特許第6791453号(P6791453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6791453
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】半導体基板の熱酸化膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
   H01L21/316 S
【請求項の数】13
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2020-139978(P2020-139978)
(22)【出願日】2020年8月21日
【審査請求日】2020年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2020-82715(P2020-82715)
(32)【優先日】2020年5月8日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2020-106903(P2020-106903)
(32)【優先日】2020年6月22日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2020-109669(P2020-109669)
(32)【優先日】2020年6月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】大槻 剛
(72)【発明者】
【氏名】阿部 達夫
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−104870(JP,A)
【文献】 特開平04−113620(JP,A)
【文献】 特開平04−355921(JP,A)
【文献】 特開2008−098214(JP,A)
【文献】 特開2004−342805(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、
予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、
熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、
該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成を測定し、該測定して得た前記構成と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、
前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、
該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有することを特徴とする半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項2】
半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、
予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれるOH基の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中のOH基の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、
熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、
該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中のOH基の量を測定し、該測定して得た前記OH基の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、
前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、
該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有することを特徴とする半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項3】
前記OH基の量は、ATR測定用プリズムを用いて前記化学酸化膜のATR−FT−IR測定を行い、3300cm−1付近のOH基の吸光度から算出することを特徴とする請求項2に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項4】
半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、
予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、
熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、
該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比を求め、該求めた前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、
前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、
該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有することを特徴とする半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項5】
前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比は、前記化学酸化膜の構成元素のうち、前記半導体基板の基板原子が酸素原子と結合していない状態と前記基板原子が酸素原子と結合してサブオキサイドとなっている状態の結合エネルギーのピーク強度、及び、前記基板原子が酸素原子と完全に結合している状態の結合エネルギーのピーク強度をXPSを用いてそれぞれ測定し、該測定したピーク強度の割合とすることを特徴とする請求項4に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項6】
前記半導体基板をシリコンウエーハ、前記熱酸化膜をシリコン酸化膜とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項7】
半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、
予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれる水素原子の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中の水素原子の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、
熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、
該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中の水素原子の量を測定し、該測定して得た前記水素原子の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、
前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、
該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有することを特徴とする半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項8】
前記半導体基板をシリコンウエーハ、前記熱酸化膜をシリコン酸化膜とすることを特徴とする請求項7に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項9】
前記水素原子の量は、前記化学酸化膜のRBS測定を行い、求めた前記化学酸化膜中の水素原子の割合から算出することを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項10】
前記水素原子の量は、ATR測定用プリズムを用いて前記化学酸化膜のATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近のSiH基の吸光度から算出することを特徴とする請求項8に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項11】
前記所定の厚さを1〜10nmとすることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項12】
前記熱酸化膜の厚さ推定工程において、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より短い時間と決定し、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より長い時間と決定し、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間と同じ時間と決定することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【請求項13】
前記熱酸化膜の厚さ推定工程において、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より低い温度と決定し、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より高い温度と決定し、
前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度と同じ温度と決定することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板の熱酸化膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路素子の多層化、薄型化に伴って、素子を構成する各種膜についてより一層の薄膜化が要求されている。例えば特許文献1には、シリコンウェーハの張り合わせにおいて、用いられるシリコンウェーハはOH基を持った表面が必要とされており、通常のSC1洗浄液を用いて洗浄して、表面に自然酸化膜を形成することが記載されている。また、例えば特許文献2には、MOSトランジスタのゲート特性向上の方法として、ゲート酸化膜形成直前にシリコン表面を洗浄し、水素終端したうえで、ゲート絶縁膜を形成する方法が開示されている。このように極薄のシリコン酸化膜を、面内であるいは基板間で均一にかつ再現性良く形成するためには、半導体基板に予め形成される自然酸化膜や化学酸化膜(半導体基板の洗浄工程で使用する洗浄液によって形成された酸化膜)の影響を無視することは不可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平09−063910号公報
【特許文献2】特開2000−216156号公報
【特許文献3】特開2003−115516号公報
【特許文献4】特開2002−270596号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高萩、真空、33(11)、854(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際に本発明者らが調査・研究を行ったところ、例えば、半導体基板の洗浄方法が異なった場合、その後の熱酸化膜の厚さに違いがあることが分かった。この熱酸化膜の厚さの違いは、熱酸化前の自然酸化膜の厚さや化学酸化膜の厚さによらないことも分かった。このために、実際に半導体基板に熱酸化を行い、熱酸化膜の厚さを評価してみるまで、実際に形成された熱酸化膜の厚さの違いが分からずに、熱酸化工程の管理が困難になっていた。
【0006】
また、GOI(Gate Oxide Integrity)測定のような電気特性評価を行う際に、酸化膜の厚さがばらつくと測定結果に影響するため、酸化膜の厚さを所定の厚さ、例えば5.1nmに揃えるよう求められる場合がある。特にこのように酸化膜の厚さが薄い領域では、酸化膜が目標の厚さよりも薄いと直接トンネル電流が発生し、GOI測定ができなくなることがあるため、酸化膜の厚さの調整は非常に重要である。
【0007】
特許文献3では、CVD酸化膜中に含まれるOH基(CVD酸化膜中のOH基の評価として赤外分光を利用する)が加熱によって水分として脱離することから、水分計の較正・管理に利用することが提案されている。特許文献3の場合は、予めCVD酸化膜中に含有されているOH基が水分となって脱離する程度の低温での熱処理が行われており、熱酸化膜の成長との関係は議論されていない。このように、OH基が酸化膜に含まれたり水分のもとになったりすることは知られているが、CVD酸化膜は比較的厚く、自然酸化膜程度の薄い酸化膜に含まれるOH基と、それに続く熱酸化膜の成長について議論されたものではない。
【0008】
特許文献4には、X線光電子分光(XPS)法で測定したSi2pスペクトルより、シリコン基板直上のSi1+、Si2+、Si3+の各サブオキサイドの組成強度を求めることができることが記載されている。しかし、シリコンと酸化膜との間の界面ラフネスを求めることを目的としたもので、酸化熱処理を行ったとき熱酸化膜の厚さを制御する本発明に係る技術とは無関係のものである。
【0009】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる半導体基板の熱酸化膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成を測定し、該測定して得た前記構成と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法を提供する。
【0011】
このような半導体基板の熱酸化膜形成方法によれば、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる。その結果、熱酸化工程の管理が容易になる。
【0012】
また、本発明は、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれるOH基の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中のOH基の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中のOH基の量を測定し、該測定して得た前記OH基の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法を提供する。
【0013】
このような半導体基板の熱酸化膜形成方法によれば、洗浄により形成された化学酸化膜の種類によらず、一定の厚さの熱酸化膜を再現性良く形成することができる。その結果、熱酸化工程の管理が容易になる。
【0014】
このとき、前記OH基の量は、ATR測定用プリズムを用いて前記化学酸化膜のATR−FT−IR測定を行い、3300cm−1付近のOH基の吸光度から算出することが好ましい。
【0015】
ATR−FT−IRは、一般的な透過FT−IRと比較して表面に存在するOH基に対して感度が高いため、より精度の高いOH基の量の評価を行うことができる。
【0016】
また、本発明は、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比を求め、該求めた前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法を提供する。
【0017】
このような半導体基板の熱酸化膜形成方法によれば、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる。
【0018】
このとき、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比は、前記化学酸化膜の構成元素のうち、前記半導体基板の基板原子が酸素原子と結合していない状態と前記基板原子が酸素原子と結合してサブオキサイドとなっている状態の結合エネルギーのピーク強度、及び、前記基板原子が酸素原子と完全に結合している状態の結合エネルギーのピーク強度をXPSを用いてそれぞれ測定し、該測定したピーク強度の割合とすることができる。
【0019】
XPS法は半導体基板の極表層の情報を簡便に精度高く評価できる方法であり、これにより、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、より再現性良く形成することができる。
【0020】
また、本発明は、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれる水素原子の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中の水素原子の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中の水素原子の量を測定し、該測定して得た前記水素原子の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法を提供する。
【0021】
このような半導体基板の熱酸化膜形成方法によれば、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる。その結果、熱酸化工程の管理が容易になる。
【0022】
このとき、前記半導体基板をシリコンウエーハ、前記熱酸化膜をシリコン酸化膜とすることができる。
【0023】
本発明に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法は、特にシリコンウエーハに形成されるシリコン酸化膜に対して好適である。
【0024】
このとき、前記水素原子の量は、前記化学酸化膜のRBS測定を行い、求めた前記化学酸化膜中の水素原子の割合から算出することができる。
【0025】
このような測定の方法によれば、より精度の高い水素原子の量の評価を行うことができる。
【0026】
このとき、前記水素原子の量は、ATR測定用プリズムを用いて前記化学酸化膜のATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近のSiH基の吸光度から算出することができる。
【0027】
ATR−FT−IRは、一般的な透過FT−IRと比較して化学酸化膜中に存在する水素原子に対して感度が高いため、より精度の高い水素原子の量の評価を行うことができる。
【0028】
このとき、前記所定の厚さを1〜10nmとすることができる。
【0029】
形成する熱酸化膜の厚さがこのような範囲であれば、より再現性良く一定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することができる。
【0030】
このとき、前記熱酸化膜の厚さ推定工程において、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より短い時間と決定し、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より長い時間と決定し、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間と同じ時間と決定することができる。
【0031】
また、前記熱酸化膜の厚さ推定工程において、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より低い温度と決定し、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より高い温度と決定し、前記推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、前記熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を前記相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度と同じ温度と決定することができる。
【0032】
これにより、洗浄による表面状態が異なっていても、より容易に安定して一定の厚さの熱酸化膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明の半導体基板の熱酸化膜形成方法によれば、異なる化学酸化膜を持った半導体基板であっても、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる。その結果、熱酸化工程の管理が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】OH基の量(3300cm−1の相対吸光度)と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図2】NHOHの濃度とOH基の量(3300cm−1の相対吸光度)の関係を示した図である。
図3】Oの濃度とOH基の量(3300cm−1の相対吸光度)の関係を示した図である。
図4】NHOHの濃度とAFMにより測定した表面粗さの関係を示した図である。
図5】Oの濃度とAFMにより測定した表面粗さの関係を示した図である。
図6】NHOHの濃度と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図7】Oの濃度と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図8】化学酸化膜の厚さと熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図9】AFMにより測定した表面粗さと熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図10】Si0〜3+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図11】Si4+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図12】X線光電子分光(XPS)測定の一例を示した図である。
図13】シリコン基板上にシリコン酸化膜を有する試料のXPSスペクトルの一例を示した図である。
図14】NHOHの濃度とSi0〜3+のピーク強度の割合の関係を示した図である。
図15】NHOHの濃度とSi4+のピーク強度の割合の関係を示した図である。
図16】Oの濃度とSi0〜3+のピーク強度の割合の関係を示した図である。
図17】Oの濃度とSi4+のピーク強度の割合の関係を示した図である。
図18】RBS測定により求めた水素原子の量(化学酸化膜中の水素原子の割合)と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図19】ATR−FT−IR測定により求めた水素原子の量(2130cm−1の吸光度)と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
図20】NHOH濃度と水素原子の量(化学酸化膜中の水素原子の割合:RBS測定)の関係を示した図である。
図21】NHOH濃度と水素原子の量(2130cm−1の吸光度:ATR−FT−IR測定)の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
上述のように、構成が異なる化学酸化膜を持った半導体基板であっても、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができる半導体基板の熱酸化膜形成方法が求められていた。
【0037】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成を測定し、該測定して得た前記構成と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法により、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができ、その結果、熱酸化工程の管理が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0038】
また、本発明者らは、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれるOH基の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中のOH基の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中のOH基の量を測定し、該測定して得た前記OH基の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法により、洗浄により形成された化学酸化膜の種類によらず、再現性良く、一定の厚さの熱酸化膜を形成することができ、その結果、熱酸化工程の管理が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0039】
また、本発明者らは、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比を求め、該求めた前記化学酸化膜の構成元素の化学量論比と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法により、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができ、その結果、熱酸化工程の管理が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0040】
また、本発明者らは、半導体基板に熱酸化膜を形成する方法であって、予め、洗浄により形成された化学酸化膜を有する半導体基板であって、前記化学酸化膜中に含まれる水素原子の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を準備し、前記複数の半導体基板を同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成し、前記化学酸化膜中の水素原子の量と、前記熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておく相関関係取得工程と、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、該基板洗浄工程における前記洗浄により前記半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中の水素原子の量を測定し、該測定して得た前記水素原子の量と前記相関関係に基づいて、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件と同じ条件で、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、前記熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、前記半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、前記相関関係取得工程における前記熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、該熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、前記半導体基板表面に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法により、熱酸化膜を狙い通りの薄い厚さに、再現性良く形成することができ、その結果、熱酸化工程の管理が容易になることを見出し、本発明を完成した。
【0041】
以下、図面を参照して説明する。
【0042】
本発明者らは、半導体基板の洗浄方法が異なると形成される熱酸化膜の厚さに違いが生じる点について、鋭意調査を行ったところ、半導体基板の洗浄により形成された化学酸化膜の構成が、熱酸化処理に大きな影響を及ぼすことを見出した。そして、このような現象を考慮に入れて酸化条件を調整することで、所定の厚さの薄い熱酸化膜を再現性良く形成することが可能となる熱酸化方法を完成した。
【0043】
例えば、半導体基板がシリコンウエーハであるとき、化学酸化膜はシリコン酸化膜であり、SiO(0<x≦2)と表すことができる。化学酸化膜の構成に関係する元素は、各種分析の結果、シリコンと酸素、そして水素である。ここで、化学酸化膜中のSiOのxを酸素比率と呼ぶ。化学酸化膜及びシリコン界面の酸素比率(x)によって、形成される熱酸化膜の酸化特性が影響を受け、熱酸化膜の形成速度が変化する。酸素比率が変動するということは、酸素以外の元素が異なった比率で存在するということである。
【0044】
水素はSi−Hあるいは、Si−OHの形で存在する。すなわち、これらHが多くなると酸素の存在比率は影響を受け、少なくなる。Hは、他の構成元素である酸素やシリコンと比べて比率は少ないが、Si−Hとしてシリコンを終端したり、シリコンのバックボンドに存在したりすることで、シリコンの結合状態に影響する。またOH基のように官能基として存在し、反応性を決める重要な役割を担う。
【0045】
また、主な構成元素であるシリコンと酸素は、SiOとは結合の比率が異なることでサブオキサイドと呼ばれる。サブオキサイドはシリコン酸化膜の前駆体としての役割があり、形成される熱酸化膜の特性を決める重要な構成である。このように、化学酸化膜の酸素比率に着目して、化学酸化膜の構成と熱酸化膜の厚さとの相関関係を取得することで、熱酸化膜の厚さを制御することが可能になる。
【0046】
本発明においては、相関関係を取得する上で準備する半導体基板は、化学酸化膜の構成が異なってさえいればよいが、その構成は、OH基の量、構成元素の化学量論比、水素原子の量を含む。
【0047】
なお、本明細書では、半導体基板を洗浄することにより形成された酸化膜を、化学酸化膜と定義する。ここで、洗浄の方法、条件は特に限定されない。薬液を使用した洗浄や、純水洗浄等により形成された酸化膜を含む。
【0048】
本発明に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法を説明する。
【0049】
[第一の実施形態]
本発明の第一の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法では、半導体基板の熱酸化処理前に、予め洗浄後の半導体基板表面に形成された化学酸化膜の構成を測定し、化学酸化膜の構成と、この半導体基板を熱酸化したときの熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておき、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面の洗浄後の化学酸化膜の構成によって酸化時間を始めとする熱酸化条件を調整する。これにより、所定の厚さの薄い熱酸化膜を再現性良く形成することが可能になる。
【0050】
本発明の第一の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法を説明する。
(相関関係取得工程)
まず、半導体基板を複数枚準備する。この半導体基板として、シリコンウエーハを用いることが好ましい。この場合、形成される熱酸化膜はシリコン酸化膜である。シリコンウエーハは半導体基板として広く使用されているものであり、特に、デバイス作製工程では熱酸化膜が形成されたりするため、熱酸化膜を形成してシリコンウエーハ自体の評価を行うことで、より正確な評価を行うことができる。
【0051】
まず、準備した半導体基板の表面に酸化膜がない状態にするために、HF(フッ酸)で洗浄することが好ましい。HFで洗浄して酸化膜を除去した後に、さらに洗浄する。HF洗浄の後に行う洗浄方法は特に限定されないが、例えば、SC1洗浄、O洗浄などの薬液を用いた洗浄を行うことができ、あるいは純水リンスなどの洗浄を行うこともできる。HF洗浄の後に行う洗浄により、準備した複数の半導体基板には化学酸化膜が形成される。このとき、複数の半導体基板の化学酸化膜の構成が、それぞれ異なるものとなるようにする。薬液を用いた方法で洗浄を行う場合、洗浄条件を変更するなどすれば、化学酸化膜の構成が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。相関関係を取得するための洗浄処理のため、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施することが好ましい。
【0052】
次に、洗浄によって形成された化学酸化膜の構成を測定する。このとき、化学酸化膜の構成の違いを明確にできる測定であれば、特に限定されない。
【0053】
次に、化学酸化膜の構成がそれぞれ異なる複数の半導体基板を、同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成する。熱酸化膜の形成条件は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。そして、形成した熱酸化膜の厚さを測定する。測定は、例えば、分光エリプソなどで行うことができる。
【0054】
このようにして求めた化学酸化膜の構成と、形成した熱酸化膜の厚さとの相関関係を求める。
【0055】
なお、化学酸化膜の構成の測定や熱酸化膜の厚さの測定は、熱酸化膜を形成する半導体基板と同じ洗浄処理、熱酸化処理を行ったモニターウェーハなどを用いたり、同一の処理を行った半導体基板の一部を抜き取ったりして行うこともできる。
【0056】
(基板洗浄工程)
次に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を新たに準備し、洗浄を行う。洗浄方法は限定されず、異物の除去、金属汚染物の除去、保護のための酸化膜の形成等、目的に応じた洗浄を行うことができる。
【0057】
(熱酸化膜の厚さ推定工程)
まず、基板洗浄工程で行った洗浄により、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の表面に形成された化学酸化膜の構成を測定する。熱酸化処理を行う前に、予め試験片等の測定を行い、化学酸化膜の構成を求める。化学酸化膜の構成と、相関関係取得工程で得られた相関関係に基づいて、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する。
【0058】
(熱酸化処理条件決定工程)
半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、相関関係取得工程における熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する。例えば、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、厚く形成されることが推定できた場合には、実際の熱酸化処理条件は、相関関係取得工程における熱酸化処理条件から、形成される熱酸化膜の厚さが薄くなる方向に条件を変更して決定する。
【0059】
半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法として、例えば、酸化時間により調整することが可能である。この場合、酸化膜の厚さが酸化時間のルート(平方根)に比例する計算式を用いることができる。
具体的には、熱酸化膜の厚さ推定工程において、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より短い時間と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間より長い時間と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理時間を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理時間と同じ時間と決定することができる。
【0060】
或いは、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法として、例えば、酸化温度により調整することが可能である。この場合、予め酸化温度と酸化膜の厚さの関係を取得しておき、その関係を用いることができる。
具体的には、熱酸化膜の厚さ推定工程において、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より低い温度と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度より高い温度と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理温度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理温度と同じ温度と決定することができる。
【0061】
或いは、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法として、半導体基板の酸化に寄与する成分、例えば、熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度を調整することで熱酸化膜の厚さを所定の厚さに制御することも可能である。
具体的には、熱酸化膜の厚さ推定工程において、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより厚い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度より低い濃度と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さより薄い場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度より高い濃度と決定することができる。
また、推定される熱酸化膜の厚さが所定の厚さと等しい場合は、熱酸化処理条件決定工程において、熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度を相関関係取得工程における熱酸化処理条件の熱酸化処理雰囲気の酸素含有濃度と同じ濃度と決定することができる。
【0062】
熱酸化膜を形成する方法は上記の方法に限定されず、自由に決定することができるが、上記のような方法であれば熱酸化膜の厚さを調整するのが容易であるため好ましい。
【0063】
(熱酸化膜形成工程)
熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、半導体基板表面に熱酸化膜を形成する。
【0064】
[第二の実施形態]
本発明の第二の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法では、化学酸化膜中に含まれるOH基の量の違いに着目し、半導体基板の熱酸化処理前に、予め洗浄後の半導体基板表面に形成された化学酸化膜のOH基の量と、この半導体基板を熱酸化したときの熱酸化膜の厚さに相関関係を求めておき、OH基の量によって酸化時間を始めとする熱酸化処理条件を調整する。これにより、所定の厚さの酸化膜を再現性よく形成することが可能になる。
【0065】
本発明者は、半導体基板の洗浄方法が異なると形成される熱酸化膜の厚さに違いが生じる点について、鋭意調査を行ったところ、半導体基板の洗浄により形成された化学酸化膜中のOH基の量が、熱酸化処理に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0066】
図1は、シリコンウエーハ表面の化学酸化膜中のOH基の量(3300cm−1の相対吸光度)とシリコン熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。3300cm−1の相対吸光度が大きくなるにしたがって、熱酸化膜の厚さが厚くなっていることが分かる。この現象は、ガスを使用した熱酸化の場合にWet酸化の酸化速度がDry酸化よりも大きくなることと同様であり、シリコンウエーハ表面に形成された化学酸化膜中に含まれるOH基の量の違いによって熱酸化処理後の熱酸化膜の厚さが異なると考えられる。
【0067】
なお、化学酸化膜中に含まれるOH基の量は、例えば、化学酸化膜の赤外線吸収特性を調べることで求めることができる。赤外線吸収特性の測定として、例えば、FT−IR測定を行い、3300cm−1付近の相対吸光度からOH基の量を算出することができる。この場合、3300cm−1付近の相対吸光度の値を、OH基の量を表す指標とすることができる。以下の説明では、「3300cm−1付近の相対吸光度」を「OH基の量」と表現することもある。
【0068】
本発明の第二の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法を説明する。
(相関関係取得工程)
まず、第一の実施形態と同様に半導体基板を複数枚準備する。
次に、準備した半導体基板の表面に酸化膜がない状態にするために、HF(フッ酸)で洗浄することが好ましい。HFで洗浄して酸化膜を除去した後に、さらに洗浄する。HF洗浄の後に行う洗浄方法は特に限定されないが、例えば、SC1洗浄、O洗浄などの薬液を用いた洗浄を行うことができ、あるいは純水リンスなどの洗浄を行うこともできる。HF洗浄の後に行う洗浄により、準備した複数の半導体基板には化学酸化膜が形成される。このとき、複数の半導体基板の化学酸化膜中に含まれるOH基の量は、それぞれ異なるものとなるようにする。薬液を用いた方法で洗浄を行う場合、OH基の濃度が異なる薬液を用いることで、簡便にOH基の量が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。さらに、SC1洗浄であれば、NHOH濃度が高くアルカリ性が強いほど、3300cm−1の吸光度も大きくなり(すなわちOH基が多く含まれ)、NHOH濃度を変化させることでより簡便にOH基の量が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。相関関係を取得するための洗浄処理のため、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施することが好ましい。
【0069】
次に、洗浄によって形成された化学酸化膜中に含まれるOH基の量を測定する。このとき、ATR測定用プリズムを用いて化学酸化膜のATR―FT−IR測定を行うことが好ましい。ATR―FT−IR測定は一般的な透過FT−IRに比べて、半導体基板表面に存在するOH基に対して十分な感度で評価することができる。
【0070】
次に、化学酸化膜中に含まれるOH基の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を、同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成する。熱酸化膜の形成条件は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。そして、形成した熱酸化膜の厚さを測定する。測定は、例えば、分光エリプソなどで行うことができる。
【0071】
上記で求めた化学酸化膜中のOH基の量と、形成した熱酸化膜の厚さとの相関関係を求める。熱酸化膜の厚さと化学酸化膜中のOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の間には図1のような相関が見られ、化学酸化膜中のOH基の量が多いほど熱酸化膜の厚さが厚くなる傾向が見られる。この結果を利用して、半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中のそれぞれのOH基の量に対応した、熱酸化時間等の熱酸化処理条件を調整することで、洗浄による表面状態が異なっても、一定の厚さの熱酸化膜を形成することが可能になる。
【0072】
なお、化学酸化膜中のOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の測定や熱酸化膜の厚さの測定は、熱酸化膜を形成する半導体基板と同じ洗浄処理、熱酸化処理を行ったモニターウェーハなどを用いたり、同一の処理を行った半導体基板の一部を抜き取ったりして行うこともできる。
【0073】
(基板洗浄工程)
次に、第一の実施形態と同様に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を新たに準備し、洗浄を行う。洗浄方法は限定されず、異物の除去、金属汚染物の除去、保護のための酸化膜の形成等、目的に応じた洗浄を行うことができる。
【0074】
(熱酸化膜の厚さ推定工程)
まず、基板洗浄工程で行った洗浄により、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中のOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)を測定する。熱酸化処理を行う前に、予め試験片等の3300cm−1付近の相対吸光度をATR−FT−IR測定し、化学酸化膜中のOH基の量を、3300cm−1付近の相対吸光度から算出し、求める。測定して得たOH基の量と、相関関係取得工程で得られた相関関係に基づいて、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する。
【0075】
具体例で説明すると、図1のような相関関係が取得できた場合に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄後の化学酸化膜中のOH濃度が、3300cm−1の相対吸光度の数値として「0.18」と求められた場合、この半導体基板を相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、5.15nm程度の熱酸化膜が形成されると推定できる。
【0076】
(熱酸化処理条件決定工程)
第一の実施形態と同様に、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、相関関係取得工程における熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する。例えば、上記の具体例では、形成すべき熱酸化膜の所定の厚さが5.1nmであった場合、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、厚めに形成されることが推定できているため、実際の熱酸化処理条件は、相関関係取得工程における熱酸化処理条件から、形成される熱酸化膜の厚さが減少する方向に条件を変更して決定する。
【0077】
なお、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法は、第一の実施形態と同様である。
【0078】
(熱酸化膜形成工程)
最後に、第一の実施形態と同様に、熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、半導体基板表面に熱酸化膜を形成する。
【0079】
[第三の実施形態]
また、本発明の第三の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法では、化学酸化膜の構成元素の化学量論比の違いに着目し、半導体基板の熱酸化処理前に、予め洗浄後の半導体基板表面に形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比を求め、化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、この半導体基板を熱酸化したときの熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておき、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面の洗浄後の化学酸化膜の構成元素の化学量論比によって酸化時間を始めとする熱酸化条件を調整する。これにより、所定の厚さの酸化膜を再現性良く形成することが可能になる。
【0080】
本発明者らは、半導体基板の洗浄方法が異なると形成される熱酸化膜の厚さに違いが生じる点について、鋭意調査を行ったところ、半導体基板の洗浄により形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比が、熱酸化処理に大きな影響を及ぼすことを見出した。
【0081】
本発明の第三の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法を説明する。
(相関関係取得工程)
まず、第一の実施形態と同様に半導体基板を複数枚準備する。
次に、準備した半導体基板の表面に酸化膜がない状態にするために、HF(フッ酸)で洗浄することが好ましい。HFで洗浄して酸化膜を除去した後に、さらに洗浄する。HF洗浄の後に行う洗浄方法は特に限定されないが、例えば、SC1洗浄、O洗浄などの薬液を用いた洗浄を行うことができ、あるいは純水リンスなどの洗浄を行うこともできる。HF洗浄の後に行う洗浄により、準備した複数の半導体基板には化学酸化膜が形成される。このとき、複数の半導体基板の化学酸化膜の構成元素の化学量論比は、それぞれ異なるものとなるようにする。薬液を用いた方法で洗浄を行う場合、濃度が異なる様々な種類の薬液を用いることで、簡便に化学酸化膜の構成元素の化学量論比が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。相関関係を取得するための洗浄処理のため、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施することが好ましい。また、洗浄方法によって薬液の濃度と化学量論比の相関が得られる範囲はそれぞれ異なるため、相関関係を取得する上で、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施して、複数の洗浄条件と化学量論比の相関関係を得ておくことが好ましい。
【0082】
次に、洗浄によって形成された化学酸化膜の構成元素の化学量論比を求める。
なお、化学酸化膜の構成元素の化学量論比の測定、評価方法は特に限定されず、化学酸化膜の構成元素の化学量論比が測定できる方法であればどのような方法であってもよい。例えば、XPS法は半導体基板の極表層の情報を簡便に精度高く評価できる方法であり、本発明に係る化学量論比の評価に好適に用いることができる。化学酸化膜の構成元素のうち、半導体基板の基板原子が酸素原子と結合していない状態と基板原子が酸素原子と結合してサブオキサイドとなっている状態の結合エネルギーのピーク強度、及び、基板原子が酸素原子と完全に結合している状態の結合エネルギーのピーク強度を、XPSを用いてそれぞれ測定し、測定したピーク強度の割合とすることができる。
【0083】
半導体基板がシリコン基板、形成される酸化膜がシリコン酸化膜であるとき、化学酸化膜の構成元素はSiとOである。このとき化学量論比は、化学酸化膜中のSi原子とO原子の原子結合状態の割合、すなわち、酸素原子と結合していない状態のSi−Si結合のものと酸素原子と結合している状態のSi−O結合(シリコン酸化物)のうちいわゆるサブオキサイドのもの、及び、Si−O結合のうち酸素原子と完全に結合してSiOとなっているものの割合とすることができる。それぞれの結合の存在する割合は、XPSにより結合エネルギーのピーク強度を測定することで求めることができる。
【0084】
XPS法は、図12に一例を示すように、試料表面(シリコン4上に形成されたシリコン酸化膜3の表面)にX線源1よりX線を照射して試料表面から放出される光電子(最外殻電子から)を検出器2で検出し、運動エネルギーを計測して、試料表面を構成する元素の組成や化学結合状態を分析する手法である。このとき照射するX線源は特に限定されず、目的とする化学酸化膜の構成元素の化学量論比が測定できるものであれば、どのようなエネルギーのものでも良い。さらに、放出された光電子の運動エネルギーは、原子の価電荷(価数)や原子間の距離などの、原子周囲の電子状態から影響を受ける。エネルギーの変化(化学シフト)を観察することで化学結合状態を比較的容易に識別できる。光電子の平均自由工程はシリコンで2.1nm、シリコン酸化膜で3.3nmと言われており、特に、シリコン基板の最表面の評価に適した手法の一つであると考えられる。
【0085】
図13に、シリコン基板に薄いシリコン酸化膜が存在するサンプルのXPSスペクトルの一例を示す。シリコンの最外殻電子が存在するsp3軌道のエネルギー範囲について図示している。反応に寄与するのは最外殻電子であり、反応に寄与しない内殻電子は割愛した。横軸が結合エネルギーで縦軸が光電子のカウント数である。結合エネルギーはSiとOの結合状態によって変化するため、結合状態や結合原子を評価することが可能になる。また、縦軸は光電子のカウント数であり、それぞれの結合状態ごとの数によって変化する。
【0086】
化学酸化膜がシリコン酸化膜であるとき、99〜100eVのSi−Si結合に起因する結合状態(Si)と、101〜105eVのシリコン原子が酸素原子と結合した状態に相当する結合状態(Si1+〜4+)に分けることができる。ここで、SiのSi−Si結合のピークが2つに分離しているのはスピン軌道相互作用によるものである。また、シリコン原子に酸素原子が1個結合するとSi1+であり、シリコン原子に酸素原子が4個結合しているSiOの状態がSi4+である。ここで、シリコン原子と酸素原子の結合状態が4種存在するのは、酸化膜が薄く、必ずしも化学量論的な組成になっていないためである。
【0087】
Si−O結合でもスピン軌道相互作用は存在するが、通常のXPSではエネルギー分解能の問題で観察されない。また、サブオキサイドに相当するSi1+からSi3+の結合エネルギーは強度が低く明確には見られていないが、過去の知見から存在エネルギーが分かっており、各ピークの強度についてスペクトル分離を行い、強度を求めている。
【0088】
シリコン基板上のシリコン酸化膜の構成元素の化学量論比、すなわちSiとOの結合エネルギーのピーク強度の割合を求めるにあたって、SiO組成となっているSi4+のピーク強度と、酸素によって酸化することができるSiからSi3+それぞれのピーク強度を積算した。明確なピークがないSi1+〜3+についてはスペクトル分離を行った。すなわち、酸化される可能性のあるSi成分であるものをすべて合算してSi0〜3+とし、酸化が進行し完全な化学量論となっているSi4+の成分と分離し、図13のように求めたピーク強度の面積を求めてピーク強度の割合とした。
【0089】
以上のようにして得られたSi0〜3+のピーク強度とSi4+のピーク強度の割合を全て合算し、Si0〜3+とSi4+それぞれの割合(百分率)をピーク強度の割合として求めることができる。このピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの相関関係を取得する。
【0090】
次に、化学酸化膜の構成元素の化学量論比がそれぞれ異なる複数の半導体基板を、同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成する。熱酸化膜の形成条件は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。そして、形成した熱酸化膜の厚さを測定する。測定は、例えば、分光エリプソ法などで行うことができる。
【0091】
上記で求めた化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、形成した熱酸化膜の厚さとの相関関係を求める。図10はSi0〜3+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの関係を示した図であり、図11はSi4+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。熱酸化膜の厚さと化学酸化膜の構成元素の化学量論比の間には図10図11のような相関が見られ、Si0〜3+のピーク強度の割合が大きくなるにしたがって、熱酸化膜の厚さが厚くなっていることが分かる。また、Si4+のピーク強度の割合が小さくなるにしたがって、熱酸化膜の厚さが厚くなっていることが分かる。この結果を利用して、半導体基板の表面に形成されたSiとOの結合のピーク強度の割合、すなわち化学酸化膜の構成元素の化学量論比に対応した、熱酸化時間等の熱酸化処理条件を調整することで、洗浄による表面状態が異なっても、一定の厚さの熱酸化膜を形成することが可能になる。
【0092】
なお、化学酸化膜の構成元素の化学量論比の分析や熱酸化膜の厚さの測定は、熱酸化膜を形成する半導体基板と同じ洗浄処理、熱酸化処理を行ったモニターウェーハなどを用いたり、同一の処理を行った半導体基板の一部を抜き取ったりして行うこともできる。
【0093】
(基板洗浄工程)
次に、第一の実施形態と同様に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を新たに準備し、洗浄を行う。洗浄方法は限定されず、異物の除去、金属汚染物の除去、保護のための酸化膜の形成等、目的に応じた洗浄を行うことができる。
【0094】
(熱酸化膜の厚さ推定工程)
まず、基板洗浄工程で行った洗浄により熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の表面に形成された、化学酸化膜の構成元素の化学量論比を分析する。熱酸化処理を行う前に、相関関係取得工程での測定と同様にして、予め試験片等の基板原子と酸素原子との結合の種類ごとに結合エネルギーを測定し、化学酸化膜の構成元素の化学量論比を算出し、求めることができる。求めた化学酸化膜の構成元素の化学量論比と、相関関係取得工程で得られた相関関係に基づいて、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する。
【0095】
具体例で説明すると、図10のような相関関係が取得できた場合に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄後のSi0〜3+の結合のピーク強度の割合、すなわち化学酸化膜の構成元素の化学量論比が、「81.5%」と求められた場合、この半導体基板を相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、5.05nm程度の熱酸化膜が形成されると推定できる。
【0096】
(熱酸化処理条件決定工程)
第一の実施形態と同様に、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、相関関係取得工程における熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する。例えば、上記の具体例では、形成すべき熱酸化膜の所定の厚さが5.10nmであった場合、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、薄く形成されることが推定できているため、実際の熱酸化処理条件は、相関関係取得工程における熱酸化処理条件から、形成される熱酸化膜の厚さが厚くなる方向に条件を変更して決定する。
【0097】
なお、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法は、第一の実施形態と同様である。
【0098】
(熱酸化膜形成工程)
最後に、第一の実施形態と同様に、熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、半導体基板表面に熱酸化膜を形成する。
【0099】
[第四の実施形態]
また、本発明の第四の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法では、化学酸化膜中に含まれる水素原子の量に着目し、半導体基板の熱酸化処理前に、予め洗浄後の半導体基板表面に形成された化学酸化膜中の水素原子の量を測定し、水素原子の量と、この半導体基板を熱酸化したときの熱酸化膜の厚さとの相関関係を求めておき、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面の洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の量によって酸化時間を始めとする熱酸化条件を調整する。これにより、所定の厚さの薄い熱酸化膜を再現性良く形成することが可能になる。
【0100】
本発明者らは、半導体基板の洗浄方法が異なると形成される熱酸化膜の厚さに違いが生じる点について、鋭意調査を行ったところ、半導体基板の洗浄により形成された化学酸化膜中の水素原子の量が、熱酸化処理に大きな影響を及ぼすことを見出した。そして、このような現象を考慮に入れて酸化条件を調整することで、所定の厚さの薄い熱酸化膜を再現性良く形成することが可能となる熱酸化方法を完成した。
【0101】
本発明の第四の実施形態に係る半導体基板の熱酸化膜形成方法を説明する。
(相関関係取得工程)
まず、第一の実施形態と同様に半導体基板を複数枚準備する。
次に、準備した半導体基板の表面に酸化膜がない状態にするために、HF(フッ酸)で洗浄することが好ましい。HFで洗浄して酸化膜を除去した後に、さらに洗浄する。HF洗浄の後に行う洗浄方法は特に限定されないが、例えば、SC1洗浄、O洗浄などの薬液を用いた洗浄を行うことができ、あるいは純水リンスなどの洗浄を行うこともできる。HF洗浄の後に行う洗浄により、準備した複数の半導体基板には化学酸化膜が形成される。このとき、複数の半導体基板の化学酸化膜中の水素原子の量は、それぞれ異なるものとなるようにする。薬液を用いた方法で洗浄を行う場合、濃度が異なる様々な種類の薬液を用いることで、簡便に化学酸化膜中の水素原子の量が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。さらに、SC1洗浄であれば、NHOH濃度が高くアルカリ性が強いほど、水素原子の割合あるいは2130cm−1の吸光度は小さく(すなわち水素原子が含まれる量は少なく)なり、NHOH濃度を変化させることでより簡便に水素原子の量が異なる半導体基板とすることができるため好ましい。相関関係を取得するための洗浄処理のため、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施することが好ましい。また、洗浄方法によって薬液の濃度と水素原子の量の相関が得られる範囲はそれぞれ異なるため、相関関係を取得する上で、できるだけ多くの異なる洗浄の種類及び/又は洗浄条件で実施して、複数の洗浄条件と水素原子の量の相関関係を得ておくことが好ましい。
【0102】
次に、洗浄によって形成された化学酸化膜中の水素原子の量を求める。
なお、化学酸化膜中の水素原子の量の求め方、評価方法は特に限定されず、化学酸化膜中の水素原子の量を求めることができる方法であればどのような方法であってもよい。例えば、化学酸化膜の赤外線吸収特性を調べることで求めることができる。赤外線吸収特性の測定として、例えば、ATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近の吸光度から水素原子の量を算出することができる。この場合、2130cm−1付近の吸光度は、SiHのSi−Hの伸縮振動に該当する相対吸光度の値であり、水素原子の量を表す指標とすることができる。また、別の水素原子の量の求め方として、例えば、ラザフォード後方散乱分析(RBS)を行って化学酸化膜中の水素原子の割合を求め、算出することもできる。この場合、水素原子の割合を水素原子の量を表す指標とすることができる。以下では、「2130cm−1の吸光度」や「水素原子の割合」を、「水素原子の量」と言うことがある。
【0103】
次に、化学酸化膜中の水素原子の量がそれぞれ異なる複数の半導体基板を、同じ熱酸化処理条件で熱酸化処理して熱酸化膜を形成する。熱酸化膜の形成条件は特に限定されず、通常の方法で行うことができる。そして、形成した熱酸化膜の厚さを測定する。測定は、例えば、分光エリプソ法などで行うことができる。
【0104】
上記で求めた化学酸化膜中の水素原子の量と、形成した熱酸化膜の厚さとの相関関係を求める。図18は、RBS測定により求めた水素原子の量(化学酸化膜中の水素原子の割合)と熱酸化膜の厚さの関係を示した図であり、図19は、ATR−FT−IR測定により求めた水素原子の量(2130cm−1の吸光度)と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。熱酸化膜の厚さと化学酸化膜中の水素原子の量の間には図18図19のような相関が見られ、水素原子の量が多いほど熱酸化膜の厚さが薄くなる傾向が見られた。このような傾向が見られた要因として、例えば非特許文献1に示されているように、水素で終端されたシリコンは表面が安定化して不活性化するということが知られており、このことから洗浄により表面に形成された化学酸化膜中に含まれる水素原子の量の違いによって酸化速度が異なり、同じ条件で熱酸化しても熱酸化後の膜厚が異なると考えられる。この図18図19の結果を利用して、半導体基板の表面に形成された化学酸化膜中の水素原子の量に対応した、熱酸化時間等の熱酸化処理条件を調整することで、洗浄による表面状態が異なっても、一定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することが可能になる。
【0105】
なお、化学酸化膜中の水素原子の量の分析や熱酸化膜の厚さの測定は、熱酸化膜を形成する半導体基板と同じ洗浄処理、熱酸化処理を行ったモニターウエーハなどを用いたり、同一の処理を行った半導体基板の一部を抜き取ったりして行うこともできる。
【0106】
(基板洗浄工程)
次に、第一の実施形態と同様に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を新たに準備し、洗浄を行う。洗浄方法は限定されず、異物の除去、金属汚染物の除去、保護のための酸化膜の形成等、目的に応じた洗浄を行うことができる。
【0107】
(熱酸化膜の厚さ推定工程)
まず、基板洗浄工程で行った洗浄により熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の表面に形成された、化学酸化膜中の水素原子の量を分析する。熱酸化処理を行う前に、相関関係取得工程での測定と同様にして、予め試験片等の化学酸化膜中に含まれる水素原子に相当する2130cm−1の吸光度あるいは水素原子の割合を測定し、化学酸化膜中の水素原子の量を算出し、求めることができる。求めた化学酸化膜中の水素原子の量と、相関関係取得工程で得られた相関関係に基づいて、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの、熱酸化膜を形成する対象の半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さを推定する。
【0108】
具体例で説明すると、図18のような相関関係が取得できた場合に、実際に熱酸化膜を形成する対象の半導体基板の洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の割合が、「10%」と求められた場合、この半導体基板を相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、5.15nm程度の熱酸化膜が形成されると推定できる。
【0109】
(熱酸化処理条件決定工程)
第一の実施形態と同様に、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように、相関関係取得工程における熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する。例えば、上記の具体例では、形成すべき熱酸化膜の所定の厚さが5.10nmであった場合、相関関係取得工程における熱酸化処理条件と同じ条件で処理すると、厚く形成されることが推定できているため、実際の熱酸化処理条件は、相関関係取得工程における熱酸化処理条件から、形成される熱酸化膜の厚さが薄くなる方向に条件を変更して決定する。
【0110】
なお、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが所定の厚さになるように調整する方法は、第一の実施形態と同様である。
【0111】
(熱酸化膜形成工程)
最後に、第一の実施形態と同様に、熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で熱酸化処理し、半導体基板表面に熱酸化膜を形成する。
【0112】
以上のような本発明に係る第一〜第四の実施形態の各工程を経て半導体基板に熱酸化膜を形成することで、異なる化学酸化膜を有する半導体基板であっても、再現性良く所定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することができる。また、どのような種類の洗浄を行ったかにかかわらず、再現性良く所定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することができる。
【0113】
なお、本発明においては、半導体基板表面に形成される熱酸化膜の厚さが1〜10nmの範囲と薄い場合に、より顕著な効果を奏するため、このような範囲の熱酸化膜を形成するのに好適である。
【実施例】
【0114】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0115】
(実験例1)
直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコンウエーハを準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、70℃でSC1洗浄を行った。このときに、NHOH濃度を3、0.3、0.03、0.001%と変化させた。また、別の洗浄としてO洗浄(24℃)を、O濃度を3、20、40ppmと振って行った。
【0116】
この後、予めシリコンウエーハから試験片を切り出してATR−FT−IR測定を行い、3300cm−1の相対吸光度を測定し、NHOH濃度、O濃度と、化学酸化膜中のOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の比較を行った。その結果を、図2図3に示す。図2は、NHOH濃度とOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の関係を示した図である。図3は、Oの濃度とOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の関係を示した図である。図2に示すように、NHOH濃度が高くなるに従い、OH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)も大きくなり、OH基が多く含まれていることがわかる。一方、図3に示すように、Oの場合は、O濃度のOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)に対する依存性は見られなかった。
【0117】
OH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)が洗浄条件により異なるのは、SC1洗浄の場合、NHOH濃度が高くアルカリ性が強いほどOH基が多く含まれるが、O洗浄の場合、薬液がほぼ中性でありOH基の量が少ないためと考えられる。
【0118】
さらに、洗浄後のシリコンウエーハの表面粗さ(化学酸化膜の表面粗さ)を、AFM(1μm角)で面内9点の測定を行った。その結果、面内ではほとんどばらつきがなく、同じような粗さであった。なお、図4に示すように、NHOH濃度が高くなると表面粗さ(Ra)が大きくなっており、NHOH濃度と粗さに相関が見られた。これは、NHOHはアルカリ性であるためにシリコンのエッチングにおいて異方性が存在することが知られており、NHOH濃度が大きくなることでシリコンのエッチング量が多くなり、面方位依存性が強く出たために面粗さが大きくなったためと考えられる。一方、図5に示すように、O洗浄の場合はSC1洗浄の場合ほどの顕著な相関はみられなかった。
【0119】
このようなウエーハを、熱酸化膜の厚さが5.1nmとなるよう狙って熱酸化(900℃、酸素5%、60min)した後に、熱酸化膜の厚さを分光エリプソにて測定した。その結果を、図6、7に示す。図6は、NHOHの濃度と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。図7は、Oの濃度と熱酸化膜の厚さの関係を示した図である。
【0120】
上述のようにして行った実験の結果をもとに、得られた化学酸化膜の特性値と熱酸化膜の厚さの関係を調査したところ、図8、9に示すように、化学酸化膜の厚さや表面粗さと、熱酸化膜の厚さには相関が見られなかった。一方、図1に示すように、熱酸化膜の厚さと3300cm−1付近の相対吸光度には相関が見られ、OH基の量が多いほど熱酸化膜の厚さが厚くなる傾向があることがわかった。図1に示す熱酸化膜の厚さとOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)の相関関係を利用し、実際に熱酸化膜を形成するときの条件を決定すると、狙った熱酸化膜の厚さに近い熱酸化膜を形成することができることがわかった。
【0121】
(実施例1)
本実施例1では、GOI測定のような電気特性評価を行うことを前提として、目標とする熱酸化膜の膜厚を5.10nmとし、洗浄条件の異なる基板の熱酸化膜の膜厚を、この値(5.10nm)に揃えることを目標とした。上記電気特性評価では、酸化膜厚がばらつくと測定結果に影響することが知られており、特に1〜10nmのような薄い領域では、酸化膜が薄いと直接トンネル電流が発生し、GOI測定ができなくなることがあるので、膜厚の調整は非常に重要である。尚、実施例2〜8においてもGOI測定のような電気特性評価を行うことを前提として、洗浄条件の異なる基板の熱酸化膜の膜厚を、5.10nmに揃えることを目標とした。
【0122】
上記実験例1と同様にして、OH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。まず、直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコンウエーハを複数枚準備し、表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、それぞれ、SC1洗浄(70℃、NHOH濃度:3、0.3、0.03、0.001%)とO洗浄(24℃、O濃度:3、20、40ppm)を行って、OH基の量が異なるウエーハを作製した。次に、それぞれのシリコンウエーハから試験片を切り出してATR−FT−IR測定を行い、3300cm−1の相対吸光度を測定しておいた。その後、所定の熱酸化処理(900℃、酸素5%、60min)を各洗浄条件のウエーハごとに行い、熱酸化膜の厚さを測定して、OH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。このとき、相関関係を取得する熱酸化膜の厚さは、5.1nm付近とした。これにより、図1に示す相関関係が得られた。
【0123】
その後、異なる条件で洗浄を行った2種類のウエーハ(サンプルA、Bとする)を準備した。熱酸化処理を行う前に、予め、サンプルA、Bと同じ条件で処理した試験片を用いてATR−FT−IR測定を行い、3300cm−1の相対吸光度を測定した。サンプルA、BのそれぞれのOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)は、0.12と0.18であった。この結果と、先に求めたOH基の量(3300cm−1付近の相対吸光度)と酸化膜の厚さの関係から、相関関係を取得したときと同じ条件(900℃、酸素5%、60min)で熱酸化処理する場合に形成される熱酸化膜の厚さは、それぞれ、サンプルAが5.05nm、サンプルBが5.15nmと推定した。
【0124】
推定した熱酸化膜の厚さから、目標とする熱酸化膜の厚さ(5.1nm)になるように、酸化時間を調整し、サンプルAでは酸化時間を63min、サンプルBでは58minとして実際の熱酸化処理を行った。熱酸化処理後に分光エリプソで熱酸化膜の厚さを測定した結果、熱酸化膜の厚さはサンプルA、Bともに、5.1nmとなり、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0125】
(実施例2)
目標とする熱酸化膜の厚さ(5.1nm)になるように、予め取得しておいた熱酸化温度と熱酸化膜の厚さの関係を用いて、熱酸化温度を調整したこと以外は、実施例1と同様にして、サンプルA、Bの熱酸化処理を行い、熱酸化膜を形成した。具体的には、熱酸化温度を、サンプルAでは910℃、サンプルBでは890℃に調整した。その結果、サンプルA、Bともに、熱酸化膜の厚さを5.1nmとすることができ、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0126】
実施例1、2に示すように、洗浄後の化学酸化膜中のOH基の量に応じて、熱酸化条件を設定することで、シリコンウェーハに形成された化学酸化膜の種類によらず、同じ厚さの熱酸化膜を形成できることがわかる。このことは、異なる洗浄方法、洗浄条件で洗浄を行ったウェーハであっても、熱酸化膜の厚さを同じ厚さに揃えることができることを意味している。その結果、熱酸化工程の管理が容易になることがわかった。
【0127】
(実験例2)
直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコン基板を準備し、シリコン基板表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、70℃でSC1洗浄を行った。このときに、NHOH濃度を3、0.3、0.03、0.01%と変化させた。また、別の洗浄としてO洗浄(24℃)を、O濃度を3、20、40ppmと振って行った。
【0128】
この後、予めシリコン基板から試験片を切り出してXPS測定を行い、Si0〜3+と、Si4+のピーク強度を測定し、NHOH濃度と、Si0〜3+と、Si4+のピーク強度の割合の比較を行った。その結果を、図14図15に示す。図14は、NHOHの濃度とSi0〜3+のピーク強度の割合の関係を示した図である。図15は、NHOHの濃度とSi4+のピーク強度の割合の関係を示した図である。また、同様にピーク強度を測定し、O濃度と、Si0〜3+と、Si4+のピーク強度の割合の比較を行った。その結果を、図16図17に示す。図16は、Oの濃度とSi0〜3+のピーク強度の割合の関係を示した図である。図17は、Oの濃度とSi4+のピーク強度の割合の関係を示した図である。その結果、NHOH濃度が高くなるに従い、Si0〜3+のピーク強度の割合が大きくなるが、Si4+のピーク強度の割合は逆に小さくなる傾向になる。一方で、Oの場合は、O濃度の化学酸化膜の構成元素のピーク強度の割合に対する依存性は見られなかった。
【0129】
このような基板をすべて、熱酸化膜の厚さが5.1nmとなるように狙って熱酸化(900℃、酸素5%、60min)した後に、熱酸化膜の厚さを分光エリプソ法にて測定した。
【0130】
上述のようにして行った実験の結果から、図10図11に示すような相関関係が得られた。図10図11に示すように、熱酸化膜の厚さとSi0〜3+、Si4+のピーク強度の割合には相関が見られ、Si0〜3+のピーク強度の割合が大きいほど熱酸化膜の厚さが厚くなる傾向があること、Si4+のピーク強度の割合が小さいほど熱酸化膜の厚さが厚くなる傾向があることがわかった。また、図10図11に示す熱酸化膜の厚さと化学酸化膜の構成元素のピーク強度の割合の相関関係から、例えば、図10図11の点線のような検量線を引き、この検量線を用いて、対象のシリコン基板の化学酸化膜の構成元素のピーク強度の割合から形成される熱酸化膜の厚さを推定し、実際に熱酸化膜を形成するときの条件を決定すると、狙った熱酸化膜の厚さに近い熱酸化膜を形成することができることがわかった。O濃度の化学量論比に対する依存性は見られなかったが、化学量論比とO洗浄後に形成した熱酸化膜の厚さの間には良い相関が見られた。
【0131】
(実施例3)
上記実験例2と同様にして、Si0〜3+、Si4+のそれぞれのピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。まず、直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコン基板を複数枚準備し、シリコン基板表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、それぞれ、SC1洗浄(70℃、NHOH濃度:3、0.3、0.03、0.01%)とO洗浄(24℃、O濃度:3、20、40ppm)を行って、Si0〜3+、Si4+のピーク強度の割合が異なる基板を作製した。次に、それぞれのシリコン基板から試験片を切り出してXPS測定を行い、Si0〜3+とSi4+のピーク強度を測定しておいた。その後、所定の熱酸化処理(900℃、酸素5%、60min)を各洗浄条件の基板ごとに行い、熱酸化膜の厚さを測定して、Si0〜3+と、Si4+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。このとき、相関関係を取得する熱酸化膜の厚さは、5.1nm付近とした。これにより、図10図11に示す相関関係が得られた。図10図11中の点線が検量線である。それぞれの検量線の式は下記の通りである。
(酸化膜厚nm)=0.0342×(Si0〜3+のピーク強度の割合)+2.26
(酸化膜厚nm)=−0.0342×(Si4+のピーク強度の割合)+5.68
【0132】
その後、異なる条件で洗浄を行った2種類の基板(サンプルA、Bとする)を準備した。熱酸化処理を行う前に、予め、サンプルA、Bと同じ条件で処理した試験片を用いてXPS測定を行い、Si0〜3+とSi4+のピーク強度を測定した。その結果、表1に示すように、サンプルA、Bのそれぞれのピーク強度の割合は、Si0〜3+のピーク強度の割合がサンプルAで81.5%、サンプルBで84.5%、Si4+のピーク強度の割合がサンプルAで18.5%、サンプルBで15.5%であった。
【0133】
【表1】
【0134】
この結果と、先に求めたSi0〜3+と、Si4+のピーク強度の割合と熱酸化膜の厚さの関係から、相関関係を取得したときと同じ条件(900℃、酸素5%、60min)で熱酸化処理する場合に形成される熱酸化膜の厚さは、それぞれ、サンプルAでは、Si0〜3+、Si4+ともに5.05nmで、サンプルBでは、Si0〜3+、Si4+ともに5.15nmと推定した。
【0135】
推定した熱酸化膜の厚さから、目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、酸化時間を調整し、サンプルAでは酸化時間を63min、サンプルBでは58minとして実際の熱酸化処理を行った。熱酸化処理後に分光エリプソ法で熱酸化膜の厚さを測定した結果、熱酸化膜の厚さはサンプルA、Bともに、5.10nmとなり、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0136】
(実施例4)
目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、予め取得しておいた熱酸化温度と熱酸化膜の厚さの関係を用いて、熱酸化温度を調整したこと以外は、実施例3と同様にして、サンプルA、Bの熱酸化処理を行い、熱酸化膜を形成した。具体的には、熱酸化温度を、サンプルAでは910℃、サンプルBでは890℃に調整した。その結果、サンプルA、Bともに、熱酸化膜の厚さを5.10nmとすることができ、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0137】
実施例3、4に示すように、洗浄後の化学酸化膜の構成元素の化学量論比に応じて、熱酸化条件を設定することで、シリコン基板に形成された化学酸化膜の種類によらず、同じ厚さに揃えて熱酸化膜を形成できることがわかる。このことは、異なる洗浄方法、洗浄条件で洗浄を行った基板であっても、熱酸化膜の厚さを同じ厚さに揃えることができることを意味している。その結果、熱酸化工程の管理が容易になることがわかった。
【0138】
(実験例3)
RBS測定により熱酸化膜の厚さを目標の厚さになるように熱酸化処理条件を調整する方法を説明する。
【0139】
まず、直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコンウエーハを準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、70℃でSC1洗浄を行った。このときに、NHOH濃度を3、0.3、0.03、0.001%と変化させた。
【0140】
この後、予めシリコンウエーハから試験片を切り出してRBS測定を行い、水素原子の割合を測定し、NHOH濃度と、水素原子の割合の比較を行った。その結果を、図20に示した。図20は、NHOH濃度とRBS測定により求めた化学酸化膜中の水素原子の割合の関係を示した図である。その結果、図20に示したように、NHOH濃度が高くなるに従い、水素原子の割合が小さくなることが分かった。水素原子の割合が洗浄条件により異なるのは、SC1洗浄の場合、NHOH濃度が高くアルカリ性が強いほど水素原子が少ないためと考えられる。
【0141】
このようなウエーハをすべて、熱酸化膜の厚さが5.10nmとなるように狙って熱酸化(900℃、酸素5%、60min)した後に、熱酸化膜の厚さを分光エリプソ法にて測定した。
【0142】
上述のようにして行った実験の結果から、図18に示したような相関関係が得られた。図18に示したように、熱酸化膜の厚さと洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の割合には相関が見られ、洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の割合が大きいほど膜厚が薄くなる傾向が見られた。この結果を利用して、熱酸化時間等を調整することで、洗浄による表面状態が異なっても、所定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することが可能になる。
【0143】
(実験例4)
さらに、別の方法として、ATR−FT−IR測定により熱酸化膜の厚さを目標の厚さになるように熱酸化処理条件を調整する方法を説明する。
【0144】
まず、実験例3で準備したシリコンウエーハと同じシリコンウエーハを準備した後、シリコンウエーハから試験片を切り出してATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近の吸光度を測定し、NHOH濃度と、2130cm−1付近の吸光度との比較を行った。その結果を、図21に示した。図21は、NHOH濃度とATR−FT−IR測定により求めた2130cm−1の吸光度の関係を示した図である。その結果、NHOH濃度が高くなるに従い、2130cm−1付近の吸光度は小さくなり、洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の量が少なくなることがわかった。
【0145】
このようなウエーハをすべて、実験例3と同じように熱酸化処理したところ、図19に示したような相関関係が得られた。図19に示したように、熱酸化膜の厚さと洗浄後の化学酸化膜中の2130cm−1付近の吸光度には相関が見られ、洗浄後の化学酸化膜中の2130cm−1付近の吸光度が大きいほど膜厚が薄くなる傾向が見られた。この結果を利用して、熱酸化時間等を調整することで、洗浄による表面状態が異なっても、所定の厚さの薄い熱酸化膜を形成することが可能になる。
【0146】
(実施例5)
上記実験例3と同様にして、RBS測定による水素原子の割合と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。まず、直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコンウエーハを複数枚準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、それぞれ、SC1洗浄(70℃、NHOH濃度:3、0.3、0.03、0.001%)を行って、水素原子の割合が異なる基板を作製した。次に、それぞれのシリコンウエーハから試験片を切り出してRBS測定を行い、水素原子の割合を測定しておいた。その後、所定の熱酸化処理(900℃、酸素5%、60min)を各洗浄条件の基板ごとに行い、熱酸化膜の厚さを測定して、水素原子の割合と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。このとき、相関関係を取得する熱酸化膜の厚さは、5.10nm付近とした。これにより、図18に示した相関関係が得られた。
【0147】
その後、異なる条件で洗浄を行った2種類の基板(サンプルA、Bとする)を準備した。熱酸化処理を行う前に、予め、サンプルA、Bと同じ条件で処理した試験片を用いてRBS測定を行い、水素原子の割合を測定した。その結果、サンプルA、Bのそれぞれの水素原子の割合は、サンプルAで10%、サンプルBで20%であった。
【0148】
この結果と、先に求めた水素原子の割合と熱酸化膜の厚さの関係から、相関関係を取得したときと同じ条件(900℃、酸素5%、60min)で熱酸化処理する場合に形成される熱酸化膜の厚さは、それぞれ、サンプルAでは5.15nmで、サンプルBでは5.10nmと推定した。
【0149】
推定した熱酸化膜の厚さから、目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、熱酸化膜の厚さが酸化時間のルート(平方根)に比例することから、酸化時間を調整し、サンプルAでは酸化時間を58min、サンプルBでは60minとし、熱処理温度と熱処理雰囲気は熱酸化膜の厚さ推定工程と同じ900℃、酸素5%として実際の熱酸化処理を行った。熱酸化処理後に分光エリプソ法で熱酸化膜の厚さを測定した結果、熱酸化膜の厚さはサンプルA、Bともに、5.10nmとなり、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0150】
(実施例6)
目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、予め取得しておいた熱酸化温度と熱酸化膜の厚さの関係を用いて、熱酸化温度を調整したこと以外は、実施例5と同様にして、サンプルA、Bの熱酸化処理を行い、熱酸化膜を形成した。具体的には、熱酸化温度を、サンプルAでは890℃、サンプルBでは900℃に調整した。熱処理時間と熱処理雰囲気は熱酸化膜の厚さ推定工程と同じ60min、酸素5%として、実際の熱酸化処理を行った。その結果、サンプルA、Bともに、熱酸化膜の厚さを5.10nmとすることができ、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0151】
(実施例7)
上記実験例4と同様にして、ATR−FT−IR測定による2130cm−1付近の吸光度と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。まず、直径300mmボロンドープの通常抵抗率のシリコンウエーハを複数枚準備し、シリコンウエーハ表面を初期化のために0.5%HFで洗浄後に、それぞれ、SC1洗浄(70℃、NHOH濃度:3、0.3、0.03、0.001%)を行って、2130cm−1付近の吸光度が異なる基板を作製した。次に、それぞれのシリコンウエーハから試験片を切り出してATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近の吸光度を測定しておいた。その後、所定の熱酸化処理(900℃、酸素5%、60min)を各洗浄条件の基板ごとに行い、熱酸化膜の厚さを測定して、2130cm−1付近の吸光度と熱酸化膜の厚さの相関関係を求めた。このとき、相関関係を取得する熱酸化膜の厚さは、5.10nm付近とした。これにより、図19に示した相関関係が得られた。
【0152】
その後、異なる条件で洗浄を行った2種類の基板(サンプルA、Bとする)を準備した。熱酸化処理を行う前に、予め、サンプルA、Bと同じ条件で処理した試験片を用いてATR−FT−IR測定を行い、2130cm−1付近の吸光度を測定した。その結果、サンプルA、Bのそれぞれの水素原子の割合は、サンプルAで0.9、サンプルBで1.0であった。
【0153】
この結果と、先に求めた2130cm−1付近の吸光度と熱酸化膜の厚さの関係から、相関関係を取得したときと同じ条件(900℃、酸素5%、60min)で熱酸化処理する場合に形成される熱酸化膜の厚さは、それぞれ、サンプルAでは5.15nmで、サンプルBでは5.10nmと推定した。
【0154】
推定した熱酸化膜の厚さから、目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、熱酸化膜の厚さが酸化時間のルート(平方根)に比例することから、酸化時間を調整し、サンプルAでは酸化時間を58min、サンプルBでは60minとし、熱処理温度と熱処理雰囲気は熱酸化膜の厚さ推定工程と同じ900℃、酸素5%として実際の熱酸化処理を行った。熱酸化処理後に分光エリプソ法で熱酸化膜の厚さを測定した結果、熱酸化膜の厚さはサンプルA、Bともに、5.10nmとなり、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0155】
(実施例8)
目標とする熱酸化膜の厚さ(5.10nm)になるように、予め取得しておいた熱酸化温度と熱酸化膜の厚さの関係を用いて、熱酸化温度を調整したこと以外は、実施例7と同様にして、サンプルA、Bの熱酸化処理を行い、熱酸化膜を形成した。具体的には、熱酸化温度を、サンプルAでは890℃、サンプルBでは900℃に調整した。熱処理時間と熱処理雰囲気は熱酸化膜の厚さ推定工程と同じ60min、酸素5%として、実際の熱酸化処理を行った。その結果、サンプルA、Bともに、熱酸化膜の厚さを5.10nmとすることができ、目標とする厚さと同じ厚さに揃えることができた。
【0156】
実施例5〜8に示すように、洗浄後の化学酸化膜中の水素原子の量に応じて、熱酸化条件を設定することで、シリコンウエーハに形成された化学酸化膜の種類によらず、同じ厚さに揃えて熱酸化膜を形成できることがわかる。このことは、異なる洗浄方法、洗浄条件で洗浄を行った基板であっても、熱酸化膜の厚さを同じ厚さに揃えることができることを意味している。その結果、熱酸化工程の管理が容易になることがわかった。
【0157】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0158】
1…X線源、 2…検出器、 3…シリコン酸化膜、 4…シリコン。
【要約】
【課題】
熱酸化膜を狙い通りの薄い膜厚に、再現性良く形成する。
【解決手段】
予め、化学酸化膜の構成が異なる複数の半導体基板を準備し、同じ熱酸化処理条件で熱酸化膜を形成し、化学酸化膜の構成と熱酸化膜厚との相関関係を求めておく相関関係取得工程と、半導体基板の洗浄を行う基板洗浄工程と、基板洗浄工程における洗浄により半導体基板に形成された化学酸化膜の構成を求め、相関関係に基づいて相関関係取得工程における熱酸化処理条件で半導体基板を熱酸化処理したと仮定したときの熱酸化膜厚を推定する熱酸化膜の厚さ推定工程と、熱酸化膜厚が所定の厚さになるように相関関係取得工程における熱酸化処理条件を基準として熱酸化処理条件を決定する熱酸化処理条件決定工程と、熱酸化処理条件決定工程で決定した熱酸化処理条件で半導体基板に熱酸化膜を形成する熱酸化膜形成工程とを有する半導体基板の熱酸化膜形成方法。
【選択図】図1
図1
図2
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図5
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図10
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