特許第6791332号(P6791332)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6791332リチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト、リチウムイオンポリマー電池用正極、リチウムイオンポリマー電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6791332
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】リチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト、リチウムイオンポリマー電池用正極、リチウムイオンポリマー電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20201116BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20201116BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20201116BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20201116BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20201116BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20201116BHJP
【FI】
   H01M4/58
   H01M4/36 C
   H01M4/136
   H01M10/0565
   H01M10/052
   C01B25/45 Z
【請求項の数】9
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-175384(P2019-175384)
(22)【出願日】2019年9月26日
【審査請求日】2019年10月31日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100206999
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 綾夏
(72)【発明者】
【氏名】大野 宏次
【審査官】 磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2018−163746(JP,A)
【文献】 特開2018−056036(JP,A)
【文献】 特開2009−016265(JP,A)
【文献】 特開2019−061932(JP,A)
【文献】 特開2007−280687(JP,A)
【文献】 特開2005−183287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
C01B 25/45
H01M 4/136
H01M 4/36
H01M 10/052
H01M 10/0565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる中心粒子および該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜を含む活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤とを含むリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストであって、
前記中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800nm以下であり、
前記イオン導電性ポリマーは、配位性ポリマーにリチウム塩を溶解させたものであり、
前記イオン導電性ポリマーの配合量は、前記活物質粒子100質量部に対して、20質量部以上かつ100質量部以下であり、
前記活物質粒子と、前記イオン導電性ポリマーと、前記導電助剤との混合比が質量比で66:30:4である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストの測定温度25℃、せん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下であることを特徴とするリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項2】
前記活物質粒子の粉体抵抗値が100Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項3】
前記活物質粒子のBET比表面積が5m/g以上かつ25m/g以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項4】
前記炭素質被膜を形成する炭素量が、前記中心粒子100質量部に対して0.1質量部以上かつ10質量部以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項5】
前記活物質粒子の粒度分布の粗粒比が35%以上かつ65%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項6】
前記活物質粒子のメディアン径が0.50μm以上かつ0.80μm以下、L表色系における色度bが1.9以上かつ2.3以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項7】
前記活物質粒子の粒度分布の微粒の極大値が0.15μm以上かつ0.35μm以下、前記活物質粒子の粒度分布の粗粒の極大値が0.80μm以上かつ1.20μm以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト。
【請求項8】
電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオンポリマー電池用正極であって、
前記正極合剤層は、請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストを含有することを特徴とするリチウムイオンポリマー電池用正極。
【請求項9】
請求項8に記載のリチウムイオンポリマー電池用正極を備えたことを特徴とするリチウムイオンポリマー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオンポリマー電池用正極材料ペースト、リチウムイオンポリマー電池用正極およびリチウムイオンポリマー電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、小型化、軽量化、高容量化が期待される電池として、リチウムイオン二次電池等の非水電解液系の二次電池が提案され、実用に供されている。リチウムイオン二次電池は、リチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有する正極および負極と、非水系の電解質とから構成されている。
リチウムイオン二次電池の負極材料の負極活物質としては、一般に炭素系材料またはリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そのようなLi含有金属酸化物としては、例えば、チタン酸リチウム(LiTi12)が挙げられる。
【0003】
一方、リチウムイオン二次電池の正極としては、正極材料およびバインダー等を含む正極材料合剤が用いられている。正極活物質としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO)等のリチウムイオンを可逆的に脱挿入可能な性質を有するLi含有金属酸化物が用いられる。そして、この正極材料合剤を電極集電体と称される金属箔の表面に塗布することにより、リチウムイオン二次電池の正極が形成される。
【0004】
リチウムイオン二次電池の電解液には非水系溶媒が用いられる。非水系溶媒としては、高電位で酸化還元する正極活物質や、低電位で酸化還元する負極活物質を適用することができる。これにより、高電圧を有するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【0005】
このようなリチウムイオン二次電池は、鉛電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池等の従来の二次電池と比べて、軽量かつ小型であるとともに、高エネルギーを有している。そのため、リチウムイオン二次電池は、携帯用電話機およびノート型パーソナルコンピューター等の携帯用電子機器に用いられる小型電源のみならず、定置式の非常用大型電源としても用いられている。
【0006】
近年、リチウムイオン二次電池の性能向上が求められ、性能向上について種々検討されている。例えば、リチウムイオン二次電池の安全性をさらに向上するために、電解質に可燃性有機溶剤を用いず、不揮発性のポリマー電解質膜や無機固体電解質を用いた全固体電池や、イオン液体を用いた電池等が検討されている。中でもポリマー電解質膜を用いたリチウムイオンポリマー(二次)電池は、従来の液体電解質を用いた電池と同様に塗工による製造プロセスを適用可能であること、低価格であること、ポリマー電解質膜の導電性が高く、薄膜化が容易であること等から、盛んに検討されている。さらに、ポリマー電解質膜は、緻密な固体状であることから、ポリマー電解質膜ではデンドライトと呼ばれる針状の金属結晶の生成が抑制される。従って、リチウムイオンポリマー電池では、安全性を損なわずにリチウム金属負極を用いることができるため、容量の大幅な向上が見込める。
【0007】
リチウムイオンポリマー電池の性能向上のためには、ポリマー電解質膜のイオン導電性の向上のみならず、電子伝導性のさらなる向上が求められる。このような物性の要求に対しては、正極活物質の表面に炭素質の材料(以下、「炭素質被膜」と言うことがある。)で被覆する技術が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。正極活物質の表面を炭素質被膜で被覆する方法としては、正極活物質と炭素源とを混合し、その混合物を不活性雰囲気下または還元性雰囲気下で焼成する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−004371号公報
【特許文献2】特開2011−049161号公報
【特許文献3】特開2012−104290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
炭素質被膜で被覆された正極活物質の一次粒子(活物質粒子)の凝集体(顆粒)の内部に空隙が存在する場合、粘度の高い高分子を含むポリマー電解質は、その空隙内部に十分に侵入することが困難である。そのため、その場合には、ポリマー電解質と直接接触しない活物質粒子が発生することがある。これらの活物質粒子は、Liイオンの供給が不十分であることから、電気化学反応を示さないため、電池容量の低下を招いてしまう。また、このような空隙は、より分子量の小さな溶媒を優先的に取り込むため、凝集体周辺の溶媒比率が減少して、高分子比率が増加し、電極を形成するためのペースト(電極材料ペースト)の粘度が増大する。また、凝集体内の空隙がそのまま電極の空隙となるため、電極の単位体積当たりのエネルギー密度が低下する。
【0010】
なお、顆粒を解砕(空隙を排除)することでペーストの粘度の増大や、結着性の低下を抑制することができる。しかしながら、顆粒を解砕する際の強度(解砕強度)が高過ぎると、炭素質被膜が正極活物質の一次粒子の表面から剥離し、電極の電子伝導性が低下するだけでなく、正極活物質の比表面積の増加によりペーストの粘度が増大する。電極の電子伝導性が低下すると、電池の入出力特性や充放電サイクル後の電池容量が低下する。また、ペーストの粘度が増大すると、ペーストを電極集電体に塗布する際に、塗布表面に凹凸が発生したり、塗布厚さのムラにより電極構造が不均一となったりする。一方、解砕強度が低過ぎると、電極内に空隙が残存し、電極の単位体積当たりのエネルギー密度が低下する。
【0011】
上記の理由から、炭素質被膜の剥離を抑制することで電子伝導性を担保しつつ、必要な凝集体粒度まで、顆粒を解砕することが最も好ましい。しかしながら、正極活物質の一次粒子径や、正極材料に含まれる炭素量等によって炭素質被膜が剥がれ始める解砕強度が異なるため、最適な解砕強度に制御することが難しかった。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度の向上が可能なリチウムイオンポリマー電池用正極材料、そのリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含有するリチウムイオンポリマー電池用正極、および、そのリチウムイオンポリマー電池用正極を備えたリチウムイオンポリマー電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる中心粒子および該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜を含む活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤とを含むリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストであって、前記中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800nm以下であり、前記イオン導電性ポリマーは、配位性ポリマーにリチウム塩を溶解させたものであり、前記イオン導電性ポリマーの配合量は、前記活物質粒子100質量部に対して、20質量部以上かつ100質量部以下であり、前記活物質粒子と、前記イオン導電性ポリマーと、前記導電助剤との混合比が質量比で66:30:4である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストの測定温度25℃、せん断速度が4.0[1/s]のときの粘度を5000mPa・s以下とすることにより、正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度の向上が可能なリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストを提供することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
ここで、イオン導電性ポリマーとは、ポリエチレンオキシド、変性ポリエチレンオキシド等の配位性ポリマーにリチウム塩を溶解させたものである。
【0014】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストは、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる中心粒子および該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜を含む活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤とを含むリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストであって、前記中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800nm以下であり、前記イオン導電性ポリマーは、配位性ポリマーにリチウム塩を溶解させたものであり、前記イオン導電性ポリマーの配合量は、前記活物質粒子100質量部に対して、20質量部以上かつ100質量部以下であり、前記活物質粒子と、前記イオン導電性ポリマーと、前記導電助剤との混合比が質量比で66:30:4である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストの測定温度25℃、せん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極は、電極集電体と、該電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備えたリチウムイオンポリマー電池用正極であって、前記正極合剤層は、本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料ペーストを含有することを特徴とする。
【0016】
本発明のリチウムイオンポリマー電池は、本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料によれば、活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤との混合比が質量比で66:4:30である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下であるため、中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度の向上が可能なリチウムイオンポリマー電池用正極材料を提供できる。
【0018】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極によれば、本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含有しているため、高エネルギー密度であり、入出力特性に優れるリチウムイオンポリマー電池が得られる。
【0019】
本発明のリチウムイオンポリマー電池によれば、本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極を備えているため、高エネルギー密度であり、入出力特性に優れるリチウムイオンポリマー電池が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】凝集体を示す走査型電子顕微鏡像である。
図2】解砕粒子を示す走査型電子顕微鏡像である。
図3】実施例6のリチウムイオンポリマー電池の2サイクル目の充放電曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料、リチウムイオンポリマー電池用正極、リチウムイオンポリマー電池の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0022】
[リチウムイオンポリマー電池用正極材料]
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料(以下、単に「正極材料」と言うことがある。)は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子であって、活物質粒子と、導電助剤と、イオン導電性ポリマーとの混合比が質量比で66:4:30である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下である。
【0023】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、活物質粒子と、導電助剤と、イオン導電性ポリマーとの混合比が質量比で66:4:30である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下であり、4000mPa・s以下であることが好ましく、3000mPa・s以下であることがより好ましい。一方、ペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度の下限は、特に限定されないが1000mPa・s以上であってもよく、1500mPa・s以上であってもよい。
【0024】
ペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・sを超えると、正極材料ペーストを電極集電体に塗布する際に、塗布厚さのムラにより電極内部構造が不均一となり、充分な充放電レート性能を実現できなくなる。
【0025】
本実施形態において、上記のペーストの粘度を測定する方法としては、動的粘弾性測定装置(型番:RS−6000、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、測定温度が25℃、せん断速度を0.01[1/s]から20[1/s]の範囲で上昇させ、任意のせん断速度における粘度を読み取る方法が挙げられる。
【0026】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の粉体抵抗値は、100Ω・cm以下であることが好ましく、80Ω・cm以下であることがより好ましい。
粉体抵抗値が100Ω・cm以下であると、正極材料、および電極集電体上に形成された正極合剤層の電子伝導性を向上させることができる。
粉体抵抗値は、正極材料を50MPaの圧力で成形した試料から測定することができ、具体的には、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料(活物質粒子)の平均一次粒子径は、10nm以上かつ400nm以下であることが好ましく、20nm以上かつ300nm以下であることがより好ましい。
正極材料の平均一次粒子径が10nm以上であると、正極材料の比表面積が増えることで必要になる炭素の質量の増加を抑制し、リチウムイオンポリマー電池の充放電容量が低減することを抑制できる。一方、正極材料の平均一次粒子径が400nm以下であると、正極材料内でのリチウムイオンの移動または電子の移動にかかる時間が長くなることを抑制できる。これにより、リチウムイオンポリマー電池の内部抵抗が増加して出力特性が悪化することを抑制できる。
【0028】
ここで、平均粒子径とは、体積平均粒子径のことである。正極材料の一次粒子の平均一次粒子径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。また、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した一次粒子を任意に複数個選択し、その一次粒子の平均粒子径を算出してもよい。
【0029】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のBET比表面積は、5m/g以上かつ25m/g以下であることが好ましい。
BET比表面積が5m/g以上であると、正極材料の粗大化を抑制して、その粒子内におけるリチウムイオンの拡散速度を速くすることができる。これにより、リチウムイオンポリマー電池の電池特性を改善することができる。一方、BET比表面積が25m/g以下であると、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極内の正極密度を高くすることができる。そのため、高エネルギー密度を有するリチウムイオンポリマー電池を提供することができる。
【0030】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のBET比表面積は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0031】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料に含まれる炭素量、すなわち、炭素質被膜を形成する炭素量は、中心粒子100質量部に対して0.1質量部以上かつ10質量部以下であることが好ましく、0.6質量部以上かつ3質量部以下であることがより好ましい。
炭素量が0.1質量部以上であると、リチウムイオンポリマー電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素量が10質量部以下であると、正極材料の単位質量当たりのリチウムイオンポリマー電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0032】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料に含まれる炭素量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0033】
また、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、後述するリチウムイオンポリマー電池用正極材料の製造方法によって作製され、一次粒子の凝集体からなる活物質粒子を解砕してなる解砕粒子である。本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料において、凝集体は、走査型電子顕微鏡(SEM;Scanning Electron Microscope)により1000倍で観察した粒子形状において、図1に示すように、それぞれの二次粒子を区別することができるもののことである。一方、解砕粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)により1000倍で観察した粒子形状において、図2に示すように、それぞれの粒子を区別することができない状態にあるもののことである。
【0034】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、粒度分布において、粗粒のピーク(極大)と微粒のピーク(極大)を有する。
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料において、粗粒のピーク(極大)形状を表わす曲線が囲む面積(粗粒側のピーク面積)と微粒のピーク(極大)形状を表わす曲線が囲む面積(微粒側のピーク面積)との和に対する、粗粒のピーク(極大)形状を表わす曲線が囲む面積の比(粗粒比)は、35%以上かつ65%以下であることが好ましく、40%以上かつ60%以下であることがより好ましい。
【0035】
粗粒比が35%以上であると、炭素質被膜の剥離が抑制されるため、正極材料の電子伝導性が向上し、充分な充放電レート性能を実現することができる。粗粒比が65%以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極を作製する際に、正極活物質(中心粒子)を密に詰め込むことが可能になり、正極の単位体積当たりのエネルギー密度が向上する。
粒度分布の粗粒比は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができ、二峰性を示す粒度分布の粗粒側のピーク面積と微粒側のピーク面積から算出できる。
【0036】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のメディアン径は、0.50μm以上かつ0.80μm以下であることが好ましく、0.55μm以上かつ0.75μm以下であることがより好ましい。
メディアン径が0.50μm以上であると、過剰な解砕による電子伝導性の低下を防ぐことができる。一方、メディアン径が0.80μm以下であると、リチウムイオン二次電池用正極材料を含む正極を作製する際に、正極活物質(中心粒子)を密に詰め込むことが可能になり、単位体積当たりのエネルギー密度が向上する。
メディアン径とは、粒度分布における積算%の分布曲線が50%の横軸と交差するポイントの粒子径である。
【0037】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料におけるメディアン径は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0038】
また、リチウムイオンポリマー電池用正極材料における粗粒比は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0039】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、後述するリチウムイオンポリマー電池用正極材料の製造方法によって作製され、一次粒子の凝集体からなる活物質粒子を解砕してなる正極材料であり、粒度分布の微粒の極大値が0.15μm以上かつ0.35μm以下であることが好ましく、0.18μm以上かつ0.32μm以下であることがより好ましい。
粒度分布の微粒の極大値が0.15μm以上かつ0.35μm以下であると、中心粒子の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離が抑制された正極材料の電子伝導性が向上する。
【0040】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の粒度分布の粗粒の極大値が0.80μm以上かつ1.20μm以下であることが好ましく、0.85μm以上かつ1.15μm以下であることがより好ましい。
粒度分布の粗粒の極大値が0.80μm以上かつ1.20μm以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極を作製する際に、正極材料を密に詰め込むことが可能となり、正極の単位体積当たりのエネルギー密度が向上する。
【0041】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のL表色系における色度bは1.9以上かつ2.3以下であることが好ましく、1.95以上かつ2.3以下であることがより好ましい。
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の色度bは、中心粒子における炭素質被膜の被覆の度合いを示す指標である。
色度bが1.9以上であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極を作製する際に、正極活物質(中心粒子)を密に詰め込むことが可能になり、単位体積当たりのエネルギー密度が向上する。一方、色度bが2.3以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料において、炭素質被膜に覆われていない中心粒子の露出度を単位体積当たりのエネルギー密度を高めるために充分な範囲とすることができ、過剰な解砕による電子伝導性の低下を防ぐことができる。
【0042】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のL表色系における色度bは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0043】
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の比表面積に対する炭素量の割合(「[炭素量]/[正極材料の比表面積]」;以下「炭素担持量割合」と言う。)は、0.05質量・g/m以上かつ0.15質量・g/m以下であることが好ましく、0.06質量・g/m以上かつ0.13質量・g/m以下であることがより好ましい。
炭素担持量割合が0.05質量・g/m以上であると、リチウムイオンポリマー電池の高速充放電レートにおける放電容量が高くなり、充分な充放電レート性能を実現することができる。一方、炭素担持量割合が0.15質量・g/m以下であると、正極材料の単位質量当たりのリチウムイオンポリマー電池の電池容量が必要以上に低下することを抑制できる。
【0044】
(中心粒子)
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を構成する中心粒子は、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる正極活物質からなる。
【0045】
一般式LiPOで表わされる化合物としては、例えば、LiFePO、LiMnPO、LiCoPO、LiFeMnPO、LiMnZnPO等が挙げられる。
【0046】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を構成する中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径は、5nm以上かつ800m以下であることが好ましく、20nm以上かつ500nm以下であることがより好ましい。
中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が5nm以上であると、中心粒子の一次粒子の表面を炭素質被膜で充分に被覆することができる。そして、リチウムイオンポリマー電池の高速充放電における放電容量を高くし、充分な充放電性能を実現することができる。一方、中心粒子の一次粒子の平均一次粒子径が800nm以下であると、中心粒子の一次粒子の内部抵抗を小さくすることができる。そして、リチウムイオンポリマー電池の高速充放電における放電容量を高くすることができる。
【0047】
(炭素質被膜)
炭素質被膜は、中心粒子の表面を被覆する。
中心粒子の表面を炭素質被膜で被覆することにより、リチウムイオンポリマー電池用正極材料の電子伝導性を向上させることができる。
【0048】
炭素質被膜は、熱処理された有機化合物に由来する熱分解炭素質被膜であり、前記炭素質被膜の厚さは、0.2nm以上かつ10nm以下であることが好ましく、0.5nm以上かつ4nm以下であることがより好ましい。
炭素質被膜の厚さが0.2nm以上であると、炭素質被膜の厚さが薄すぎるために所望の抵抗値を有する膜を形成できなくなることを抑制できる。そして、リチウムイオンポリマー電池用正極材料としての導電性を確保することができる。一方、炭素質被膜の厚さが10nm以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料の単位質量当たりの電池容量が低下することを抑制できる。
【0049】
また、炭素質被膜の厚さが0.2nm以上かつ10nm以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料を最密充填し易くなるため、正極における単位体積当たりのリチウムイオンポリマー電池用正極材料の充填量が多くなる。その結果、正極密度を高くすることができ、高容量のリチウムイオンポリマー電池が得られる。
【0050】
中心粒子に対する炭素質被膜の被覆率は60%以上かつ95%以下であることが好ましく、80%以上かつ95%以下であることがより好ましい。炭素質被膜の被覆率が60%以上であることで、炭素質被膜の被覆効果が充分に得られる。
【0051】
炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度は0.3g/cm以上かつ1.5g/cm以下であることが好ましく、0.4g/cm以上かつ1.0g/cm以下であることがより好ましい。
ここで、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度を上記の範囲に限定した理由は、炭素質被膜の炭素分によって計算される、炭素質被膜の密度が0.3g/cm以上であれば、炭素質被膜が充分な電子伝導性を示すからである。一方、炭素質被膜の密度が1.5g/cm以下であれば、炭素質被膜中に含まれる層状構造からなる黒鉛の微結晶が少量であるため、リチウムイオンが炭素質被膜中を拡散する際に黒鉛の微結晶による立体障害が生じない。これにより、リチウムイオン移動抵抗が高くなることがない。その結果、リチウムイオンポリマー電池の内部抵抗が上昇することがなく、リチウムイオンポリマー電池の高速充放電レートにおける電圧低下が生じない。
【0052】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料によれば、一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる中心粒子と、該中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子であって、活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤との混合比が質量比で66:4:30である混合物を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度を5000mPa・s以下とすることにより、正極活物質(中心粒子)の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度の向上が可能なリチウムイオンポリマー電池用正極材料を提供することができる。
【0053】
[リチウムイオンポリマー電池用正極材料の製造方法]
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、凝集体からなる活物質粒子を解砕することにより製造することができる。
【0054】
「活物質粒子の製造方法」
本実施形態における活物質粒子の製造方法は、例えば、中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程と、中心粒子および中心粒子の前駆体からなる群から選択される少なくとも1種の中心粒子原料、炭素質被膜前駆体である有機化合物および水を混合し、スラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーを乾燥し、得られた乾燥物を非酸化性雰囲気下にて焼成する焼成工程と、を有する。
【0055】
(中心粒子および中心粒子の前駆体の製造工程)
一般式LiPO(但し、AはCo、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種、DはMg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種、0.9<x<1.1、0<y≦1、0≦z<1、0.9<y+z<1.1)で表わされる化合物(中心粒子)の製造方法としては、固相法、液相法、気相法等の従来の方法が用いられる。このような方法で得られたLiPOとしては、例えば、粒子状のもの(以下、「LiPO粒子」と言うことがある。)が挙げられる。
【0056】
LiPO粒子は、例えば、Li源と、A源と、P源と、水と、必要に応じてD源と、を混合して得られるスラリー状の混合物を水熱合成して得られる。水熱合成によれば、LiPOは、水中に沈殿物として生成する。得られた沈殿物は、LiPOの前駆体であってもよい。この場合、LiPOの前駆体を焼成することで、目的のLiPO粒子が得られる。
この水熱合成には耐圧密閉容器を用いることが好ましい。
【0057】
ここで、Li源としては、酢酸リチウム(LiCHCOO)、塩化リチウム(LiCl)等のリチウム塩、水酸化リチウム(LiOH)等が挙げられる。これらの中でも、Li源としては、酢酸リチウム、塩化リチウムおよび水酸化リチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0058】
A源としては、Co、Mn、Ni、Fe、CuおよびCrからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。例えば、LiPOにおけるAがFeである場合、Fe源としては、塩化鉄(II)(FeCl)、酢酸鉄(II)(Fe(CHCOO))、硫酸鉄(II)(FeSO)等の2価の鉄塩が挙げられる。これらの中でも、Fe源としては、塩化鉄(II)、酢酸鉄(II)および硫酸鉄(II)からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0059】
D源としては、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、ScおよびYからなる群から選択される少なくとも1種を含む塩化物、カルボン酸塩、硫酸塩等が挙げられる。
【0060】
P源としては、リン酸(HPO)、リン酸二水素アンモニウム(NHPO)、リン酸水素二アンモニウム((NHHPO)等のリン酸化合物が挙げられる。これらの中でも、P源としては、リン酸、リン酸二水素アンモニウムおよびリン酸水素二アンモニウムからなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0061】
(スラリー調製工程)
スラリー調製工程により、中心粒子間に、炭素質被膜の前駆体である有機化合物が介在し、それらが均一に混合するため、中心粒子の表面を有機化合物でムラなく被覆することができる。
さらに、焼成工程により、中心粒子の表面を被覆する有機化合物が炭化することにより、炭素質被膜が均一に被覆された中心粒子を含む活物質粒子(正極材料)が得られる。
【0062】
本実施形態における活物質粒子の製造方法で用いられる有機化合物としては、中心粒子の表面に炭素質被膜を形成できる化合物であれば特に限定されない。このような有機化合物としては、例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン、セルロース、デンプン、ゼラチン、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリルアミド、ポリ酢酸ビニル、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、マルトース、スクロース、ラクトース、グリコーゲン、ペクチン、アルギン酸、グルコマンナン、キチン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、アガロース、ポリエーテル、エチレングリコール等の2価アルコール、グリセリン等の3価アルコール等が挙げられる。
【0063】
スラリー調製工程では、中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させて、均一なスラリーを調製する。
これらの原料を水に溶解または分散させる際には、分散剤を加えることもできる。
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させる方法としては、水に中心粒子原料を分散させ、水に有機化合物を溶解または分散させる方法であれば、特に限定されない。このような方法としては、例えば、遊星ボールミル、振動ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカーおよびアトライタ等の媒体粒子を高速で攪拌する媒体攪拌型分散装置を用いる方法が好ましい。
【0064】
中心粒子原料と、有機化合物とを、水に溶解または分散させる際には、水に中心粒子原料を一次粒子として分散させ、その後、水に有機化合物を添加して溶解または分散させるように攪拌することが好ましい。このようにすれば、中心粒子原料の一次粒子の表面が有機化合物で被覆され易い。これにより、中心粒子原料の一次粒子の表面に有機化合物が均一に配され、その結果として、中心粒子の一次粒子の表面が、有機化合物由来の炭素質被膜によって被覆される。
【0065】
(焼成工程)
次いで、スラリー調製工程で調製したスラリーを、高温雰囲気中、例えば、70℃以上かつ250℃以下の大気中に噴霧し、乾燥させる。
次いで、得られた乾燥物を、非酸化性雰囲気下、好ましくは500℃以上かつ1000℃以下、より好ましくは600℃以上かつ1000℃以下の温度にて、0.1時間以上かつ40時間以下焼成する。
【0066】
非酸化性雰囲気としては、窒素(N)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスからなる雰囲気が好ましい。乾燥物の酸化をより抑えたい場合には、水素(H)等の還元性ガスを数体積%程度含む還元性雰囲気が好ましい。また、焼成時に非酸化性雰囲気中に蒸発した有機分を除去することを目的として、非酸化性雰囲気中に酸素(O)等の支燃性ガスまたは可燃性ガスを導入してもよい。
【0067】
ここで、焼成温度を500℃以上とすることにより、乾燥物に含まれる有機化合物の分解および反応が充分に進行し易く、有機化合物の炭化を充分に行い易い。その結果、得られた凝集体中に高抵抗の有機化合物の分解物が生成することを防止し易い。一方、焼成温度を1000℃以下とすることにより、中心粒子原料中のリチウム(Li)が蒸発し難く、また、中心粒子が目的の大きさ以上に粒成長することが抑制される。その結果、本実施形態の正極材料を含む正極を備えたリチウムイオンポリマー電池を作製した場合に、高速充放電レートにおける放電容量が低くなることを防止でき、充分な充放電レート性能を有するリチウムイオンポリマー電池を実現することができる。
【0068】
以上により、乾燥物中の有機化合物が熱分解して生成した熱分解炭素質被膜により中心粒子の一次粒子の表面が被覆された凝集体からなる活物質粒子が得られる。
【0069】
「活物質粒子の解砕工程」
次いで、この凝集体からなる活物質粒子の少なくとも一部を解砕する。ここで、「凝集体からなる活物質粒子の少なくとも一部を解砕する」とは、凝集体の少なくとも一部が解砕されていればよく、凝集体全てが解砕されている必要はない。
【0070】
凝集体の解砕に用いられる装置としては、この凝集体を完全に解砕することなく、この凝集体の一部が解砕されるものであればよく、例えば、乾式ボールミル、湿式ボールミル、ミキサー、ジェットミル等の気流式微粉砕機、超音波破砕機等が用いられる。
本実施形態では、活物質粒子(中心粒子、一次粒子)へのダメージを抑える上で、ジェットミルを解砕に用いることが好ましい。
また、ジェットミルへの凝集体の供給速度を50g/時間〜1500g/時間、空気圧を0.3MPa〜0.7MPaとすることが好ましい。解砕強度はジェットミルへ投入する凝集体の供給速度を変動させることで自由に調整することができる。また、解砕強度を調整することにより、リチウムイオンポリマー電池用正極材料の粒度分布の粗粒比を調整することができる。ここで、解砕強度が強い場合には、粗粒比が小さい値となり、リチウムイオンポリマー電池用正極材料において、炭素質被膜に覆われていない中心粒子の露出度が高くなる。なお、解砕強度とは、例えば、ジェットミルを用いる場合、前記の空気圧を固定した際の凝集体の供給速度(g/時間)のことであり、供給速度が遅いほど解砕強度は強く、供給速度が速いほど解砕強度は弱くなる。
【0071】
[リチウムイオンポリマー電池用正極]
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極(以下、単に「正極」と言うことがある。)は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む。より詳細には、本実施形態の正極は、金属箔からなる電極集電体と、その電極集電体上に形成された正極合剤層と、を備え、正極合剤層が、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含有するものである。すなわち、本実施形態の正極は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層が形成されてなるものである。
【0072】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含むため、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極を用いたリチウムイオンポリマー電池は、高エネルギー密度であり、入出力特性に優れる。
【0073】
[リチウムイオンポリマー電池用正極の製造方法]
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極の製造方法は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を用いて、電極集電体の一主面に正極合剤層を形成できる方法であれば特に限定されない。本実施形態の正極の製造方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料と、イオン導電性ポリマーと、溶媒とを混合して、正極材料ペーストを調製する。この際、本実施形態における正極材料ペーストには、必要に応じて、カーボンブラック等の導電助剤および結着剤を添加してもよい。
【0074】
「イオン導電性ポリマー」
イオン導電性ポリマーとしては、例えば、ポリエチレンオキシド、変性ポリエチレンオキシド等が好適に用いられる。
【0075】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられるイオン導電性ポリマーの配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオンポリマー電池用正極材料100質量部に対して、20質量部以上かつ100質量部以下であることが好ましく、30質量部以上かつ70質量部以下であることがより好ましい。
イオン導電性ポリマーの配合量が20質量部以上であると、正極活物質表面に十分なイオン導電性経路が形成され、反応に寄与しない活物質が生じることがなく、電池容量が低下することを抑制できる。一方、イオン導電性ポリマーの配合量が100質量部以下であると、イオン導電性ポリマーが無駄になることがなく、電極中の活物質割合が低くなりすぎることもないため、電池容量が低下することを抑制できる。
【0076】
「結着剤」
イオン導電性ポリマーに密着性がある場合は、結着剤を必ずしも必要とはしないが、結着剤、すなわち、バインダー樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、フッ素ゴム等が好適に用いられる。
【0077】
正極材料ペーストを調製するに当たり用いられる密着性イオン導電性ポリマーを含む結着剤の配合量は特に限定されないが、例えば、リチウムイオンポリマー電池用正極材料100質量部に対して、1質量部以上かつ30質量部以下であることが好ましく、3質量部以上かつ20質量部以下であることがより好ましい。
結着剤の配合量が1質量部以上であると、正極合剤層と電極集電体との間の結着性を充分に高くすることができる。これにより、正極合剤層の圧延形成時等において正極合剤層の割れや脱落が生じることを抑制できる。また、リチウムイオンポリマー電池の充放電過程において、正極合剤層が電極集電体から剥離し、電池容量および充放電レートが低下することを抑制できる。一方、結着剤の配合量が30質量部以下であると、リチウムイオンポリマー電池用正極材料の内部抵抗が低下し、高速充放電レートにおける電池容量が低下することを抑制できる。
【0078】
「導電助剤」
導電助剤としては、特に限定されないが、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック、ファーネスブラックの粒子状炭素や、気相成長炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)およびカーボンナノチューブ等の繊維状炭素からなる群から選択される少なくとも1種が用いられる。
【0079】
「溶媒」
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含む正極材料ペーストに用いられる溶媒は、結着剤の性質に応じて適宜選択される。溶媒を適宜選択することにより、正極材料ペーストを、電極集電体等の被塗布物に対して塗布し易くすることができる。
溶媒としては、例えば、水、アルコール類、エステル類、エーテル類、ケトン類、アミド類、グリコール類等が挙げられる。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール(イソプロピルアルコール:IPA)、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ジアセトンアルコール等が挙げられる。
エステル類としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル(メチルセロソルブ)、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセロソルブ)、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
ケトン類としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセチルアセトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
アミド類としては、例えば、ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)等が挙げられる。
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0080】
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率は、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料とイオン導電性ポリマーと溶媒との合計質量を100質量%とした場合に、50質量%以上かつ70質量%以下であることが好ましく、55質量%以上かつ65質量%以下であることがより好ましい。
正極材料ペーストにおける溶媒の含有率が上記の範囲内であると、正極形成性に優れ、かつ電池特性に優れた正極材料ペーストを得ることができる。
【0081】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極材料と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤と、溶媒とを混合する方法としては、これらの成分を均一に混合できる方法であれば特に限定されない。例えば、ボールミル、サンドミル、プラネタリー(遊星式)ミキサー、ペイントシェーカーおよびホモジナイザー等の混錬機を用いた混合方法が挙げられる。
【0082】
正極材料ペーストを、電極集電体の一主面に塗布して塗膜とし、その後、この塗膜を乾燥し、上記の正極材料と結着剤との混合物からなる塗膜が一主面に形成された電極集電体を得る。その後、必要に応じて塗膜を加圧圧着してもよい。
【0083】
[リチウムイオンポリマー電池]
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池は、正極と、負極と、ポリマー電解質と、を備え、正極が、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極である。具体的には、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池は、正極としての本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極と、負極と、ポリマー電解質とを備えてなる。
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池では、負極、非水電解質およびセパレータは特に限定されない。
【0084】
「負極」
負極としては、例えば、金属Li、天然黒鉛、ハードカーボン等の炭素材料、Li合金およびLiTi12、Si(Li4.4Si)等の負極材料を含むものが挙げられる。
【0085】
「ポリマー電解質」
ポリマー電解質としては、例えば、ポリエチレンオキシドにリチウムトリフルイミド(LiFTSI)、LiPF、LiClO等のリチウム塩を溶解したものが挙げられる。膜の強度を高める目的で、架橋性の官能基を導入した変性ポリエチレンオキシドや低温での導電性確保(結晶化防止)の目的で官能基を導入した変性ポリエチレンオキシド等も好適に用いることができる。電極集電体との密着性を高める、温度特性を改善する、耐酸化性を向上する等を目的として、エチレンオキシドと他のモノマーとのコポリマーを用いることも可能である。
【0086】
本実施形態のリチウムイオンポリマー電池は、正極として、本実施形態のリチウムイオンポリマー電池用正極を備えているため、高エネルギー密度であり、入出力特性に優れる。
一般に用いられているように、正極の塗工、乾燥後にイオン導電性ポリマーを含む液を正極上に塗工、乾燥し、必要に応じて、イオン導電性ポリマーを架橋させることも可能である。その後、負極を貼りあわせてから、必要に応じて圧着する。
同様に負極上に、イオン導電性ポリマーを含む液を塗工し、製膜することもできる。
架橋には、一般に用いられている、熱、紫外線、電子線等の手法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0087】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
本実施例では、正極活物質の性能を正確に評価するために、正極を作製した後、市販のイオン導電性ポリマーを用いたフィルム(厚さ60μm)とLi負極を貼り合わせることで電池を作製し、評価した。
【0088】
[実施例1]
「リチウムイオンポリマー電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、150℃にて24時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gとショ糖8gを加え、これらの混合物を、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が8.5μmの有機物で被覆された、正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、680℃にて3時間焼成し、平均粒子径が8.5μmである炭素質被膜で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
【0089】
「凝集体の解砕」
上記の凝集体を、ジェットミル装置(商品名:SJ−100、日清エンジニアリング社製)を用い、供給速度180g/時間の条件で解砕し、実施例1の正極材料1を得た。
【0090】
「リチウムイオンポリマー電池の作製」
溶媒であるN−メチル−2−ピロリジノン(NMP)に、正極材料1と、イオン導電性ポリマー(母材)としてのポリエチレンオキキシド100000(PEO100000、平均分子量100000g/mol)と、リチウム塩としてのLiTFSIと、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)とを、ペースト中の質量比で、正極材料1:PEO100000:LiTFSI:AB=66:24:6:4、さらにペーストの総固形分量が40質量%となるよう混合し、混練機(商品名:あわとり練太郎、シンキー社製)を用いて、公転1200rpm、自転800rpmの条件で30分混練し、正極材料ペースト(正極用)を調製した。
この正極材料ペースト(正極用)を、厚さ30μmのアルミニウム箔(電極集電体)の表面に塗布して塗膜を形成し、その塗膜を乾燥し、アルミニウム箔の表面に正極合剤層を形成した。
その後、正極合剤層を、28000N/100mmの線圧にて加圧し、実施例1の正極1を作製した。この正極を一定の大きさに切り出し、厚さと質量から密度を求めた。
【0091】
この正極1に対し、電解質としてイオン導電性ポリマーフィルム、負極としてリチウム金属を配置し、所定の圧力で圧着した後、2cmの大きさに切り出し、電池用部材1とした。
次に、電池用部材1をCR2032型コインセル内に配し、実施例1のリチウムイオンポリマー電池1を作製した。
【0092】
[実施例2]
凝集体を供給速度160g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2の正極材料2を得た。
正極材料2を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例2のリチウムイオンポリマー電池2を作製した。
【0093】
[実施例3]
凝集体を供給速度150g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3の正極材料3を得た。
正極材料3を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例3のリチウムイオンポリマー電池3を作製した。
【0094】
[実施例4]
凝集体を供給速度130g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4の正極材料4を得た。
正極材料4を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例4のリチウムイオンポリマー電池4を作製した。
【0095】
[実施例5]
凝集体を供給速度100g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5の正極材料5を得た。
正極材料5を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例5のリチウムイオンポリマー電池5を作製した。
【0096】
[実施例6]
凝集体を供給速度90g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、実施例6の正極材料6を得た。
正極材料6を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例6のリチウムイオンポリマー電池6を作製した。
【0097】
[実施例7]
「リチウムイオンポリマー電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、200℃にて24時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gとショ糖8gを加え、これらの混合物を、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が8.3μmの有機物で被覆された、正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、680℃にて3時間焼成し、平均粒子径が8.3μmである炭素質被膜で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
【0098】
「凝集体の解砕」
上記の凝集体をジェットミル装置(商品名:SJ−100、日清エンジニアリング社製)を用い、供給速度100g/時間の条件で解砕し、実施例7の正極材料7を得た。
正極材料7を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例7のリチウムイオンポリマー電池7を作製した。
【0099】
[実施例8]
「リチウムイオンポリマー電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、160℃にて16時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gとショ糖8gを加え、これらの混合物を、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が8.9μmの有機物で被覆された、正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、680℃にて3時間焼成し、平均粒子径が8.9μmである炭素質被膜で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
【0100】
「凝集体の解砕」
上記の凝集体をジェットミル装置(日清エンジニアリング社製、商品名:SJ−100)を用い、供給速度90g/時間の条件で解砕し、実施例8の正極材料8を得た。
正極材料8を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例8のリチウムイオン二次電池8を作製した。
【0101】
[実施例9]
「リチウムイオンポリマー電池用正極材料の合成」
2molのリン酸リチウム(LiPO)と、2molの硫酸鉄(II)(FeSO)とに水を加え、全体量が4Lになるように混合し、均一なスラリー状の混合物を調製した。
次いで、この混合物を容量8Lの耐圧密閉容器に収容し、120℃にて48時間、水熱合成し、正極活物質の沈殿物を生成した。
次いで、この沈殿物を水洗し、ケーキ状の正極活物質を得た。
次いで、この正極活物質150g(固形分換算)に、有機化合物としてのポリエチレングリコール10gとショ糖8gを加え、これらの混合物を、媒体粒子としての直径5mmのジルコニアボールを用いて、ビーズミルにて2時間、分散処理を行い、均一なスラリーを調製した。
次いで、このスラリーを200℃の大気雰囲気中に噴霧し、乾燥して、平均粒子径が91μmの有機物で被覆された、正極材料の造粒体を得た。
次いで、得られた造粒体を、窒素雰囲気下、680℃にて3時間焼成し、平均粒子径が9.1μmである炭素質被膜で被覆された正極活物質の造粒体を得た。
【0102】
「凝集体の解砕」
上記の凝集体をジェットミル装置(日清エンジニアリング社製、商品名:SJ−100)を用い、供給速度80g/時間の条件で解砕し、実施例9の正極材料9を得た。
正極材料9を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例9のリチウムイオンポリマー電池9を作製した。
【0103】
「比較例1」
凝集体を供給速度280g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1の正極材料10を得た。
正極材料10を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のリチウムイオンポリマー電池10を作製した。
【0104】
「比較例2」
凝集体を供給速度250g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2の正極材料11を得た。
正極材料11を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のリチウムイオンポリマー次電池11を作製した。
【0105】
「比較例3」
凝集体を解砕しないこと以外は実施例1と同様にして、比較例3の正極材料12を得た。
正極材料12を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例3のリチウムイオンポリマー電池12を作製した。
【0106】
「比較例4」
凝集体を解砕しないこと以外は実施例7と同様にして、比較例4の正極材料13を得た。
正極材料13を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例4のリチウムイオンポリマー電池13を作製した。
【0107】
「比較例5」
凝集体を供給速度65g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例8と同様にして、比較例5の正極材料14を得た。
正極材料14を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例5のリチウムイオンポリマー電池14を作製した。
【0108】
「比較例6」
凝集体を供給速度55g/時間の条件で解砕したこと以外は実施例9と同様にして、比較例6の正極材料15を得た。
正極材料15を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較例6のリチウムイオンポリマー電池15を作製した。
【0109】
[リチウムイオンポリマー電池用正極材料の評価]
実施例1〜実施例9および比較例1〜比較例6のリチウムイオンポリマー電池用正極材料およびリチウムイオンポリマー電池について、以下の通り、評価を行った。
【0110】
(1)BET比表面積
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のBET比表面積は、測定装置(商品名:HM model−1208、マウンテック社製)を用いて、一点法、相対圧0.29(P/P)にて測定した。
【0111】
(2)炭素量
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の炭素量は、炭素硫黄分析装置(商品名:EMIA−220V、堀場製作所製)を用いて測定した。
【0112】
(3)粉体抵抗値
リチウムイオンポリマー電池用正極材料の粉体抵抗値は、正極材料を金型に投入して50MPaの圧力にて成形し、低抵抗率計(商品名:Loresta−GP、三菱化学社製)を用いて、25℃にて四端子法により測定した。
【0113】
(4)メディアン径
リチウムイオンポリマー電池用正極材料におけるメディアン径を、以下の方法で測定した。
測定装置(商品名:LA−950V2、堀場製作所社製)を用いてメディアン径を測定した。
まず、分散液としての純水40gおよびポリビニルピロリドン(PVP)0.12g、試料粉末としてのリチウムイオンポリマー電池用正極材料0.04gを70mLマヨネーズ瓶に秤量した。このマヨネーズ瓶を手動で10回程振り混ぜて、試料粉末と分散液を馴染ませた。
次いで、この試料粉末と分散液の混合溶液を超音波ホモジナイザー(商品名:SONIFIER450、BRANSON社製)にて、Output5、パルス50%条件で2分間超音波処理をし、得られた分散溶液を用いてメディアン径を測定した。メディアン径とは、粒度分布における積算%の分布曲線が50%の横軸と交差するポイントの粒子径であるから、リチウムイオンポリマー電池用正極材料の粒度分布の測定結果を基に、メディアン径を算出した。
メディアン径は、データ取り込み回数を半導体レーザー(LD)5000回、発光ダイオード(LED)1000回として測定し、データの演算条件は下記の通りとした。
<演算条件>
(サンプル屈折率)
LD実部:1.48
LD虚部:0.45
LED実部:1.50
LED虚部:0.55
(分散媒屈折率)
LD実部:1.33
LD虚部:0.00
LED実部:1.33
LED虚部:0.00
(反復回数):15回
(粒子径基準):体積
(演算アルゴリズム):標準演算
【0114】
(5)粗粒比
上記のメディアン径の測定で得られたリチウムイオンポリマー電池用正極材料の粒度分布について、粗粒側のピーク面積Aと微粒側のピーク面積Bを用い、下記の式(1)から算出した。
粗粒比(%)=A/(A+B)×100・・・(1)
【0115】
(6)色度b
リチウムイオンポリマー電池用正極材料のL表色系における色度bは、分光式色彩計(型番:SE−2000、日本電色工業社製)とD65光源を用いた、反射光2度視野測定によって測定された。リチウムイオンポリマー電池用正極材料の色度bを測定する際には、シャーレに斑なく測定対象の正極材料を載せて、その正極材料の色度bを測定した。
【0116】
[リチウムイオンポリマー電池用ペースト、およびリチウムイオンポリマー電池用正極の評価]
(7)ペースト粘度
リチウムイオンポリマー電池用ペーストの粘度は、上記の方法で作製した正極材料ペーストを動的粘弾性測定装置(型番:RS−6000、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて、測定温度を25℃、C20/4−Ti L10のセンサーを使用し、センサーとプレートのギャップを0.14mm、せん断速度を0.01[1/s]から20[1/s]の範囲で各15秒のステップで上昇させ、せん断速度が4.0[1/s]における粘度を読み取った。
【0117】
(8)正極密度
リチウムイオンポリマー電池用正極の正極密度は、加圧後の正極におけるアルミニウム電極集電体を除いた正極の体積を分母にし、正極材料の質量を分子にした際の比で算出した。
また、それぞれの部材の理論密度から予想される正極の理論密度(2.3g/cm)から正極の気孔率を以下の式で見積もった。
気孔率=(1−正極密度/正極理論密度)×100[%]
【0118】
[リチウムイオンポリマー電池の評価]
(9)初期放電容量
リチウムイオンポリマー電池の初期放電容量を、次のように評価した。60℃環境下で、電流値0.1Cにて電池電圧が4.2Vになるまで定電流充電した後、4.2Vの定電圧で電流が0.01C相当に低下するまで充電を行った。その後、電流値0.1Cにて電池電圧が2.0Vになるまで放電したところまでを1サイクルとし、2サイクル目の容量を初期放電容量とした。凝集体が十分に解砕されていない場合、イオン導電性ポリマーが凝集体内部に侵入しないため、活物質表面と十分に接触せず、リチウムイオンの供給が不十分となり容量が低下する。また、空隙が残留するため電極の密度低下、すなわち気孔率の増加が生じる。
【0119】
(10)20サイクル後容量維持率
リチウムイオンポリマー電池の20サイクル後容量維持率は、前述の条件で、充放電を20サイクル繰り返した際、2サイクル目の放電容量を分母に、20サイクル目の放電容量を分子としたときの割合を容量維持率として評価した。正極材料の電子伝導性が充分に担保されていない場合、充放電サイクルに伴う活物質粒子の膨張収縮を繰り返すことで、正極内の電子伝導パスが不足していくので容量維持率が低下する。
【0120】
「評価結果」
実施例1〜実施例9のリチウムイオンポリマー電池用正極材料およびリチウムイオンポリマー電池の評価結果、並びに、比較例1〜比較例6のリチウムイオンポリマー電池用正極材料およびリチウムイオンポリマー電池の評価結果を表1に示す。なお、表1に示す炭素量は、正極活物質100質量部に対する、炭素質被膜を形成する炭素の量(質量部)を示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1の結果から、実施例1〜実施例9と、比較例1〜比較例6とを比較すると、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・sを超える比較例1〜比較例6は、電子伝導性または正極密度のいずれかが充分ではなかった。これに対して、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下である実施例1〜実施例9は、電子伝導性を担保しつつ、正極密度を向上できることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料を用いたリチウムイオンポリマー電池は、エネルギー密度、入出力特性、および耐久性に優れるため、移動体用途を初めとするリチウムイオンポリマー電池の信頼性の進歩に大きく貢献することができる。
【要約】
【課題】正極活物質の一次粒子の表面を被覆する炭素質被膜の剥離を抑制し、電子伝導性を担保しつつ、正極密度の向上が可能なリチウムイオンポリマー電池用正極材料、そのリチウムイオンポリマー電池用正極材料を含有するリチウムイオンポリマー電池用正極、および、そのリチウムイオンポリマー電池用正極を備えたリチウムイオンポリマー電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウムイオンポリマー電池用正極材料は、一般式LixAyDzPO4で表わされる中心粒子と、中心粒子の表面を被覆する炭素質被膜とを含む活物質粒子であって、活物質粒子と、イオン導電性ポリマーと、導電助剤の混合比が質量比で66:30:4を、溶媒に溶解してなり、総固形分量が40質量%のペーストのせん断速度が4.0[1/s]のときの粘度が5000mPa・s以下である。
【選択図】なし
図1
図2
図3