【実施例】
【0045】
以下、本発明の実施例について比較例を挙げて具体的に説明する。但し、本発明は以下実施例によってのみ限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
SIGMA−ALDRICH製ポリアニリン(エメラルジン塩)、リグニングラフト型パウダー0.1gをエタノール284gに溶解させ溶液を作製した。この溶液にニッケル系リチウム−ニッケル複合酸化物粒子として遷移金属組成Li
1.03Ni
0.82Co
0.15Al
0.03で表される複合酸化物粒子50gを入れ、さらにトルエン16gを添加し混合し、スラリーを作製した。次に、スラリーをエバポレーターに移し、減圧下、45℃に温めたウォーターバスにフラスコ部を入れ、回転させながらエタノールを除去した。続いてウォーターバスの設定温度を60℃とし、トルエンの除去を行った。最後に完全に溶媒を除去するために粉末を真空乾燥機に移し、減圧下100℃、2時間の乾燥を行い、処理粉体を作製した。
【0047】
このポリアニリン化合物が被覆されたものを実施例1に係る被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子として、以下に示した大気安定性試験、ゲル化試験、及び電池特性試験(充放電試験、サイクル試験)を行った。
【0048】
(実施例2)
SIGMA-ALDRICH製PEDOT/PSS(dry re-dispersible pellets)0.1gをエタノール284gに溶解させ溶液を作製した。この溶液にニッケル系リチウム−ニッケル複合酸化物粒子として遷移金属組成Li
1.03Ni
0.82Co
0.15Al
0.03で表される複合酸化物粒子50gを入れ、さらにトルエン16gを添加し混合し、スラリーを作製した。スラリーをエバポレーターに移し、減圧下、45℃に温めたウォーターバスにフラスコ部を入れ、回転させながらエタノールを除去した。続いてウォーターバスの設定温度を60℃とし、トルエンの除去を行った。最後に完全に溶媒を除去するために粉末を真空乾燥機に移し、減圧下100℃2時間の乾燥を行い、処理粉体を作製した。
【0049】
このPEDOT/PSSが被覆されたものを実施例2に係る被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子として、以下に示した大気安定性試験、ゲル化試験、及び電池特性試験(充放電試験、サイクル試験)を行った。
【0050】
(比較例1)
処理を施さないリチウム−ニッケル複合酸化物粒子を用いたこと以外、実施例1、実施例2と同様に大気安定性、ゲル化試験、電池特性試験を行った。
【0051】
<大気安定性試験>
実施例の被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子及び比較例のリチウム−ニッケル複合酸化物粒子をそれぞれ2.0gガラス瓶に詰め、温度30℃・湿度70%の恒湿恒温槽に1週間静置し初期質量からの増加質量を測定し、粒子質量当たりの変化率を算出した。比較例1に係るリチウム−ニッケル複合酸化物粒子の1週間後の粒子質量当たりの変化率を100として実施例1〜2及び比較例1の1日ごとの変化率を
図1に示す。
【0052】
図1から分かるように、ポリアニリン化合物が被覆された実施例1の被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子やPEDOT/PSSが被覆された実施例2の被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子は、導電性高分子が被覆されていない比較例1のリチウム−ニッケル複合酸化物粒子と比べ、質量当たりの変化率が小さい。本結果から、ポリアニリン化合物やPEDOT/PSSが被覆されていることで、大気中の水分、炭酸ガスの透過を抑制できることが確認された。
【0053】
<ゲル化試験>
正極合剤スラリーの粘度の経時変化の測定を、以下の順序により正極合剤スラリーを作製し、粘度増加およびゲル化の観察を行った。
【0054】
配合比として、実施例及び比較例に係る
被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子及びリチウム−ニッケル複合酸化物粒子
を、粒子:導電助剤:バインダー:N−メチル−2−ピロリドン(NMP)のそれぞれの質量比が、45:2.5:2.5:50となるように秤量し、さらに1.5質量%の水を添加後、自転・公転ミキサーで撹拌して正極合剤スラリーを得た。得られたスラリーを25℃のインキュベーター内で保管し、経時変化をスパチュラでかき混ぜ粘度増加、ゲル化度合いを、実施例1〜2及び比較例1についてそれぞれ確認し、完全にゲル化するまで保管を行った。
【0055】
実施例1及び実施例2に係るスラリーが完全にゲル化するまでに3日を要したのに対し、比較例1に係るスラリーが完全にゲル化するまでには1日を要した。このことから、実施例1及び実施例2に係るスラリーは、リチウム−ニッケル複合酸化物粒子にポリアニリン化合物やPEDOT/PSSが被覆されていることで、水酸化リチウム(LiOH)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)といった不純物の生成が抑えられ、これら不純物とバインダーと反応することによるスラリーのゲル化及びスラリー粘度の上昇させることを妨げることができることが確認された。
【0056】
また、フッ素化合物によってリチウム−ニッケル複合酸化物粒子を被覆させた場合には、フッ素化合物は一般的にN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解するため、フッ素系化合物が被膜しても被膜が溶解すると考えられる。そのため、実施例に係る被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子とは異なり、製造された正極を保管する際、不純物生成を抑制することが困難と考えられる。したがって、正極保管時に生成した不純物が原因となる電池駆動時のガス発生を伴う電解液との反応の抑制が難しく、高額な保管設備が必要となる。
【0057】
<電池特性評価>
以下の手順にて、評価用非水電解質二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製し、電池特性評価を行った。
【0058】
[二次電池の製造]
本発明の
被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子の電池特性評価は、コイン型電池とラミネート型電池を作製し、コイン型電池で充放電容量測定を行い、ラミネートセル型電池で充放電サイクル試験と抵抗測定を行った。
【0059】
(a)正極
得られた実施例及び比較例に係る
被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子及びリチウム−ニッケル複合酸化物粒子に、導電助剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをこれらの材料の質量比が85:10:5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液に溶解させ、正極合剤スラリーを作製した。この正極合剤スラリーを、コンマコーターによりアルミ箔に塗布し、100℃で加熱し、乾燥させることにより正極を得た。得られた正極をロールプレス機に通して荷重を加え、正極密度を向上させた正極シートを作製した。この正極シートをコイン型電池評価用に直径がφ9mmとなるように打ち抜き、またラミネートセル型電池用に50mm×30mmとなるように切り出し、それぞれを評価用正極電極として用いた。
【0060】
(b)負極
負極活物質としてグラファイトと、結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVdF)とを、これらの材料の質量比が92.5:7.5となるように混合し、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)溶液に溶解させて、負極合剤ペーストを得た。
【0061】
この負極合剤スラリーを、正極と同様に、コンマコーターにより銅箔に塗布し、120℃で加熱し、乾燥させるとことにより負極を得た。得られた負極をロールプレス機に通して荷重を加え、電極密度を向上させた負極シートを作製した。得られた負極シートをコイン型電池用にφ14mmとなるように打ち抜き、またラミネートセル型電池用に54mm×34mmとなるように切り出し、それぞれを評価用負極として用いた。
【0062】
(c)コイン電池及びラミネートセル型電池
作製した評価用電極を真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。そして、この正極を用いて2032型コイン電池とラミネートセル型電池を、露点が−80℃に管理されたアルゴン雰囲気のグローブボックス内で作製した。電解液には、1MのLiPF
6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7(富山薬品工業株式会社製)、セパレーターとしてガラスセパレーターを用いてそれぞれの評価用電池を作製した。
【0063】
<<充放電試験>>
作製したコイン型電池について、組立から24時間程度静置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、25℃の恒温槽内で、0.2Cレートの電流密度でカットオフ電圧4.3Vになるまで充電した。1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行った。
【0064】
実施例1に係るコイン型電池の初期放電容量は、198.99mAh/g、実施例2に係るコイン型電池の初期放電容量は、191.91mAh/gであったのに対し、比較例1に係るコイン型電池の初期放電容量は、191.93mAh/gであった。
【0065】
<<サイクル試験>>
作製したラミネート型電池について、コイン型電池と同様に、組立から24時間程度静置し、開回路電圧が安定した後、25℃の恒温槽内で、0.2Cレートの電流密度でカットオフ電圧4.1Vになるまで充電した。1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電した。次にこの電池を、60℃の恒温槽内で2.0Cレートの電流密度で4.1V−CC充電、3.0V−CC放電を繰り返すサイクル試験を行い、500サイクル後の容量維持率を確認するサイクル試験を行った。サイクル試験の結果を
図2に、サイクル試験前のインピーダンス試験結果を
図3に、500回のサイクル試験後のインピーダンス試験結果を
図4に示す。
【0066】
図2及び
図3からサイクル試験前の容量維持量及びインピーダンスにおけるCole−Coleプロットでは、実施例及び比較例に係るラミネート電池はほぼ同等であるが、
図2及び
図4から500回のサイクル試験後のインピーダンス試験後の容量維持量では比較例1に係るラミネート型電池に比べ、実施例1及び実施例2に係るラミネート型電池容量維持量がより高く保たれている。
本試験結果から、実施例のラミネート電池に使用されたリチウム−ニッケル複合酸化物粒子にはポリアニリン、PEDOT/PSSが被覆されているため、長サイクルの使用においても容量維持量の低下量が少な
く、より容量維持率の高い優れた
被覆リチウム−ニッケル複合酸化物粒子であることが確認された。