特許第6791280号(P6791280)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友大阪セメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000002
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000003
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000004
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000005
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000006
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000007
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000008
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000009
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000010
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000011
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000012
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000013
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000014
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000015
  • 特許6791280-光変調器モジュール 図000016
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791280
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】光変調器モジュール
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/01 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
   G02F1/01 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-19758(P2019-19758)
(22)【出願日】2019年2月6日
(62)【分割の表示】特願2015-74346(P2015-74346)の分割
【原出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2019-95800(P2019-95800A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2019年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116687
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 爾
(74)【代理人】
【識別番号】100098383
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 純子
(72)【発明者】
【氏名】片岡 利夫
(72)【発明者】
【氏名】市川 潤一郎
【審査官】 佐藤 宙子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−089400(JP,A)
【文献】 特開2010−219262(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150588(WO,A1)
【文献】 特開2012−048121(JP,A)
【文献】 特開2014−89310(JP,A)
【文献】 特開2009−252918(JP,A)
【文献】 特開2006−86433(JP,A)
【文献】 特開2013−123012(JP,A)
【文献】 特開2012−156947(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00−1/125
G02F 1/21−7/00
H05K 1/00−1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光変調素子を筐体内に収容した光変調器と該光変調器を配置する外部回路基板との間の電気線路の少なくとも一部を該光変調器側に設けられたフレキシブル回路基板で接続する光変調器において、
該フレキシブル回路基板には、2つ以上の電気線路が並列して設けられ、各電気線路は、マイクロストリップ(MS)線路、コプレーナ(CPW)線路又は、CPW線路と裏面接地電極とを備えたグランデットコプレーナ(G−CPW線路)のいずれかの形状の線路で形成された第1の領域から、他の異なる形状の線路で形成された第2の領域に切り替わる接続領域が設けられており、
該フレキシブル回路基板の少なくとも一方の面に形成された該電気線路の電極の厚さが20μm以上であり、
さらに、該フレキシブル回路基板は該筐体の外側かつ底面側に配置され、該筐体の上方より平面視した際に、該フレキシブル回路基板が該筐体の面より突出している長さが2mm以下であり、
各電気線路の間で、該第1の領域又は該第2の領域の少なくとも一方には、該電気線路に沿ったスリットが形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項2】
請求項1に記載の光変調器において、該スリットとは、接地電極の一部が除去されている部分、フレキシブル回路基板を貫通する孔が形成されている部分、又は該孔に低誘電率材料が充填されている部分のいずれかであることを特徴とする光変調器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光変調器において、該スリットによって隣接する電気線路が分離した箇所において、各電気線路は、MS線路部において信号電極に沿って配置される裏面の接地電極の幅は、該信号電極の幅の5倍以上を有しており、また、CPW線路部もしくはGCPW線路部において、信号電極に対向するそれぞれの接地電極の幅は、該信号電極の幅以上を有することを特徴とする光変調器。
【請求項4】
請求項3に記載の光変調器において、G−CPW線路部において、両面に形成された接地電極の少なくとも一方に、前記接地電極の幅が設定されていることを特徴とする光変調器。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の光変調器において、該電気線路の入力端部又は出力端部が位置する該フレキシブル回路基板の端部部分では、電気線路同士が互いに分離しないように一体化されていることを特徴とする光変調器。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光変調器において、該接続領域には、該スリットが形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の光変調器において、該第1の領域及び該第2の領域の両方に、該スリットが形成されていることを特徴とする光変調器。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の光変調器において、該接続領域では、該フレキシブル回路基板の両面に形成された電極を接続するビアホールが設けられていることを特徴とする光変調器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調器モジュールに関し、特に、光変調素子を筐体内に収容した光変調器と外部回路基板との間の電気線路の少なくとも一部をフレキシブル回路基板で接続する光変調器モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
光通信分野において、光変調器を用いた送受信機が利用されている。近年、光伝送システムの小型化要求により、送受信機モジュール(トランスポンダ)内に搭載される光変調器のRFインターフェース接続についても、短尺化傾向になっている。
【0003】
図1は、モジュールを構成する回路基板2上に光変調器1を配置した様子を示している。短尺化を実現する手段として、従来のプッシュオンタイプの同軸コネクタ等の同軸コネクタによるケーブル接続から、図1に示すように、フレキシブル回路基板(FPC)符号3やリードピン(SMT:Surface Mount Technology)を用いた面実装インターフェースを利用することが行われている。
【0004】
図2は、図1における矢印A−A’における断面状態を示している。光変調器1は、光変調素子4を金属製筐体10内に収容し、気密封止されている。符号11は、筐体の蓋部分である。筐体内に収容された光変調素子と外部回路基板2とは、フレキシブル回路基板3、筐体の貫通孔(金属筐体の上面と底面を結ぶ垂直方向)に配置されるリードピン5を介して電気的に接続されている。また、フレキシブル回路基板3とリードピン5とは、直接接続される。リードピン5と光変調素子4との間は、金線等でワイヤーボンディング(60)されている。
【0005】
フレキシブル回路基板上の伝送路(信号電極,接地電極)はAu,Cu等の材料が多く用いられている。また、フレキシブル回路基板は、同軸コネクタに比べて安価であり、トランスポンダ内に実装される回路基板2の平面回路に、半田付けにより、直接接続できるメリットがある。
【0006】
図3は、フレキシブル回路基板3の一例を示す平面図であり、ポリイミドを使用した基板30の一方の面に信号配線SEが、他方の面に接地配線GEが形成されている。符号VH1,VH2は基板30の両面に配置された電極部分を接続するビアホールである。例えば、フレキシブル回路基板3の図面の上側を光変調器のリードピンに接合し、図面の下側を回路基板上の配線に接合する。フレキシブル回路基板のサイズは、極めて小さく、例えば、長さLは、10mm以下、特に小型のものは5mm以下にもなる。幅Wは、通常、長さLよりも大きく1.2倍以上、場合によっては、2倍以上にもなる。そして、図2に示すように、フレキシブル回路基板を光変調器のリードピンに取り付けた場合には、筐体端面より突出している部分の長さSは、大変短く、約5mm以下、場合によっては、約2mm以下であり、トランスポンダと接続される電極部は約1mmの線路長となる。
【0007】
上述したようにフレキシブル回路基板は、略長方形(長さL,幅W)の長辺部分を接着固定するため、フレキシブル回路基板3を曲げようとすると、短辺方向(長さL方向)にしか曲がる余裕はないが、長さが極めて短いため柔軟性が劣り、回路基板2との接続作業が大変困難となる。
【0008】
さらに、フレキシブル回路基板上に形成する配線電極は、金や銅などの金属で形成されているが、光変調器を高周波で駆動するためには、数十kHzから25GHzを超える広帯域の周波数成分を有する複数のポートを配線する必要があり、電極損失を抑え伝送特性を満足させるためには、配線に係る電極の厚さを20μm以上、より好ましくは、25μm以上に設定することが必要となる。このように、電極の厚みが増すと、フレキシブル回路基板自体の柔軟性が劣る上、フレキシブル回路基板を無理に曲げた際に、電極に座屈(回復しない折れ)やクラックが発生し、さらには、基板30から剥離するなどの不具合を生じる。
【0009】
また、図3の一部(図中の左から2本目のSE参照)に示すように、電気信号の位相差調整などにより、信号配線SEの長さが長くなり、信号電極を屈曲して配置する必要が生じる。さらに、DP−QPSK変調など多くの変調信号を印加する場合には配線の数も増える。このように信号配線も曲げや配線数が多くなると、フレキシブル回路基板の柔軟性は、益々低下することとなる。
【0010】
フレキシブル回路基板の配線パターンは種々の形態が存在するが、図4では、一点鎖線Cより左半分がマイクロストリップ(MS)線路、一点鎖線Cより右半分がコプレーナ(CPW)線路で形成されている。マイクロ波を伝送するには、MS線路、CPW線路、さらに表面側にCPW線路を形成し、裏面側に接地電極を備えたグランデットコプレーナ(G−CPW)線路が主に使用される。これらは、他のモジュール及び基板とのハンダ付けによる接続を考慮した構成となっている。
【0011】
図4の矢印B1−B1’,B2−B2’及びB3−B3’における、フレキシブル回路基板の断面図を図5に示す。MS線路が形成される領域では、矢印B1−B1’に係る断面図に示すように、基板(絶縁体のベースフィルム)30の表面側に信号電極(301,302)が、裏面側に接地電極307が、各々配置されている。
【0012】
CPW線路が形成される領域では、矢印B3−B3’に係る断面図に示すように、フィルム30の表面側のみに、信号電極(301,302)と接地電極(303〜305)が形成されている。そしてMS線路とCPW線路とを接続している領域では、矢印B2−B2’に係る断面図に示すように、MS線路の接地電極307とCPW線路の接地電極(303〜305)とがビアホール306により電気的に接続されている。
【0013】
さらに、図6は、図4の応用例であり、図6では、一点鎖線Cより左半分がMS線路、一点鎖線Cより右半分が、基板30の両面にCPW線路を配置したものである。図6の矢印B4−B4’,B5−B5’及びB6−B6’における、フレキシブル回路基板の断面図を図7に示す。図4と同様に、異なる配線パターンの接続箇所では、ビアホール306による接続が行われている。
【0014】
ビアホールは、貫通孔の内面を覆うように金属で被覆されている。このため、機械的強度も高く、図4又は図6のように多くのビアホール306を密に配置する場合には、フレキシブル回路基板の柔軟性はより一層劣化することとなる。しかも、高周波信号に対応する場合は、図4又は図6の異なる配線パターンの接続部に限らず、例えば、図6の一点鎖線Cの右側のように、基板30の両面に形成した信号配線や接地配線をビアホールで頻繁に接続する構成も必要となり、さらにフレキシブル回路基板の柔軟性が劣化する。
【0015】
特許文献1では、1本の電気配線を例示しながら、フレキシブル回路基板の柔軟性を高めるため、外部回路基板やリードピンなどのフレキシブル回路基板の接続箇所以外において、接地電極を狭く、また網目状に構成することが提案されている。
【0016】
しかしながら、フレキシブル回路基板上に複数の電気配線を並列に配線する場合には、信号電極と接地電極とが密に配置されるため、接地電極に特許文献1の構成を採用できる箇所が極めて限定され、フレキシブル回路基板の柔軟性を高めることが困難であった。
また、電極厚が20μm以上と厚い場合には、フレキシブル回路基板の側面のクロストーク量が大きくなるという、新たな課題も生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2012−48121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明が解決しようとする課題は、上述したような問題を解決し、フレキシブル回路基板の柔軟性を高め、光変調器のモジュールの実装性とクロストーク特性を改善した光変調器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するため、本発明の光変調器は、次のような技術的特徴を備えている。
(1) 光変調素子を筐体内に収容した光変調器と該光変調器を配置する外部回路基板との間の電気線路の少なくとも一部を該光変調器側に設けられたフレキシブル回路基板で接続する光変調器において、該フレキシブル回路基板には、2つ以上の電気線路が並列して設けられ、各電気線路は、マイクロストリップ(MS)線路、コプレーナ(CPW)線路又は、CPW線路と裏面接地電極とを備えたグランデットコプレーナ(G−CPW線路)のいずれかの形状の線路で形成された第1の領域から、他の異なる形状の線路で形成された第2の領域に切り替わる接続領域が設けられており、該フレキシブル回路基板の少なくとも一方の面に形成された該電気線路の電極の厚さが20μm以上であり、さらに、該フレキシブル回路基板は該筐体の外側かつ底面側に配置され、該筐体の上方より平面視した際に、該フレキシブル回路基板が該筐体の面より突出している長さが2mm以下であり、各電気線路の間で、該第1の領域又は該第2の領域の少なくとも一方には、該電気線路に沿ったスリットが形成されていることを特徴とする。
【0020】
(2) 上記(1)に記載の光変調器において、該スリットとは、接地電極の一部が除去されている部分、フレキシブル回路基板を貫通する孔が形成されている部分、又は該孔に低誘電率材料が充填されている部分のいずれかであることを特徴とする。
【0021】
(3) 上記(1)又は(2)に記載の光変調器において、該スリットによって隣接する電気線路が分離した箇所において、各電気線路は、MS線路部において信号電極に沿って配置される裏面の接地電極の幅は、該信号電極の幅の5倍以上を有しており、また、CPW線路部もしくはGCPW線路部において、信号電極に対向するそれぞれの接地電極の幅は、該信号電極の幅以上を有することを特徴とする。
【0022】
(4) 上記(3)に記載の光変調器において、G−CPW線路部において、両面に形成された接地電極の少なくとも一方に、前記接地電極の幅が設定されていることを特徴とする。
【0023】
(5) 上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の光変調器において、該電気線路の入力端部又は出力端部が位置する該フレキシブル回路基板の端部部分では、電気線路同士が互いに分離しないように一体化されていることを特徴とする。
【0024】
(6) 上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の光変調器において、該接続領域には、該スリットが形成されていることを特徴とする光変調器。
(7) 上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の光変調器において、該第1の領域及び該第2の領域の両方に、該スリットが形成されていることを特徴とする。
(8) 上記(1)乃至(7)のいずれかに記載の光変調器において、該接続領域では、該フレキシブル回路基板の両面に形成された電極を接続するビアホールが設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、 光変調素子を筐体内に収容した光変調器と外部回路基板との間の電気線路の少なくとも一部をフレキシブル回路基板で接続する光変調器において、該フレキシブル回路基板には、2つ以上の電気線路が並列して設けられ、各電気線路は、マイクロストリップ(MS)線路、コプレーナ(CPW)線路又は、CPW線路と裏面接地電極とを備えたグランデットコプレーナ(G−CPW線路)のいずれか又はこれらの組み合わせで形成されており、各電気線路の間の一部には、該電気線路に沿ったスリットが形成されているため、各電気線路間を繋ぐ部分の機械的強度を下げ、比較的柔軟な部分を各電気配線間に形成することができる。この構成により、電気線路としての電気的特性の劣化を抑制しながら、フレキシブル回路基板全体の柔軟性を高めることが可能となる。
【0026】
そして、本発明により、フレキシブル回路基板の柔軟性を高くすることで、光変調器のモジュールへの組み立て作業の効率を改善した光変調器を提供することも可能となる。
【0027】
しかも、各電気線路の間の一部はスリットにより接地電極の一部も除去されているため、隣接する電気線路間のクロストーク現象も抑制することが可能となる。特に、各電気線路は、MS線路部において信号電極に沿って配置される裏面の接地電極の幅は、該信号電極の幅の5倍以上を有しており、また、CPW線路部もしくはGCPW線路部において、信号電極に対向するそれぞれの接地電極の幅は、該信号電極の幅以上を有することで、各電気線路の伝送特性を高く維持でき、しかも、クロストーク現象の影響を抑制した電気線路を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】外部回路基板上に光変調器を配置した様子を示す図である。
図2図1の一点鎖線A−A’における断面図を示す図である。
図3】従来のフレキシブル回路基板を示す平面図である。
図4】異なる配線パターンを組み合わせたフレキシブル回路基板の一例を示す平面図である。
図5図4における各破線における断面図である。(a)破線B1−B1’の断面図、(b)破線B2−B2’の断面図、(c)破線B3−B3’の断面図を各々示す。
図6】異なる配線パターンを組み合わせたフレキシブル回路基板の他の例を示す平面図である。
図7図4における各破線における断面図である。(a)破線B4−B4’の断面図、(b)破線B5−B5’の断面図、(c)破線B6−B6’の断面図を各々示す。
図8】本発明の光変調器に使用されるフレキシブル回路基板の一部を示す図である。
図9】本発明における「スリット」の意味について説明する図である。
図10図8のフレキシブル回路基板に寸法の一例を示した図である。
図11】フレキシブル回路基板において、電気線路の入出力端部と、電気線路の形状が変わる領域には、スリットを設けない例を説明する図である。
図12】フレキシブル回路基板において、電気線路の入出力端部を除き、電気線路同士が互いに完全分離されている例を説明する図である。
図13】フレキシブル回路基板の接地電極にスリットを設ける例を説明する図である。(a)コプレーナ線路の場合、(b)マイクロストリップ線路の場合を示す。
図14】フレキシブル回路基板に設けられる、各種スリットの形状を説明する図である。
図15】異なる配線パターンを接続する際に、テーパー状の信号配線等を用いた例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の光変調器について、好適例を用いて詳細に説明する。
本発明の光変調器は、図1及び2に示すように、光変調素子4を筐体内10(及び11)に収容した光変調器1と外部回路基板2との間の電気線路の少なくとも一部をフレキシブル回路基板で接続する光変調器において、該フレキシブル回路基板3には、2つ以上の電気線路が並列して設けられ、各電気線路は、マイクロストリップ(MS)線路、コプレーナ(CPW)線路又は、CPW線路と裏面接地電極とを備えたグランデットコプレーナ(G−CPW線路)のいずれか又はこれらの組み合わせで形成されており、各電気線路の間の一部には、図8に示すように、該電気線路に沿ったスリット(316,317)が形成されていることを特徴とする。
【0030】
図1及び2については、上述したとおりである。光変調素子4には、LiNbO基板(LN基板)に光導波路や変調電極を形成した光変調素子だけでなく、半導体変調素子なども利用可能である。特に25GHz以上の高周波信号を印加する光変調素子は、本発明に好適に利用できる。
【0031】
図2では、リードピン5から直接、光変調素子4に電気的接続を行うよう構成されているが、両者の間に中継基板を介在させることも可能である。また、リードピンは、特許文献1にも開示されているように、信号電極と接地電極の各々電極に対応してリードピンを使用することも可能であるが、図2に示すように、信号電極のリードピンを取り囲むように、接地電極用の導電性スリーブ(円筒電極)を配置することも可能である。当然、リードピンとスリーブとの間には、ガラス等の絶縁材料が充填されている。このようなリードピンとスリーブとの組み合わせを採用することで、リードピンで接続される部分のインピーダンスを安定的に所定の値に設定することが可能となる。
【0032】
本発明の光変調器に使用されるフレキシブル回路基板3は、ポリイミドをベース基材(基板)に使用し、ベース基材上にAu、Cu等により電気線路が形成されている。電気配線の電極の厚みは、20μm以上、より好ましくは25μm以上であり、少なくとも、信号電極が形成された面には、信号電極と併せて接地配線も同等の厚みで形成される。MS線路の接地電極や、G−CPW線路の裏面側の接地電極については、20μm未満でも、十分に接地電極としての機能を果たすため、電極を厚く形成することは必須ではない。
【0033】
また、CPW線路やG−CPW線路における信号電極を挟むように配置される接地電極については、信号電極に近い部分(信号電極側端部から信号電極の幅に相当する部分まで)の接地電極の厚みは、信号電極と同じにし、信号電極の幅よりも離れた部分では接地電極の厚みを信号電極(例えば、20μm)よりも薄くするよう構成することも可能である。
【0034】
フレキシブル回路基板の大きさは、図3でも説明したように、長さLは、10mm以下、より好ましくは5mm以下であり、幅Wは、長さLよりも大きく、1.2倍以上、特に、2倍以上の場合には、本発明の光変調器の構成が好適に適用できる。このようなフレキシブル回路基板を利用した場合は、筐体10の端面から突出するフレキシブル回路基板3の長さSは、2mm以下であり、トランスポンダを構成する外部回路基板2と接続される端子電極は、約1mmの線路長を備えている。
【0035】
本発明における「スリット」とは、電気配線同士の間に設けられ、フレキシブル回路基板の柔軟性を高める構成であれば、種々の形態を採用できる。具体的には、図9に示すような形態を採用することが、より効果的である。図9は、フレキシブル回路基板の一部の断面を示したものであり、基板の両面に電極(EL1〜EL9)が形成された例を中心に説明している。
【0036】
(第1の形態:図9(a))基板の片方の面で、スリット形成位置(SL1)の電極を除去する。電極EL1とEL2は、隣接する電気配線間にある接地電極である。電極EL1とEL2は、信号電極が配置された側の接地電極である必要は無いが、より電極厚の厚い方の接地電極を除去することが好ましい。
【0037】
(第2の形態:図9(b))基板の両面で、スリット形成位置(SL2)の電極を除去する。電極EL1とEL2及び電極EL4とEL5は、隣接する電気配線間にある接地電極である。
【0038】
(第3の形態:図9(c))基板のスリット形成位置(SL3)では、電極も基板自体も除去される。電極EL1とEL2及び電極EL4とEL5は、隣接する電気配線間にある接地電極である。
【0039】
(第4の形態:図9(d))基板のスリット形成位置(SL4)では、電極も基板自体も除去した上で、さらに、基板の穴が形成された周辺部分から電極(EL6,EL7)を退避させる。このような構成で、フレキシブル回路基板の柔軟性を、第3の形態より高めることが可能になる。穴の周辺部分から退避させる電極は、電極厚の厚い方の接地電極であることが好ましい。また、両面の接地電極を退避させることも可能である。
【0040】
(第5の形態:図9(e))基板のスリット形成位置(SL5)では、基板に穴を形成すると共に、該穴に低誘電率材料DSを配置したものである。低誘電率材料を使用することで、基板自体と比較して機械的強度を低下すると共に、スリットで分離された電気配線がバラバラにならないようにする機能がある。また、低誘電率材料には、誘電率1〜3.5を特性として有する材料を使用することで、電気配線が形成する電界の分布を抑制し、クロストーク現象の低減に寄与する。
【0041】
図9に示すスリットには例示されていないが、局所的に接地電極の厚みを減らす方法や、基板自体の厚みを減らす方法も使用できる。また、スリットの製作方法としては、レーザー、型打ち、プレス成形、鋏加工など、種々の方法が採用できる。
【0042】
本発明の光変調器における、フレキブル回路基板に形成する各種の配線パターンの形状について、さらに詳細に説明する。配線パターンとしては、MS線路、CPW線路、G−CPW線路のいずれかや、これらの組み合わせが使用可能である。また、基板の両面にCPW線路を共に配置することも可能である。
【0043】
複数の電気線路を並列に配置した際に、本発明では、各電気線路間の一部にスリットを設けている。このスリットにより、電気配線の形状が変更され、伝送特性が劣化するなどの不具合が無いようにすることが重要である。また、隣接する電気線路間でのクロストーク現象も抑制する程度の、十分安定な伝送特性を持った線路を確保することが必要である。
【0044】
具体的には、各電気線路については、次の条件1乃至3を全て満足するようにスリットが形成されている。図8を参照しながら説明する。
・条件1:MS線路の場合(図8の左半分)、表面の信号電極310に沿って配置される裏面の接地電極311の幅は、該信号電極310の幅の5倍以上を有すること
・条件2:CPW線路の場合(図8の右半分)は、信号電極(312,319)に対向する各接地電極(313,314,318,320)の幅は、該信号電極(312,319)の幅以上を有すること
・条件3:G−CPW線路の場合は、条件1及び2を共に満足するように、表面及び裏面の接地電極の幅が設定されていること
【0045】
本発明の光変調器では、フレキシブル回路基板3の柔軟性を高めるため、図8に示すように、フレキシブル回路基板にスリットとなる貫通孔316や317を形成している。また、貫通孔317の周辺部から退避するように接地電極314と318の形成位置を調整している。図8の破線DとEとの間の領域は、破線Dの左側のマイクロストリップ線路(MS線路)と破線Eの右側のコプレーナ線路(CPW線路)とを接続する接続領域である。
【0046】
MS線路の信号電極310とCPW線路の信号電極312とを、共に同じフレキシブル回路基板の表面に配置する場合には、信号電極310と312とは連続した電極として形成される。ただし、両者の接続領域(破線DとEとの間)では、信号電極の幅を連続的に変化させるよう構成することが好ましい(図15参照)。
【0047】
また、MS線路の接地電極311は、フレキシブル回路基板の裏面に形成され、接続領域において、裏面の接地電極311と表面のCPW線路の接地電極(313,314)とが、ビアホール315によって電気的に接続されている。
【0048】
また、MS線路の信号電極310をフレキシブル回路基板の裏面に形成し、CPW線路の信号電極312を表面に形成する場合には、裏面の信号電極310と表面の信号電極312とはビアホールで接続されている。さらに、MS線路の接地電極とCPW線路の接地電極とは同じ表面に連続して形成される。以上は、MS線路とCPW線路との接続について説明したが、CPW線路の裏面に接地電極を備えたG−CPW線路を組み込む場合も、上記接続方法のいつくかを選択的に使用することが出来ることは、当該技術分野において周知の技術であり、ここでは説明を省略する。当然、異なる種類の電気線路を組み合わせて用いるだけでなく、一つの種類の電気線路で構成することも可能である。
【0049】
図8の電気線路において、寸法の一例を記載した図面を図10に示す。各電気線路の寸法設定において重要な視点は、スリットを形成した場合でも電気線路の信号透過損失に影響を及ぼさない(伝送線路の電界効率を劣化させない)よう設定することである。具体的には、MS線路の場合、表面の信号電極310に沿って配置される裏面の接地電極311の幅は、該信号電極310の幅の5倍以上を有することが、好ましい。図10では、信号電極310の幅が0.1mmであるのに対し、接地電極311の幅は1.1mmに設定しており、十分な接地電極の幅を確保している。
【0050】
CPW線路の場合には、信号電極(312,319)に対向する各接地電極(313,314,318,320)の幅は、該信号電極(312,319)の幅以上を有することが、好ましい。図10では、信号電極312の幅が0.35mmであるのに対し、接地電極313と314の幅は、1.3mmであり、2倍以上の十分な幅が確保されている。特に、CPW線路やG−CPW線路においては、より好ましくは、信号電極を挟む接地電極の幅は、「(信号電極の幅w)+(信号電極と接地電極とのギャップg)×2」の値以上に設定することが、より好ましい。
【0051】
図10のように、複数のMS線路を並列で配置する場合には、互いの電気線路を伝搬する電気信号がクロストークを起こさないように、最低限、0.6mm程度は離すよう構成することが好ましい。また、CPW線路(G−CPW線路も同様)では、信号線路の幅や信号電極と接地電極とのギャップは、電気線路のインピーダンスに影響を与えるため、必要とするインピーダンス値に応じて、数値の設計が行われる。さらに、複数のCPW線路(G−CPW線路も同様)を並列に配置する場合にも、電気信号のクロストークを抑制するため、信号電極312と319との間隔は、図10のように4mmという十分な幅を確保できることが好ましい。
【0052】
図8又は図10では、接続領域(破線DとEとの間)では、接地電極314と接地電極318との間は接続されていないが、スリットの貫通孔317が当該接続領域まで入り込まなければ、2つの接地電極を繋ぐよう電極を形成することも可能である。なお、信号電極や接地電極の形成面積は少ないほど、フレキシブル回路基板の柔軟性は向上するため、可能な限り電極の形成面積を少なくすることが好ましい。
【0053】
図8又は図10に示したフレキシブル回路基板の全体の平面図を図11に示す。図11では、各電気線路の入力端部又は出力端部が位置する該フレキシブル回路基板の端部部分(図11の左右の端の部分)では、電気線路同士が互いに分離しないように貫通孔316や317が設けられていない。これにより、入力端部や出力端部を外部回路基板の配線やリードピンなどに接続する際に、一度の作業で容易に取り付けることが可能となる。また、各電気線路がバラバラである場合に比べ、個々の電気線路に機械的な負荷が加わった際に、内部応力を他の電気線路に適度に分散させることも可能となり、電気線路の破損を抑制する効果も期待できる。当然、図11の左右いずれか一方又は両方の端部を基板の端面まで繋がる貫通孔(切り込み)とすることも可能である。
【0054】
図11の符号321は、接地電極311を表面に電気的に導くビアホールであり、例えば、信号電極310の端部と一緒に、外部回路基板の配線に半田等で接続される。また、図11の符号322は、リードピン等の信号電極や接地電極の突起部が挿入されるスルーホールである。図11では、外部回路基板の配線にMS配線を接続し、リードピンにCPW配線を接続したが、MS配線の方をリードピンに接続することも可能である。
【0055】
フレキシブル回路基板の柔軟性を最も高めるためには、図12に示すように、スリットである貫通孔316と323とを繋げて形成することで、電気線路同士が互いに分離して形成することが好ましい。特に、電気線路は、MS線路、CPW線路又はG−CPW線路のいずれかから、他の異なる形状の線路に切り替わる部分では、図11のように、多数のビアホールが集中し、フレキシブル回路基板の機械的強度を局所的に高くしている。このように、機械的強度が高い部分に、互いの電気配線を分断するスリットを形成することは、柔軟性を高めるためには、特に効果的である。
【0056】
ただし、符号315及び符号321のビアホール近傍に電気線路が配線され、屈曲性の高い箇所および方向がそれぞれ異なる。配線が並ぶ方向に一様な形状に曲げることは困難であり、局所的に大きな歪みや応力が生じる。特に、図12のように電気配線の途中は互いに分離されている場合には、一様な形状に曲げることは困難である。また、局所的に機械的強度が異なる場合(強度分布にムラがある場合)には、フレキシブル回路基板に捻れも発生する要因となる。ただし、捻れが生じる部分に、配置位置を考慮してスリットを入れることで、隣接する線路形状に起因する歪み、応力緩和が有効に働きフレキシブル回路基板自体や電極のクラックや剥離などの損傷も起きにくする効果が得られる。特に機械的強度が高い部分には貫通孔(切り込み)などのスリットを形成して互いの一体感を緩和(内部応力が伝搬するのを緩和)するのが好ましい。しかも、比較的に機械的強度が弱い部分には、電極除去などのスリットを設け、緩やかな応力緩和を施し、フレキシブル回路基板が必要以上にバラバラにならないよう配慮することが好ましい。
【0057】
本発明に係るスリットは、図13に示すように、接地電極(331,332,337,342)に直接形成することも可能である。フレキシブル回路基板に電極を形成した後や、表面保護フィルムを貼り付けた後に、打ち抜きや切除により、スリットを形成することができる。貫通型のスリットは、常に一定面積の開口である必要は無く、単なる切込みのみであっても良い。スリットは、基板内の内部応力が緩和できる構成であれば、特に限定されない。
【0058】
さらに、スリットの形成も場所も、図14の左半分に示すように、電気線路(信号電極350と接地電極352、又は信号電極351と接地電極353)を切り出すように、スリット(354、355)を形成し、その外側の基板は残したままにすることも可能である。このような電気線路毎に切り出す手法は、CPW線路やG−CPW線路にも応用が可能である。
【0059】
また、図14の右半分に示すように、接地電極358に形成するスリット358の端部形状を、曲線で形成することにより、分離された電気線路に負荷が加わっても、電気線路の接続部の一部に、局所的に負荷が集中することが抑制され、電気線路の破損を防止することが可能となる。
【0060】
図15では、信号電極(310,312)の幅が、異なる配線パターンの間で異なる場合を説明する図である。2つの配線パターンを接続する接続領域(D−E)では、電極の形状が連続的に変化するように、信号電極(310→312)をテーパー形状としたり、信号電極(312)と接地電極(313,314)との間隔を、連続的に変化するよう構成している。また、裏面の接地電極の形状も連続的に変化させるよう構成することが好ましい。これらにより、電気線路のインピーダンスの不連続による信号の反射を抑制することが可能になる。
【0061】
本発明では、スリットの形状や配置については、上述した内容に限定されず種々の応用が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0062】
以上説明したように、本発明によれば、電気線路としての電気的特性の劣化を抑制しながら、フレキシブル回路基板の柔軟性を高め、光変調器のモジュールの実装性とクロストーク特性を改善した光変調器を提供することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 光変調器
2 外部回路基板
3 フレキシブル回路基板
4 光変調素子
5 リードピン
10,11 筐体
310,312,319,330,333,340,341,350,351,359 信号電極
311,313,314,318,320,331,332,337,342,352,353 接地電極
316,316’,317,323,335,336,337,343,344,345,354,355 スリット
315,321 ビアホール
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15