特許第6790834号(P6790834)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6790834-分離材 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790834
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】分離材
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/24 20060101AFI20201116BHJP
   B01J 20/281 20060101ALI20201116BHJP
   B01J 20/285 20060101ALI20201116BHJP
   B01D 15/36 20060101ALI20201116BHJP
   B01D 15/38 20060101ALI20201116BHJP
   B01D 15/34 20060101ALI20201116BHJP
   C07K 1/16 20060101ALN20201116BHJP
【FI】
   B01J20/24 C
   B01J20/281 G
   B01J20/281 X
   B01J20/285 M
   B01J20/285 N
   B01D15/36
   B01D15/38
   B01D15/34
   !C07K1/16
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-570663(P2016-570663)
(86)(22)【出願日】2016年1月19日
(86)【国際出願番号】JP2016051473
(87)【国際公開番号】WO2016117572
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年12月17日
(31)【優先権主張番号】特願2015-7777(P2015-7777)
(32)【優先日】2015年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100206944
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 絵美
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 優
(72)【発明者】
【氏名】東内 智子
(72)【発明者】
【氏名】河内 史彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 泰史
(72)【発明者】
【氏名】佛願 道男
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−254247(JP,A)
【文献】 特開2009−221428(JP,A)
【文献】 特開2003−093801(JP,A)
【文献】 特開2007−017445(JP,A)
【文献】 特開2006−095516(JP,A)
【文献】 特表2014−521078(JP,A)
【文献】 Jian-Bo Qu et al.,An Effective Way To Hydrophilize Gigaporous Polystyrene Microspheres as Rapid Chromatographic Separation Media for Proteins,Langmuir,2008年,Vol. 24, No. 23,p.13646 - 13652
【文献】 Jian-Bo Qu et al.,A novel stationary phase derivatized from hydrophilic gigaporous polystyrene-based microspheres for high-speed protein chromatography,JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY A,2009年,Vol. 1216,p.6511 - 6516
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/20−20/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モノマ単位としてスチレン系モノマを含む多孔質ポリマ粒子と、
該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、水酸基を有する高分子を含む被覆層と、を備え、
前記多孔質ポリマ粒子が、モノマ単位としてジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含み、
前記多孔質ポリマ粒子1g当たり164〜400mgの前記被覆層を備え、破壊強度が10mN以上である分離材。
【請求項2】
空隙率が40〜70%である、請求項1記載の分離材。
【請求項3】
吸湿度が1〜30質量%である、請求項1又は2記載の分離材。
【請求項4】
比表面積が30m/g以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項5】
前記多孔質ポリマ粒子における粒径の変動係数が3〜15%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項6】
前記水酸基を有する高分子が多糖類又はその変性体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項7】
前記水酸基を有する高分子がアガロース又はその変性体である、請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項8】
前記水酸基を有する高分子が架橋されている、請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項9】
カラムに充填した場合、カラム圧0.3MPaのときに通液速度が800cm/h以上である、請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材。
【請求項10】
カラムと、該カラムに充填された請求項1〜のいずれか一項に記載の分離材とを備える、分離用カラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分離材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンパク質に代表される生体高分子を分離精製する場合、一般的には合成高分子を母体とする多孔質型粒子、親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とする粒子等が用いられている。上記の多孔質型の合成高分子を母体とするイオン交換体は、塩濃度による体積変化が小さく、カラムに充填しクロマトグラフィーで用いた場合、通液時の耐圧性が良いといった利点を持っている。しかし、このイオン交換体は、タンパク質等の分離に用いた場合、疎水的相互作用に基づく不可逆吸着等の非特異吸着が起き、ピークの非対称化が発生する、あるいは、該疎水的相互作用でイオン交換体に吸着されたタンパク質が吸着されたまま回収できない、という問題点があった。
【0003】
一方、デキストラン、アガロース等の多糖に代表される上記親水性天然高分子の架橋ゲルを母体とするイオン交換体の場合、タンパク質の非特異吸着がほとんどないという利点がある。ところが、このイオン交換体は、水溶液中で著しく膨潤し、また、溶液のイオン強度による体積変化及び、遊離酸形と負荷形との体積変化が大きく、機械的強度も充分ではないという欠点を有する。特に、架橋ゲルをクロマトグラフィーで使用する場合、通液時の圧力損失が大きく、通液によりゲルが圧密化するといった欠点がある。
【0004】
親水性天然高分子の架橋ゲルが持つ欠点を克服するため、いわば“骨格”となる剛直な物質と組み合わせる試みがこれまでになされている。
【0005】
例えば特許文献1では、多孔性高分子の細孔内に天然高分子ゲル等のゲルを保持した複合体を、ペプチド合成の分野で用いることにより、反応性物質の負荷係数を高め、高収率の合成ができることが開示されている。
しかも特許文献1では、硬質な合成高分子物質でゲルが包囲されるため、カラムベッドの形態で使用しても、容積変化がなく、カラムを通過するフロースルーの圧力が変化しないという効果が記載されている。
【0006】
特許文献2及び3では、セライト等の無機多孔質体にデキストラン、セルロースといった多糖等のキセロゲルを保持させた分離材が開示されている。このゲルには収着性能を付加するためにジエチルアミノメチル(DEAE)基等が付与されており、ヘモグロビンの除去に使用されている。その効果として、カラムでの通液性の良さが挙げられている。
【0007】
特許文献4では、いわゆるマクロネットワーク構造のコポリマの細孔を、モノマから合成した架橋共重合体のゲルで埋めたハイブリッドコポリマのイオン交換体が開示されている。架橋共重合体ゲルは、架橋度が低い場合、圧力損失、体積変化等に問題があるが、ハイブリッドコポリマにすることで通液特性が改善され、圧力損失が少なくなること、また、イオン交換容量が向上し、リーク挙動が改善されることが記載されている。
【0008】
有機合成ポリマ基体の細孔内に巨大網目構造を有する親水性天然高分子の架橋ゲルを充填した複合化充填材が提案されている(特許文献5及び6参照)。
【0009】
特許文献7ではメタクリル酸グリシジルとアクリル架橋モノマとの共重合により形成される多孔質粒子の合成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4965289号明細書
【特許文献2】米国特許第4335017号明細書
【特許文献3】米国特許第4336161号明細書
【特許文献4】米国特許第3966489号明細書
【特許文献5】特開平1−254247号公報
【特許文献6】米国特許第5114577号明細書
【特許文献7】特開2009−244067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のカラム充填材では、天然高分子の課題である通液性、耐久性、及びポリマ粒子の課題である耐アルカリ性、非特異吸着の低減、タンパク質吸着量が低い点等を十分なレベルで解決することは難しい。
【0012】
そこで、本発明は、通液性及び耐久性を確保し、かつ耐アルカリ性、タンパク質吸着量の向上、並びに非特異吸着の低減が可能な分離材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、下記[1]〜[11]に記載の分離材を提供する。
[1] モノマ単位としてスチレン系モノマを含む多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する、水酸基を有する高分子を含む被覆層と、を備え、破壊強度が10mN以上である分離材。
[2] 空隙率が40〜70%である[1]記載の分離材。
[3] 吸湿度が1〜30質量%である[1]又は[2]記載の分離材。
[4] 比表面積が30m/g以上である、[1]〜[3]のいずれかに記載の分離材。
[5] 多孔質ポリマ粒子が、モノマ単位として、ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含む、[1]〜[4]のいずれかに記載の分離材。
[6] 多孔質ポリマ粒子における粒径の変動係数が3〜15%である、[1]〜[5]のいずれかに記載の分離材。
[7] 水酸基を有する高分子が多糖類又はその変性体である、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離材。
[8] 水酸基を有する高分子がアガロース又はその変性体である、[1]〜[6]のいずれかに記載の分離材。
[9] 水酸基を有する高分子が架橋されている、[1]〜[8]のいずれかに記載の分離材。
[10] 多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgの被覆層を備える、[1]〜[9]のいずれかに記載の分離材。
[11] カラムに充填した場合、カラム圧0.3MPaのときに通液速度が800cm/h以上である、[1]〜[10]のいずれかに記載の分離材。
[12] カラムと、該カラムに充填された[1]〜[11]のいずれかに記載の分離材とを備える、分離用カラム。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、通液性及び耐久性を確保し、かつ耐アルカリ性、耐圧性及びタンパク質吸着量の向上、並びに非特異吸着の低減が可能な分離材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】分離用カラムの一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態について説明をするが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
<分離材>
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子と、該多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を備える。なお、本明細書中、「多孔質ポリマ粒子の表面」とは、多孔質ポリマ粒子の外側の表面のみでなく、多孔質ポリマ粒子の内部における細孔の表面を含むものとする。
【0018】
(多孔質ポリマ粒子)
本実施形態の多孔質ポリマ粒子は、多孔質化剤を含むモノマを硬化させた粒子であり、例えば、従来の懸濁重合、乳化重合等によって合成することができる。モノマとしては、特に限定されないが、例えば、スチレン系モノマを使用することができる。具体的なモノマとしては、以下のような多官能性モノマ、単官能性モノマ等が挙げられる。
【0019】
多官能性モノマとしては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン、ジビニルフェナントレン等のジビニル化合物が挙げられる。これらの多官能性モノマは、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。上記の中でも耐久性、耐酸性及び耐アルカリ性に優れることから、ジビニルベンゼンを使用することが好ましい。
【0020】
上記多孔質ポリマ粒子は、モノマ単位としてジビニルベンゼンを含む場合、ジビニルベンゼンを、モノマ全質量基準で50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。ジビニルベンゼンをモノマ全質量基準で50質量%以上含むことにより、耐アルカリ性及び耐圧性に優れる傾向にある。
【0021】
単官能性モノマとしては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、o−エチルスチレン、m−エチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン及びその誘導体が挙げられる。これらの単官能性モノマは、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、耐酸性及び耐アルカリ性に優れるという観点から、スチレンを使用することが好ましい。また、カルボキシ基、アミノ基、水酸基、アルデヒド基等の官能基を有するスチレン誘導体も使用することができる。
【0022】
多孔質化剤としては、重合時に相分離を促し、粒子の多孔質化を促進する有機溶媒である脂肪族又は芳香族の炭化水素類、エステル類、ケトン類、エーテル類、アルコール類等が挙げられる。具体的には、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、オクタン、酢酸ブチル、フタル酸ジブチル、メチルエチルケトン、ジブチルエーテル、1−ヘキサノール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等が挙げられる。これら多孔質化剤は、1種単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0023】
上記多孔質化剤は、モノマ全質量に対して0〜200質量%使用できる。多孔質化剤の量によって、多孔質ポリマ粒子の空隙率をコントロールできる。さらに、多孔質化剤の種類によって、多孔質ポリマ粒子の細孔の大きさ及び形状をコントロールすることができる。
【0024】
溶媒として使用する水を多孔質化剤とすることもできる。水を多孔質化剤とする場合は、モノマに油溶性界面活性剤を溶解させ、水を吸収することによって、多孔質化することが可能となる。
【0025】
多孔質化に使用される油溶性界面活性剤としては、分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のソルビタンモノエステル、例えば、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタンモノミリステート又はヤシ脂肪酸から誘導されるソルビタンモノエステル;分岐C16〜C24脂肪酸、鎖状不飽和C16〜C22脂肪酸又は鎖状飽和C12〜C14脂肪酸のジグリセロールモノエステル、例えば、ジグリセロールモノオレエート(例えば、C18:1(炭素数18個、二重結合数1個)脂肪酸のジグリセロールモノエステル)、ジグリセロールモノミリステート、ジグリセロールモノイソステアレート又はヤシ脂肪酸のジグリセロールモノエステル;分岐C16〜C24アルコール(例えば、ゲルベアルコール)、鎖状不飽和C16〜C22アルコール又は鎖状飽和C12〜C14アルコール(例えば、ヤシ脂肪アルコール)のジグリセロールモノ脂肪族エーテル;及びこれらの混合物が挙げられる。
【0026】
これらのうち、ソルビタンモノラウレート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)20好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノラウレート);ソルビタンモノオレエート(例えば、SPAN(スパン、登録商標)80、好ましくは純度約40%、より好ましくは純度約50%、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノオレエート);ジグリセロールモノオレエート(例えば、純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノオレエート);ジグリセロールモノイソステアレート(例えば、好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるジグリセロールモノイソステアレート);ジグリセロールモノミリステート(好ましくは純度約40%を超える、より好ましくは純度約50%を超える、最も好ましくは純度約70%を超えるソルビタンモノミリステート);ジグリセロールのココイル(例えば、ラウリル基、ミリストイル基等)エーテル;及びこれらの混合物が好ましい。
【0027】
これらの油溶性界面活性剤は、モノマ全質量に対して、5〜80質量%の範囲で用いることが好ましい。油溶性界面活性剤の含有量が5質量%以上であると、水滴の安定性が充分となることから、大きな単一孔を形成しやすくなる。また、油溶性界面活性剤の含有量が80質量%以下であると、重合後に多孔質ポリマ粒子が形状をより保持しやすくなる。
【0028】
重合反応に用いられる水性媒体としては、水、水と水溶性溶媒(例えば、低級アルコール)との混合媒体等が挙げられる。水性媒体には、界面活性剤が含まれていてもよい。界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系及び両性イオン系の界面活性剤のうち、いずれも用いることができる。
【0029】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウム、ヒマシ油カリ等の脂肪酸油、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルカンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のジアルキルスルホコハク酸塩、アルケルニルコハク酸塩(ジカリウム塩)、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられる。
【0030】
カチオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルアミンアセテート、ステアリルアミンアセテート等のアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0031】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールアルキルアリールエーテル類、ポリエチレングリコールエステル類、ポリエチレングリコールソルビタンエステル類、ポリアルキレングリコールアルキルアミン又はアミド類等の炭化水素系ノニオン界面活性剤、シリコンのポリエチレンオキサイド付加物類、ポリプロピレンオキサイド付加物類等のポリエーテル変性シリコン系ノニオン界面活性剤、パーフルオロアルキルグリコール類等のフッ素系ノニオン界面活性剤が挙げられる。
【0032】
両性イオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリルジメチルアミンオキサイド等の炭化水素界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤、亜リン酸エステル系界面活性剤が挙げられる。
【0033】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記界面活性剤の中でも、モノマ重合時の分散安定性の観点から、アニオン系界面活性剤が好ましい。
【0034】
必要に応じて添加される重合開始剤としては、例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、オルソクロロ過酸化ベンゾイル、オルソメトキシ過酸化ベンゾイル、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系化合物が挙げられる。重合開始剤は、モノマ100質量部に対して、0.1〜7.0質量部の範囲で使用することができる。
【0035】
重合温度は、モノマ及び重合開始剤の種類に応じて、適宜選択することができる。重合温度は、25〜110℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。
【0036】
多孔質ポリマ粒子の合成において、粒子の分散安定性を向上させるために、高分子分散安定剤を用いてもよい。
【0037】
高分子分散安定剤としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリカルボン酸、セルロース類(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等)、ポリビニルピロリドンが挙げられ、トリポリリン酸ナトリウム等の無機系水溶性高分子化合物も併用することができる。これらのうち、ポリビニルアルコール又はポリビニルピロリドンが好ましい。高分子分散安定剤の添加量は、モノマ100質量部に対して1〜10質量部が好ましい。
【0038】
モノマが単独で重合することを抑えるために、亜硝酸塩類、亜硫酸塩類、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、水溶性ビタミンB類、クエン酸、ポリフェノール類等の水溶性の重合禁止剤を用いてもよい。
【0039】
多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、好ましくは300μm以下、より好ましくは150μm以下、さらに好ましくは100μm以下である。また、多孔質ポリマ粒子の平均粒径は、通液性の向上の観点から、好ましくは10μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。
【0040】
多孔質ポリマ粒子の粒径の変動係数(C.V.)は、通液性の向上の観点から、3〜15%であることが好ましく、5〜15%であることがより好ましく、5〜10%であることがさらに好ましい。C.V.を低減する方法としては、マイクロプロセスサーバー(株式会社日立製作所製)等の乳化装置により単分散化することが挙げられる。
【0041】
多孔質ポリマ粒子又は分離材の平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)は、以下の測定法により求めることができる。
1)粒子を、超音波分散装置を使用して水(界面活性剤等の分散剤を含む)に分散させ、1質量%の多孔質ポリマ粒子を含む分散液を調製する。
2)粒度分布計(シスメックスフロー、シスメックス株式会社製)を用いて、上記分散液中の粒子約1万個の画像により平均粒径及び粒径のC.V.(変動係数)を測定する。
【0042】
多孔質ポリマ粒子の細孔容積(空隙率)は、多孔質ポリマ粒子の全体積(細孔容積を含む)基準で30体積%以上70体積%以下であることが好ましく、40体積%以上70体積%以下であることがより好ましい。多孔質ポリマ粒子は、細孔径が0.1μm以上0.5μm未満である細孔、すなわちマクロポアー(マクロ孔)を有することが好ましい。多孔質ポリマ粒子の細孔径分布におけるモード径(細孔径分布の最頻値、最大頻度細孔径、平均細孔径)として、好ましくは0.1μm以上0.5μm未満であり、より好ましくは0.2μm以上0.5μm未満である。細孔径分布におけるモード径が0.1μm以上であると、細孔内に物質が入りやすくなる傾向にあり、細孔径分布におけるモード径が0.5μm未満であると、比表面積が充分なものになる。これらは上述の多孔質化剤により調整可能である。
【0043】
多孔質ポリマ粒子の比表面積は、30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。多孔質ポリマ粒子の比表面積の上限は特に限定されないが、例えば200m/g以下、100m/g以下とすることができる。
【0044】
(被覆層)
本実施形態の被覆層は、水酸基を有する高分子を含む。水酸基を有する高分子で多孔質ポリマ粒子を被覆することによりカラム圧の上昇を抑制することができるとともに、タンパク質の非特異吸着を抑制することが可能となる上、分離材のタンパク質吸着量が良好となる傾向にある。さらに、水酸基を有する高分子が架橋されていると、カラム圧の上昇をより抑制することが可能となる。
【0045】
(水酸基を有する高分子)
水酸基を有する高分子は、1分子中に2個以上の水酸基を有することが好ましく、親水性高分子であることがより好ましい。水酸基を有する高分子としては、例えば、多糖類、ポリビニルアルコール等が挙げられる。多糖類としては、好ましくはアガロース、デキストラン、セルロース、キトサン等が挙げられる。水酸基を有する高分子としては、例えば重量平均分子量1万〜20万程度のものが使用できる。
【0046】
水酸基を有する高分子は、界面吸着能を向上させる観点から、疎水基により変性された変性体であることが好ましい。疎水基としては、例えば、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基等が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等が挙げられる。炭素数6〜10のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。疎水基は、水酸基と反応する官能基(例えば、エポキシ基)及び疎水基を有する化合物(例えば、グリシジルフェニルエーテル)を、水酸基を有する高分子と従来公知の方法で反応させることにより、導入することができる。
【0047】
(被覆層の形成方法)
水酸基を有する高分子を含む被覆層は、例えば、以下に示す方法により形成することができる。
まず、水酸基を有する高分子の溶液を多孔質ポリマ粒子表面に吸着させる。水酸基を有する高分子の溶液の溶媒としては、水酸基を有する高分子を溶解することのできるものであれば、特に限定されないが、水が最も一般的である。溶媒に溶解させる高分子の濃度は、5〜20(mg/mL)が好ましい。
この溶液を、多孔質ポリマ粒子に含浸させる。含浸方法は、水酸基を有する高分子の溶液に多孔質ポリマ粒子を加えて一定時間放置する。含浸時間は多孔質体の表面状態によっても変わるが、通常一昼夜含浸すれば高分子濃度が多孔質体の内部で外部濃度と平衡状態となる。その後、水、アルコール等の溶媒で洗浄し、未吸着分の水酸基を有する高分子を除去する。
【0048】
(架橋処理)
次いで、架橋剤を加えて多孔質ポリマ粒子表面に吸着された水酸基を有する高分子を架橋反応させて、架橋体を形成する。このとき、架橋体は、水酸基を有する3次元架橋網目構造を有する。
【0049】
架橋剤としては、例えばエピクロルヒドリン等のエピハロヒドリン、グルタルアルデヒド等のジアルデヒド化合物、メチレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル等のグリシジル化合物などのような水酸基に活性な官能基を2個以上有する化合物が挙げられる。また、水酸基を有する高分子としてキトサンのようなアミノ基を有する化合物を使用する場合には、ジクロロオクタンのようなジハライドも架橋剤として使用できる。
【0050】
この架橋反応には通常、触媒が用いられる。該触媒は架橋剤の種類に合わせて適宜従来公知のものを用いることができるが、例えば、架橋剤がエピクロルヒドリン等の場合には水酸化ナトリウム等のアルカリが有効であり、ジアルデヒド化合物の場合には塩酸等の鉱酸が有効である。
【0051】
架橋剤による架橋反応は、通常、分離材を適当な媒体中に分散、懸濁させた系に架橋剤を添加することによって行われる。架橋剤の添加量は、水酸基を有する高分子として多糖類を使用した場合、単糖類の1単位を1モルとすると、それに対して例えば0.1〜100モル倍の範囲内で、分離材の性能に応じて選定することができる。一般に、架橋剤の添加量を少なくすると、被覆層が多孔質ポリマ粒子から剥離しやすくなる傾向にある。また、架橋剤の添加量が過剰で、かつ、水酸基を有する高分子との反応率が高い場合、原料の水酸基を有する高分子の特性が損なわれる傾向にある。
【0052】
触媒の使用量としては、架橋剤の種類により異なるが、通常、水酸基を有する高分子として多糖類を使用する場合に、多糖類を形成する単糖類の1単位を1モルとすると、これに対して好ましくは0.01〜10モル倍の範囲、さらに好ましくは0.1〜5モル倍で使用される。
【0053】
例えば、該架橋反応条件を温度条件とした場合、反応系の温度を上げ、その温度が反応温度に達すれば架橋反応が生起する。
【0054】
水酸基を有する高分子の溶液等を含浸させた多孔質ポリマ粒子を分散、懸濁させる媒体としては含浸させた高分子溶液から高分子、架橋剤等を抽出してしまうことなく、かつ、架橋反応に不活性なものである必要がある。その具体例としては水、アルコール等が挙げられる。
【0055】
架橋反応は、通常、5〜90℃の範囲の温度で、1〜10時間かけて行う。好ましくは、30〜90℃の範囲の温度である。
【0056】
架橋反応終了後、生成した粒子をろ別し、次いで水、メタノール、エタノール等の親水性有機溶媒で洗浄し、未反応の高分子、懸濁用媒体等を除去すれば、多孔質ポリマ粒子の表面の少なくとも一部が、水酸基を有する高分子を含む被覆層により被覆された分離材が得られる。本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子1g当たり30〜400mgの被覆層を備えると好ましい。被覆層の量は熱分解の重量減少等で測定することができる。
【0057】
(イオン交換基の導入)
被覆層を備える分離材は、イオン交換基、リガンド(プロテインA)等を表面上の水酸基等を介して導入することによりイオン交換精製、アフィニティ精製等に使用することができる。イオン交換基の導入方法として、例えば、ハロゲン化アルキル化合物を用いる方法が挙げられる。
【0058】
ハロゲン化アルキル化合物としては、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸及びそのナトリウム塩、ジエチルアミノエチルクロライド等のハロゲン化アルキル基を少なくとも1つ有する1級、2級又は3級アミン、ハロゲン化アルキル基を有する4級アンモニウムの塩酸塩などが挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物は、臭化物又は塩化物であることが好ましい。ハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、イオン交換基を付与する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0059】
イオン交換基の導入には、反応を促進させるために、有機溶媒を用いることが有効である。有機溶媒としては、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、1−ペンタノール、イソペンタノール等のアルコール類が挙げられる。
【0060】
通常、イオン交換基の導入は、分離材表面の水酸基に行われるので、湿潤状態の粒子を、ろ過等により水切りした後、所定濃度のアルカリ性水溶液に浸漬し、一定時間放置した後、水−有機溶媒混合系で、上記ハロゲン化アルキル化合物を添加して反応させる。この反応は温度40〜90℃で、0.5〜12時間行うことが好ましい。上記の反応で使用されるハロゲン化アルキル化合物の種類により、付与されるイオン交換基が決定される。
【0061】
イオン交換基として、弱塩基性基であるアミノ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物のうち、水素原子の一部が塩素原子に置換されたアルキル基を少なくとも1つ有する、モノ−、ジ−又はトリ−アルキルアミン、モノ−、ジ−又はトリ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、ジ−アルキル−モノ−アルカノールアミン、モノ−アルキル−ジ−アルカノールアミン等を反応させる方法が挙げられる。これらのハロゲン化アルキル化合物の使用量としては、分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。反応条件は、40〜90℃で、0.5〜12時間であることが好ましい。
【0062】
イオン交換基として、強塩基性基の4級アンモニウム基を導入する方法としては、まず、3級アミノ基を導入し、該3級アミノ基にエピクロルヒドリン等のハロゲン化アルキル化合物を反応させ、4級アンモニウム基に変換させる方法が挙げられる。また、4級アンモニウムの塩酸塩等を分離材に反応させてもよい。
【0063】
イオン交換基として、弱酸性基であるカルボキシ基を導入する方法としては、上記ハロゲン化アルキル化合物として、モノハロゲノ酢酸、モノハロゲノプロピオン酸等のモノハロゲノカルボン酸又はそのナトリウム塩を反応させる方法が挙げられる。これらハロゲン化アルキル化合物の使用量は、イオン交換基を導入する分離材の全質量に対して0.2質量%以上であることが好ましい。
【0064】
イオン交換基として、強酸性基であるスルホン酸基の導入方法としては、分離材に対してエピクロロヒドリン等のグリシジル化合物を反応させ、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸塩又は重亜硫酸塩の飽和水溶液に分離材を添加する方法が挙げられる。反応条件は、30〜90℃で1〜10時間であることが好ましい。
【0065】
一方、イオン交換基の導入方法として、アルカリ性雰囲気下で、分離材に1,3−プロパンスルトンを反応させる方法も挙げられる。1,3−プロパンスルトンは、分離材の全質量に対して0.4質量%以上使用することが好ましい。反応条件は、0〜90℃で0.5〜12時間であることが好ましい。
【0066】
本実施形態の分離材の吸湿度は、次の方法で測定する。乾燥分離材1gを恒温恒湿度試験槽(温度60℃、湿度90%)に18時間放置した後、再度分離材の質量を測定することにより吸湿度を以下の式より算出する。
(吸湿後分離材質量−1)g/1g×100=吸湿度(%)
【0067】
本実施形態の分離材の吸湿度は1〜30質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがより好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましい。分離材の吸湿度が30%質量以下であると、被覆層の厚みによる分離材の通液性の低下を抑制することができる。
【0068】
本実施形態の分離材又は多孔質ポリマ粒子の平均細孔径、細孔径分布におけるモード径、比表面積及び空隙率は、水銀圧入測定装置(オートポア:株式会社島津製作所製)にて測定した値であり、以下のようにして測定する。試料0.05gを、標準5mL粉体用セル(ステム容積0.4mL)に加え、初期圧21kPa(約3psia、細孔直径約60μm相当)の条件で測定する。水銀パラメータは、装置デフォルトの水銀接触角130degrees、水銀表面張力485dynes/cmに設定する。また、細孔径0.1〜3μmの範囲に限定してそれぞれの値を算出する。
【0069】
本実施形態の分離材の細孔径分布におけるモード径(細孔径分布の最頻値、最大頻度細孔径、平均細孔径)は0.05〜0.5μmであることが好ましく、0.1〜0.5μmであることがより好ましい。細孔径分布におけるモード径がこの範囲にあると、粒子中に液が流れ易くなり、動的吸着量を多くすることができる。
【0070】
本実施形態の分離材の比表面積は、30m/g以上であることが好ましい。より高い実用性の観点から、比表面積は35m/g以上であることがより好ましく、40m/g以上であることがさらに好ましい。比表面積が30m/g以上であると、分離する物質の吸着量が大きくなる傾向にある。分離材の比表面積の上限は特に限定されないが、例えば300m/g以下とすることができる。
【0071】
本実施形態の分離材の空隙率(細孔容積)は、分離材の全体積(細孔容積を含む)基準で40〜70%であることが好ましい。空隙率がこの範囲にあると、蛋白質吸着量を多くすることができる。
【0072】
本実施形態の分離材は、タンパク質を静電的相互作用による分離、アフィニティ精製に用いるのに好適である。例えば、タンパク質を含む混合溶液の中に本実施形態の分離材を添加し、静電的相互作用によりタンパク質だけを分離材に吸着させた後、該分離材を溶液からろ別し、塩濃度の高い水溶液中に添加すれば、分離材に吸着しているタンパク質を容易に脱離、回収できる。また、本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーにおいて、使用することも可能である。図1に分離用カラムの一実施形態を示す。分離用カラム10は、カラム1と、カラム1に充填された分離材2とを備える。
【0073】
本実施形態の分離材を用いて分離できる生体高分子としては、水溶性物質が好ましい。具体的には、血清アルブミン、免疫グロブリン等の血液タンパク質などのタンパク質、生体中に存在する酵素、バイオテクノロジーにより生産されるタンパク質生理活性物質、DNA、生理活性をするペプチド等の生体高分子などであり、好ましくは重量平均分子量が200万以下、より好ましくは50万以下である。また、公知の方法に従い、タンパク質の等電点、イオン化状態等によって、分離材の性質、条件等を選ぶ必要がある。公知の方法としては、例えば、特開昭60−169427号公報等に記載の方法が挙げられる。
【0074】
本実施形態の分離材は、多孔質ポリマ粒子上の被覆層を架橋処理後、分離材の表面にイオン交換基、プロテインA等を導入することにより、タンパク質等の生体高分子の分離において、天然高分子からなる粒子又は合成ポリマからなる粒子のそれぞれの利点を有する。特に本実施形態の分離材における多孔質ポリマ粒子は、上述の方法で得られるものであるため、耐久性及び耐アルカリ性を有する。また、本実施形態の分離材は、タンパク質の非特異吸着を低減し、タンパク質の吸脱着が起こりやすい傾向にある。さらに、本実施形態の分離材は、同一流速下でのタンパク質等の吸着量(動的吸着量)が大きい傾向にある。
【0075】
本明細書における通液速度とは、φ7.8×300mmのステンレスカラムに本実施形態の分離材を充填し、液を通した際の通液速度を表す。本実施形態の分離材は、カラムに充填した場合、カラム圧0.3MPaのときに通液速度が800cm/h以上であることが好ましい。カラムクロマトグラフィーでタンパク質の分離を行う場合、タンパク質溶液等の通液速度としては、一般に400cm/h以下の範囲であるが、本実施形態の分離材を使用した場合は、通常のタンパク質分離用の分離材よりも速い通液速度800cm/h以上で使用することができる。
【0076】
本実施形態の分離材の平均粒径は、10〜300μmであることが好ましい。分取用又は工業用のクロマトグラフィーでの使用には、カラム内圧の極端な増加を避けるために、10〜100μmであることが好ましい。
【0077】
本実施形態の分離材は、カラムクロマトグラフィーでカラム充填材として使用した場合、使用する溶出液の性質によらず、カラム内での体積変化がほとんどないため、操作性に優れる。
【0078】
本実施形態の分離材の破壊強度は、以下のようにして算出することができる。
微小圧縮試験機(Fisher社製)を用いて、室温条件にて荷重負荷速度1mN/秒で、四角柱の平滑な端面(50μm×50μm)により粒子を50mNまで圧縮したときの荷重及び圧縮変位を測定する。上記測定中の変位量が最も大きく変化する点の荷重を破壊強度(mN)とする。
【0079】
本実施形態の分離材の破壊強度は、耐久性に優れる点から、10mN以上であり、15mN以上であることが好ましい。分離材の破壊強度の上限は特に限定されないが、例えば500mN以下とすることができる。
【0080】
分離材の破壊強度、平均細孔径、細孔径分布におけるモード径、比表面積等は、多孔質ポリマ粒子の原料、多孔質化剤、水酸基を有する高分子等を適宜選択することによって、調整することができる。
【0081】
なお、本実施形態では、イオン交換基を導入する形態の分離材について説明したが、イオン交換基を導入しなくても分離材として用いることができる。このような分離材は、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィーに利用することができる。すなわち、本実施形態の分離用カラムは、カラムと該カラムに充填された本実施形態の分離材とを備えるものである。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0083】
(実施例1)
<多孔質ポリマ粒子1の合成>
500mLの三口フラスコに、純度96%のジビニルベンゼン(DVB960、新日鉄住金化学株式会社)を16g、スパン80を6g、及び過酸化ベンゾイルを0.64g加え、ポリビニルアルコール(0.5質量%)水溶液を調製した。この水溶液をマイクロプロセスサーバーを使用して乳化後、得られた乳化液をフラスコに移し、80℃のウォーターバスで加熱しながら、攪拌機を用いて約8時間撹拌をした。得られた粒子をろ過後、アセトン洗浄を行い、多孔質ポリマ粒子1を得た。得られた粒子の粒径をフロー型粒径測定装置で測定し、平均粒径及び粒径のC.V.値を算出した。その結果を表1に示す。
【0084】
<被覆層の形成及び架橋>
アガロース水溶液(2質量%)100mLに水酸化ナトリウム4g、及びグリシジルフェニルエーテル0.4gを加え、70℃で12時間反応させ、アガロースにフェニル基を導入した。得られた変性アガロースをイソプロピルアルコールで3回再沈殿させ、洗浄した。
20mg/mLの変性アガロース水溶液700mLに多孔質ポリマ粒子1を10gの割合で投入し、55℃で24時間攪拌させ、多孔質ポリマ粒子1に変性アガロースを吸着させた。吸着後、ろ過を行い、熱水で洗浄した。変性アガロースの吸着量(被覆量)は、乾燥させた粒子の熱重量減少を測定することにより算出した。その結果を表2に示す。
粒子に吸着したアガロースは次のようにして架橋した。10gの粒子を分散させた0.4M水酸化ナトリウム水溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテルを39g添加し、24時間30℃にて攪拌した。その後、2質量%の熱したドデシル硫酸ナトリウム水溶液で洗浄後、純水で洗浄し、分離材を得た。分離材は水中で保管した。
【0085】
(タンパク質の非特異吸着能評価)
得られた分離材をBSA(Bovine Serum Albumin)濃度20mg/mLのリン酸緩衝液(pH7.4)50mLに0.5g投入し、24時間室温で攪拌を行った。その後、遠心分離で上澄みをとった後、分光光度計でろ液のBSA濃度を測定した。分離材に吸着したBSA量を非特異吸着量として算出した。BSAの濃度は分光光度計により280nmの吸光度から確認した。その結果を表3に示す。
【0086】
<イオン交換基の導入>
得られた分離材分散液から、遠心分離により水を除去した後、分離材20gを、ジエチルアミノエチルクロライド塩酸塩を所定量溶解させた水溶液100mLに分散させ、70℃で10分攪拌した。その後、70℃に加温した5MNaOH水溶液100mLを添加し、1時間反応させた。反応終了後、ろ過、水/エタノール(体積比8/2)で2回洗浄し、ジエチルアミノエチル(DEAE)基をイオン交換基として有するDEAE変性分離材を得た。得られたDEAE変性分離材の細孔径分布におけるモード径、比表面積、ポロシティ(空隙率)を水銀圧入法にて測定した。また、微小圧縮試験により破壊強度を測定した。その結果を表2に示す。
【0087】
DEAE変性分離材のイオン交換容量を以下のように測定した。5mL容量の分離材を、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液20mLに1時間浸漬し、室温で攪拌した。その後、洗浄液として用いた水のpHが7以下となるまで洗浄を行った。洗浄した分離材を0.1Nの塩酸20mLに浸漬し、1時間攪拌させた。分離材をろ過で取り除いた後、ろ液の塩酸水溶液を中和滴定することによって、分離材のイオン交換容量を測定した。結果を表2に示す。
【0088】
(カラム特性評価)
得られたDEAE変性分離材をφ7.8×300mmのステンレスカラムに濃度30質量%のスラリー(溶媒:メタノール)として15分かけて充填した。その後、カラムに流速を変えながら水を流し、流速とカラム圧の関係を測定し、0.3MPa時の通液速度(線流速)を測定した。その結果を表2に示す。
動的吸着量は以下のようにして測定した。20mmol/L Tris−塩酸緩衝液(pH8.0)をカラムに10カラム容量流した。その後BSA濃度2mg/mLの20mmol/LのTris−塩酸緩衝液を流し、UVによりカラム出口でのBSA濃度を測定した。カラム入口と出口のBSA濃度が一致するまで緩衝液を流し、5カラム容量分の1M NaCl Tris−塩酸緩衝液で希釈した。10%breakthroughにおける動的結合容量(動的吸着量)は以下の式を用いて算出した。
10=cF(t10−t)/V
10:10%breakthroughにおける動的結合容量(mg/mL wet resin)
cf:注入しているBSA濃度(mg/mL)
F:流速(mL/min)
:ベッド体積(mL)
10:10%breakthroughにおける時間(min)
:BSA注入開始時間(min)
【0089】
(耐アルカリ性評価)
得られたDEAE変性分離材を0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液中で24時間撹拌し、リン酸緩衝液で洗浄後、カラム特性評価と同様の条件にて充填した。BSAの10%breakthrough動的吸着量を測定し、アルカリ処理前の動的吸着量と比較した。動的吸着量の減少率が3%以下であるものを「A」、3%超20%以下であるものを「B」、20%超であるものを「C」とした。結果を表3に示す。
【0090】
(耐久性評価)
800cm/hの流速で水をカラムに流し、カラム圧を測定後、3000cm/hに流速を上昇させ、1時間通液させた。再度800cm/hにカラム圧を下げた際に、カラム圧が初期値(3000cm/hに流速を上げる前)より10%以上上昇した場合を「B」、10%未満である場合を「A」とした。
【0091】
(実施例2)
スパン80の使用量を8gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子2を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子2を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材及びDEAE変性分離材を得た。分離材及びDEAE変性分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0092】
(実施例3)
スパン80の使用量を9gに変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子3を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子3を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材及びDEAE変性分離材を得た。分離材及びDEAE変性分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0093】
(実施例4)
ジビニルベンゼン(16g)を、ジビニルベンゼン(14g)及びオクタノール(2g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子4を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子4を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材及びDEAE変性分離材を得た。分離材及びDEAE変性分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0094】
(実施例5)
ジビニルベンゼン(16g)及びスパン80(6g)を、ジビニルベンゼン(14g)、オクタノール(5g)及びスパン80(3g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子5を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子5を、多孔質ポリマ粒子1と同様の方法で処理することによって、分離材及びDEAE変性分離材を得た。分離材及びDEAE変性分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0095】
(比較例1)
ジビニルベンゼン(16g)を、ジビニルベンゼン(4g)及びジヒドロキシプロピルメタクリレート(8g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子6を合成した。得られた多孔質ポリマ粒子6を、被覆層を形成せずにDEAE変性することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0096】
(比較例2)
市販のアガロース粒子(Capto DEAE:GEヘルスケア)をそのまま分離材(多孔質ポリマ粒子7)として用いた。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0097】
(比較例3)
ジビニルベンゼン(16g)及びスパン80(6g)を、2,3−ジヒドロキシプロピルメタクリレート(11.2g)、エチレングリコールジメタクリレート(4.8g)及びスパン80(5g)に変更した以外は、多孔質ポリマ粒子1の合成と同様にして、多孔質ポリマ粒子8を合成した。洗浄後の多孔質ポリマ粒子8(4g)を、デキストラン(分子量15万)1g、水酸化ナトリウム0.6g及び水素化ホウ素ナトリウム0.15gを蒸留水に溶解させた溶液6gに加えて、多孔質ポリマ粒子8の細孔内に含浸させた。得られたデキストラン溶液含浸重合体を、1質量%エチルセルローストルエン溶液1Lに加えて撹拌し、分散、懸濁せしめた。得られた懸濁液中に、エピクロルヒドリン5mLを加えて50℃に昇温し、この温度で6時間撹拌して、多孔質ポリマ粒子8の細孔内に含浸されているデキストランを架橋反応させた。反応終了後、懸濁液をろ過して生成ゲル状物を分離し、トルエン、エタノール、蒸留水で順次洗浄することによって、分離材を得た。分離材について、実施例1と同様の評価を行った。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
表1〜3から明らかであるとおり、破壊強度を10mN以上とした実施例のDEAE変性分離材では、0.3MPa時の通液速度が非常に速く、粒子への非特異吸着が少ないことが分かった。また、実施例のDEAE変性分離材では、動的吸着量は800cm/hでも高い値を保つことが分かった。実施例のDEAE変性分離材では耐アルカリ性が改善され、動的吸着量がアルカリ処理前後で大きく変化しないことが分かった。
【符号の説明】
【0102】
1…カラム、2…分離材、10…分離用カラム。
図1