本実施例では、
図2で説明したような、上部コイル部82と下部コイル部81を粗巻コイル部83で連結する誘導コイル80を用いたが、粗巻コイル部83は半ターンで上部コイル部82の下端と下部コイル部81の上端を150mmの間隔で連結した。一方、上部コイル部82は各々35mmのピッチで2ターン、下部コイル部81は30mmのピッチで9ターンとした。通常は、高周波誘導コイル80の内側に形成される磁束密度は縦方向には変化が少なく、高周波誘導コイル80の位置を上下方向に移動させても誘導加熱される金属の発熱分布はさほど変化しないが、前述のような高周波誘導コイル80の構造とすることによって、高周波誘導コイル80の位置を変えることで誘導加熱される金属の発熱分布を変化せることができた。すなわち、
図4(a)で説明した通り、シーディングおよび肩部形成時においては、上部コイル部82の下端がアフター・ヒーター40の上端よりも高くなるように位置に配置した。これによって、アフター・ヒーター40の誘導加熱が抑制され、ルツボ10の上方の温度勾配を急峻にすることができた。加えて、下部コイル部81は、ルツボ10の加熱と共に、リフレクタ30を多く誘導加熱するような位置に配置したことによって、融液表面の径方向温度勾配を大きくすることができた。
【0049】
これら2つの効果によって、結晶育成中のとりわけ肩部形成において、急成長を抑制することができた。単結晶160の肩部161が形成された後は、直胴部162の育成とともに誘導コイル80を0.5mm/h〜1mm/hの速度で徐々に降下させ、結晶育成中にトータルでは30mm降下させた。これによって、下部コイル部81によってルツボ10の底の誘導加熱がより強化され、原料融液150における自然対流が増加した。一方、下部コイル部81の上端がリフレクタ30よりも下部に位置することによって、リフレクタ30の誘導加熱が抑えられ、育成中の結晶160の外周部の温度が過剰に上昇することを防ぐことができた。加えて、上部コイル部81がアフター・ヒーター40の上端よりも下方に配置されることで、アフター・ヒーター40の誘導加熱が促進され、育成中の単結晶160の上部を保温できた。
【0050】
このように、結晶成長と共に高周波誘導コイル80の位置を下降させることによって、長尺なタンタル酸リチウム単結晶を育成しても融液の自然対流が維持され結晶育成中に結晶を曲がらせることなく、また、結晶内外の温度差や融液対流の不安定さから生じる多結晶化およびそれに起因したクラック、さらには、冷却時の歪によるクラックも発生し難い単結晶160を得ることができた。
【0051】
以上、本発明の好ましい実施形態及び実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施形態及び実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。