特許第6791580号(P6791580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6791580
(24)【登録日】2020年11月9日
(45)【発行日】2020年11月25日
(54)【発明の名称】分割方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20201116BHJP
【FI】
   H01L21/78 Q
   H01L21/78 V
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-206325(P2016-206325)
(22)【出願日】2016年10月20日
(65)【公開番号】特開2018-67667(P2018-67667A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年8月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(72)【発明者】
【氏名】川口 吉洋
【審査官】 鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−251986(JP,A)
【文献】 特開2013−149932(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子状に配列された複数の分割予定ラインを備えた被加工物の該分割予定ラインに沿って分割起点を形成し、該被加工物を厚さ方向に貫くクラックを該分割起点から伸長させて被加工物を分割する分割方法であって、
被加工物にエキスパンドシートを貼着する貼着ステップと、
該貼着ステップの実施前または後に、被加工物の該分割予定ラインに沿って分割起点を形成する分割起点形成ステップと、
該分割起点形成ステップと、該貼着ステップと、を実施した後、該エキスパンドシートを拡張することで被加工物に外力を付与して被加工物を該分割起点に沿って分割する分割ステップと、
該分割ステップの実施中、該エキスパンドシートの拡張を停止せずに、被加工物を撮像して撮像画像を形成し、該撮像画像をもとに被加工物の分割予定ラインに沿った領域のうち適切に分割されていない未分割領域の有無を判定する判定ステップと、を備え、
該判定ステップにて未分割領域が有ると判定される場合、該エキスパンドシートの拡張を続行し、以後、該判定ステップを再度実施し、
該判定ステップにて未分割領域が無いと判定される場合、該エキスパンドシートの拡張停止する
ことを特徴とする分割方法。
【請求項2】
該判定ステップは、定期的に撮像画像が形成されて実施されることを特徴とする請求項1に記載の分割方法。
【請求項3】
該判定ステップは、リアルタイムに撮像画像が形成されて実施されることを特徴とする請求項1に記載の分割方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ等の被加工物を分割するための分割方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等のデバイスを有するチップは、表面に複数のデバイスが形成された略円板形状のウェーハが分割されて形成される。該デバイスは、該ウェーハの表面に格子状に設定された複数の分割予定ラインによって区画された複数の領域のそれぞれに形成される。そして、該ウェーハには、該分割予定ラインに沿って分割起点となる改質層または溝等が設けられる。さらに、該ウェーハに外力が付与されて該分割起点に沿ってウェーハが分割されてデバイスを有するチップが形成される。
【0003】
特許文献1には、ウェーハに対して透過性を有するレーザビームを分割予定ラインに沿って照射し、多光子吸収により分割起点となる改質層を形成し、該改質層を起点としてウェーハを分割する技術が開示されている。
【0004】
分割予定ラインに沿って分割起点が形成されたウェーハ等の略円板状の被加工物を分割する際には、まず、該被加工物を環状フレームに張られたエキスパンドシート上に貼着する。そして、該エキスパンドシートを拡張することで該被加工物に外力を付与し、該被加工物を厚さ方向に貫くクラックを該分割起点から生じさせて分割する。
【0005】
エキスパンドシートの拡張には、該被加工物の径よりも大きく該環状フレームの内径よりも小さい径を有する円環状の突き上げ部材を準備する。そして、上方から見て該被加工物が該突き上げ部材の外周縁より内側に収まるように、該環状フレームごと該被加工物を該突き上げ部材上に配し、該突き上げ部材を環状フレームに対して相対的に所定量突き上げてエキスパンドシートを拡張する。特許文献2には、エキスパンドシートを拡張して被加工物を分割できる装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、裏面にDAF(Die Attach Film)と称されるフィルム状接着剤を有する被加工物を分割する技術が開示されている。なお、DAFは、エポキシ樹脂等からなるダイボンディング用のフィルム状接着剤であり、例えば、数μm〜100μm程度の厚さに形成される。被加工物が該DAFごとエキスパンドシートの拡張により分割されると、DAFが付いたチップが形成される。該チップは最終的に加熱されてDAFを介して所定の対象にボンディングされる。
【0007】
ここで、該突き上げ部材の相対的な突き上げが不十分であると、エキスパンドシートの拡張が不十分となる。すると、該被加工物に適切に外力を作用できないため、被加工物は十分に分割されずに、一部の分割予定ラインに未分割領域を生じてしまう。ここで、該未分割領域とは、分割予定ラインに沿った領域のうち、被加工物を厚さ方向に貫くクラックが無く、適切に分割されていない領域である。一方で、該突き上げ部材の相対的な突き上げが過剰であると、エキスパンドシートが拡張に耐えられず破断してしまう。
【0008】
該突き上げ部材の環状フレームに対する相対的な突き上げ量の適切な値は、被加工物を分割して形成する個々のチップの大きさやエキスパンドシートの種類等によって異なる。そのため、予め実験等を行って該チップの大きさやエキスパンドシートの種類に適した該突き上げ量の値を取得しておき、突き上げ部材の相対的な突き上げ量をその適切な値に設定してエキスパンドシートの拡張を実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3408805号公報
【特許文献2】特開2010−206136号公報
【特許文献3】特開2009−272503号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
突き上げ部材を環状フレームに対して相対的に突き上げるとき、その突き上げ量を上述の実験等により取得した適切な値に設定すると、被加工物のすべての分割予定ラインに沿って被加工物を分割でき、分割予定ラインに未分割領域を生じないはずである。しかし、被加工物のエキスパンドシートへの貼着が不十分である、または、被加工物やエキスパンドシートの性質がばらついている等の理由により、一部の分割予定ラインに未分割領域を生じる場合がある。
【0011】
また、そもそも実験により突き上げ部材の適切な突き上げ量を求めるのは手間である。実験においては、複数の被加工物や複数のエキスパンドシートを消費して複数の条件でエキスパンドシートの拡張を行い、被加工物の未分割領域の有無を調査しなければならず、実験にかかるコストは小さくない。そのような実験を実施して取得した値を用いても分割予定ラインに未分割領域を生じる場合があった。
【0012】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、被加工物を分割予定ラインに沿って未分割領域を残さずに分割し、その一方で、エキスパンドシートの破断の発生を抑制する分割方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一態様によれば、格子状に配列された複数の分割予定ラインを備えた被加工物の該分割予定ラインに沿って分割起点を形成し、該被加工物を厚さ方向に貫くクラックを該分割起点から伸長させて被加工物を分割する分割方法であって、被加工物にエキスパンドシートを貼着する貼着ステップと、該貼着ステップの実施前または後に、被加工物の該分割予定ラインに沿って分割起点を形成する分割起点形成ステップと、該分割起点形成ステップと、該貼着ステップと、を実施した後、該エキスパンドシートを拡張することで被加工物に外力を付与して被加工物を該分割起点に沿って分割する分割ステップと、該分割ステップの実施中、該エキスパンドシートの拡張を停止せずに、被加工物を撮像して撮像画像を形成し、該撮像画像をもとに被加工物の分割予定ラインに沿った領域のうち適切に分割されていない未分割領域の有無を判定する判定ステップと、を備え、該判定ステップにて該未分割領域が有ると判定される場合、該エキスパンドシートの拡張を続行し、以後、該判定ステップを再度実施し、該判定ステップにて該未分割領域が無いと判定される場合、該エキスパンドシートの拡張停止することを特徴とする分割方法が提供される。好ましくは、該判定ステップは、定期的に撮像画像が形成されて実施される。または、好ましくは、該判定ステップは、リアルタイムに撮像画像が形成されて実施される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る被加工物の分割方法によると、被加工物を貼着したエキスパンドシートを拡張する分割ステップの実施中に、被加工物を撮像して撮像画像を形成する。そして、該撮像画像から被加工物の分割予定ラインに沿った未分割領域が有るか否か判定する判定ステップを実施する。
【0015】
該判定ステップにおいて未分割領域が有ると判定される場合には、分割ステップを続行して該未分割領域における被加工物の分割を促進する。一方で、該判定ステップにおいて未分割領域が無いと判定される場合には、その後に分割ステップを継続する必要がないため、分割ステップを終了する。すると、必要以上にエキスパンドシートを拡張しないため、該エキスパンドシートの破断を防止できる。
【0016】
また、本発明の一態様に係る分割方法によると、そもそも事前に実験を実施しなくても分割ステップの実施中に判定ステップを実施することで、加工状況に即して分割ステップを終了できる。そのため、実験にコストをかける必要がなく、また、被加工物のエキスパンドシートへの貼着状況や、被加工物またはエキスパンドシートの性質のばらつき等に対応して適切に被加工物を分割できる。
【0017】
したがって、本発明の一態様により、被加工物を分割予定ラインに沿って未分割領域を残さずに分割し、その一方で、エキスパンドシートの破断の発生を抑制する分割方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1(A)は、環状フレームに張られたエキスパンドシート上に貼着された被加工物の一例を示す斜視図であり、図1(B)は、本発明の一態様に係る分割方法に用いられる分割装置の一例を示す斜視図である。
図2】本発明の一態様に係る分割方法に用いられる分割装置の一例を示す部分断面図である。
図3】分割起点形成ステップを説明する部分断面図である。
図4】分割ステップ及び判定ステップを説明する部分断面図である。
図5図5(A)は、一部の分割予定ラインに沿って未分割領域が有る場合の撮像画像の一例であり、図5(B)は、すべての分割予定ラインに沿って未分割領域が無い場合の撮像画像の一例である。
図6】分割ステップ及び判定ステップを説明する部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る被加工物について説明する。該被加工物は、格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)によって区画される複数の領域のそれぞれにIC、LSI等のデバイスが形成されたウェーハである。最終的に被加工物は該分割予定ラインに沿って分割されて、複数のチップが形成される。
【0020】
該被加工物は、例えば、シリコン、サファイア、ガラス、石英等の材料でなる略円板形の基板である。半導体材料で構成される被加工物を用いる場合、デバイスは、例えば、該被加工物の一部を用いて形成される。被加工物が半導体材料で構成されない場合、例えば、被加工物の表面に半導体層を設け、該半導体層を加工してデバイスを形成する。
【0021】
なお、該被加工物の裏面には予めDAF(Die Attach Film)と称されるフィルム状接着剤が設けられていてもよい。DAFは、エポキシ樹脂等からなるダイボンディング用のフィルム状接着剤であり、例えば、数μm〜100μm程度の厚さに形成される。後述するエキスパンドシートの拡張により被加工物が該DAFごと分割されると、DAFが付いたチップが形成される。該チップは最終的に加熱され、DAFを介して所定の対象にボンディングされる。
【0022】
後述の貼着ステップでは、該被加工物にエキスパンドシートが貼着される。図1(A)に示される通り、格子状に配列された複数の分割予定ライン3によって区画される複数の領域のそれぞれにIC、LSI等のデバイス5が形成された被加工物1は、例えば、裏面1bを上側に向けた状態で表面1a側にエキスパンドシート7が貼着される。該エキスパンドシート7は、環状フレーム9の内側に張られている。
【0023】
ここで、エキスパンドシート7は、例えば、ポリオレフィン(PO)またはポリ塩化ビニル(PV)等の材料を有する粘着シートであり、金属等でなる環状フレーム9に張られた状態で使用される。エキスパンドシート7は、被加工物1に貼着された状態で拡張可能であり、後述の分割装置により径方向に拡張されると、被加工物1に該径方向に向いた外力を作用させる。
【0024】
被加工物1の裏面1bが露出するように表面1a側にエキスパンドシート7を貼着すると、後述の分割起点形成ステップにおいて裏面1bに分割起点となる改質層を形成するためのレーザビームを照射できる。その一方で、該分割起点形成ステップにおいて、表面1aに分割起点となる溝を形成する場合、表面1aが露出するように裏面1b側にエキスパンドシート7を貼着すればよい。
【0025】
次に、本実施形態に係る分割方法に用いられる分割装置について説明する。図1(B)に該分割装置2の斜視図を示す。また、図2に該分割装置2の部分断面図を示す。
【0026】
分割装置2は、環状フレーム9を保持するフレーム固定手段(フレーム固定機構)4と、該フレーム固定手段4に固定された環状フレーム9に張られたエキスパンドテープ7を拡張するテープ拡張手段(テープ拡張機構)6と、を有している。フレーム固定手段4は、上側フレーム固定部8と、下側フレーム固定部10と、を有し、その間に環状フレーム9を挟み込んで該環状フレーム9を固定する。
【0027】
下側フレーム固定部10は、上面が平坦な部材であり、環状フレーム9の開口と同様の大きさ及び形状の開口10aを中央に有する。被加工物1の分割時にはこの平坦な上面の上に環状フレーム9が配されて使用される。上側フレーム固定部8は、下面が平坦な部材であり、下側フレーム固定部10の開口10aと同様の大きさ及び形状の開口8aを中央に有する。この上側フレーム固定部8は、下側フレーム固定部10の上方に固定される。
【0028】
なお、上側フレーム固定部8と、下側フレーム固定部10と、は、それぞれの開口が重なるように、上側フレーム固定部8の平坦な下面と、下側フレーム固定部10の平坦な上面と、が互いに平行となるように配される。
【0029】
フレーム固定手段4の下側フレーム固定部10は、下側フレーム固定部10用のエアシリンダ12により上下方向に移動可能な下側フレーム固定部10用のピストンロッド14の上端に連結されている。上側フレーム固定部8は固定されており、環状フレーム9が載せ置かれる下側フレーム固定部10は、下側フレーム固定部10用のエアシリンダ12の作動により上昇する。フレーム固定手段4は、下側フレーム固定部10を上昇させて該環状フレーム9を該上側フレーム固定部8に押し当てることで環状フレーム9を固定する。
【0030】
テープ拡張手段6は、環状フレーム固定手段4の内側に配設された突き上げ部材16を備える。該突き上げ部材16は中央に開口16aを有する円板状の部材であり、その外径は該環状フレーム9の開口の径よりも小さく、該開口16aの内径は円板状の被加工物1の径よりも大きい。突き上げ部材16は、上方から見て上側フレーム固定部8の開口8a及び下側フレーム固定部10の開口10aの内側に収まるように配される。また、突き上げ部材16の上面の外周には、複数のローラー18が配されている。
【0031】
突き上げ部材16は、突き上げ部材16用のエアシリンダ20により上下方向に移動可能な突き上げ部材16用のピストンロッド22の上端に連結されている。テープ拡張手段6は、フレーム固定手段4に固定された環状フレーム9に張られたエキスパンドシート7を、突き上げ部材16により下方から突き上げて、該エキスパンドシート7を拡張する。
【0032】
分割装置2は、さらに、撮像手段(カメラ)24と、照射手段(ライト)26と、を有する。照射手段26は、突き上げ部材16の下方に配され、例えば、可視光を照射する機能を有する。撮像手段24は、突き上げ部材16の上方に配され、下方を撮像して撮像画像を形成する機能と、該撮像画像を、例えば、分割装置2のコントローラ(不図示)に送る機能と、を有する。
【0033】
また、分割装置2は、さらに、各部を制御するコントローラ(不図示)を有する。このコントローラは、分割装置2の各エアシリンダ、撮像手段24、及び、照射手段26を制御する機能に加え、さらに撮像手段24から該撮像画像を受けて後述の判定ステップを実施する機能を有する。
【0034】
以上のように構成された分割装置2を用いて、本実施形態に係る分割方法が実施される。以下、本実施形態に係る分割方法について説明する。
【0035】
まず、本実施形態に係る分割方法における貼着ステップについて説明する。貼着ステップでは、例えば、表面1aに複数のデバイス5が形成された被加工物1の表面1a側に、環状フレーム9に張られたエキスパンドシート7を貼着させる。図1(A)に、貼着ステップを実施した後の被加工物1、エキスパンドシート7、及び、環状フレーム9を示す。以後、被加工物1の分割が完了するまで、該被加工物1は環状フレーム9により取り扱われる。
【0036】
なお、貼着ステップでは、被加工物1の表面1a側を露出させるように、裏面1b側をエキスパンドシート7に貼着してもよい。該貼着ステップを実施した後に、後述の分割起点形成ステップを実施する場合、かつ、表面1aに溝を形成して分割起点とする場合、このように被加工物1の裏面1b側にエキスパンドシート7を貼着するとよい。
【0037】
次に、被加工物1の表面1aに格子状に配された分割予定ライン3に沿って被加工物1に分割起点を形成する分割起点形成ステップについて図3を用いて説明する。本ステップは、貼着ステップの実施前または後に実施される。本ステップでは、例えば、分割予定ライン3に沿って被加工物1に裏面1b側からレーザビームを照射し、被加工物の内部の所定の深さに集光させて分割起点となる改質層を形成する。なお、該レーザビームには、例えば、Nd:YAGを媒体として発振されるレーザビームが用いられる。
【0038】
まず、被加工物1の裏面1bを上方に向けてレーザ加工装置28のチャックテーブル30上に載せ置く。チャックテーブル30は上面に多孔質部材(不図示)を有し、内部に該多孔質部材と吸引源(不図示)とを接続する吸引路(不図示)を有する。被加工物1が環状フレーム9に張られたエキスパンドシート7に貼着されている場合、該環状フレーム9をレーザ加工装置28のクランプ32により固定する。そして、該チャックテーブル30から負圧を作用させて、被加工物1をチャックテーブル30上に吸引保持させる。
【0039】
次に、レーザ加工装置28の加工ヘッド32から被加工物1の裏面1bにレーザビームを照射する。該レーザビームを被加工物1の所定の深さに集光させ改質層(分割起点)11を形成する。そして、被加工物1の表面1a側の分割予定ライン3に沿って改質層11が形成されるように、レーザビームを照射させながらチャックテーブルを移動させて被加工物1を加工送りする。
【0040】
一つの分割予定ライン3に沿って改質層11が形成された後、被加工物1を割り出し送りして、隣接する分割予定ライン3に沿って次々と改質層11を形成する。さらに、チャックテーブル30を回転させ被加工物1を加工送りする方向を切り替えてレーザビームを照射し、すべての分割予定ライン3に沿って改質層11を形成する。
【0041】
内部に改質層11が形成された被加工物1に十分な外力が付与されると、該改質層11が分割起点となり、該改質層11から被加工物1の厚さ方向にクラックが伸長し、該クラックが被加工物1を貫いて該被加工物1が分割される。
【0042】
なお、分割起点形成ステップでは、例えば、被加工物1の表面1a側から裏面1bに達しない所定の深さまで切削ブレードを切り込ませる切削等の方法で、分割起点となる溝を分割予定ライン3に沿って形成してもよい。分割起点としての溝が形成された被加工物1に外力が付与されると、該溝から裏面1b側にクラックが伸長し、被加工物1が分割される。
【0043】
次に、分割ステップについて図4を用いて説明する。該分割ステップは、該分割起点形成ステップと、該貼着ステップと、の後に実施される。該分割ステップでは、該エキスパンドシート7を拡張することで被加工物1に外力を付与し、例えば、改質層11から被加工物1の厚さ方向にクラックを伸長させ分割予定ライン3に沿って被加工物1を分割する。図4の部分断面図に、分割ステップでの被加工物1と、分割装置2と、を模式的に示す。
【0044】
まず、環状フレーム9をフレーム固定手段4の下側フレーム固定部10上の所定の位置に載せ置き、下側フレーム固定部10用のエアシリンダ12を作動させて、下側フレーム固定部10を上昇させる。そして、該環状フレーム9を上側フレーム固定部8の下面に当てて押圧することにより、該環状フレーム9を固定する。
【0045】
次に、突き上げ部材16用のエアシリンダ20を作動させて突き上げ部材16を上昇させて、突き上げ部材16をエキスパンドシート7に当てる。そして、さらに突き上げ部材16を上昇させる。すると、エキスパンドシート7が外周方向に拡張される。
【0046】
その結果、エキスパンドシート7に貼着されている被加工物1にも、外周方向へ引っ張る力が付与される。この外周方向へ引っ張る力が十分強い場合、分割予定ライン3に沿って形成された改質層11が分割の起点となって被加工物1が分割される。
【0047】
なお、外周方向へ引っ張る力が不十分であると、被加工物1はすべての分割予定ライン3に沿っては分割されず、図4に示す通り、一部に未分割領域が残る場合がある。一方で、外周方向へ引っ張る力が過剰であると、エキスパンドシート7が破れてしまう場合がある。そのため、未分割領域を残さないように、かつ、エキスパンドシート7を破損させないように、エキスパンドシート7を適切に外周方向へ引っ張らなければならない。そこで、分割ステップを実施中に判定ステップを実施する。
【0048】
該判定ステップは分割ステップの実施中に実施される。該判定ステップは、分割ステップにおいて突き上げ部材16を上昇させながら実施してもよく、突き上げ部材16の上昇を一旦停止して実施してもよい。
【0049】
判定ステップでは、分割装置2の照射手段(ライト)26を作動させて、被加工物1に下方側から光を照射する。被加工物1のうち、分割ステップにおいて厚さ方向にクラックが貫いて分割された領域では、分割によって生じた隙間を該光が通過し、被加工物1の上方に該光が進む。その一方で、それ以外の領域では、該光が被加工物1に遮られて、例えば、被加工物1が適切に分割されていない未分割領域では、該光は被加工物1の上方に進まない。
【0050】
そのため、撮像手段(カメラ)24を作動させて被加工物1を撮像すると、形成される撮像画像の該隙間に対応する領域が明るくなる。形成される撮像画像の一例を図5(A)及び図5(B)に示す。図5(A)は、一部の分割予定ライン3に分割領域15が形成されず未分割領域17が残っている場合に得られる撮像画像13aである。また、図5(B)は、すべての分割予定ライン3に沿って分割領域15が形成される場合に得られる撮像画像13bである。
【0051】
撮像手段24で撮像された撮像画像は、例えば、分割装置2のコントローラに送られる。そして、該コントローラは、受けた撮像画像をもとに、未分割領域17の有無を判定する。例えば、図5(A)に示す通り、未分割領域17が写り込んだ撮像画像13aを受けた場合、コントローラは、未分割領域17が有ると判定する。また、例えば、図5(B)に示す通り、すべての分割予定ライン3に沿って分割領域15が形成された状態の撮像画像13bを受けた場合、コントローラは、未分割領域17が無いと判定する。
【0052】
なお、該判定を容易にするために、該コントローラは、受けた撮像画像に二値化処理を行ってもよい。該二値化処理により撮像画像がより鮮明となるため、未分割領域17の有無を判定しやすくなる。
【0053】
判定ステップにおいて、未分割領域17が有るとの判定がされた場合、分割ステップにおいて被加工物1に付与される力が不十分であるため、該力を増すように分割ステップを続行する。例えば、判定ステップのためにエキスパンドシート7の拡張を一旦停止していたならばエキスパンドシート7の拡張を再開し、エキスパンドシート7の拡張を停止していなければそのまま拡張を続行する。そして、以後、適宜判定ステップを実施して未分割領域17が無くなるまで分割ステップを続行する。
【0054】
判定ステップにおいて、未分割領域17が無いとの判定がされた場合、それ以上エキスパンドシート7を拡張する必要がないため分割ステップを終了する。例えば、判定ステップのためにエキスパンドシート7の拡張を停止していたならば該拡張を再開せず、エキスパンドシート7の拡張を停止していなければ、直ちに該拡張を停止して分割ステップを終了する。
【0055】
なお、該判定ステップは、例えば、1秒間に数回程度の頻度で定期的に撮像画像を形成して実施してもよく、さらに、撮像画像の形成頻度を高めてリアルタイムでモニタリングしてもよい。
【0056】
以上のように、本実施形態に係る分割方法では、撮像画像を取得して判定ステップを実施することにより、分割ステップの終了のタイミングを決定できる。そのため、突き上げ部材の上昇量等を求めるための実験が不要であり、被加工物1等のばらつきに依らずに被加工物1の分割予定ライン3に沿って被加工物1を確実に分割できる。そして、エキスパンドシート7に破損を生じさせない。
【0057】
なお、本発明は、上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態で使用する分割装置2は、突き上げ部材16の上方に撮像手段24を備え、突き上げ部材16の下方に照射手段26を備えているが、本発明はこれに限定されない。該分割装置2は、上方に照射手段26を、下方に撮像手段24を備えてもよい。
【0058】
また、例えば、上記実施形態で使用する分割装置2は、被加工物1等を冷却するための冷却機構を備えていてもよい。例えば、DAFを介して被加工物1をエキスパンドシート7に貼着させて被加工物1をDAFごと分割する場合、該DAFを冷却すると該DAFの分割が容易となる。そのため、該冷却機構を作用させてDAFを冷却してもよい。ただし、その場合、撮像手段24まで冷却されると、撮像手段24の光学部品に結露等を生じる場合があるため、撮像手段24が冷却されない態様で該冷却機構を備えるとよい。
【0059】
さらに、本実施形態に係る分割方法は、ウェーハに対して透過性を有するレーザビームを照射して分割起点となる改質層を形成した後、該改質層を分割起点としてウェーハを分割する前に、該ウェーハの裏面にDAFを設ける場合におけるDAFの分割にも適用できる。すなわち、DAFを被加工物としてもよい。
【0060】
この場合、さらなるエキスパンドシートの拡張により個々のチップに外力を付与し、ウェーハの分割により形成された個々のチップ間の隙間を分割起点として、該隙間に重なる部分のDAFを引き裂くように力を付与してDAFを分割する。このとき、DAFの分割予定ラインに沿って未分割領域が有るか否かを判定する。未分割領域が有ると判定される場合さらにDAFの分割を進め、未分割領域が無いと判定される場合は、DAFの分割を終了する。
【0061】
なお、DAFを被加工物として本実施形態に係る分割方法を適用する場合、DAFは、ウェーハが分割されることで形成された個々のチップに設けられていてもよい。例えば、レーザビームによって所定の深さに改質層が形成されたウェーハ、または、分割予定ラインに沿って裏面に達しない深さの溝が表面に形成されたウェーハを裏面側から研削してウェーハを薄化するとともにウェーハを分割することで複数のチップを形成する。
【0062】
その後、形成された複数のチップの裏面にDAFを設け、該DAFに上述のように力を付与してチップ間の隙間に重なる部分を分割する。この際にも、本実施形態に係る分割方法により、分割予定ラインに沿って未分割領域があるか否かを判定し、未分割領域が有ると判定される場合さらにDAFの分割を進め、未分割領域が無いと判定される場合は、DAFの分割を終了する。すると、エキスパンドシートを破断させることなくDAFを確実に分割できる。
【0063】
また、例えば、撮像手段24は被加工物の全体を撮像しなくてもよく、被加工物の中央付近のみを撮像してもよい。エキスパンドシートを拡張して被加工物に外力を加えて分割する場合、被加工物の中央付近は外周に比べて分割されにくいため、中央付近のみを撮像して未分割領域が無いと判定されれば、被加工物に未分割領域が無いと判断できる場合がある。撮像する領域が狭くなると、撮像画像のデータ容量が小さくなるため撮像画像の取り扱いが容易となり、単位時間当たりの撮像回数を増やせる。
【0064】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0065】
1 被加工物
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン(ストリート)
5 デバイス
7 エキスパンドシート
9 環状フレーム
11 改質層
13a,13b 撮像画像
15 分割領域
17 未分割領域
2 分割装置
4 フレーム固定手段
6 テープ拡張手段
8 上側フレーム固定部
8a,10a,16a 開口
10 下側フレーム固定部
12,20 エアシリンダ
14,22 ピストンロッド
16 突き上げ部材
18 ローラー
24 撮像手段
26 照射手段
28 レーザ加工装置
30 チャックテーブル
32 クランプ
34 加工ヘッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6