(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6790880
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】金属酸化物の粉体中の異物の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/2252 20180101AFI20201116BHJP
G01N 23/203 20060101ALI20201116BHJP
G01N 23/2206 20180101ALI20201116BHJP
【FI】
G01N23/2252
G01N23/203
G01N23/2206
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-17870(P2017-17870)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-173301(P2017-173301A)
(43)【公開日】2017年9月28日
【審査請求日】2019年9月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-56994(P2016-56994)
(32)【優先日】2016年3月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】中村 公二
【審査官】
越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−040724(JP,A)
【文献】
特開2005−114699(JP,A)
【文献】
特開2015−114241(JP,A)
【文献】
特開2014−181951(JP,A)
【文献】
特表2016−505848(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0001356(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00−23/2276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物の粉体中に含まれた異物を、分析する方法であって、
全自動鉱物分析装置(MLA)を用いて、
前記金属酸化物の粉体の試料の反射電子(BSE)像を取得する工程と、
前記反射電子(BSE)像を画像解析して、前記金属酸化物の粒子と、前記異物の粒子とを判別し、前記判別された異物の粒子の位置情報を取得する工程と、
前記異物の粒子の位置情報に対応する位置におけるエネルギー分散X線スペクトル(EDS)を取得する工程と、
前記取得したエネルギー分散X線スペクトル(EDS)から、前記異物を分析する工程と、を有することを特徴とする金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法。
【請求項2】
前記反射電子(BSE)像を、諧調処理して画像解析結果を得、得られた画像解析結果へ前記金属酸化物の粒子と前記異物の粒子とのグレイレベルの閾値を当て嵌めて、前記金属酸化物の粒子と前記異物の粒子とを判別することを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法。
【請求項3】
前記異物は、金属であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物の粉体中に含まれた異物を分析する方法であり、特に、当該異物が金属である場合に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩等の金属化合物の製造において、これらの化合物中に異物として金属または金属化合物が混入する場合がある。この混入する金属または金属化合物は製造装置由来の場合、原料由来の場合、試薬由来の場合あるが、混入した異物を特定しその発生原因を把握することは、品質管理上重要である。
【0003】
炭酸塩中に混在するニッケル塩、金属ニッケル、酸化ニッケルのニッケル種を分離して分析する方法が特許文献1に開示されており、当該分析方法によれば、金属形態である異物となる不純物を選択的に溶解する臭素メタノール溶液を用いることで、試料中の異物となる金属不純物を定量している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−221726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示された方法では、臭素メタノールを用いて分離操作を行っているが、金属酸化物、金属硫化物、金属炭酸塩等の金属化合物中の金属を定量する際には、適宜試薬を選定する必要があり、その選定作業には時間と労力を要する。
【0006】
本発明は上述の状況の下でなされたものであり、その解決しようとする課題は、時間と労力が節約された金属酸化物粉体中の異物、特に当該異物が金属である場合の分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここで、上述の課題を解決するため本発明者らは研究を行い、全自動鉱物分析装置(Mineral Liberation Analyzer、本発明において「MLA」と記載する場合がある。)を適用することに想到した。
MLAは、鉱物粒子等の無機化合物粒子の同定を行う分析装置であって、エネルギー分散型X線分析器(本発明において「EDX」と記載する場合がある。)が備えられた走査電子顕微鏡(本発明において「SEM」と記載する場合がある。)がプラットフォームとなっている。そして、当該SEM・EDXを自動制御し、画像処理やスペクトルマッチングを行い、鉱物粒子等の無機化合物粒子の同定操作を実施する制御PCを備えた分析装置である。
【0008】
MLAの測定原理について簡単に説明する。
MLAでは、測定対象の粒子と樹脂とが混合して固結した試料へ研磨を施し、得られた研磨面に対して測定を行う。MLAの測定では、まず研磨面へ電子線を照射して反射電子像(本発明において「BSE像」と記載する場合がある。)を取得し、当該研磨面に現れた鉱物粒子等の無機化合物粒子の位置、大きさ、研磨面形状のデータを取得する。次に、当該粒子のエネルギー分散X線スペクトル(本発明において「EDS」と記載する場合がある。)を取得する。そして、研磨面に現れた各粒子に対して、これらのデータ取得を自動測定で順番に行うものである。
【0009】
MLAを用いた無機化合物粒子の同定方法においては、無機化合物粒子を構成する元素の情報を取得して同定を行う。このため、当該MLAを用い、予め各種の無機化合物粒子の元素情報が網羅されたデータベースを活用してスペクトルマッチングすることで、簡便に粒子を解析して同定することが可能である。さらに、当該MLAでは、被測定対象粒子の元素情報を取得して分析を行うことから、予め測定対象元素を絞り、特性X線強度により被測定対象鉱物粒子を抽出するフィルタリング機能を用いて測定することも好ましい。この結果、被測定対象において微量存在している所定元素を含有している粒子を、効率よく抽出して分析することができる。
MLAでは、100万個あるいは10億個といった極めて多数の粒子を対象に、これらの作業を自動で分析作業を実行させることが可能な為、作業が開始されれば、人的な工数は殆ど不要となり、金属酸化物粒子試料中にある異物金属粒子の分析を完了してしまうことが可能となった。
【0010】
次に、上述したMLAを用いて、金属酸化物の粉体中に含まれた異物を分析する本発明について説明する。
【0011】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
金属酸化物の粉体中に含まれた異物を、分析する方法であって、
全自動鉱物分析装置(MLA)を用いて、
前記金属酸化物の粉体の試料の反射電子(BSE)像を取得する工程と、
前記反射電子(BSE)像を画像解析して、前記金属酸化物の粒子と、前記異物の粒子とを判別し、前記判別された異物の粒子の位置情報を取得する工程と、
前記異物の粒子の位置情報に対応する位置におけるエネルギー分散X線スペクトル(EDS)を取得する工程と、
前記取得したエネルギー分散X線スペクトル(EDS)から、前記異物を分析する工程と、を有することを特徴とする金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法である。
第2の発明は、
前記反射電子(BSE)像を
、諧調処理して画像解析結果を得、得られた画像解析結果へ前記金属酸化物の粒子と前記異物の粒子とのグレイレベルの閾値を当て嵌めて、前記金属酸化物の粒子と前記異物の粒子とを判別することを特徴とする金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法である。
第3の発明は、
前記異物は、金属であることを特徴とする金属酸化物の粉体中に含まれた異物の分析方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属酸化物の粉体中に含まれた異物を、多大な人的工数をかけることなく、分析することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】金属粒子が混入している金属酸化物の粉体のBSE像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、MLAを用いて、金属酸化物の粉体中に含まれた異物を分析する工程について、(1)粉体試料のBSE像を取得する工程、(2)BSE像を画像解析して、金属酸化物と異物とを判別し、判別された異物の位置情報を取得する工程、(3)異物の位置情報に対応する位置におけるEDSを取得する工程、(4)取得したEDSから異物粒子を分析する工程、の順で詳細に説明する。
【0015】
(1)粉体試料のBSE像を取得する工程
異物の粒子を含んでいる可能性のある金属酸化物の粉体を適宜な樹脂と混合し、当該金属酸化物の粉体を包埋固結し、包埋固結体を得る。次に、当該包埋固結体へ、粗研磨、中間研、さらに鏡面研磨を行い、固結した金属酸化物粉体試料を得る。当該鏡面研磨を行った固結した金属酸化物粉体試料をMLA内に設置し、研磨面に露出している粒子に対し、SEMを用いてBSE像を取得する。
【0016】
(2)BSE像を画像解析して、金属酸化物と異物とを判別し、判別された異物の位置情報を取得する工程
上述した(1)にて取得されたBSE像を画像解析し、金属酸化物と前記異物とを判別する。尚、この判別には、金属酸化物の粒子と、異物である金属粒子との間に、BSE像における明確な輝度差があることを利用している。即ち、当該BSE像において、金属酸化物の粒子は暗く写り、異物である金属粒子は明るく写る。
具体的には、BSE像の画像解析において、諧調処理を行う。例えば、256階調の諧調処理されたBSE像の画像解析結果において、金属酸化物の粒子と異物である金属粒子との諧調レベルを比較すると、金属酸化物の粒子は金属粒子より0階調に近い値となり、金属粒子は金属粒子酸化物粒子より256階調に近い値となる。ここで、金属酸化物粒子と金属粒子とを切り分けるグレイレベルの閾値を適宜に設定する。
【0017】
上述した諧調処理されたBSE像の画像解析結果に、グレイレベルの閾値を当て嵌め、金属酸化物の粒子と異物の粒子とを判別することができる。
ここで、BSE像の画像解析例として、閾値を設定して金属酸化物と異物金属とを判別可能とした、後述する実施例1に係る画像を
図1に示す。
図1で示されたBSE像の画像解析結果において、灰色で示される領域が金属酸化物であり、白色で示される領域が金属、即ち異物である。従って、金属酸化物微粒子と金属である異物微粒子とが判別できることがわかる。
【0018】
(3)異物金属粒子の位置情報に対応する位置におけるEDSを取得する工程
上述した画像解析においては、ピクセルに対応した異物金属粒子の位置情報が得られることから、閾値の設定により判別された異物金属粒子について位置情報が得られる。また、画像解析結果としては粒子の大きさ、形状および個数の情報も得られる。
【0019】
(4)取得したEDSから異物粒子を分析する工程
上述した異物金属に係る位置情報に対応するピクセルから、EDSを取得する。
当該取得されたEDSから、当該異物粒子を分析する。具体的には、取得されたEDSスペクトルは、予め作成されMLAに搭載されたデータリスト中のEDSと照合される。そして、取得されたEDSのピークに対応する元素が特定される。当該EDSのピークは、実質上、異物金属に含有されている重金属の種類に対応して出現する。従って、各ピクセルに対応して、存在している重金属元素が特定され、ピーク強度から重金属の種類を同定することが可能となる。
【0020】
また、上述した画像解析の結果である粒子の個数に関する情報と、当該重金属の種類の同定結果とから、異物金属の種類毎(含有する金属の種類毎)における粒子の個数を得ることができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
異物である金属粒子が混入している金属酸化物粒子の粉体試料を準備した。
当該粉体試料とベークライト樹脂とを、体積比で1:3.5の割合で混合し混合粉体を得た。得られた混合粉体へ万力を用いて圧縮成型を行い、直径20mm、高さ3mmの円柱状の成形体を得た。得られた成形体を、フェノール樹脂2gと供に、熱間埋め込み機に封入し、180℃、75bar、5分間の条件で熱間固結し、直径25mm高さ6mmの円柱状の固結片を得た。
得られた固結片へ、バフ研磨機を用いて断面研磨を施し、研磨面に粒子の断面を露出させた研磨片を得た。同一の金属酸化物粒子の粉体試料から、当該研磨片を7個作製した。
【0022】
得られた研磨片にカーボン蒸着を施し、これをMLA内に設置した。そして、MLAに設置されたSEMによって、前記7個の研磨片毎に約800視野を設定し、視野毎にBSE像を測定した。当該BSE像の一例を
図1に示す。
【0023】
次に、当該BSE像の画像解析を行った。
具体的には、当該BSE像を256諧調で表示させた。そして、100諧調から200諧調の間に閾値を設定し、当該閾値以上の諧調を有する粒子を異物金属粒子として扱い、閾値未満の諧調を有する粒子を金属酸化物粒子として扱った。尚、当該閾値は、前記金属酸化物の粒子と異物金属粒子とのBSE像を予め測定しておき、両粒子の判別を行うために適宜設定した値である。尚、参考の為、上述した
図1において、異物金属粒子をドットにて、金属酸化物の粒子を斜線にてハッチングした模式図を
図2に示す。
【0024】
そして、上述した画像解析結果から、粒子の種類毎の個数および異物金属粒子の位置情報を得た。粒子の種類とは、金属酸化物であるのか、金属であるのかである。さらに金属については、構成元素による種類分けを行った。次に、異物金属粒子と判別された粒子の位置情報に対応するピクセルにおいて、当該EDSを取得した。
このようにして、7個の研磨片の全体において、凡そ1千万個の粒子に対してMLAにより分析した。
分析された異物金属粒子の種類毎(含有する金属の種類毎)に、その検出個数を合計した結果を表1に示す。
一方、実施例1に係る金属酸化物材料を、従来の技術に係る臭素メタノール溶液法により定量分析した結果を表2に示す。
【0025】
【表1】
【表2】
【0026】
表1より、実施例1に係るMLAを用いた分析方法によれば、異物金属粒子の種類毎(含有する金属の種類毎)の検出個数が判明した。さらに臭素メタノール溶液法では得ることの出来ない異物金属粒子の形状や化学形態についての情報を得ることが出来た。